本稿では,Missing square puzzleと呼ばれる錯視において,正方形の穴が生じる理由を解説する.
まずは,以下に示す2つの図形を見ていただきたい.
Missing square puzzle(正方形が欠けていない状態)
Missing square puzzle(正方形が欠けている状態)
なんということでしょう.
図1も図2も,4種類の同じ多角形で同じ図形を形作っているはずなのに,図2には正方形の穴ができているではありませんか.
これが,Missing square puzzleである.
本稿の目的は,Missing square puzzleで何が起こっているのかを説明することである.
先ほどの図1と図2に,一本の補助線を引いてみよう.
図1に補助線を引いたもの
図2に補助線を引いたもの
ん?
なんか斜辺ずれてね?
そう,4つの多角形が形作っていた図形は,直角三角形ではなかったのだ.図1では凹四角形,図2では凸四角形が形作られている.それをわかりやすくしたものが,以下に示す図である.
図1が“凹四角形”であることを露骨に表現したもの
図2が“凸四角形”であることを露骨に表現したもの
図5と図6では,4つの多角形が図1と図2とは異なっていることに注意されたい.図6では,斜辺の「歪み」が露骨になった分,図2に比べて「欠け」が大きくなっている.
このように,Missing square puzzleは,直角三角形ではない図形が直角三角形に見えてしまう錯視である.
図2では,大きさがちょうど1マス分の正方形の穴ができている.Missing square puzzleにおいてこのような現象が起こることを,きちんと説明してみよう.
図1と図2で用いられている4つの多角形の面積の和は,
$$
(橙の直角三角形)+(黄の直角三角形)+(図1で青と緑の図形がなす長方形)
=\frac{1}{2}\cdot8\cdot3+\frac{1}{2}\cdot5\cdot2+3\cdot5
=32
$$
である.一方,図1と図2で我々の目に「見え」てしまっている直角三角形の面積は,
$$
\frac{1}{2}\cdot13\cdot5=32.5
$$
である.よって,図3において「補助線」「橙の直角三角形の斜辺」「黄の直角三角形の斜辺」がなす三角形の面積は
$$
32.5-32=0.5
$$
となる.
また,図3で引いた補助線と図4で引いた補助線は同一であるから,図4において「補助線」「橙の直角三角形の斜辺」「黄の直角三角形の斜辺」がなす三角形の面積も$0.5$である.
図3では直角三角形の斜辺にあたる部分が凹み,逆に図4では出っ張っていることから,図1と図2の図形の面積の差は,歪み2つ分,すなわち$2\cdot0.5=1$である.これが,図2で生じている正方形の穴の正体である.