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高校数学解説
文献あり

四次方程式の解の公式を解剖してみる

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はじめに

 この記事では数学の有名な話として存在は知っているけど詳しくはあんまり知らない「四次方程式の解の公式」について私なりに色々解剖していきたいと思います。
 四次方程式の解の公式と言えば二次方程式ax2+bx+c=0の解の公式
x=b±b24ac2a
や三次方程式の標準形x3+3px+2q=0の解の公式
x=ωkq+p3+q23+ωkqp3+q23(k=0,1,2,ω=1+32)
の簡素さに対して非常に、それはそれは非常に長いことでよく知られていると思います。そしてその長さゆえに見た目のインパクトや実用性の無さばかりに焦点が行き、解の公式そのものの構造について知っている人はあんまり多くないとも思います。
 しかしガロア理論の復習をしていた道すがら四次方程式の解の公式について調べたり考察してみたりしていたら意外と面白そうだということに気付いたので個人的に気になったことをそれとなくまとめていこうと思います。

概容

大まかな構造

 二~四次方程式の解の公式の「根号と符号」という要素だけ抽出して見てみると次のような感じになっています。

  • 二次方程式
    x=C±D
  • 三次方程式
    x=B+ωkC+D3+ωkCD3(k=0,1,2)
  • 四次方程式
    x=A±B+C+D3+CD3±B+ωC+D3+ω1CD3±B+ω1C+D3+ωCD3
    ただし符号の組み合わせについては
    (±,±,±)=(+,+,+),(+,,),(,+,),(,,+)
    の四通り。

解の公式の別形

 Wikipediaの 三次方程式 四次方程式 の記事の下部には
x=B+ωkC+D3ωkEC+D3(k=1,2,3)x=A±F±3BF±GF(±,± は複号任意)(F=B+C+D3+EC+D3)
という形の一見さっきのとは違った見た目の解の公式が載っているので、どのように変形されているのか紹介しておきます。

三次方程式の解の公式の別形

 前者(およびF)についてはD=C2+E3(D=C2(E)3)といった関係があり
EC+D3=EC2D3CD3=EE33CD3=CD3
と変形できるので先に紹介した形に一致することがわかります。

四次方程式の解の公式の別形

 後者については
Fk=B+ωkC+D3+ωkCD3(k=1,2)
とおくと
F+F1+F2=3B,FF1F2=(G/2)2
といった関係があり
3BF±GF=F1+F2±G(G/2)2F1F2=F1±2F1F2+F2=(F1±F2)2
と変形できるので先に紹介した形
x=A±F±F1±F2
に一致することがわかります(符号の辻褄については後で考えます)。

不完全な解の公式

 上で紹介した式では四次方程式の解は
x1=A+F0+F1+F2x2=A+F0F1F2x3=AF0+F1F2x4=AF0F1+F2
の四つで尽くされるということでした。しかしF0F1,F2の平方根を取る際には符号の不定性の問題があるので
y=AF0F1F2
のように符号の取り方が上のパターンに当てはまらないようなものも方程式の解になりそうな気がします。
 しかしたとえば
x4+2x2+8x+5=(x+1)2(x2+2x+5)=0
という方程式を考えると(A,F,F1,F2)=(0,1,1,1)と求まりますがこれの解は
x=1,1,1±2i
であり、
y=0111=12i
はこの方程式を満たしません。このようにF0,F1,F2の符号はそれぞれ任意に取っていいわけではなく、そういう意味で上の解の公式は不完全であることがわかります。

解決策

 この符号の問題は
8F0F1F2=q
という関係式によって解消されます。ここでqとは四次方程式の標準形
x4+px2+qx+r=0
における一次の係数であり、一般形
ax4+bx3+cx2+dx+e=0
においては
q=dabc2a2+b38a3
と表されます。これは上で解の公式の別形を紹介した際に出てきた関係式
F0F1F2=(G/2)2
をより正確にしたものであり、G=q/4という関係があったりします。
 上の例で言うと8111=8なので
(F0,F1,F2)=(1,1,1)=(1,i,i)
と符号を取ることにすると
x1=0+1+i+i=1+2ix2=0+1ii=12ix3=01+ii=1x4=01i+i=1
となり、ちゃんと方程式の解が得られていることがわかります。
 一応上の関係式によって符号の問題を解消できることを示しておきます。上の関係式を満たすように符号を取った二組
(F0,F1,F2),(F0,F1,F2)
を考えるとFk=±Fkおよび
F0F1F2=F0F1F2(=q/8)
なので対称性より
F0=F0,F1=F1,F2=F2
であるとします。すると解の公式は
x1=A+F0+F1+F2=A+F0F1F2=x2
同様にしてx2=x1,x3=x4,x4=x3となり、根号の取り方によって違う値が出てくることはないことがわかります。

完全な解の公式

 しかしいくら解決策があると言っても一々関係式と照らし合わせて符号を調整するのは面倒です。そこでさっき出てきた解の公式
x=A±F±3BF±GF(±,± は複号任意)
が役に立ちます。一応全部書き出すと
x1=A+F+3BF+GFx2=A+F3BF+GFx3=AF+3BFGFx4=AF3BFGF
といった感じになります。
 この式では2つのFが符号を共有していることによって符号を選択する回数(平方根を取る回数)が減っており、結果として符号の取り方によらず全ての解を表現することができる公式となっています。つまりこの式だけで完結している(別途関係式を必要としない)という意味で完全な解の公式であると言えます。上で紹介した
x=A±F0±F1±F2
という形の解の公式は代数的には興味深い式ではありますが、実用的にはこちらの公式の方が符号の決定という点で使い勝手が良いものとなっています。また高校数学レベルの四次方程式(つまりある程度簡単に解けることを前提とされた方程式)ではF=F0が有理数とできることが多いのに対し、F1,F2は平方根を取るには多少面倒な数になることが少なくないという事情があり実用性の格差は歴然となっています。

三次方程式の場合

 ちなみに三次方程式の解の公式についても同様で
x=A+ωkC+D3+ωkCD3
の方の公式ではC±Dの三乗根を取るときに枝の不定性が問題になり、
C+D3CD3=E
という関係式等で解消する必要がありますが、別形である
x=B+ωkC+D3ωkEC+D3
ではC+D3の枝の取り方によらず全ての解を表現することができます。
 三、四次方程式の解の公式にはこういう符号の問題があったからこそWikipediaにはあえて対称性を崩した形の解の公式が紹介されていたんでしょうね。初めて見たときはなんじゃこりゃと思いましたがこういう事情を知ると納得です。

詳細

根号の下の方程式

 上で式を見てお気付きになられた方も多いかと思いますが、四次方程式の解の公式の大まかな構造
x=A±F0±F1±F2
において根号の中にあるF0,F1,F2はある三次方程式の3つの解を表しています。
 具体的には四次方程式の一般形
ax4+bx3+cx2+dx+e=0
a0で割ってy=x+A(A=b/4a)と平行移動した標準形
y4+py2+qy+r=0
においてF0,F1,F2は三次方程式
u3+2pu2+(p24r)uq2=0
の解の1/4倍として求まります。このちなみに方程式のことを(三次)分解方程式と呼びます。
 同様に三次方程式の解の公式の大まかな構造
x=B+ωkS13+ωkS23
においてもS1,S2は三次方程式の標準形
x3+px+q=0
に対する(二次)分解方程式
z2+qz(p/3)3=0
の解として求まります。
 ではこのような方程式はどこから出てくるのかを以下で見ていくこととしましょう。

三次方程式の解き方

カルダノの方法

 三次方程式の解き方としてメジャーなものとしてカルダノの方法というものがあります。
 カルダノの方法は三次方程式の標準形
x3+px+q=0
に対して
a3+b3+c33abc=(a+b+c)(a2+b2+c2abbcca)=(a+b+c)(a+ωb+ω1c)(a+ω1b+ωc)
という因数分解公式を適用するために
(u)3+(v)3=q,3(u)(v)=q
となるような数u,vを導入することによって方程式を
x3u3v33uvx=(xuv)(xωuω1v)(xω1uωv)=0
と因数分解し
x=ωku+ωkv(k=0,1,2)
という解を得る、という方法でした。

分解方程式

 ここでS1=u3,S2=v3とおくとS1S2には
S1+S2=q,S1S2=(q/3)3
という関係があり、特にS1,S2は二次方程式
(zS1)(zS2)=z2+qz(q/3)3=0
の解ということになります。

解の公式

 逆にu=S13,v=S23と戻すことで
x=ωkS13+ωkS23
一般形から標準形に変形する際に平行移動することを考えると一般には
x=B+ωkS13+ωkS23
と解が求まるわけです。ちなみにuv=S13S23=q/3なので
x=B+ωkS13q3ωkS13
とも表示できます。

四次方程式の解き方

オイラーの方法

 さて三次方程式もカルダノの方法と同じように標準形
x4+px2+qx+r=0
をいい感じに因数分解したくなるわけですが、ここでオイラーはこんな因数分解公式を持ってきます
(xabc)(xa+b+c)(x+ab+c)(x+a+bc)=x4+a4+b4+c42(a2x2+b2x2+c2x2+a2b2+b2c2+c2a2)8abcx
なるほど?
 何はともあれこれを参考に
p=2(a2+b2+c2)q=8abcr=a4+b4+c42(a2b2+b2c2+c2a2)=(a2+b2+c2)24(a2b2+b2c2+c2a2)=(p/2)24(a2b2+b2c2+c2a2)
となるような数a,b,cを導入することで
x1=a+b+cx2=abcx3=a+bcx4=ab+c
という解が得られるわけです。

分解方程式

 ここでf0=(2a)2,f1=(2b)2,f2=(2c)2とおくとf0,f1,f2
2p=(f0+f1+f2)q2=f0f1f24r=p2(f0f1+f1f2+f2f0)
という関係式を満たし、特にf0,f1,f2は三次方程式
(uf0)(uf1)(uf2)=u3+2pu2+(p24r)uq2=0
の解ということになります。これが分解方程式ということになります。

解の公式

 そしてFk=fk/4とおいて
a=F0,b=F1,c=F2
と戻し、平行移動することで一般に
x=A±F0±F1±F2
という解が得られるわけです。また
8abc=8F0F1F2=q
という関係式が平方根を取る際の符号の条件となるわけです。

フェラーリの方法

 ちなみにu=f0,f1,f2に対して
x4+px2+qx+r=(x2+p+u2)2u(xq2u)2=((x2+p+u2)+u(xq2u))((x2+p+u2)u(xq2u))
とも因数分解できることがわかるのでそれぞれの二次式を因数分解することで
x=±u2±p2u4±q2u
という解の公式も得られます。ここでF=u/4とおいて平行移動すると
x=A±F±p2F±q4F
という上の方で見たような形になりますね。

ガロア理論による解剖

 大分矢継ぎ早になってしまいましたが、解の公式の構造について初等的な範囲で語りたいことはそれとなーく語れたと思います。しかし上での解説では天下り的な変形から四次方程式の解法に三次(分解)方程式が出てきていましたが、結局のところその本質的な背景については謎でした。というわけでここからは少し発展的な内容としてガロア理論という武器を使ってそこら辺の事情を探っていこうと思います。
 とりあえず参考にする定理を列挙しておきます。証明を知りたい方は参考文献等を参照してください。

 L/Kn次巡回拡大とすると、K1の原始n乗根を含んでいればL/Kは冪根拡大となる。つまりあるaKがあってL=K(an)が成り立つ。

 群Gに対し以下は同値である。

  • Gは可解群である。
  • Gの部分群の列
    G=N0N1Ns={e}
    であってNi/Ni+1は素数位数の巡回群となるようなものが存在する。

 対称群S3,S4は可解群である。

三次方程式の解剖

 まずは解の公式とか全く知らない状態から三次方程式の解の構造を紐解いていきましょう。そのために三次方程式
ax3+bx2+cx+d=0
とその解x=α,β,γに対して
K=Q(a,b,c,d),L=Q(α,β,γ)
とおき、L/Kの拡大の様子を調べていきます。ただ、定理1を使いたい都合で1の原始3乗根ωが必要となるのでK,Lの代わりにK=K(ω)を基礎体として拡大L=K(α,β,γ)を考えていきます。

拡大の構造

 Gal(L/K)はその元を集合{α,β,γ}上の置換とみなすことで対称群S3の部分群とみなすことができます。そして多くの一般の場合において実際にGal(L/K)S3が成り立つので以下そのような場合を考えていきます(個人的に有理関数体Q(a,b,c,d)の代数拡大Q(α,β,γ)を考えるとα,β,γは自由に入れ替えてよさそうだしそりゃGal(L/K)S3になるよな~などと思っています)。
 そして対称群S3には定理2によって保証される部分群の列
S3A3{e}(A3 は交代群)
があるのでガロア理論の基本定理によってそれぞれに対応する体をK,M,Lとおくと定理1によって
M=K(λ), L=M(λ3)(λK,λL)
と表せるわけです。
 ここでもしλKとするとL=K(λ3,λ)となりますが、この場合
Gal(L/K)Z/3Z×Z/2ZS3
が成り立つことになりGal(L/K)S3に矛盾します。というわけでλMK、つまり三乗根の中の数であるλは何らかの(K係数)二次方程式を満たすことがわかります。これが三次方程式の解法に二次分解方程式が出てきたカラクリなわけですね。ついでにM=K(λ), L=K(λ3)もわかります。

{e}A3/{e}Z/3ZA3S3/A3Z/2ZS3K(λ3)K(λ)K

解の構造

 さてL=K(λ3)=K(α,β,γ)がわかったので、あとはα,β,γλ3を使って表せれば解の公式の完成です(この時点でλの具体形はわかっていないので解の公式の概形が判明するだけですが)。
 まずは逆にλ3α,β,γを使って表すことを考えていきます。ここは少し天下り的ですが、α,β,γを復元しやすくするためにλ3α,β,γの一次式
ξ=λ3=C1α+C2β+C3γ(C1,C2,C3K)
として表せると仮定しましょう。
 いまξMにおいて既約方程式
x3λ=(xξ)(xωξ)(xω2ξ)=0
の解なので
Gal(L/M)A3/{e}=A3={e,(αβγ),(γβα)}
の元σに対してσ(ξ)=ωkξが成り立ちます。
 したがって例えばσ=(αβγ)に対してσ(ξ)=ωξとすると
σ(ξ)=C1β+C2γ+C3α=ωξ=ω(C1α+C2β+C3γ)
なので各係数を比較すると
C3=ωC1,C2=ωC3=ω2C1
つまり
ξ=C1(α+ω2β+ωγ)
といった形であることがわかりました。
 上のξを適当に定数倍することでC1=1としたものを
3u=α+ω2β+ωγ
とおき、同様にσ=(γβα)に対してσ(ξ)=ωξとして考えていったものを
3v=α+ωβ+ω2γ
とすると補助的に
3t=α+β+γ(K)
という数が考えたくなり
α=t+u+vβ=t+ω2u+ωvγ=t+ωu+ω2v
と復元することができます。
 以上のようにしてカルダノの方法が自然に導出できることがわかります。そしてわざわざこの分解を三次方程式に代入して係数を比較しなくても、u3,v3は何らかの(K係数)二次方程式を満たすこともわかります(共役写像σ=(βγ)に対してu3v3は互いに写り合うので同じ二次方程式を満たします)。

四次方程式の解剖

 三次方程式の場合と同様に四次方程式
ax4+bx3+cx2+dx+e=0
とその解x=α,β,γ,δに対して
K=Q(a,b,c,d,e,ω),L=K(α,β,γ,δ)
とおき、Gal(L/K)S4の構造を調べていきます。

拡大の構造

 対称群S4についても定理2のような部分群列
S4A4VW{e}
があります。ここで
V={e,(αβ)(γδ),(αγ)(βδ),(αδ)(βγ)}W={e,(αβ)(γδ)}
としました。さらに対称性を意識して(Gal(L/K)において)Wと共役な群
W1={e,(αβ)(γδ)}=WW2={e,(αγ)(βδ)}W3={e,(αδ)(βγ)}
を並べて考えましょう。S4,V,W1,W2,W3,{e}に対応する体をK,N,M1,M2,M3,Lとおきます。
 いまS4V,S4/VS3が成り立っているのでNは何らかの(Kにおける)既約三次方程式の最小分解体であるとみなすことができます(実際上と同じようにしてN=K(C+D3)という形をしていることがわかります)。また定理1からMk=N(λk)(λkN)と表すことができ、M1,M2,M3は互いに同型なのでλ1,λ2,λ3は互いに共役となるように取ることができます。そして[K(λ1,λ2,λ3),Mk]2からL=K(λ1,λ2,λ3)であることもわかります。

{e}W1W2W3VS4/VS3S4K(λ1,λ2,λ3)N(λ1)N(λ2)N(λ3)N=K(λ1,λ2,λ3)K

 ここでλkKにおける最小多項式の次数が6であるとすると、λ1,λ2,λ3の他にも3つの共役な数λ4,λ5,λ6があることになり、同型な6つの体Mk=N(λk)を考えることができます。しかし(Gal(L/K)において)Wと共役な群は3つしかないので、M1,M2,M3とは異なり、かつこれらと同型であるような体は存在しません。つまり番号を適当にとってM4=M1としてよいわけです。しかしλ4M1=N(λ1)から
λ4=ν1+ν2λ1(ν1,ν2N)
とすると
λ4=ν12+ν22λ1+2ν1ν2λ1λ1=λ4ν12ν22λ12ν1ν2N
となって[N(λ1):N]=2に矛盾します。
 ということで二乗根の中の数であるλkは何らかの(K係数)三次方程式を満たすことがわかりました(これを示すのにもっと賢い方法がある気がしますが私にはこれくらいしか思いつきませんでした)。これが四次方程式の解法に三次分解方程式が出てきたカラクリなわけですね。

解の構造

 あとはξ=λ1α,β,γ,δで表現することを考えましょう。これまたξα,β,γ,δの一次式
ξ=λ1=C1α+C2β+C3γ+C4γ
に表せるものとします。
 いまξW1の作用に対して不変なのでσ=(αβ)(γδ)とおくと
σ(ξ)=C1β+C2α+C3δ+C4γ=ξ=C1α+C2β+C3γ+C4γ
これの係数を比較することでC1=C2, C3=C4がわかります。
 またξVW1に対して符号を変えるのでσ=(αγ)(βδ)とおくと
σ(ξ)=C1γ+C1δ+C3α+C3δ=ξ=C1αC1βC3γC3δ
これの係数を比較することでC3=C1がわかり
ξ=C1(α+βγδ)
といった形であることがわかりました。
 これをC1=1とし、λ2,λ3についても同様に考えたものを
4t=α+βγδ4u=αβ+γδ4v=αβγ+δ
とおくと補助的に
4s=α+β+γ+δ(K)
という数が考えたくなり
α=s+t+u+vβ=s+tuvγ=st+uvδ=stu+v
と復元することができます。
 以上のようにしてオイラーの方法が(ある程度)自然に導出できることがわかります。そしてやはりわざわざこの分解を四次方程式に代入して係数を比較しなくても、t2,u2,v2が何らかの(K係数)三次方程式を満たすこともわかります。

λkの次数について

 ちなみに上では中々回りくどい方法でλkの次数が3であることを示していましたが、そのことを知らなくても得られる
4λ1=α+βγδ
という表示からλ1の次数が3であることを示すことができます。というのも
16λ1=(4λ1)2=(α+βγδ)2
を固定するような置換は二つの置換(αβ),(αγβδ)によって生成される
{e,(αβ)(γδ),(αγ)(βδ),(αδ)(βγ),(αβ),(γδ),(αγβδ),(αδβγ)}
8つであり、この置換群に対応する体であるK(λ1)の拡大次数[K(λ1):K]|S4|/8=3ということになるわけです。
 ある数ξNK(ξ)=Nを満たすためには任意の互換の作用に対して異なる値を取る必要がありますが、λ1の具体形を求める際に「(αβ)(γδ)に対して不変」という条件から「(αβ),(γδ)に対して不変」という性質がおまけでついてきたのが肝だったわけですね(この"おまけ"はλ1α,β,γ,δの一次式であると仮定していたことに由来していますね)。

おわりに

 とりあえず気になったことを一通り考察してまとめてはみましたが、分解方程式周りの下りがどうしても天下り的な気がしてなんか狐につままれた気分です。でもまあ四次方程式の解の公式について色々詳しくなれた気がするので個人的には満足です。
 この記事を通して四次方程式の解の公式についてなんとなーく知ってもらえる人が増えれば嬉しいなと思っています。
 というわけで今回はこんなところで。では。

おまけ:解の公式は万能ではない

 これは自分で考察したわけではないのでWikipediaに書いてあることの書き写しのような内容になりますが、解の公式に対する知見を深めたついでにぜひ知っておいてほしいと思ったので書き残しておきます。

解の公式の落とし穴

 ここまで見てきたように三次、四次方程式にも解の公式があるのだから何でもかんでも公式に突っ込んで解いちゃえばいいじゃん!と思いたくなりますよね。手計算は面倒でもコンピューターに任せれば万事解決な気がします。しかし解の公式には思わぬ落とし穴があるのです。
 例えばこんな方程式を考えてみましょう。
x315x4=0
これに解の公式
x3+3px+2q=0x=ωkq+p3+q23+ωkqp3+q23
を適用させると
x=2+125+43+2125+43=2+11i3+211i3
という実数解が得られます。
 しかし、もしこの方程式を解けと言われてこの回答を出したらバツが付けられることでしょう。なぜなら実は
x=(2+i)33+(2i)33=(2+i)+(2i)=4
が成り立っているからです。
 そう、解の公式はあくまで「方程式の解を四則演算と冪根を使って一般的に表すもの」であって、冪根が外せる場合には外した形の解を出力する機能はついていないのです。
 良い子は学校のテストで三次方程式や四次方程式が出てきたとき、いい感じに解になりそうなものが思い付かないからといって無闇に解の公式を使おうとするのはやめようね!

参考文献

投稿日:2022410
更新日:2024515
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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