Clifford代数の既約表現は次元によって行列表示(γ行列など)が色々ありますが、一方で一般的な構成があります。
$n$次元Euclidベクトル空間$(V,g)$に対して定義される複素Clifford代数を$\mathbb{C}l_n$と表します。またPauli行列を
$$
\sigma_1=\begin{pmatrix}
0 & 1 \\ 1 & 0
\end{pmatrix},\
\sigma_2=\begin{pmatrix}
0 & -i \\ i & 0
\end{pmatrix},\
\sigma_3=T=\begin{pmatrix}
1 & 0 \\ 0 & -1
\end{pmatrix}
$$
とし、$s_k=i\sigma_k,\ (k=1,2,3)$とします。さらに
$$
\alpha(j)=\begin{cases}
1\ (j:{\rm odd})\\
2\ (j:{\rm even})
\end{cases}
$$
とします。
$\mathbb{C}l_{2m},\mathbb{C}l_{2m+1}$の既約表現は
\begin{align}
&\Delta_{2m}:\mathbb{C}l_{2m}\to M(\mathbb{C},2^m)\\
&\Delta_{2m+1}:\mathbb{C}l_{2m+1}\to M(\mathbb{C},2^m)\oplus M(\mathbb{C},2^m)
\end{align}
となることが知られていますが、以下ではこれを構成します。
まず$m=3$の例を見ます。
$n=2m=6$のとき、$\Delta_6$は
\begin{align}
&e_1\mapsto I_2\otimes I_2\otimes s_1\\
&e_2\mapsto I_2\otimes I_2\otimes s_2\\
&e_3\mapsto I_2\otimes s_1\otimes T\\
&e_4\mapsto I_2\otimes s_2\otimes T\\
&e_5\mapsto s_1\otimes T\otimes T\\
&e_6\mapsto s_2\otimes T\otimes T\\
\end{align}
で与えられます。また$n=2m+1=7$のとき、$\Delta_7$は
\begin{align}
&e_i\mapsto(\Delta_6(e_i),\Delta_6(e_i)),\ (i=1,2,3,4,5,6)\\
&e_7\mapsto(iT\otimes T\otimes T,-iT\otimes T\otimes T)
\end{align}
で与えられます。
これは直ちに一般化できて以下のようになります。
\begin{align} &\Delta_{2m}:\mathbb{C}l_{2m}\to M(\mathbb{C},2^m)\\ &\Delta_{2m}(e_j)=\overbrace{I_2\otimes\cdots\otimes I_2\otimes s_{\alpha(j)}\otimes \underbrace{T\otimes\cdots\otimes T}_{\left[\frac{j-1}{2}\right]個}}^{m個}\\ &\Delta_{2m+1}:\mathbb{C}l_{2m+1}\to M(\mathbb{C},2^m)\oplus M(\mathbb{C},2^m)\\ &\Delta_{2m+1}(e_j)=(\Delta_{2m}(e_j),\Delta_{2m}(e_j))\\ &\Delta_{2m+1}(e_n)=(i T\otimes\cdots\otimes T,-i T\otimes\cdots\otimes T)\\ \end{align}
このときSpin表現は
\begin{align} &\rho_{2m}:=\Delta_{2m}|_{Spin(2m)}\\ &\rho_{2m+1}:={\rm proj}_1\circ\Delta_{2m+1}|_{Spin(2m+1)} \end{align}
で与えられます。ただし${\rm proj}_i\ (i=1,2)$は第$i$因子への射影です。以降で述べますが、$\rho_{2m+1}$と$\hat\rho_{2m+1}:={\rm proj}_2\circ\Delta_{2m+1}|_{Spin(2m+1)}$は同値な表現となります。
さらに$\rho_{2m}$は非同値な表現の直和
\begin{align}
\rho_{2m}:=\Delta_{2m}|_{Spin(2m)}=\rho_{2m}^+\oplus\rho_{2m}^-
\end{align}
に分解されます。これを見るには次のようにします。まず
$$
\omega=-i^me_1\cdots e_{2m}
$$
に対して、$\omega^2=1$であるから、表現空間$W_{2m}$は$\Delta_{2m}(\omega)$の固有値$\pm1$の固有空間の直和$W_{2m}=W_{2m}^+\oplus W_{2m}^-$と分解されます。
実際、
$$
\Delta_{2m}(\omega)=(-1)^{m+1}i^m s_3\otimes\cdots\otimes s_3=-T\otimes\cdots\otimes T
$$
なので、
\begin{align}
u(+1):=\begin{pmatrix}
1\\0
\end{pmatrix},\
u(-1):=\begin{pmatrix}
0\\1
\end{pmatrix}
\end{align}
と置くとき、集合
\begin{align}
\{u(\epsilon_1)\otimes\cdots\otimes u(\epsilon_m);\ \prod_i\epsilon_i=\mp1\}
\end{align}
が張る部分空間をそれぞれ$W_{2m}^\pm$とすればよい。また上に示した基底は$W_{2m}^\pm=\mathbb{C}^{2^m-1}$の標準的Hermite内積に関して正規直交基底となります。
$\rho_{2m+1},\hat\rho_{2m+1}$は同値な表現となります。これは以下のように分かります。表現空間を$W_{2m+1},\hat W_{2m+1}$とすると、ベクトル空間として$W_{2m+1}\simeq\hat W_{2m+1}\simeq \mathbb{C}^{2^m}\simeq W_{2m}^+\oplus W_{2m}^- $であるから、$f:W_{2m+1}\to\hat W_{2m+1}$を
$$
f(u^+\oplus u^-):=u^+\oplus(-u^-)
$$
とすると、$f$は明らかに$\mathbb{C}$同型ですが、実は$Spin(2m+1)$同変であることが分かります。実際、$Spin(2m+1)\supset Spin(2m)$の作用で$W^\pm_{2m}$はそれぞれ不変なので、同変性は$e_ie_{2m+1}\ (i\le 2m)$の形をした元の作用について確かめれば十分です。$\rho_{2m+1}(e_{2m+1})u^\pm=\mp iu^\pm,\ \hat\rho_{2m+1}(e_{2m+1})u^\pm=\pm iu^\pm$であることと、$e_i\ (i\le 2m)$の作用が$W_{2m}^\pm$を入れ替えることを使うと、
\begin{align}
f\circ \rho_{2m+1}(e_ie_{2m+1})(u^+\oplus u^-))
&=f\circ \rho_{2m+1}(e_i)(-iu^+\oplus iu^-))
=f\circ (i\rho_{2m+1}(e_i)u^-\oplus (-i\rho_{2m+1}(e_i)u^+))\\
&=i\rho_{2m+1}(e_i)u^-\oplus i\rho_{2m+1}(e_i)u^+
=\hat\rho_{2m+1}(e_i)\hat\rho_{2m+1}(e_{2m+1})(u^+\oplus (-u^-))\\
&=\hat\rho_{2m+1}(e_ie_{2m+1}) f(u^+\oplus u^-)
\end{align}
となるので同変性が確かめられます。
あるスピン多様体と1次元多様体の直積を考える場合などに次元が1異なるSpin表現との関係が知りたいことがあります。そこで$\rho_{n+1}$を$Spin(n)$に制限した表現はどうなるのか($\rho_n$と同値な表現がえらる)とその表現空間に対して$e_{n+1}$が具体的にどのように作用するのかを偶奇分けして述べます。
$\rho_{2m+1}$の定義から明らかに$\rho_{2m+1}|_{Spin(2m)}=\rho_{2m}$となります。$W_{2m+1}\simeq W_{2m}=W_{2m}^+\oplus W_{2m}^-$なので$W_{2m+1}\ni u=u^++u^-$と表すと、$e_{2m+1}$は
$$
\rho_{2m+1}(e_{2m+1})(u^++u^-)=iu^+-iu^-
$$
と作用します。
$W_{2(m+1)}$の部分空間として$W_{2m+1},\hat W_{2m+1}$を
\begin{align}
W_{2m+1}&:=\{\alpha^\pm\otimes\beta\in W_{2(m+1)} ;\ s_1\alpha^\pm= i\alpha^\pm,\ \beta\in \mathbb{C}^{2^m}\}\\
\hat W_{2m+1}&:=\{\alpha^\pm\otimes\beta\in W_{2(m+1)} ;\ s_1\alpha^\pm=- i\alpha^\pm,\ \beta\in \mathbb{C}^{2^m}\}
\end{align}
のように定義すると、$Spin(2m+1)$の表現として$\rho_{2(m+1)}|_{Spin(2m+1)}\simeq\rho_{2m+1}$となることは明らかである。
また
\begin{align}
W_{2(m+1)}&\supset W_{2m+1}=W_{2m+1}\oplus \hat W_{2m+1}\simeq
(W_{2m}^+\oplus W_{2m}^-)\oplus(\hat W_{2m}^+\oplus \hat W_{2m}^-)\\
&\ni (u^++u^-)\oplus(v^++v^-)
\end{align}
と表せる。このとき
\begin{align}
\alpha^\pm=\mathbb{C}\begin{pmatrix}
1 \\ \pm1
\end{pmatrix}
\end{align}
であり、$s_2\alpha^\pm=\pm\alpha^\mp$であるから、
\begin{align}
\rho_{2(m+1)}(e_{2(m+1)})\{(u^++u^-)\oplus(v^++v^-)\}=-(v^+-v^-)\oplus(u^+-u^-)
\end{align}
となる。