11
高校数学解説
文献あり

不定積分だが原始関数でない例,原始関数だが不定積分でない例

3299
2

はじめに

原始関数と不定積分の違いを説明出来る人は少ない印象です。両者は(ご存知の通り強く関わってはいますが定義は)全く別の概念です。そのことをまず抑えていきましょう。数学をきちんとやる際には定義にしっかりと立ち返ることがとても大切です.

定義を正確に見直そう

以下Iを開区間,閉区間,半開区間,及びこれらの有限個の和集合,Rのいずれか ^1 fI上で定義された実数値関数f:IRとする.

原始関数

I上の実数値関数F:IRf原始関数 defIの任意の内点 [^2]aIに対してF(a)=f(a)が成り立つ.

fの原始関数全体の集合をPrim(f)と本稿では書く.

([^2]: 内点という言葉に覚えがない読者は本稿では「区間の端っこ以外の点」と捉えていただいて差し支えない.要するに片側微分などというものを(筆者は)考えたくないというだけである)

不定積分

aIとする.
(1)fI上リーマン可積分とする. I上の実数値関数F:IRfaを基点とする不定積分(indefinite integral with base point a) def任意のxIに対してF(x)=axf(t)dtが成り立つ.
(2)fI上リーマン可積分とする. I上の実数値関数F:IRf不定積分 defあるaIが存在してFfaを基点とする不定積分である.

本稿ではInt(f):={{fの不定積分}(fがリーマン可積分のとき)(そうでないとき)と定める.

つまり不定積分は定積分の下位概念であることに注意したい.標語的に言えば「不定積分などというものは(本来)なく,ただ定積分があるだけだ」とでもなるだろうか.

またaを基点とする不定積分という言葉は聞き覚えがない読者も多いと思うが本来不定積分のスムーズな定義に際して導入すべき概念である.

定義から明らかなようにfの不定積分は(aの分の不定性がある故)一つには定まらないためこれを慣習のように記号化するのは本来(アプリオリには ^3 )適切ではない.

それだけではない,実はもっと深刻な問題がある.上の定義からわかるように本来不定積分というのは定義域Iが付随する概念である.それなのに単にf(t)dtと書いてしまえばそのことが雲隠れしてしまい良くない.これは例えば下の例2の積分定数の範囲が変わることからその深刻さがわかると思う.

従って本稿では不定積分はもっぱらInt(f)としてしか扱わない.

ここで次が知られている.

(i) fC(I) (C(I)は連続関数IR全体の集合を表す一般的な記号)のとき,一般に, Int(f)Prim(f).

(ただしPrim(f)のときはfがリーマン可積分のときは微積分学の第2基本定理により、そうでないときは(Int(f)=なので)明らかにInt(f)Prim(f)

(ii) fC(I)のとき, 一般に、Int(f)Prim(f).

つまり一般に(不連続関数に対しては)不定積分は原始関数とは限らず,また(連続関数に対してでさえ)原始関数は不定積分とは限らない.

(i)の例

こちらはよく知られている.I=[1,1], f(x)=1 (x=0), 0 (otherwise)であったとしよう.このとき
Int(f)={0:IR}Prim(f)=.

よって定数関数0はfの不定積分であるが原始関数ではない例である.

(原始関数が存在しないことを説明しよう.もしそのようなFが存在したらFは定数C,C,aを用いて
F(x)={C (x>0)a (x=0)C (x<0)と書けるがFは微分可能ゆえに連続だからC=a=Cでなければならない.よってFは定数関数となり矛盾.)

(ii)のの例

I=R, f(x)=xであったとしよう.これのaを基点とする不定積分は
axf(t)dt=x2/2a2/2 であるから Int(f)={x2/2+C|C0} である.

しかしながら Prim(f)={x2/2+C|CR}ではある.このことよりちゃんとInt(f)Prim(f)が成り立っていることが確認できる.

以上より例えばF(x)=x2/2+1fの原始関数であるが不定積分ではない例となる.

記号f(t)dtに対する筆者の強い憎しみ

ここで上のPrim(f)={x2/2+C|CR}という事実を「xdx=x2/2+C (ただしCは定数)」と書く慣習があることはご存知の通りであるが筆者はこの文化を今すぐにでも根絶したい.

というのも記号f(t)dtは「fの"不定積分"」と音読する訳だがf(t)dtfの不定積分(全体)を表す記号ではなくfの原始関数(全体)を表す記号として定められているのである.またそのような記法では関数なんだか関数の集合なんだかはっきりしないというのも大変気持ち悪い事態である.

本稿で説明している通り不定積分と原始関数は一致するとは全く限らない全然別の概念であるのに,「原始関数(全体)を書いてそれを"不定積分"と呼ぶ」という大変不自然で不気味な慣習が根強く染み付いてしまっている.これは心底残念なことである(「それでも別に困らないだろう」と思う読者はこの慣習通りの記号を使って本稿を読んでみてほしい).

工学(や物理)屋がそう主張するのはまだ仕方のないことだが(もう今となっては便利が勝つので),純粋数学の世界ではこのような慣習は到底容認できるものではないと筆者は強く主張したい.記号は一目で意味がわかる,誤解を生まない,をなるべく達成するよう設定すべきものだからである.

いずれにせよ少なくとも厳密な議論をしたいときにはこの記号を使うのは得策ではない.Prim(f)(に相当するもの)を使うと良い.そして「"不定積分"を求めよ」という問題を出題したいときは「基点付き不定積分を求めよ」といえばいいのである.)

補足

fC(I)であってもPrim(f)となる例は存在する.実際,微分可能な関数Fだがその導関数Fが不連続であるようなものに対してf=Fと選べばその例になっている.例えば次がよく知られた例である;
F(x)={x2sin(1/x) (x0)0 (x=0)(なお,導関数の不連続点においては右極限,左極限共に存在しないことが知られている)
このときInt(f)=Prim(f)である(Fが定義域上、上下に非有界だから)。

また次のようなF:RRでも良い。
F(x)={x2(1x)2sin(1/(πx(1x))) (0<x<1)0 (otherwise)
このときInt(f)Prim(f)である(Fが定義域上有界だから)。

Prim(f)でもInt(f)=となる例も存在する.実際,リーマン可積分な関数はその区間上有界であることはよく知られている ^6 から,微分可能な関数Fだがその導関数Fが非有界であるようなものに対してf=Fと選べばその例になっている.例えば次が(ググったら出てきた)例である;
F(x)={x3/2sin(1/x) (x0)0 (x=0)導関数が有界な例も実は存在する.そのような関数はVolterra関数と呼ばれているものが該当する.

終わりに

赤字で注意したところは予想外だった人も多いのではないでしょうか.身の回りで知らなそうな人がいたらぜひ教えてあげてください,感想,ご意見などお待ちしております.

参考文献

[1]
杉浦光夫, 解析入門I
投稿日:2022715
更新日:223
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Period
Period
47
16666

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 定義を正確に見直そう
  3. 補足
  4. 終わりに
  5. 参考文献