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[五分解説] 二年生に忘れられた夢 ー 三角函数の算法について

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二年生に忘れられた夢 二年生に忘れられた夢
前提知識 : 三角函数の加法定理, 和積・積和の公式
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扇形式

お久し振りです. 今回の記事は, 三角函数の計算について, 私の考えるところを簡単に書くことに致します. とくに高校生の方に人気のある話題だと思います.

実数 (または複素数) の四つ組$(x,y,z,w)$の中で, 等式
\begin{align} x+y=z+w \end{align}
をみたすものにたいし, 以下四種の三角比の式を考えます.
\begin{align} &\cos(x)\cos(y)-\cos(z)\cos(w),\\ &\\ &\cos(x)\sin(y)-\cos(z)\sin(w),\\ &\\ &\sin(x)\sin(y)-\sin(z)\sin(w),\\ &\\ &\cos(x)\cos(y)+\sin(z)\sin(w). \end{align}
これらをかりにせんけい式と呼ぶことにすれば, つぎの定理が成立します.

いかなる実数$d$についても, 組$(x,y,z,w)$にたいする扇形式の値と組$(x+d,y+d,w+d,z+d)$にたいする扇形式の値は相等しい.
すなわち, $x+y=z+w$ならば,
\begin{align} &\cos(x)\cos(y)-\cos(z)\cos(w)\\ &\quad=\cos(x+d)\cos(y+d)-\cos(z+d)\cos(w+d),\\ &\\ &\cos(x)\sin(y)-\cos(z)\sin(w)\\ &\quad=\cos(x+d)\sin(y+d)-\cos(z+d)\sin(w+d),\\ &\\ &\sin(x)\sin(y)-\sin(z)\sin(w)\\ &\quad=\sin(x+d)\sin(y+d)-\sin(z+d)\sin(w+d),\\ &\\ &\cos(x)\cos(y)+\sin(z)\sin(w)\\ &\quad=\cos(x+d)\cos(y+d)+\sin(z+d)\sin(w+d). \end{align}

四個ある等式のうち, 第一式のみを証明すれば十分である. (なぜでしょう ? )
第一式の右辺において積和の公式を適用すれば,
\begin{align} &\cos(x+d)\cos(y+d)-\cos(z+d)\cos(w+d)\\ =\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\cos\left(x+y+2d\right)+\cos\left(x-y\right)-\cos\left(z+w+2d\right)-\cos\left(z-w\right)\right)\\ =\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\cos\left(x-y\right)-\cos\left(z-w\right)\right). \end{align}
ただし途中に$x+y=z+w$の関係を用いた. これは$d$に依存しない式であるから, 第一行の等式は正しい. ゆえに他の等式も成立する. $\Box$

ついでに, 扇形式から$\cos$$\sin$を取りはずして
\begin{align} xy-zw \end{align}
という多項式函数を考えてみますと, $x+y=z+w$ならば,
\begin{align} (x+d)(y+d)-(z+d)(w+d)=xy-zw \end{align}
になりますから, 三角函数のものと同じ性質をもつことがわかります.
(なぜこれらの性質は共通しているのしょうか ? Euler の公式を知っている方は考察してみるといいでしょう. )
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具体例

扇形式の定理をつかって, 加法定理や積和・和積の公式を導出してみせたいと思います.
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加法定理

$\cos(x+y)$を計算するために, これを$\cos(x+y)\cos(0)+\sin(x+y)\sin(0)$のように見なします. すると扇形式の型になりますから, それぞれの引数より$y$を引いて,
\begin{align} &\cos(x+y)\\ =\;&\cos(x+y)\cos(0)+\sin(x+y)\sin(0)\\ =\;&\cos(x)\cos(-y)+\sin(x)\sin(-y)\\ =\;&\cos(x)\cos(y)-\sin(x)\sin(y) \end{align}
という結果になります. 次に$\sin(x+y)$を計算するために, これを$\sin(x+y)\cos(0)-\sin(0)\cos(x+y)$に換えれば,
\begin{align} &\sin(x+y)\\ =\;&\sin(x+y)\cos(0)-\sin(0)\cos(x+y)\\ =\;&\sin(x)\cos(-y)-\sin(-y)\cos(x)\\ =\;&\sin(x)\cos(y)+\sin(y)\cos(x). \end{align}
加法定理については以上です.
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三平方の定理の式

$\cos(x)^2+\sin(x)^2$も一種の扇形式として見ることができますので, 各成分から$x$を引くと,
\begin{align} &\cos(x)^2+\sin(x)^2\\ =\;&\cos(0)^2+\sin(0)^2\\ =\;&1. \end{align}
これは三平方の定理の式と同じです.
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和積・積和の公式

すこし複雑になりますが, 和積の公式も確かめることができます.
\begin{align} &\cos(x)+\cos(y)\\ =\;&\cos(x)\cos(0)+\sin(x)\sin(0)\\ &\qquad+\sin(y)\sin(0)+\cos(y)\cos(0)\\ =\;&\cos\left(x-\frac{x+y}{2}\right)\cos\left(-\frac{x+y}{2}\right)+\sin\left(x-\frac{x+y}{2}\right)\sin\left(-\frac{x+y}{2}\right)\\ &\qquad+\sin\left(y-\frac{x+y}{2}\right)\sin\left(-\frac{x+y}{2}\right)+\cos\left(y-\frac{x+y}{2}\right)\cos\left(-\frac{x+y}{2}\right)\\ =\;&\cdots\\ =\;&2\cos\left(\frac{x+y}{2}\right)\cos\left(\frac{x-y}{2}\right). \end{align}
また積和の公式についても,
\begin{align} &\cos(x)\cos(y)\\ =\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\left(\cos(x)\cos(y)+\sin(x)\sin(y)\right)+\left(\cos(x)\cos(y)-\sin(x)\sin(y)\right)\right)\\ =\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\left(\cos(x)\cos(y)+\sin(x)\sin(y)\right)+\left(\cos(x)\cos(-y)+\sin(x)\sin(-y)\right)\right)\\ =\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\left(\cos(x-y)\cos(0)+\sin(x-y)\sin(0)\right)+\left(\cos(x+y)\cos(0)+\sin(x+y)\sin(0)\right)\right)\\ =\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\cos(x+y)+\cos(x-y)\right). \end{align}
こんな具合に計算したらいかがでしょうか.
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今回は三角函数を主題に扇形式を解説したのでありますが, もともと私がこの定理に気が付いたのは, Lucas 数と Fibonacci 数の等式を研究していたときのことでありました. Fibonacci 数の恒等式につきましては, またの機会にブログ記事の種にしようと思います.

それでは, 長い解説にお付きあい頂きましてありがとうございました.
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投稿日:2023329

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