ロピタルの定理は大学入試の受験生に人気がありますね。そのロピタルの定理に関連する定理を紹介します。命題2や命題4、コーシーの平均値の定理あたりは大学数学の範囲といっていいと思いますが、この記事の主定理3は高校数学の範囲で証明できます。分数関数の単調性の判定に便利そうです。
$0< x<\pi/2$のとき、$(\sin x)^{\sin x}$と$(\cos x)^{\cos x}$の大小を比較せよ。
知恵袋にあった問題です。記事を読む前にこの問題を考えてみましょう。鮮やかな解答ができる人には価値が無い記事かもしれません。この問題が解けるようになりたい人は続きを読むといいかもしれません。
ロピタルの単調性定理を知らなかったときの私の下手な解答は
こちら
(追記)同じ問題を見つけました。[15,p79 Advanced problem 39]. 模範解答も[15,p165]にあり、Jensenの不等式を利用したものでした。Jensenの不等式を利用した解答は簡潔で上手いと思うのですが、今の自分にはできそうな気がしません。
$0< x<\pi/4$のとき$0<\tan x <1$で、$\log x$は上に凸であるから\begin{align*}
\log \cos x&=\log (\tan x \sin x+(1-\tan x)(\sin x+\cos x)\\
&>\tan x \log \sin x + (1-\tan x)\log \left(\sqrt{2}\sin \left(x+\frac{\pi}{4}\right)\right)\\
&>\tan x \log \cos x\quad \left(\because \sqrt{2}\sin \left(x+\frac{\pi}{4}\right)>1 \right).
\end{align*}
問題1がロピタルの単調性定理を使って解けることに気が付いて加筆しました。まだ見直せていないので、誤植やミスがあるかもしれません。
$f$を区間$I$上で定義された実数値関数とする。区間$I$の任意の点$a,b$に対して、
$$a< b\Rightarrow f(a)< f(b)$$
が成り立つとき、$f$は$I$上狭義単調増加であるという。
$$a< b \Rightarrow f(a)\leqq f(b)$$
が成り立つとき、$f$は$I$上広義単調増加であるという。
微分可能な関数については導関数の符号を調べることにより、単調性を判定できる。準備として平均値の定理を取り上げる。
$a< b$とし、関数$f$は区間$[a,b]$で連続、$(a,b)$で微分可能であるとする。このとき、
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c),\quad a< c< b
$$
を満たす実数$c$が存在する。
平均値の定理を用いることにより次の事実が示せる。
区間$I$上で定義された連続関数$f$は区間$I$の内部$\mathring{I}$で微分可能であるとする。このとき、
(R1) $f'(x)>0$ $(\forall x\in \mathring{I})$ならば、$f$は狭義単調増加である。
(R2) $f'(x)\geqq0$ $(\forall x\in \mathring{I})$ならば、$f$は広義単調増加である。
(R3) $f'(x)=0$ $(\forall x\in \mathring{I})$ならば、$f$は定数関数である。
最初はこの定理が自明なものに思えるかもしれない。しかし、実数の連続性が関わっている。
$f$は区間$[-1,1]$上の有理数に対して次のように定義されているとする。
$$
f(x)= \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
x \quad (x\text{は}|x|<\frac{1}{\sqrt{2}}\text{を満たす有理数})\\
x-1 \quad (x\text{は}\frac{1}{\sqrt{2}}<|x|\leqq 1\text{を満たす有理数})
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
このとき、任意の$x\in (-1,1)$に対して、
$$
\lim_{h\in\mathbb{Q}, h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}=1>0.
$$
ここで$\displaystyle\lim_{h\in\mathbb{Q}, h\to 0}$は有理数の値だけをとりながら$0$に近づける極限を表す。ところが、$f(2/3)=-1/3<1/3=f(1/3),\; 2/3>1/3$であり$f$は単調増加でない。
この例は有理数の世界では導関数の符号から関数の単調性が導けないことを示唆する。
$f(x)$が狭義単調増加だからといって微分係数の符号が正とは限らない。
$f(x)=x^3$は$f'(0)=0$だが狭義単調増加である。
しかし、次が成り立つ。
区間$I$の内部で微分可能な連続関数$f$に対して、$f$が$I$上で狭義単調増加であるための必要十分条件は$\{x\in \mathring{I}\mid f'(x)>0\}$が$I$で稠密になることである。
証明などは解析入門I(小平著)[5]を参照。
ロピタルの定理はコーシーの平均値の定理を用いて証明されることが多い。そのコーシーの平均値の定理はラグランジュの平均値の定理の一般化である。
$f$, $g$を区間$[a,b]$で連続、区間$(a,b)$で微分可能な実数値関数とする。
$$
(g(b)-g(a))f'(c)=(f(b)-f(a))g'(c)
$$
を満たす$c$が存在する。特に、$g(b)\neq g(a),$ $g'(c)\neq 0$のとき、
$$
\frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}
$$
が成り立つ。
ロピタルの定理といえば、注意したいことがある。
$f, g$は区間$(a,b)$で微分可能で、$b$のある除外近傍で$g'(x)\neq 0$であるとする。このとき、
$$
\lim_{x\to b-0}\frac{f'(x)}{g'(x)}=L\in [-\infty,\infty]
$$
ならば、
$$
\lim_{x\to b-0}\frac{f(x)}{g(x)}=L
$$
が成り立つ。
つまり分母が無限大に発散する場合不定形でない場合でもロピタルの定理を適用できる。
私は桂田先生の
講義ノート
を見て知りました。図書館でいくつか微積分の本を調べてみたところ、参考文献の桂田-佐藤、斎藤、宮島による微積分の教科書には不定形でなくてもロピタルの定理が適用できる主張が書いてありました。次の例は
Wikipedia
で知りました。
高橋先生
も注意していました。
溝口-五十嵐-桂田による教科書にも書いてあるようですね。(図書館に無く確かめていません。)
$f(x)$が微分可能な実数値関数で$\displaystyle\lim_{x\to\infty}(f(x)+f'(x))=0$ならば$\displaystyle\lim_{x\to\infty}f(x)=0$が成り立つ。実際、$f(x)=f(x)e^x/e^x,$ $\displaystyle\lim_{x\to\infty}e^x=\infty$, $(e^x)'=e^x\neq 0$,
$(f(x)e^x)'/(e^x)'=f(x)+f'(x)\to 0 (x\to\infty)$
であるから、ロピタルの定理より、
$$
\lim_{x\to\infty}f(x)=0.
$$
$$
f(c\pm 0):=\lim_{x\to c\pm 0}f(x)
$$
と書く。
$f(x)$と$g(x)$は区間$(a,b)$ $(-\infty\leqq a < b\leqq \infty)$で微分可能な関数とし、$f(a+0)=0$, $g(a+0)=0$または$f(b-0)=0$, $g(b-0)=0$とする。また、$g'(x)>0$ ($\forall x\in (a,b)$)または$g'(x)<0$ ($\forall x\in (a,b)$)であるとする。このとき、$g(x)\neq 0$ $\forall x\in (a,b)$であり、$\frac{f'(x)}{g'(x)}$が狭義単調増加(resp.狭義単調減少)ならば$\left(\frac{f(x)}{g(x)}\right)'>0\;(\text{resp.}\left(\frac{f(x)}{g(x)}\right)'<0)$であり、$\frac{f(x)}{g(x)}$は狭義単調増加(resp.狭義単調減少)である。
$\frac{f'(x)}{g'(x)}$が狭義単調増加の場合:
\begin{align}
g(x)^2\left(\frac{f(x)}{g(x)}\right)'
&=f'(x)g(x)-f(x)g'(x)=h_x(x)
\end{align}
ここで、
$$
h_x(y):=f'(x)g(y)-f(y)g'(x).
$$
$$
h_x'(y)=g'(x)g'(y)\left(\frac{f'(x)}{g'(x)}-\frac{f'(y)}{g'(y)}\right).
$$
$a< y< x< b$のとき、$h_x'(y)>0$, $a< x< y< b$のとき、$h_x'(y)<0$.
$0=\min\{h_x(a+0),h_x(b-0)\}< h_x(x).$
他の場合も同様。
$g'(x)>0,\;\frac{f'(x)}{g'(x)}$が狭義単調増加、$f(a+0)=g(a+0)=0 $の場合.
$a< y< x$とし、コーシーの平均値の定理を用いると、
$$
\frac{f(x)-f(y)}{g(x)-g(y)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}
$$
を満たす$c\in(y,x)$が存在する。$f'/g'$は単調増加であることから、
$$
\frac{f'(y)}{g'(y)}<\frac{f(x)-f(y)}{g(x)-g(y)}<\frac{f'(x)}{g'(x)}.
$$
$g'>0$より、$g(x)-g(y)>0$であり、左側の不等式は、
$$
f'(y)(g(x)-g(y))< g'(y)(f(x)-f(y)).
$$
であるから、$(f(x)-f(y))/(g(x)-g(y))$を$y$に関して微分したものは、
$$
\frac{-f'(y)(g(x)-g(y))+g'(y)(f(x)-f(y))}{(g(x)-g(y))^2}>0
$$
である。$(f(x)-f(y))/(g(x)-g(y))$は$y$に関して狭義単調増加である。$y\to a+0$とすると、
$$
g'(x)(f(x)-f(y))-f'(x)(g(x)-g(y))<0.
$$
$y\to a+0$とすると、
$$
\frac{f(x)}{g(x)}<\frac{f'(x)}{g'(x)}.
$$
すなわち、
$$
f'(x)g(x) - g'(x)f(x) > 0.
$$
したがって、
$$
\left(\frac{f(x)}{g(x)}\right)'=\frac{f'(x)g(x)-g'(x)f(x)}{g(x)^2} > 0.
$$
他の場合も同様。
コーシーの平均値の定理を用いた上記の方法は、$a=-\infty$の場合狭義単調増加であることを言うために少し複雑になった。$-\infty< a$の場合は同様の方法でもっと簡単に示せる。
$f$を$I$上の微分可能な関数、$a,b (a< b)$を$\mathring{I}$の点とする。
$\gamma$が$f(a)$と$f(b)$の間の実数ならば、$f'(c)=\gamma,$ $a< c< b$を満たす$c$が存在する。
実数の連続性の議論や$\epsilon$-$\delta$論法をやっていない、慣れていない場合は次の証明は飛ばした方が良いと思います。
$f'(a)<\gamma< f'(b)$の場合を証明する。$f'(b)<\gamma< f'(a)$の場合も同様である。$g(x)=f(x)-\gamma x$と置く。$f$は微分可能だから連続で$g$も連続である。したがって、$g$は有界閉区間$[a,b]$上で最小値$g(c)$ $(c\in [a,b])$をとる。$c\in (a,b)$であれば、$g'(c)=f'(c)-\gamma,$ $g'(c)=0$、したがって、$f'(c)=\gamma$が成り立つ。$c=a$または$c=b$となることがないことを示せば証明が終わる。$c=a$と仮定する。$f'(a)<\gamma$より$g'(a)<0$である。 $g(a)$が最小値であることから、$0< h< b-a$のとき$(g(a+h)-g(a))/h\geqq 0$であるが、$h\to +0$とすると、$g'(a)\geqq 0$が導かれて、矛盾が生じる。$c=b$と仮定しても同様に矛盾を導くことができる。よって、$c=a$または$c=b$となることはなく、証明が完了した。
命題4を用いるとロピタルの単調性定理は次のように書ける。
$f(x)$と$g(x)$は区間$(a,b)$ $(-\infty\leqq a < b\leqq \infty)$で微分可能な関数とし、$f(a+0)=0$, $g(a+0)=0$または$f(b-0)=0$, $g(b-0)=0$とする。また、$g'(x)\neq 0$ ($\forall x\in (a,b)$)であるとする。このとき、$g(x)\neq 0$ $\forall x\in (a,b)$であり、$\frac{f'(x)}{g'(x)}$が狭義単調増加(resp.狭義単調減少)ならば$\left(\frac{f(x)}{g(x)}\right)'>0\;(\text{resp.}\left(\frac{f(x)}{g(x)}\right)'<0)$であり、$\frac{f(x)}{g(x)}$は狭義単調増加(resp.狭義単調減少)である。
$0< x<\pi$のとき、
$$
\frac{1}{\pi}<\frac{\sin x}{x(\pi-x)}\leqq\frac{4}{\pi^2}
$$
が成り立つ。
\begin{align}
\lim_{x\to 0}x(\pi -x)&=\lim_{x\to 0}\sin x=0,\\
\lim_{x\to \pi}x(\pi -x)&=\lim_{x\to \pi}\sin x=0.
\end{align}
また、
$$
(x(\pi-x))'=\pi-2x\neq 0\quad (x\neq \frac{\pi}{2}).
$$
$$
\frac{(\sin x)'}{(x(\pi-x))'}
=\frac{ \cos x}{\pi-2x}.
$$
$$
\lim_{x\to\frac{\pi}{2}\pm 0}\cos x=\lim_{x\to\frac{\pi}{2}\pm 0}(\pi-2x)=0.
$$
$(1-2x)'=-2\neq 0.$
$$
\frac{(\cos x)'}{(\pi-2x)'}=\frac{\sin x}{2}.
$$
以上の計算より、ロピタルの単調性定理を適用すると、
$\frac{\sin x}{x(\pi-x)}$は$(0,\pi/2]$で狭義単調に増加し、$[\pi/2,\pi)$で狭義単調に減少することがわかる。
$$
\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x(\pi-x)}=\lim_{x\to \pi}\frac{\sin x}{x(\pi-x)}=\frac{1}{\pi}
$$
であり、
$$
\left.\frac{\sin x}{x(\pi-x)}\right|_{x=\frac{\pi}{2}}=\frac{4}{\pi^2}
$$
であるから、
$$
\frac{1}{\pi}<\frac{\sin x}{x(\pi-x)}\leqq\frac{4}{\pi^2},\quad (0< x<\pi)
$$
を得る。
$$ \frac{\sin x \cos^{-1/3} x}{x} $$
$$
(x)'=1\neq 0
$$
$$
\lim_{x\to 0}\sin x\cos^{-1/3} x=\lim_{x\to 0}x=0.
$$
$$
\frac{(\sin x \cos^{-1/3} x)'}{(x)'}
=\cos^{2/3} x + (1/3)(\sin^2 x)\cos^{-4/3} x\\
=(1/3)\cos^{2/3} x(3 + \tan^2 x )
=(2/3)\cos^{2/3} x+(1/3)\cos^{-4/3}x
$$
$$
f(x):=\frac{2}{3}x+\frac{1}{3}x^{-2} \quad (0< x\leqq 1)
$$
$$
f'(x)=\frac{2}{3}-\frac{2}{3x^3}<0 \quad (0< x<1).
$$
よって、$f(\cos x)=(\sin x \cos^{-1/3} x)'/(x)'$は区間$(-\pi/2,0]$で狭義単調減少、$[0,\pi/2)$で単調増加である。ロピタルの単調性定理より、
$$\frac{\sin x \cos^{-1/3} x}{x}
>\lim_{\theta\to 0}\frac{\sin \theta \cos^{-1/3} \theta}{\theta}=1. \quad \left(x\in (-\frac{\pi}{2},\frac{\pi}{2}),x\neq 0\right)$$
すなわち、
$$
\frac{\sin x}{x}>\cos^{1/3}x.
$$
$n$が奇数のとき、
$$
f(x)=\sum_{k=1}^n x^k
$$
は区間$(-\infty,\infty)$上で狭義単調増加である。
$$ f(x)=\frac{x^{n+1}-1}{x-1} -1\; (x\neq 1),\quad f(1)=n $$
$$ \lim_{x\to 1}(x^{n+1}-1)=\lim_{x\to 1}(x-1)=0. $$
$$ (x-1)'=1\neq 0. $$
$$
\frac{(x^{n+1}-1)'}{(x-1)'}=(n+1)x^n
$$
$n$は奇数だからこれは狭義単調増加である。よって、ロピタルの単調性定理より$f(x)$も$(-\infty,1)$と$(1,\infty)$で狭義単調増加である。$f(x)$は連続関数だから、$(-\infty,\infty)$で狭義単調増加である。
$\frac{\log\cos x}{\sin x}$と$\frac{\log\sin x}{\cos x}
=\frac{\log\cos (\frac{\pi}{2}-x)}{\sin (\frac{\pi}{2}-x)}$の大小関係を調べればよい。
$$
\lim_{x\to+0}\log\cos x=\lim_{x\to+0}\sin x=0.
$$
$$
\frac{(\log\cos x)'}{(\sin x)'}
=\frac{-\sin x}{\cos^2 x}
$$
$0< x< y<\pi/2$であれば、
$$
\frac{-\sin x}{\cos^2 x}
>\frac{-\sin y}{\cos^2 x}
>\frac{-\sin y}{\cos^2 y}.
$$
したがって、区間$\frac{-\sin x}{\cos^2 x}$は$(0,\pi/2)$上で狭義単調減少である。よって、ロピタルの単調性定理より、
$$\frac{\log\cos x}{\sin x}$$
も$(0,\pi/2)$上で狭義単調減少である。$0< x<\pi/4$であれば、$0< x<(\pi/2)-x<\pi/2$であるから、
$$
\frac{\log\cos x}{\sin x}>\frac{\log\sin x}{\cos x}.
$$
すなわち、
$$
(\cos x)^{\cos x} > (\sin x)^{\sin x} \quad (0< x<\pi/4).
$$
$\pi/4< x<\pi/2$のときは不等号の向きが逆になる。