7

Mellin変換とは【解説】

958
0
$$$$

本記事では,Mellin変換とその周辺について解説しようと思います.

目次

・Mellin変換とは
・Laplace変換とは
・両側Laplace変換とは
・Mellin変換とLaplace変換の関係
・一般論:積分変換
・おわりに

Mellin変換とは

早速定義を見ていきましょう!

Mellin変換

ある区間$I \subset \mathbb{R}$で積分可能な関数$f:I \rightarrow\mathbb{R}, t \mapsto f(t)$について、以下の式による関数変換をMellin変換(メリン変換)という;
$$\mathcal{M}[f(t)](s):=\int_0^{\infty} t^{s-1}f(t)dt$$

Mellin変換は,ある関数$f$に対し,$s$に関する関数$\mathcal{M}f$を返す関数(同義で作用素ともいう)となっています.
Mellin変換は次のように説明されることがあります.

Mellin変換は両側Laplace変換の乗法版とみなせる.

さて,両側Laplace変換という新しい言葉が出てきました.
では,一体Laplace変換,両側Laplace変換とは何でしょうか?

Laplace変換とは

Laplace変換

$t>0$で定義された関数$f:\mathbb{R}_{>0} \rightarrow\mathbb{R}, t \mapsto f(t)$について,以下の式による関数変換をLaplace変換(ラプラス変換)という.
$$F(s)=\mathcal{L}[f(t)](s):=\int_0^{\infty} e^{-st}f(t)dt$$
ここで変換される関数を原関数,変換された関数$F(s)$像関数という.

Laplace変換の利点を簡単に説明します.
Laplace変換を使うと「微分方程式」を積分を使わずに解くことができます。とはいえLaplace変換を行う過程ででガッツリ広義積分を使いますが...
まずは必要な原関数を,Laplace変換を用いてその像関数を求めます.

次を示せ;

原関数$f(t)$像関数$F(s)$
$f(t)$$F(s)$
$f’(t)$$sF(s)-f(0)$
$e^{\alpha t}h(t)$$\displaystyle{\frac{1}{s-\alpha}}\,\, (s>\alpha)$

ただし,$h(t)$はHeaviside関数
$\begin{eqnarray} h(t):=\left\{ \begin{array}{l} 1 \quad (x>0),\\ \frac{1}{2} \quad (x=0),\\ 0 \quad (x<0).\\ \end{array} \right. \end{eqnarray}$

(1)定義そのものであるから明らか.
(2)部分積分より,\begin{align*} \mathcal{L}[f'(t)](s)&=\int_0^{\infty} e^{-st}f'(t)dt\\& =[e^{-st}f(t)]_0^{\infty}-\int_0^{\infty} (-s)e^{-st}f(t)dt\\& =-f(0)+s\int_0^{\infty} e^{-st}f(t)dt\\& =sF(s)-f(0). \end{align*}
(3)\begin{align*} \mathcal{L}[e^{\alpha t}h(t)](s)&=\int_0^{\infty} e^{-st}e^{\alpha t}h(t)dt\\& =\int_0^{\infty} e^{(\alpha -s)t}dt\\& =\left[\frac{1}{\alpha -s}e^{(\alpha -s)t}\right]_0^{\infty}\\& =\frac{1}{s-\alpha}. \end{align*}

これらを使って簡単な微分方程式を解いてみましょう!

微分方程式$f’(x)=f(x)$を初期条件$f(0)=2$の下で解け.

Laplace変換より,
\begin{align*} f’(x)=f(x) &\Leftrightarrow sF(s)-f(0)=F(s)\\& \Leftrightarrow (s-1)F(s)=2\\& \Leftrightarrow F(s)=\frac{2}{s-1}\\& \Leftrightarrow f(x)=2e^x. \end{align*}

積分を全く使わずに,代数方程式を解く要領で微分方程式が解けました.これがLaplace変換の威力です.

また,次の性質も満たします.

両側Laplace変換とは

両側Laplace変換

関数$f:\mathbb{R} \rightarrow\mathbb{R}, t \mapsto f(t)$について,以下の式による関数変換を両側Laplace変換という.
$$ \mathcal{B}[f(t)](s):=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-st}f(t)dt$$

Laplace変換の積分区間を負の無限大まで拡大したものですね.そして次の公式が得られます.

$$ \mathcal{B}[f(t)](s)=\mathcal{L}[f(t)](s)+\mathcal{L}[f(-t)](-s)$$

$$\mathcal{B}[f(t)](s)$$
$$=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-st}f(t)dt$$
$$=\int_0^{\infty} e^{-st}f(t)dt + \int_{-\infty}^0 e^{-st}f(t)dt$$
$$=\mathcal{L}[f(t)](s) + \int_{\infty}^0 e^{-s(-t)}f(t)(-dt) \,\,\,(t \mapsto-t)$$
$$=\mathcal{L}[f(t)](s) + \int_0^{\infty} e^{-(-s)t}f(t)dt$$
$$=\mathcal{L}[f(t)](s) + \mathcal{L}[f(-t)](-s).$$

Mellin変換とLaplace変換の関係

さて,Mellin変換とLaplace変換の関係についてみていきましょう.
Mellin変換と両側Laplace変換の関係性を示せればOKです.

$$ \mathcal{M}[f(t)](s)=\mathcal{B}[f(e^{-t})](s)=\mathcal{L}[f(e^{-t})](s)+\mathcal{L}[f(-e^{-t})](-s)$$

$$\mathcal{B}[f(e^{-t})](s)$$
$$=\int_{-\infty}^{\infty} e^{-st}f(e^{-t})dt$$
$$=\int_{\infty}^0 t^sf(t)\left(-\frac{1}{t}\right)dt\,\,\,(e^{-t}\mapsto t)$$
$$=\int_0^{\infty} t^{s-1}f(t)dt$$
$$=\mathcal{M}[f(t)](s).$$

これがMellin変換が両側Laplace変換の乗法版と言われる所以でしょう.
3つの変換の関係性を示せたので一件落着です.
実際にMellin変換をやってみましょう.

以下の問題には大きな間違いがあります.飛ばしてください.

$f(t)=t$をMellin変換せよ.

\begin{align*} \mathcal{M}[t](s)&=\mathcal{L}[e^{-t}](s)+\mathcal{L}[-e^{-t}](-s)=\infty \\& \ne \frac{1}{s+1}-\frac{1}{(-s)+1}\\& =-\frac{2s}{1-s^2}. \end{align*}

最後にこれらの一般論を述べておきましょう.

一般論:積分変換

'関数'全体の集合を$\mathfrak{F}$とする.(ここでいう関数については深く考えない)
以下の作用素$T:\mathfrak{F} \rightarrow \mathfrak{F}, f \mapsto Tf$積分変換という;
$a,b \in [-\infty,\infty]と$2変数関数$K(s,t)$に対し,
$$ T[f(t)](s):=\int_a^b K(s,t)f(t)dt$$
ここで,二変数関数$K(s,t)$を,積分変換の核関数またはという.
すなわち,入力関数は$f$であり,出力関数は$Tf$であるような作用素のことである.
$K(s,t)=K(t,s)$を満たす核を対称核という.

積分変換の例

上の3つの変換はすべて積分変換である.

変換Laplace変換$\mathcal{L}$両側Laplace変換$\mathcal{B}$Meilln変換$\mathcal{M}$Fourier変換$\mathcal{F}$
$K(s,t)$$e^{-st}$$e^{-st}$$t^{s-1}$$\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-ist}$

$\mathcal{L},\mathcal{B},\mathcal{F}$は対称核である.

上でやったことは核の変換だったんですね!
最後にいくつかの事実を述べて終わろうと思います.

(1)すべての積分変換は線形作用素である.すなわち,積分変換$T$について,任意の$f,g \in \mathfrak{F},\alpha, \beta \in \mathbb{R}$に対し
$$ T(\alpha f+\beta g)=\alpha Tf+\beta Tg$$
(2)すべての線形作用素は積分変換になる.(Schwarzの核定理)

より詳しく知りたい方はFredholm理論で調べてみてください.

おわりに

そういえば、埼玉大学のマスコットキャラクターは「メリンちゃん」だそうですね.
ここまで読んでくださりありがとうございました

投稿日:202253
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

微小
微小
12
6613

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中