タイトル通りBrianchonの定理を計算で証明しようと思います.
円に外接する六角形$ABCDEF$について,対角線$AD,BE,CF$は一点で交わる.
円周上にたくさんの点があるので複素座標が効きそうに見えます.
以下補題を記すので知っている方は読みとばしてください.
単位円上に異なる$2$点$A(a),B(b)$があるとき,$A,B$から引いた接線の交点の座標は$\displaystyle\frac{2ab}{a+b}$で与えられる.
$2$接線の交点を$P$,$AB$の中点を$M$とする.
このとき,$\triangle OPA\equiv\triangle OPB$から$P$は$OM$上にあり,$\triangle OAM\sim\triangle OPA$から$\displaystyle OP=\frac{1}{OM}$
また,$\displaystyle OM^2=\left|\displaystyle\frac{a+b}{2}\right|^2=\frac{a+b}{2}\overline{\frac{a+b}{2}}
\\\displaystyle=\frac{a+b}{2}\frac{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}}{2}=\frac{(a+b)^2}{4ab}$
なので,$P$の座標は$\displaystyle\frac{OP}{OM}\cdot\frac{a+b}{2}=\frac{2ab}{a+b}$
である.
複素平面上で$3$点$A(a),B(b),C(c)$を頂点とする三角形の符号付き面積($A,B,C$が反時計回りに並んでいるとき正,時計回りのとき負,一直線上にあるとき$0$)は$\displaystyle\frac{i}{4}\left|\begin{array}{ccc}a&&\bar{a}&&1\\b&&\bar{b}&&1\\c&&\bar{c}&&1\end{array}\right|$である.
特に,$A,B,C$が同一直線上にあることは上の行列式が$0$であることと同値である.
前半は符号付き面積の線形性と行列式の線形性を使うと証明できる(詳細は略)
後半は$A,B,C$が同一直線上にあることと三角形の面積が$0$であることが同値であることから従う.
本題に入ります.
六角形の内接円を単位円に取り,$6$つの接点を$A_1$が$FA$上,$B_1$が$AB$上,...,$F_1$が$EF$上となるように$A_1,B_1,\ldots,F_1$とし,それらの座標をそれぞれ$a,b,\ldots,f$とします.
補題2から$A,B,\ldots,F$の座標がそれぞれ$\displaystyle\frac{2ab}{a+b},\frac{2bc}{2},\ldots,\frac{2fa}{f+a}$であることがわかります.
点$Z$の座標を$z$とします.$A,D,Z$が同一直線上にあるとき,補題3より$\displaystyle\left|\begin{array}{ccc}\frac{2ab}{a+b}&&\frac{2}{a+b}&&1\\\frac{2de}{d+e}&&\frac{2}{d+e}&&1\\z&&\bar{z}&&1\end{array}\right|=0$となります.
$B,E,Z$と$C,F,Z$についても同様に$\displaystyle\left|\begin{array}{ccc}\frac{2bc}{b+c}&&\frac{2}{b+c}&&1\\\frac{2ef}{e+f}&&\frac{2}{e+f}&&1\\z&&\bar{z}&&1\end{array}\right|=0$
$\displaystyle\left|\begin{array}{ccc}\frac{2cd}{c+d}&&\frac{2}{c+d}&&1\\\frac{2fa}{f+a}&&\frac{2}{f+a}&&1\\z&&\bar{z}&&1\end{array}\right|=0$
となります.
$AD,BE,CF$が$1$点で交わるということは上の$3$式を同時に満たす$z$が存在するということです.
ここで,上の式は余因子展開をすることで$z,\bar{z},1$の線形結合と見なせます.つまり,これらの行列式を$1$次関数と見なしたとき,この連立方程式が非自明解をもてば$AD,BE,CF$は一点で交わることになります.(十分性については$(x,y,1)$の形の解を取ったときに$x,y$が共役になってることから確かめることができます.)
連立方程式が非自明解をもつのと係数行列式が$0$であることは同値なので係数行列式が$0$であることを示していきます.
$\displaystyle\left|\begin{array}{ccc}\frac{2ab}{a+b}&&\frac{2}{a+b}&&1\\\frac{2de}{d+e}&&\frac{2}{d+e}&&1\\z&&\bar{z}&&1\end{array}\right|
\\\displaystyle=\frac{2}{(a+b)(d+e)}((d+e-a-b)z+((a+b)de-ab(d+e))\bar{z}+2(ab-de))$
となるので他の$2$つの式でも同様に考えることで
$\left|\begin{array}{ccc}d+e-a-b&&(a+b)de-ab(d+e)&&ab-de\\e+f-b-c&&(b+c)ef-bc(e+f)&&bc-ef\\f+a-c-d&&(c+d)fa-cd(f+a)&&cd-fa\end{array}\right|=0$
を示せばいいことがわかります.
これを展開して示すこともできなくもないですが,展開すると$6$変数$6$次の多項式になってしまい,さすがに骨が折れるので展開は避けようと思います.
対称性(巡回性)をうまく使うのが良さそうです.
これを$a,b,c,d,e,f$の多項式とみて$F(a,b,c,d,e,f)$とおきます.以下,この多項式が恒等的に$0$であることを示します.(つまり,$a,b,c,d,e,f$は単位円上であるという条件は忘れて一般の複素数として考えます.)
$a=d$としてみると,
$F(a,b,c,a,e,f)=\left|\begin{array}{ccc}e-b&&a^2(e-b)&&a(b-e)\\e+f-b-c&&(b+c)ef-bc(e+f)&&bc-ef\\f-c&&a^2(f-c)&&a(c-f)\end{array}\right|$となり,これは$1$行目と$3$行目が線形従属なので$0$となります.
よって,$F$は$a-d$を因数にもち,巡回性から$b-e$と$c-f$も因数にもちます.
これより,$F$は$(a-d)(b-e)(c-f)$と$3$次式の積となりますが,これだけだとあまりうれしくありません.
$a=d+e-b$を代入してみます.
$F(d+e-b,b,c,d,e,f)
\\=\left|\begin{array}{ccc}0&&(d+e)(d-b)(e-b)&&-(d-b)(e-b)\\e+f-b-c&&(b+c)ef-bc(e+f)&&bc-ef\\e+f-b-c&&(c+d)f(d+e-b)-cd(f+d+e-b)&&cd-f(d+e-b)\end{array}\right|
\\=\left|\begin{array}{ccc}0&&0&&-(d-b)(e-b)\\e+f-b-c&&(b+c-d-e)ef-bc(f-d)&&bc-ef\\e+f-b-c&&(c-e)f(d+e-b)-cd(f-b)&&cd-f(d+e-b)\end{array}\right|$
ここで,$(b+c-d-e)ef-bc(f-d)=(c-e)f(d+e-b)-cd(f-b)$から第$1$列と第$2$列が線形従属であることがわかり,$F(d+e-b,b,c,d,e,f)=0$となります.
よって,$F$は$a+b-d-e$を因数にもち,巡回性から$b+c-e-f$と$c+d-f-a$も因数にもちます.
$F$は$6$次式であったので,これにより,ある定数$C_0$が存在して$F(a,b,c,d,e,f)=C_0(a-d)(b-e)(c-f)(a+b-d-e)(b+c-e-f)(c+d-f-a)$となります.
あとは定数$C_0$の値を求めるだけです!
$F(0,0,0,1,1,2)=12C_0$および$F(0,0,0,1,1,2)=\left(\begin{array}{ccc}2&&0&&-1\\3&&0&&-2\\1&&0&&0\end{array}\right)=0$から$C_0=0$がわかり,$F(a,b,c,d,e,f)$は常に$0$であり,$AD,BE,CF$は一点で交わることが証明できました.