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高校数学解説
文献あり

5^πが整数でないことの証明 その2 5^π<157を証明する

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注意事項: この記事では多量の数値計算を必要とします。手元にそろばんをご用意ください。全珠連で初段、日珠連で2級以上の計算能力があるなら十分だと思います。

注意事項: この記事では厘未満の小数の単位を扱います。どの単位がどの数を表すかについては 巨大数研究Wiki などでご確認ください。

$ 5^{\pi} < 157 $を証明せよ。(国際信州学院大学'22改)

準備

$ -1 < x < 1 $のとき、次の式が成り立つことおよび級数が絶対収束することは既知とします。

$$ \ln(1+x) = -\frac{0}{1}x^0 + \frac{1}{1}x^1 - \frac{1}{2} x^2 + \frac{1}{3}x^3 - \cdots = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \cdots $$

(中辺は各項でどこが変化しているかを見やすくした形、右辺は$ x $との差分を見やすくした形です)

誤差項の評価

$ 0 < x < 1 $とします。

真数が$ 1 $より小さい場合

$$ -\ln(1-x) = + \frac{0}{1}x^0 + \frac{1}{1}x^1 + \frac{1}{2} x^2 + \frac{1}{3}x^3 + \cdots $$

$ n $次の項で打ち切った残りは、

\begin{align} & \frac{1}{n+1}x^{n+1} + \frac{1}{n+2}x^{n+2} + \frac{1}{n+3}x^{n+3} + \cdots \\ <& \frac{1}{n+1}x^{n+1} + \frac{1}{n+1}x^{n+2} + \frac{1}{n+1}x^{n+2} + \cdots \\ =& \frac{1}{n+1} \left( x^{n+1} + x^{n+2} + x^{n+3} + \cdots \right) \\ =& \frac{1}{n+1} \cdot \frac{x^{n+1}}{1 - x} \\ \end{align}

と評価できます。特に、$ x = \frac{1}{t} $と書ける場合、

$$ 0 < \frac{1}{n+1}x^{n+1} + \frac{1}{n+2}x^{n+2} + \frac{1}{n+3}x^{n+3} + \cdots < \frac{1}{n+1} \cdot \left( 1 + \frac{1}{t - 1} \right) \cdot x^{n+1} $$

と表されます。この形は後で使います。

真数が$ 1 $より大きい場合

$$ \ln(1+x) = -\frac{0}{1}x^0 + \frac{1}{1}x^1 - \frac{1}{2} x^2 + \frac{1}{3}x^3 - \cdots $$

$ n $次の項で打ち切った残りは、

$$ \pm \frac{1}{n+1}x^{n+1} \mp \frac{1}{n+2}x^{n+2} \pm \frac{1}{n+3}x^{n+3} \mp \cdots $$
(全て複号同順)

と符号が交互に並ぶため簡単には評価できません。しかし、絶対値を取ると上と同じ形になるので、

$$ 0 \leq \left| \pm \frac{1}{n+1}x^{n+1} \mp \frac{1}{n+2}x^{n+2} \pm \frac{1}{n+3}x^{n+3} \mp \cdots \right| < \frac{1}{n+1} \cdot \frac{x^{n+1}}{1 - x} $$

と表されます。

また、$ 0 < x < 0.5 $であれば$ n+2 $次以降の項の和の絶対値は$ \frac{1}{n+2}\cdot 2 x^{n+2} < \frac{1}{n+1}x^{n+1} $を超えることはなく、したがって左中辺間の等号が成り立つことがないこともわかりますね。

さあ、計算の時間だ!

都合により、最初に$ \ln{2} $を求めます。

$$ \ln{2} = -3\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) + \ln\left(1 + \frac{3}{125}\right) $$

が成り立つことが簡単な計算によりわかるので、右辺のそれぞれの項を計算します。

でも、どこまで計算するの?

Wolfram|Alphaによると、

\begin{align} \ln{5^{\pi}} &= 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}198\hspace{1.5mm}322\hspace{1.5mm} \cdots \\ \ln{157} &= 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}245\hspace{1.5mm}805\hspace{1.5mm} \cdots \end{align}

となり、5忽程度の差があるようです。ということは、$ \ln{5} $の誤差は1忽程度にしたいですね。そのために、$ -\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) $$ \ln\left(1 + \frac{3}{125}\right) $を6桁の精度で近似したいので、級数の各項を7桁の精度で近似します。

よし、計算だ

$ -\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) $を求める

$ -\ln(1-x) $の級数に$ x = \frac{1}{5} $を代入して変形すると、

$$ -\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) = {0.2}^1 \div 1 + {0.2}^2 \div 2 + {0.2}^3 \div 3 + \cdots $$

となります。計算しましょう。

\begin{align*} {0.2}^1 \div 1 &= 0.\hspace{1.5mm}2 \div 1 &= 0.\hspace{1.5mm}200\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}0 \cdots \\ {0.2}^2 \div 2 &= 0.\hspace{1.5mm}04 \div 2 &= 0.\hspace{1.5mm}020\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}0 \cdots \\ {0.2}^3 \div 3 &= 0.\hspace{1.5mm}008 \div 3 &= 0.\hspace{1.5mm}002\hspace{1.5mm}666\hspace{1.5mm}6 \cdots \\ {0.2}^4 \div 4 &= 0.\hspace{1.5mm}001\hspace{1.5mm}6 \div 4 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}400\hspace{1.5mm}0 \cdots \\ {0.2}^5 \div 5 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}32 \div 5 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}064\hspace{1.5mm}0 \cdots \\ {0.2}^6 \div 6 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}064 \div 6 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}010\hspace{1.5mm}6 \cdots \\ {0.2}^7 \div 7 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}012\hspace{1.5mm}8 \div 7 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}001\hspace{1.5mm}8 \cdots \\ {0.2}^8 \div 8 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}002\hspace{1.5mm}56 \div 8 &= 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}3 \cdots \\ \end{align*}

右辺の沙以下の位を切り捨てて全部足すと、$ 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}3 \cdots$となります。ここからは誤差を評価します。

切り捨てた部分の合計を抑えるためにもう1桁だけ計算します。塵未満を切り捨てて沙の位だけ足すと、

$$ 0+0+7+0+0+7+3+2 = 19 $$

となり、2繊で上から抑えられます(ここだけは精度を高く取りたいのでこのような計算をしました)。
また、$ 9 $次以降の部分は

$$ \frac{1}{9} \cdot \frac{5}{4} \cdot {0.2}^9 = 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}512 \times 1.25 \div 9 < 0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}072 $$

となり、8沙で抑えられます。これらを足すと、2繊8沙となり、

$ 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}3 < -\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) < 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}58$

と評価できます。

$ \ln\left(1 + \frac{3}{125}\right) $を求める

上と同様の手順で計算します。

$$ \ln\left(1 + \frac{3}{125}\right) = {0.024}^1 \div 1 - {0.024}^2 \div 2 + {0.024}^3 \div 3 - \cdots $$

符号が交互に変わることに注意しましょう。

\begin{align*} +{0.024}^1 \div 1 &= +0.\hspace{1.5mm}024 \div 1 &= +0.\hspace{1.5mm}024\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}0 \cdots \\ -{0.024}^2 \div 2 &= -0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}576 \div 2 &= -0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}288\hspace{1.5mm}0 \cdots \\ +{0.024}^3 \div 3 &= +0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}013\hspace{1.5mm}824 \div 3 &= +0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}004\hspace{1.5mm}6 \cdots \\ \end{align*}

沙以下の位を切り捨てた3つの合計は$ 0.\hspace{1.5mm}023\hspace{1.5mm}716\hspace{1.5mm}6 $です。誤差を評価します。

切り捨ての誤差は-1~2繊で抑えられ、$ 4 $次以降の部分の絶対値は

\begin{align} & \frac{1}{4} \cdot \frac{1}{0.976} \cdot {0.024}^4 \\ <& 0.26 \cdot {0.024}^4 \\ =& (0.26 \cdot 0.024 ) \cdot {0.024}^3 \\ <& 0.0063 \cdot 1忽4微 \\ <& 9沙 \\ \end{align}

なので、

$$ 0.\hspace{1.5mm}023\hspace{1.5mm}716\hspace{1.5mm}41 < \ln\left(1 + \frac{3}{125}\right) < 0.\hspace{1.5mm}023\hspace{1.5mm}716\hspace{1.5mm}89 $$

となります。

$ \ln{5^{\pi}} $を求める

$$ \ln{2} = -3\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) + \ln\left(1 + \frac{3}{125}\right) $$

なので、

$$ 3 \cdot 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}3 + 0.\hspace{1.5mm}023\hspace{1.5mm}716\hspace{1.5mm}41 = 0.\hspace{1.5mm}693\hspace{1.5mm}146\hspace{1.5mm}31 $$
$$ 3 \cdot 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}58 + 0.\hspace{1.5mm}023\hspace{1.5mm}716\hspace{1.5mm}89 = 0.\hspace{1.5mm}693\hspace{1.5mm}147\hspace{1.5mm}63 $$

となり、$ \ln{2} $を1微3繊2沙の精度で近似できました。上限も下限も使うので両方必要です。

$$ -\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) = -\ln\frac{4}{5} = \ln\frac{5}{4} = \ln{5} - 2 \ln{2} $ なので、 $$ -\ln\left(1 - \frac{1}{5}\right) + 2 \ln{2} = \ln{5} $$ です。そのため、 $$ 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}3 + 2 \cdot 0.\hspace{1.5mm}693\hspace{1.5mm}146\hspace{1.5mm}31 = 1.\hspace{1.5mm}609\hspace{1.5mm}435\hspace{1.5mm}92 $$ $$ 0.\hspace{1.5mm}223\hspace{1.5mm}143\hspace{1.5mm}58 + 2 \cdot 0.\hspace{1.5mm}693\hspace{1.5mm}147\hspace{1.5mm}63 = 1.\hspace{1.5mm}609\hspace{1.5mm}438\hspace{1.5mm}84 $$ として下限と上限が求められます。 ここからが最大の難所です。この上限に、小数以下6桁までの円周率を掛け算します。9桁と7桁の掛け算ですが、必要なのは上から6桁だけです。 $$ 1.\hspace{1.5mm}609\hspace{1.5mm}438\hspace{1.5mm}84 \times 3.\hspace{1.5mm}141\hspace{1.5mm}592 = 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}20 \cdots $$ よって、 $$ \ln{5^{\pi}} < 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}21 $$ と評価できます。 (なお、同じ方法で下限を評価すると$ 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}191 $となります) $ \ln{157} $の真値は$ 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}245\hspace{1.5mm}805\hspace{1.5mm} \cdots $なので、あと4忽の余裕があります。 < h3>もうひとつの計算 $ \ln{157} = \ln\left(160 - 3\right) $とみなし、$ f(x) = \ln\left(160 - x\right) $を微分して近似級数を求めます。 $ n $を$ 1 $以上の整数とします。 $ m > 1 $のとき、$ \ln\left(160 - x\right) $の$ m $階導関数は $$ -\frac{(m-1)!}{{(160 - x)}^m} $$ なので、$ f(x) $のマクローリン展開の誤差項は $$ -\frac{(n-1)!}{{(160 - c)}^n} \cdot \frac{x^n}{n!} = -\frac{x^n}{n \cdot {(160 - c)}^n} (0 < c < x) $$ となります。これは$ 0 < x < 80 $で収束するので、$ x = 3 $のときには $$ \ln{157} = \ln{160} - \frac{3^1}{1 \cdot {160}^1} - \frac{3^2}{2 \cdot {160}^2} - \frac{3^3}{3 \cdot {160}^3} - \cdots $$ と級数で表せます。 $ n + 1 $次以降の項の合計の絶対値は、「誤差項の評価」で行ったのと同じ方法で $$ \frac{1}{n + 1} \cdot \frac{160}{157} \cdot \left(\frac{3}{160}\right)^{n+1} $$ で上から抑えられます。 $$ \ln{160} = 5\ln{2} + \ln{5} > 5 \cdot 0.\hspace{1.5mm}693\hspace{1.5mm}146\hspace{1.5mm}31 + 1.\hspace{1.5mm}609\hspace{1.5mm}435\hspace{1.5mm}92 = 5.\hspace{1.5mm}075\hspace{1.5mm}167\hspace{1.5mm}47 $$ なので、 \begin{align} &&\ln{160} &> +5.\hspace{1.5mm}075\hspace{1.5mm}167\hspace{1.5mm}47 \\ - \frac{3^1}{1 \cdot {160}^1} &&= -3 \div 160 &= -0.\hspace{1.5mm}018\hspace{1.5mm}750\hspace{1.5mm}00 \\ - \frac{3^2}{2 \cdot {160}^2} &&= -4.5 \div 25600 &= -0.\hspace{1.5mm}000\hspace{1.5mm}175\hspace{1.5mm}78\cdots \\ \end{align} となり、これら3つの数を足すと$5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}241\hspace{1.5mm}69$が得られます。 切り捨ての誤差は1沙で、$ 3 $次以降の項の合計の絶対値は \begin{align} & \frac{1}{4} \cdot \frac{160}{157} \cdot \left(\frac{3}{160}\right)^3 \\ <& \frac{1}{4} \cdot \frac{160}{157} \cdot {0.02}^3 \\ <& 0.26 \cdot 8微 \\ =& 2微8沙 \\ \end{align} なので、合計で2微9沙の誤差に抑えられます。 すなわち、 $$ \ln{157} > 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}239 $$ が成り立ちます。 < h3>結論 以上より、 $$ \ln{5^{\pi}} < 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}21 < 5.\hspace{1.5mm}056\hspace{1.5mm}239 < \ln{157} $$ なので、$ 5^{\pi} < 157 $が示されました。 [前回の結果](https://mathlog.info/articles/3140)と合わせて、$ 5^{\pi} $が整数でないことが証明できました!!!

参考文献

投稿日:2022417
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nayuta_ito
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