はじめに
『初等幾何の観点から「軌跡と領域」を嗜む』などと大層なタイトルを掲げてしまいましたが,要するに初等幾何的な別解を考えようという記事です.元の解法よりも遠回りなものもあるかもしれませんが,面白いのでよかったらみていって下さい!それではよろしくお願いします.
軌跡と領域を初等幾何でねじ伏せよう
アポロニウスの円
有名問題
平面上に二点をとる.からの距離の比がそれぞれであるような点の軌跡を求めよ.
まずは,ウォーミングアップに定番の初等幾何的解法を紹介していきます.
直線をに内分する点を,外分する点をとする.この時,をを満たすような点とします.するととなるので角の二等分線となるわけです.よって,が成り立っているならば必然的にであるからはを直径とする円上にあるというわけです.(逆は簡単に確認できます.)
アポロニウスの円めっちゃ好き
相似拡大
有名問題
単位円:上に点をとる.が上を動く時,の中点の軌跡を求めよ.
はを中心にを倍に拡大した点であるから,その軌跡はをを中心に倍に拡大したものとなります.よって,が求める軌跡です.
相似拡大いっぱいちゅき
円
有名問題
とし,に関してと対称な点をとする.が任意の実数をとるとき,の軌跡を求めよ.
対称移動した点であるからが常に成り立つのではを中心とする半径の円上にあることがわかります.よって,軌跡はの一部(もしくは全部)であることがわかります.逆に,上以外の任意の点においては題意を満たすが存在するので求める奇跡はの以外の部分になります.
定義から円を考える
放物線+相似
全ての放物線は相似なのです!
ポイント:任意の放物線は相似の関係にあるのでの場合についてのみ考える
まずは,における接線を考えます.微分して,を得ます.これの法線を考えるとを得ます.ここで,焦点を,法線に関してと対称な点をとし,に関してと対称な点をとします.
このとき,であるのでを得ます.また,法線とは直行するのでと法線は平行となります.よって,の式はであることがわかります.あとは,この直線を通る点が一つ分かればの値が定まります.
をから軸へ下ろした垂線の足とし,をの交点とします.この時,となるのでを得ます.よって,はの中点となるわけですね.以上より,はを通るのでを得ます.よって準線の式はとなります.
との相似比はであるので一般にの準線の式はとなります.
放物線を幾何的に見るの最高に楽しい
放物線+相似2
有名問題
放物線上に相異なる二点をとった時,それらの接線が点で直交した.の軌跡を求めよ.
これも気持ちよく初等幾何的に解けます!
焦点を,準線をとし,から準線へと下ろした垂線の足をとします.問題2でやった通り,を得ます.よって,四角形は長方形となります.また,定義よりであるのではそれぞれの中点となります.すなわち,は軸上に位置することになります.よって問題を以下のように言い換えることができます.
を固定した長方形はを軸上に持つ.このとき,の軌跡を求めよ.
長方形の対角線がそれぞれ中点で交わることより,求めるの軌跡は準線となります.
放物線気持ちいいいいい!
長方形!
方べきの定理
京大1997
単位円:上の点をとり,定点からへ線分を引き,その線分のの側の延長線上に点をとなるようにとる.が上を動くとき,の軌跡を求めよ.
まずは,方べきの定理で長さの情報を出していきます.を得ます.一方でであることからを得ます.つまり,であるので方べきの定理を再び適用することによりを得ます.
上の議論から,常にが成り立っていることがわかります.よって,の軌跡はを中心とする半径の円の一部(あるいは全部)ということになります.は直線上にあることから,直線が取りうる範囲内かつ上である必要があります.逆にそのような範囲内では題意を満たすことが容易にわかります.よって答えは上の座標が以上の部分となります.
方べきの定理!!
接線で挟もう!!!
円周角の定理+平面の場合分け
東大2008
座標平面上の三点に対し,をみたす点の軌跡を求めよ.ただし,とする.
これは座標で解くのはちょっと重そうな問題ですよね.ちなみに,こういった構図がシンプルな奇跡と領域の問題は大抵初等幾何で解けます.
まず,この図を見たときに図のように点を取ればが三角形のとなり,Symmedianの構図なので,角の二等分線が登場しそうだなと発想することができます.よって,の外接円をメインに議論を進めていきましょう.(Symmedianが背景にあることを強調したいのでこのように書きましたが,円周角の定理に気づくことでも発想できます.)
の外接円をとします.ここで,軸上の点,軸上の点のうち線分でないものは明らかに解であるので以下では除外して考えていきます.
case1.,かつ上の点
まずは,かつ上の点を考えます.これは円周角の定理より題意を満たします.
case2.上のでない点
はcase1で定めたものとします.上のでない点を考えます.ここで,と仮定します.すると,と併せてを得ます.すなわち,であるから,を得ます.これは仮定に矛盾するので上のでない点は題意を満たしません.
case3.直線に関してを含まない側かつ直線に関してを含む側にある点
このとき,となるので不適です.
case4.直線に関してを含まない側かつ直線に関してを含む側にある点
case3と同様.
Symmedianの知識から攻略のヒントが見える!!
正三角形を作る+相似変換
問題8を@aburi_roll_cakeさんから教えていただきました.ありがとうございます!
@aburi_roll_cake
長方形はを満たす.点が頂点から出発して以下の条件を満たしながら移動するとき,頂点へ到達する時間が最短の経路を求めよ.
条件:辺上では速さで移動し,それ以外では速さで移動する.
微分したくなるけど,これが回避できるらしい!すごすぎ!!この問題は辺の上をいい塩梅で伝って効率よく反対の頂点へ行く方法は?ということを聞いているのですね.
「辺を伝う」→「へと直進する」の流れ(どちらかのステップがない場合もある)が最短経路であることがわかります.まず,を伝っていく方法を考えてみましょう.辺上の点で方向転換するとします.の長さの最小値を計算すれば良いことになります.という長さは初等的に扱いづらいので,をに関して対称移動させた点をとしての長さを計算することにします.が軸上を動く時,がなす軌跡はとなります.ここで,が扱いにくいので正三角形を作って情報を移してみます.なのでを最小化すれば良いことがわかります.がなす軌跡が知りたいのでとの関係を見てみましょう.はをを中心に時計回りに回転させて倍に相似拡大した点となります.よって,の軌跡がなのでの軌跡はとなります.問題を簡略化することができましたね!
から直線への最短距離はとなり,それはの時に実現できるのでこの場合の最短時間経路の長さはとなります.いやぁ,すごいですね.
これを、こうじゃ。
正三角形+相似変換+平面の場合分け
東工大AO2007
いっぺんの長さがmの正方形のプールの一つの角に監視員を置く.この監視員は水中は秒速m,プールの縁上は秒速mで移動するとする.この監視員がプールのどこへでも到達しうるには最短で何秒必要か計算せよ.ただし,物事を単純化するため監視員は点,プールの縁は線と考え,監視員はプールを自由に方向転換して泳げるものとする.
東工大で類似の問題が出題されているのを発見しました.基本的な問題ですので頑張りましょう!僕が調べた範囲では初等幾何的解法は見つかりませんでした.どれも微分で解いていましたが,微分は回避できます!!
まず,以下のように図を定めます.このとき,負方向と,負方向に進むことはないとして良いですね.さらに図のには対称性があるので右下半分だけを考えれば十分であることがわかります(周を含むのこと).
case1.辺を伝うが辺は伝わない場合
さて,まずは辺を伝うが辺は伝わない場合を考えてみましょう.この場合は問題8より,ある点へ行くにはを満たす辺上の点まで縁を進み,そこから方向転換すれば良いですね.そこまでにかかる時間は秒となりますね.
プールです。
case2.辺とを共に伝う場合
次に,辺から辺を伝ってからへと方向転換する場合を考えてみましょう.ここで,辺から辺に行くときに,プールを泳ぐのが速いのか,辺を伝うのが速いのかを考慮する必要があります.図12のように点をとり,としてみます.
このとき,プールでショートカットを試みると秒かかります.縁を歩くと秒かかります.
以上のようになるので縁を歩く方が速いですね.よって,までに到達する時間は秒となります.
プールでショートカットはできるのか?
プールサイドは走ると危ないですよ。
仕上げ
ということである点に行くまでにかかる時間は,となります.ここで,を満たすことに注意しましょう.
この関数についてもう少し詳しく考えてみます.大小関係が分かれば関数が外せるので大小関係に注目してみましょう.の二つをイコールで結んで線分を作ればそこがcase1を用いるか,case2を用いるかの境界線になりますよね.ちなみに,式は以下のようになります.
case1の場合はかかる時間が秒だったのでに関して単調増加であるから最も時間がかかる点は右上の境界線上にあることがわかり,その中で最も時間がかかるのは境界線と対角線の交点となります.
case2の場合はかかる時間が秒だったのでに関して単調減少,に関して単調増加であるから最も時間がかかる点は対角線上にあることがわかりその中で最も時間がかかるのは境界線と対角線の交点となります.よって,最も時間がかかる点がわかりました!
あとはここまでの到達時間を計算して,秒となります.いやぁ〜計算が少し重かった.お疲れ様でした!
境界線
終わりに
お疲れ様でした.書いていてとっても楽しい記事でした.ここまで読んでくださった皆さん,本当にありがとうございました!