二年生に忘れられた夢
前提知識 : 三角函数の加法定理, 和積・積和の公式
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お久し振りです. 今回の記事は, 三角函数の計算について, 私の考えるところを簡単に書くことに致します. とくに高校生の方に人気のある話題だと思います.
実数 (または複素数) の四つ組$(x,y,z,w)$の中で, 等式
\begin{align}
x+y=z+w
\end{align}
をみたすものにたいし, 以下四種の三角比の式を考えます.
\begin{align}
&\cos(x)\cos(y)-\cos(z)\cos(w),\\
&\\
&\cos(x)\sin(y)-\cos(z)\sin(w),\\
&\\
&\sin(x)\sin(y)-\sin(z)\sin(w),\\
&\\
&\cos(x)\cos(y)+\sin(z)\sin(w).
\end{align}
これらをかりに扇形式と呼ぶことにすれば, つぎの定理が成立します.
いかなる実数$d$についても, 組$(x,y,z,w)$にたいする扇形式の値と組$(x+d,y+d,w+d,z+d)$にたいする扇形式の値は相等しい.
すなわち, $x+y=z+w$ならば,
\begin{align}
&\cos(x)\cos(y)-\cos(z)\cos(w)\\
&\quad=\cos(x+d)\cos(y+d)-\cos(z+d)\cos(w+d),\\
&\\
&\cos(x)\sin(y)-\cos(z)\sin(w)\\
&\quad=\cos(x+d)\sin(y+d)-\cos(z+d)\sin(w+d),\\
&\\
&\sin(x)\sin(y)-\sin(z)\sin(w)\\
&\quad=\sin(x+d)\sin(y+d)-\sin(z+d)\sin(w+d),\\
&\\
&\cos(x)\cos(y)+\sin(z)\sin(w)\\
&\quad=\cos(x+d)\cos(y+d)+\sin(z+d)\sin(w+d).
\end{align}
四個ある等式のうち, 第一式のみを証明すれば十分である. (なぜでしょう ? )
第一式の右辺において積和の公式を適用すれば,
\begin{align}
&\cos(x+d)\cos(y+d)-\cos(z+d)\cos(w+d)\\
=\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\cos\left(x+y+2d\right)+\cos\left(x-y\right)-\cos\left(z+w+2d\right)-\cos\left(z-w\right)\right)\\
=\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\cos\left(x-y\right)-\cos\left(z-w\right)\right).
\end{align}
ただし途中に$x+y=z+w$の関係を用いた. これは$d$に依存しない式であるから, 第一行の等式は正しい. ゆえに他の等式も成立する. $\Box$
ついでに, 扇形式から$\cos$や$\sin$を取りはずして
\begin{align}
xy-zw
\end{align}
という多項式函数を考えてみますと, $x+y=z+w$ならば,
\begin{align}
(x+d)(y+d)-(z+d)(w+d)=xy-zw
\end{align}
になりますから, 三角函数のものと同じ性質をもつことがわかります.
(なぜこれらの性質は共通しているのしょうか ? Euler の公式を知っている方は考察してみるといいでしょう. )
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扇形式の定理をつかって, 加法定理や積和・和積の公式を導出してみせたいと思います.
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$\cos(x+y)$を計算するために, これを$\cos(x+y)\cos(0)+\sin(x+y)\sin(0)$のように見なします. すると扇形式の型になりますから, それぞれの引数より$y$を引いて,
\begin{align}
&\cos(x+y)\\
=\;&\cos(x+y)\cos(0)+\sin(x+y)\sin(0)\\
=\;&\cos(x)\cos(-y)+\sin(x)\sin(-y)\\
=\;&\cos(x)\cos(y)-\sin(x)\sin(y)
\end{align}
という結果になります. 次に$\sin(x+y)$を計算するために, これを$\sin(x+y)\cos(0)-\sin(0)\cos(x+y)$に換えれば,
\begin{align}
&\sin(x+y)\\
=\;&\sin(x+y)\cos(0)-\sin(0)\cos(x+y)\\
=\;&\sin(x)\cos(-y)-\sin(-y)\cos(x)\\
=\;&\sin(x)\cos(y)+\sin(y)\cos(x).
\end{align}
加法定理については以上です.
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$\cos(x)^2+\sin(x)^2$も一種の扇形式として見ることができますので, 各成分から$x$を引くと,
\begin{align}
&\cos(x)^2+\sin(x)^2\\
=\;&\cos(0)^2+\sin(0)^2\\
=\;&1.
\end{align}
これは三平方の定理の式と同じです.
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すこし複雑になりますが, 和積の公式も確かめることができます.
\begin{align}
&\cos(x)+\cos(y)\\
=\;&\cos(x)\cos(0)+\sin(x)\sin(0)\\
&\qquad+\sin(y)\sin(0)+\cos(y)\cos(0)\\
=\;&\cos\left(x-\frac{x+y}{2}\right)\cos\left(-\frac{x+y}{2}\right)+\sin\left(x-\frac{x+y}{2}\right)\sin\left(-\frac{x+y}{2}\right)\\
&\qquad+\sin\left(y-\frac{x+y}{2}\right)\sin\left(-\frac{x+y}{2}\right)+\cos\left(y-\frac{x+y}{2}\right)\cos\left(-\frac{x+y}{2}\right)\\
=\;&\cdots\\
=\;&2\cos\left(\frac{x+y}{2}\right)\cos\left(\frac{x-y}{2}\right).
\end{align}
また積和の公式についても,
\begin{align}
&\cos(x)\cos(y)\\
=\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\left(\cos(x)\cos(y)+\sin(x)\sin(y)\right)+\left(\cos(x)\cos(y)-\sin(x)\sin(y)\right)\right)\\
=\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\left(\cos(x)\cos(y)+\sin(x)\sin(y)\right)+\left(\cos(x)\cos(-y)+\sin(x)\sin(-y)\right)\right)\\
=\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\left(\cos(x-y)\cos(0)+\sin(x-y)\sin(0)\right)+\left(\cos(x+y)\cos(0)+\sin(x+y)\sin(0)\right)\right)\\
=\;&\frac{\,1\,}{\,2\,}\left(\cos(x+y)+\cos(x-y)\right).
\end{align}
こんな具合に計算したらいかがでしょうか.
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今回は三角函数を主題に扇形式を解説したのでありますが, もともと私がこの定理に気が付いたのは, Lucas 数と Fibonacci 数の等式を研究していたときのことでありました. Fibonacci 数の恒等式につきましては, またの機会にブログ記事の種にしようと思います.
それでは, 長い解説にお付きあい頂きましてありがとうございました.
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