この記事は
Advent Math Calendar2022
の
組み合わせ問題の典型をいくつかピックアップし, 問題を交えながら解説する記事となっています.
その典型を全く知らない方から, ある程度典型を知っている方まで楽しめるような内容を心掛けました.
また, 組み合わせ典型と言いつつ, 実際には代数や整数分野であるような問題/内容も扱っています.
この記事には初出問題がいくつかあります.
記事の地の文内で解説している問題もあるため, 先に問題だけチャレンジしたいという方は
問題だけを抜き出して記事を用意したのでそちらを参照してください.
AMC day25の問題だけ
また, コンテスト形式で問題を解きたい!! という方は問題の中から抽出した
続いては主客転倒や寄与ゲーと呼ばれるテクニックを紹介します.
これらは若干ニュアンスの違うような気もしますが本質は同じなのでまとめて扱います.
これらの考え方を一言でまとめると, 視点を変える となります.
これだけ言っても何の事やらだと思うのでまずは例題を見てみましょう.
を計算してください.
この問題はシグマの中身だけをちょろっといじってみても和が計算しやすい形にはなりそうにありません.
そこで, 視点を変える主客転倒の考えが活きてきます.
まずこの問題が素直にシグマ内の式変形で解けそうにない原因を考えてみましょう.
(ある方法が上手くいかない原因をはっきりさせるとその後の考察がスムーズにいくというのは全分野共通事項な気がします.)
まず最初の素直な希望として, 内側のシグマだけ計算できないかを考えます.
ちょっと試してると, 分母の異なる分数を足し上げるのが困難そうです. 望遠鏡和のようなテクもダイレクトには効きそうにないです.
ここで考えるのが視点を変えるということです.
それは, "分母の異なる分数を足し上げるのが大変なら分母が等しい数たちをまず足し合わせればよいのでは??" という発想です.
分母が等しい数たちを先に足す方針を考えてみましょう.
以下の表は,
↓ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 1000 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 999 | |
2 | 1 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 998 | |
3 | 2 | 1 | 0 | 1 | 2 | 3 | 997 | |
4 | 3 | 2 | 1 | 0 | 1 | 2 | 996 | |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 | 1 | 995 | |
6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 | 994 | |
1000 | 999 | 998 | 997 | 996 | 995 | 994 | 0 |
これをみると, 斜めに同じ値が並んでいることが分かります.
この
さて, 問題文の式
を今数え上げた
あら不思議, 複雑そうな式がするすると計算できてしまいました.
今回の解法を振り返ると,
でした. このように, 問題文で与えられたそのままを扱うと困難なものをまさに別の角度から解きなおすというのが主客転倒の考え方の肝となります.
もう一問例を見てみましょう.
正整数
やや恣意的に作られた問題なので折り畳みでヒントを置いておきます.
これも表を書いて視点を変えるという事をしましょう.
下の表は各
↓ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 10000 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
2 | 0 | 2 | 0 | 2 | 0 | 2 | 2 | |
3 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 3 | 0 | |
4 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 0 | 4 | |
5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 5 | |
6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 6 | 0 | |
10000 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 10000 |
この表を縦方向に足し合わせて見ると,
特に, 表の数字を全て足し合わせると,
視点を変えます.
今度は, 表を横方向に足してみましょう.
各
特に, 表の数字を全て足し合わせると,
表を横に足してから縦に足した値と, 縦に足してから横に足した値は等しいので,
です.
従って, 求める答えは,
この問題も,
この章の最後に演習問題として, OMCで実際に出題された問題を紹介します.
足し合わせる方向を変えるという事を意識して考えてみてください.
ただし, この平均値は整数値になることが証明できます.
問題へのリンク
正整数
増加的な正整数は有限個しか存在しません.それらすべてについて総和を求めてください.
問題へのリンク
この章では包除原理を説明します.
包除原理が適用されやすいのは, 「条件
まずは簡単な条件が
まず簡単に分かる事として,
です.
ここから,
なぜなら,
実際,
となり,
以上の事から,
ここでも先の章と同じく, うまくいかない原因が明確に分かっているのでそれを解消する方向で考えてみましょう.
すると, やりたいことはとても単純で, 足しすぎたのなら余剰分を引けば良いのです.
そして今回はまさに余剰分が
つまり,
包除原理を説明する上でベン図が良く用いられるので, そちらも紹介します.
包除原理(条件2つ)
これを式で表すと, 以下の通りです.
この時,
先ほどの例で言うと,
それでは次に条件を3つに増やしてみましょう.
です.
今回も, 単純に
先ほど同様,
であるので,
これで重複は取り除けたでしょうか.
表を書いて確認してみましょう.
以下の表は,
2の倍数 | 3の倍数 | 5の倍数 | 2の倍数に+1 | 3の倍数に+1 | 5の倍数に+1 | 6の倍数に-1 | 10の倍数に-1 | 15の倍数に-1 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
o | o | o | 1 | 1 | 1 | -1 | -1 | -1 | 0 | ||
o | o | x | 1 | 1 | 0 | -1 | 0 | 0 | 1 | ||
o | x | o | 1 | 0 | 1 | 0 | -1 | 0 | 1 | ||
o | x | x | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | ||
x | o | o | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | -1 | 1 | ||
x | o | x | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | ||
x | x | o | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | ||
x | x | x | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
この表をみると,
つまり,
を足せば過不足なく計算ができることが分かります.
よって, 答えは
これもベン図で確認をします.
包除原理(条件3つ)
線で区切られた各部分が丁度1回ずつ足されているのを確かめてみてください.
この時,
条件が2つ,3つ...と来たので次は一般の場合の包除原理を紹介します.
この時,
が成り立つ.
見た目がとても厳ついですが, やっていることは足してから重複を取り除いて, 取り除きすぎた所を足して, また引いて...を繰り返しているだけです.
となり, 確かに上の方で具体例から導いた式と一致している.
帰納法を用いる.
が成り立つとする.
また,
よって示された.
かなりごつい式なので補足します.
ここで
これらを足し合わせると全ての
さてここまで一般の包除原理を紹介しましたが, 競技数学でこの一般の形の包除原理をやるだけという問題はあまり見ないと思います.
というのも,包除原理右辺のシグマは
実際,
そのため, 手計算で答えを求める類の問題で登場する包除原理は何らかの特殊な形をしていることが多いです.
特殊というのは例えば, "実は大半の部分が消える", "二項係数の計算などに帰着できる" , "集合の大きさに一様性がある" 等様々です.
ここでは, "集合の大きさに一様性がある" 場合にどうなるかを見ていきます.
証明については,
包除原理はある種の一般化をすることが出来ます.
ここで,
一般の文脈では加法的集合関数はもう少し広く扱える定義がされます. 今回のはその特別な場合です.
記号の定義は包除原理の時と同じとする.
証明は大部分が通常の包除原理と同じであるので以下に証明のヒントだけ記載して, 細部は省略します.
証明のヒント
さらに各右辺に表れる集合はそれぞれ互いに素.(共通部分をもたない)
次は知識の典型ではなく, 考え方の典型です.
数え上げでは個々を追うと計算が大変でも, 全体でみると計算がしやすい方法があるというのは主客転倒章でも触れたことです. この章ではそこに再び焦点をあてます.
まずは以下の問題を考えてみましょう.
よって, 各位の数の和が
各位の数の和が
素直に計算しようとすると大変そうですね. そこで, 対象を纏めるという事をします.
具体的には,
すなわち, 非負整数
逆に各位の数の和が
よって, 各位の数の和がそれぞれ
従って, 各位の数の和が
各位の数の和が
よって各位の数の和が
この問題は包除原理の章の最後に紹介した問題の制約が大きいverです.
つまり, 包除原理を用いることで解くことができますが, それは恐らくかなりの計算が必要となってしまいます.
そこで, 対称性を利用した解き方を紹介します.
この時,
つまり,
総和=平均値*要素数ですので, 後は
よって
となります.
ここまでは数え上げる対象がバラバラで, それを纏める事で数えやすくするという事を考えてきました.
この章の最後にその逆である数えるべき対象がまとまっているので, バラバラの状態に一旦落とし込むタイプの問題を紹介します.
かなりお気に入りの一問です.
ただし玉
問題へのリンク
数え上げの問題では二項係数が度々登場します.
この章では二項係数に因む等式をその導出の道具ごとにいくつか紹介します.
なお実際には素朴な定義等から示した方が早く, 楽な等式もありますが, ここでは分類上難しい方法で示している場合があります. 余力のある方は楽な方法も考えてみてください.
この章では二項係数を
また, 特筆されていない場合全て
多項式, とりわけ二項定理から二項係数の面白い性質が色々と現れます.
例えば,
を得ます.
さらに, 定理1は多項式であるので, 微積分ができます.
定理1の両辺を
ここに再び
となります.
今度は等式1の両辺を
ここに三度
となります.
各式をさらに積分したり,
皆さんもガチャガチャ式をいじってみて好きな等式が出来たら是非tweetでもしてください.
組み合わせの本筋から外れますが, 二項係数で問題を作ろうとしてちょっと面白い等式が作れたので観賞用問題として紹介します. (初手発想ゲーです.)
を示してください.
を満たす互いに素な正整数
二項係数がらみの問題を2通りの解釈で解くことによって二項係数間の等式を示すことができることがあります.
ここでは汎用性の高そうな2つの等式を紹介します.
正整数
例えば
という有名等式が得られます.
ヴァンデルモンドの畳み込みをある問題の答えを2通りに表すことによって示します.
AMC高校には
計
この問題を解く
クラス分けを無視すると, この問題は単に
次にクラスごとに考えてみましょう.
これを
ここで2通りの表示で得た値は同じ問題の答え(すなわち同じ値)であるので, ヴァンデルモンドの畳み込みが示されました.
続いての等式を紹介します.
この恒等式を経路問題を
まず
次に, ひねくれた解き方をします.
よって, この
となります.
ここで2通りの表示で得た答えは同じ値であるので, ホッケースティック恒等式が示されました.
を示してください.
この章の後半では組み合わせ論チックでは無いですが短答式のOMCで役に立つかもしれない二項係数の定理を紹介します.
この時,
となり,
とする.
この時,
に注意する.
である.
各
である.
よって, これを
(下から数行目が表示上切れていますが, 上段は繰り上がる, 下段は繰り上がらないです.)
とする.
この時,
が成り立つ.
ここで紹介した公式や定理の中には多項係数
に関する公式や定理に一般化が出来るものがあります.
是非考えてみてください.
ここまでお読みいただきありがとうございます.
まだまだ書きたいことはたくさんありましたが, 書き切れなかったのでそれはまたの機会に回そうと思います. (FPSについても書きたかった......)
皆さんも年末年始に是非組み合わせ問題をしましょう!!