導入
三角函数に関するつの有名な式:
を使うと、次の式が得られます。
ここでにおける近似式を考えると、上記の極限はとなってしまい、が出てきません。これはという近似が雑すぎたことが原因です。この記事ではどうすればより良い近似ができるかを考え、最終的におよびのマクローリン展開を導くことを目指します(なお実際に導くのは第項までです)。
記号と定理の準備
計算する前にいくつか準備をします。
やはがあるいはに等しいという意味ではなく、あくまでが収束する、あるいはに収束するという意味であることに注意しましょう。また、この定義ではに限定していますが、などでもランダウの記号は同様に定義されます。なので本来はのように書くべきなのですが、今回は主にの極限を考えるので単に と表記します。
余談ですが、ランダウの記号に使うおよびは本来、英文字のオー(O,o)ではなくギリシャ文字のオミクロン(Ο,ο)です。しかしではギリシャ文字の中でも同じ形の英文字が存在するものについてはコマンドが用意されていないので、英文字ので代用することになっています。
この記事では、であってでないことを指して「はオーダーである」と表現します。オーダーである函数は、付近においての(でない)定数倍で近似できます。
ランダウの記号とオーダー
なので、かつです。
なので、ですがではありません。したがってはオーダーです。
また、なのではオーダーでもあります。
次に、ある函数がの何乗オーダーであるか判定するために有用な定理を示します。
を正整数とする。回微分可能な函数について以下は同値。
(R1) はオーダーである。
(R2) なる非負整数に対してであり、である。
証明にはライプニッツの微分法則
を使用します。
定理1
(a)(b)について
(a)が成り立つとき、仮定からなる函数を用いてと書けます。ライプニッツの微分法則から
です。これにを代入したとき、の項にはの正整数乗が含まれるのでになります。よって残るのはの項のみであり
を得ます。
(b)(a)について
とします。について、平均値の定理から
を満たすが存在します。のときですから
です。したがって、ならとなります。つまりかつならです。
また、かつであるときに対して
なるが存在します。のときですから
です。したがって、ならとなります。つまり、よりかつかつならです。
ここまでを考えましたが、も同じ考え方で示せます。また、と同様に考えることにより、一般のについて(b)(a)が分かります。
のマクローリン展開
さて、は前節の言葉を使って言えばということですが、におけるより精密な近似式ではのようになるべきです。ではこのはいくつでしょうか。がの何乗オーダーか考えればよいわけですから、について定理1を適用します。
よって、です。つまり極限値が存在し、このを用いてと書けます。では、冒頭で示した等式を用いてを求めましょう。
が成り立つので、
よってが分かりました。ここまでは倍角の公式によって導かれるものを考えました。次は倍角の公式を見てみましょう。
を使うと、
が得られます。ここで、とすれば
よりが分かるので、とおきます。このとき
したがってです。このような操作を続けることによりの近似精度をどんどん高めることができますが、そのためには倍角の公式を作り、上記のような桁数の多い足し算・引き算を繰り返さねばなりません。実際には
であることが知られています。
のマクローリン展開
のマクローリン展開を求める方法はのそれよりも少し複雑です。というのも、のマクローリン展開の導出において倍角の公式と共に中核をなしていたのはですが、単にをの多項式で書くとこれを利用できません。したがって適切にを使うかを使うか決定しなけばなりません。
さて、の倍角の公式は
ですが、これを使うと
即ち
が分かります。よってにおける近似式が得られます。続いて、の倍角の公式は
ですので
が成り立ちます。また、とおけば
なのでですから、とおけます。あとはの場合と同様に
と求められます。以上での次近似式
が得られました。なお、のマクローリン展開は
であることが知られています。
まとめ
およびのマクローリン展開を、部分的ではありますが求めることができました。高校範囲でこの方法よりも計算量が少ない方法も沢山あるので実用的とは言えませんが、個人的には使いどころが少なめという印象のある倍角の公式をマクローリン展開に応用できる点が面白いと思いました。ふと思いついたことを書き綴ったので読みづらい点などあったかもしれませんが、読んでくださりありがとうございました。
おまけ
倍角の公式からマクローリン展開を導けるなら、逆にマクローリン展開から倍角の公式を導けないでしょうか?試しに計算してみましょう。
といっても無から作るのは難しそうなので、のを決定することを目標にします。ただし、を仮定しておきます。
少々雑な議論になりますが、のマクローリン展開から得られる近似式より
です。ここで、より
ですが、でないと第項が収束しません。を代入して計算を進めると
したがって、です。普通にド・モアブルの定理を使ったりに加法定理を使ったりした方が楽な気がしますが、もう少し続けてみましょう。
とおきます。から
で、より
ここで、を使います。これはの部分を切り落とした評価です。
よって から、倍角の公式
が得られます。やはり実用的ではないですね。