本記事では,Mellin変換とその周辺について解説しようと思います.
・Mellin変換とは
・Laplace変換とは
・両側Laplace変換とは
・Mellin変換とLaplace変換の関係
・一般論:積分変換
・おわりに
早速定義を見ていきましょう!
ある区間$I \subset \mathbb{R}$で積分可能な関数$f:I \rightarrow\mathbb{R}, t \mapsto f(t)$について、以下の式による関数変換をMellin変換(メリン変換)という;
$$\mathcal{M}[f(t)](s):=\int_0^{\infty} t^{s-1}f(t)dt$$
Mellin変換は,ある関数$f$に対し,$s$に関する関数$\mathcal{M}f$を返す関数(同義で作用素ともいう)となっています.
Mellin変換は次のように説明されることがあります.
Mellin変換は両側Laplace変換の乗法版とみなせる.
さて,両側Laplace変換という新しい言葉が出てきました.
では,一体Laplace変換,両側Laplace変換とは何でしょうか?
$t>0$で定義された関数$f:\mathbb{R}_{>0} \rightarrow\mathbb{R}, t \mapsto f(t)$について,以下の式による関数変換をLaplace変換(ラプラス変換)という.
$$F(s)=\mathcal{L}[f(t)](s):=\int_0^{\infty} e^{-st}f(t)dt$$
ここで変換される関数を原関数,変換された関数$F(s)$を像関数という.
Laplace変換の利点を簡単に説明します.
Laplace変換を使うと「微分方程式」を積分を使わずに解くことができます。とはいえLaplace変換を行う過程ででガッツリ広義積分を使いますが...
まずは必要な原関数を,Laplace変換を用いてその像関数を求めます.
次を示せ;
原関数$f(t)$ | 像関数$F(s)$ |
---|---|
$f(t)$ | $F(s)$ |
$f’(t)$ | $sF(s)-f(0)$ |
$e^{\alpha t}h(t)$ | $\displaystyle{\frac{1}{s-\alpha}}\,\, (s>\alpha)$ |
ただし,$h(t)$はHeaviside関数
$\begin{eqnarray}
h(t):=\left\{
\begin{array}{l}
1 \quad (x>0),\\
\frac{1}{2} \quad (x=0),\\
0 \quad (x<0).\\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$
(1)定義そのものであるから明らか.
(2)部分積分より,\begin{align*}
\mathcal{L}[f'(t)](s)&=\int_0^{\infty} e^{-st}f'(t)dt\\&
=[e^{-st}f(t)]_0^{\infty}-\int_0^{\infty} (-s)e^{-st}f(t)dt\\&
=-f(0)+s\int_0^{\infty} e^{-st}f(t)dt\\&
=sF(s)-f(0).
\end{align*}
(3)\begin{align*}
\mathcal{L}[e^{\alpha t}h(t)](s)&=\int_0^{\infty} e^{-st}e^{\alpha t}h(t)dt\\&
=\int_0^{\infty} e^{(\alpha -s)t}dt\\&
=\left[\frac{1}{\alpha -s}e^{(\alpha -s)t}\right]_0^{\infty}\\&
=\frac{1}{s-\alpha}.
\end{align*}
これらを使って簡単な微分方程式を解いてみましょう!
微分方程式$f’(x)=f(x)$を初期条件$f(0)=2$の下で解け.
Laplace変換より,
\begin{align*}
f’(x)=f(x) &\Leftrightarrow sF(s)-f(0)=F(s)\\&
\Leftrightarrow (s-1)F(s)=2\\&
\Leftrightarrow F(s)=\frac{2}{s-1}\\&
\Leftrightarrow f(x)=2e^x.
\end{align*}
積分を全く使わずに,代数方程式を解く要領で微分方程式が解けました.これがLaplace変換の威力です.
また,次の性質も満たします.
関数$f:\mathbb{R} \rightarrow\mathbb{R}, t \mapsto f(t)$について,以下の式による関数変換を両側Laplace変換という.
$$ \mathcal{B}[f(t)](s):=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-st}f(t)dt$$
Laplace変換の積分区間を負の無限大まで拡大したものですね.そして次の公式が得られます.
$$ \mathcal{B}[f(t)](s)=\mathcal{L}[f(t)](s)+\mathcal{L}[f(-t)](-s)$$
$$\mathcal{B}[f(t)](s)$$
$$=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-st}f(t)dt$$
$$=\int_0^{\infty} e^{-st}f(t)dt + \int_{-\infty}^0 e^{-st}f(t)dt$$
$$=\mathcal{L}[f(t)](s) + \int_{\infty}^0 e^{-s(-t)}f(t)(-dt) \,\,\,(t \mapsto-t)$$
$$=\mathcal{L}[f(t)](s) + \int_0^{\infty} e^{-(-s)t}f(t)dt$$
$$=\mathcal{L}[f(t)](s) + \mathcal{L}[f(-t)](-s).$$
さて,Mellin変換とLaplace変換の関係についてみていきましょう.
Mellin変換と両側Laplace変換の関係性を示せればOKです.
$$ \mathcal{M}[f(t)](s)=\mathcal{B}[f(e^{-t})](s)=\mathcal{L}[f(e^{-t})](s)+\mathcal{L}[f(-e^{-t})](-s)$$
$$\mathcal{B}[f(e^{-t})](s)$$
$$=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-st}f(e^{-t})dt$$
$$=\int_{\infty}^0 t^sf(t)\left(-\frac{1}{t}\right)dt\,\,\,(e^{-t}\mapsto t)$$
$$=\int_0^{\infty} t^{s-1}f(t)dt$$
$$=\mathcal{M}[f(t)](s).$$
これがMellin変換が両側Laplace変換の乗法版と言われる所以でしょう.
3つの変換の関係性を示せたので一件落着です.
実際にMellin変換をやってみましょう.
以下の問題には大きな間違いがあります.飛ばしてください.
$f(t)=t$をMellin変換せよ.
\begin{align*} \mathcal{M}[t](s)&=\mathcal{L}[e^{-t}](s)+\mathcal{L}[-e^{-t}](-s)=\infty \\& \ne \frac{1}{s+1}-\frac{1}{(-s)+1}\\& =-\frac{2s}{1-s^2}. \end{align*}
最後にこれらの一般論を述べておきましょう.
'関数'全体の集合を$\mathfrak{F}$とする.(ここでいう関数については深く考えない)
以下の作用素$T:\mathfrak{F} \rightarrow \mathfrak{F}, f \mapsto Tf$を積分変換という;
$a,b \in [-\infty,\infty]と$2変数関数$K(s,t)$に対し,
$$ T[f(t)](s):=\int_a^b K(s,t)f(t)dt$$
ここで,二変数関数$K(s,t)$を,積分変換の核関数または核という.
すなわち,入力関数は$f$であり,出力関数は$Tf$であるような作用素のことである.
$K(s,t)=K(t,s)$を満たす核を対称核という.
上の3つの変換はすべて積分変換である.
変換 | Laplace変換$\mathcal{L}$ | 両側Laplace変換$\mathcal{B}$ | Meilln変換$\mathcal{M}$ | Fourier変換$\mathcal{F}$ |
---|---|---|---|---|
核$K(s,t)$ | $e^{-st}$ | $e^{-st}$ | $t^{s-1}$ | $\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-ist}$ |
$\mathcal{L},\mathcal{B},\mathcal{F}$は対称核である.
上でやったことは核の変換だったんですね!
最後にいくつかの事実を述べて終わろうと思います.
(1)すべての積分変換は線形作用素である.すなわち,積分変換$T$について,任意の$f,g \in \mathfrak{F},\alpha, \beta \in \mathbb{R}$に対し
$$ T(\alpha f+\beta g)=\alpha Tf+\beta Tg$$
(2)すべての線形作用素は積分変換になる.(Schwarzの核定理)
より詳しく知りたい方はFredholm理論で調べてみてください.
そういえば、埼玉大学のマスコットキャラクターは「メリンちゃん」だそうですね.
ここまで読んでくださりありがとうございました