この記事では数学の有名な話として存在は知っているけど詳しくはあんまり知らない「四次方程式の解の公式」について私なりに色々解剖していきたいと思います。
四次方程式の解の公式と言えば二次方程式$ax^2+bx+c=0$の解の公式
$$x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$$
や三次方程式の標準形$x^3+3px+2q=0$の解の公式
$$x=\o^k\sqrt[3]{-q+\sqrt{p^3+q^2}}+\o^{-k}\sqrt[3]{-q-\sqrt{p^3+q^2}}\quad
\bigg(k=0,1,2,\;\o=\frac{-1+\sqrt{-3}}2\bigg)$$
の簡素さに対して非常に、それはそれは非常に長いことでよく知られていると思います。そしてその長さゆえに見た目のインパクトや実用性の無さばかりに焦点が行き、解の公式そのものの構造について知っている人はあんまり多くないとも思います。
しかしガロア理論の復習をしていた道すがら四次方程式の解の公式について調べたり考察してみたりしていたら意外と面白そうだということに気付いたので個人的に気になったことをそれとなくまとめていこうと思います。
二~四次方程式の解の公式の「根号と符号」という要素だけ抽出して見てみると次のような感じになっています。
Wikipediaの
三次方程式
や
四次方程式
の記事の下部には
\begin{align}
x&=B+\o^k\sqrt[3]{C+\sqrt D}-\o^{-k}\frac E{\sqrt[3]{C+\sqrt D}}\qquad(k=1,2,3)\\
x&=A\textcolor{red}{\pm}\sqrt F\textcolor{blue}{\pm}\sqrt{3B-F\textcolor{red}{\pm}\frac{G}{\sqrt F}}\qquad
(\textcolor{red}{\pm},\textcolor{blue}{\pm}\ \mbox{は複号任意})\\
\bigg(F&=B+\sqrt[3]{C+\sqrt D}+\frac{E'}{\sqrt[3]{C+\sqrt D}}\bigg)
\end{align}
という形の一見さっきのとは違った見た目の解の公式が載っているので、どのように変形されているのか紹介しておきます。
前者(および$F$)については$D=C^2+E^3\;(D=C^2-(E')^3)$といった関係があり
\begin{alignat}{3}
\frac E{\sqrt[3]{C+\sqrt D}}
&=&\frac{E}{\sqrt[3]{C^2-D}}\sqrt[3]{C-\sqrt D}\\
&=&\frac{E}{\sqrt[3]{-E^3}}\sqrt[3]{C-\sqrt D}\\
&=&-\sqrt[3]{C-\sqrt D}
\end{alignat}
と変形できるので先に紹介した形に一致することがわかります。
後者については
$$F_k=B+\o^k\sqrt[3]{C+\sqrt D}+\o^{-k}\sqrt[3]{C-\sqrt D}\quad(k=1,2)$$
とおくと
$$F+F_1+F_2=3B,\quad FF_1F_2=(G/2)^2$$
といった関係があり
\begin{align}
3B-F\pm\frac G{\sqrt F}
&=F_1+F_2\pm\frac G{\sqrt{(G/2)^2}}\sqrt{F_1F_2}\\
&=F_1\pm2\sqrt{F_1F_2}+F_2\\
&=(\sqrt{F_1}\pm\sqrt{F_2})^2
\end{align}
と変形できるので先に紹介した形
$$x=A\pm\sqrt{F}\pm\sqrt{F_1}\pm\sqrt{F_2}$$
に一致することがわかります(符号の辻褄については後で考えます)。
上で紹介した式では四次方程式の解は
\begin{align}
x_1&=A+\sqrt{F_0}+\sqrt{F_1}+\sqrt{F_2}\\
x_2&=A+\sqrt{F_0}-\sqrt{F_1}-\sqrt{F_2}\\
x_3&=A-\sqrt{F_0}+\sqrt{F_1}-\sqrt{F_2}\\
x_4&=A-\sqrt{F_0}-\sqrt{F_1}+\sqrt{F_2}
\end{align}
の四つで尽くされるということでした。しかし$F_0$や$F_1,F_2$の平方根を取る際には符号の不定性の問題があるので
$$y=A-\sqrt{F_0}-\sqrt{F_1}-\sqrt{F_2}$$
のように符号の取り方が上のパターンに当てはまらないようなものも方程式の解になりそうな気がします。
しかしたとえば
$$x^4+2x^2+8x+5=(x+1)^2(x^2+2x+5)=0$$
という方程式を考えると$(A,F,F_1,F_2)=(0,1,-1,-1)$と求まりますがこれの解は
$$x=-1,-1,1\pm2i$$
であり、
$$y=0-\sqrt1-\sqrt{-1}-\sqrt{-1}=-1-2i$$
はこの方程式を満たしません。このように$\sqrt{F_0},\sqrt{F_1},\sqrt{F_2}$の符号はそれぞれ任意に取っていいわけではなく、そういう意味で上の解の公式は不完全であることがわかります。
この符号の問題は
$$8\sqrt{F_0}\cdot\sqrt{F_1}\cdot\sqrt{F_2}=-q$$
という関係式によって解消されます。ここで$q$とは四次方程式の標準形
$$x^4+px^2+qx+r=0$$
における一次の係数であり、一般形
$$ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0$$
においては
$$q=\frac da-\frac{bc}{2a^2}+\farc{b^3}{8a^3}$$
と表されます。これは上で解の公式の別形を紹介した際に出てきた関係式
$$F_0F_1F_2=(G/2)^2$$
をより正確にしたものであり、$G=-q/4$という関係があったりします。
上の例で言うと$8\sqrt1\sqrt{-1}\sqrt{-1}=-8$なので
$$(\sqrt{F_0},\sqrt{F_1},\sqrt{F_2})=(\sqrt1,\sqrt{-1},\sqrt{-1})=(1,i,i)$$
と符号を取ることにすると
\begin{align}
x_1&=0+1+i+i=1+2i\\
x_2&=0+1-i-i=1-2i\\
x_3&=0-1+i-i=-1\\
x_4&=0-1-i+i=-1
\end{align}
となり、ちゃんと方程式の解が得られていることがわかります。
一応上の関係式によって符号の問題を解消できることを示しておきます。上の関係式を満たすように符号を取った二組
$$(\sqrt{F_0},\sqrt{F_1},\sqrt{F_2}),(\sqrt{F_0}',\sqrt{F_1}',\sqrt{F_2}')$$
を考えると$\sqrt{F_k}'=\pm\sqrt{F_k}$および
$$\sqrt{F_0}'\cdot\sqrt{F_1}'\cdot\sqrt{F_2}'
=\sqrt{F_0}\cdot\sqrt{F_1}\cdot\sqrt{F_2}\;(=-q/8)$$
なので対称性より
$$\sqrt{F_0}'=\sqrt{F_0},\quad
\sqrt{F_1}'=-\sqrt{F_1},\quad
\sqrt{F_2}'=-\sqrt{F_2}$$
であるとします。すると解の公式は
\begin{align}
x'_1&=A+\sqrt{F_0}'+\sqrt{F_1}'+\sqrt{F_2}'\\
&=A+\sqrt{F_0}-\sqrt{F_1}-\sqrt{F_2}=x_2
\end{align}
同様にして$x'_2=x_1,\;x'_3=x_4,\;x'_4=x_3$となり、根号の取り方によって違う値が出てくることはないことがわかります。
しかしいくら解決策があると言っても一々関係式と照らし合わせて符号を調整するのは面倒です。そこでさっき出てきた解の公式
$$x=A\textcolor{red}{\pm}\sqrt F\textcolor{blue}{\pm}\sqrt{3B-F\textcolor{red}{\pm}\frac{G}{\sqrt F}}\qquad
(\textcolor{red}{\pm},\textcolor{blue}{\pm}\ \mbox{は複号任意})$$
が役に立ちます。一応全部書き出すと
\begin{align}
x_1&=A+\sqrt{F}+\sqrt{3B-F+\frac G{\sqrt F}}\\
x_2&=A+\sqrt{F}-\sqrt{3B-F+\frac G{\sqrt F}}\\
x_3&=A-\sqrt{F}+\sqrt{3B-F-\frac G{\sqrt F}}\\
x_4&=A-\sqrt{F}-\sqrt{3B-F-\frac G{\sqrt F}}
\end{align}
といった感じになります。
この式では$2$つの$\sqrt{F}$が符号を共有していることによって符号を選択する回数(平方根を取る回数)が減っており、結果として符号の取り方によらず全ての解を表現することができる公式となっています。つまりこの式だけで完結している(別途関係式を必要としない)という意味で完全な解の公式であると言えます。上で紹介した
$$x=A\pm\sqrt{F_0}\pm\sqrt{F_1}\pm\sqrt{F_2}$$
という形の解の公式は代数的には興味深い式ではありますが、実用的にはこちらの公式の方が符号の決定という点で使い勝手が良いものとなっています。また高校数学レベルの四次方程式(つまりある程度簡単に解けることを前提とされた方程式)では$F=F_0$が有理数とできることが多いのに対し、$F_1,F_2$は平方根を取るには多少面倒な数になることが少なくないという事情があり実用性の格差は歴然となっています。
ちなみに三次方程式の解の公式についても同様で
$$x=A+\o^k\sqrt[3]{C+\sqrt D}+\o^k\sqrt[3]{C-\sqrt D}$$
の方の公式では$C\pm\sqrt D$の三乗根を取るときに枝の不定性が問題になり、
$$\sqrt[3]{C+\sqrt D}\cdot\sqrt[3]{C-\sqrt D}=-E$$
という関係式等で解消する必要がありますが、別形である
$$x=B+\o^k\sqrt[3]{C+\sqrt D}-\o^{-k}\frac E{\sqrt[3]{C+\sqrt D}}$$
では$\sqrt[3]{C+\sqrt D}$の枝の取り方によらず全ての解を表現することができます。
三、四次方程式の解の公式にはこういう符号の問題があったからこそWikipediaにはあえて対称性を崩した形の解の公式が紹介されていたんでしょうね。初めて見たときはなんじゃこりゃと思いましたがこういう事情を知ると納得です。
上で式を見てお気付きになられた方も多いかと思いますが、四次方程式の解の公式の大まかな構造
$$x=A\pm\sqrt{F_0}\pm\sqrt{F_1}\pm\sqrt{F_2}$$
において根号の中にある$F_0,F_1,F_2$はある三次方程式の$3$つの解を表しています。
具体的には四次方程式の一般形
$$ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0$$
を$a\neq0$で割って$y=x+A\;(A=b/4a)$と平行移動した標準形
$$y^4+py^2+qy+r=0$$
において$F_0,F_1,F_2$は三次方程式
$$u^3+2pu^2+(p^2-4r)u-q^2=0$$
の解の$1/4$倍として求まります。このちなみに方程式のことを(三次)分解方程式と呼びます。
同様に三次方程式の解の公式の大まかな構造
$$x=B+\o^k\sqrt[3]{S_1}+\o^{-k}\sqrt[3]{S_2}$$
においても$S_1,S_2$は三次方程式の標準形
$$x^3+px+q=0$$
に対する(二次)分解方程式
$$z^2+qz-(p/3)^3=0$$
の解として求まります。
ではこのような方程式はどこから出てくるのかを以下で見ていくこととしましょう。
三次方程式の解き方としてメジャーなものとしてカルダノの方法というものがあります。
カルダノの方法は三次方程式の標準形
$$x^3+px+q=0$$
に対して
\begin{eqnarray}
a^3+b^3+c^3-3abc&=&(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)
\\&=&(a+b+c)(a+\o b+\o^{-1}c)(a+\o^{-1}b+\o c)
\end{eqnarray}
という因数分解公式を適用するために
$$(-u)^3+(-v)^3=q,\quad-3(-u)(-v)=q$$
となるような数$u,v$を導入することによって方程式を
$$x^3-u^3-v^3-3uvx=(x-u-v)(x-\o u-\o^{-1}v)(x-\o^{-1}u-\o v)=0$$
と因数分解し
$$x=\o^ku+\o^{-k}v\quad(k=0,1,2)$$
という解を得る、という方法でした。
ここで$S_1=u^3,\;S_2=v^3$とおくと$S_1$と$S_2$には
$$S_1+S_2=-q,\quad S_1S_2=-(q/3)^3$$
という関係があり、特に$S_1,S_2$は二次方程式
$$(z-S_1)(z-S_2)=z^2+qz-(q/3)^3=0$$
の解ということになります。
逆に$u=\sqrt[3]{S_1},\;v=\sqrt[3]{S_2}$と戻すことで
$$x=\o^k\sqrt[3]{S_1}+\o^{-k}\sqrt[3]{S_2}$$
一般形から標準形に変形する際に平行移動することを考えると一般には
$$x=B+\o^k\sqrt[3]{S_1}+\o^{-k}\sqrt[3]{S_2}$$
と解が求まるわけです。ちなみに$uv=\sqrt[3]{S_1}\cdot\sqrt[3]{S_2}=-q/3$なので
$$x=B+\o^k\sqrt[3]{S_1}-\frac q{3\o^k\sqrt[3]{S_1}}$$
とも表示できます。
さて三次方程式もカルダノの方法と同じように標準形
$$x^4+px^2+qx+r=0$$
をいい感じに因数分解したくなるわけですが、ここでオイラーはこんな因数分解公式を持ってきます
\begin{align}
&(x-a-b-c)(x-a+b+c)(x+a-b+c)(x+a+b-c)\\
={}&x^4+a^4+b^4+c^4-2(a^2x^2+b^2x^2+c^2x^2+a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)-8abcx
\end{align}
なるほど?
何はともあれこれを参考に
\begin{align}
p&=-2(a^2+b^2+c^2)\\
q&=-8abc\\
r&=a^4+b^4+c^4-2(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)\\
&=(a^2+b^2+c^2)^2-4(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)\\
&=(p/2)^2-4(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)
\end{align}
となるような数$a,b,c$を導入することで
\begin{align}
x_1&=\phantom{-{}}a+b+c\\
x_2&=\phantom{-{}}a-b-c\\
x_3&=-a+b-c\\
x_4&=-a-b+c
\end{align}
という解が得られるわけです。
ここで$f_0=(2a)^2,f_1=(2b)^2,f_2=(2c)^2$とおくと$f_0,f_1,f_2$は
\begin{align}
2p&=-(f_0+f_1+f_2)\\
q^2&=f_0f_1f_2\\
4r&=p^2-(f_0f_1+f_1f_2+f_2f_0)
\end{align}
という関係式を満たし、特に$f_0,f_1,f_2$は三次方程式
$$(u-f_0)(u-f_1)(u-f_2)=u^3+2pu^2+(p^2-4r)u-q^2=0$$
の解ということになります。これが分解方程式ということになります。
そして$F_k=f_k/4$とおいて
$$a=\sqrt{F_0},\quad b=\sqrt{F_1},\quad c=\sqrt{F_2}$$
と戻し、平行移動することで一般に
$$x=A\pm\sqrt{F_0}\pm\sqrt{F_1}\pm\sqrt{F_2}$$
という解が得られるわけです。また
$$8abc=8\sqrt{F_0}\cdot\sqrt{F_1}\cdot\sqrt{F_2}=-q$$
という関係式が平方根を取る際の符号の条件となるわけです。
ちなみに$u=f_0,f_1,f_2$に対して
\begin{eqnarray}
x^4+px^2+qx+r&=&\l(x^2+\frac{p+u}2\r)^2-u\l(x-\frac q{2u}\r)^2
\\&=&\l((x^2+\frac{p+u}2)+\sqrt u(x-\frac q{2u})\r)\l((x^2+\frac{p+u}2)-\sqrt u(x-\frac q{2u})\r)
\end{eqnarray}
とも因数分解できることがわかるのでそれぞれの二次式を因数分解することで
$$x=\textcolor{red}{\pm}\frac{\sqrt u}2\textcolor{blue}{\pm}\sqrt{-\frac p2-\frac u4\textcolor{red}{\pm}\frac{-q}{2\sqrt u}}$$
という解の公式も得られます。ここで$F=u/4$とおいて平行移動すると
$$x=A\textcolor{red}{\pm}\sqrt F\textcolor{blue}{\pm}\sqrt{-\farc p2-F\textcolor{red}{\pm}\farc{-q}{4\sqrt F}}$$
という上の方で見たような形になりますね。
大分矢継ぎ早になってしまいましたが、解の公式の構造について初等的な範囲で語りたいことはそれとなーく語れたと思います。しかし上での解説では天下り的な変形から四次方程式の解法に三次(分解)方程式が出てきていましたが、結局のところその本質的な背景については謎でした。というわけでここからは少し発展的な内容としてガロア理論という武器を使ってそこら辺の事情を探っていこうと思います。
とりあえず参考にする定理を列挙しておきます。証明を知りたい方は参考文献等を参照してください。
$L/K$を$n$次巡回拡大とすると、$K$が$1$の原始$n$乗根を含んでいれば$L/K$は冪根拡大となる。つまりある$a\in K$があって$L=K(\sqrt[n]a)$が成り立つ。
群$G$に対し以下は同値である。
対称群$S_3,S_4$は可解群である。
まずは解の公式とか全く知らない状態から三次方程式の解の構造を紐解いていきましょう。そのために三次方程式
$$ax^3+bx^2+cx+d=0$$
とその解$x=\a,\b,\g$に対して
$$K'=\Q(a,b,c,d),\quad L'=\Q(\a,\b,\g)$$
とおき、$L'/K'$の拡大の様子を調べていきます。ただ、定理$1$を使いたい都合で$1$の原始$3$乗根$\o$が必要となるので$K',L'$の代わりに$K=K'(\o)$を基礎体として拡大$L=K'(\a,\b,\g)$を考えていきます。
$\Gal(L/K)$はその元を集合$\{\a,\b,\g\}$上の置換とみなすことで対称群$S_3$の部分群とみなすことができます。そして多くの一般の場合において実際に$\Gal(L/K)\simeq S_3$が成り立つので以下そのような場合を考えていきます(個人的に有理関数体$\Q(a,b,c,d)$の代数拡大$\Q(\a,\b,\g)$を考えると$\a,\b,\g$は自由に入れ替えてよさそうだしそりゃ$\Gal(L/K)\simeq S_3$になるよな~などと思っています)。
そして対称群$S_3$には定理2によって保証される部分群の列
$$S_3\triangleright A_3\triangleright\{e\}\quad(A_3\ \mbox{は交代群})$$
があるのでガロア理論の基本定理によってそれぞれに対応する体を$K,M,L$とおくと定理1によって
$$M=K(\sqrt{\la'}),\ L=M(\sqrt[3]\la)\quad(\la'\in K,\la\in L)$$
と表せるわけです。
ここでもし$\la\in K$とすると$L=K(\sqrt[3]{\la},\sqrt{\la'})$となりますが、この場合
$$\Gal(L/K)\simeq\ZZ3\times\ZZ2\not\simeq S_3$$
が成り立つことになり$\Gal(L/K)\simeq S_3$に矛盾します。というわけで$\la\in M\setminus K$、つまり三乗根の中の数である$\la$は何らかの($\!K$係数)二次方程式を満たすことがわかります。これが三次方程式の解法に二次分解方程式が出てきたカラクリなわけですね。ついでに$M=K(\la),\ L=K(\sqrt[3]{\la})$もわかります。
$\xymatrix{\{e\}\ar@{-}[d]^{A_3/\{e\}\simeq\ZZ3}\\A_3\ar@{-}[d]^{S_3/A_3\simeq\ZZ2}\\S_3} \xymatrix{K(\sqrt[3]{\la})\ar@{-}[d]\\K(\la)\ar@{-}[d]\\K}$
さて$L=K(\sqrt[3]{\la})=K(\a,\b,\g)$がわかったので、あとは$\a,\b,\g$を$\sqrt[3]{\la}$を使って表せれば解の公式の完成です(この時点で$\la$の具体形はわかっていないので解の公式の概形が判明するだけですが)。
まずは逆に$\sqrt[3]{\la}$を$\a,\b,\g$を使って表すことを考えていきます。ここは少し天下り的ですが、$\a,\b,\g$を復元しやすくするために$\sqrt[3]\la$は$\a,\b,\g$の一次式
$$\xi=\sqrt[3]\la=C_1\a+C_2\b+C_3\g\quad(C_1,C_2,C_3\in K)$$
として表せると仮定しましょう。
いま$\xi$は$M$において既約方程式
$$x^3-\la=(x-\xi)(x-\o\xi)(x-\o^2\xi)=0$$
の解なので
$$\Gal(L/M)\simeq A_3/\{e\}=A_3=\{e,(\a\;\b\;\g),(\g\;\b\;\a)\}$$
の元$\s$に対して$\s(\xi)=\o^k\xi$が成り立ちます。
したがって例えば$\s=(\a\;\b\;\g)$に対して$\s(\xi)=\o\xi$とすると
\begin{alignat}{3}
&&\s(\xi)&=C_1\b+C_2\g+C_3\a\\
={}&&\o\xi&=\o(C_1\a+C_2\b+C_3\g)
\end{alignat}
なので各係数を比較すると
$$C_3=\o C_1,\quad C_2=\o C_3=\o^2C_1$$
つまり
$$\xi=C_1(\a+\o^2\b+\o\g)$$
といった形であることがわかりました。
上の$\xi$を適当に定数倍することで$C_1=1$としたものを
$$3u=\a+\o^2\b+\o\g$$
とおき、同様に$\s=(\g\;\b\;\a)$に対して$\s(\xi)=\o\xi$として考えていったものを
$$3v=\a+\o\b+\o^2\g$$
とすると補助的に
$$3t=\a+\b+\g\quad(\in K)$$
という数が考えたくなり
\begin{align}
\a&=t+u+v\\
\b&=t+\o^2u+\o v\\
\g&=t+\o u+\o^2v
\end{align}
と復元することができます。
以上のようにしてカルダノの方法が自然に導出できることがわかります。そしてわざわざこの分解を三次方程式に代入して係数を比較しなくても、$u^3,v^3$は何らかの($\!K$係数)二次方程式を満たすこともわかります(共役写像$\s=(\b\;\g)$に対して$u^3$と$v^3$は互いに写り合うので同じ二次方程式を満たします)。
三次方程式の場合と同様に四次方程式
$$ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0$$
とその解$x=\a,\b,\g,\d$に対して
$$K=\Q(a,b,c,d,e,\o),\quad L=K(\a,\b,\g,\d)$$
とおき、$\Gal(L/K)\simeq S_4$の構造を調べていきます。
対称群$S_4$についても定理2のような部分群列
$$S_4\triangleright A_4\triangleright V\triangleright W\triangleright\{e\}$$
があります。ここで
\begin{align}
V&=\{e,(\a\;\b)(\g\;\d),(\a\;\g)(\b\;\d),(\a\;\d)(\b\;\g)\}\\
W&=\{e,(\a\;\b)(\g\;\d)\}
\end{align}
としました。さらに対称性を意識して($\Gal(L/K)$において)$W$と共役な群
\begin{align}
W_1&=\{e,(\a\;\b)(\g\;\d)\}=W\\
W_2&=\{e,(\a\;\g)(\b\;\d)\}\\
W_3&=\{e,(\a\;\d)(\b\;\g)\}
\end{align}
を並べて考えましょう。$S_4,V,W_1,W_2,W_3,\{e\}$に対応する体を$K,N,M_1,M_2,M_3,L$とおきます。
いま$S_4\triangleright V,\;S_4/V\simeq S_3$が成り立っているので$N$は何らかの($K$における)既約三次方程式の最小分解体であるとみなすことができます(実際上と同じようにして$N=K(\sqrt[3]{C+\sqrt{D}})$という形をしていることがわかります)。また定理1から$M_k=N(\sqrt{\la_k})\;(\la_k\in N)$と表すことができ、$M_1,M_2,M_3$は互いに同型なので$\la_1,\la_2,\la_3$は互いに共役となるように取ることができます。そして$[K(\sqrt{\la_1},\sqrt{\la_2},\sqrt{\la_3}),M_k]\geq2$から$L=K(\sqrt{\la_1},\sqrt{\la_2},\sqrt{\la_3})$であることもわかります。
$\xymatrix{&\{e\}\ar@{-}[ld]\ar@{-}[rd]\ar@{-}[d]& \\W_1\ar@{-}[rd]&W_2\ar@{-}[d]&W_3\ar@{-}[ld] \\&V\ar@{-}[d]^{S_4/V\simeq S_3}&\\&S_4&} \quad \xymatrix@!C=24pt{ &K(\sqrt{\la_1},\sqrt{\la_2},\sqrt{\la_3})\ar@{-}[ld]\ar@{-}[rd]\ar@{-}[d]& \\N(\sqrt{\la_1})\ar@{-}[rd]&N(\sqrt{\la_2})\ar@{-}[d]&N(\sqrt{\la_3})\ar@{-}[ld] \\&N=K(\la_1,\la_2,\la_3)\ar@{-}[d]&\\&K&}$
ここで$\la_k$の$K$における最小多項式の次数が$6$であるとすると、$\la_1,\la_2,\la_3$の他にも$3$つの共役な数$\la_4,\la_5,\la_6$があることになり、同型な$6$つの体$M_k=N(\sqrt{\la_k})$を考えることができます。しかし($\Gal(L/K)$において)$W$と共役な群は$3$つしかないので、$M_1,M_2,M_3$とは異なり、かつこれらと同型であるような体は存在しません。つまり番号を適当にとって$M_4=M_1$としてよいわけです。しかし$\sqrt{\la_4}\in M_1=N(\sqrt{\la_1})$から
$$\sqrt{\la_4}=\nu_1+\nu_2\sqrt{\la_1}\quad(\nu_1,\nu_2\in N)$$
とすると
\begin{align}
\la_4&=\nu_1^2+\nu_2^2\la_1+2\nu_1\nu_2\sqrt{\la_1}\\
\sqrt{\la_1}&=\frac{\la_4-\nu_1^2-\nu_2^2\la_1}{2\nu_1\nu_2}\in N
\end{align}
となって$[N(\la_1):N]=2$に矛盾します。
ということで二乗根の中の数である$\la_k$は何らかの($\!K$係数)三次方程式を満たすことがわかりました(これを示すのにもっと賢い方法がある気がしますが私にはこれくらいしか思いつきませんでした)。これが四次方程式の解法に三次分解方程式が出てきたカラクリなわけですね。
あとは$\xi=\sqrt{\la_1}$を$\a,\b,\g,\d$で表現することを考えましょう。これまた$\xi$は$\a,\b,\g,\d$の一次式
$$\xi=\sqrt{\la_1}=C_1\a+C_2\b+C_3\g+C_4\g$$
に表せるものとします。
いま$\xi$は$W_1$の作用に対して不変なので$\s=(\a\;\b)(\g\;\d)$とおくと
\begin{alignat}{3}
&&\s(\xi)&=C_1\b+C_2\a+C_3\d+C_4\g\\
={}&&\xi&=C_1\a+C_2\b+C_3\g+C_4\g
\end{alignat}
これの係数を比較することで$C_1=C_2,\ C_3=C_4$がわかります。
また$\xi$は$V\setminus W_1$に対して符号を変えるので$\s=(\a\;\g)(\b\;\d)$とおくと
\begin{alignat}{3}
&&\s(\xi)&=C_1\g+C_1\d+C_3\a+C_3\d\\
={}&&-\xi&=-C_1\a-C_1\b-C_3\g-C_3\d
\end{alignat}
これの係数を比較することで$C_3=-C_1$がわかり
$$\xi=C_1(\a+\b-\g-\d)$$
といった形であることがわかりました。
これを$C_1=1$とし、$\sqrt{\la_2},\sqrt{\la_3}$についても同様に考えたものを
\begin{align}
4t&=\a+\b-\g-\d\\
4u&=\a-\b+\g-\d\\
4v&=\a-\b-\g+\d
\end{align}
とおくと補助的に
$$4s=\a+\b+\g+\d\quad(\in K)$$
という数が考えたくなり
\begin{align}
\a&=s+t+u+v\\
\b&=s+t-u-v\\
\g&=s-t+u-v\\
\d&=s-t-u+v
\end{align}
と復元することができます。
以上のようにしてオイラーの方法が(ある程度)自然に導出できることがわかります。そしてやはりわざわざこの分解を四次方程式に代入して係数を比較しなくても、$t^2,u^2,v^2$が何らかの($K$係数)三次方程式を満たすこともわかります。
ちなみに上では中々回りくどい方法で$\la_k$の次数が$3$であることを示していましたが、そのことを知らなくても得られる
$$4\sqrt{\la_1}=\a+\b-\g-\d$$
という表示から$\la_1$の次数が$3$であることを示すことができます。というのも
$$16\la_1=(4\sqrt{\la_1})^2=(\a+\b-\g-\d)^2$$
を固定するような置換は二つの置換$(\a\;\b),(\a\;\g\;\b\;\d)$によって生成される
$$\{e,(\a\;\b)(\g\;\d),(\a\;\g)(\b\;\d),(\a\;\d)(\b\;\g),(\a\;\b),(\g\;\d),(\a\;\g\;\b\;\d),(\a\;\d\;\b\;\g)\}$$
の$8$つであり、この置換群に対応する体である$K(\la_1)$の拡大次数$[K(\la_1):K]$は$|S_4|/8=3$ということになるわけです。
ある数$\xi\in N$が$K(\xi)=N$を満たすためには任意の互換の作用に対して異なる値を取る必要がありますが、$\sqrt{\la_1}$の具体形を求める際に「$(\a\;\b)(\g\;\d)$に対して不変」という条件から「$(\a\;\b),(\g\;\d)$に対して不変」という性質がおまけでついてきたのが肝だったわけですね(この"おまけ"は$\sqrt{\la_1}$は$\a,\b,\g,\d$の一次式であると仮定していたことに由来していますね)。
とりあえず気になったことを一通り考察してまとめてはみましたが、分解方程式周りの下りがどうしても天下り的な気がしてなんか狐につままれた気分です。でもまあ四次方程式の解の公式について色々詳しくなれた気がするので個人的には満足です。
この記事を通して四次方程式の解の公式についてなんとなーく知ってもらえる人が増えれば嬉しいなと思っています。
というわけで今回はこんなところで。では。
これは自分で考察したわけではないのでWikipediaに書いてあることの書き写しのような内容になりますが、解の公式に対する知見を深めたついでにぜひ知っておいてほしいと思ったので書き残しておきます。
ここまで見てきたように三次、四次方程式にも解の公式があるのだから何でもかんでも公式に突っ込んで解いちゃえばいいじゃん!と思いたくなりますよね。手計算は面倒でもコンピューターに任せれば万事解決な気がします。しかし解の公式には思わぬ落とし穴があるのです。
例えばこんな方程式を考えてみましょう。
$$x^3-15x-4=0$$
これに解の公式
$$x^3+3px+2q=0\iff x=\o^k\sqrt[3]{-q+\sqrt{p^3+q^2}}+\o^{-k}\sqrt[3]{-q-\sqrt{p^3+q^2}}$$
を適用させると
\begin{align}
x&=\sqrt[3]{2+\sqrt{-125+4}}+\sqrt[3]{2-\sqrt{-125+4}}\\
&=\sqrt[3]{2+11i}+\sqrt[3]{2-11i}
\end{align}
という実数解が得られます。
しかし、もしこの方程式を解けと言われてこの回答を出したらバツが付けられることでしょう。なぜなら実は
\begin{align}
x&=\sqrt[3]{(2+i)^3}+\sqrt[3]{(2-i)^3}\\
&=(2+i)+(2-i)\\
&=4
\end{align}
が成り立っているからです。
そう、解の公式はあくまで「方程式の解を四則演算と冪根を使って一般的に表すもの」であって、冪根が外せる場合には外した形の解を出力する機能はついていないのです。
良い子は学校のテストで三次方程式や四次方程式が出てきたとき、いい感じに解になりそうなものが思い付かないからといって無闇に解の公式を使おうとするのはやめようね!