って言いましたよね、今。
大丈夫です。ちゃんと聞こえてますよ。
この記事では初心者でも分かるように級数について話そうと思ったんですが、ちゃんと厳密に理解したい人には向いてないです。あくまで級数を始めたい人が一番最初に見るための記事なので、収束など厳密性を省くところが多々ありますが許してください。厳密性より流れ重視です。
級数とは、つまり無限和のことです。数を無限に足します。それだけです。無限に数を足したら値も無限大になるんじゃないかと思ったそこのアナタ!そうならないときもあります!例えば、$\displaystyle1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\cdots=2$みたいなのが成り立ちます。
もう少し詳しく言うと、無限和は数列の有限和の極限です。なので、その極限が振動・発散したりして存在しない場合は考えないことにします。(一応そういう場合にも無限和を定義する方法はありますが)
皆さんには、まずは級数に慣れてもらいます。まず最初に扱うのは、
$$1+x+x^2+x^3+x^4+\cdots$$
みたいな形のやつです。高校でも出てくると思います。とりあえず、こいつを一文字で置いておきましょう。
$$ S=1+x+x^2+x^3+x^4+\cdots$$
ここで、二項目以降を共通因数で括ると、
$$ S=1+x(1+x+x^2+x^3+\cdots)$$
となります。するとどうでしょうか、右辺の括弧の中身は$S$そのものになってることが分かりますね。つまり、
$$ S=1+xS$$
$$ S=\frac{1}{1-x}$$
よって、
$$1+x+x^2+x^3+x^4+\cdots=\frac{1}{1-x}$$
となることが分かりました。
(この式は$|x|<1$でしか成り立たないですが、先程も書いた通り、今回はあまり気にしないことにします。)
$\displaystyle x=\frac{1}{2}$のとき、さっき書いた式になりますね。
今度はこんなやつを考えてみましょう。
$$S=x+2x^2+3x^3+4x^4+\cdots$$
昔の僕はこれが求められなくて四苦八苦していました……()色々な方法がありますが、今回はその内の一つの、僕が最初に知った方法を紹介します。
両辺に$x$を掛けると、
$$xS=x^2+2x^3+3x^4+4x^5+\cdots$$
上から下を引くとこうなります。
$$S-xS=x+x^2+x^3+x^4+\cdots$$
どの項も係数が$1$になるんですね。ところでこの右辺、$x$で括るとさっき見た形になりますね。ということでこうなります。
$$(1-x)S=\frac{x}{1-x}$$
$$S=\frac{x}{(1-x)^2}$$
$$x+2x^2+3x^3+4x^4+\cdots=\frac{x}{(1-x)^2}$$
求まりました。楽しいですね。楽しい。
とりあえず、まず定義を書きます。無限和は、ギリシャ文字のシグマ$\displaystyle\sum$を用いて
$$\sum_{n=1}^∞f(n)=f(1)+f(2)+f(3)+\cdots$$
と書きます。これぐらいは覚えましょう。イメージとしては$n$を$1$から$∞$まで動かして足すよ〜みたいな感じです。もちろんですが$n$のところはどんな文字でもいいです。
$$\sum_{n=1}^∞f(n)=\sum_{a=1}^∞f(a)=\sum_{𒄄=1}^∞f(𒄄)$$
また、和を取る範囲を不等号で表すこともあります。この記事ではこっちを多く使っていくのでだんだん慣れてください。
$$\sum_{n=1}^∞f(n)=\sum_{0< n}f(n)=\sum_{1\leq n}f(n)$$
下が$1$以外でも同じように考えます。
$$\sum_{n=0}^∞f(n)=f(0)+f(1)+f(2)+\cdots$$
これぐらい知っておけば大丈夫でしょう。
あ、それと、シグマの中身に和に関係ないものが掛かっていたら外に出せます(あとで使います)。
先程の2つの式をシグマを使って表してみましょう。するとこうなります。
$$\sum_{0\leq n}x^n=\frac{1}{1-x}$$
$$\sum_{0< n}nx^n=\frac{x}{(1-x)^2}$$
すっきりして見やすい!!!!
ここから話題が変わります。そもそも部分分数分解ってなんやねんって話ですが、簡単に言うと1つの分数を2つ以上の分数に分けることです。例えば、
$$\frac{1}{n(n+1)}=\frac{1}{n}-\frac{1}{n+1}$$
右辺を通分すると左辺に一致することが分かります。
では本題に入ります。次の級数を計算したいと思います。
$$\sum_{0< n}\frac{1}{n(n+1)}=\frac{1}{2}+\frac{1}{6}+\frac{1}{12}+\cdots$$
今までのようにはいきません。しかし、さっき書いた部分分数分解を使うとこうなります。
$$\sum_{0< n}\frac{1}{n(n+1)}=\sum_{0< n}\left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+1}\right)$$
だからどうした、と思ったかもしれませんがまあ落ち着いてください。
$$ \sum_{0< n}\left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+1}\right)\\
=\left(1-\frac{1}{2}\right)+\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{3}\right)+\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{4}\right)+\cdots\\
=1-\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{2}\right)-\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{3}\right)-\left(\frac{1}{4}-\frac{1}{4}\right)-\cdots$$
ん??????
今、奇跡が起きました。なんと、$1$より後ろの項が全て綺麗に打ち消されるではありませんか。したがって、
$$\sum_{0< n}\frac{1}{n(n+1)}=1$$
ふつくしい.........
今回も収束性に関する話は飛ばしますが、この考え方は結構使うので覚えておきましょう。もうちょっと練習です。
これを計算してみましょう。基本的な所は同じです。
$$ \frac{1}{n(n+1)\cdots(n+a)}=\frac{1}{a}\left(\frac{1}{n(n+1)\cdots(n+a-1)}-\frac{
1}{(n+1)(n+2)\cdots(n+a)}\right)$$
と部分分数分解できることから、
$$ \sum_{0< n}\frac{1}{n(n+1)\cdots(n+a)}=\frac{1}{a}\sum_{0< n}\left(\frac{1}{n(n+1)\cdots(n+a-1)}-\frac{1}{(n+1)(n+2)\cdots(n+a)}\right)$$
先程と同様に考えれば一番最初の項だけ残るので、計算すると、
$$\sum_{0< n}\frac{1}{n(n+1)\cdots(n+a)}=\frac{1}{a\cdot a!}$$
素晴らしいですね。
少し毛色が変わります。リーマンは人名(Bernhard Riemann)、ゼータはギリシャ文字$\zeta$です。どういうものかというと、
$$\zeta(s)=\sum_{0< n}\frac{1}{n^s} $$
意外とシンプルですね。
$s=1$のとき、
$$ \zeta(1)=\sum_{0< n}\frac{1}{n}\\
=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\cdots\\
=\infty$$
??????
実は無限大に発散します。証明はしませんが、「調和級数」で調べれば出てきます。
続いて、$s=2$のとき、
$$ \zeta(2)=\sum_{0< n}\frac{1}{n^2}\\
=1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots\\
=\frac{\pi^2}{6}$$
??????
なんと、いきなり円周率$\pi$が出てきます。証明はしませんが、「バーゼル問題」で調べれば出てきます。
$s$が偶数のときの$\zeta(s)$の値はこんな感じになってます。
$$\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6}, \zeta(4)=\frac{\pi^4}{90}, \zeta(6)=\frac{\pi^6}{945}$$
じゃあ$s$が奇数のときはというと、具体的な値は求まっていません。残念ですね。
さて、ここまでは1つの変数$n$のみを動かしていましたが、ここからは一味違います。文字が増えます。ここでもまずは記法から確認しましょう。
$$\sum_{0< a,b}f(a,b)$$
2変数になりましたね。これは要するに全ての自然数の組$(a,b)$について$f(a,b)$を足し合わせたものです。
$$ \sum_{0< a,b}f(a,b)\\
=
f(1,1)+f(1,2)+f(1,3)+\cdots\\
+f(2,1)+f(2,2)+f(2,3)+\cdots\\
+f(3,1)+f(3,2)+f(3,3)+\cdots\\
+\cdots$$
ということですね。
次に、こういうものを考えてみましょう。
$$\sum_{0< a,b}\frac{1}{a^2b^3}$$
これなんですが、結論から言うとこうなります。
$$\sum_{0< a,b}\frac{1}{a^2b^3}=\sum_{0< a}\frac{1}{a^2} \sum_{0< b}\frac{1}{b^3}=ζ(2)ζ(3)$$
シグマが2つに分かれます。なんでかって話なんですが、これは実際に手を動かした方が分かりやすいと思います。
$$ ζ(2)ζ(3)=\left(\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\cdots\right)\left(\frac{1}{1^3}+\frac{1}{2^3}+\frac{1}{3^3}+\cdots\right)\\
=\frac{1}{1^2 1^3}+\frac{1}{1^2 2^3}+\frac{1}{1^2 3^3}+\cdots\\
+\frac{1}{2^2 1^3}+\frac{1}{2^2 2^3}+\frac{1}{2^2 3^3}+\cdots\\
+\frac{1}{3^2 1^3}+\frac{1}{3^2 2^3}+\frac{1}{3^2 3^3}+\cdots\\
+\cdots\\
=\sum_{0< a,b}\frac{1}{a^2b^3}$$
括弧を展開するとこうなるんですね。
今度は変数に大小関係を付けてみます。
$$\sum_{0< a\leq b}f(a,b)$$
変数に、$a\leq b$という条件が加わりました。これも全部並べてみます。
$$ \sum_{0< a\leq b}f(a,b)\\
=f(1,1)+f(1,2)+f(1,3)+\cdots\\
+f(2,2)+f(2,3)+\cdots\\
+f(3,3)+\cdots\\
+\cdots$$
大丈夫ですね。
そして次、結構重要です。
$$\sum_{0< a\leq b}f(a,b) =\sum_{0< b}\sum_{a=1}^b f(a,b)$$
しっかり考えれば理解できるはずです。さっき並べたやつを縦に分割するイメージ。
そして、重要なのがもう1つ。
$$\sum_{0< a< b}f(a,b) =\sum_{0< a,b} f(a,a+b)$$
ざっくりですが、$b\rightarrow a+b$と置換して条件を考えればこうなります。
ここまで2変数の話だけをしてきましたが、多変数になっても考え方は同じです。
さて、いよいよこの記事のラスボス、多重ゼータ値(𝗠ultiple 𝗭eta 𝗩alue(s))です。その名の通り、リーマンゼータの多重化=多変数化バージョンです。それでは定義。
$$ ζ(k_1,k_2,\cdots,k_r)=\sum_{0< n_1< n_2<\cdots< n_r}\frac{1}{{n_1}^{k_1}{n_2}^{k_2}\cdots {n_r}^{k_r}} (k_r>1)$$
ん〜、長い。多変数にしたので仕方ないですね。$\displaystyleζ(k_1,k_2,\cdots,k_r)$ということで、変数を$r$個持ちます。$r=1$のとき、普通のリーマンゼータになります。いきなり多変数のものは扱いにくいので、2変数のものについて考えてみましょう。
$$ζ(s,t)=\sum_{0< a< b}\frac{1}{a^sb^t}$$
1つの例として、$ζ(1,2)$について考えてみます。
$$ζ(1,2)=\sum_{0< a< b}\frac{1}{ab^2}$$
まず、$a< b$のところを無理やり$a\leq b$にしてやります。$a=b$の場合を足してから引いても元々の値は変わらないので、
$$ ζ(1,2)=\sum_{0< a< b}\frac{1}{ab^2}\\
={\color{red}\sum_{0< a< b}\frac{1}{ab^2}+\sum_{0< a=b}\frac{1}{ab^2}}{\color{blue}-\sum_{0< a=b}\frac{1}{ab^2}}\\
={\color{red}\sum_{0< a\leq b}\frac{1}{ab^2}}{\color{blue}-\sum_{0< a}\frac{1}{a^3}}\\
=\sum_{0< a\leq b}\frac{1}{ab^2}-ζ(3)$$
ここで、定理1を使ってみます。すると、
$$ ζ(1,2)=\sum_{0< a\leq b}\frac{1}{ab^2}-ζ(3)\\
=\sum_{0< b}\sum_{a=1}^b\frac{1}{ab^2}-ζ(3)\\
=\sum_{0< b}\frac{1}{b^2}\sum_{a=1}^b\frac{1}{a}-ζ(3)\\
=\sum_{0< b}\frac{1}{b^2}\sum_{0< a}\left(\frac{1}{a}-\frac{1}{a+b}\right)-ζ(3)$$
最後の変形についてですが、部分分数分解のときと逆の発想です。和が$1$から$b$までなので、「$1$から$\infty$までの和」から「$b+1$から$\infty$までの和」を引いています。通分してシグマをまとめると、
$$ζ(1,2)=\sum_{0< a,b}\frac{1}{ab(a+b)}-ζ(3)$$
ここで、部分分数分解をします。
$$\frac{1}{ab}=\frac{1}{a(a+b)}+\frac{1}{b(a+b)}$$
を使います。
$$ ζ(1,2)=\sum_{0< a,b}\left(\frac{1}{a(a+b)^2}+\frac{1}{b(a+b)^2}\right)-ζ(3)\\
=\sum_{0< a,b}\frac{1}{a(a+b)^2}+\sum_{0< a,b}\frac{1}{b(a+b)^2}-ζ(3)$$
最後に定理2を使うと、
$$ ζ(1,2)=\sum_{0< a< b}\frac{1}{ab^2}+\sum_{0< b< a}\frac{1}{ba^2}-ζ(3)\\
=2ζ(1,2)-ζ(3)$$
移項して整理すれば、
$$ζ(1,2)=ζ(3)$$
おお………やっと求まりました………!
さて、無限等比級数からMZVまで勢いに任せて爆速で説明していきましたが、まあ分からないところがあって当然です。なので分からないところがあれば聞いてください。ただ少しでも級数に興味をもってくれたなら良いかなと思います。最後に、気持ち悪い級数を1つだけ紹介します。
$$ \sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n(6n)!(13591409+545140134n)}{(3n)!(n!)^3 640320^{3n+3/2}}=\frac{1}{12\pi}$$
ありがとうございました。