タイトルにもあるように、最近考えていた交代二項変換(英:Binomial transform)について、面白い性質がいくつもあったので書きます。
関数$A$に対して交代二項変換を施してできる関数$T$を、
$\d T(n)=\sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} (-1)^k A(k)$
で定める。
以降、$f$に交代二項変換を施したものを$T(f)$と表す。
また、$f[k]$で$f(k)$を表すこととします。
明らかな場合は単に$f$などと書くこととします。
いくつかの例を見ていきます。
$f(k)=1$の時、
$T(f)[0]=f(0)=1$
$T(f)[n]=\d\sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} (-1)^k =0 (n\geq 1)$
$f(k)=a^k$($a$は定数)の時、二項定理より
$T(f)[n]=\d\sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} (-1)^k a^k=(1-a)^n$
$\d f(k)=\frac{1}{k+1}$の時、
$T(f)[n]=\d\sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} (-1)^k \frac{1}{k+1}=\frac{1}{n+1} \sum_{k=0}^{n} \binom{n+1}{k+1} (-1)^k$
$\d=\frac{1}{n+1} \sum_{k=1}^{n+1} \binom{n+1}{k} (-1)^{k+1}$
$\d=\frac{1}{n+1} (0-(-1))$
$\d=\frac{1}{n+1}$
よって、$\d T\kakko{\frac{1}{k+1}}[n]=\frac{1}{n+1}$
$T(f(k+1))[n]\neq T(f(k))[n+1]$です。(個人的な話ですが)僕はこれを勘違いしまくりました…
ここからはこの交代二項変換の性質についてみていきます。
この記事では以下、基本的に$k$について変換している、とみてください。
$T(f+g)=T(f)+T(g)$
$T(af)=aT(f)$($a$は定数)
$T(f(k))[n]-T(f(k+1))[n]=T(f(k))[n+1]$
括弧ばかりで見にくくなってしまいました
これは$T(f(k))$から$T(f(k+1))$を求める式とみられます。
$\d \sum_{s=0}^{n-1} T(f(k+1))[s] =f(0)-T(f(k))[n]$
これは$T(f(k+1))$から$T(f(k))$を求める式とみられます。
$\d T(f(k))[n+1]=f(0)-(n+1)T\kakko{\frac{f(k+1)}{k+1}}[n]$
先ほど行った、$\d\ T\kakko{\frac{1}{k+1}}[n]=\frac{1}{n+1}$の証明とほとんど同じです。
$T(T(f))=f$
この性質、綺麗で好きです!
定理$4$,定理$5$を変形して、
$\d \sum_{s=0}^{n} T(f(k+1))[s] =f(0)-T(f(k))[n+1]$
$\d (n+1)T\kakko{\frac{f(k+1)}{k+1}}[n]=f(0)-T(f(k))[n+1]$
となるので、
$\d \sum_{s=0}^{n} T(f(k+1))[s] =(n+1)T\kakko{\frac{f(k+1)}{k+1}}[n]$つまり
$\d \frac{1}{n+1}\sum_{s=0}^{n} T(f(k))[s] =T\kakko{\frac{f(k)}{k+1}}[n]$
です。
これを使って$\d T\kakko{\frac{1}{(k+1)^m}}[n]$を順番に求めていきます。($m$は整数)
$\d T\kakko{\frac{1}{k+1}}[n]=\frac{1}{n+1}$
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+1)^2}}[n]=\frac{1}{n+1}\sum_{s=0}^{n} T\kakko{\frac{1}{k+1}}[s]=\frac{1}{n+1}\sum_{a_1=0}^{n} \frac{1}{a_1+1}$
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+1)^3}}[n]=\frac{1}{n+1}\sum_{s=0}^{n} T\kakko{\frac{1}{(k+1)^2}}[s]=\frac{1}{n+1}\sum_{a_2=0}^{n} \frac{1}{a_2+1}\sum_{a_1=0}^{a_2} \frac{1}{a_1+1}$
これを繰り返すことで、
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+1)^m}}[n]$
$\d =\frac{1}{n+1}\sum_{a_{m-1}=0}^{n} \frac{1}{a_{m-1}+1}\dots \sum_{a_1=0}^{a_2} \frac{1}{a_1+1}$
$\d =\frac{1}{n+1}\sum_{n\geq a_{m-1} \geq \dots \geq a_1 \geq 0}^{} \frac{1}{(a_{m-1}+1)\dots (a_1+1)}$
を得ます。
ちなみに、定理$4$と定理$5$を使うことで多重ゼータっぽいものについても交代二項変換を求めることが出来ます。
実は、$f(n)$の母関数を$F(x)$,$T(f(n))$の母関数を$G(x)$とするとこの二つには関係があります。(ここで$f$の母関数とは$\d \sum_{k=0}^\infty f(k) x^k$のことを指すものとします。)
ここで、次の関係が成り立ちます。
$\d G(x)=\frac{1}{1-x}F\kakko{\frac{-x}{1-x}}$
$G(x)$を変形すれば証明できます。
収束半径はたぶん$|x|\lt 1$です。
これを先ほど求めたものに適用してみると、
$\d \sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{(n+1)^m}=\sum_{n=0}^\infty \frac{(-x)^n}{(1-x)^{n+1}}\frac{1}{n+1}\sum_{n\geq a_{m-1} \geq \dots \geq a_1 \geq 0}^{} \frac{1}{(a_{m-1}+1)\dots (a_1+1)}$
$\d =\sum_{a_m \geq a_{m-1} \geq \dots \geq a_1 \geq 0}^{} \frac{(-x)^{a_m}}{(1-x)^{a_m+1}}\frac{1}{(a_m+1)(a_{m-1}+1)\dots (a_1+1)}$
となり、$x=-1$でも収束しそうなので$x=-1$として
これ
が得られます。ちなみにこれは
iida_256さんのこちらの記事
のように反復積分でも求められるようです。
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+1)^m}}[n]$が求まったので、$a$を実数として$\d T\kakko{\frac{1}{(k+a)^m}}[n]$を求めることを考えます。以下、実数$x$に対して、$x!$を$\Gamma(x+1)$の意味で使うこととします。
まず、$\d T\kakko{\frac{1}{k+a}}[n]$を求めます。
$\d T\kakko{\frac{1}{k+a}}[n] = \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} (-1)^k \frac{1}{k+a}$は実は、$\d \frac{n!}{a(a+1)\dots (n+a)}$の部分分数分解の形になっています。
よって、$\d T\kakko{\frac{1}{k+a}}[n] =\frac{n!(a-1)!}{(n+a)!}$です。
$\d T(fg)[n]=\sum_{s=0}^{n} T(f(k+s))[n-s]T(g)[s]\binom{n}{s}$
を示します。
定理$8$で、$\d f(k)=g(k)=\frac{1}{k+a}$として、
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+a)^2}}[n]$
$\d =\sum_{s=0}^{n} T\kakko{\frac{1}{k+s+a}}[n-s]T\kakko{\frac{1}{k+a}}[s]\binom{n}{s}$
$\d =\sum_{s=0}^{n} \frac{(n-s)!(s+a-1)!}{(n+a)!}\frac{s!(a-1)!}{(s+a)!}\frac{n!}{(n-s)!s!}$
$\d = \frac{(a-1)!n!}{(n+a)!}\sum_{s=0}^{n} \frac{1}{(s+a)}$
また、定理$8$で、$\d f(k)=\frac{1}{k+a},g(k)=\frac{1}{(k+a)^2}$として、
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+a)^3}}[n]$
$\d =\sum_{s=0}^{n} T\kakko{\frac{1}{k+s+a}}[n-s]T\kakko{\frac{1}{(k+a)^2}}[s]\binom{n}{s}$
$\d =\sum_{s=0}^{n} \frac{(n-s)!(s+a-1)!}{(n+a)!} \frac{(a-1)!s!}{(s+a)!}\sum_{a_1=0}^{s} \frac{1}{(a_1+a)} \frac{n!}{(n-s)!s!}$
$\d =\frac{(a-1)!n!}{(n+a)!}\sum_{s=0}^{n} \frac{1}{(s+a)}\sum_{a_1=0}^{s} \frac{1}{(a_1+a)} $
を得る。
このようにしていくことで、帰納的に
$\d T\kakko{\frac{1}{(k+a)^m}}[n] =\frac{(a-1)!n!}{(n+a)!}\sum_{n\geq a_{m-1}\geq \dots \geq a_1 \geq 0}^{} \frac{1}{(a_1+a)\dots(a_{m-1}+a)} $
が示せます。これは$a=1$とした先ほどの式の二通り目の証明と言えるかもです。
これを先ほどの母関数の式に当てはめることで、 この 関係式も導出できます。
定理$8$によって、$T(f(k+a))$を求めることが出来れば$T(f(k+a)^m)$を求めることが出来ることが分かります。
交代二項変換の面白い性質やそこから得られる関係式などを求めました。元の定義式を考えると、$T(f(k+a))$から$T(f(k+a)^m)$が求まるのは非自明な感じがして面白かったです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!