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Twitterで出した問題の解説(表現論)

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{asn}[0]{\hspace{16pt}(\mathrm{as}\ n\to\infty)} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{beq}[0]{\begin{eqnarray*}} \newcommand{c}[2]{{}_{#1}\mathrm{C}_{#2}} \newcommand{cb}[0]{\binom{2n}{n}} \newcommand{d}[0]{\mathrm{d}} \newcommand{del}[0]{\partial} \newcommand{dhp}[0]{\dfrac{\pi}2} \newcommand{ds}[0]{\displaystyle} \newcommand{eeq}[0]{\end{eqnarray*}} \newcommand{ep}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{Fp}[0]{\mathbb{F}_p} \newcommand{G}[1]{\Gamma({#1})} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{hp}[0]{\frac{\pi}2} \newcommand{I}[0]{\mathrm{I}} \newcommand{l}[0]{\ell} \newcommand{limn}[0]{\lim_{n\to\infty}} \newcommand{limx}[0]{\lim_{x\to\infty}} \newcommand{nck}[0]{\binom{n}{k}} \newcommand{p}[0]{\varphi} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\mathrm{Res}}} \newcommand{space}[0]{\hspace{12pt}} \newcommand{sumk}[1]{\sum_{k={#1}}^n} \newcommand{sumn}[1]{\sum_{n={#1}}^\infty} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{tc}[0]{\TextCenter} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

以下の問題の解説をします.

「0000」から「9999」の$10^4$個の数を"4桁の数字"と呼ぶ. まず黒板に4桁の数字を1つ書き, 操作
①既存の数「ABCD」を選び, 「DABC」または「BADC」を書き加える.
②既存の2数を選び, それらの「繰り上がり無しの和」を書き加える.
のいずれかを行うことを繰り返す.
この方法により4桁の数字全てを黒板に書くことができるような, 初めの数字の書き方は何通りあるか.

実験

例えば「1111」などから始めてしまうと, 全ては作れないことがわかります. 他にも, 「2468」などから始まるとどの桁も偶数にしかならないことがわかります. そこで, このような安定性がないのはどういうときかを考えることになります.
${}$

方針

まずこの問題は, $(\Z/10\Z)^4$の元に対して, 成分の入れ替えおよび足し合わせを繰り返して全体が作れるか, ということになります.

許されている成分入れ替えは, $S_4$の, $(1234)$$(12)(34)$で生成される部分群つまり$D_4$による作用になっています. この作用により$(\Z/10\Z)^4$$(\Z/10\Z)[D_4]$加群になります.

(具体的には, $R=\Z/10\Z$として, $v\in R^4$への$g\in D_4$の成分入れ替え作用を$gv$と書くことにして,

$$ \textstyle\Big(\sum_{g\in D_4}a_g\,g\Big)v=\sum_{g\in D_4} a_g\,gv$$

により$R[D_4]$加群の構造が定まります.)

すると, はじめに書いた数字$v\in R^4$が問いの条件を満たすことは, $v$が加群としての生成元になっていることと言い換えることができます.
${}$

この加群を調べるには, $D_4$$R=\Z/10\Z$上の表現を調べればいいですが, 環上での表現論は難しすぎます. しかし, 後述のように実は$\Z/2\Z$$\Z/5\Z$に分けて考えられることが分かるので, 一般に$D_4$$\Fp$上の表現を調べればよいです.

${}$

解答

「0000」から「9999」の$10^4$個の数を"4桁の数字"と呼ぶ. まず黒板に4桁の数字を1つ書き, 操作
①既存の数「ABCD」を選び, 「DABC」または「BADC」を書き加える.
②既存の2数を選び, それらの「繰り上がり無しの和」を書き加える.
のいずれかを行うことを繰り返す.
この方法により4桁の数字全てを黒板に書くことができるような, 初めの数字の書き方は何通りあるか.

(解答)

成分入れ替えによる$D_4$$(\Z/10\Z)^4$への作用(回転$r=(1234)$, 反転$t=(12)(34)$)によりこれを$(\Z/10\Z)[D_4]$加群とみたときの, 生成元となる元の個数を求める.

ここで、この加群は$\F_2[D_4]\times\F_5[D_4]$加群$\F_2^4\times\F_5^4$であり, 作用もそれぞれ独立に入っていることに注意すると, 答えである生成元となる元の個数は,

($\F_2[D_4]$加群$\F_2^4$の生成元となる元の数)$\times$($\F_5[D_4]$加群$\F_5^4$の生成元となる元の数)

に等しい. そこで一般に$\Fp[D_4]$加群$V=\Fp^4$を考える. この$D_4$$4$次表現を$\rho$とおく.
${}$

まず$p\neq2$のときは, $p$$D_4$の位数を割らないから, Mashckeの定理により$\Fp[D_4]$は半単純環であり, $V$を単純部分加群の直和として表せる. 以下, $V$の直和分解即ち$\rho$の既約分解を計算する.
${}$

先に$D_4$$\Fp$上の既約表現を特定する. まず1次表現はAbel化$(D_4)_{ab}$から$\Fp^{\times}$への準同型であり, $(D_4)_{ab}=(\Z/2\Z)^2$であることから4つである. 従って, Artin-Wedderburnの定理を踏まえて, 既約表現は1次が4つ, 2次が1つである. 指標表は以下のようになる.

共役類:$\{e\}$$\{r,r^3\}$$\{r^2\}$$\{tr,tr^3\}$$\{t,tr^2\}$
$\chi_1$$1$$1$$1$$1$$1$
$\chi_2$$1$$-1$$1$$-1$$1$
$\chi_3$$1$$1$$1$$-1$$-1$
$\chi_4$$1$$-1$$1$$1$$-1$
$\chi_5$$2$$0$$-2$$0$$0$

(結果として$\mathbb{C}$上の表現の場合と全く同じになる.)

さて, 今回考えている, $r=(1234),\ t=(12)(34)$による基底入れ替えによる表現$\rho$の指標を$\chi$とする. この場合指標は固定される基底の個数に等しいから, 上の表の順番で「4,0,0,2,0」となる. よって既約分解は
$$ \chi=\chi_1+\chi_4+\chi_5$$
である.

$\chi_i$に対応する既約表現を$\rho_i$, その安定部分空間を$V_i$とおくと,

$$ V=V_1\oplus V_4\oplus V_5$$

が, 加群としての分解である.
${}$

従って$V$の単純部分加群は$V_1,V_4,V_5$のみなのだから,

$v\in V$が生成元でない$\iff$ $\Fp[D_4]\cdot v=\bigoplus_{i\in I}V_i,\ I\subsetneq \{1,4,5\}$とかける$\iff$ $\exists i$, $x$$V_i$への射影が$0$

となるので, 生成元となる元の個数は

$$ \prod_{i=1,4,5}(|V_i|-1)=(p-1)^2(p^2-1)$$
である.

${}$

一方, $p=2$の場合はMashkeの定理が使えないから, 直和分解すらできると限らず, 上の方法は使えない.

しかし, 具体的に調べることにより, $(0,0,0,0),\,(0,0,1,1),\,(1,1,1,1)$は生成元ではなく, $(0,0,0,1),\,(0,1,1,1)$は生成元であることが分かる. 即ち1の個数が奇数個であればよいから, 生成元となる元の個数は$8$である.
${}$

以上より, 求める個数は, $8\cdot4^2\cdot(5^2-1)=$$3072$である.

${}$

補足

今回は代数閉体上ではなく, さらに正標数の表現なので少し注意が必要です. (実際には群の位数を割らない標数ならばあまり関係ありませんが.)
代数閉でない場合, Schurの補題が使えないことおよびArtin-Wedderburnの定理の行列環分解に拡大斜体が登場してしまうことから,
・Abel群の既約表現が1次のみと限らない
・既約表現の数が共役類の数に一致しない
・既約表現の次元の2乗和が群の位数に一致しない
などの違いがあります. 指標の計算などは実はあまり変わりません.

しかし今回は偶然, $\mathbb{C}$上の表現とほとんど同じになります. 理由はまず1つには$(D_4)_{ab}$に位数2の元しかなく$\Fp^{\times}$への準同型が十分にあること(実際, $\Z/3\Z$の既約表現では, $\Fp^{\times}$に位数3の元が無い場合は1次表現が3つ作れません), および次元が小さいことから偶然$\Fp$上の行列環しか登場しなかったこと, が理由です.

${}$

具体的な計算をほとんどせずに終わりましたが, せっかくなので$p=5$のときの安定部分空間を計算してみましょう.

まず自明表現$\chi_1$に対応するのは$V_1=\langle(1,1,1,1)\rangle$です. 実際, 「$1111$」などからスタートすると$V_1$の元しか作れません.

次に$\chi_4$に対応するのは, $V_4=\langle(1,-1,1,-1)\rangle$です. 例えば「$1414$」からスタートすると, $0000,\,1414,\,2323,\,3232,\,4141$しか作れません.

最後に$\chi_5$に対応するのは, $V_5=\langle(1,0,-1,0),(0,1,0,-1)\rangle$です. 例えば「$1243$」からスタートすると, 第1成分と第3成分の和が5かつ, 第2と4成分の和も5のものしか作れません. これはちょっと非自明で面白いですね.

${}$

それでは, ここまで読んでくださった方, ありがとうございました.

投稿日:1017
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投稿者

東大数理M1

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