弱い形のスターリングの公式の別証明を思いついたので書きます。
ある正の実数$ A $と$ B $が存在し、十分大きい$ n $に対して
$$ A < \frac{n!}{n^{n+\frac{1}{2}}e^{-n}} < B $$
が成り立つことを証明せよ。
階乗を上下から近似することによって証明します。
階乗を上から抑える
\begin{align*} & \log(n!) \\ =& \log{1}+\log{2}+ \cdots + \log{(n-1)} + \log{n} \\ <& \int_1^n \log x dx + \log{n} \\ =& n\log{n} - n + 1 + \log{n} \\ =& (n+1) \log{n} + (-n+1) \end{align*}
として上から抑えられます。今後の議論のために、もう少し精密に評価します。そのために、この緑の三角形たちの面積の総和を求めます。
階乗を上から抑える(2)
整数$ k \geq 1 $に対し、$ k \leq x < k+1 $の部分の面積は
$$ \frac{1}{2} \cdot 1 \cdot (\log{(k+1)} - \log{k}) $$
なので、望遠鏡和の原理により、緑の三角形たちの面積の総和は
$$ \frac{1}{2} \cdot 1 \cdot (\log{n} - \log{1}) = \frac{1}{2} \log{n} $$
となります。そのため、
$$ \log(n!) + \frac{1}{2} \log{n} < (n+1) \log{n} + (-n+1) $$
すなわち
$$ \log(n!) < \left(n+\frac{1}{2}\right) \log{n} + (-n+1) $$
となります。
階乗を下から抑える
\begin{align*} & \log(n!) \\ =& \log{1}+\log{2}+ \cdots + \log{n} \\ >& \int_1^n \log x dx \\ =& n\log{n} - n + 1 \\ =& n \log{n} + (-n+1) \end{align*}
として下から抑えられます。また、
階乗を下から抑える(2)
整数$ k \geq 1 $に対し、$ k \leq x < k+1 $の部分の面積は
$$ \frac{1}{2} \cdot \frac{\log{(k+1)} - \log{k}}{1/k} \cdot \left(\log{(k+1)} - \log{k}\right) = \frac{1}{2} k (\log{(k+1)} - \log{k})^2 $$
で与えられます。この合計を下から抑えます。
$ a > 0 $を定数とし、
$$ g(x) = \log{k + x} - \left( \log{k} + \frac{1}{k}x - \frac{1}{ak^2} x^2 \right) $$
とすると、$ a < 2 $のとき$ g(0) = g'(0) = 0, g''(0) < 0 $より任意の$ x $で$ g(x) > 0 $であり、$ a = 2 $のとき$ g(0) = g'(0) = g''(0) = 0, g'''(0) > 0 $より任意の$ x $で$ g(x) > 0 $であることがわかります。
そのため、$ a = 1 $とおくことで
\begin{align*} & \frac{1}{2} k (\log{(k+1)} - \log{k})^2 \\ >& \frac{1}{2} k \left(\frac{1}{k} - \frac{1}{k^2} \right)^2 \\ >& \frac{1}{2} \left( \frac{1}{k} - \frac{2}{k^2} + \frac{1}{k^3} \right) \\ >& \frac{1}{2} \left( \frac{1}{k} - \frac{2}{k^2} \right) \\ >& \frac{1}{2k} - \frac{1}{k^2} \end{align*}
がわかります。一番下の式を$ S(k) $とおきます。
微分により、$ k > 4 $で$ S(k) $が単調減少であることがわかるので、$ n > 4 $とし、$ k = 1, 2, 3 $のときの$ S(k) $の総和を$ D $と置きます。$ D $は定数です。
このとき、
\begin{align*} & \text(緑の三角形の面積の総和) \\ >& \sum_{k=1}^{n-1} S(k) \\ =& D + \sum_{k=4}^{n-1} S(k) \\ >& D ; \int_{k=4}^{n} S(k) \\ =& D + \frac{1}{2} \log{n} - \frac{1}{2} \log{4} + \frac{1}{n} - \frac{1}{4} \\ >& \frac{1}{2} \log{n} + \frac{1}{n} - 1.5 \\ >& \frac{1}{2} \log{n} - 1.5 \end{align*}
なので、
$$ \log{(n!)} - \left( \frac{1}{2} \log{n} - 1.5 \right) > n \log{n} + (-n+1) $$
すなわち
$$ \log{(n!)} > \left(n+\frac{1}{2}\right) \log{n} + (-n-0.5) $$
となります。
上下それぞれからの評価の式の指数を取る($ \lambda x. e^x $を適用することです。「対数を取る」に比べて頻度の低い言い方ですが、用例は存在します)ことで、
$$ n! < n^{n + \frac{1}{2}} e^{-n} \cdot e $$
$$ n! > n^{n + \frac{1}{2}} e^{-n} \cdot e^{-0.5} $$
がわかります。よって、$ A = e^{-0.5}, B = e $とおくことで、題意が示せました。
正確には$ A $や$ B $の値は$ \sqrt{2 \pi} $にいくらでも近づけられるようです。