$e_0=1,k>n \Rightarrow e_k=0$とし,$\tan x_1,\tan x_2,\cdots,\tan x_n$の$k$次の対称式を$e_k$と表すとき,
$$\tan(x_1+x_2+\cdots+x_n)=\frac{e_1-e_3+e_5-\cdots}{e_0-e_2+e_4-\cdots}$$
が成り立つ.ただし$\tan$の中身は$\frac{\pi}2$の奇数倍にならないとする.
帰納法でも示せますが,ここでは複素数を使って証明します.
$x_1,x_2,\cdots,x_n$が実数であるとき,
$$
\prod_{k=1}^{n}(\cos x_k+i\sin x_k)=\cos(x_1+\cdots+x_n)+i\sin(x_1+\cdots+x_n)
$$
$$
\therefore\prod_{k=1}^{n}\cos x_k\prod_{k=1}^{n}(1+i\tan x_k)=\cos(x_1+\cdots+x_n)\{1+i\tan(x_1+\cdots+x_n)\}$$
$$
\therefore\prod_{k=1}^{n}\cos x_k\sum_{k=0}^{n}i^ke_k=\cos(x_1+\cdots+x_n)\{1+i\tan(x_1+\cdots+x_n)\}$$
両辺の$\frac{虚部}{実部}$をとって,
$$\frac{e_1-e_3+e_5-\cdots}{e_0-e_2+e_4-\cdots}=\tan(x_1+x_2+\cdots+x_n)$$
(正則関数の一致の定理から,$x_1,x_2,\cdots,x_n$が複素数の範囲でも成立する)
エレガントです.
$$\tan nx=\frac{{}_n\mathrm{C}_1\tan x-{}_n\mathrm{C}_3\tan^3x+{}_n\mathrm{C}_5\tan^5x-\cdots}{1-{}_n\mathrm{C}_2\tan^2x+{}_n\mathrm{C}_4\tan^4x-\cdots}$$
ただし,$k>n$のとき${}_n\mathrm{C}_k=0$とする.
$\sin$や,$\cos$の$n$倍角(チェビシェフ多項式)は規則性が少なく$n$が大きいと扱いづらいのに,$\tan$の$n$倍角はシンプルに表せるのは驚きです.
$e_0=1,k>n \Rightarrow e_k=0$とし,$\tanh x_1,\tanh x_2,\cdots,\tanh x_n$の$k$次の対称式を$e_k$と表すとき,
$$\tanh(x_1+x_2+\cdots+x_n)=\frac{e_1+e_3+e_5+\cdots}{e_0+e_2+e_4+\cdots}$$
この事実はたまに不等式の証明に使えます.たとえば$-1< x,y,z<1$をみたす任意の実数$x,y,z$に対し$$-1<\frac{x+y+z+xyz}{1+xy+yz+zx}<1$$の成立がわかったりします.