この記事は 物工/計数 Advent Calendar 2022 の14日目の記事です。
この記事では、私の趣味であるジャグリングと数学の関係について説明してみようと思います。
一応Mathlog内にジャグリングと数学の関連性について語った記事がないか確認しましたが0件でした(「juggling」で検索しても0件)。
「ジャグリング」の検索結果
ということはこれがMathlog初のジャグリングについて語った記事なわけですね。
「ジャグリングと数学って全く関係ないのでは?」と思った方も多いかもしれませんが、ジャグリングの技を有限非負整数列で表現する「サイトスワップ」なる概念は非常に重要で、ジャグリング界隈に広く普及しています。
こういった記事を書くのは初めてなので、嘘をいっぱい書いているかもしれません。そのときは教えてください。また、分かりやすく書ける自信はないので、分かりにくい部分は適宜参考文献などを参照してください。
サイトスワップを導入するにあたって、ジャグリングに以下のような制約を課します。
また、投げる物体は何でも良いのですが、ここではボールとして考えます。
1つ1つのボールの軌道を時間軸に沿って表したジャグリングダイヤグラムというものを考えてみます。例として、3ボールカスケード(最も基本的な技)のジャグリングダイヤグラムを描いてみましょう。
3ボールカスケードのジャグリングダイヤグラム
丸はボールを投げるタイミング、その下には左右どちらの手で投げるかを書いています。丸の中の数字は、投げたボールが何拍後にキャッチされるか、曲線はボールの遷移を示しています。この図が1.と2.の条件を満たしていることは容易に分かります。3ボールカスケードでは全てのボールが投げられてから3拍後にキャッチされています。次に、441と呼ばれるパターンのジャグリングダイヤグラムを見てみましょう。
441のジャグリングダイヤグラム
このパターンも条件1.、2.を満たしていることが読み取れます。
条件1.、2.を満たすジャグリングダイヤグラムの丸の数字を周期的にならない最小の長さ(この長さ
サイトスワップには10以上の数字が含まれることもありますが、数字を並べて書いたときに1桁か2桁かを混同してしまうことを避けるため、10以上の数字を
次に、サイトスワップを数学的に定義することを目指します。そのために、いくつかの用語を定義します。
全単射
3ボールカスケードでは、
であることがジャグリングダイヤグラムより読み取れます。
441では、
となります。
では、これらの概念を用いてサイトスワップを定義しましょう。
有限非負整数列
先に挙げた3や441はJugglableな数列です。
531はJugglableな数列です。実際、
a86411はJugglableな数列です。ここで、
ap2022はJugglableな数列ではありません。
例4と5はJugglableか判定するのが難しいですが、次で示す判定法を用いれば容易に判断することができます。
任意の有限非負整数列がサイトスワップになるわけではありません。例えば、21という数列を考えてみましょう。この数列に従ってジャグリングダイヤグラムを考えると次のようになります。
21のジャグリングダイヤグラム?
このダイヤグラムは条件2.を満たしていません。実際、奇数拍で同時に2つのボールをキャッチしていますし、偶数拍では持っていないはずのボールを投げています。よって数列21はJugglableではありません。
定義に沿って数列がJugglableであるかを考えるのは面倒なので、与えられた数列がJugglableであるかを判定する別の方法を考えていきましょう。そのために、2つの補題を示します。
はwell-definedで全単射。すなわち,
補題1より、
補題2はジャグリングパターン
有限非負整数列
が全単射。
(
より、
(
という関数を考え、これがジャグリングパターンとなっていることを示す。
より
あとは
(単射性)
(全射性)
よって、
a86411がJugglableであることを定理1を用いて確かてみましょう。
であるから、
与えられた数列がJugglableであるかは定理3を用いて判定することができるようになりました。しかし、何個のボールが必要なのかを求めることはできません。実際にジャグリングする際に必要なボールの個数をサイトスワップから求めることを考えてみましょう。
その前に、サイトスワップの重要な性質を導きます。
と定義する。このように、数列
同じ名前でややこしいので、この記事では数列を性質を表す方を「サイトスワップ」、数列の変換を表す方を「siteswap」と表記を分けています。
数列
さて、このsiteswapに関して次の2つの定理が成り立ちます。
が成り立つ。すなわち、写像
は、写像
siteswapは数列の平均を保つ。すなわち、
siteswapは数列のJugglable性と平均を保つ変換であることが分かりました。
ここで、また別の操作を定義します。
数列
サイクリックシフトに対しても同様の定理が成り立ちます。
が全単射であることを示せば、
サイクリックシフトは数列の平均を保つ。
サイクリックシフトは数列の順番を入れ替えているだけであるから、数列の平均は保たれる。
ジャグリングダイヤグラムを考えれば、サイクリックシフトがJugglable性を保つことは明らかですね。これで441も414も144もJugglableであることが数学的に示せました。
本題に入る前に補題を示します。
は非負整数である。
よって、
さて、ようやく準備が終わりました。以上の道具を用いて2つの定理を示しましょう。
siteswapとサイクリックシフトは逆元を持つ操作であるから、与えられたJugglableな数列
手順2.で
とすると、
長い道のりでした。これで与えられた数列がJugglableであるか、実際にジャグリングをするには何個のボールが必要なのかを判別できます。ちなみに、補題8は定理3と共にJugglable性の判定によく用いられます。
Jugglableな数列46131が数列33333に変換できることを確かめてみましょう。
数列97531はJugglableな数列であり、
数列97135は
ジャグリングと数学って意外と関わりがあるもので、まだまだ深い繋がりがあります。今回の記事では2つの条件のもと考えましたが、複数のボールを同時に投げる場合や、両手から同時にボールを投げる場合にサイトスワップを拡張することもできます。気になった方はぜひ調べてみてください。
明日はさんよう君がレポートの書き方を見直すようです。 物工/計数 Advent Calendar 2022 はまだまだ続きます。よろしくお願いします。