東京大学の応用物理を受けると決めた夜、過去問を開いて固まった。量子力学、統計力学、電磁気、物性——範囲が広い。問題文は読めるし、出てくる分野も知らないわけではない。けれど、最初の式を置くまでに時間がかかり、白紙の上で迷う。しかも公式の解答は出ず、自分の答案が何点なのか確かめようがなかった。
量子の問題でハミルトニアンを書いて固有値も出した。なのに、境界条件をどう使ったか答案に書かず、採点者に方針が伝わらない。統計力学では分配関数を立てたが、極限を取る順序を曖昧にして符号を間違えた。「解けたつもりなのに点が来ない」——東大物理のような記述試験では、これが一番こわい。
転機は、過去問を分野で切り分け、各分野で「答案の最初の数行に何を宣言するか」を決めたことだった。応用物理の出題は、突き詰めると量子・統計・電磁気の3本柱で、それぞれに型がある。
固有値問題 $\hat{H}\psi = E\psi$ を解くとき、まずハミルトニアンと境界条件を書く。摂動なら $E_n^{(1)} = \langle n | \hat{H}' | n \rangle$ と一次補正の形を宣言してから計算する。固有値を出して終わりにせず、「どの境界条件で離散化したか」を一行添えるだけで、答案の説得力が変わる。
分配関数 $Z = \sum_i e^{-\beta E_i}$($\beta = 1/k_B T$)を書き、自由エネルギー $F = -k_B T \ln Z$ につなげる。大事なのは和と極限の順序を明示することだ。「先に和を取るのか、先に極限を取るのか」を宣言しないと、答案の論理が飛ぶ。
Maxwell 方程式を使う前に、座標系と対称性、境界条件(接線成分 $E_\parallel$ の連続、法線成分 $D_\perp$ の扱い)を宣言する。
$$\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \mathbf{J} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}$$
をどの状況で簡約するかを最初に書くと、後半の計算が読みやすくなる。
過去問を解き直して分かったのは、落としていたのは計算力ではなく「物理的条件の宣言」だった。座標・近似・境界条件・保存量を最初に書く。統計力学なら極限の順序、量子なら基底の選び方、電磁気なら接線・法線成分。分野が広い専攻ほど、この一貫した型が効く。
最後に。東大応用物理のように範囲が広い院試は、過去問の答え合わせの相手が見つけにくい。私(TeX64)は院試hub で東京大学 物理工学専攻(応用物理)の年度別オリジナル解答を整備している:
https://inshihub.com/grad-schools/tokyo-university/graduate-school-of-engineering/applied-physics
Mathlog の解説と併せて、答案を「読む」で止めず、宣言と接続詞まで自分の手で再現する練習に使ってほしい。よい院試対策を。