はじめに
ここでは, 二項係数に関する次の等式を, 組合せ論的な方法を用いて証明していきます.
ここで, は個から個を選ぶ組合せの数(二項係数), は以下最大の整数, は番目のフィボナッチ数, は番目のリュカ数を表します.
これに似た有名な等式として
がありますが, 上の等式は下の等式の証明を出発点として導出することができます.
方針や補題について
まず, 次の組合せについての補題を考えます.
黒と白のいずれかで塗られた合計個の玉を, 以下の「条件1」を満たすように横一列に並べる方法は通りある. ただし, 同じ色の玉どうしは区別しない.
「条件1」
・黒玉の右隣には白玉がある.
たとえば,(白, 黒, 白)や(黒, 白, 黒, 白, 白)のように並べたものは「条件1」を満たしますが,(白, 黒)や(黒, 黒, 白)などは「条件1」を満たしません.
個の玉について, あり得る並べ方の総数をとする. 個の玉が「条件1」を満たすとき, 最も左にある玉の色が
・白ならば, 残りの個の玉が「条件1」を満たす.
・黒ならば, その右隣に白玉があり, 残りの個の玉が「条件1」を満たす.
よって, 並べ方の総数について, が成り立つ. また, 実際に並べてみることでがわかるから, を得る(初項の決め方がの定義よりも1項分ずれているから).
ここで, を別の方法で求めてみます. 個の玉のうち黒玉の個数をとすると, 白玉の個数はです. これらが「条件1」を満たすためには2つの白玉の間あるいは左端に黒玉を配置すればよく, その方法は通りあります. また, 黒玉が連続しないためのの範囲はなので, この範囲に渡るについて足し合わせれば
が成り立ちます. のときはと約束すれば, 以上の議論から次の結果を得ます.
二項係数の和がフィボナッチ数になるなんて、とても面白い性質です!
次の補題は数学的帰納法を用いることで示されます.
最後に, 玉の並べ方について新たな条件を導入し, それを満たす並べ方の総数について次が成り立つことを示します.
黒, 白, 赤のいずれかで塗られた個の玉を, 以下の「条件2」を満たすように横一列に並べる方法は通りある. ただし, 同じ色の玉どうしは区別しない.
「条件2」
・黒玉の右隣には白玉がある.
・赤玉がちょうど個あり, その右隣には白玉がある.
たとえば,(赤, 白, 白)や(黒, 白, 赤, 白)などは「条件2」を満たしますが,(赤, 黒, 白),(黒, 白, 白),(赤, 白, 赤, 白)などは「条件2」を満たしません.
個の玉について,「条件2」を満たす並べ方の総数をとする. 個の玉が「条件2」を満たすとき, 最も左にある玉の色が
・白ならば, 残りの個が「条件2」を満たす.
・黒ならば, その右隣に白玉があり, 残りの個が「条件2」を満たす.
・赤ならば, その右隣に白玉があり, 残りの個が「条件1」を満たす.
よって, 補題1よりが成り立つ. 実際に並べてみるとであるから, これらと漸化式を合わせてと定めることができる. 補題3を用いて漸化式を変形すると, に対して
が成り立つ. また, 主張はのときも成り立つ.
ただし, であり, フィボナッチ数やリュカ数に関する公式
などを用いました.
目標の等式の証明
個の玉のうち黒玉と赤玉の個数の合計をとすると, 白玉の個数はである.「条件2」を満たすようにこれらを並べるには, 2つの白玉の間あるいは左端に白でない玉を配置すればよい. そのようにして白でない玉を置く場所の選び方は通りあり, そこからさらに赤玉の場所を選ぶ方法は通りある. に気を付けて足し合わせれば, 並べ方の総数は
であるから, 補題4よりに対して主張を得る. また, 主張の等式はのときも成り立つ.
一般化など
以上の方法において赤玉の個数をとすれば, 次の性質を示すことができます.
すべての非負整数に対して
とおくと, 次が成り立つ.
ただし, のときはと定義します.
非常に大変な計算になりますが, 具体的にについて求めてみると次のようになります. 実際にを代入してみると成り立っていることが確認できると思います.
また, のについての母関数は次のようになることがわかっています.
おわりに
以上になります. 無事, 年に一度(二年目)の記事更新をすることができました. 来年はもうちょっと書きたいですね. ご指摘・ご質問があればお気軽にコメント欄までよろしくお願いいたします. ここまでお読みいただきありがとうございました!