グラハム数を$G$とする。
$\sin(G^\circ)$を求めよ。
今回はこの問題を考えていきます。
グラハム数は、1980年に数学の証明で使われたことのある最大の数としてギネスブックに登録された数です。
観測可能な宇宙のすべての原子をインクに充てたとしても、この数を表すには到底及ばないと言われるくらいです。
すさまじいですね・・・。
このグラハム数の定義の前に、グラハム数の定義に欠かせないクヌースの矢印表記を定義します。
クヌースの矢印表記は上向きの矢印($\uparrow$)で表される二項演算です。上向きの矢印の代わりにサーカムフレックスアクセント($\verb|^|$)を使うこともあります。
以下、$a,b,c$を正の整数とします。
$a\uparrow b=a^b$
と定義します。べき乗ですね。
$2\uparrow4=2^4=16$
$(4\uparrow3)\uparrow2=64\uparrow2=4096$
$4\uparrow(3\uparrow2)=4\uparrow9=262144$
この2式から分かる通り、べき乗・クヌースの矢印表記は足し算や掛け算とは違い、
結合則${(a^b)}^c=a^{(b^c)},\ (a\uparrow b)\uparrow c=a\uparrow(b\uparrow c)$が一般に成り立ちません。
なので、$a^{b^c},\ a\uparrow b\uparrow c$のように連なっているときは、右から順に計算すると約束します。
例:$4\uparrow3\uparrow2=4\uparrow(3\uparrow2)=4\uparrow9=262144$
矢印2個の$a\uparrow\uparrow b$を
$a\uparrow\uparrow 1=a$
$a\uparrow\uparrow b=a\uparrow(a\uparrow\uparrow(b-1))=a^{a\uparrow\uparrow(b-1)}\ (b\geqq2)$
と(帰納的に)定義します。
テトレーションと呼ばれる演算です。指数が斜め上に伸びる姿から指数タワーなんて呼ばれたりもします。
定義から
$a\uparrow\uparrow b=\underbrace{a\uparrow a\uparrow\cdots\uparrow a\uparrow a}_{aがb個}=\underbrace{a^{a^{\iddots^{a^a}}}}_{aがb個}$
であることが分かると思います。
$2\uparrow\uparrow4=2\uparrow2\uparrow2\uparrow2=2\uparrow2\uparrow4=2\uparrow16=65536$
矢印1個の場合と同様に$a\uparrow\uparrow b\uparrow\uparrow c=a\uparrow\uparrow(b\uparrow\uparrow c)$と約束します。
矢印3個の$a\uparrow\uparrow\uparrow b$を
$a\uparrow\uparrow\uparrow 1=a$
$a\uparrow\uparrow\uparrow b=a\uparrow\uparrow(a\uparrow\uparrow\uparrow(b-1))\ (b\geqq2)$
と(帰納的に)定義します。ペンテーションと呼ばれる演算です。
定義から
$a\uparrow\uparrow\uparrow b=\underbrace{a\uparrow\uparrow a\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow a\uparrow\uparrow a}_{aがb個}$
であることが分かると思います。
$\begin{align} &2\uparrow\uparrow\uparrow4\\ =&2\uparrow\uparrow2\uparrow\uparrow2\uparrow\uparrow2\\ =&2\uparrow\uparrow2\uparrow\uparrow2\uparrow2\\ =&2\uparrow\uparrow2\uparrow\uparrow4\\ =&2\uparrow\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2\\ =&2\uparrow\uparrow2\uparrow2\uparrow4\\ =&2\uparrow\uparrow2\uparrow16\\ =&2\uparrow\uparrow65536\\ =&\underbrace{2\uparrow2\uparrow2\uparrow\cdots\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2}_{65536}\\ =&\underbrace{2\uparrow2\uparrow2\uparrow\cdots\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2}_{65534}\uparrow4\\ =&\underbrace{2\uparrow2\uparrow2\uparrow\cdots\uparrow2\uparrow2\uparrow2\uparrow2}_{65533}\uparrow16\\ =&\underbrace{2\uparrow2\uparrow2\uparrow\cdots\uparrow2\uparrow2\uparrow2}_{65532}\uparrow65536\\ =&\underbrace{2\uparrow2\uparrow2\uparrow\cdots\uparrow2\uparrow2}_{65531}\uparrow\underbrace{20035299304068464649\cdots45587895905719156736}_{19729桁あるので中略}\\ =&\underbrace{2\uparrow2\uparrow2\uparrow\cdots\uparrow2}_{65530}\uparrow\underbrace{うわああああああああああああああああああああああああああ}_{約6\times10^{19727}桁の数} \end{align}$
このように$\uparrow\uparrow\uparrow$の計算は、手計算はもちろん、コンピューターで計算するのも困難なものがほとんどです。
まともに計算できるのは$1\uparrow\uparrow\uparrow a=1,\ 2\uparrow\uparrow\uparrow 2=4,\ 2\uparrow\uparrow\uparrow 3=65536,\ 3\uparrow\uparrow\uparrow 2=7625597484987,\ a\uparrow\uparrow\uparrow 1=a$くらいですね。
矢印n個の場合も同様に定義します。
$a\underbrace{\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow}_{\uparrowがn個}b$のように$\uparrow$を書き並べるのは面倒なので、$a\uparrow^nb$と簡略して書きます。
では改めてクヌースの矢印表記の定義を書きます。
$a,b,n$を正の整数とする。
$a\uparrow^nb$を次のように(帰納的に)定義する。
(1) $n=1$のとき、$a\uparrow^1b=a^b$
($a\uparrow^1b$のことを単に$a\uparrow b$と書く)
(2) $n\geqq2$のとき、
$a\uparrow^n1=a$
$a\uparrow^nb=a\uparrow^{n-1}(a\uparrow^n(b-1))\ (b\geqq2)$
矢印1個の場合と同様に、$a\uparrow^nb\uparrow^nc=a\uparrow^n(b\uparrow^nc)$と右から計算すると約束します。
定義から、$n\geqq2$のとき
$a\uparrow^n b=\underbrace{a\uparrow^{n-1}a\uparrow^{n-1}\cdots\uparrow^{n-1}a\uparrow^{n-1}a}_{aがb個}$
であることが分かると思います。
さて、矢印3個でもあれだけ大きな数になる矢印表記ですが、
グラハム数の定義をこのクヌースの矢印表記を使って見てみましょう。
関数$g:\mathbb{N}\rightarrow\mathbb{N}$を$g(m)=3\uparrow^m3$とし、
$g$の$n$回反復を$g^n(m)=\underbrace{g(g(\cdots g(g}_{gがn個}(m))\cdots))$とする。
グラハム数$G$を$G=g^{64}(4)$と定義する。
この数がどれほど大きい数なのか・・・実際に調べてみましょう。
$G=\underbrace{g(g(\cdots g(g}_{gが64個}(4)))$なので、
$G$を求めるために、まずは$g(4)=3\uparrow^43=3\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow3$を求めないといけないですね。
$\begin{align}
&3\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow3\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow\uparrow3\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow3\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow3\uparrow3\uparrow3\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow3\uparrow27\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow7625597484987\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3}_{7625597484987}\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3}_{7625597484985}\uparrow27\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3\uparrow3\uparrow3\uparrow3}_{7625597484984}\uparrow7625597484987\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3\uparrow3\uparrow3}_{7625597484983}\uparrow\underbrace{12580142906274913178\cdots06738945776100739387}_{3638334640025桁}\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3\uparrow3}_{7625597484982}\uparrow\underbrace{うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛}_{約6\times10^{3638334640023}桁}\\
=&3\uparrow\uparrow\uparrow\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3}_{7625597484981}\uparrow\Huge{🤔}
\end{align}$
・・・というわけで無理です。
必死に頑張って$\underbrace{3\uparrow3\uparrow\cdots\uparrow3\uparrow3}_{7625597484987}$を計算して「超デカい数」を出したとしても、
その次に$3\uparrow\uparrow\uparrow「超デカい数」=\underbrace{3\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow3\uparrow\uparrow3}_{「超デカい数」}$が待ってます・・・無慈悲ですね。
しかもそれを計算してようやく$g(4)$です。$64$回の反復のうち$1$回目を計算したに過ぎないんです。
次が$g^2(4)=g(g(4))=3\underbrace{\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow}_{\uparrowが3\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow3個}3$です。もう$\uparrow$の数だけでぶっ飛んでます。
グラハム数を馬鹿正直に書くとこんなことになるのですが、
$G=\left.
\begin{gathered}
3\underbrace{\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow}3 \\
3\underbrace{\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow}3 \\
\vdots \\
3\underbrace{\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow}3 \\
3\underbrace{\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow}3 \\
3\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow3 \\
\end{gathered}
\right\}64$
計算の最後の過程で$G=3\uparrow\uparrow「物凄いでっかい数」$になるので、
$G=\underbrace{3^{3^{3^{3^{\iddots^{3^3}}}}}}_{3が物凄いいっぱい}\qquad$
という形になることがわかるでしょう。
$\sin(x)$は$0^\circ\sim360^\circ$を$1$周期とする周期関数です。
グラハム数$G$は自然数なので、
どんなに$G$が大きくても$a+b\times360\ (a\in\{0,1,\cdots,359\},\ b\in\mathbb{N})$の形で表され、
したがって、$\sin(G^\circ)$は$\sin(a^\circ)$、つまり、$\sin(0^\circ),\ \sin(1^\circ),\ \cdots,\ \sin(359^\circ)$のいずれかと等しくなります。
$a$はいくらかというと、$G$を$360$で割った余りなので、$G\mod360$を考えればいいことが分かりますね。
$G\mod360$はいくつになるでしょうか。
前述のとおり、グラハム数$G$は$\underbrace{3^{3^{3^{3^{\iddots^{3^3}}}}}}_{3が物凄いいっぱい}\qquad$、つまり「$3$のべき乗」の形をしています。
というわけで、$3^k$を$360$で割った余りがどうなっているのか確認しましょう。
$k$ | $3^k$ | $3^k\mod360$ |
---|---|---|
$1$ | $3$ | $3$ |
$2$ | $9$ | $9$ |
$3$ | $27$ | $27$ |
$4$ | $81$ | $81$ |
$5$ | $243$ | $243$ |
$6$ | $729$ | $9$ |
$7$ | $2187$ | $27$ |
$8$ | $6561$ | $81$ |
$9$ | $19683$ | $243$ |
これを見ると分かる通り、$k=1$の例外を除いて$3^k\mod360$は$9,27,81,243$が繰り返し出現しています。
$k\geqq2$のとき$3^{k-2}$は自然数で、
$\begin{align}
&3^{k+4}-3^k\\
=&80\times3^k\\
=&360\times2\times3^{k-2}\\
\equiv&0\mod360\\
\end{align}$
であることから$3^{k+4}\equiv3^k\mod360$が示せますので、周期$4$で繰り返すことが証明できます。
$3^k\equiv \begin{cases} 3\ (k=1)\\ 9\ (k\geqq2,\ k\equiv2\mod4)\\ 27\ (k\geqq2,\ k\equiv3\mod4)\\ 81\ (k\geqq2,\ k\equiv0\mod4)\\ 243\ (k\geqq2,\ k\equiv1\mod4) \end{cases} \mod360$
グラハム数について、$G=3^k$の$k$はめちゃくちゃデカい数なので、
$G\equiv3\mod360$はあり得なくて$G\equiv9,27,81,243\mod360$のいずれかになり、$k\mod4$を考えることにより答えが分かりますね。
グラハム数$G$よりは遥かに小さいものの、$k$もまた$\underbrace{3^{3^{3^{3^{\iddots^{3^3}}}}}}_{3が物凄いいっぱい}\qquad$、つまり「$3$のべき乗」の形をしています。
というわけで、$3^l$を$4$で割った余りがどうなっているのか確認しましょう。
$l$ | $3^l$ | $3^l\mod4$ |
---|---|---|
$1$ | $3$ | $3$ |
$2$ | $9$ | $1$ |
$3$ | $27$ | $3$ |
$4$ | $81$ | $1$ |
これを見ると分かる通り、$3^l\mod4$は$3,1$が周期$2$で繰り返し出現しています。
厳密な証明は$3^k\mod360$と同じ方法なので省略します。
$3^l\equiv \begin{cases} 3\ (l\equiv1\mod2)\\ 1\ (l\equiv0\mod2) \end{cases} \mod4$
グラハム数$G=3^k=3^{3^l}$について、$l\equiv3,1\mod2$のいずれかになります。
$3,1$のどちらが正解か知るには、$l$を$2$で割った余り、つまり$l\mod2$を考えればいいことが分かりますね。
要するに「$l$は奇数か偶数か」ですね。
$k$よりも遥かに小さいものの、$l$もまた$\underbrace{3^{3^{3^{3^{\iddots^{3^3}}}}}}_{3が物凄いいっぱい}\qquad$、つまり「$3$のべき乗」の形をしています。
ということは$l$は奇数です。
つまり、
$l\equiv1\mod2$であり、
$k=3^l\equiv3\mod4$であり、
$G=3^k\equiv27\mod360$であることがわかりました。
従って、$\sin(G^\circ)=\sin(27^\circ)$です。
ここから先はおまけです。
$\sin(27^\circ)$を三角関数を使わずに求めます。
$\displaystyle\sin(27^\circ)=\sin\Big(\frac{54^\circ}{2}\Big)=\sqrt{\frac{1-\cos(54^\circ)}{2}}=\sqrt{\frac{1-\sin(36^\circ)}{2}}$
と変形することで、まあまあ有名な$\sin(36^\circ)$に行き着きます。
$\displaystyle\sin(36^\circ)=\frac{\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}$
なので、答えは
$\displaystyle\sin(27^\circ)=\sqrt{\frac{1-\frac{\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}}{2}}=\frac{\sqrt{8-2\sqrt{10-2\sqrt{5}}}}{4}$
となります。
答え:$\displaystyle\sin(G^\circ)=\frac{\sqrt{8-2\sqrt{10-2\sqrt{5}}}}{4}$
(ちなみにこれは約$0.454$だそうです。)
グラハム数はものすごい巨大数ですが、$360$で割った余りは想像より楽に求められたなと思っています。
グラハム数よりは遥かに小さいものの、やはり書ききれないほど大きい「小グラハム数」という数もありますので、
是非、小グラハム数を$360$で割った余りを求めてみてください。
関数$f:\mathbb{N}\rightarrow\mathbb{N}$を$f(m)=2\uparrow^m3$とし、
$f$の$n$回反復を$f^n(m)=\underbrace{f(f(\cdots f(f}_{fがn個}(m))\cdots))$とする。
小グラハム数$F$を$F=f^{7}(12)$と定義する。
$F\equiv16\mod360$
$2$のべき乗の剰余はこんな感じです↓
$2^k\equiv
\begin{cases}
2\ (k=1)\\
4\ (k=2)\\
8\ (k\geqq3,\ k\equiv3\mod12)\\
\color{red}{16\ (k\geqq3,\ k\equiv4\mod12)}\\
32\ (k\geqq3,\ k\equiv5\mod12)\\
64\ (k\geqq3,\ k\equiv6\mod12)\\
128\ (k\geqq3,\ k\equiv7\mod12)\\
256\ (k\geqq3,\ k\equiv8\mod12)\\
152\ (k\geqq3,\ k\equiv9\mod12)\\
304\ (k\geqq3,\ k\equiv10\mod12)\\
248\ (k\geqq3,\ k\equiv11\mod12)\\
136\ (k\geqq3,\ k\equiv0\mod12)\\
272\ (k\geqq3,\ k\equiv1\mod12)\\
184\ (k\geqq3,\ k\equiv2\mod12)\\
\end{cases}
\mod360$
$k=2^l\equiv
\begin{cases}
2\ (l=1)\\
\color{red}{4\ (l\geqq2,\ l\equiv0\mod2)}\\
8\ (l\geqq2,\ l\equiv1\mod2)
\end{cases}
\mod12$
$\color{red}{l=2^m\equiv0\mod2}$
以上、読んでいただきありがとうございました。