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高校数学解説
文献あり

近年の東大入試の二項係数を少し変わった考え方で解いてみる

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目次

  1. 近年の東大入試における二項係数ブーム
  2. 二項係数の整数問題におけるポイント
  3. 一般化してみよう
  4. おわりに/まとめ

1.近年の東大入試における二項係数ブーム

近年の東大入試では二項係数を題材とした整数問題がよく出題されています。具体例を見ていきましょう。

2021東大理系第4問

$_{2021}C_{37}$$4$で割った余りを求めよ.

2015東大理系第5問

$_{2015}C_{m}$が偶数となるような最小の$m$を求めよ.

このように,二項係数のシンプルな難問が多数出題されています.これ以前にも数回出題されていましたね.実は,これらの問題はとある考え方を用いることで簡単に解くことができます.それを,次の具体例を通してみていきましょう!

2.二項係数の整数問題におけるポイント

ここでは,上記の問題の類題を解きすすめながらポイントを押さえていきましょう.

自作問題

$_{2022}C_{n}$$5$で割り切れるような$2022$以下の正整数$n$の個数を求めよ.

こちらです.正直,この手の問題は初手がかなり悩ましいと思います.このような問題は以下のように考えるとうまくいきやすいということを覚えておきましょう.

方針:$_{2022}C_{n}$$(x+1)^{2022}$$x^{n}$の係数と見て,$p$で割った余りを考える.

(1)前半部分です.これは,二項定理を想像していただくとイメージしやすいと思います.
(2)次に後半部分です.$p$は今回でいうと$5$ですね.$5$で割り切れるかどうかを考えているので整式を$5$で割った余りを考えるのも自然な発想と言えます.実は,$(x+1)^{k}$という式は合同式と相性が良いです.

では,解いていきましょう.$(x+1)^{2022}$$5$で割った余りを考えます.以下では$x$は整数とし,合同式は全て$5$を法とします.

$$ \begin{align*} (x+1)^5 & \equiv x^5+5x^4+10x^3+10x^2+5x+1 \\ & \equiv x^5+1 \cdots① \end{align*} $$

①より,

$$ \begin{align*} (x+1)^{5^k} & \equiv x^{5^k}+1 \cdots② \end{align*} $$

$2022_{(10)}=31042_{(5)}$であるから,②より,$(x+1)^{2022}$$5$で割った余りは以下のように表現できますね.

$$ \begin{align*} (x+1)^{2022} & \equiv \left(x^{5^4}+1\right)^{3}\left(x^{5^3}+1\right)\left(x^{5^1}+1\right)^{4}\left(x^{5^0}+1\right)^{2} \\ & \equiv \left(x^{625}+1\right)^{3}\left(x^{125}+1\right)\left(x^{5}+1\right)^{4}\left(x+1\right)^{2} \cdots③ \end{align*} $$

このように表現できることで考察がしやすくなります.元々は,
$$ (x+1)^{2022}=(x+1)(x+1)(x+1) \cdots (x+1) $$
$2022$個の掛け算だったのに対して,③では$10$個の掛け算に減らすことができました.

ここで気づきたいのが,③の式を展開した時に係数が$5$の倍数となるような項は存在しないということです.$x^{625}=x_4,x^{125}=x_3,x^{25}=x_2,x^{5}=x_1,x^1=x_0$とすると,③は以下のように表せますね.

$$ \begin{align*} \left(x^{625}+1\right)^{3}\left(x^{125}+1\right)\left(x^{5}+1\right)^{4}\left(x+1\right)^{2} & \equiv (x_{4}+1)^3(x_{3}+1)(x_{1}+1)^4(x_{0}+1)^2 \\ & \equiv ({x_{4}}^3+3{x_{4}}^2+3{x_{4}}+1)(x_{3}+1)({x_{1}}^4+4{x_{1}}^3+6{x_{1}}^2+4{x_{1}}+1)({x_{0}}^2+2{x_{0}}+1) \cdots④ \end{align*} $$
④はどの項にも$5$の倍数を含んでいないので展開しても$5$の倍数を含む項は存在しないですね.したがって,④の形で表現される項は$5$の倍数を含まないものです.逆にそれ以外は$5$で割り切れるような数になってしまいますね.$5$の倍数とならないような$n$$4\times 2\times 1\times 5\times 3=120$となって$120$個存在します.

したがって、求める$n$$2022-120=1902$となって$1902$個です.

いかがでしたか?意外と簡単に解くことができましたね.では最後にこの事実を少しだけ拡張しましょう.

3.一般化してみよう

実は,一般に以下の定理が成り立ちます.この事実が二項係数の問題では刺さります.

素数$p$を法として$(x+1)^p \equiv x^p+1$が成り立つ.

定理1

二項定理より
$$ \begin{align*} (x+1)^p & =_{p}C_{0}\cdot x^{p}+_{p}C_{1}\cdot x^{p-1}+\cdots+_{p}C_{p-1}\cdot x^{1}+_{p}C_{p}\cdot x^{0} \\ \end{align*} $$
となる.補題3より,素数$p$と正整数$n$($1 \leq n \leq p-1$)を用いて$_{p}C_{n}$と表される数は$p$の倍数であるから,
$$ (x+1)^p \equiv x^p+1 $$
が得られる.題意は示された.

素数$p$を法として$(x+1)^{p\uparrow \uparrow k} \equiv x^{ p\uparrow \uparrow k}+1$ が成り立つ.

定理2

定理1を複数回適用することで,定理2は容易に得られる.

素数$p$,正整数$n$($0 < n < p$)を用いて$_{p}C_{n}$と表される数は$p$の倍数である

補題3

$p$を素数,$n$$0 < n < p$なる正整数とする.この時,$_{p}C_{n}$は以下のように表される.

$$ _{p}C_{n}=\frac{p!}{n!\left(p-n\right)!} $$
この時,分母と分子の素因数${p}$の個数に注目すると,分子は${p}$を一つ含んでいるが,分母は${n}$${p}$未満であることから素因数${p}$を一つも含んでいないことがわかる.よって,${_{p}C_{n}}$${p}$の倍数である.題意は示された.

4.おわりに/まとめ

$_{n}C_{r}$$(x+1)^n$$x^r$の係数と見ることができる.
$p$で割った余りを考える.
・素数$p$を法として$(x+1)^{ p\uparrow \uparrow k} \equiv x^{ p\uparrow \uparrow k}+1$ が成り立つ.

これらのツールを使用することで簡単に二項係数の余りを求めたり,個数を求めたりすることができます.また,この発想はさほど超人的なものではないので思いつくこともできますね.

おわりに

長い記事でしたが,見ていただきありがとうございました!このネタは思いついている人がいそうなので,すでにこのような記事が投稿されている場合は指摘いただけたらすぐに削除します.

追記:コメント欄に拡張をしてくださった方がいらっしゃいます.とても美しい結果なので是非みてみてください!!

参考文献

投稿日:2022531

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