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高校数学解説
文献あり

ネイピア数の定義に関わる不等式

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はじめに

Kazarinoff, "Analytic inequalities"[1]
https://sites.math.washington.edu/~morrow/334_16/kazarinoff.pdf
を眺めていたら、p.40のTheorem 20に
(1+1n)n<k=0n1k!<(1+1n)n+1(n=1,2,...)
というのがありました。左側の不等式は微積分の入門書に良く書いてあります。(n=1のときは等号が成立しますね)右側はYahoo 知恵袋の質問で似たような不等式を知りました。(質問になっていたので、多分何かには書いてあると思いますが)他の場所で見たことがありません。知っている不等式と似ていましたが少し違ったのでどちらが精密なのか、計算してみたついでに記事にしてみようと思いました。[1]には右側は簡単でないと書いてあり、わかりにくい方法だと感じました。以下に書く、ワイエルシュトラスの不等式(ベルヌーイの不等式とも呼ばれる、日本だとベルヌーイの不等式と呼ばれることの方が多いかも)を使う方法は簡単です。初めて知恵袋で見たときは、初等不等式に慣れていなかったので(ワイエルシュトラスの不等式を知らない状態)で技巧的に思えましたが、今は自然な方法だと思えます。すぐに導くことができることもあり、右側に相当する不等式の形を正確には覚えていません。

ワイエルシュトラスの不等式の2変数や3変数のものは高校数学の基本問題によくあり、簡単です。今回は使えるかどうかが問題です。

記法上の注意

この記事では、記述をかんたんにするため、ck(k=1,,n)の和や積の記号でm>nのとき、
k=mnck=0,k=mnck=1
とします。

ワイエルシュトラスの不等式

n=1,2,...を自然数、(x1,...,xn)1xi<0(i=1,...,n) または 0<xi(i=1,...,n)を満たすとする。このとき、
i=1n(1+xi)1+i=1nxi
が成り立つ。n=1のときに限り等号が成立する。

fn(x)={i=1n1(1+xi)}(1+x)(1+i=1n1xi+x)
とおく。2nのとき、
fn(x)={1+i=1n1(1+xi)}x+fn1(xn1)
であり、補題の仮定から1+i=1n1(1+xi)xnの符号は一致するから、
fn(xn)>fn1(xn1).
よって、数学的帰納法より、
fn(xn)>f1(x1)
がわかる。f1(x1)=0であるから補題の不等式が示された。

このように両辺の差をとってxnを変数と考える方法は相加平均と相乗平均の不等式k=1nxkn(k=1nxk)1n,(xk0,k=1,,n)を示すときにも使える。そうして得られた次の不等式はJacobstallの不等式とかRadoの不等式と呼ばれる。
n(AnGn)(n1)(An1Gn1),An:=k=1nxkn,Gn:=(k=1nxk)1n
https://dic.nicovideo.jp/a/jacobsthal%E3%81%AE%E4%B8%8D%E7%AD%89%E5%BC%8F

ネイピア数の定義に関わる不等式

x>0, 自然数n=1,2,x2/2<nを満たすとき、
(1+xn)nk=0n1k!xn<2n2nx2(1+xn)n
が成り立つ。

an=(1+xn)n, sn=k=0n1k!xnとおく。二項定理より、
an=k=0nn!k!(nk)!xknk=k=0nj=0k1(nj)k!nkxk=k=0nxkk!j=0k1(1jn).
ワイエルシュトラスの不等式を使うと、
1j=0k1(1jn)1j=0k1jn=1k(k1)2n
だから、
snansn12nk=0nk(k1)k!xk=snx22nk=0n2xkk!=snx22n(sn1(n1)!1n!)>(1x22n)sn=2nx22nsn.
これは次のように書き換えられる。
ansn<2n2nx2an.

x=1とすると、n=1,2,...のとき、(2n)/(2n1)の分母と分子からn1を引くことにより、
2n2n1n+1n=1+1n
であるから、次が成り立つ。

n=1,2,に対して、
(1+1n)nk=0n1k!<2n2n1(1+1n)n(1+1n)n+1,
(112n)k=0n1k!<(1+1n)nk=0n1k!
が成立する。

系の下の不等式は上の不等式を整理しただけである。
さて、実数の連続性は次のように表せる。

上に有界な単調増加実数列(an)はある実数に収束する。

これを使って極限値limn(1+(1/n))nが存在することを示してみよう。知らない方はよくある標準的な示し方、例えば、
https://manabitimes.jp/math/714
を見ておくといいかもしれません。

sn=k=0n1k!とおくと、(sn)が単調増加列であることは容易にわかる。
また、
sn<1+1+k=2n12k=3
であるから、(sn)は上に有界である。よって、実数の連続性より級数n=01n!は収束する。よって、系に書いた不等式とはさみうちの原理から、次が成り立つ。

limn(1+1n)n=n=01n!

もう少し一般的な状況を考えてみよう。次の定理の証明も上の定理の証明と同じようにできる。

zを任意の複素数とする。このとき、
limn|(1+zn)nk=0n1k!zk|=0
が成り立つ。

|(1+zn)nk=0n1k!zk|=|k=0nzkk!{1+j=0k1(1jn)}|k=0n|z|kk!{1j=0k1(1jn)}k=0n|z|kk!j=0k1jn(ワイエルシュトラスの不等式)=12nk=0nk(k1)|z|kk!=|z|22nk=0n2|z|kk!.
m|z|<m|z|+1となる整数とする。
k=0n2|z|kk!k=0m1|z|kk!+k=mn2|z|mm!(|z|m)kmk=0m1|z|kk!+|z|mm!mm|z|.
したがって、k=0n2|z|kk!nに依らない定数で抑えられる。(zには依存する)よって、定理が従う。

この記事は高校数学として投稿するが、級数に関する大学1,2年程度の初歩的なことより、極限値limnk=0nzk/k!の存在が示される。そこで、
exp(z)=limnk=0nzkk!
とおいてみよう。

任意の複素数zに対して、極限値limn(1+zn)nが存在して、
exp(z)=limn(1+zn)n
が成り立つ。

Karamataの不等式

Karamataの不等式の適用について書いてみる。ここでは[2 p.24 Corollary 19]を参考にした。Karamataの不等式の主張と証明は[4]を見ると良い。
数列(a1,...,an)に対して、大きい方から並べ替えたものを(a1,...,an)と書く。
a1anである。
数列(a1,...,an)と数列(b1,...,bn)に対して、
k=1lak=1lbl=1,,n1,
k=1nak=k=1nbk
を満たすとき、(a1,...,an)(b1,...,bn)の優数列であるといい、(a1,...,an)(b1,...,bn)と書く。

Karamataの不等式

fを区間I上の凸関数であるとする。区間I2n個の点a1,...,an,b1,...,bn(a1,...,an)(b1,...,bn)を満たすとき、
k=1nf(ak)k=1nf(bk)
が成り立つ。fが狭義凸のとき、等号はxi=yi i=1,...,nのときに限る。

y=2xは狭義単調増加な狭義凸関数であるからその逆関数y=log2xは上に狭義凸である。(後で詳しく書くかも...)
Karamataの不等式より、2n個の正の実数a1,,an,b1,,bnに対して、(a1,,an)(b1,,bn)ならば、
k=1nakk=1nbk
が成り立つ。さて、1<xi<0 i=1,,nまたは0<xi i=1,,n2に対して、
(1+x1,,1+xn)(1,...,1+j=1nxj)
であるから、ワイエルシュトラスの不等式が得られる:
k=1n(1+xk)>1+k=1nxk.
また、n<x0のとき、
(1+xn+1,,1+xn+1,1+xn+1)(1+xn,...,1+xn,1)
であるから、

(1+xn)n<(1+xn+1)n+1(n=1,2,,n<x0).

x=1とすれば、
(1+1n)n<(1+1n+1)n+1.
x=1, n2として、逆数をとれば、
(1+1n)n+1<(1+1n1)n.
これらの不等式は極限値
limn(1+1n)n
の存在を示すときに使える。

参考文献

投稿日:2022101
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NEKO
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  3. ワイエルシュトラスの不等式
  4. ネイピア数の定義に関わる不等式
  5. Karamataの不等式
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