はじめに
原始関数と不定積分の違いを説明出来る人は少ない印象です。両者は(ご存知の通り強く関わってはいますが定義は)全く別の概念です。そのことをまず抑えていきましょう。数学をきちんとやる際には定義にしっかりと立ち返ることがとても大切です.
定義を正確に見直そう
以下を開区間,閉区間,半開区間,及びこれらの有限個の和集合,のいずれか
^1
,を上で定義された実数値関数とする.
原始関数
上の実数値関数がの原始関数 の任意の内点 [^2]に対してが成り立つ.
の原始関数全体の集合をと本稿では書く.
([^2]: 内点という言葉に覚えがない読者は本稿では「区間の端っこ以外の点」と捉えていただいて差し支えない.要するに片側微分などというものを(筆者は)考えたくないというだけである)
不定積分
とする.
(1)は上リーマン可積分とする. 上の実数値関数がのを基点とする不定積分(indefinite integral with base point ) 任意のに対してが成り立つ.
(2)は上リーマン可積分とする. 上の実数値関数がの不定積分 あるが存在してはのを基点とする不定積分である.
本稿ではと定める.
つまり不定積分は定積分の下位概念であることに注意したい.標語的に言えば「不定積分などというものは(本来)なく,ただ定積分があるだけだ」とでもなるだろうか.
またを基点とする不定積分という言葉は聞き覚えがない読者も多いと思うが本来不定積分のスムーズな定義に際して導入すべき概念である.
定義から明らかなようにの不定積分は(の分の不定性がある故)一つには定まらないためこれを慣習のように記号化するのは本来(アプリオリには
^3
)適切ではない.
それだけではない,実はもっと深刻な問題がある.上の定義からわかるように本来不定積分というのは定義域が付随する概念である.それなのに単にと書いてしまえばそのことが雲隠れしてしまい良くない.これは例えば下の例2の積分定数の範囲が変わることからその深刻さがわかると思う.
従って本稿では不定積分はもっぱらとしてしか扱わない.
ここで次が知られている.
(i) (は連続関数全体の集合を表す一般的な記号)のとき,一般に,
(ただしのときはがリーマン可積分のときは微積分学の第2基本定理により、そうでないときは(なので)明らかに)
(ii) のとき, 一般に、
つまり一般に(不連続関数に対しては)不定積分は原始関数とは限らず,また(連続関数に対してでさえ)原始関数は不定積分とは限らない.
(i)の例
こちらはよく知られている.であったとしよう.このとき
よって定数関数0はの不定積分であるが原始関数ではない例である.
(原始関数が存在しないことを説明しよう.もしそのようなが存在したらは定数を用いて
と書けるがは微分可能ゆえに連続だからでなければならない.よっては定数関数となり矛盾.)
(ii)のの例
であったとしよう.これのを基点とする不定積分は
であるから である.
しかしながら ではある.このことよりちゃんとが成り立っていることが確認できる.
以上より例えばはの原始関数であるが不定積分ではない例となる.
記号に対する筆者の強い憎しみ
ここで上のという事実を「(ただしは定数)」と書く慣習があることはご存知の通りであるが筆者はこの文化を今すぐにでも根絶したい.
というのも記号は「の"不定積分"」と音読する訳だがはの不定積分(全体)を表す記号ではなく,の原始関数(全体)を表す記号として定められているのである.またそのような記法では関数なんだか関数の集合なんだかはっきりしないというのも大変気持ち悪い事態である.
本稿で説明している通り不定積分と原始関数は一致するとは全く限らない全然別の概念であるのに,「原始関数(全体)を書いてそれを"不定積分"と呼ぶ」という大変不自然で不気味な慣習が根強く染み付いてしまっている.これは心底残念なことである(「それでも別に困らないだろう」と思う読者はこの慣習通りの記号を使って本稿を読んでみてほしい).
工学(や物理)屋がそう主張するのはまだ仕方のないことだが(もう今となっては便利が勝つので),純粋数学の世界ではこのような慣習は到底容認できるものではないと筆者は強く主張したい.記号は一目で意味がわかる,誤解を生まない,をなるべく達成するよう設定すべきものだからである.
いずれにせよ少なくとも厳密な議論をしたいときにはこの記号を使うのは得策ではない.(に相当するもの)を使うと良い.そして「"不定積分"を求めよ」という問題を出題したいときは「基点付き不定積分を求めよ」といえばいいのである.)
補足
であってもとなる例は存在する.実際,微分可能な関数だがその導関数が不連続であるようなものに対してと選べばその例になっている.例えば次がよく知られた例である;
(なお,導関数の不連続点においては右極限,左極限共に存在しないことが知られている)
このときである(が定義域上、上下に非有界だから)。
また次のようなでも良い。
このときである(が定義域上有界だから)。
でもとなる例も存在する.実際,リーマン可積分な関数はその区間上有界であることはよく知られている
^6
から,微分可能な関数だがその導関数が非有界であるようなものに対してと選べばその例になっている.例えば次が(ググったら出てきた)例である;
導関数が有界な例も実は存在する.そのような関数はVolterra関数と呼ばれているものが該当する.
終わりに
赤字で注意したところは予想外だった人も多いのではないでしょうか.身の回りで知らなそうな人がいたらぜひ教えてあげてください,感想,ご意見などお待ちしております.