この記事では数学の有名な話として存在は知っているけど詳しくはあんまり知らない「四次方程式の解の公式」について私なりに色々解剖していきたいと思います。
四次方程式の解の公式と言えば二次方程式
や三次方程式の標準形
の簡素さに対して非常に、それはそれは非常に長いことでよく知られていると思います。そしてその長さゆえに見た目のインパクトや実用性の無さばかりに焦点が行き、解の公式そのものの構造について知っている人はあんまり多くないとも思います。
しかしガロア理論の復習をしていた道すがら四次方程式の解の公式について調べたり考察してみたりしていたら意外と面白そうだということに気付いたので個人的に気になったことをそれとなくまとめていこうと思います。
二~四次方程式の解の公式の「根号と符号」という要素だけ抽出して見てみると次のような感じになっています。
Wikipediaの
三次方程式
や
四次方程式
の記事の下部には
という形の一見さっきのとは違った見た目の解の公式が載っているので、どのように変形されているのか紹介しておきます。
前者(および
と変形できるので先に紹介した形に一致することがわかります。
後者については
とおくと
といった関係があり
と変形できるので先に紹介した形
に一致することがわかります(符号の辻褄については後で考えます)。
上で紹介した式では四次方程式の解は
の四つで尽くされるということでした。しかし
のように符号の取り方が上のパターンに当てはまらないようなものも方程式の解になりそうな気がします。
しかしたとえば
という方程式を考えると
であり、
はこの方程式を満たしません。このように
この符号の問題は
という関係式によって解消されます。ここで
における一次の係数であり、一般形
においては
と表されます。これは上で解の公式の別形を紹介した際に出てきた関係式
をより正確にしたものであり、
上の例で言うと
と符号を取ることにすると
となり、ちゃんと方程式の解が得られていることがわかります。
一応上の関係式によって符号の問題を解消できることを示しておきます。上の関係式を満たすように符号を取った二組
を考えると
なので対称性より
であるとします。すると解の公式は
同様にして
しかしいくら解決策があると言っても一々関係式と照らし合わせて符号を調整するのは面倒です。そこでさっき出てきた解の公式
が役に立ちます。一応全部書き出すと
といった感じになります。
この式では
という形の解の公式は代数的には興味深い式ではありますが、実用的にはこちらの公式の方が符号の決定という点で使い勝手が良いものとなっています。また高校数学レベルの四次方程式(つまりある程度簡単に解けることを前提とされた方程式)では
ちなみに三次方程式の解の公式についても同様で
の方の公式では
という関係式等で解消する必要がありますが、別形である
では
三、四次方程式の解の公式にはこういう符号の問題があったからこそWikipediaにはあえて対称性を崩した形の解の公式が紹介されていたんでしょうね。初めて見たときはなんじゃこりゃと思いましたがこういう事情を知ると納得です。
上で式を見てお気付きになられた方も多いかと思いますが、四次方程式の解の公式の大まかな構造
において根号の中にある
具体的には四次方程式の一般形
を
において
の解の
同様に三次方程式の解の公式の大まかな構造
においても
に対する(二次)分解方程式
の解として求まります。
ではこのような方程式はどこから出てくるのかを以下で見ていくこととしましょう。
三次方程式の解き方としてメジャーなものとしてカルダノの方法というものがあります。
カルダノの方法は三次方程式の標準形
に対して
という因数分解公式を適用するために
となるような数
と因数分解し
という解を得る、という方法でした。
ここで
という関係があり、特に
の解ということになります。
逆に
一般形から標準形に変形する際に平行移動することを考えると一般には
と解が求まるわけです。ちなみに
とも表示できます。
さて三次方程式もカルダノの方法と同じように標準形
をいい感じに因数分解したくなるわけですが、ここでオイラーはこんな因数分解公式を持ってきます
なるほど?
何はともあれこれを参考に
となるような数
という解が得られるわけです。
ここで
という関係式を満たし、特に
の解ということになります。これが分解方程式ということになります。
そして
と戻し、平行移動することで一般に
という解が得られるわけです。また
という関係式が平方根を取る際の符号の条件となるわけです。
ちなみに
とも因数分解できることがわかるのでそれぞれの二次式を因数分解することで
という解の公式も得られます。ここで
という上の方で見たような形になりますね。
大分矢継ぎ早になってしまいましたが、解の公式の構造について初等的な範囲で語りたいことはそれとなーく語れたと思います。しかし上での解説では天下り的な変形から四次方程式の解法に三次(分解)方程式が出てきていましたが、結局のところその本質的な背景については謎でした。というわけでここからは少し発展的な内容としてガロア理論という武器を使ってそこら辺の事情を探っていこうと思います。
とりあえず参考にする定理を列挙しておきます。証明を知りたい方は参考文献等を参照してください。
群
対称群
まずは解の公式とか全く知らない状態から三次方程式の解の構造を紐解いていきましょう。そのために三次方程式
とその解
とおき、
そして対称群
があるのでガロア理論の基本定理によってそれぞれに対応する体を
と表せるわけです。
ここでもし
が成り立つことになり
さて
まずは逆に
として表せると仮定しましょう。
いま
の解なので
の元
したがって例えば
なので各係数を比較すると
つまり
といった形であることがわかりました。
上の
とおき、同様に
とすると補助的に
という数が考えたくなり
と復元することができます。
以上のようにしてカルダノの方法が自然に導出できることがわかります。そしてわざわざこの分解を三次方程式に代入して係数を比較しなくても、
三次方程式の場合と同様に四次方程式
とその解
とおき、
対称群
があります。ここで
としました。さらに対称性を意識して(
を並べて考えましょう。
いま
ここで
とすると
となって
ということで二乗根の中の数である
あとは
に表せるものとします。
いま
これの係数を比較することで
また
これの係数を比較することで
といった形であることがわかりました。
これを
とおくと補助的に
という数が考えたくなり
と復元することができます。
以上のようにしてオイラーの方法が(ある程度)自然に導出できることがわかります。そしてやはりわざわざこの分解を四次方程式に代入して係数を比較しなくても、
ちなみに上では中々回りくどい方法で
という表示から
を固定するような置換は二つの置換
の
ある数
とりあえず気になったことを一通り考察してまとめてはみましたが、分解方程式周りの下りがどうしても天下り的な気がしてなんか狐につままれた気分です。でもまあ四次方程式の解の公式について色々詳しくなれた気がするので個人的には満足です。
この記事を通して四次方程式の解の公式についてなんとなーく知ってもらえる人が増えれば嬉しいなと思っています。
というわけで今回はこんなところで。では。
これは自分で考察したわけではないのでWikipediaに書いてあることの書き写しのような内容になりますが、解の公式に対する知見を深めたついでにぜひ知っておいてほしいと思ったので書き残しておきます。
ここまで見てきたように三次、四次方程式にも解の公式があるのだから何でもかんでも公式に突っ込んで解いちゃえばいいじゃん!と思いたくなりますよね。手計算は面倒でもコンピューターに任せれば万事解決な気がします。しかし解の公式には思わぬ落とし穴があるのです。
例えばこんな方程式を考えてみましょう。
これに解の公式
を適用させると
という実数解が得られます。
しかし、もしこの方程式を解けと言われてこの回答を出したらバツが付けられることでしょう。なぜなら実は
が成り立っているからです。
そう、解の公式はあくまで「方程式の解を四則演算と冪根を使って一般的に表すもの」であって、冪根が外せる場合には外した形の解を出力する機能はついていないのです。
良い子は学校のテストで三次方程式や四次方程式が出てきたとき、いい感じに解になりそうなものが思い付かないからといって無闇に解の公式を使おうとするのはやめようね!