6

初等幾何の観点から「軌跡と領域」を嗜む

992
0

はじめに

『初等幾何の観点から「軌跡と領域」を嗜む』などと大層なタイトルを掲げてしまいましたが,要するに初等幾何的な別解を考えようという記事です.元の解法よりも遠回りなものもあるかもしれませんが,面白いのでよかったらみていって下さい!それではよろしくお願いします.

軌跡と領域を初等幾何でねじ伏せよう

アポロニウスの円

有名問題

平面上に二点A,Bをとる.A,Bからの距離の比がそれぞれ1:2であるような点の軌跡を求めよ.

まずは,ウォーミングアップに定番の初等幾何的解法を紹介していきます.

直線AB1:2に内分する点をC,外分する点をDとする.この時,PPA:PB=1:2を満たすような点とします.するとPA:PB=CA:CB, PA:PB=AB:ADとなるので角の二等分線となるわけです.よって,PA:PB=1:2が成り立っているならば必然的にCPD=90°であるからPCDを直径とする円上にあるというわけです.(逆は簡単に確認できます.)

アポロニウスの円めっちゃ好き アポロニウスの円めっちゃ好き

相似拡大

有名問題

A(2,0)単位円c:x2+y2=1上に点Pをとる.Pc上を動く時,APの中点Mの軌跡を求めよ.

MAを中心にB12倍に拡大した点であるから,その軌跡はcAを中心に12倍に拡大したものとなります.よって,(x+1)2+y2=(12)2が求める軌跡です.

相似拡大いっぱいちゅき 相似拡大いっぱいちゅき

有名問題

A(1,0)とし,y=kxに関してAと対称な点をPとする.kが任意の実数をとるとき,Pの軌跡を求めよ.

対称移動した点であるからOA=OP=1が常に成り立つのでPOを中心とする半径1の円Γ上にあることがわかります.よって,軌跡はΓの一部(もしくは全部)であることがわかります.逆に,Γ(1,0)以外の任意の点においては題意を満たすkが存在するので求める奇跡はΓ(1,0)以外の部分になります.

定義から円を考える 定義から円を考える

放物線+相似

有名問題

放物線:y=ax2の準線の式を求めよ.

全ての放物線は相似なのです!

ポイント:任意の放物線は相似の関係にあるのでy=x2の場合についてのみ考える

まずは,P(1,1)における接線を考えます.微分して,y=2x1を得ます.これの法線を考えるとy=12x+32を得ます.ここで,焦点をQ(0,q),法線に関してQと対称な点をRとし,Pに関してRと対称な点をRとします.

このとき,PQ=PR=PRであるのでRQR=90°を得ます.また,法線とQRは直行するのでQRと法線は平行となります.よって,QRの式はy=12x+qであることがわかります.あとは,この直線を通る点が一つ分かればqの値が定まります.

HRからx軸へ下ろした垂線の足とし,SOH,QRの交点とします.この時,QSO=RSH,QO=RH,QOS=RHS=90°となるのでQSORSHを得ます.よって,SOHの中点となるわけですね.以上より,QRS(12,0)を通るのでq=14を得ます.よって準線の式はy=14となります.

y=x2y=ax2の相似比は1:1aであるので一般にy=ax2の準線の式はy=14aとなります.

放物線を幾何的に見るの最高に楽しい 放物線を幾何的に見るの最高に楽しい

放物線+相似2

有名問題

放物線y=x2上に相異なる二点A,Bをとった時,それらの接線が点Cで直交した.Cの軌跡を求めよ.

これも気持ちよく初等幾何的に解けます!

焦点をP(0,q),準線をy=qとし,A,Bから準線へと下ろした垂線の足をX,Yとします.問題2でやった通り,ACPX,BCPYを得ます.よって,四角形PDCEは長方形となります.また,定義よりAP=AX,BP=BYであるのでD,EはそれぞれPX,PYの中点となります.すなわち,D,Ex軸上に位置することになります.よって問題を以下のように言い換えることができます.

Pを固定した長方形PDCED,Ex軸上に持つ.このとき,Cの軌跡を求めよ.

長方形の対角線がそれぞれ中点で交わることより,求めるCの軌跡は準線となります.

放物線気持ちいいいいい! 放物線気持ちいいいいい!

長方形! 長方形!

方べきの定理

京大1997

単位円cx2+y2=1上の点Pをとり,定点A(2,0)からPへ線分を引き,その線分のPの側の延長線上に点QAPPQ=3となるようにとる.PC上を動くとき,Qの軌跡を求めよ.

まずは,方べきの定理で長さの情報を出していきます.ARAP=ABAC=3を得ます.一方でAPPQ=3であることからAR=PQを得ます.つまり,QPQR=3であるので方べきの定理を再び適用することによりQO=2を得ます.

上の議論から,常にOQ=2が成り立っていることがわかります.よって,Qの軌跡はOを中心とする半径2の円Γの一部(あるいは全部)ということになります.Qは直線AP上にあることから,直線APが取りうる範囲内かつΓ上である必要があります.逆にそのような範囲内では題意を満たすことが容易にわかります.よって答えはΓ上のx座標が1以上の部分となります.

方べきの定理!! 方べきの定理!!

接線で挟もう!!! 接線で挟もう!!!

円周角の定理+平面の場合分け

東大2008

座標平面上の三点A(1,0),B(1,0),C(0,1)に対し,APC=BPCをみたす点Pの軌跡を求めよ.ただし,PA,B,Cとする.

これは座標で解くのはちょっと重そうな問題ですよね.ちなみに,こういった構図がシンプルな奇跡と領域の問題は大抵初等幾何で解けます.

まず,この図を見たときに図のように点X,Pを取ればXPが三角形XABXSymmedianとなり,Symmedianの構図なので,角の二等分線が登場しそうだなと発想することができます.よって,ABCの外接円をメインに議論を進めていきましょう.(Symmedianが背景にあることを強調したいのでこのように書きましたが,円周角の定理に気づくことでも発想できます.)

ABCの外接円をΓとします.ここで,y軸上の点,x軸上の点のうち線分ABでないものは明らかに解であるので以下では除外して考えていきます.

case1.y>0,x0かつΓ上の点P1

まずはy>0,x0かつΓ上の点P1を考えます.これは円周角の定理より題意を満たします.

case2.CP1上のP1でない点P2

P1はcase1で定めたものとします.CP1上のP1でない点P2を考えます.ここで,P1P2A=P1P2Bと仮定します.すると,P1P2A=P1P2Bと併せてP1P2AP1P2Bを得ます.すなわち,P1AP1P2=P1BP1P2であるから,P1A=P1Bを得ます.これは仮定に矛盾するのでCP1上のP1でない点は題意を満たしません.

case3.直線CAに関してOを含まない側かつ直線CBに関してOを含む側にある点P3

このとき,BP3C=BP3A+CP3Aとなるので不適です.

case4.直線CBに関してOを含まない側かつ直線CAに関してOを含む側にある点P4

case3と同様.

Symmedianの知識から攻略のヒントが見える!! Symmedianの知識から攻略のヒントが見える!!

正三角形を作る+相似変換

問題8を@aburi_roll_cakeさんから教えていただきました.ありがとうございます!

@aburi_roll_cake

長方形ABCDAB=3,BC=4を満たす.点Pが頂点Bから出発して以下の条件を満たしながら移動するとき,頂点Dへ到達する時間が最短の経路を求めよ.

条件:辺AB,BC上では速さ2で移動し,それ以外では速さ1で移動する.

微分したくなるけど,これが回避できるらしい!すごすぎ!!この問題は辺の上をいい塩梅で伝って効率よく反対の頂点へ行く方法は?ということを聞いているのですね.

「辺を伝う」→「Dへと直進する」の流れ(どちらかのステップがない場合もある)が最短経路であることがわかります.まず,BCを伝っていく方法を考えてみましょう.辺BC上の点Xで方向転換するとします.BX+2XDの長さの最小値を計算すれば良いことになります.2DXという長さは初等的に扱いづらいので,XDに関して対称移動させた点をYとしてBX+XYの長さを計算することにします.Xx軸上を動く時,Yがなす軌跡はy=6となります.ここで,XYが扱いにくいので正三角形を作って情報を移してみます.BX+XY=BX+XZなのでBX+XZを最小化すれば良いことがわかります.Zがなす軌跡が知りたいのでYZの関係を見てみましょう.ZYDを中心に時計回りに90°回転させて3倍に相似拡大した点となります.よって,Yの軌跡がy=6なのでxの軌跡はx=4+33となります.問題を簡略化することができましたね!

Bから直線x=4+33への最短距離は4+33となり,それはx(43,0)の時に実現できるのでこの場合の最短時間経路の長さは4+3となります.いやぁ,すごいですね.

これを、こうじゃ。 これを、こうじゃ。

正三角形+相似変換+平面の場合分け

東工大AO2007

いっぺんの長さが10mの正方形のプールの一つの角に監視員を置く.この監視員は水中は秒速1m,プールの縁上は秒速2mで移動するとする.この監視員がプールのどこへでも到達しうるには最短で何秒必要か計算せよ.ただし,物事を単純化するため監視員は点,プールの縁は線と考え,監視員はプールを自由に方向転換して泳げるものとする.

東工大で類似の問題が出題されているのを発見しました.基本的な問題ですので頑張りましょう!僕が調べた範囲では初等幾何的解法は見つかりませんでした.どれも微分で解いていましたが,微分は回避できます!!

まず,以下のように図を定めます.このとき,x負方向と,y負方向に進むことはないとして良いですね.さらに図のには対称性があるので右下半分だけを考えれば十分であることがわかります(周を含むABCのこと).

case1.辺ABを伝うが辺BCは伝わない場合

さて,まずは辺ABを伝うが辺BCは伝わない場合を考えてみましょう.この場合は問題8より,ある点X(p,q)へ行くにはAYX=120°を満たす辺AB上の点Yまで縁を進み,そこから方向転換すれば良いですね.そこまでにかかる時間は12(pq3)+2q3=p2+3q2秒となりますね.

プールです。 プールです。

case2.辺ABBCを共に伝う場合

次に,辺ABから辺BCを伝ってからXへと方向転換する場合を考えてみましょう.ここで,辺ABから辺BCに行くときに,プールを泳ぐのが速いのか,辺を伝うのが速いのかを考慮する必要があります.図12のように点E,Fをとり,CE=e,CF=fとしてみます.
このとき,プールでショートカットを試みるとe2+f2秒かかります.縁を歩くと12(e+f)秒かかります.

(e2+f2)2(12(e+f))2=e2+f214(e2+f2+2ef)=14(3e2+3f22ef)0

以上のようになるので縁を歩く方が速いですね.よって,Xまでに到達する時間は5+q2+32(10p)秒となります.

プールでショートカットはできるのか? プールでショートカットはできるのか?

プールサイドは走ると危ないですよ。 プールサイドは走ると危ないですよ。

仕上げ

ということである点Xに行くまでにかかる時間は,min(p2+3q2, 5+q2+32(10p))となります.ここで,0p,q10, pqを満たすことに注意しましょう.

このmin関数についてもう少し詳しく考えてみます.大小関係が分かればmin関数が外せるので大小関係に注目してみましょう.min(p2+3q2, 5+q2+32(10p))の二つをイコールで結んで線分を作ればそこがcase1を用いるか,case2を用いるかの境界線になりますよね.ちなみに,式は以下のようになります.

x2+3y2=5+y2+32(10x)

case1の場合はかかる時間がp2+3q2秒だったのでp,qに関して単調増加であるから最も時間がかかる点は右上の境界線上にあることがわかり,その中で最も時間がかかるのは境界線と対角線の交点となります.

case2の場合はかかる時間が5+q2+32(10p)秒だったのでpに関して単調減少,qに関して単調増加であるから最も時間がかかる点は対角線上にあることがわかりその中で最も時間がかかるのは境界線と対角線の交点となります.よって,最も時間がかかる点がわかりました!

あとはここまでの到達時間を計算して,35(3+23)秒となります.いやぁ〜計算が少し重かった.お疲れ様でした!

境界線 境界線

終わりに

お疲れ様でした.書いていてとっても楽しい記事でした.ここまで読んでくださった皆さん,本当にありがとうございました!

投稿日:2023127
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

自己満足

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 軌跡と領域を初等幾何でねじ伏せよう
  3. アポロニウスの円
  4. 相似拡大
  5. 放物線+相似
  6. 放物線+相似2
  7. 方べきの定理
  8. 円周角の定理+平面の場合分け
  9. 正三角形を作る+相似変換
  10. 正三角形+相似変換+平面の場合分け
  11. 終わりに