不等式botさんの問題130を線形代数の知識で解きます.
$a_i$を実数,$x_i\gt0$とするとき
$\displaystyle\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n\frac{a_ia_j}{x_i+x_j}\geq0$
を示せ.
$\displaystyle\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n\frac{a_ia_j}{x_i+x_j}\geq\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n\frac{a_ia_j}{2\sqrt{x_ix_j}}=\frac{1}{2}\left(\sum_{i=1}^n\frac{a_i}{\sqrt{x_i}}\right)^2\geq0$
となってくれたらうれしいのですがそもそも不等号が逆ですし$a_ia_j$も常に非負とは限りません.
次に変数を消して帰納法に持ち込めないかと考えました.
試しに$a_n$を消そうとして$a_n$で偏微分してみると,あることに気が付きました.
この式は$a_1,a_2,\ldots,a_n$の二次形式になっています.
そうすると,係数行列が半正定値であることを示せばよいです.
$(i,j)$成分が$\displaystyle\frac{1}{x_i+y_j}$である$n$次正方行列の行列式を$\Delta_n(x_1,x_2,\ldots,x_n;y_1,y_2,\ldots,y_n)$とします.
分母を払うと
$\displaystyle\Delta_n=\frac{P}{\prod_{1\leq i,j\leq n}(x_i+y_j)}$
となります.ここで,$\Delta_n$が$-n$次の斉次式であることから$P$は$n^2-n$次の斉次多項式です.
$x_i=x_j$とすると$i$行目と$j$行目が同じになるので$\Delta_n=0$となり,$\Delta_n$が$x_i-x_j$を因数に持つことがわかります.
同様に,$y_i-y_j$も因数に持ちます.
$P$が$n^2-n$次であることからある定数$C_n$が存在して $P=C_n\prod_{1\leq i\lt j\leq n}(x_i-x_j)(y_i-y_j)$ となることがわかります.
$\displaystyle F_n(x_1,\ldots,x_n;y_1,\ldots,y_n)=\frac{\prod_{1\leq i\lt j\leq n}(x_i-x_j)(y_i-y_j)}{\prod_{1\leq i,j\leq n}(x_i+y_j)}$
としておきます.
$x_n=y_n=t$ とおいて $t\to\infty$ の極限を考えます.
すると,$\Delta_n$を展開したとき$(n,n)$成分を含む項は$\displaystyle O\left(\frac{1}{t}\right)$で,それ以外は$\displaystyle O\left(\frac{1}{t^2}\right)$となるので,
$\displaystyle\lim_{t\to\infty}2t\Delta_n(x_1,\ldots,x_{n-1},t;y_1,\ldots,y_{n-1},t)=\Delta_{n-1}(x_1,\ldots,x_{n-1};y_1,\ldots,y_{n-1})$
となります.
また,$\displaystyle\lim_{t\to\infty}2tF_n(x_1,\ldots,x_{n-1},t;y_1,\ldots,y_{n-1},t)=F_{n-1}(x_1,\ldots,x_{n-1};y_1,\ldots,y_{n-1})$
であるので, $C_n=C_{n-1}$ がわかり,$C_1=1$ から $C_n=1$ となります.
上の結果から $\displaystyle\Delta_n(x_1,\ldots,x_n;x_1,\ldots,x_n)=\frac{\prod_{1\leq i\lt j\leq n}(x_i-x_j)^2}{\prod_{1\leq i,j\leq n}(x_i+x_j)}$ となるので $x_i\gt0$ のとき $\Delta_n\geq0$ となることがわかりました.
また,主小行列式はどれも$\Delta_k\ (k=1,\ldots,n-1)$ の形をしているのでこれも非負であり,$(i,j)$成分が$\displaystyle\frac{1}{x_i+x_j}$ である行列が半正定値であることがわかりました.
よって,この行列から作られる二次形式は常に非負であり, $\displaystyle\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n\frac{a_ia_j}{x_i+x_j}\geq0$
が証明できました.