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高校数学解説
文献あり

「眠り姫問題」はパラドックスか?幼女が挑む【日曜数学会】(応用問題付き)

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タイトル タイトル


(絵: 琉銀 )

はじめに

この記事は、第 $24$ 回日曜数学会(2022.6.19)で発表した内容の完全版になります。

今回は、確率に関する難問「眠り姫問題」に挑戦しました。

Wikipediaでは「内容はシンプルでありながら、専門家同士でも答えが分かれるパラドックスでもある。」などと紹介されていて、いかにも手ごわそうです。

実際、この問題について「解けた!」と主張する人はこれまでも何人もいましたが、多数の同意を得ることには失敗しているようです。

自分としても今回の記事はかなりヤバいのではないかと感じていますが、しばらくお付き合いいただきたいと思います。

「眠り姫問題」とは

Wikipediaで紹介されているオリジナルの眠り姫問題は次のようなものです。

眠り姫問題(オリジナル)

実験の参加者である眠り姫は、実験の内容を全て説明され、一日経過後、薬を投与され日曜日に眠りにつく。

眠り姫が眠っている間に一度だけコインが投げられる。

・コインが表であった場合、眠り姫は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。
・コインが裏であった場合、眠り姫は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。そして翌日の火曜日にも目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。

この時投与される薬は一日の記憶を完全に忘却する記憶消去薬で、次に目覚めさせられるまで絶対に目覚めないという作用がある。 眠り姫が目覚め質問を受ける際、その日が何日であるか、以前に目覚めたことがあるかどうかは決して知ることができないとする。

起こされた時にされる質問とは「コインが表だった確率は幾らか?」というものである。

どちらの場合でも、水曜日になれば眠り姫は目覚めさせられる。水曜日は質問を行わず、実験はそこで終了する。

$1980$年代半ばに哲学者アーノルド・ズボフによる未発表の作品で提案され、$2000$年になってアダム・エルガによる論文が続いたとされています。

お詫びと訂正

日曜数学会でのZOOMでの質疑の際にアダム・エルガは数学者と言ってしまいましたが、プリンストン大学哲学科教授でしたので、お詫びして訂正いたします。

問題はシンプルですが、この問題に対する答えはいろいろなものがあり、大きく分けて「1/3だよ派」「1/2だよ派」「その他」の3つに分けられます。

$3$分の$1$とする立場の主な主張】

 $P($ 裏で火曜日 $)=P($ 裏で月曜日 $)=P($ 表で月曜日 $)$ となる。これら $3$ つの結果は網羅的であり、$1$ つの試行に対して排他的であるため、それぞれの確率は、$1/3$ となる。

$2$分の$1$とする立場の主な主張】

 実験前の彼女にとって、表であった確率は$P($$)=1/2$ であり、実験中に目覚めたときに新たな情報を得ることもできないため、$P($$)=1/2$ という確率も変わらないはずである。

【その他の立場】

 その他の主張も ”た く さ ん” あります。
 この問題を「単純な条件付確率の問題だ」と考えている人は少なくないようですが、実際にはそれほど簡単に考えられる問題ではありません。中には、「$3/7$だよ派」もいるようです。

 私の考えでは、まず、この問題で問われている「確率」とは何かについてきちんと定義されていないことから、「自己が存在している時間的・空間的位置を把握できないときに確率をどう考えるべきか」という、数学というより哲学の問題になってしまっているのだと思います。

 「哲学の問題だ」で終わることもできるのですが、ここではもう少しがんばって考察を進めたいと思います。

 まず、この問題で問われているのが「主観確率」なのか「客観確率」なのかについて考察します。

主観確率と客観確率

 コインを何十回も投げて半分が表だったら表になる確率は $1/2$ と推定できる、というような確率は「客観確率」といいます。一方、ハンカチでかくされたコインが表である確率をいくらだと思うか、というような確率は「主観確率」といいます。

 主観確率では、コインが表である確率を問われて、 $1/2$ でない答えになることは珍しくありません。

 例えば「表が出やすいコインを使っている疑いがある」と考えれば $1/2$ より大きい確率になるかもしれませんし、「コインが表の場合だけ質問される」などの事前情報があれば主観確率は $1$ になります。

 主観確率はある現象がどれだけ起こりやすいかについての個人が持つ主観的な信念を指すものですから、その人が得ている情報により変化します。眠り姫問題の場合、その人の宇宙観・世界観・自己認識の方法・意思決定の方法等により、さまざま確率を考えることが可能です。

 (主観確率であっても、非負の実数値をとり加法性を持ち全事象に対して1となるように設定すれば確率の公理(コルモゴロフの公理)を満たすことができます。)
 眠り姫問題で問われている確率は厳密に定義されていないので主観確率を問われていると解釈すべきでしょう。それでは主観確率のうち最も合理的と考えられるのはどのアプローチか・・・

 いくつかのアプローチを考えてみましたが・・・

 「どれが一番納得感があるかなんて人によって違うから、たとえどれか一つ選んで自分が納得したとしても人を説得するのは無理!」

という身もふたもない結論にいたりました。

 逆に、自分が「納得できる定義だ」と思えるものを見つけてしまうと、その他の考え方ができることを想像することが困難になり、「こんな簡単な問題になぜみんな悩んでいるのだろう」という思考の罠にはまってしまうように思います。

 ここで話を終わることもできるのですが、もう少し考察を進めてみましょう。
 主観確率を考えるから困ったことになるのです。

 そこで、少し問題をアレンジして客観確率を求める問題に改変することにしてみましょう。  

問われている「確率」を明確化するために問題をアレンジする

問題編

問われている確率を客観確率にするために、質問内容を次のように少し変えます。

1. 「眠り姫」を「幼女」に変える
2. コインが表だった場合は質問の後にプリンがもらえることにする
3. 質問の内容を少し変える
4. 水曜日にも質問することにする
5. なるべくオリジナルの眠り姫問題の本質部分は変えないように最低限の改変にする

 コインが表だった場合はプリンがもらえることにして、「この質問の後でプリンがもらえる確率は幾らだと思うか?」とし、質問の回数あたりプリンがもらえる確率を使って客観確率を計算することにしましょう。

 さらに、質問は少し内容を変えて$2$回行うことにします。
 ついでに、被験者は「眠り姫」ではなく「幼女」ということにします。

 「なんで幼女?」と思われる方もいるかもしれませんが、かつっぱさんの論理パズルに出てくる「幼女(幻ノ女の略称)」のオマージュです。問題そのものへの影響はありません。
(参考 : catupper/0.幼女問題 )

 「そんなにアレンジしたら元の問題と完全に別物になってしまうのではないか」と心配されそうですが、元の問題の本質部分は変えないように注意してアレンジしたつもりです。

 それではご覧ください。

眠り姫問題(アレンジ)

1. 実験の参加者である幼女は、実験の内容を全て説明され、一日経過後、薬を投与され日曜日に眠りにつく。

2. 幼女が眠っている間に一度だけコインが投げられる。

・コインが表であった場合、幼女は月曜日に目覚めさせられ、"質問A"をされたのち、プリンをもらう。その後、再び薬を投与され眠りにつく。

・コインが裏であった場合、幼女は月曜日に目覚めさせられ、"質問A"をされる。プリンはもらえない。その後、再び薬を投与され眠りにつく。そして翌日の火曜日にも目覚めさせられ、"質問A"をされる。プリンはもらえない。再び薬を投与され眠りにつく。

3. どちらの場合でも、水曜日になれば幼女は目覚めさせられる。 これまでの実験の様子は全て録画されており、幼女はその中から選ばれたある日の録画映像の冒頭部分を見せられ、"質問B"をされる。幼女が答えたところで実験は終了する。

4. 水曜日に起こされたときに見せられる録画映像は、月曜日または火曜日に幼女が目覚めさせられた瞬間のものであるが、幼女にはそれが何曜日のものかや、コインの表裏について知ることは決してできない。

5. "質問A"は「あなたがこの質問の後でプリンをもらえる確率は幾らだと思うか?」というものである。
"質問B"は「録画映像中のあなたが質問された後にプリンをもらえる確率は幾らだと思うか?」というものである。

6. ここで問われている確率は、質問$1$回あたりプリンをもらえる回数の期待値とする。

解決編

$2$ とおりの答えが現れる

「質問Aの後に幼女がプリンをもらえる回数」の期待値と「質問Bの後に録画映像中の幼女がプリンをもらえる回数」の期待値を計算すると、次のようになります。

質問Aの後プリンの確率 $=\dfrac{1}{3}$

質問Bの後プリンの確率 $=\dfrac{1}{2}$

このことは、例えば実験を100回繰り返したときの期待値を考えると直感的にわかります。

コイン合計
$100$回中$50$$50$$100$
質問Aの回数$50$$100$$150$
質問A後プリンの回数$50$$0$$50$
質問Bの回数$50$$50$$100$
質問B後プリンの回数$50$$0$$50$

質問Aの後プリンの確率 $=\dfrac{50}{150}=\dfrac{1}{3}$

質問Bの後プリンの確率 $=\dfrac{50}{100}=\dfrac{1}{2}$

表の場合はプリンがもらえる 表の場合はプリンがもらえる


(絵: 琉銀 )

2つの質問の違いは何か

 なぜ「質問Aの後プリンの確率」と「質問Bの後プリンの確率」が異なるのか考えてみましょう。

 質問Bが行われる回数は、コインの表裏と関係がありません。一方、質問Aが行われる回数は、コインの表裏と関係があります。

オリジナルの眠り姫問題に近い解釈はどちらか?

 では、質問Aと質問Bのどちらがオリジナルの眠り姫問題に近いかというと・・・

 私は、「質問A」の方がオリジナルの眠り姫問題に近いと考えます。

 なぜなら、「幼女はコインの表裏と質問Aが行われる回数に関連がある(独立事象ではない)ことを知っている」からです。

 確率の用語でいうと「コインが表であること」と「質問Aが行われる回数」は従属の関係にあるため、「質問Aが行われていること」そのものにコインの表裏についての情報が含まれているということです。

つまり、質問Bの際は幼女はコインの表裏について何ら情報を持っていないので確率は $\dfrac{1}{2}$ にしかならないのですが、質問Aの際は幼女はコインの表裏と独立ではない事象についての情報を持っているので確率は $\dfrac{1}{3}$ と判断してもおかしくないと思います。(個人の感想です。)

アレンジバージョン(2回繰り返し)

 さて、先ほどの問題をもう少しアレンジしてみましょう。

 同じ実験を$2$回繰り返します。
 実験が終わったとき、コインの表裏によって幼女が起こされて質問をされる映像は最小$2$本~最大$4$本になります。
 その中から無作為に$1$本選びます。
 このとき、「選んだ録画映像中の幼女が質問された後にプリンをもらえる確率は幾らか?」

答えはすぐ下に書きますので、自分で考えたい人のために少しスキマをあけておきます。
















「質問の後に録画映像中の幼女がプリンをもらえる割合」の期待値を計算すると、次のようになります。

質問の後プリンの確率 $=\dfrac{5}{12}$

このことは、例えば実験を$24$回繰り返したときの期待値を考えると直感的にわかります。

コイン$\{H,H\}$$\{H,T\}$$\{T,H\}$$\{T,T\}$合計
$24$回中$6$$6$$6$$6$$24$
録画映像の本数$12$$18$$18$$24$$72$
録画映像プリン有の本数$12$$6$$6$$0$$24$
質問の回数$6$$6$$6$$6$$24$
質問後プリンの回数$6$$2$$2$$0$$10$

表中で、例えば $\{H,T\}$ の記号はコインが第$1$週表、第$2$週裏となる事象を表しています。$H$ は Head(表) の頭文字で、$T$ は Tail(裏) の頭文字です。

質問Bの後プリンの確率 $=\dfrac{10}{24}=\dfrac{5}{12}$

$\dfrac{1}{2}$ でも $\dfrac{1}{3}$ でもないのがちょっと面白いと思いませんか?

アレンジバージョン($n$回繰り返し)

さらに一般化して、同じ実験を$n$回繰り返します。コインの表裏によって映像は最小 $n$ 本~最大 $2n$ 本録画されることになります。録画映像の中から無作為に$1$本選び、「録画映像中の幼女が質問された後にプリンをもらえる確率は幾らか?」という問題を考えてみましょう。

$n$ 回の実験中、表が $k$ 回だったとすると、録画映像は $2n-k$ 本、そのうち幼女がプリンをもらえる映像は $k$ 本ですから、求める確率を $P(n)$ とすると、次のように表すことができます。

${\displaystyle P(n) =\frac{1}{2^n}\sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\cdot\frac{k}{2n-k} }$

$n\to\infty$ の極限は?

では実験の回数をどんどん増やしていくと、確率はどうなるでしょうか。

数値計算では次のように変化していきます。

$n$$P(n)$
$1$$\frac{1}{2}=0.5$
$2$$\frac{5}{12}=0.41666\ldots$
$3$$\frac{31}{80}=0.3875\ldots$
$4$$\frac{209}{560}=0.373214\ldots$
$5$$\frac{1471}{4032}=0.364831\ldots$
$\vdots$$\vdots$
$100$$0.334819\ldots$

なんとなく $\frac{1}{3}$ に近づいている気がしますね。
直感でも、

プリンをもらえる$:$プリンをもらえない $=1:2$

の比になって、$n$ が大きくなるにつれ $\frac{1}{3}$ に収束しそうな気がしますね。

$\frac{1}{3}$ に収束しそう

${\displaystyle \lim_{n\to\infty} P(n) =\frac{1}{3} }$

結論からいうとこの予想は正しくて、実際に $\frac{1}{3}$ に収束します。
そのことをこれから証明していきましょう。

……といっても、実は証明したのは私ではなく、Twitterでの私の予想ツイートを見てたくさんの方が様々な方法で証明してくれたのでした。

漸化式による方法、部分積分による方法、級数展開による方法、ルベーグの優収束定理を使う方法と、色々な証明方法があって面白いと思いますので、ちょっとボリュームがありますが順番に紹介したいと思います。

証明1 (漸化式による証明)

@k0tokay さんのツイート

${\displaystyle S_n=\frac{1}{2^n}\sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\,\frac{k}{2n-k} }$

漸化式

${\displaystyle S_n=\frac{n}{4(2n-1)}\left(3-S_{n-1}\right) }$

$n\to\infty$ で収束するならば

${\displaystyle S_{\infty}=\frac{1}{8}\left(3-S_{\infty}\right) }$

${\displaystyle \therefore S_{\infty}=\frac{1}{3} }$

漸化式はこのように見つけたそうです

@k0tokay さんのツイート

証明2 (部分積分による証明)

まず $P(n)$ を積分の形に変形します。

${\displaystyle P(n) =\frac{1}{2^n}\sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\frac{k}{2n-k} =\int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx }$

これは、

   ${\displaystyle \sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\cdot x^k =(x+1)^n }$

の両辺を $x$ で微分して両辺に $x$ を乗じて

   ${\displaystyle \sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\cdot k x^k =n(x+1)^{n-1}x }$

$x$$t^{-1}$ に置換して両辺に $t^{2n-1}$ を乗じて

   ${\displaystyle \sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\cdot k t^{2n-k-1} =n(t^{-1}+1)^{n-1}t^{2n-2} }$

両辺を $t$$0$ から $1$ まで積分して

   ${\displaystyle \begin{align} \sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\cdot \frac{k}{2n-k} &=\int_0^1 n(t^{-1}+1)^{n-1}t^{2n-2}\,dt\\ &=\int_0^1 n(t(t+1))^{n-1}\,dt\\ \end{align} }$

とできることから導けます。

次に部分積分を使います。

@Qoo_trout さんのツイート  

${\displaystyle \begin{align} \int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx &=\int_0^1 \frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}(2x+1)\cdot\frac{1}{2x+1}\,dx \\ &=\left[\frac{1}{2^n}(x(x+1))^n\cdot\frac{1}{2x+1}\right]_0^1 -\int_0^1\frac{1}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n}\cdot\frac{-2}{(2x+1)^2}\,dx\\ &=\frac{1}{3} +\int_0^1\frac{\left(x(x+1)\right)^{n}}{2^{n-1}(2x+1)^2}\,dx\\ \end{align} }$

残った積分は次のように評価できます。

${\displaystyle \begin{align} 0\le \int_0^1\frac{\left(x(x+1)\right)^{n}}{2^{n-1}(2x+1)^2}\,dx &\le \int_0^1\frac{\left(1\cdot(x+1)\right)^{n}}{2^{n-1}(2\cdot0+1)^2}\,dx\\ &\le \int_0^1\frac{\left(x+1\right)^{n}}{2^{n-1}}\,dx\\ &=\left[\frac{(x+1)^{n+1}}{2^{n-1}(n+1)}\right]_0^1\\ &=\frac{1}{n+1}\left(4-\frac{1}{2^{n-1}}\right) \,\,\,\,\to 0\,\,\,\,(n\to\infty) \end{align} }$

はさみうちの原理により

${\displaystyle \begin{align} \lim_{n\to\infty} \int_0^1\frac{\left(x(x+1)\right)^{n}}{2^{n-1}(2x+1)^2}\,dx =0 \end{align} }$

となります。したがって

${\displaystyle \begin{align} \lim_{n\to\infty} \int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx &=\frac{1}{3}\\ \end{align} }$

証明3 (級数展開による証明)

$P(n)$ は次のように級数展開することができます。

${\displaystyle P(n)=\frac{1}{3}+\frac{4}{27n}+\frac{4}{81n^2}-\frac{4}{729n^3}-\frac{220}{6561n^4}-\frac{76}{2187n^5}+\cdots }$

私は数値計算結果からこのような展開ができることを発見したのですが、この一般項は次のように計算できることを教えていただきました。

@Qoo_trout さんのツイート

${\displaystyle P(n) =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{n^k}g^{(k)}(\log2) }$

ただし

${\displaystyle g(x) =\frac{1}{\sqrt{4e^x+1}} }$

とし、

$g^{(k)} (x)$$g(x)$$k$ 階導関数

とします。

これは、$P(n) =\int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx$ について $x(x+1)=e^t$ と置換して部分積分を再帰的に行うことで次のようにして導くことができます。

${\displaystyle \begin{align} P(n) &=\int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx\\ &=\int_{-\infty}^{\log2}\frac{n}{2^n}\left(e^t\right)^{n-1}\cdot e^t(4e^t+1)^{-1/2}\,dt\\ &=\int_{-\infty}^{\log2}\frac{ne^{nt}}{2^{n}}\cdot g(t)\,dt\\ &=\left[\frac{e^{nt}}{2^{n}}\cdot g(t)\right]_{-\infty}^{\log2} -\int_{-\infty}^{\log2}\frac{e^{nt}}{2^{n}}\cdot g^{(1)}(t)\,dt\\ &=\frac{1}{3}-\left[\frac{e^{nt}}{2^{n}n}\cdot g^{(1)}(t)\right]_{-\infty}^{\log2} +\int_{-\infty}^{\log2}\frac{e^{nt}}{2^{n}n}\cdot g^{(2)}(t)\,dt\\ &=\frac{1}{3}-\frac{g^{(1)}(\log2)}{n}+\left[\frac{e^{nt}}{2^{n}n^2}\cdot g^{(2)}(t)\right]_{-\infty}^{\log2} -\int_{-\infty}^{\log2}\frac{e^{nt}}{2^{n}n^2}\cdot g^{(3)}(t)\,dt\\ &=\frac{1}{3}-\frac{g^{(1)}(\log2)}{n}+\frac{g^{(2)}(\log2)}{n^2}-\frac{g^{(3)}(\log2)}{n^3}+\frac{g^{(4)}(\log2)}{n^4}\mp\cdots\\ \end{align} }$

式の形だけを見ると、 $\log2$ だの $\sqrt{4e^x+1}$ だのが出てきて係数が有理数にならなさそうに見えるかもしれませんが、代入するとちゃんと有理数になって先ほどの級数が得られます。

${\displaystyle P(n)=\frac{1}{3}+\frac{4}{27n}+\frac{4}{81n^2}-\frac{4}{729n^3}-\frac{220}{6561n^4}-\frac{76}{2187n^5}+\cdots }$

$2$項以降は $n\to\infty$$0$に収束することから ${\displaystyle\lim_{n\to\infty}P(n)=\frac{1}{3}}$ になることがわかりますね。

証明4 (ルベーグの優収束定理による証明)

@emiemi_ogaoga さんのツイート

まず、ベータ関数の形を無理やり作ってくくりだします。

${\displaystyle \begin{align} P(n) &=\int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx\\ &=\int_0^1\frac{n}{2^n}x^{n-1}\left(2-(1-x)\right)^{n-1}\,dx\\ &=\frac{n}{2^n}\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^{k}\cdot{}_{n-1}C_{k}\cdot2^{n-1-k}\int_0^1x^{n-1}\left(1-x\right)^{k}\,dx\\ \end{align} }$

ここでベータ関数の性質より

 ${\displaystyle \int_0^1x^{n-1}\left(1-x\right)^{k}\,dx =\frac{(n-1)!k!}{(n+k)!} }$

ですから

${\displaystyle \begin{align} P(n) &=\frac{n}{2^n}\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^{k}\cdot{}_{n-1}C_{k}\cdot2^{n-1-k}\int_0^1x^{n-1}\left(1-x\right)^{k}\,dx\\ &=\frac{n}{2^n}\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^{k}\cdot\frac{(n-1)!}{(n-k-1)!k!}\cdot2^{n-1-k}\cdot\frac{(n-1)!k!}{(n+k)!}\\ &=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\cdot\frac{n!}{(n-k-1)!}\cdot\frac{1}{\frac{(n+k)!}{(n-1)!}}\\ \end{align} }$

下降階乗冪、上昇階乗冪を使うとシンプルに書くことができます。

下降階乗冪 $x^{\underline{n}}=x(x-1)(x-2)\cdots(x-n+1)$
上昇階乗冪 $x^{\overline{n}}=x(x+1)(x+2)\cdots(x+n-1)$

${\displaystyle \begin{align} P(n) &=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\cdot\frac{n!}{(n-k-1)!}\cdot\frac{1}{\frac{(n+k)!}{(n-1)!}}\\ &=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\cdot\frac{n^{\underline{k+1}}}{n^{\overline{k+1}}}\\ \end{align} }$

${\displaystyle \lim_{n\to\infty}P(n)}$ の極限を考えるにあたり、ルベーグの優収束定理を使います。

${\displaystyle \begin{align} \left| \sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\cdot\frac{n^{\underline{k+1}}}{n^{\overline{k+1}}} \right| \le\sum_0^{\infty}\frac{1}{2^{k+1}} \le\infty \end{align} }$

ですからルベーグの優収束定理を使って $\sum$$\lim$ の順番を入れ替えることができます。

${\displaystyle \begin{align} \lim_{n\to\infty}P(n) &=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\cdot\frac{n^{\underline{k+1}}}{n^{\overline{k+1}}}\\ &=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\left(\lim_{n\to\infty}\frac{n^{\underline{k+1}}}{n^{\overline{k+1}}}\right)\\ &=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\\ &=\frac{1}{3} \end{align} }$

いろいろな $P(n)$ の表現方法

さて、記事の中で様々な方法で $P(n)$ を表現できることがわかりました。特に意味はありませんが、ここで並べて鑑賞したいと思います。

${\displaystyle \begin{align} P(n) &=\frac{1}{2^n}\sum_{k=0}^{n}{}_nC_{k}\cdot\frac{k}{2n-k}\\ &=\frac{n}{4(2n-1)}\left(3-P(n-1)\right)\\ &=\int_0^1\frac{n}{2^n}\left(x(x+1)\right)^{n-1}\,dx\\ &=\frac{1}{3} +\int_0^1\frac{\left(x(x+1)\right)^{n}}{2^{n-1}(2x+1)^2}\,dx\\ &=\frac{1}{3}+\frac{4}{27n}+\frac{4}{81n^2}-\frac{4}{729n^3}-\frac{220}{6561n^4}-\frac{76}{2187n^5}+\cdots\\ &=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{n^k}g^{(k)}(\log2)\\ &=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^{k}}{2^{k+1}}\cdot\frac{n^{\underline{k+1}}}{n^{\overline{k+1}}}\\ \end{align} }$

見た目はかなり違いますが、すべて同じ値になります。(当たり前といえば当たり前ですが)
なかなか壮観ですね!

アダム・エルガの立場

 だいぶ脱線してしまいました。

 もともと、眠り姫問題を$2000$年に論文で発表したアダム・エルガ自身はどう考えていたのでしょうか。
 アダム・エルガ自身の論文は私は冒頭部分しか見ることができませんでした。その冒頭部分では、

「世界がどのようなものであるかについて不確かであることに加えて、人はまた、世界における自分自身の空間的又は時間的位置について不確かである可能性があります。私の目的は、これら2種類の不確実性の相互作用から生じる問題を提起し、問題を解決し、その解決策から2つの教訓を引き出すことです。」(google翻訳)

と述べています。(教訓の部分は読めませんでした。情報をお持ちの方は教えていただけると嬉しいです。)

 なお、眠り姫問題についてgoogle検索で見つけた静岡理工科大学の記事によれば、アダム・エルガ自身は $\dfrac{1}{3}$ 派だったそうです。

おわりに

 ここまで、眠り姫問題をテーマに様々な考察やアレンジ問題を考えてきました。実に遊びがいのある問題だと思います。

 真正面から立ち向かおうとすると、自分自身の感覚で定義した主観確率が矛盾なく成立してしまうので、世界観や自己認識の方法によっては自分とは異なる主観確率を考えることができるということに気づくことが難しくなるという、恐ろしい問題だと思います。

 たとえ、眠り姫問題の実験期間を長くしたり、クローンを作ることにしたり、月曜日に質問した後にコインを投げるようアレンジしたりしても、それぞれ自分の定義した主観確率で問題なく解釈できるか、「前提が違うから」などと説明をつけることができてしまうことでじょう。

 オリジナルの眠り姫問題では主観確率を問われているため、科学哲学の領域に入ってしまっており、答えを1つに決めることは困難・・・というか不可能なように思います。一方で客観確率で解釈するためには客観確率が計算できるように問題を修正しなければならないと考えます。

 実際、意思決定理論、ゲーム理論、ベイズ推定などいろいろな専門家がいろいろな解釈をして、1/2とする論文もあれば1/3とする論文もあるようです。

 これは完全に余談ですが、主観確率をも容認する立場を一般にベイズ主義といいます。頻度主義者とベイズ主義者の亀裂は歴史的に続いており、両主義の支持者の一部は互いに議論せず共通の学会に参加しないといった状況が続いているそうです(Wikipedia情報)。

 今回はきのこたけのこ論争のように派閥争いが繰り広げられている眠り姫問題をテーマにしてしまい、記事を書いていて冷や汗をかきまくりでした。

 とはいえ、様々なバリエーションが考えられていて、科学哲学の領域にまで踏み込む興味深いテーマだと思います。

 皆さんもこの魔性の問題「眠り姫問題」で遊んでみては?

参考文献

投稿日:2022626
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