0
中学数学解説
文献あり

三角形の内角の和はなぜ二直角と等しいのか

794
0
$$$$

序論

三角形の内角の和が180度であることは、平面図形の大原則であるとして、小学校で学習します。
私は現在中学生ですが、小学校においては三角形の内角の和が180°になることを、平面図形を敷き詰める活動などを通して帰納的に学びました。

小学校学習指導要領の数学的活動(第五学年)においては「三角形の三つの角の大きさの和が180°になることを帰納的に考え、説明する活動」とされています。

しかし、帰納においては前提が真であるからといって結論が真であることは保証されません。
すなわち、平面において「3つの合同な三角形を敷き詰めて、内角の和が一直線に等しい」という事例を考えるとき、幾つかの合同な三角形を試して成り立つことを確認し、「内角の和はいかなる場合においても一直線と等しい」と結論を下してしまうと、ここでは「実際に確認した三角形」から「全ての三角形」という全称命題に範囲を飛躍させてしまいます。
しかし、この先新たに「合同な3つを敷き詰めても一直線にならない三角形」が発見される可能性は皆無とはいえず、ゆえに「内角の和はいかなる場合においても180度である」と定式化することには疑問が残ります。

中学校範囲での証明

中学校では、平行線の性質より「平行線の錯角は等しい」若しくは「平行線の同位角は等しい」ことを用いて、より論理的に三角形の内角の和が二直角と等しいことを説明できます。

平面図形の三角形ABCを考えるとき、点Aを通って底辺BCに平行な補助線を引く。
平行線の錯角は等しいから、
$$ \angle BAC + \angle ABCの錯角 + \angle BCAの錯角 = 180° $$
$$ \therefore 平面の三角形の内角は二直角と等しい $$

平行線公準問題

いえ、言いたいことは分かりますよ(笑)。

上記の中学校範囲での説明においては、平行線の性質が成り立つことを前提としており、そのためには平行線の性質を証明することが求められます。

しかし、平行線の性質の証明には三角形の内角の和が180度であることを用います。
ここで循環論法(ある命題の証明において、その命題を仮定した議論を用いること)が生じてしまいました。これでは、不完全な論理展開になります。

実は、平行線の性質は、ユークリッド幾何学の根本となるユークリッドの公準に基づきます。
ユークリッドは図形に関する公準として、以下の5つの事項を要請するとしています。

第1公準: 任意の一点から他の一点に対して線分を引くことができる
第2公準: 線分を連続的にまっすぐどこまでも延長できる
第3公準: 任意の中心と半径で円を描くことができる
第4公準: すべての直角は互いに等しい
第5公準: 直線が二直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角(180度)より小さい場合、その二直線は内角の和が2直角より小さい側で交わる

このうち、第5公準は平行線公準ともよばれ、分かりずらい表現となっていますが、これは2次元幾何学において「1つの線分が2つの直線に交わり、同じ側の内角の和が2直角より小さいならば、この2つの直線は限りなく延長されると、2直角より小さい角のある側において交わる」と解釈されています。

平行線公準が他の公準とは違って自明ではないことから、平行線公準をユークリッドの他の4公準から証明するという試みが2000年間も行われてきました。

例えば、背理法を用いて他の4つの公準から矛盾を導き出し、平行線公準を証明しようとした数学者がいます。しかし、結局どの方法でも上手く平行線公準を定理として導き出すことはできず、未解決問題として残り続けました。

そして、19世紀に入り、ついに「平行線公準は証明できない」ことが証明されました
具体的には、1830年頃にロバチェフスキーとヤノス・ボーヤイによって非ユークリッド幾何学が提唱され、曲面上の図形の性質を考察することにより、平行線公準の否定「直線とその上にない点に対し、その点を通りその直線に平行な直線が2つ以上存在する」が5つ目の公準として採用されました。

その後、19世紀の後半にケーリーやクラインが非ユークリッド幾何学のモデルをユークリッド幾何学の中につくることで、非ユークリッド幾何学の体系に矛盾のないことが証明されました。

結論

本記事が「三角形の内角の和はなぜ二直角と等しいのか」に帰結できたかについては未知数ですが、現在小中学校で扱う図形の基礎はユークリッド幾何学によって成立しており、そこには様々な議論があることが分かって頂けたかと思います。

「我思う、故に我あり」の命題によって哲学の第一原理を確立したデカルトも、方法序説において、完全な存在者についての観念の検討に立ち戻ると、存在が観念のなかに含まれていることを見出しました。それは三角形の観念のなかに三つの角の和は二直角に等しいということが含まれ、また球の観念のなかにその全ての部分は中心から等距離にあるということが含まれていることなどが挙げられます。そして、数学は明証的に真とはいえないとして、捨て去りました。

参考文献

投稿日:2023218
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

Web開発や情報セキュリティが得意です。 趣味は法関連や仮想通貨など多岐に渡ります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中