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高校数学解説
文献あり

高校数学の積分でマクローリン展開を導く

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$$\newcommand{abs}[1]{\left|{#1}\right|} \newcommand{fracc}[1]{\frac{1}{#1}} \newcommand{lb}[0]{\\\quad=} $$

はじめに

こんにちはつくつくです.
以下の有名な式がありますね.

$$ \sin{x} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nx^{2n+1}}{(2n+1)!} = x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots \\ \cos{x} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nx^{2n}}{(2n)!} = 1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots \\ e^{x} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{n}}{n!} = 1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots \\ \log{(1+x)} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nx^{n+1}}{n+1} = x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}-\cdots \quad (-1\lt x\leq1) $$

マクローリン展開です. これは一般的には大学数学の内容として扱われるものですが, 実は高校数学でも導くことができます.

ということで, 今回はタイトルにもある通り数Ⅲの積分(と極限)を用いて上に挙げた式をそれぞれ示していきます.

証明

読みやすさを考慮して, 上に挙げた順ではなく$\log{(1+x)}→e^x→\sin{x}→\cos{x}$の順で書くことにします.

$\log(1+x)$

$p$を正の定数, $-1 \lt t \leq 1$として
$$ R_{n}(t) = \fracc{1+t^p} - \sum_{k=0}^{n-1}(-t^p)^k = \fracc{1+t^p} - \frac{1-(-t^p)^n}{1+t^p} = \frac{(-1)^nt^{np}}{1+t^p} $$
とします. このとき$-1 \lt x \leq 1$なら
$$ \int_{0}^{x}R_{n}(t)dt \lb \int_{0}^{x}\fracc{1+t^p}dt - \int_{0}^{x}\sum_{k=0}^{n-1}(-t^p)^kdt \lb \int_{0}^{x}\fracc{1+t^p}dt - \sum_{k=0}^{n-1}(-1)^k\int_{0}^{x}t^{kp}dt \lb \int_{0}^{x}\fracc{1+t^p}dt - \sum_{k=0}^{n-1}(-1)^k\frac{x^{kp+1}}{kp+1} $$
であり, また
$$ \abs{\int_{0}^{x}R_{n}(t)dt} \\\quad \leq \int_{0}^{x}\abs{R_{n}(t)}dt\lb \int_{0}^{x}\abs{\frac{(-1)^nt^{np}}{1+t^p}}dt \lb \int_{0}^{x}\frac{t^{np}}{1+t^p}dt $$

ここで, $t$が積分範囲にあるとき$\fracc{1+t^p}$は上から定数$c$で抑えられるので

$$ \int_{0}^{x}\frac{t^{np}}{1+t^p}dt \\\quad \leq \int_{0}^{x}ct^{np}dt \lb \frac{cx^{np+1}}{np+1} → 0\ \ (n → \infty) $$

以上より,
$$ \lim_{n \to \infty} \int_{0}^{x}R_{n}(t)dt = 0 $$
すなわち
$$ \lim_{n \to \infty} (\int_{0}^{x}\fracc{1+t^p}dt - \sum_{k=0}^{n-1}(-1)^k\frac{x^{kp+1}}{kp+1}) = 0 $$
となり,
$$ \int_{0}^{x}\fracc{1+t^p}dt = \sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{np+1}}{np+1} $$
が示されます.

ここで$p=1$とすると, 求めていた式
$$ \log{(1+x)} = \sum_{n=0}^{∞}\frac{(-1)^nx^{n+1}}{n+1} $$
が得られます.

補足
$p=2$とすると$\arctan{x}$のマクローリン展開も得られます.

$e^x$

$$ a_{n} = \int_{1}^{e}t^{-x-1}(\log{t})^{n}dt \quad(x≠0) $$
とします.
部分積分により,
$$ a_{1}\ = \int_{1}^{e}t^{-x-1}\log{t}dt \lb [-\fracc{x}t^{-x}\log{t}] + \fracc{x}\int_{1}^{e}t^{-x-1}dt \lb -\fracc{xe^{x}} + \fracc{x}[-\fracc{x}t^{-x}] \lb -\fracc{xe^{x}} - \fracc{x^2}(\fracc{e^x}-1) \lb -\fracc{xe^{x}} - \fracc{x^2e^x} + \fracc{x^2} $$
$$ a_{n+1} = \int_{1}^{e}t^{-x-1}(\log{t})^{n+1}dt \lb [-\fracc{x}t^{-x}\log{t}] + \frac{n+1}{x}\int_{1}^{e}t^{-x-1}(\log{t})^{n}dt \lb -\fracc{xe^{x}} + \frac{n+1}{x}a_{n} $$
となります.

上の漸化式から$a_{n}$の一般項を求めにいくんですが, 少し複雑な形をしていので工夫が必要ですね.
$a_{n}=\fracc{2}a_{n}+1$のような形の漸化式では, 両辺に$2^{n+1}$をかけることで$b_{n}=2^na_{n}$という数列に関する簡単な漸化式が得られました.
また$a_{n+1}=\frac{a_{n}}{n+1}$のときは両辺に$(n+1)!$をかけることで$(n+1)!a_{n+1}=n!a_{n}=\cdots=a_{1}$すなわち$a_{n}=\frac{a_{1}}{n!}$と計算することができます.

今回の漸化式はこの2つを合わせた形になっているので, これらの工夫を組み合わせることで計算ができそうです.
実際上式の両辺に$\frac{x^{n+1}}{(n+1)!}$をかけると次のようになります.
$$ \frac{x^{n+1}a_{n+1}}{(n+1)!} = \frac{x^{n}a_{n}}{n!} - \frac{x^{n}}{(n+1)!e^{x}} $$
よって
$$ \frac{x^{n}a_{n}}{n!} = xa_{1} - \sum_{k=1}^{n-1}\frac{x^{k}}{(k+1)!e^{x}} \\ \quad\quad = -\fracc{e^x} - \fracc{xe^x} + \fracc{x} - \sum_{k=1}^{n-1}\frac{x^{k}}{(k+1)!e^{x}} $$
両辺に$xe^x$をかけて少し整理すると,
$$ \sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!} = e^x - \frac{x^{n+1}a_{n}}{n!}e^x $$
となります. $\Sigma$の中身や範囲が微妙に変わっていることに注意してください.

ここまで来たらほとんどゴールです. 極限をとりたいので, 右辺の第2項の極限値を調べるために$a_{n}$の評価をしましょう.

$a_{n}$の定義を再掲しておきます.
$$ a_{n} = \int_{1}^{e}t^{-x-1}(\log{t})^{n}dt \quad(x≠0) $$
$1\leq t \leq e$のとき$0\leq (\log{t})^n \leq 1$なので
$$ \int_{1}^{e}t^{-x-1}\cdot0dt \leq a_{n} \leq \int_{1}^{e}t^{-x-1}\cdot1dt \\ 0 \leq a_{n} \leq \frac{e^x-1}{xe^x}\ \ (nに関して定数) \\ 0\leq \frac{x^{n+1}a_{n}}{n!}e^x \leq \frac{e^x-1}{x}\cdot\frac{x^{n+1}}{n!}→0\ \ (n→∞) \\ よって\ \lim_{n \to \infty} \frac{x^{n+1}a_{n}}{n!}e^x=0\ です. $$
これより$\sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!}$が収束することが言えて,
$$ \lim_{n \to \infty}\sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!} =e^x \quad すなわち\ e^x = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!} $$
がとなります.
ここまでは$x≠0$のときでしたが, $x=0$のときも
$$ e^{0}=1=1+0+\frac{0}{2!}+\cdots $$
なので$\mathscr{O} \mathscr{K}$です.
以上より任意の実数$x$に対して
$$ e^{x} = \sum_{n=0}^{∞}\frac{x^{n}}{n!} = 1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots $$
が成り立つことが示されました.

$\sin{x}\ , \cos{x}$

この2つはまとめて示します.
$$ I_{n}=\int_{0}^{x} t^{2n}\cos{t}\ dt \\ J_{n}=\int_{0}^{x} t^{2n}\sin{t}\ dt $$
と置いて, $e^x$のときと全く同じことをします.

本当にやることは同じなので途中計算を省略すると,
$$ \frac{(-1)^{n}I_{n}}{(2n)!} = 1 - \sin{x}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!} - \cos{x}\sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!} \\ \frac{(-1)^{n}J_{n}}{(2n)!} = \sin{x}\sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!} - \cos{x}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!} $$
となります. ここで左辺はともに$n→\infty$$0$に収束します.

上式において, すぐに$n→\infty$として
$$ 0 = 1 - \sin{x}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!} - \cos{x}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!} \\ 0 = \sin{x}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!} - \cos{x}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!} $$
とするのは誤りです. なぜなら現段階ではこの式に含まれる級数が収束するか分からないからです.
$e^x$のときにわざわざ
$$ \sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!} = e^x - \frac{x^{n+1}a_{n}}{n!}e^x $$
としたのもこれを意識してのことです.

以下では式が煩雑になるのを防ぐために
$$ c_{n} = \frac{(-1)^{n}I_{n}}{(2n)!}\ ,\ d_{n} = \frac{(-1)^{n}J_{n}}{(2n)!} \\ A_{n} = \sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!}\ ,\ B_{n} = \sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!} $$
とします. このとき,
$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A_{n}\sin{x} + B_{n}\cos{x} = 1 - c_{n} \\ A_{n}\cos{x} - B_{n}\sin{x} = -d_{n} \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
となるので, これを$A_{n}\ ,\ B_{n}$に関する連立方程式だと思って解くと,
$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A_{n} = \sin{x} - c_{n}\sin{x} - d_{n}\cos{x} \\ B_{n} = \cos{x} - c_{n}\cos{x} + d_{n}\sin{x} \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
となります.
$n→\infty$のとき$c_{n}→0$, $d_{n}→0$であることを思い出すと, 上式の極限をとることで,
$$ \lim_{n \to \infty}A_{n} = \sin{x}\ \ , \ \lim_{n \to \infty}B_{n} = \cos{x} $$
すなわち
$$ \sin{x} = \sum_{n=0}^{∞}(-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!} \\ \cos{x} = \sum_{n=0}^{∞}(-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!} \\ $$
が言えます. これで全ての証明が終わりました. やったね.

おわりに

一般的には大学数学の内容とされるものが実は高校数学でも扱えるというのは往々にしてある話で, 最近知ったんですがバーゼル問題(平方数の逆数の無限和は$\frac{\pi^2}{6}$に一致する)の証明が誘導付きで入試問題に出たこともあるそうです. こういうのを見ると「数Ⅲやるじゃん」って気持ちになります.
また今回紹介した証明について, $e^x$, $\sin{x}$, $\cos{x}$の分は私が考えたものなんですが, $\log{(1+x)}$の分は駿台の高2エクストラ数学αという講義のテキストに載っていた問題を少しアレンジしたものです. アレンジとは言っても元の問題では積分範囲が$0$から$1$だったのを, $0$から$x$に変えただけです.
今回の記事はこれで終わりです. ここまでお読みいただきありがというございました. また別の記事でお会いしましょう.

参考文献

投稿日:202316
更新日:2023125

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