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たすきがけを使わない新しい因数分解(基礎編)

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathrm{div}} \newcommand{division}[0]{÷} \newcommand{grad}[0]{\mathrm{grad}\ } \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rot}[0]{\mathrm{rot}\ } \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

たすきがけは難しいのか?

たすきがけ

$a,b,c,d$が全て整数かつ$ac\neq 0$の2次方程式を因数分解する手法のうち、
$(ax+b)(cx+d)=Ax^2+Bx+C$において、$A=ac, C=bd, B=ad+bc$であることを利用して、
下図のように$A$$C$の約数の組み合わせから$B$の値を復元することにより、
$a,b,c,d$の組み合わせを探索する方法をたすきがけと呼ぶ。

たすきがけ概念図 たすきがけ概念図

学生に対して、指導を行う際に「たすきがけ」を取り組ませた場合に、
僅かな訓練で達成できる人と、十分な時間を割いても難しいままで終わる人に分かれる。
これを考察した結果、私としては、現在のたすきがけ法には以下の難点があると考えた。

・問題点1
 $A$$C$をそれぞれ、2つの約数の積に分解する際に数的処理能力を求められる。
・問題点2
 分解した約数を$B$に復元する際における$a,b,c,d$の配置にある程度の数的センスが求めれれる。
・問題点3
 たすきがけの課程で、四則演算を複数回かつ複雑に処理する能力が求められること。

そこで、今回は「たすきがけ」とは視点を変えた独自考案の因数分解法について述べていきたい。

和差積探索法

まずは、「たすきがけ可能な2次方程式」という条件付きにおいて、成立する内容について述べておく。

たすきがけ可能な2次方程式の判別式は平方数である

たすきがけ可能、すなわち整数係数$A,B,C \ (A\neq 0)$$a,b,c,d \ (ac\neq 0)$において
$Ax^2+Bx+C$$(ax+b)(cx+d)$へと因数分解されるときに、
$Ax^2+Bx+C=0$の判別式$D$は、整数$m$を用いて$D=m^2$と表される。

背理法

問題文の条件より、$Ax^2+Bx+C=0 \Longleftrightarrow (ax+b)(cx+d)=0$となり、
$x=-\frac{b}{a},-\frac{d}{c}$となり、2解は有理解である。
仮に$D=m^2$を満たす整数$m$が存在しないとすれば、$D=B^2-4AC$は無理数であり、
$x=\frac{-B \pm \sqrt{D}}{A}$は無理数となり、2解が有理数であることに矛盾する。
よって、$D=m^2$となる。

今回の新たな因数分解法のコンセプトとしては、

$A$$C$の分解$\rightarrow a,b,c,d$の配置$\rightarrow B$の構築よる検算 から
$|B|$に対して$|m|$を探索的に代入$\rightarrow AC$の構築による検算 変えて$a,b,c,d$の探索を実施する。

ということを先に述べておく。ここで$|B|$$|m|$というのは、探索範囲を狭めるために、
$B^2-4ac=m^2 \Longleftrightarrow |B|^2-4ac=|m|^2$ということ利用している。
次に、$|B|$を用いた解の公式について触れておく。

$|B|$$|m|$用いた2次方程式の解の公式

整数$A,B,C,m\ (A\neq 0)$において$|m|^2=|B|^2-4AC$が成立するとき、
$Ax^2\pm|B|x+C=0$の解の公式は、以下のようになる。
$x=\mp \frac{|B|+|m|}{2A}, \mp \frac{|B|-|m|}{2A}$(複合同順)

解の公式による場合分け

この補題を利用すると、$A,|B|,|m|$を用いて、次の因数分解が成立する。
これは、以降の解説の根拠になる定理になる。

和と差の積の探索による因数分解(放校やじるし)

整数係数$A,B,C\ (A\neq 0)$において、たすきがけ可能なとき
$Ax^2\pm|B|x+C=\frac{1}{A}(Ax\pm\frac{|B|-|m|}{2})(Ax\pm\frac{|B|+|m|}{2})$(複合同順) と因数分解できる。
ただし、$m$$(\frac{|B|-|m|}{2})(\frac{|B|+|m|}{2})=AC$ を満たし、$\frac{|B|\pm|m|}{2}$はいずれも整数となる。

補題3から因数分解される式を復元する

これだけでは、理解が困難だと思われるので、具体的な問題の解説により運用方法を解説する。

因数分解(たすきがけ可能)

$5x^2-17x+12=0$を因数分解せよ。

解法:$|B|=17$に対して$|m|$を探索的に代入して$AC=60$を逆算して評価する。

&&&

$|B|$$|m|$$\frac{|B|-|m|}{2}$$\frac{|B|+|m|}{2}$$\frac{|B|-|m|}{2}\times\frac{|B|+|m|}{2}$$AC$
17 1| 8 | 9 | 72 |60|
| 17 | 3 | 7 | 10 | 70 |60|
| 17 | 5 | 6 | 11 | 66 |60|
| 17 | 7
5 12 | 60 | 60|

この方法を運用するにあたって、初めに注意することとしては、表の水色のところを見ると
$|B|\pm|m|$は偶数なので$|B|$が奇数のときは$|m|$$1$スタートとなる。
もちろん、$|B|$が偶数のときは$|m|$$0$スタートになる。

そして、$m$の値を1つずつ増やして計算を1行ずつ繰り返していき、最後に票の右下の2つの数字が一致するまで計算すれば、答えがピンク色の箱に現れる。

ここまで計算したときに、定理4の形式に代入すれば $A=5$より
$\frac{1}{5}(5x$$5)(5x$$12) = (x-1)(5x-12)$と因数分解できる。
ちなみに、赤色で着色したマイナス記号は、|B|の係数についているマイナスと対応している。

&&&

このように、約数の組み合わせに関する論理を回避して、因数分解を行うことは可能である。
しかし、これだけだと実用においては記法が煩雑なため、次は可能な限り省略していこうと思う。

&&&exc 因数分解(たすきがけ可能)
$8x^2+30x+27=0$を因数分解せよ。
&&&
解法:$|B|=30$に対して$|m|$を探索的に代入して$AC=216$を逆算して評価する。

ここで、以下のルールによって記法を簡略化する。
1)$|B|,|m|,AC$の値は表の初めに明記しておき、対応する列を削除する。
2)$\frac{|B|-|m|}{2}$列の先頭を"$-$"、$\frac{|B|+|m|}{2}$列の先頭を"$+$"にする。
すると以下のように簡略化できる。比較のため、簡略化前のものも併記しておく。

&&&

$AC=216, |B|=30$より
初行は$(30\mp0)/2=15,15$

| $-$ | $+$ | $\times$ |
| --- | --- | --- |
| 15 | 15 | 225 |
| 14 | 16 | 224 |
| 13 | 17 | 221 |
| 12 | 18 | 216 |

以上より、$\frac{1}{8}(8x+12)(8x+18) = (2x+3)(4x+9)$と因数分解できる。
&&&

参考:簡略化前

| $|B|$| $|m|$ | $\frac{|B|-|m|}{2}$ | $\frac{|B|+|m|}{2}$ | $\frac{|B|-|m|}{2}\times\frac{|B|+|m|}{2}$ |$AC$|
| --- | --- | --- | --- | --- | --- |
| 30
0| 15 | 15 | 225 |216|
| 30 | 2 | 14 | 16 | 224 |216|
| 30 | 4 | 13 | 17 | 221 |216|
| 30 | 6
12 18 | 216 | 216|

### あとがき

以上のように計算方法は、実用上の利点以外にも、コンピュータのアルゴリズムとして、たすきがけの可否を判定するのにも役立つと考えられる。また、現時点で上げられるこの計算手法の問題点としては、$m$の値を$2$つずつ変化させて計算する方法を採用しているため、$AC$の値が増加すれば、計算量が増大する。これを回避する方法については、ある程度頭の中でまとまっているが、今回の「計算能力や数的センスに乏しい人」を対象とした解法としては適さない可能性が高いため、次回記事にて発展編として解説していく。

※一応、独自に開発したものですが、先駆者様がいらっしゃったらご一報ください。
投稿日:2022611

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