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n倍角の公式とマクローリン展開

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導入

三角函数に関する2つの有名な式:

  • sin3倍角の公式 sin3x=3sinx4sin3x
  • sinの極限公式 limx0sinxx=1

を使うと、次の式が得られます。
limx03sinxsin3xx3=limx04sin3xx3=4limx0(sinxx)3=4
ここでx0における近似式sinxxを考えると、上記の極限は3sinxsin3xx33x3xx3=0となってしまい、4が出てきません。これはsinxxという近似が雑すぎたことが原因です。この記事ではどうすればより良い近似ができるかを考え、最終的にsinおよびcosのマクローリン展開を導くことを目指します(なお実際に導くのは第3項までです)。

記号と定理の準備

計算する前にいくつか準備をします。

ランダウの記号

2つの函数f,gについて、

  • limx0f(x)g(x)が収束することをf(x)=O(g(x))と書く。
  • limx0f(x)g(x)=0であることをf(x)=o(g(x))と書く。

f(x)=O(g(x))f(x)=o(g(x))f(x)O(g(x))あるいはo(g(x))に等しいという意味ではなく、あくまでlimx0f(x)g(x)が収束する、あるいは0に収束するという意味であることに注意しましょう。また、この定義ではx0に限定していますが、xなどでもランダウの記号は同様に定義されます。なので本来はf(x)=O(g(x))(as x0)のように書くべきなのですが、今回は主にx0の極限を考えるので単にf(x)=O(g(x)), f(x)=o(g(x))と表記します。
余談ですが、ランダウの記号に使うOおよびoは本来、英文字のオー(O,o)ではなくギリシャ文字のオミクロン(Ο,ο)です。しかしTEXではギリシャ文字の中でも同じ形の英文字が存在するものについてはコマンドが用意されていないので、英文字のO,oで代用することになっています。
この記事では、f(x)=O(g(x))であってf(x)=o(g(x))でないことを指して「f(x)g(x)オーダーである」と表現します。g(x)オーダーである函数は、x=0付近においてg(x)の(0でない)定数倍で近似できます。

ランダウの記号とオーダー

limx0sinx1=0なので、sinx=O(1)かつsinx=o(1)です。
limx0sinxx=1なので、sinx=O(x)ですがsinx=o(x)ではありません。したがってsinxxオーダーです。
また、limx0sinxsinx=1なのでsinxsinxオーダーでもあります。

次に、ある函数がxの何乗オーダーであるか判定するために有用な定理を示します。

nを正整数とする。n回微分可能な函数fについて以下は同値。
(R1) f(x)xnオーダーである。
(R2) k<nなる非負整数kに対してf(k)(0)=0であり、f(n)(0)0である。

定理1

f(x)=log(1+x2)とします。f(0)=log(1+02)=0, f(0)=201+02=0, f(0)=2(102)(1+02)2=20であるので、log(1+x2)=O(x2)です。

証明にはライプニッツの微分法則(f(x)g(x))(n)=k=0nnCkf(k)(x)g(nk)(x)
を使用します。

定理1

(a)(b)について
(a)が成り立つとき、仮定からF(0)0なる函数Fを用いてf(x)=xnF(x)と書けます。ライプニッツの微分法則から
f(n)(x)=k=0nnCk(xn)(k)F(nk)(x)
です。これにx=0を代入したとき、k<nの項にはxの正整数乗が含まれるので0になります。よって残るのはk=nの項のみであり
f(n)(0)=nCnn!F(0)0
を得ます。

(b)(a)について
f(0)=0とします。0<x0について、平均値の定理から
f(x0)f(0)x00=f(x0)x0=f(x1)(0<x1<x0)
を満たすx1が存在します。x0+0のときx1+0ですから
limx0+0f(x0)x0=f(0)
です。したがって、f(1)(0)0ならlimx0+0f(x0)x00となります。つまりf(0)=0かつf(1)(0)0ならf(x)=O(x)です。
また、f(0)かつf(0)=0であるとき0<x0に対して
f(x0)f(0)x00=f(x0)x0=f(x1)(0<x1<x0)
f(x1)f(0)x10=f(x1)x1=f(x2)(0<x2<x1)
なるx1,x2が存在します。x0+0のときx1,x2+0ですから
limx1+0f(x1)x1=f(0)
です。したがって、f(2)(0)0ならlimx0+0f(x1)x10となります。つまり、limx0+0f(x1)x1=limx0,x1+0f(x0)x0x1=limx+0f(x)x2よりf(0)=0かつf(1)(0)=0かつf(2)(0)0ならf(x)=O(x2)です。
ここまで+0を考えましたが、0も同じ考え方で示せます。また、n=1,2と同様に考えることにより、一般のnについて(b)(a)が分かります。

sinのマクローリン展開

さて、sinxxは前節の言葉を使って言えばsinx=O(x)ということですが、x0におけるより精密な近似式ではsinx=x+axn(1<n)のようになるべきです。ではこのnはいくつでしょうか。sinxxxの何乗オーダーか考えればよいわけですから、f(x)=sinxxについて定理1を適用します。
f(0)=sin00=0
f(x)=cosx1f(0)=0
f(x)=sinxf(0)=0
f(x)=cosxf(0)=10
よって、sinxx=O(x3)です。つまり極限値a=limx0sinxxx3が存在し、このaを用いてsinxx+ax3と書けます。では、冒頭で示した等式を用いてaを求めましょう。
limx0sinxxx3=limx0sin3x3x27x3
が成り立つので、
limx03sinxsin3xx3=limx0(3sinx3xx3sin3x3xx3)=3limx0sinxxx327limx0sin3x3x27x3=3a27a=24a=4
よってa=16が分かりました。ここまでは3倍角の公式によって導かれるものを考えました。次は5倍角の公式を見てみましょう。
sin5x=16sin5x20sin3x+5sinx=16sin5x+5sin3x10sinx
を使うと、
limx0sin5x5sin3x+10sinxx5=limx016sin5xx5=16
が得られます。ここで、g(x)=sinxx+16x3とすれば
g(0)=sin00+1603=0
g(1)(x)=cosx1+12x2g(1)(0)=0
g(2)(x)=sinx+xg(2)(0)=0
g(3)(x)=cosx+1g(3)(0)=0
g(4)(x)=sinxg(4)(0)=0
g(5)(x)=cosxg(5)(0)=10
よりsinxx+16x3=O(x5)が分かるので、b=limx0sinxx+16x3x5とおきます。このとき
limx0sin5x5sin3x+10sinxx5=limx0(sin5x5x+1256x3x55sin3x15x+1356x3x5+10sinx10x+106x3x5)=3125b1215b+10b=1920b=16
したがってb=1120です。このような操作を続けることによりsinxの近似精度をどんどん高めることができますが、そのためにはn倍角の公式を作り、上記のような桁数の多い足し算・引き算を繰り返さねばなりません。実際には
sinx=n=0(1)n(2n+1)!x2n+1=x16x3+1120x515040x7+1362880x9
であることが知られています。

cosのマクローリン展開

cosのマクローリン展開を求める方法はsinのそれよりも少し複雑です。というのも、sinのマクローリン展開の導出においてn倍角の公式と共に中核をなしていたのはlimx0sinxx=1ですが、単にcosnxcosxの多項式で書くとこれを利用できません。したがって適切にsinを使うかcosを使うか決定しなけばなりません。
さて、cos2倍角の公式は
cos2x=2cos2x1=12sin2x
ですが、これを使うと
limx01cos2xx2=2
即ち
limx0cosx1x2=limx0cos2x14x2=12
が分かります。よってx0における近似式cosx112x2が得られます。続いて、cos4倍角の公式は
cos4x=8cos4x8cos2x+1=8(1sin2x)28(1sin2x)+1=8sin4x8sin2x+1=8sin4x+4cos2x3
ですので
limx0cos4x4cos2x+3x4=8
が成り立ちます。また、f(x)=cosx1+12x2とおけば
f(0)=cos01+1202=0
f(1)(x)=sinx+xf(1)(0)=0
f(2)(x)=cosx+1f(2)(0)=0
f(3)(x)=sinxf(3)(0)=0
f(4)(x)=cosxf(4)(0)=10
なのでcosx1+12x2=O(x4)ですから、a=limx0cosx1+12x2x4とおけます。あとはsinの場合と同様に
limx0cos4x4cos2x+3x4=limx0(cos4x1+8x2x44cos2x4+8x2x4)=256a64a=192a=8
と求められます。以上でcos4次近似式
cosx112x2+124x4
が得られました。なお、cosのマクローリン展開は
cosx=n=0(1)n(2n)!x2n=112x2+124x41720x6+140320x8
であることが知られています。

まとめ

sinおよびcosのマクローリン展開を、部分的ではありますが求めることができました。高校範囲でこの方法よりも計算量が少ない方法も沢山あるので実用的とは言えませんが、個人的には使いどころが少なめという印象のあるn倍角の公式をマクローリン展開に応用できる点が面白いと思いました。ふと思いついたことを書き綴ったので読みづらい点などあったかもしれませんが、読んでくださりありがとうございました。

おまけ

n倍角の公式からマクローリン展開を導けるなら、逆にマクローリン展開からn倍角の公式を導けないでしょうか?試しに計算してみましょう。
といっても無から作るのは難しそうなので、sin3x=asinx+bsin3xa,bを決定することを目標にします。ただし、a0を仮定しておきます。
少々雑な議論になりますが、sinのマクローリン展開から得られる近似式sinxx16x3より
limx0sinxxx3=16
です。ここで、sinx=sin3xbsin3xaより
limx0sinxxx3=limx0sin3xbsin3xaxax3=27alimx0sin3xax(3x)3balimx0(sinxx)3
ですが、a=3でないと第1項が収束しません。a=3を代入して計算を進めると
limx0sinxxx3=916b3=16
したがって、b=4です。普通にド・モアブルの定理を使ったりsin(2x+x)に加法定理を使ったりした方が楽な気がしますが、もう少し続けてみましょう。
sin5x=asinx+bsin3x+csin5x (a0)とおきます。sinxx16x3+1120x5から
limx0sinxx+16x3x5=1120
で、sinx=sin5xbsin3xcsin5xaより
limx0sinxx+16x3x5=limx0sin5xbsin3xcsin5xax+a6x3ax5=1alimx0sin5xax+a6x3bsin3xx5calimx0(sinxx)5
ここで、sin3x(x16x3)3x312x5を使います。これはo(x5)の部分を切り落とした評価です。
limx0sinxx+16x3x5=1alimx0sin5xax+a6x3bx3+b2x5x5+ca=3125alimx0sin5xax+(a6b)x3(5x)5+b2c2a
よってa=5, a6b=1256, 3125a1120+b2c2a=1120から、5倍角の公式
sin5x=5sinx20sin3x+16sin5x
が得られます。やはり実用的ではないですね。

投稿日:2023216
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