大学入試数学|複素数・複素数平面
複素数の式と図形を
一つの体系で学ぶ
成分・共役・長さと角を同じ対象の異なる表示として結び付け、必要な情報を取り出す操作を選べるようにする体系的な教材です。
公式の導出から、適用条件、途中の分岐、逆確認まで扱います。
模範解答・解説・別解は、それぞれ独立した折りたたみ欄です。
見出しを押すと、その欄だけを開閉できます。
複素数には、二つの実成分をまとめる面と、回転・拡大を掛け算で表す面があります。
そのため、一つの式を成分として読むか、長さと角として読むか、点の配置として読むかによって、計算の見通しが大きく変わります。
本稿の中心は、求める情報に合わせて表示を選び、得られた条件をその意味に従って処理することです。
例えば、累乗の等式から絶対値を取って二点への等距離が得られれば、残った問題は垂直二等分線の条件です。
逆に図形の条件から実数の二次方程式が得られれば、根の範囲を調べます。
出発時の単元名に処理を固定せず、途中で得た式にも同じ判断基準を適用します。
ただし、絶対値だけを取る操作では角の条件が残るなど、失った情報も必ず追います。
基礎知識、性質の導出、実戦の手順は役割を分けて配置しました。
各章の冒頭に前提と習得目標を示し、各節では必要な数学を説明してから、適用条件と分岐をまとめ、例題で実行を確かめます。
手順欄だけで証明を済ませず、本文の導出と一緒に読んでください。
用語|写像・像・元像・逆像を区別する
この先で使う言葉を先に確認します。写像とは、決められた集合の各要素に、別の集合の要素をただ一つずつ対応させる規則です。
関数も写像であり、本稿では数や点を別の数や点へ移す規則を指します。入力として許す集合を定義域(始域)と呼びます。
例えば、複素数全体で定義した規則 f(z)=z2 を考えます。入力2に対する出力4を「2の像」と呼びます。また、ある集合の点をすべて動かして得られる出力全体も、その集合の像と呼びます。例えば集合{−1, 0, 1}の像は{0, 1}です。定義域全体の像が値域です。
出力1を与える入力−1と1は、それぞれ1の元像です。本稿では元像を、このような条件を満たす個々の元の点という意味で使います。元像は定義域によって、存在しないことも、複数あることもあります。
出力側の集合に入るような入力を、定義域の中からすべて集めた集合が逆像です。上の規則では、{1}の逆像は{−1, 1}、{0, 1}の逆像は{−1, 0, 1}です。「点1の逆像」と言う場合も、1の元像すべての集合を意味します。
逆像と逆関数は別です。逆像は条件を満たす入力の集合なので、元の写像が定義されていれば常に考えられます。一方、逆関数は、出力を入力へ一意に戻す関数です。異なる入力が同じ出力を与えない性質を単射といい、単射な関数なら、その値域上に逆関数を定められます。出力先として指定した集合全体に逆関数を定義するには、その全要素が実際に出力されることも必要です。
複素数全体での二乗は、−1と1がともに1へ移るため、逆関数を持ちません。それでも逆像は求められます。定義域を非負の実数に制限すると、値域も非負の実数となり、出力の非負の平方根を取る操作が逆関数になります。逆像の記号 f−1(B) は集合を表し、逆関数の値や数の逆数とは区別します。
軌跡では、計算から得た候補点それぞれに、元の条件を満たす元像があるかを確かめます。これを本稿では逆確認と呼びます。逆関数を作れない場合でも、元像の存在を示せば十分です。
判断|この教材で習得すること
条件に含まれる情報を読む → その情報を取り出す表示・操作を選ぶ → 得た式の条件を調べる → 全解・元像・達成点を確認する。
全解では候補を元式へ、軌跡では任意の候補点から元像へ、最大・最小では等号を満たす元の変数へ戻れば、要求に応じた終了を判断できます。
注意|学習範囲と前提
本体の導出・解法は日本の高校数学だけで完結します。実数の微分・積分・極限を使う節は、その前提を明記します。高校範囲外の理論は第15章の参考に分離しました。
Ⅰ 表示と代数的な処理
Ⅱ 点・図形・写像を扱う
Ⅲ 値域・存在・反復・発展
Ⅳ 実践と振り返り
基礎|この章の役割
前提 実数の四則、座標、三角関数の加法定理
習得目標 成分・共役・長さと角が同じ数を表すことを理解し、計算で必要な情報に合う表示を選べるようにする
基礎知識
虚数単位$i$は$i^2=-1$を満たします。複素数$z=x+iy$を座標平面の点$(x,y)$に対応させたものが複素数平面です。実軸は横軸、虚軸は縦軸で、点とその座標を表す複素数には同じ小文字を使います。
$z=x+iy$と書くとき、共役は$\overline z=x-iy$、絶対値は$|z|=\sqrt{x^2+y^2}$です。$x,y$は実数です。実部は$x$、虚部は$y$であり、$iy$ではありません。複素数の相等は
$$x+iy=u+iv\iff x=u,\quad y=v$$
です。ただし四つの文字が実数であることが前提です。未知の実数係数を求める問題や、小さな具体数の四則演算では、まずこの形へそろえるのが軽い操作です。
和$z+w$は二成分をそれぞれ加える操作です。差$b-a$は点$a$から点$b$への変位を表し、その長さは$|b-a|$です。積では$i^2=-1$を用いて実部・虚部をまとめます。例えば$(1+2i)(3-i)=5+5i$です。
$$
\begin{aligned}
\overline{z+w}&=\overline z+\overline w,&
\overline{zw}&=\overline z\,\overline w,\\
|z|^2&=z\overline z,&
\frac1z&=\frac{\overline z}{|z|^2}\quad(z\ne0),\\
\operatorname{Re}z&=\frac{z+\overline z}{2},&
\operatorname{Im}z&=\frac{z-\overline z}{2i}.
\end{aligned}
$$
商の共役は$\overline{z/w}=\overline z/\overline w$です。商では常に分母の非零を確認します。例えば
$$\frac{1+3i}{2-i}=\frac{(1+3i)(2+i)}5=-\frac15+\frac75i.$$
この程度の商を無理に極形式へ変える必要はありません。一方、指数が大きいなら、累乗を扱う章の周期や極形式を使う方が軽くなります。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (-1,0);(5.5,0) **\dir{-}, (0,-3.5);(0,3.5) **\dir{-}, (3,2)*{\bullet}="P",(3,-2)*{\bullet}="Q", "P";"Q" **\dir{--}, (0,0);"P" **\dir{-},(0,0);"Q" **\dir{-}, (3.5,2.3)*{\color{#1d4ed8}z},(3.5,-2.3)*{\color{#7e22ce}\overline z}, (-0.4,-0.4)*{O},(5.5,-0.45)*{\operatorname{Re}}, (0.5,3.5)*{\operatorname{Im}} \end{xy}}$
図1 共役は実軸対称で、原点からの距離を保ちます
手順|C01 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 具体的な複素数の四則、または未知の「実数」係数が現れる。
何を得るか 実部・虚部という独立な二成分へそろえる。
操作と分岐 和差は成分ごと、積は$i^2=-1$で整理する。商は分母の共役を掛け、実数係数は二成分で比較する。大きな累乗だけが重い場合は極形式へ切り替える。
止まったとき・終了時 分母の非零と係数の実数性を確かめ、求めた値を元式へ戻す。二数が異なるだけでは、その二数を基準とする係数比較はできない。
基礎から乗除公式へ
$z\ne0$に対し、
$$z=r(\cos\theta+i\sin\theta),\qquad r=|z|>0$$
と表します。$\theta$は$2\pi$の整数倍だけ異なり、問題で代表値の区間を指定されたときは、その区間に戻します。零には偏角を定義しません。
成分から角を定めるときは、$\cos\theta=x/r,\ \sin\theta=y/r$と象限を合わせます。$\tan\theta=y/x$だけでは象限を区別できず、$x=0$も扱えません。例えば$-1+i$は、半径$\sqrt2$、代表偏角$3\pi/4$です。
二数を$z_1=r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)$、$z_2=r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)$と表します。非零の数では半径を正とし、零を含む積は直接計算します。積と商は加法定理から
$$
\begin{gathered}
z_1z_2=r_1r_2\\[3pt]
\quad\times\{\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)\},\\[3pt]
\frac{z_1}{z_2}=\frac{r_1}{r_2}\\[3pt]
\quad\times\{\cos(\theta_1-\theta_2)+i\sin(\theta_1-\theta_2)\}\\[3pt]
(z_2\ne0).
\end{gathered}
$$
共役と逆数は角の符号が逆になり、
$$
\begin{gathered}
\overline z=r\{\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\},\\[3pt]
\frac1z=\frac1r\{\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\}.
\end{gathered}
$$
です。「積商を展開する代わりに、長さを掛け割りし、角を足し引きする」ことが極形式を選ぶ理由です。半径だけが必要なら、簡単でない偏角まで求める必要はありません。
手順|C06 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 積・商・偏角が中心で、成分を展開すると角の情報が隠れる。
何を得るか 乗除を半径の掛け割りと角の足し引きへ分離する。
操作と分岐 零を別に扱い、$r=|z|$と象限から角を定める。和が残るなら半角の因数分解を先に点検する。半径だけが必要なら、求めにくい角を計算しない。
止まったとき・終了時 半径を正にし、偏角を指定区間へ戻す。$\tan\theta$だけでは象限が決まらない。和が増えて重くなるなら成分表示に戻る。
用語|退化という言葉
退化とは、特別な係数や配置のため、通常想定する式・図形の形が崩れることです。例えば二次の係数が零になって一次式になる場合や、三角形の三頂点が一直線上に並ぶ場合です。非退化な三角形は、三頂点が相異なり、一直線上にない三角形を指します。
解法の選択
フロー|表示を決めるための分岐
分岐1 共役があり、長さが固定されている
→ 共役を逆数へ置き換える。次数が下がるかを確認する。
分岐2 積・商・累乗の角が必要
→ 零を分け、極形式へ。半径の条件と角の条件を別に処理する。
分岐3 和や実部・虚部の指定が中心
→ 成分表示へ。二つの実数式のうち、因数分解できる方を先に使う。
分岐4 辺比・角・垂直・距離が中心
→ 差、差の商、共役積を作る。得た式が実数条件・円・一次式なら、その条件の処理へ進む。
同じ$|z|=1$という条件からでも、最適な表示は目的によって変わります。共役を含む有理式なら$\overline z=1/z$、累乗や角なら$z=\cos\theta+i\sin\theta$、定点への距離なら中心$0$・半径$1$の円として扱います。「単位円だから極形式」と一律には決めません。
判断|何を一つ減らせるか
判断|この章を終えるとき
実部・虚部を成分として読み、非零の数を長さと角へ戻せれば、条件を式にする準備が整う。
基礎|この章の役割
前提 第1章の成分表示と共役の演算
習得目標 複素式の中から必要な実条件を取り出す。実数性、交差項、共役連立を別々に習得する
用語|点の位置を表す言葉
複数の点が同一直線上にあることを共線、同一円周上にあることを共円といいます。非共線は「同一直線上にはない」という意味です。
性質と導出
「$F$が実数」は$F=\overline F$、または$\operatorname{Im}F=0$です。「$F$が純虚数」は$\operatorname{Re}F=0$に加えて$F\ne0$を要求します。零は実数であり、本稿では純虚数に含めません。
共役対が見える式なら、全体の共役を取ると短くなります。低次の式なら$z=x+iy$の方が短い場合があります。例えば$z^2+z$が実数となる条件は
$$\operatorname{Im}(z^2+z)=y(2x+1)=0$$
なので、実軸$y=0$または直線$x=-1/2$です。$y$で割って実軸を落としてはいけません。
分数では、分母の共役を掛けます。$V\ne0$なら
$$
\begin{aligned}
\frac UV\in\mathbb R\\
&\iff U\overline V=\overline U V\\
&\iff\operatorname{Im}(U\overline V)=0,\\
\frac UV\text{が純虚数}\\
&\iff\operatorname{Re}(U\overline V)=0,\ U\ne0.
\end{aligned}
$$
分母の絶対値二乗は正の実数なので、実数性・純虚数性は分子だけで判定できるのです。この操作は、後で共線・垂直の条件にもそのまま使います。
手順|C02 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 「実数」「純虚数」、または複素式に大小が指定される。
何を得るか 不要な成分を零にして、比較できる実数式を得る。
操作と分岐 実数性は$F=\overline F$、純虚数性は$F+\overline F=0$と$F\ne0$。共役対や円条件があれば先に利用し、整理が進まなければ$z=x+iy$にする。積が零になったら各因子の枝を残す。
止まったとき・終了時 必要十分な成分条件を得れば実数性の処理は終了。大小が残れば各枝で実数の不等式へ進む。商では分母、純虚数では分子も非零か確認する。
問題|例題1 大小条件には実数性も含まれる
$z\ne0$について$2\leq z+4/z\leq5$となる点を求める際、最初に何を調べるか。
$z=x+iy$と置くと、
$$\operatorname{Im}\left(z+\frac4z\right)=y\left(1-\frac4{x^2+y^2}\right).$$
したがって、まず$y=0$または$|z|=2$に分ける。
普通の実数の大小として書かれた条件は、式が実数であることを含みます。二枝を得た後、実数枝では実数の不等式、円の枝では円上の実部の範囲を調べます。全てを複素数のまま二乗することはできません。最後まで処理する実演は総合問題1に置きます。
共役を取っても条件が整理できなければ、成分化へ戻してください。処理の終了は、実数性の必要十分条件が得られたところです。その先に大小や図形の指定が残っていれば、得た各枝でその条件を調べます。
問題|補例B 多変数でも、全体の共役が短い場合
$|\alpha|=|\beta|=|\gamma|=1$のとき
$$S=\frac{(\alpha+\beta)(\beta+\gamma)(\gamma+\alpha)}
{\alpha\beta\gamma}$$
が実数であることを示せ。
三数は非零で、
$$\overline{\alpha+\beta}=\frac{\alpha+\beta}{\alpha\beta}$$
だから、三つの因子と分母の共役を順に取れば$\overline S=S$となります。例えば三つの因子の分母の積は$(\alpha\beta\gamma)^2$で、元の分母の共役は$1/(\alpha\beta\gamma)$なので、全体として元の分母一つが残ります。
成分を六つ導入する前に、「共役を逆数へ変えたとき、式全体が元に戻るか」を調べました。
展開して
$$S=2+\frac\alpha\beta+\frac\beta\alpha
+\frac\beta\gamma+\frac\gamma\beta
+\frac\gamma\alpha+\frac\alpha\gamma$$
とし、逆比どうしが共役で和は実数、と見ても構いません。積の構造が単純なら全体の共役、展開して共役対が少数なら対の和を選びます。
絶対値が一定なら、共役を消す
$$|z|=r>0\quad\Longrightarrow\quad \overline z=\frac{r^2}{z}$$
も重要です。ただし、$z+1/z$と$z+1/\overline z$は違う形です。後者は
$$
\begin{gathered}
z+\frac1{\overline z}=\left(1+\frac1{|z|^2}\right)z,\\[3pt]
\left|z+\frac1{\overline z}\right|=|z|+\frac1{|z|}
\end{gathered}
$$
となり、二項は同じ方向を向きます。例えば$|z|=2$なら絶対値は$5/2$で、偏角を計算する必要もありません。共役の位置を読むだけで、選ぶ操作が変わります。
性質と導出
絶対値は非負なので、絶対値どうしの等式・大小は二乗してよいことが多くあります。展開の基本は
$$|u\pm v|^2=|u|^2+|v|^2\pm2\operatorname{Re}(u\overline v).$$
また$|uv|^2=uv\overline u\,\overline v=|u|^2|v|^2$で両辺は非負なので、
$$|uv|=|u||v|,\qquad
\left|\frac uv\right|=\frac{|u|}{|v|}\quad(v\ne0)$$
です。積・商を長さだけで扱える理由になります。$u,v\ne0$のなす向き付き角を$\theta$とすれば、
$$|u+v|^2=|u|^2+|v|^2+2|u||v|\cos\theta$$
で、上の展開は余弦定理と同じ情報を持ちます。二つの長さを固定して相対角を自由に動かせるなら、$\cos\theta$は$[-1,1]$全体を取ります。角の区間が制限される場合は、その区間での余弦の値域へ戻し、増減の変わる角をまたぐか確認します。
ここから平行四辺形の等式
$$|u+v|^2+|u-v|^2=2(|u|^2+|v|^2)$$
も得られます。また、実数$s,t$なら
$$|su+tv|^2=s^2|u|^2+t^2|v|^2+2st\operatorname{Re}(u\overline v).$$
二つの長さと和の長さが分かっていれば、必要な交差項は一つだけです。$u,v$を個別に決める必要はありません。
手順|C03 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか $|u|,|v|,|u\pm v|$から別の一次結合の長さを求める。
何を得るか $u,v$を個別に決めず、共通の交差項を一つ確定する。
操作と分岐 既知の長さを二乗して$\operatorname{Re}(u\overline v)$を取り出す。目的の$|su+tv|^2$へ代入する。長さ固定で角が動くなら、交差項を$|u||v|\cos\theta$と読む。
止まったとき・終了時 係数が実数か、共役の位置が同じかを点検する。最後に非負の平方根を取る。値域なら相対角が実際にどこまで動くかも示す。
問題|例題2
$|\alpha|=|\beta|=1$、$|\alpha+\beta|=\sqrt3$のとき、$|2\alpha-\beta|$を求めよ。
$$3=|\alpha+\beta|^2=2+2\operatorname{Re}(\alpha\overline\beta)$$
より$\operatorname{Re}(\alpha\overline\beta)=1/2$。したがって
$$|2\alpha-\beta|^2=4+1-4\operatorname{Re}(\alpha\overline\beta)=3.$$
よって答えは$\sqrt3$。
入口は「三つの長さから別の一次結合の長さ」です。既知の長さを二乗して交差項を確定し、目的の二乗へ代入します。図形的には二辺のなす角の余弦を求めているのと同じですが、角そのものを求めずに済みます。最後は非負の平方根を取ります。
性質と導出
係数比較は、$1,i$以外の二方向でもできます。$\alpha,\beta$が平行でなく、
$$\operatorname{Im}(\overline\alpha\beta)\ne0$$
なら、実数$s,t$について$s\alpha+t\beta=0$から$s=t=0$が従います。実際、$\overline\alpha$を掛けて虚部を取ると$t=0$、続いて$s=0$です。「二つの異なる複素数だから」では不十分で、平行でないことが必要です。また、$s,t$が複素数ならこの比較はできません。
例えば実数$s,t$について$s(1+i)+t(1-i)=0$なら$s+t=s-t=0$です。求めた係数は元の式に代入して、実部・虚部の両方が一致すれば処理を終えられます。
$$Az+B\overline z=C$$
では、共役を取った$\overline Bz+\overline A\overline z=\overline C$を並べます。第一式を$\overline A$倍し、第二式を$B$倍して引くと
$$
(|A|^2-|B|^2)z=\overline AC-B\overline C.
$$
したがって$D=|A|^2-|B|^2$により分岐します。
手順|C04 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 未知数が$Az+B\overline z=C$の形で一次に現れる。
何を得るか 共役を未知のまま増やさず、共役式との連立で消去する。
操作と分岐 $D=|A|^2-|B|^2$を計算する。$D\ne0$なら一点、$D=0$なら整合条件を確認する。$A=B=0$は最初に元の定数式へ戻す。
止まったとき・終了時 消去後の$0=0$は全平面を意味しない。残る一次式を確認し、一点・直線・空集合・全平面を区別する。具体数なら$x,y$の連立で検算できる。
性質と導出
共役を含む式は、普通の一変数の多項式方程式とは異なります。単位円条件などで共役を消せない場合は、$z=x+iy$として実部・虚部の二式へ分けます。そのうち因数分解できる方を先に使い、得た関係を他方へ代入します。
手順|C05 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 共役と複数の次数が混在し、絶対値一定などで共役を消せない。
何を得るか 一つの複素式を二つの実数条件として使う。
操作と分岐 $z=x+iy$として実部と虚部を分ける。積に因数分解できる方を先に使い、得た関係を他方へ代入する。$y=0$の枝を残してから非実数枝へ進む。
止まったとき・終了時 同じ連立式へ戻るなら代入順を変える。割った因子の零、二乗による余分な候補を点検し、全候補を元式へ戻す。
問題|例題3
$$z^3-3z\overline z+4=0$$
を満たす複素数$z$を全て求めよ。
$z=x+iy$と置くと、
$$
\begin{cases}
x^3-3xy^2-3x^2-3y^2+4=0,\\
y(3x^2-y^2)=0.
\end{cases}
$$
$y=0$では$(x+1)(x-2)^2=0$より$x=-1,2$。
$y\ne0$では$y^2=3x^2$を第一式へ代入し、
$$-4(x+1)^2(2x-1)=0.$$
よって$x=-1,1/2$であり、対応する$y$はそれぞれ$\pm\sqrt3,\ \pm\sqrt3/2$。以上の候補は全て元式を満たすので、
$$\boxed{z=2,\ -1,\ -1\pm\sqrt3i,\ \frac{1\pm\sqrt3i}{2}}.$$
虚部が積の形になったため、そこから二枝を得ました。「ここで良い置換を見つける」必要はありません。実数枝と非実数枝を分けた後、非実数枝の$y^2=3x^2$で次数を下げています。進まなければ、二式のどちらを先に使うと因数分解や代入が軽くなるかを見直します。
性質と導出
$(u+iv)^2=A+Bi$では、$u^2-v^2=A,\ 2uv=B$です。さらに$u^2+v^2=\sqrt{A^2+B^2}$なので
$$
\begin{gathered}
u^2=\frac{\sqrt{A^2+B^2}+A}{2},\\[3pt]
v^2=\frac{\sqrt{A^2+B^2}-A}{2}.
\end{gathered}
$$
ここで$u,v$の符号を独立に選んではいけません。$2uv=B$で組を決めます。例えば$3+4i$の平方根は$\pm(2+i)$であり、$2-i$は平方根ではありません。$B=0$のときも、元の二式で実数方向・純虚数方向を選別します。零の平方根は零一つです。
$az^2+bz+c=0,\ a\ne0$は
$$ (2az+b)^2=b^2-4ac $$
に直せば同じ処理になります。例えば$z^2-2z+1-2i=0$は$(z-1)^2=2i$より$z=2+i,-i$です。複素係数では、解とその共役が必ず組になるわけではありません。
角が簡単なら、
3.3
の$n$乗根を使う方法も自然です。成分表示を求める平方根なら上の二式、全ての根を角の配置として求めるなら極形式、と使い分けます。
判断|この章を終えるとき
実数条件や円・直線の式が得られたら、その条件だけを次の処理へ渡す。零の枝と分母の除外は残す。
基礎|この章の役割
前提 第1章の極形式、第2章の実数条件
習得目標 累乗は半径と整数の角条件へ、相反構造は低次の方程式へ直す。大きな指数を展開しない判断を習得する
目的から公式の導出へ
単位円上の二点を表す複素数を、実数$\alpha,\beta$を用いて
$$u=\cos\alpha+i\sin\alpha,\qquad v=\cos\beta+i\sin\beta$$
とします。ここで求めたいのは、和$u+v$や差$v-u$の「長さ」と「向き」です。積や商とは違い、和差の偏角をそのまま足し引きすることはできません。そこで、和差を「実数の係数×絶対値1の複素数」に分け、長さと向きを読み取れる形にします。
二つの角の中央を基準にすると、両方の角がそこから同じだけ離れます。そのため
$$m=\frac{\alpha+\beta}{2},\qquad d=\frac{\beta-\alpha}{2}$$
と置きます。このとき$\alpha=m-d,\ \beta=m+d$です。$m$は二方向の中央、$d$はそこからの角のずれを表します。加法定理を使うと、和では$\sin d$を含む項、差では$\cos d$を含む項が打ち消し合います。
まず実部・虚部をそれぞれ整理します。
$$
\begin{aligned}
\cos(m-d)+\cos(m+d)&=2\cos m\cos d,\\
\sin(m-d)+\sin(m+d)&=2\sin m\cos d,\\
\cos(m+d)-\cos(m-d)&=-2\sin m\sin d,\\
\sin(m+d)-\sin(m-d)&=2\cos m\sin d.
\end{aligned}
$$
例えば余弦の和では、$\cos(m\pm d)=\cos m\cos d\mp\sin m\sin d$を足すと、後ろの二項が消えます。他の三式も、正弦・余弦の加法定理を足すか引くことで得られます。これらを実部・虚部として組み合わせると、
$$
\boxed{u+v=2\cos d(\cos m+i\sin m)},
$$
$$
\boxed{v-u=2\sin d(-\sin m+i\cos m)}
$$
となります。後者の括弧内は、偏角$m+\pi/2$を持つ絶対値1の複素数です。
括弧内の絶対値は1なので、
$$
\begin{gathered}
|u+v|=2|\cos d|,\\
|u-v|=2|\sin d|
\end{gathered}
$$
です。二点を$U,V$、原点を$O$とすると、$|u-v|$は弦$UV$の長さです。弦の中点$M$は複素数$(u+v)/2$で表されるので、$OM$の長さは$|\cos d|$となります。$u+v$と$v-u$がともに零でないとき、二つの括弧内の方向は直角をなすため、直線$OM$と弦$UV$は垂直です。
$u=v$なら弦の長さが零です。また$u=-v$なら弦は直径で、中点は原点です。このとき$OM$という方向は定まらないので、非零の場合の向きの説明をそのまま使いません。
和の係数は$2\cos d$、差の係数は$2\sin d$です。係数が正なら、和の偏角の一つは$m$、差$v-u$の偏角の一つは$m+\pi/2$です。係数が負なら、その角に$\pi$を加えます。係数が零なら和または差そのものが零なので、偏角は定義しません。逆向きの差$u-v$を扱う場合も、符号の反転に注意します。最後に、角を$2\pi$の整数倍だけ調整して、問題の指定区間へ戻します。
$\alpha,\beta$には偏角の任意の代表値を使えます。ただし、代表値を変えると$m,d$や係数の符号も変わるため、「平均の角だけ」を取り出さず、係数と組にして読んでください。
単位円上の二点の距離なら$|u-v|$、和の絶対値なら$|u+v|$を直ちに使えます。和差の累乗や実数性を調べる問題では、係数の符号まで直して極形式にしてから、第3.2節の半径と角の条件へ進みます。等比数列の和に現れる「1と単位円上の数の和差」にも使えます。
特に$u=1,\ v=\cos\theta+i\sin\theta$とすると、$m=d=\theta/2$なので
$$
\begin{aligned}
1+\cos\theta+i\sin\theta
&=2\cos\frac\theta2\\
&\quad\times\left(\cos\frac\theta2+i\sin\frac\theta2\right).
\end{aligned}
$$
例えば$\theta=3\pi/2$なら、左辺は$1-i$です。係数$2\cos(3\pi/4)$が負なので、偏角の一つは$3\pi/4+\pi=7\pi/4$であり、$3\pi/4$のままではありません。
この操作は、必要な長さが求まるか、非零の和差について正の半径と正しい偏角が決まれば終了です。長さだけを求める問題では、不要な偏角の代表値まで計算する必要はありません。
性質と導出
非零の複素数を$z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$、$r=|z|>0$と表します。乗法公式を繰り返せば、ド・モアブルの定理
$$z^n=r^n(\cos n\theta+i\sin n\theta)$$
が得られます。$n$が正の整数なら零も直接扱えます。負の整数を含むときは$z\ne0$が必要で、指数零も非零の$z$について用います。
非零の$z$について、$z^n$が実数となる条件は$n\theta$が$\pi$の整数倍、純虚数となる条件は$n\theta$が$\pi/2$の奇数倍です。正の実数なら$2\pi$の整数倍、負の実数なら$(2k+1)\pi$と符号を分けます。
手順|C07 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 累乗の値・実数性・純虚数性・最小の正整数指数を問われる。
何を得るか 半径が与える指数条件と、角が与える整数条件を分ける。
操作と分岐 まず$|z|^n$を調べ、次に$n\theta$を実軸・虚軸・指定方向の角へ合わせる。$|z|=1$では半径から指数を絞れない。角の区間を$n$倍した後は三角関数の増減も調べる。
止まったとき・終了時 実数には負の実軸も含む。全ての半径・角条件を満たす候補のうち、要求された最小の正整数を選んで元式へ戻す。
問題|例題4
$z=\sqrt3+i$について、$z^n$が実数、純虚数、正の実数となる最小の正整数$n$を、それぞれ求めよ。
$z=2(\cos(\pi/6)+i\sin(\pi/6))$より、角は$n\pi/6$。
実数では$n=6k$となるので最小$6$、純虚数では$n=3+6k$となるので最小$3$、正の実数では$n=12k$となるので最小$12$。
「実数だから角が零」とするのではなく、負の実軸も含めます。条件が「整数」「特定の絶対値」なら、さらに半径$2^n$の条件が必要です。
用語|開半直線
半直線は始点から一定の方向へ限りなく延ばした直線の一部分です。開半直線は、その始点を除いたものです。原点を始点とする場合、距離は零を含まず正の値を取ります。
性質と導出
正整数$n$と$w=R(\cos\phi+i\sin\phi)\ne0$に対し、$z^n=w$の解は
$$
\begin{gathered}
z=R^{1/n}\left\{\cos\frac{\phi+2k\pi}{n}+i\sin\frac{\phi+2k\pi}{n}\right\},\\[3pt]
k=0,\ldots,n-1.
\end{gathered}
$$
$n$個の角は互いに$2\pi$の整数倍だけ異なることがないので、解は相異なります。逆に、任意の解の角はこのいずれかに戻ります。$w=0$なら解は$z=0$一つです。
例えば$z^4=16$の全解は$2,2i,-2,-2i$です。「第一象限の解」などの指定があれば、まず全解の角を列挙してから絞ります。実部が正という条件と、第一象限という条件も区別してください。
$U^n=V^n$では、$V=0$なら$U=0$を先に調べ、$V\ne0$なら
$$\left(\frac UV\right)^n=1$$
に直します。商が$1$という候補が元の条件では不可能なら、その根を除きます。例えば$z/(z-i)=1$は不可能なので、$z^n=(z-i)^n$をこの商で処理するときは$1$を除きます。
像の方が半直線として指定されている場合
$(z-a)^n$が、原点を除く偏角$\phi$の半直線に属する条件は、$z-a$が角
$$\frac{\phi+2k\pi}{n}\quad(k=0,\ldots,n-1)$$
の$n$本の開半直線のいずれかに属することです。求める像の複雑な曲線を全部描く前に、この逆向きの読み替えを点検できます。
例えば$u^3$が正の実数なら角$0,2\pi/3,4\pi/3$の三半直線、負の実数なら角$\pi/3,\pi,5\pi/3$の三半直線です。$u=0$はどちらにも入りません。円周からこれらへ届くかを調べる方法は
7.4
、総合実演は総合問題14で扱います。
手順|C08 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか $z^n=w$、$U^n=V^n$、累乗の像が指定半直線へ届く条件が現れる。
何を得るか 角の$n$倍を解き戻し、全候補または元の方向を列挙する。
操作と分岐 零を分け、非零なら偏角へ$2k\pi$を加えて$n$で割る。$U^n=V^n$は$V\ne0$なら商を作る。半直線の逆像では半径を正のまま自由に残す。
止まったとき・終了時 $k=0,\ldots,n-1$の重複・漏れ、元像のない商、象限指定を確認する。半直線への到達なら元図形との共有点まで調べる。
性質と導出
フロー|逆数対をまとめた後の分岐
分岐1 $z^n+z^{-n}$の値が目的
→ 漸化式で次数を下げ、$t=z+1/z$だけで値を求める。
分岐2 相反方程式の全ての根が目的
→ $z=0$を確認して中央のべきで割り、$t$の低次方程式を解く。
分岐3 $t$が確定した
→ 根まで必要なら$z^2-tz+1=0$へ。実数$t$では$|t|\leq2$と$|t|>2$を分け、単位円または実数逆数対と読む。
$z\ne0$では、$|z|=1$と$\overline z=1/z$は同値です。逆向きも$z\overline z=1$から確かめられます。したがって、単位円条件と共役が同時に現れたら、まず逆数でまとめられるか点検します。
一般に$z\ne0$で$t=z+z^{-1}$と置くと、
$$z^2-tz+1=0.$$
ここから
$$
\begin{gathered}
S_n=z^n+z^{-n},\qquad S_0=2,\quad S_1=t,\\[3pt]
S_{n+1}=tS_n-S_{n-1}
\end{gathered}
$$
が得られます。例えば$S_2=t^2-2,\ S_3=t^3-3t$。$D_n=z^n-z^{-n}$にも同じ漸化式が成り立ち、初期値は$D_0=0,\ D_1=z-z^{-1}$です。和と差では初期値が違うことを忘れないでください。
手順|C10 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか $z+1/z$、$z^n+z^{-n}$、左右対称の係数が現れる。
何を得るか 逆数対を一つの量にして次数を下げる。
操作と分岐 $z\ne0$を確認し$t=z+1/z$を置く。値だけなら漸化式、相反四次なら$z^2$で割る。根を要求された場合だけ$z^2-tz+1=0$へ戻す。
止まったとき・終了時 実数$t$の$[-2,2]$内外で単位円と実数逆数対が分かれる。実数性だけが要求なら、先に虚部零の二枝を作る方が短い。
問題|例題5
$z+1/z=3$のとき、$z^3+1/z^3$を求めよ。
$$ \begin{aligned} z^3+z^{-3}&=(z+z^{-1})^3-3(z+z^{-1})\\ &=27-9=18. \end{aligned} $$
二次方程式で$z$の二候補を求めても解けますが、目的は逆数対の和です。対のまま計算すれば候補を分けずに済みます。高い指数なら上の漸化式で必要な次数まで進めます。
性質と導出
左右対称の四次式は、同じ置換の入口です。
$$
\begin{gathered}
z^4+az^3+bz^2+az+1=0\\[3pt]
\iff t^2+at+b-2=0,\\[3pt]t=z+z^{-1}.
\end{gathered}
$$
定数項が$1$なので$z=0$は解でなく、$z^2$で割れます。$t$を求めたら$z^2-tz+1=0$へ戻します。例えば
$$z^4-3z^3+4z^2-3z+1=0$$
は$t=1,2$なので、$z=(1\pm\sqrt3i)/2,1$で、$1$は重解です。
実数$t$について、$-2\leq t\leq2$なら二根は単位円上、$|t|>2$なら非零実数の逆数対です。端$t=\pm2$では$\pm1$が重解となります。二次方程式と根の積$1$から確認できます。
奇数次で係数が左右対称なら、まず$z=-1$を代入して因子を取り出せます。係数が左右で逆符号なら$z=1$を代入します。定数項が零の式では、これらを使う前に零根を分けます。
「$z+c/z$が実数」だけを要求される場合は、先に全根を解きません。実数$c$に対し、$z=x+iy\ne0$($x,y$は実数)と置くと
$$\operatorname{Im}(z+c/z)=y\left(1-\frac c{|z|^2}\right).$$
$c>0$なら実軸または半径$\sqrt c$の円、$c\leq0$なら実軸に限られます。ただし$z=0$は除きます。その各枝に、残る条件を適用します。
判断|この章を終えるとき
全根を求めたら重複と除外を確認する。逆数対の値だけが目的なら、元の数まで解く必要はない。
基礎|この章の役割
前提 因数定理、解と係数、第3章の乗根と逆数対
習得目標 既知の根・共役対・等間隔の根から、多項式の係数や和積を取り出す
用語|根の重複度
多項式が因子(X−a)を何個重ねて持つかを、根 a の重複度と呼びます。例えば(X−1)2(X+1)では、根1の重複度は2、根−1の重複度は1です。相異なる根は2個ですが、重複度込みでは3個と数えます。
性質と導出
まず$n$次多項式を$f(X)=a_nX^n+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_0$($a_n\ne0$)とします。$\sum$は指定した項の和、$\prod$は指定した項の積です。例えば$\prod_{j=1}^n\alpha_j=\alpha_1\alpha_2\cdots\alpha_n$です。添字の範囲を省略した直後の二式でも、$j=1,\ldots,n$を対象にします。根が重複度込みで$\alpha_1,\ldots,\alpha_n$と分かっているとき、積表示の係数比較から
$$\sum\alpha_j=-\frac{a_{n-1}}{a_n},\qquad
\prod\alpha_j=(-1)^n\frac{a_0}{a_n}$$
を得ます。必要なのが和や積なら、根そのものを解くことを目標にしません。既に具体的な$n$個の根を列挙できている場面では、因数定理と次数で積表示を確定できます。
$i$のべきが周期$4$、$\omega^2+\omega+1=0$を満たす非実数$\omega$のべきが周期$3$であることも、因子の発見に使えます。例えば実係数の$f$について$f(i)=0$なら$X^2+1$、$f(\omega)=0$なら$X^2+X+1$が因子です。指数を周期ごとにまとめるのが最初の操作です。
さらに、相反式に限らず、$\alpha^2+p\alpha+q=0$が既知なら、高次は
$$\alpha^{n+2}=-p\alpha^{n+1}-q\alpha^n$$
で下げられます。多項式を$X^2+pX+q$で割り、余り$R\alpha+S$だけ計算しても同じです。
$R\alpha+S=0$から$R=S=0$と比較するには、$R,S$が実数で$\alpha$が非実数であることが必要です。係数まで複素数なら、この比較はできません。
根の和や積を係数から読む考え方を、根の二乗和・三乗和へ広げます。個々の根が複雑でも、同じ指数のべきを全て足すと、係数だけで順に計算できます。これがニュートンの恒等式です。
まず最高次係数で割り、方程式を
$$f(X)=X^n+c_1X^{n-1}+\cdots+c_n=0$$
とします。$n$は正整数、$c_j$は複素数でも構いません。根を重複度込みで$\alpha_1,\ldots,\alpha_n$とし、
$$S_k=\sum_{j=1}^n\alpha_j^k\quad(k\geq1),\qquad S_0=n$$
と定めます。$S_k$を根の$k$乗和、まとめて「べき和」と呼びます。$S_0=n$は根の個数を数える約束であり、零根があるときに$0^0$を計算する意味ではありません。
公式|指数が次数以下か、次数より大きいかで分ける
$1\leq k\leq n$では
$$S_k+c_1S_{k-1}+\cdots+c_{k-1}S_1+kc_k=0.$$
$k>n$では
$$S_k+c_1S_{k-1}+\cdots+c_nS_{k-n}=0.$$
低い指数から順に使います。前者の最後は$kc_k$であり、無条件に$c_kS_0=nc_k$とはしません。$k=n$で両者が一致します。
因数分解$f(X)=\prod_{j=1}^n(X-\alpha_j)$が与えられているとして証明します。一般の複素多項式の根の存在定理や無限級数は使いません。根が重なっていても、因子を一つずつ番号付きで扱えば同じ議論ができます。
第$j$番目の因子を一つ除いた商を
$$q_j(X)=\prod_{h\ne j}(X-\alpha_h)$$
とします。$f(X)=(X-\alpha_j)q_j(X)$で高次から係数を比較すると、$0\leq k\leq n-1$に対し、$q_j$の$X^{n-1-k}$の係数は
$$\alpha_j^k+c_1\alpha_j^{k-1}+\cdots+c_k$$
です。$k=0$のときは係数1を意味します。実際、最高次係数は1で、次の係数を求めるたびに「前の係数に$\alpha_j$を掛け、$f$の対応する係数を足す」という操作になります。
一方、$q_1+\cdots+q_n$の$X^{n-1-k}$の係数は$(n-k)c_k$です。理由は、$f$を展開して$c_k$を作る各項が、$n$個の因子のうち$k$個から定数部分を選んでできるためです。この$k$個を残したまま除ける因子は$n-k$個あり、商の総和では各項がちょうど$n-k$回ずつ現れます。ここでは$c_0=1$とします。
従って$1\leq k\leq n-1$では
$$\begin{aligned}
S_k+c_1S_{k-1}+\cdots+c_{k-1}S_1+nc_k
&=(n-k)c_k,
\end{aligned}$$
となり、移項すれば前者の公式です。残る$k=n$では、各根が満たす$f(\alpha_j)=0$を全て足すと
$$S_n+c_1S_{n-1}+\cdots+c_{n-1}S_1+nc_n=0$$
を得ます。$k>n$では$f(\alpha_j)=0$に$\alpha_j^{k-n}$を掛けて足せば、後者の公式です。いずれも根で割らないので、零根や重根があっても成立します。
手順|全ての根の同じ指数のべきが足されているとき
$k< n$なら$S_k$は$c_1,\ldots,c_k$だけで決まり、定数項$c_n$は影響しません。より一般に、同じ次数で最高次係数を1にそろえた二つの多項式の上位$k$個の係数が一致すれば、最初の$k$個のべき和が一致します。これは上の公式を低い指数から順に使えば分かります。
従って、積の形の$n$次多項式$F(X)$について$F(X)=t$の根の$k$乗和を求めるとき、$k< n$なら、根が読み取りやすい$F(X)=0$に比較して構いません。ただし比較するのは根全体のべき和であり、個々の根が同じという意味ではありません。$k=n$になると定数項が初めて現れます。
次の例題では、係数からべき和を求める向きを逆にします。根全体のべき和が与えられたら、ニュートンの恒等式で係数を低次の式から順に決められます。得られた多項式は、さらに別の総和を計算するときに、各根の高いべきを下げるために使えます。
問題|補例C べき和から根の方程式を復元する
四つの複素数$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4$が
$$\begin{aligned}
\sum_{j=1}^4\alpha_j&=0,&\sum_{j=1}^4\alpha_j^2&=4,\\
\sum_{j=1}^4\alpha_j^3&=6,&\sum_{j=1}^4\alpha_j^4&=4
\end{aligned}$$
を満たしている。これらの数は互いに異なるとは限らない。
(1)多項式$f(X)=\prod_{j=1}^4(X-\alpha_j)$を求めよ。
(2)$\displaystyle\sum_{j=1}^4(\alpha_j^2-1)^3$の値を求めよ。
(1)$S_k=\sum_{j=1}^4\alpha_j^k\ (k\geq1)$とおき、
$$f(X)=X^4+c_1X^3+c_2X^2+c_3X+c_4$$
とする。ニュートンの恒等式より、
$$\begin{aligned}
S_1+c_1&=0,\\
S_2+c_1S_1+2c_2&=0,\\
S_3+c_1S_2+c_2S_1+3c_3&=0,\\
S_4+c_1S_3+c_2S_2+c_3S_1+4c_4&=0.
\end{aligned}$$
与えられた値を順に代入すると
$$c_1=0,\quad c_2=-2,\quad c_3=-2,\quad c_4=1.$$
従って
$$\boxed{f(X)=X^4-2X^2-2X+1}.$$
(2)各$j$について$f(\alpha_j)=0$であるから、
$$\alpha_j^4=2\alpha_j^2+2\alpha_j-1.$$
両辺に$\alpha_j^2$を掛けて全て足すと、
$$S_6=2S_4+2S_3-S_2=16.$$
従って求める値は
$$\begin{aligned}
\sum_{j=1}^4(\alpha_j^2-1)^3
&=S_6-3S_4+3S_2-4\\
&=16-12+12-4=\boxed{12}.
\end{aligned}$$
(1)では方程式の係数ではなく、根全体のべき和が与えられています。求める多項式の最高次係数は1なので、ニュートンの恒等式を「べき和から係数を決める」向きに使います。$k$番目の式でまだ決まっていない係数は$c_k$だけです。従って、低い指数から使えば四つの係数が順に一意に決まり、根を一つずつ求める必要はありません。
(2)の式は、全ての根に同じ多項式を代入した値の和です。まず$(X^2-1)^3=X^6-3X^4+3X^2-1$と展開すると、足りない情報が$S_6$だけだと分かります。一方、(1)で得た方程式の$X^3$の係数は零です。そのため、根の方程式に$\alpha_j^2$を掛けて足せば、$S_6$を既知の$S_4,S_3,S_2$だけで表せます。$S_5$を計算する必要はありません。一般には低い指数から順に進めますが、係数が零の項を消した後に必要なべき和が全てそろっていれば、その指数へ直接進めます。
同じ計算を余りで整理することもできます。多項式の恒等式
$$\begin{aligned}
(X^2-1)^3
&=(X^2-1)f(X)+2X^3-2X
\end{aligned}$$
に$X=\alpha_j$を代入すると、各項は$2\alpha_j^3-2\alpha_j$に置き換わり、総和は$2S_3-2S_1=12$です。高いべきの和を求める方法と、代入する多項式を根の方程式で割った余りへ置き換える方法は、同じ関係を異なる順序で利用しています。
高い指数では、根の方程式がべき和の漸化式になります。例えば$X^3-2X+1=0$の根を重複度込みで数えると、$S_0=3,S_1=0,S_2=4$で、
$$S_k=2S_{k-2}-S_{k-3}\quad(k\geq3)$$
です。従って$S_3=-3,S_4=8,S_5=-10,S_6=19$と進められます。初期値が不足したら、根を解かず、低次のニュートンの恒等式へ戻ります。
負のべきが要求された場合は、まず零根がないこと、すなわち$c_n\ne0$を確認します。$Y=1/X$で逆数を根とする多項式は
$$Y^n+\frac{c_{n-1}}{c_n}Y^{n-1}+\cdots+\frac1{c_n}=0$$
です。これに同じ手順を適用すれば、逆数のべき和が求まります。例えば補例Cでは$c_4=1$なので零根はなく、逆数和は$-c_3/c_4=2$です。零根がある場合、全根の逆数和は定義できません。
$(\alpha_j-a)^k$の総和なら、$a$を指定された定数として$X=Y+a$を代入し、$f(Y+a)$の根のべき和として処理できます。指数が小さければ二項展開から既知の$S_j$を組み合わせる方が短い場合もあります。また、根に同じ多項式$H$を代入した値の総和は、$H$を展開してべき和の一次結合に直せます。次数が大きい$H$なら、先に$f$で割った余りを求めると、各根で商の部分が零となり、必要なべき和を$n-1$乗以下へ減らせます。
根と係数の関係は$S_1$や根の積を直ちに与え、ニュートンの恒等式は根と係数の情報を高いべき和へつなぎます。既知の二次関係で各根の次数を下げる方法は、ここで使った「根の方程式を掛けて足す」操作の二次の場合です。
1の$n$乗根なら、第4.3節の等比和を使う方が短いことがあります。実際、$X^n-1$では$1\leq k< n$のべき和は零で、$S_n=n$となり、以後は$S_k=S_{k-n}$です。係数がほとんど零になる構造が、図形の等間隔性と同じ結論を与えています。逆に、一般の係数が与えられ、根の配置が読み取りにくい問題では、ニュートンの恒等式が直接使えます。
最初の$n$個のべき和から係数を求める逆向きの問題でも、$kc_k$以外は既知なので、$c_1,c_2,\ldots,c_n$を順に復元できます。ただし最高次係数は根の情報だけでは決まらないため、最高次係数1という基準を付けて考えます。一般の対称式の理論や行列による表現を前提にする必要はありません。
性質と導出
実係数多項式$f$では$\overline{f(\alpha)}=f(\overline\alpha)$です。したがって非実根$\alpha$があれば$\overline\alpha$も根で、
$$
(X-\alpha)(X-\overline\alpha)
=X^2-2\operatorname{Re}\alpha\,X+|\alpha|^2
$$
を因子に持ちます。根を直接解くより、実部と絶対値で実二次因子を作る方が軽い場合が多くあります。重複度も同じです。実二次因子で割った商が再び実係数なので、繰り返し因子を取り出して確かめられます。
条件が$f(\alpha)=c$なら、根の問題へ直すために$f-c$を作ります。$c$が実数なら$f-c$も実係数です。$c$が複素数の場合には、同じ共役根の追加を無条件に行えません。
手順|C11 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 実係数多項式と非実根、または同じ実数の関数値が与えられる。
何を得るか 共役根を補って実二次因子を確定する。
操作と分岐 $f(\alpha)=c$なら$f-c$の根として読む。ただし共役を補えるのは$f-c$が実係数のとき。根の実部と絶対値から二次因子を作り、次数・最高次係数・残る条件を使う。
止まったとき・終了時 根数は相異性・重複度を区別する。根の積を絶対値二乗と読めるのは共役対の場合。元の関数値まで戻して確かめる。
問題|例題6
最高次係数$1$の実係数四次多項式$f$が$f(1+i)=f(-1+i)=2$を満たすとき、$f$を求めよ。
$f(X)-2$は相異なる四根$1\pm i,-1\pm i$を持つ。次数と最高次係数から
$$
\begin{aligned}
f(X)-2&=\{(X-1)^2+1\}\{(X+1)^2+1\}\\
&=X^4+4.
\end{aligned}
$$
よって$f(X)=X^4+6$で、元の条件を満たす。
「同じ関数値」が見えたので定数を引き、「実係数」が見えたので共役根を加えました。四次式に四つの相異なる根が得られたところで、最高次係数まで含めて多項式が確定します。一般の因数分解は
$$f(X)=a_n\prod_{j=1}^n(X-\alpha_j)$$
であり、最高次係数$a_n$を落としません。
性質と導出
正整数$n$に対し、1の$n$乗根は
$$
\begin{gathered}
\zeta_k=\cos\frac{2k\pi}{n}+i\sin\frac{2k\pi}{n},\\[3pt]
k=0,\ldots,n-1
\end{gathered}
$$
です。既知の相異なる$n$個の根と因数定理から
$$X^n-1=\prod_{k=0}^{n-1}(X-\zeta_k)$$
を得られます。一般の高次方程式の根の存在定理を使わなくても、この式は導けます。
和を求めるなら、$\zeta^n=1,\ \zeta\ne1$から
$$1+\zeta+\cdots+\zeta^{n-1}=0.$$
この式の$\zeta$は、べき乗で全ての根を一巡するものでなくても成立します。ただし、$\zeta$のべきが「全根の列挙」であると主張するには、重複せず一巡することが別に必要です。
全根のべき和は、整数$m$に対して
$$
\sum_{k=0}^{n-1}\zeta_k^m=
\begin{cases}
n& m\text{が}n\text{の倍数},\\
0& m\text{が}n\text{の倍数でない}.
\end{cases}
$$
各根は非零なので負の$m$でもよく、等比和から証明できます。正多角形の中心が頂点の平均になることも、この和の消失で分かります。
積を求めるときは、$X$へ値を代入できる形を作ります。$n\geq2$では
$$\prod_{k=1}^{n-1}(X-\zeta_k)=1+X+\cdots+X^{n-1}$$
なので、
$$\boxed{\prod_{k=1}^{n-1}(1-\zeta_k)=n}.$$
$X=-1$の代入も、$1+\zeta_k$の積に使えます。どの根を含み、$1$や$-1$を除いたかを先に確認しましょう。
手順|C09 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 1の乗根、等間隔の角、正多角形の頂点の和や距離の積が現れる。
何を得るか 個々の根を計算せず、根全体の関係を利用する。
操作と分岐 和なら等比和または全根のべき和、積なら$X^n-1$の因数分解へ値を代入する。余弦の値なら共役対をまとめ、逆数対の二次式へ落とす。
止まったとき・終了時 根$1$を含むか、べきが全根を一巡するかを確認する。積の平方根の符号は角の範囲で確定する。
問題|例題7 角の値を、根の和から求める
$\cos(2\pi/5)$を求めよ。
$\zeta=\cos(2\pi/5)+i\sin(2\pi/5)$、$t=\zeta+\zeta^{-1}=2\cos(2\pi/5)$と置く。
$$
\begin{gathered}
1+\zeta+\zeta^2+\zeta^{-2}+\zeta^{-1}=0,\\[3pt]
\zeta^2+\zeta^{-2}=t^2-2
\end{gathered}
$$
より$t^2+t-1=0$。$t>0$なので$t=(\sqrt5-1)/2$、したがって
$$\cos\frac{2\pi}{5}=\frac{\sqrt5-1}{4}.$$
等間隔の角が1の5乗根を作り、求める余弦は共役な二根の和に当たります。根を個別に解く代わりに、逆数対$t$を使って低次化しました。新しく得た$t^2+t-1=0$は実数の二次方程式で、角の範囲が符号を選びます。
高校数学からの導出
多項式$p(X)$に対し、各項$aX^m$を$maX^{m-1}$へ置き換えた多項式を$p'(X)$と書きます。ここでは複素変数の極限として微分を定義する必要はありません。$X^rX^s$について積の公式が成り立つことを確かめ、展開して足せば、多項式の積の微分公式は係数の代数的な恒等式として成立します。
したがって$p(X)=\prod_{j=1}^n(X-a_j)$なら、
$$p'(X)=\sum_{k=1}^n\prod_{j\ne k}(X-a_j).$$
$p(X)\ne0$のところで割れば
$$\boxed{\frac{p'(X)}{p(X)}=\sum_{j=1}^n\frac1{X-a_j}}.$$
根そのものへ代入する場合は分母が零なので、因子を一つ外した多項式へ戻します。複素対数を取って導く必要はありません。
手順|C44 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 多項式の根との差の逆数の和が現れる。
何を得るか 積表示を一回だけ代数的に微分して和へ変える。
操作と分岐 求める和に含める根だけの積$p(X)$を作り、$p'/p$を計算する。代入点が根ならその因子を外してから処理する。
止まったとき・終了時 分母$p(X)\ne0$と最高次係数を確認する。係数の恒等式として導けるので、複素対数・複素微分の理論は使わない。
問題|例題8
1の$n$乗根を$\zeta_0=1,\zeta_1,\ldots,\zeta_{n-1}$とするとき、
$$\sum_{k=1}^{n-1}\frac1{1-\zeta_k}$$
を求めよ。
$$ \begin{gathered} p(X)=1+X+\cdots+X^{n-1}\\[3pt] =\prod_{k=1}^{n-1}(X-\zeta_k) \end{gathered} $$
と置く。$p(1)=n$、$p'(1)=n(n-1)/2$なので、求める和は$p'(1)/p(1)=(n-1)/2$。
「根との差の逆数の和」が積の微分の入口です。根$1$を含む$X^n-1$をそのまま使うと、$X=1$で割れません。求める和に含まれない因子を先に外しました。
判断|この章を終えるとき
根の個数と次数、重複度、最高次係数を確認できれば、幾何や三角積の式へ同じ情報を使える。
基礎|この章の役割
前提 第1章の乗除、第2章の絶対値二乗、第3章の低次化
習得目標 辺の始点・長さ比・回転の向きをそろえる。角や面積の条件を一つの商・積へ集約する
性質と導出
原点中心に角$\theta$だけ回転し、長さを$\rho>0$倍する操作は
$$w=\rho(\cos\theta+i\sin\theta)z.$$
中心が$a$なら、原点を$a$へ合わせて
$$\boxed{w-a=\rho(\cos\theta+i\sin\theta)(z-a)}$$
です。原点中心の式へ、中心の座標をそのまま足すだけではありません。
手順|C14 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 指定中心の回転・拡大、$w=az+b$、共役を含む点の移動が現れる。
何を得るか どの中心からの差が、何倍・何度回るかを明確にする。
操作と分岐 中心を引き、回転係数を掛け、中心を戻す。$az+b$は$a\ne1$なら不動点で書き換える。$a=1$は平行移動、$a=0$は定点。共役があれば反射も分解に含める。
止まったとき・終了時 中心からの距離と向きを検算する。$a\overline z+b$を無条件に一つの直線への反射と呼ばない。図形全体の像なら逆変換も確かめる。
問題|例題9
$1+i$を中心に$2$を反時計回りに$90^\circ$回転した点を求めよ。
$$
\begin{aligned}
w-(1+i)&=i\{2-(1+i)\}\\
&=i(1-i)=1+i
\end{aligned}
$$
より、$w=2+2i$。
中心を引いた差が回転する量です。「反時計回り$90^\circ$」から係数$i$が直ちに決まり、中心を戻して終了します。時計回りなら$-i$です。回転後の中心からの距離と向きを検算すると、平行移動の符号違いを防げます。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (0,0)*{\bullet}="A",(2,-2)*{\bullet}="Z",(2,2)*{\bullet}="W", "A";"Z" **\dir{-} ?>*\dir{>}, "A";"W" **\dir{-} ?>*\dir{>}, (0.4,-0.4);(0.8,0) **\dir{-}, (0.8,0);(0.4,0.4) **\dir{-}, (-1.45,-0.2)*{1+i}, (2.6,-2.5)*{\color{#1d4ed8}z=2},(3,2.5)*{\color{#7e22ce}w=2+2i}, (0,0)*\cir<3.9592em>{} \end{xy}}$
図2 中心からの二つの差が、反時計回り90度の回転で対応します
用語|正規化・同次式
正規化は、計算しやすい基準にそろえることです。ここでは平行移動や回転・拡大縮小で、基準の二点を0と1へ移す操作などを指します。同次式は、各項の次数の合計がそろった多項式です。例えば u2+uv+v2 は各項が二次です。
性質と導出
点$A(a),B(b)$について、$\overrightarrow{AB}$に対応する複素数は$b-a$、距離$AB$は$|b-a|$です。角を扱うときは、二辺の始点を同じ頂点にそろえます。
$u=b-a\ne0,\ v=c-a\ne0$なら
$$q=\frac{c-a}{b-a}=\frac vu$$
の絶対値が$AC/AB$、偏角が$AB$から$AC$への向き付き角です。求めるのが辺の比・角・相似なら、この商一つにまとめると情報が減ります。
手順|C17 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 頂点の係数和が零、差だけの同次式、基準の一辺や外接円が繰り返される。
何を得るか 平行移動・全体の尺度を除き、形の情報だけを残す。
操作と分岐 係数和零なら一頂点を引く。辺比なら$(z-a)/(b-a)$、共円と共役なら$(z-c)/R$を使う。全条件も同じ変換で書き換える。
止まったとき・終了時 原点が特別な意味を持つ条件を勝手に移さない。戻す長さ・面積の倍率を残す。消える文字や使える公式がなければ、無理に正規化しない。
問題|例題10
$(c-a)=\dfrac{1+\sqrt3i}{2}(b-a)$、$a\ne b$のとき、三角形$ABC$の形を述べよ。
係数の絶対値は$1$、偏角は$\pi/3$なので$AB=AC$、$\angle BAC=\pi/3$。よって正三角形である。
「差の一次関係」が見えているので商を作り、絶対値と角を読みました。$q$が実数なら三点は共線で三角形になりません。また、通常の内角は$0$から$\pi$の間にあり、向き付き角が負なら、その値をそのまま内角と呼びません。例えば$q$の偏角が$-\pi/3$なら、通常の内角は$\pi/3$で向きが逆です。
性質と導出
$AP:PB=m:n$、$m,n>0$なら、内分点は
$$p=\frac{na+mb}{m+n}.$$
外分点は
$$p=\frac{mb-na}{m-n}\qquad(m\ne n).$$
分子の係数は「近い側の比」と取り違えやすいので、$p-a$と$b-p$の比で確認します。$m=n$の外分点は有限点として存在しません。
中点は$(a+b)/2$、三角形の重心は$(a+b+c)/3$です。中点を何度も作る問題なら、各点の式を順に代入して係数をまとめます。
手順|C16 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 内分・外分・中点・重心や、実数係数の点の和が現れる。
何を得るか 位置を実数の重みとしてまとめる。
操作と分岐 分点公式を使い、中点の列は順に代入して係数をまとめる。重みの和で割る前に非零を確認する。和が零なら位置の平均ではなく、頂点の差に直す。
止まったとき・終了時 比の向きと外分の$m=n$を確認する。非負の重みは内部・辺上、負を含む表示は別の内外判定が必要。最後に元の分点比を検算する。
問題|例題11
$D$を$BC$の中点、$E$を$AD$の中点とするとき、$E$を$a,b,c$で表せ。
$$d=\frac{b+c}{2},\qquad e=\frac{a+d}{2}=\frac{2a+b+c}{4}.$$
中点という条件から、迷わず平均します。得た実数の重みが非負で和$1$なら、点は三角形の内部または辺上にあります。負の係数を含む場合の内外判定は13.1で扱います。
性質と導出
$u=b-a,\ v=c-a$とします。二方向が非零なら、そのなす向き付き角$\theta$を用いて
$$\overline u v
=|u||v|(\cos\theta+i\sin\theta)$$
です。ここから
$$
\begin{aligned}
A,B,C\text{が共線}
&\iff\operatorname{Im}\{\overline{b-a}(c-a)\}=0,\\
AB\perp CD
&\iff\operatorname{Re}\{\overline{b-a}(d-c)\}=0,\\
[ABC]&=\frac12\operatorname{Im}\{\overline{b-a}(c-a)\}
\end{aligned}
$$
を得ます。最後は向きを付けた面積で、通常の面積は絶対値です。垂直を線分の関係として述べるときは、両線分が非零であることが必要です。一致点を含めて直線の方程式を書く場合は、共役積の実部・虚部が零という式をそのまま使えます。
また、
$$\cos\angle BAC=
\frac{\operatorname{Re}(\overline u v)}{|u||v|}$$
なので、鋭角なら実部正、直角なら零、鈍角なら負です。鋭角三角形を要求されたら、三頂点それぞれで二辺を作ります。一頂点だけの判定では終わりません。
手順|C20 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 共線・垂直、または距離二乗の差・和の等式が現れる。
何を得るか 方向の情報を共役積の一成分として取り出す。
操作と分岐 辺の始点をそろえる。共線は虚部零、垂直は実部零。距離二乗は展開して二次の同じ項を消し、残る交差項を読む。
止まったとき・終了時 垂直な「二方向」には非零が必要。一方、直線上への所属条件は差が零でもよい。商で割る方が短ければ分母を確認して切り替える。
手順|C41 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 三点が鋭角・直角・鈍角三角形になる範囲を求める。
何を得るか 各頂点の角を、二辺の共役積の実部の符号へ変える。
操作と分岐 各頂点を始点にした二辺を作る。鋭角三角形は三つ全て正、直角は一つ零、鈍角は一つ負という条件を、非退化の前提の下で使う。
止まったとき・終了時 一つの角だけで三角形全体を判定しない。三点の相異・非共線を確認するか、得た条件から従うことを証明する。等号の境界を区別して終了する。
問題|例題12
$O(0),A(2),B(1+i)$の三角形の面積と、$\angle OBA$の種類を求めよ。
面積は$\dfrac12|\operatorname{Im}(2(1+i))|=1$。
$B$を始点とする二辺は$-1-i,\ 1-i$で、
$$\operatorname{Re}\{(-1+i)(1-i)\}=\operatorname{Re}(2i)=0.$$
よって$\angle OBA$は直角。
面積では$O$、求角では$B$へ始点を変えました。辺の向きを逆にすると共役積の符号が変わるので、始点をそろえてから計算することが第一手です。垂直線の傾きで割る必要がなく、鉛直方向も同じ式で扱えます。
性質と導出
三角形$ABC$と$DEF$の頂点の対応を$A\leftrightarrow D,\ B\leftrightarrow E,\ C\leftrightarrow F$と固定します。非退化な三角形について、相似の条件は
$$
\begin{gathered}
\frac{f-d}{e-d}=\frac{c-a}{b-a}\\[3pt]
\text{または}\quad\frac{f-d}{e-d}=\overline{\left(\frac{c-a}{b-a}\right)}.
\end{gathered}
$$
同じ向きの相似なら前者、反転した向きなら後者です。角や辺の対応を固定せず、都合のよい商を比較しないでください。
例えば基準三角形が$0,1,i$なら、$D(d),E(e)$に対して第三頂点は$d+i(e-d)$または$d-i(e-d)$です。辺の外側などの指定があれば、どちら側へ置くかで符号を選びます。
辺$AB$上の正三角形の第三頂点は
$$c=a+(b-a)\left(\cos\frac{\pm\pi}{3}+i\sin\frac{\pm\pi}{3}\right).$$
「外側」という言葉は、元の三角形の第三頂点と反対側という意味です。図の向きを一度固定するか、
5.4
の符号付き面積で側を比べます。計算結果がうまくなる方を後から選ぶ方法ではありません。
正方形なら、対角線の中点が一致することと、隣り合う非零の辺が$\pm i$倍であることを使えます。頂点順を$A,B,C,D$とすると
$$a+c=b+d,\qquad (d-a)^2+(b-a)^2=0$$
が正方形の条件です。非零辺のもとで$(d-a)/(b-a)=\pm i$となり、前者から残る頂点も決まるので十分です。
手順|C18 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 二辺の差の一次関係、相似、正三角形・直角二等辺の未知頂点が現れる。
何を得るか 対応する二辺の長さ比と向きを一つの商にする。
操作と分岐 始点と頂点対応を固定し、商の絶対値・偏角を読む。向き指定がなければ商そのものと共役の二候補を扱う。外側指定は符号付き面積で側を決める。
止まったとき・終了時 実数の商は共線で三角形を作らない。負の向き付き角をそのまま内角とせず、全候補の非退化・辺比・角を確認する。
性質と導出
三点が相異なるとき、
$$\boxed{a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca=0}$$
は正三角形の必要十分条件です。実際、$u=b-a\ne0,\ t=(c-a)/u$を代入すると左辺は$u^2(t^2-t+1)$となり、
$$t=\frac{1\pm\sqrt3i}{2}$$
です。
5.2
の辺比に戻せば正三角形、逆も代入で確認できます。三点相異を外すと$a=b=c$も式を満たすので、方程式だけを無条件に図形と同一視しません。
四乗の和などでも、最初に比へ落とす点は同じです。得た多項式に左右対称の係数があれば
3.5
の逆数対で低次化し、非実根を得たらその絶対値と角を読みます。総合問題3で、この操作を連続して実行します。
因数分解が進まなければ、元の文字を増やす前に、次数・係数の対称性・前の小問で現れた多項式を確認します。処理の出口は、全ての比の候補を調べて、退化しない図形と逆の成立を確定したところです。
手順|C19 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 頂点の対称式や、辺の差の同じ次数の和から三角形の形を問われる。
何を得るか 一辺を基準にして、比一文字の多項式へ直す。
操作と分岐 $u=b-a\ne0$、$t=(c-a)/u$を置く。同次次数の$u$を除き、次数・相反性・前の小問の式を点検する。得た根$t$の絶対値と偏角を読む。
止まったとき・終了時 実数根や一致点の退化を分ける。許される全ての根を調べ、その図形を元式に戻して必要十分性を閉じる。
判断|この章を終えるとき
非零辺と非共線を確認し、比や共役積の値を図形の意味へ戻せるようにする。
基礎|この章の役割
前提 第5章の共線・垂直・分点、第2章の共役連立
習得目標 方向・法線・中心・半径を式の係数に対応させ、反射・接線・共円を同じ基礎で扱う
性質と導出
直線は、方向か法線のうち与えられている方に合わせて表します。$a$を通り非零の方向$d$を持つ直線は
$$\operatorname{Im}\frac{z-a}{d}=0$$
です。点$a$自身も含むので、分子の非零は要求しません。法線を非零の$n$で指定するなら、
$$\operatorname{Re}\{\overline n(z-a)\}=0$$
と書けます。実部を共役の和で表せば、これらは$Bz+\overline B\,\overline z+C=0$($C$は実数)という形になります。
判断|方向・法線・二点のどれが与えられたか
二点$a,b$なら$d=b-a$。垂線の条件なら法線$n$。具体的な$Ax+By+C=0$なら$n=A+Bi$。同じ直線を表せるので、既知の量を最も少なく計算して使える表示を選ぶ。
中心$c$、半径$R\geq0$の円の式は
$$
\begin{gathered}
|z-c|^2=R^2\\[3pt]
\iff |z|^2-\overline c z-c\overline z+|c|^2-R^2=0.
\end{gathered}
$$
逆に
$$A|z|^2+Bz+\overline B\,\overline z+C=0,\qquad A,C\in\mathbb R$$
なら、$A\ne0$のとき
$$
\left|z+\frac{\overline B}{A}\right|^2
=\frac{|B|^2-AC}{A^2}.
$$
右辺が正なら円、零なら一点、負なら空集合です。$A=0,\ B\ne0$なら直線、$A=B=0$なら$C=0$で全平面、$C\ne0$で空集合です。
係数がこの共役の組になっていなければ、実部・虚部に分けます。例えば$|z|^2+z-\overline z-1=0$は
2.4
の通り二点だけです。「$|z|^2$があるから円」という判断はできません。
手順|C21 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 二点・方向・法線から直線、中心半径から円、円上の点から接線を作る。
何を得るか 図形の定義をそのまま方程式にする。
操作と分岐 直線は共線条件または法線形、円は$|z-c|=R$、接線は半径と直交する条件を使う。二円の交点は式を引いて二次項を消す。
止まったとき・終了時 方向の零、接点が円上か、半径が正かを確認する。同心の二円では差が直線にならない。得た式が必要十分か元の定義へ戻す。
手順|C22 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか $|z|^2,z,\overline z$を含む二次式が、図形の条件として与えられる。
何を得るか 式一本が一つの実条件か、二つの実条件かを判別する。
操作と分岐 実数係数の$|z|^2$・共役対の一次項・実定数なら平方完成。共役対になっていなければ実部と虚部へ分け、両条件の交点を求める。
止まったとき・終了時 半径二乗が正・零・負、二次係数が零、全係数が零を分類する。円らしい項があるだけで円全体と結論しない。
問題|例題13
$|z|^2-2z-2\overline z+3=0$の表す図形を求めよ。
$$|z-2|^2=1$$
より、中心$2$、半径$1$の円。
式全体が実数であることを確認し、平方完成します。半径二乗の符号まで決めれば分類は終了です。円の共通点を求めるときは、二つの円の式を引いて二次項を消すと、共通弦を含む直線が得られます。同心なら直線にはならず、同一円か交点なしを別に調べます。
性質と導出
直線が$a+td\ (t\in\mathbb R,\ d\ne0)$で与えられたら、$a$を引き、$d$で割ると実軸になります。実軸対称で共役を取り、元へ戻すと、$z$の反射点は
$$\boxed{z'=a+\frac d{\overline d}(\overline z-\overline a)}.$$
垂線の足は反射点との中点$h=(z+z')/2$です。原点を通る方向$d$への足なら
$$h=\frac{\operatorname{Re}(\overline d z)}{|d|^2}\,d$$
とも書けます。方向へ回転して実部だけを残す操作です。
手順|C15 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 直線への対称点、垂線の足、点と直線の距離を求める。
何を得るか 直線を実軸へ移すか、法線方向の成分を取り出す。
操作と分岐 一点と方向$d$が既知なら、引く・$d$で割る・共役・戻す。法線形なら距離と反射の直接式を使う。足は元の点と反射点の中点。
止まったとき・終了時 方向と法線を取り違えず、その係数は非零とする。足が直線上で、差が法線方向であることを確認する。点が元から直線上なら足も同じ点でよい。
問題|例題14
点$2+i$から直線$y=x$へ下ろした垂線の足を求めよ。
方向$d=1+i$、$a=0$より、反射点は
$$z'=\frac{1+i}{1-i}(2-i)=i(2-i)=1+2i.$$
したがって足は$h=(3+3i)/2$。
足を未知数として共線・垂直の二条件を連立しても解けます。方向がすぐ分かる直線なら反射の中点が短く、法線形が既に与えられているなら次の直接式が短くなります。求めた足が直線上にあり、元の点との差が直線に垂直かを確かめて終了します。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (-0.4,-0.4);(4.5,4.5) **\dir{-}, (4,2)*{\bullet}="P",(2,4)*{\bullet}="Q",(3,3)*{\bullet}, "P";"Q" **\dir{--}, (3.3,3.3);(3.6,3) **\dir{-}, (3.6,3);(3.3,2.7) **\dir{-}, (5,1.5)*{\color{#1d4ed8}z=2+i},(0.7,5.1)*{\color{#7e22ce}z'=1+2i}, (2.3,2.8)*{\color{#0f766e}H},(5.3,4.5)*{y=x} \end{xy}}$
図3 直線による対称点を作ると、垂線の足はその中点です
性質と導出
$|a|=|b|=1,\ a\ne b$なら、弦$AB$を含む直線は
$$\boxed{z+ab\overline z=a+b}.$$
導出は共線条件からできます。$\overline a=1/a,\ \overline b=1/b$より、
$$
\begin{gathered}
\frac{z-a}{b-a}=\frac{\overline z-1/a}{1/b-1/a}\\[3pt]
\iff z-a=-ab\overline z+b
\end{gathered}
$$
で、上の式になります。$a=-b$という直径の場合も成立します。$a=b$のときは弦を定められず、同じ式を接線と混同しないでください。
原点からこの直線への足は$(a+b)/2$、原点を通る垂線は
$$z-ab\overline z=0.$$
実際、前者は弦の中点で、後者の式へ代入しても零になります。対蹠点なら足は零ですが、垂線の式は有効です。
接点$a$における単位円の接線は
$$\overline a z+a\overline z=2.$$
手順|C26 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 同じ単位円上の二点と弦・接線・足が現れる。
何を得るか 共役を逆数にし、直線式の係数を短くする。
操作と分岐 相異なる$a,b$なら弦を$z+ab\overline z=a+b$とする。足・垂線・接線を目的に応じて使う。他の円なら中心と半径をそろえてから適用する。
止まったとき・終了時 対蹠点$a=-b$も有効だが、$a=b$では弦は未定義。交点を求めるなら得た共役一次式を連立し、最後に尺度を戻す。
問題|例題15
単位円の点$1,i$を通る直線と、原点からの垂線の足を求めよ。
直線は$z+i\overline z=1+i$、すなわち$x+y=1$。足は$(1+i)/2$。
性質と導出
外心は二つの等距離条件、垂心は二本の高さの垂直条件から求めます。外心を$o$とすると$|o-a|=|o-b|=|o-c|$を二乗して一次式二本へ。単位円上の三頂点なら外心は零で、垂心は
$$h=a+b+c$$
です。例えば$h-a=b+c$について
$$\operatorname{Re}\{\overline{c-b}(b+c)\}
=\operatorname{Re}(\overline c b-\overline b c)=0$$
なので、$A$からの高さの直線上にあります。他の高さも同様です。高さを含む直線の所属条件なので、$h=a$の場合に$h-a=0$を誤って排除しません。
一般の外心$o$なら、単位円への移動・拡大から$h=a+b+c-2o$と戻せます。
内心は、対辺の長さを$A_0=|b-c|,\ B_0=|c-a|,\ C_0=|a-b|$と書けば
$$j=\frac{A_0a+B_0b+C_0c}{A_0+B_0+C_0}.$$
角の二等分線が対辺を隣辺比に内分することを使い、
5.3
の分点式を二回適用して得られます。例えば$A$の二等分線の足$d=(C_0c+B_0b)/(B_0+C_0)$と$a$の実数の加重平均になり、他の頂点からも同じ点になるので内心です。
中心の名前だけを特別な公式へ対応させるより、等距離・垂直・内分という既存の入口へ戻す方が、与えられた配置に合わせやすくなります。
性質と導出
既知の非共線な三点を通る円があるなら、その円の式へ第四点を代入する方法が安全です。例えば$1,-1$を通る円は、中心の実部が零なので、一般式の未知量を一つ減らせます。総合問題4で使います。
四つの点が対称に現れる式には、複比
$$Q=\frac{(z_1-z_3)(z_2-z_4)}
{(z_1-z_4)(z_2-z_3)}$$
を使う方法もあります。四点相異のもとで、$Q$が実数であることは「四点が同一円周上、または同一直線上」にあることと同値です。
これは二つの商の偏角が$\pi$の整数倍だけ一致する、つまり二つの向き付き角が同じ円を見込む条件として説明できます。代数だけで確かめるには、平行移動と非零定数倍で$z_3=0,\ z_2=1,\ z_1=t,\ z_4=w$とします。四点相異なので$t\ne0,1,\ w\ne0,1,t$です。
$$Q=\frac{t(1-w)}{t-w}$$
が実数である条件を分母を払って整理すると
$$
(t-\overline t)|w|^2
+(\overline t-|t|^2)w+(|t|^2-t)\overline w=0.
$$
$t$が非実数なら$t-\overline t$で割ると
6.1
の円の形になり、$w=0,1,t$がその円の式を満たすことから、三点を通る円に確定します。$t$が実数なら$t\ne0,1$より式は$w-\overline w=0$となり、同一直線に確定します。除いた三点を実際の四点の条件へ戻すことで、主張が示されます。
したがって共円と結論する前に、三点非共線を別に確保します。例えば$0,1,2,3$の$Q$は$4/3$で実数ですが、四点は円周上にはありません。
非退化な一次分数変換$f(z)=(az+b)/(cz+d)$について
$$f(u)-f(v)=\frac{(ad-bc)(u-v)}{(cu+d)(cv+d)}$$
なので、四つの差を組んだ$Q$では余分な因子が全て消えます。よって複比は不変です。各点と像が有限で相異なり、分母が非零である条件を保ちます。これは
8.3
の分数変換と結び付きますが、定理名だけを覚える必要はなく、上の差の式から再現できます。
手順|C27 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 三点を通る円への所属、四点の共円、四つの差の比が現れる。
何を得るか 第四点の条件を、円の式または角の一致へ直す。
操作と分岐 既知三点で中心が簡単に決まるなら一般式。対称に四点が並ぶなら複比の実数性を使う。複比は二つの角の商として並べる。
止まったとき・終了時 四点相異と分母非零を確認する。複比が実数でも共線の場合を含むため、共円を言う前に非共線を確保する。
判断|この章を終えるとき
円か直線かという見た目だけで決めず、係数の実数性、半径二乗、相異性まで確定する。
基礎|この章の役割
前提 第6章の円・直線、第2章の実数条件
習得目標 境界を求める計算と、内外・向き・端点を選ぶ計算を分ける。条件に合う集合を必要十分に表す
性質と導出
$|z-a|=|z-b|$は、$a\ne b$なら垂直二等分線です。二乗すれば$|z|^2$が消えて直線になります。$a=b$なら全平面です。
$a\ne b,\ k>0$について
$$|z-a|=k|z-b|$$
は、$k=1$なら同じ直線、$k\ne1$ならアポロニウスの円で、
$$
\boxed{\text{中心 }\frac{a-k^2b}{1-k^2},\qquad
\text{半径 }\frac{k|a-b|}{|1-k^2|}}
$$
です。公式を忘れても、二乗して$|z|^2$の係数をまとめ、
6.1
で平方完成すれば再現できます。
手順|C23 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 等距離・距離比・分数の絶対値一定が現れる。
何を得るか 距離の二乗から円・直線の式を得る。
操作と分岐 商では分母を除き、定数倍を外して$|z-a|=k|z-b|$へ。非負の両辺を二乗し、$k=1$なら一次式、それ以外は平方完成する。
止まったとき・終了時 $k=0$、負の定数、同じ定点を先に分ける。中心半径だけでなく、約分や二乗の前の除外点まで一致させて終了する。
問題|例題16
$|z|=2|z-3|$の表す図形を求めよ。
二乗して整理すると$|z|^2-8\operatorname{Re}z+12=0$。よって$|z-4|=2$。
距離比という条件から二乗し、円の一般式にした後、中心と半径を読みました。定数倍を先に外せば、分数の絶対値一定も同じ入口になります。ただし商の分母が零となる点は、最初から除きます。
用語|円周・円板・半平面
円周は中心からの距離が半径に等しい点の集合です。円板は円の内部まで含む領域で、円周も含めるものを閉円板、円周を除くものを開円板といいます。本稿では不等号によって境界を含むか確認します。半平面は、直線で平面を二つに分けた片側の領域です。境界の直線を含むかどうかも、条件ごとに区別します。
性質と導出
$$|z-a|\leq k|z-b|$$
を、$k>0$として考えます。最初に等号の境界を作り、二乗して
$$
\begin{aligned}
&(1-k^2)|z|^2\\
&\quad-2\operatorname{Re}\{(\overline a-k^2\overline b)z\}\\
&\quad+|a|^2-k^2|b|^2\leq0
\end{aligned}
$$
とすれば、半平面・円板の内側・外側へ直せます。係数が消える場合は、全平面・一点などの退化も元の式で分類します。$1-k^2$で割るとき、符号が負なら不等号の向きが変わります。迷ったときは元の不等式を満たす試験点を一つ選び、図の側と一致するか確認します。
例えば$|z|<|z-2|$なら、$x^2+y^2<(x-2)^2+y^2$より$x<1$です。境界$x=1$は含みません。複数の条件があれば、各条件の表す集合の共通部分を取ります。
図だけで側を決めず、方程式・符号・試験点を一致させてください。分母の除外点が境界や内部に残ることもあります。
手順|C24 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 絶対値の大小、円の内外、複数の領域条件が現れる。
何を得るか 境界の形と、残す側・境界の開閉を確定する。
操作と分岐 非負を確認して二乗し、係数の符号に注意して整理する。必要なら試験点を元の式へ代入して側を確かめ、複数条件は共通部分にする。
止まったとき・終了時 厳密不等号、分母の除外、係数が零になる場合を残す。上からの評価だけで領域全体とせず、逆の成立まで確認する。
性質と導出
$b\ne a$のもとで、
$$\frac{z-a}{b-a}\in\mathbb R,\quad
\frac{z-a}{b-a}\geq0,\quad
0\leq\frac{z-a}{b-a}\leq1$$
は、それぞれ直線$AB$、$A$から$B$方向の閉半直線、線分$AB$を表します。正の条件にすれば端点$A$を除きます。比の実数性だけでは方向や線分の範囲までは決まりません。
非零の商$Q$の偏角を$\theta$に指定するときは、
$$
\begin{gathered}
\operatorname{Im}\{(\cos\theta-i\sin\theta)Q\}=0,\\[3pt]
\operatorname{Re}\{(\cos\theta-i\sin\theta)Q\}>0
\end{gathered}
$$
とすれば、角が$\theta$の方向と反対向きを区別できます。偏角の代表値が指定されていれば、最後にその区間へ戻します。
特に$Q=(z-a)/(z-b)$は二定点を見込む角です。$\theta$が$\pi$の整数倍でなければ円の一方の弧になり、整数倍なら直線の一部になります。$z=a,b$は偏角や分母を定義できないので除きます。
手順|C25 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 偏角の指定、一定角を見込む軌跡、線分・半直線が現れる。
何を得るか 向きまで指定された実数条件へ変える。
操作と分岐 指定角を打ち消す数を掛け、虚部零と実部正を組にする。商なら二定点の差をそろえる。円と開半直線は正の実数$t$を置き、交点方程式に正の根があるか調べる。
止まったとき・終了時 虚部零だけでは反対向きも残る。零の偏角、端点、反対の弧、代表値区間の切れ目を調べて必要十分な集合を得る。
問題|例題17
$\arg\{z/(z-1)\}=\pi/2$となる点の軌跡を求めよ。
$z=x+iy,\ z\ne0,1$とすると
$$\frac z{z-1}=
\frac{x^2+y^2-x-iy}{(x-1)^2+y^2}.$$
指定された角の条件は$x^2+y^2-x=0,\ y<0$。したがって
$$\boxed{|z-1/2|=1/2,\quad\operatorname{Im}z<0}.$$
この下半円上では$z\ne0,1$で、商は正の純虚数となるので十分でもある。
実部零だけで止めると円全体を含めてしまいます。虚部の符号が弧を選び、端点の除外も同時に確かめられます。「一定角だから円」という判断は候補を得る段階であり、ここまで調べて軌跡が確定します。
性質と導出
方向を単位複素数$d$、円の中心を$c$、半径を$R>0$とし、半直線を$td,\ t>0$とします。$c\overline d=p+iq$と置くと
$$
|td-c|=R
\iff(t-p)^2+q^2=R^2.
$$
よって共有点の必要十分条件は
$$\boxed{\Delta=R^2-q^2\geq0,\qquad p+\sqrt\Delta>0}.$$
前半が実根の存在、後半が少なくとも一つの根が正であることです。閉半直線なら後半を$\geq0$に変えます。
例えば中心$-1$・半径$1$の円と正実半直線は、直線までの距離が半径以下でも交わりません。二根は$0,-2$で、原点しか接していないからです。中心$1+i$・半径$1$なら二根は重根$1$となり、非零接点を含みます。逆に中心$-1/2$・半径$1$なら最大根$1/2>0$で、中心の射影が負でも共有点があります。
「円と直線の距離」だけでは不足し、「正の根」という新しい実数条件へ進むことが、この型の内部判断です。
判断|この章を終えるとき
円弧・線分・半直線では、支える円や直線の式に加えて、範囲と端点を残す。
用語|媒介表示
媒介表示は、点の座標や複素数を、別の変数(パラメータ)を使って表す方法です。例えば z=1+it、−1 ≤ t ≤ 1 は、点1−iと1+iを結ぶ線分を表します。式だけでなく、パラメータの範囲も表示の一部です。
基礎|この章の役割
前提 第7章の領域、第3章の乗根と相反式
習得目標 逆式が短いか、媒介表示が短いか、指定集合の逆像だけで済むかを判断する。候補から元の点を作るところまで完成させる
性質と導出
フロー|像の求め方を決める分岐
分岐1 $z$を$w$の式へ短く解ける
→ 逆式を始域へ代入する。逆式の分母も除外し、任意の候補から元像を作る。
分岐2 始域が線分・円弧など、一変数で短く書ける
→ 元のパラメータを残して像の成分を計算する。消去後も区間・片枝を残す。
分岐3 全体の像でなく、指定集合と交わるかだけを問う
→ 指定集合の逆像を求め、元図形との共有点を調べる。立方の実軸への到達なら半直線へ戻す。
$z\in D$が動き$w=f(z)$のとき、求める集合は「ある$z\in D$が存在して$w=f(z)$となる$w$」の全体です。消去で得た方程式を満たすだけでは、元の点が存在するとは限りません。
式の形による分岐も明確です。一次式は
5.1
、逆数は
8.2
、一次分数式は
8.3
、二乗は
8.5
、相反式は
8.6
、共役を含む一次式は
8.7
へ進みます。
例えば$w=2iz+3,\ |z|=1$では$|w-3|=2$を得ます。逆にこの円上の任意の$w$から$z=(w-3)/(2i)$を作れば$|z|=1$で、円全体が像です。「回転拡大された円」という予測と、逆式による十分性が一致します。
手順|C31 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか $z\in D$を動かした$w=f(z)$の集合、または像と指定集合の共有点を問われる。
何を得るか 「その$w$を作る元の点がある」を判定可能な式にする。
操作と分岐 一次分数など逆式が短ければ$z=g(w)$を始域へ代入。二乗など逆式が重ければ始域を実パラメータ表示。共有点だけなら指定集合を元へ戻す。
止まったとき・終了時 候補の各点について、逆式の分母・始域の区間・除外点を確認する。複数の集合へ「それぞれ届く」条件では元の点を同一にする必要はない。
性質と導出
$z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$に対して、$1/z$は半径$1/r$・角$-\theta$です。一方、単位円に関する反転は「同じ半直線上で距離の積が1」なので$1/\overline z$です。逆数は、反転の後に実軸対称を行ったものです。
中心$c$、半径$R>0$の円に関する反転なら
$$w=c+\frac{R^2}{\overline z-\overline c},\qquad z\ne c.$$
共役があるかないかで、像の向きが変わります。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (-2.5,0);(4.7,0) **\dir{-}, (0,-2.5);(0,2.8) **\dir{-}, (0,0)*\cir<2.8em>{}, (3.464,2)*{\bullet}="Z", (0.866,0.5)*{\bullet}="I", (0.866,-0.5)*{\bullet}="R", (0,0);"Z" **\dir{-}, (0,0);"R" **\dir{-}, "I";"R" **\dir{--}, (3.8,2.4)*{\color{#1d4ed8}z},(1.5,1.3)*{\color{#7e22ce}1/\overline z}, (1.5,-1.3)*{\color{#1d4ed8}1/z},(-0.35,-0.4)*{O} \end{xy}}$
図4 円による反転は同じ半直線上の点、逆数はさらに実軸対称な点になります(円は単位円)
手順|C32 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 逆数、反転、原点から同じ方向で距離の積一定という条件が現れる。
何を得るか 角が反転する逆数と、同じ半直線上の反転を区別する。
操作と分岐 $1/z$なら逆式も$z=1/w$。$1/\overline z$なら同じ方向の反転。円・直線の式へ代入し、線分や弧なら元のパラメータの範囲も移す。
止まったとき・終了時 $|w|^2$を掛けた後も$w\ne0$を保持する。除いた点の数から像の穴を決めず、候補から戻る元像で判定する。
問題|例題18
$\operatorname{Re}z=1$を動く$z$に対し、$w=1/z$の軌跡を求めよ。
$w\ne0$であり、$\operatorname{Re}(1/w)=1$から
$$\operatorname{Re}w=|w|^2
\iff |w-1/2|=1/2.$$
逆に、この円上の$w\ne0$に対し$z=1/w$は$\operatorname{Re}z=1$を満たす。したがって円$|w-1/2|=1/2$から原点を除いたもの。
方程式を得た後、逆数の像は零にならないという除外を残しました。逆向きには
$$
\begin{gathered}
z\ne0,\quad |z-1/2|=1/2\\[3pt]
\iff\operatorname{Re}(1/z)=1
\end{gathered}
$$
です。この直径$0,1$の円は、逆数で実部一定の直線へ移る、実戦で便利な形です。
用語|ここでいう極
ここでは、約分で消えない分母の零点を極と呼びます。その点では元の式を定義できません。分子も同時に零となって因子を約分できる場合は区別します。約分して得た式がその点で定義できても、元の式の定義域から除かれていた点は、勝手に戻せません。
性質と導出
一次分数式$w=(az+b)/(cz+d)$では、分母が恒等的に零でないことを先に確かめます。
フロー|一次分数変換を分ける順序
分岐1 $ad-bc=0$
→ 元の分母の非零を保ち、定数写像への退化を調べる。定義域が空でないことも確認する。
分岐2 $ad-bc\ne0$かつ$c=0$
→ 一次式の像として扱う。
分岐3 $ad-bc\ne0$かつ$c\ne0$
→ 極$-d/c$、逆式の分母が零となる値$a/c$を区別する。元図形へ逆式を代入し、円・直線を分類する。
手順|C33 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 分子・分母が一次の$w=(az+b)/(cz+d)$が現れる。
何を得るか 逆式を使える場合と定数への退化を先に分ける。
操作と分岐 分母の恒等零を除き、$ad-bc$を調べる。非零なら$z=(b-dw)/(cw-a)$を作り、始域へ代入する。$c=0$は一次変換。
止まったとき・終了時 元の極と逆式の分母を両方確認する。$c\ne0$では$w=a/c$に有限元像がない。ただしこの点が候補図形に入らなければ、新たな穴を付けない。
問題|例題19
$|z|=1$、$w=(z+1)/(3z-1)$の像を求めよ。
元の極$z=1/3$は単位円上にない。逆式は$z=(w+1)/(3w-1)$なので、
$$|w+1|=|3w-1|\iff |w-1/2|=1/2.$$
この円に$w=1/3$は含まれない。よって全ての円周上の$w$から逆式で単位円上の$z$を作れ、像はこの円全体。
7.1の距離比へ自然に帰着しましたが、そこで終わらず逆式の分母を検査しました。この例では分母零の候補は円上にないので、余分な除外点を付けません。
性質と導出
$|N/D|\leq1$を示すなら、まず$D\ne0$を保証し、
$$|D|^2-|N|^2\geq0$$
へ直します。商の実部・虚部を長く展開するより、交差項が打ち消し合うことが多くあります。
手順|C34 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 分数の絶対値を1と比較する、または単位円板の像を求める。
何を得るか 分母と分子の絶対値二乗の差を使い、交差項を消す。
操作と分岐 分母が非零と示してから$|D|^2-|N|^2$を展開する。単位円・等距離などで既知の実部を代入し、残る因子の符号を読む。
止まったとき・終了時 像が円板に入るだけでは十分でない。像全体を求めるなら逆式でも同じ条件を確認する。等号・係数の境界・極の位置を分ける。
問題|例題20
$|a|<1$、$|z|<1$とする。$w=(z-a)/(1-\overline a z)$の像を求めよ。
$|\overline a z|<1$より分母は非零。また、
$$
\begin{gathered}
|1-\overline a z|^2-|z-a|^2\\[3pt]
=(1-|a|^2)(1-|z|^2)>0
\end{gathered}
$$
なので$|w|<1$。
逆に任意の$|w|<1$に対し
$$z=\frac{w+a}{1+\overline a w}$$
と置く。分母は非零で、
$$
\begin{gathered}
|1+\overline a w|^2-|w+a|^2\\[3pt]
=(1-|a|^2)(1-|w|^2)>0
\end{gathered}
$$
から$|z|<1$であり、元の写像式も満たす。したがって像は単位円の内部全体。
包含を示す二乗差と、十分性を示す逆式を分けました。閉円板や円周でも同じ恒等式が使え、$|a|<1$なら分母は非零です。$a$の範囲を変えれば符号や極の位置が変わるので、そのまま同じ結論を流用しません。
$|a|=1$では$a-b=a(1-\overline a b)$なので、
$$\left|\frac{a-b}{1-\overline a b}\right|=1\qquad(b\ne a).$$
等号が常に成り立つ形ですが、$b=a$では$0/0$となります。単位円条件を使う前に分母を確認する好例です。
性質と導出
逆式が多価になる写像では、始域を先に一つの実パラメータで表す方が自然です。直線なら実数$t$、円なら角$t$、半直線なら正の半径$r$を動かします。何が一定で、何が自由かは問題文に書かれています。
二乗写像
直線$z=1+it,\ t\in\mathbb R$を$w=z^2$で送ると
$$
\begin{gathered}
x=1-t^2,\quad y=2t\\[3pt]
\Longrightarrow\quad x=1-y^2/4.
\end{gathered}
$$
任意の実数$y$から$t=y/2$を戻せるので、放物線全体です。$t$の区間が指定されていれば、同じ区間から得られる部分だけにします。
原点を通る直線$z=td$なら$w=t^2d^2$であり、放物線ではなく半直線へ退化します。原点を始域から除けば、像の原点も除きます。「二乗した直線はいつも非退化な放物線」とはしません。
手順|C36 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 二乗・相反・共役一次の写像で、始域が直線・円・半直線として分かる。
何を得るか 始域の自由度を一実パラメータに保ち、実部・虚部を消去する。
操作と分岐 直線は$z=a+td$、円は中心と半径に角、半直線は正の半径を使う。式を整理して一方の成分から$t$を戻すか、$\cos^2t+\sin^2t=1$を使う。
止まったとき・終了時 零の半軸で割らない。線分・点への退化、双曲線の片枝、区間の端を残す。消去した曲線の任意の点から許容パラメータを戻す。
性質と導出
円を相反写像で送る
$c>0,\ |z|=r>0,\ w=z+c/z$なら、
$$
\begin{gathered}
z=r(\cos t+i\sin t),\\[3pt]
w=(r+c/r)\cos t+i(r-c/r)\sin t.
\end{gathered}
$$
$r\ne\sqrt c$なら楕円
$$\frac{x^2}{(r+c/r)^2}+\frac{y^2}{(r-c/r)^2}=1$$
の全体、$r=\sqrt c$なら実線分$[-2\sqrt c,2\sqrt c]$です。楕円の全点から$\cos t,\sin t$を戻せること、線分では$\cos t$が$[-1,1]$全体を動くことが十分性です。零となる半軸で割ってはいけません。
係数$c$が非零複素数なら、その偏角の半分を使います。$c=|c|(\cos2\phi+i\sin2\phi)$、
$$z=(\cos\phi+i\sin\phi)u$$
と置くと
$$w=(\cos\phi+i\sin\phi)\left(u+\frac{|c|}{u}\right).$$
二項に共通の回転因子を作るための半角です。都合のよい回転を思い付く操作ではありません。$c=0$なら元の一次写像へ戻ります。
半直線を動く場合
$a>0,\ \arg z=\pi/4,\ w=z+a^2/z$なら、$z=r(1+i)/\sqrt2,\ r>0$とし、
$$x=\frac{r+a^2/r}{\sqrt2},\qquad
y=\frac{r-a^2/r}{\sqrt2}.$$
よって$x^2-y^2=2a^2,\ x>0$です。逆に右枝の任意の点から$r=(x+y)/\sqrt2>0$を戻せます。左枝は得られません。消去した双曲線の式だけで終えると、半径の正値条件を落とします。
性質と導出
共役を含む一次写像
$w=az+b\overline z+c$で$|z|=1$なら、$z=\cos t+i\sin t$を代入して実虚部を整理します。例えば$w=2z+\overline z$は$w=3\cos t+i\sin t$で、半軸$3,1$の楕円全体です。
一般には半軸の長さが$|a|+|b|,\ \bigl||a|-|b|\bigr|$になります。導くには$a=A(\cos\alpha+i\sin\alpha)$、$b=B(\cos\beta+i\sin\beta)$とし、
$$
\begin{gathered}
u=\cos\frac{\alpha+\beta}{2}+i\sin\frac{\alpha+\beta}{2},\\[3pt]
v=\cos\frac{\beta-\alpha}{2}+i\sin\frac{\beta-\alpha}{2}
\end{gathered}
$$
と置きます。$z=v(\cos t+i\sin t)$なら
$$\frac{w-c}{u}=(A+B)\cos t+i(A-B)\sin t.$$
$A=B>0$で線分、$A=B=0$で点、片方だけ零なら円です。零係数の角は便宜上任意に取れ、結果の円・点の集合は変わりません。
$|a|\ne|b|$なら
2.3
の共役連立で逆に戻せます。等しい場合の退化は、まさに一実パラメータしか像に残らないことを表しています。
性質と導出
三角関数を残した消去が進みにくいときは、
$$
z=\frac{1-t^2+2it}{1+t^2},\qquad t\in\mathbb R
$$
を使えます。$t=\tan(\theta/2)$による半角の置換です。分母$1+t^2$は正で、$z=-1$を除く単位円の全点を表します。実際、$z=x+iy,\ |z|=1,\ z\ne-1$から$t=y/(1+x)$と置けば上の式に戻ります。
角や円弧の範囲があるなら$t$の区間へ変換し、取り落とした$z=-1$を別に元の条件で確認します。非零の式を約分した場合、その零も除外条件として保持します。
例えば$|z|=1,\ 2\operatorname{Re}z+\operatorname{Im}z=2$なら
$$2(1-t^2)+2t=2(1+t^2)$$
から$t=0,1/2$、よって$z=1,(3+4i)/5$です。$z=-1$は元の一次条件を満たしません。
この例は円と直線の成分連立でも短く解けます。有理式にすればいつも第一選択になるわけではありません。極形式・共役の逆数化・逆式のいずれでも整理できないとき、有限次数の実数式へ戻す確実な選択肢として持っておきます。
手順|C46 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 単位円上の有理式・三角式で、角を残す消去が進みにくい。
何を得るか 実数一文字の有理式へ戻す。
操作と分岐 $z=(1-t^2+2it)/(1+t^2)$を代入する。円弧なら$t$の範囲も変換し、分母が正であることを使って整理する。
止まったとき・終了時 $z=-1$が表示から抜けるので別に確認する。短い共役消去や成分連立で済む場合はそちらを選び、約分した因子の零も保持する。
判断|この章を終えるとき
円全体・円弧・片枝・除外点の違いを、任意の候補点の元像から説明できれば終了する。
基礎|この章の役割
前提 第2章の絶対値二乗、第6・7章の図形条件
習得目標 単一距離・交差項・実数一変数のどこへ直すと短いかを判断し、上下界と達成を分けて証明する
性質と導出
フロー|最値の候補を絞る分岐
分岐1 目的式が一次式の絶対値になる
→ 定点への距離へ直し、円周・円板・開円板を分ける。
分岐2 二乗和、和差の長さが与えられる
→ 交差項または重み付き中心へまとめる。各変数を個別に決めない。
分岐3 成分の曲線条件がある
→ 目的式から二乗項を消すか、一方の成分を固定して単調性を調べる。
分岐4 上下界が得られた
→ 元の全条件を満たす点を作る。端が除かれるなら上限・下限と最大・最小を区別する。
上下界が目的なら
$$\bigl||u|-|v|\bigr|\leq|u+v|\leq|u|+|v|$$
を使います。非零の二項について、上側の等号は同じ方向、下側の等号は反対方向のときです。零を含む場合は元の式で確認します。例えば$\operatorname{Re}(u\overline v)\leq|u||v|$を上の展開式へ入れれば上側が得られます。実部が絶対値に等しいのは$u\overline v$が非負実数のときであり、等号の向きも説明できます。
一般の実数式$A,B$を二乗するときは、両者が非負か確認してください。$A^2=B^2$から常に$A=B$が従うわけではありません。
$|z-c|=R$の円周上で$d=|c-a|$とすると
$$\boxed{|d-R|\leq|z-a|\leq d+R}.$$
中心$c$、定点$a$、動点$z$を一直線に並べる位置で両端が実現します。$a=c$なら距離は常に$R$、$R=0$なら一点の場合として直接確かめます。
閉円板$|z-c|\leq R$では、
$$
\begin{gathered}
\text{最小値}=\begin{cases}0&d\leq R,\\d-R&d>R,\end{cases}\\[3pt]
\text{最大値}=d+R.
\end{gathered}
$$
$a$が円板の内部なら、最小値は$z=a$での零です。円周だけの場合の$R-d$と取り違えません。
開円板では、境界にしかない候補は達成されません。例えば$|z-2|<2$上で$|z-3i|$は、両端を含まない
$$\sqrt{13}-2<|z-3i|<\sqrt{13}+2$$
です。範囲の端を最大値・最小値と呼ぶ前に、動点がその位置を取れるかを確かめます。
$a\ne0$なら
$$|az+b|=|a|\,|z+b/a|$$
なので一次式の絶対値も距離です。$a=0$は定数として処理します。
例えば$|z|=1$で$|2z^2+z|$を求めるなら、
$$|2z^2+z|=|2z+1|=2|z+1/2|$$
より最小$1$、最大$3$で、それぞれ$z=-1,1$が達成します。二次式という見た目から、すぐに三角関数の微分へ進む必要はありません。
手順|C28 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 円周・円板上の点からの距離、または原点から見た偏角の範囲を問われる。
何を得るか 中心・半径と定点の位置関係だけで端を求める。
操作と分岐 距離は定点と中心を結ぶ直線上の配置、偏角は原点が円外なら二接線を使う。円内・円上・円外、円周と円板、開集合を分ける。
止まったとき・終了時 端の点が始域に属するかを確認する。円弧しか動けないなら円全体の端をそのまま採用せず、弧の端点と許される停留点も比べる。
手順|C29 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 絶対値・実部の最大最小を、図形や係数の制約の下で求める。
何を得るか 目的式を単一距離、交差項、実数一変数のいずれかへ下げる。
操作と分岐 一次式の絶対値は距離化、距離二乗和は平方完成、曲線上の実部は成分消去を試す。制約式自体が簡単なら新変数にする。分数の実部は一成分を固定し、残る成分の許容範囲を調べる。
止まったとき・終了時 各項の上界を同時に取れるかを元変数で確認する。値域全体を問われた場合は、端だけでなく全中間値の実現も示す。
性質と導出
ここでは$R>0$とします。$R=0$なら点$c$一つなので、$c\ne0$ではその偏角だけ、$c=0$では偏角は定義できません。
原点が円$|z-c|=R$の外部なら、中心の偏角を$\phi$とし、$0\leq\delta<\pi/2$を
$$\sin\delta=R/|c|$$
で定めます。二本の接線から偏角の範囲は$\phi-\delta$から$\phi+\delta$です。両接点で端を達成し、中間方向も円と交わります。代表値の区間をまたぐなら、二つの区間に分けて表します。
原点が円周上で$R>0$なら、原点を除いた偏角は$\phi-\pi/2$と$\phi+\pi/2$の間で、両端を含みません。原点が円内部なら全方向が実現します。円が原点一点の場合には偏角そのものが定義できません。
例えば中心$2$・半径$1$なら、偏角は$[-\pi/6,\pi/6]$。この角を累乗で何倍かして三角関数へ渡すときは、
3.2
で述べた増減区間の確認を加えます。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (-0.3,0);(6.5,0) **\dir{-}, (4,0)*\cir<2.8em>{}, (0,0)*{\bullet}="O",(4,0)*{\bullet}="C", (3,1.732)*{\bullet}="T",(3,-1.732)*{\bullet}="S", "O";"T" **\dir{-},"O";"S" **\dir{-}, "C";"T" **\dir{--},"C";"S" **\dir{--}, (-0.4,-0.4)*{O},(4,-0.5)*{c}, (3,2.3)*{\color{#1d4ed8}T_+},(3,-2.3)*{\color{#1d4ed8}T_-}, (1.5,0.4)*{\delta},(1.5,-0.4)*{\delta}, (3.9,1.1)*{R} \end{xy}}$
図5 原点が円の外側なら、偏角の両端は接線の方向で決まります
性質と導出
複数の距離二乗が足されていたら、交差項の一次式をまとめます。実数$\lambda_j\geq0$、$\Lambda=\sum\lambda_j>0$、$g=\sum\lambda_j a_j/\Lambda$に対して、
$$
\begin{aligned}
\sum_j\lambda_j|z-a_j|^2\\
&=\Lambda|z-g|^2\\
&\quad+\sum_j\lambda_j|a_j|^2-\Lambda|g|^2
\end{aligned}
$$
です。各項を$z\overline z-\overline{a_j}z-a_j\overline z+|a_j|^2$と展開すれば、両辺の係数が一致します。
無制約なら最小は$z=g$。円・直線などの制約があれば、$g$からその図形までの距離の問題へ戻ります。係数が負の場合まで、最小という結論をそのまま拡張しません。
実際、上の恒等式自体は実数の重みで$\Lambda\ne0$なら成立します。$\Lambda<0$では、距離を最小にする点が目的式を最大にする点になります。$\Lambda=0$なら平方完成の分母で割らず、
$$
\begin{aligned}
\sum_j\lambda_j|z-a_j|^2\\
&=-2\operatorname{Re}\left(\overline{\sum_j\lambda_j a_j}\,z\right)\\
&\quad+\sum_j\lambda_j|a_j|^2
\end{aligned}
$$
という一次の実部へ戻します。例えば円周上なら$z=c+R(\cos t+i\sin t)$を入れ、実部の値域を求めます。一次の係数も零なら定数です。重みの符号と和を確認すれば、この分岐も計算前に判断できます。
問題|例題21
$|z|=1$のとき$|z|^2+|z-2|^2$の最大・最小を求めよ。
$$|z|^2+|z-2|^2=2|z-1|^2+2.$$
単位円上で$0\leq|z-1|\leq2$なので、最小$2$を$z=1$、最大$10$を$z=-1$で取る。
個々の距離を別々に最適化せず、重み付きの中心$1$へまとめました。目的式が定数と距離二乗になったところで9.1の入口です。
性質と導出
二定点からの距離の和が一定なら、焦点を持つ楕円です。和が焦点間距離より大きいときに非退化、等しいときは二焦点を結ぶ線分、小さいときは空集合です。楕円と分かった後、目的式の実部を$x,y$で書き、楕円の式で一方を消します。
問題|例題22
$|z-\sqrt3|+|z+\sqrt3|=4$のとき、$\operatorname{Re}(z+1)^2$の最大・最小を求めよ。
$z=x+iy$とすると焦点条件は$x^2/4+y^2=1$。したがって$-2\leq x\leq2$で、
$$
\begin{aligned}
\operatorname{Re}(z+1)^2&=(x+1)^2-y^2\\
&=\frac54x^2+2x\\
&=\frac54\left(x+\frac45\right)^2-\frac45.
\end{aligned}
$$
最小値は$-4/5$で、$z=(-4\pm\sqrt{21}i)/5$が達成する。最大値は両端を比較して$9$で、$z=2$が達成する。
実部を取る前に複素式を微分するのではなく、実数の二次式へ直しました。$x$の許容区間を残し、極値候補に対応する$y$が実際に存在するところまで確認しています。
性質と導出
逆数の実部は、絶対値だけでも偏角だけでも決まりません。$z=x+iy\ne0$なら
$$\operatorname{Re}\frac1z=\frac{x}{x^2+y^2}.$$
領域の条件が$y^2\geq h(x)$のような形なら、すぐに二変数を同時に動かすのでなく、まず$x$を固定します。$v=y^2$と置けば、$v\geq0$を満たす実数一変数の分数になります。
手順|分子の符号から、境界を使えるか決める
性質と導出
積の和と二乗和が同時に現れる場合は、項どうしの対応を保って評価します。複素数$u_1,\ldots,u_n$、$v_1,\ldots,v_n$について
$$
\left|\sum_{j=1}^n u_j\overline{v_j}\right|^2
\leq\left(\sum_{j=1}^n|u_j|^2\right)
\left(\sum_{j=1}^n|v_j|^2\right)
$$
が成立します。複素数の場合のコーシー・シュワルツの不等式ですが、次の二乗の展開だけで導けます。
$$
\begin{gathered}
S=\sum u_j\overline{v_j},\\[3pt]
U=\sum|u_j|^2,\qquad V=\sum|v_j|^2
\end{gathered}
$$
とします。$V=0$なら全ての$v_j$が零なので成立します。$V>0$なら$t=S/V$と置き、
$$
\begin{aligned}
0&\leq\sum|u_j-tv_j|^2\\
&=U-2\operatorname{Re}(\overline tS)+|t|^2V\\
&=U-\frac{|S|^2}{V}
\end{aligned}
$$
を得ます。等号は、全ての$j$について$u_j=tv_j$となるとき、かつそのときに限ります。$V=0$は別に扱います。
判断|一次式の係数も、共役を付けて一組にする
$|a_1z_1+\cdots+a_nz_n|$と$\sum|z_j|^2$があれば、$u_j=z_j$、$v_j=\overline{a_j}$と対応させる。係数側の二乗和が評価の定数になる。等号条件は全変数に共通の複素数$t$で表し、残る制約も同時に満たすか確認する。
問題|補例A 二乗和の制約で一次式を最大にする
$|z|^2+|w|^2=1$のとき、$|z+2iw|$の最大値・最小値を求めよ。
上の不等式で$(u_1,u_2)=(z,w)$、$(v_1,v_2)=(1,-2i)$とすると、$|z+2iw|^2\leq5$。$z=t,w=-2it,|t|=1/\sqrt5$で等号が成立するので最大値は$\sqrt5$。最小値は非負性から零以上で、$z=-2i/\sqrt5,w=1/\sqrt5$なら零を取る。よって最小値は$0$。
制約が二乗和なので、各項を別々に三角不等式で評価するより、二乗和をそのまま使う方が達成条件までそろいます。最大値の等号条件と、最小値で一次式を零にする条件は別々に作ります。
判断|この章を終えるとき
値の上下界だけで終わらず、元の全条件を満たす達成点または非達成の理由を示す。
基礎|この章の役割
前提 第8章の逆像、第9章の範囲と達成
習得目標 独立に動く変数は円板和へ、結び付いた変数はパラメータの存在へ分ける。除外点や区間条件を消去後も保つ
性質と導出
二つの変数が独立に動けるか、相異なる必要があるか、同じ媒介変数で結ばれているかを先に確認します。
中心を除いた二円周の半径が$r,s\geq0$なら、和の範囲は
$$|r-s|\leq|w|\leq r+s.$$
上・下界だけでなく全中間半径が実現します。実際、$u+v=w,\ |u|=r,\ |v|=s$は、中心$0$・半径$r$の円と中心$w$・半径$s$の円の共有点の存在に等価で、二円の交点条件がちょうどこの不等式です。零半径や$w=0$は直接確かめられます。
円板$|u|\leq r$と円周$|v|=s$の和なら、
$$\begin{cases}0\leq|w|\leq r+s&r\geq s,\\s-r\leq|w|\leq r+s&r< s.\end{cases}$$
この範囲の$w\ne0$へ、$w$と同方向で長さ$s$の$v$を選べば$|w-v|=\bigl||w|-s\bigr|\leq r$なので実現できます。$w=0$は$s\leq r$のときに実現します。二円板の和は半径$r+s$の円板全体で、$u=rw/(r+s),\ v=sw/(r+s)$が逆構成です。$r+s=0$は一点です。
中心や平均の係数が付いていれば、最初に中心を引き、最後に半径も同じ倍率で戻します。
手順|C30 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 二動点の和・平均・積、二つの実数の和と二乗和が現れる。
何を得るか 自由度を、距離・角または和差の値域にまとめる。
操作と分岐 独立性を確認する。和は一方を固定した図形の和集合、円同士なら二円の交点条件へ。積は一方が全方向を担えるかを調べる。和と二乗和には$s+t,s-t$を使う。
止まったとき・終了時 円周と円板を区別し、平均の倍率は半径にも掛ける。相異性をパラメータの相異性へ移すには単射性が必要。任意の候補の逆構成まで示す。
問題|例題23
$|u|\leq1,\ |v-(8+6i)|=3$のとき、$(u+v)/2$の範囲と面積を求めよ。
$w=(u+v)/2$とすると
$$w-(4+3i)=\frac u2+\frac{v-(8+6i)}2.$$
右辺は半径$1/2$の円板と半径$3/2$の円周の和なので、
$$1\leq|w-(4+3i)|\leq2.$$
面積は$\pi(2^2-1^2)=3\pi$。
半径を平均の係数$1/2$で縮めてから公式を使いました。もし最初の条件が$|u|\leq2$なら、半径は$1,3/2$となり、内半径$1/2$・外半径$5/2$、面積$6\pi$です。条件の数値を一つ変えると穴の大きさが変わるので、元の半径を丁寧に読みます。
性質と導出
$|L_1(\alpha,\beta)|\leq r,\ |L_2(\alpha,\beta)|\leq s$のような制約では、$u=L_1,\ v=L_2$を置きます。元の$\alpha,\beta$を任意の$u,v$から戻せるなら、二つの円板を独立に動かせます。
例えば$u=\alpha+\beta,\ v=\alpha-\beta$なら、$\alpha=(u+v)/2,\ \beta=(u-v)/2$です。$|u|\leq1,\ |v|\leq3$のもとで
$$\alpha+i\beta=\frac{1+i}{2}u+\frac{1-i}{2}v$$
は半径$2\sqrt2$の円板全体を動きます。各定数倍が円板を作り、その和を
10.1
で処理したからです。
制約式を二つ置いたという事実だけで独立性が保証されるわけではありません。例えば二つの式が同じなら、二変数として自由に選べません。
また、三角不等式で得た上界を最大値と呼ぶには、全ての項が最大長を取り、同じ方向へ向くことを元の係数で同時に実現できるか確認します。一般の目標値が円板内部にある場合に、境界の等号条件を強制する方法も誤りです。総合問題8ではこの違いを確かめます。
性質と導出
フロー|パラメータを消去する前後
分岐1 割るパラメータが零になれる
→ 先にその値で得られる点を記録する。
分岐2 残る式がパラメータの二次方程式
→ 判別式だけでなく、根が指定区間内にあるかを調べる。
分岐3 候補点について根を選べた
→ 除外点と元の分母を確認して元像を作る。作れない点を候補から除く。
実数$t$の値ごとに決まる図形を$C_t$とします。$t$を許された範囲で動かしたとき、少なくとも一つの$C_t$に属する点の全体が通過領域です。この領域を調べる際は、$w$を固定して「この点を作る許容$t$があるか」と読み替えます。$F(w,t)=0$が$t$の二次式なら、次を順に調べます。
手順|C35 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 図形$C_t$や係数が区間を動き、その全体の通過領域を問われる。
何を得るか 候補点を固定し、許された$t$が少なくとも一つあるかを問う。
操作と分岐 $F(w,t)=0$を$t$の方程式として解く。次数低下を分け、実根・区間内の根・元の除外を順に調べる。閉区間なら連続な二次関数の最小最大に零が挟まれるかでもよい。
止まったとき・終了時 判別式だけでは区間制限が抜ける。同じ点を別の$t$が実現できるなら、その点は除かない。最後に$t$と必要な元の点を構成する。
性質と導出
実係数の$z^2+pz+q=0$で、$p,q$がそれぞれ区間を動くとします。解の公式で二係数を同時に動かす前に、根$z=x+iy$を固定します。
$$
\begin{cases}
x^2-y^2+px+q=0,\\
y(2x+p)=0.
\end{cases}
$$
非実数枝$y\ne0$なら$p=-2x,\ q=x^2+y^2$に確定します。これを係数の範囲へ戻せば必要十分条件です。
実数枝$y=0$は別に残します。$p_0\leq p\leq p_1,\ q_0\leq q\leq q_1$なら、$x^2+px$の値域
$$
\begin{cases}\left[x^2+p_0x,\ x^2+p_1x\right]&x\geq0,\\\left[x^2+p_1x,\ x^2+p_0x\right]&x<0\end{cases}
$$
が$[-q_1,-q_0]$と交わることが必要十分です。$x$の符号で端が入れ替わるので、必要なら正負に分けて書きます。最後に選んだ値から実際の$p,q$を戻せば、根の実現も示せます。
この二枝を分けないまま$y$で割ると、実軸上の長い線分を落とすことがあります。総合問題9で全領域を求めます。
反対に「特定の種類の根を持つ係数の軌跡」なら、根をパラメータにします。例えば
$$z^2-\alpha z+2i=0$$
は零根を持たず、$\alpha=z+2i/z$です。
実数根$t\ne0$を持つなら$\alpha=t+2i/t$なので、$\alpha=x+iy$の軌跡は$xy=2$の両枝全体。単位円上の根を持つなら
8.6
の半角回転により
$$
\alpha=\left(\cos\frac\pi4+i\sin\frac\pi4\right)
(3\cos t-i\sin t).
$$
したがって$\beta=(\cos(\pi/4)+i\sin(\pi/4))\alpha$の軌跡は
$$\beta=\sin t+3i\cos t,\qquad x^2+y^2/9=1$$
です。全ての$t$が許されるため楕円全体となります。根の存在という条件を、既知の相反写像の入口へ移しました。
手順|C37 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 実係数二次式の係数が動く、または指定種類の根を持つ係数を求める。
何を得るか 動く根を先に固定し、係数の存在を判定する。
操作と分岐 実部・虚部を分け、$y\ne0$なら係数を一意に逆算。$y=0$なら係数区間の値域が必要な値を含むか調べる。求めるものが係数なら、許される根をパラメータにする。
止まったとき・終了時 $y$で割って実根を消さない。求めた範囲の各点から許容係数または根を構成し、重解を許すかも元の問題に戻す。
判断|この章を終えるとき
任意の候補から元の変数・係数を一組戻せることが、存在範囲の終了条件になる。
基礎|この章の役割
前提 第4章の因数定理・次数、第6章の円、第8章の一次分数変換
習得目標 要求が円上性なら保存式、一般項なら不動点、有限集合なら全要素の積を選ぶ
性質と導出
$a_{n+2}=a_{n+1}+a_n$、$b_n=a_{n+1}/a_n$なら、定義できる範囲で
$$b_{n+1}=1+\frac1{b_n}.$$
「全ての$b_n$が同じ円周上」という要求なら、一般項を求める前に円の式がこの変換で保存されるかを調べます。
最初の三点が非共線なら、
6.1
の円の一般式へ代入して中心・半径を決め、候補の式を作れます。異なる三点が共線なら有限半径の円は存在せず、三点に一致がある場合も円は一意に決まりません。その場合は定数列・直線上の不変性も確認し、元の要求を読み直します。三点を見て円を予測することと、全項について証明することは別です。
例えば$b_1=i,\ b_2=1-i,\ b_3=(3+i)/2$を通る円は
$$|b-1/2|=\frac{\sqrt5}{2}
\iff |b|^2-\operatorname{Re}b=1.$$
$b$がこの円上なら$b\ne0$で、
$$
\begin{gathered}
\left|1+\frac1b\right|^2\\[3pt]
-\operatorname{Re}\left(1+\frac1b\right)-1\\[3pt]
=-\frac{|b|^2-\operatorname{Re}b-1}{|b|^2}=0.
\end{gathered}
$$
よって円は保たれます。式を作れなければ、一般の円$|b|^2+A\operatorname{Re}b+B\operatorname{Im}b+C=0$を用意し、初期値や変換後の式から係数を決める方法に戻れます。
元の$a_n$が非零であることも同時に帰納します。分母の非零を未証明のまま全ての比を定義すると、論証が循環します。この点まで含めた模範解答は総合問題11に置きます。
手順|C38 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 数列の隣接項の比が同じ円上にあることを示す。
何を得るか 比の写像が円の式を保存することを帰納法に使う。
操作と分岐 分母が定義できる範囲で比の漸化式を出す。非共線な初期三点から円を予測するか、円の一般式を代入して係数を決める。
止まったとき・終了時 三点だけの観察では証明にならない。比の分母非零と円上性を同じ帰納法で示す。一般項を求めなくても保存式で要求を満たせば終了する。
性質と導出
フロー|漸化式で、求める結論に合わせる
分岐1 円上性や非零だけを示したい
→ 円の式を代入して保存関係を作り、非零と同時に帰納する。
分岐2 一般項・極限が必要で、不動点が二つ異なる
→ 二つの不動点からの差の比を取って等比数列へ。初期値が不動点の場合を別にする。
分岐3 一般項・極限が必要で、不動点が重なる
→ 不動点からの差の逆数を取って等差数列へ。逆変換と元の極に到達する添字を確認する。
$$z_{n+1}=f(z_n),\qquad f(z)=\frac{az+b}{cz+d}$$
で一般項を求めるときは、$p=f(p)$となる不動点との差を使います。まず元の分母、$ad-bc=0$の退化、$c=0$の一次漸化式を分けます。分母が恒等的に零なら定義できません。$ad-bc=0$なら定義できる点で定数ですが、その定数を次に代入しても定義できるかを確認します。
$c=0,\ d\ne0$では$A=a/d,\ B=b/d$と置きます。$A=0$なら$n\geq2$で$z_n=B$です。$A=1$なら$z_n=z_1+(n-1)B$、$A\ne0,1$なら
$$z_n=A^{n-1}\left(z_1-\frac{B}{1-A}\right)+\frac{B}{1-A}$$
です。以下では、残った一次分数型を処理します。
$ad-bc\ne0,\ c\ne0$なら、不動点は
$$cp^2+(d-a)p-b=0$$
の根です。この根が元の極にならないことは、極と不動点の式を両立させると$ad-bc=0$となることから確認できます。
異なる二つの不動点$p,q$
不動点の式を使って分子を因数分解すると
$$f(z)-p=\frac{(a-cp)(z-p)}{cz+d}$$
です。したがって
$$
\frac{f(z)-p}{f(z)-q}
=\lambda\frac{z-p}{z-q},\qquad
\lambda=\frac{a-cp}{a-cq}.
$$
初期値が$q$なら定数列として分け、それ以外では
$$
\begin{gathered}
u_n=\frac{z_n-p}{z_n-q},\\[3pt]
u_n=\lambda^{n-1}u_1,\\[3pt]
z_n=\frac{p-q\,u_n}{1-u_n}
\end{gathered}
$$
となります。$\lambda$の分子・分母は非零で、$c(p-q)\ne0$より$\lambda\ne1$です。途中で$u_n=1$となれば有限の$z_n$に戻れず、元の数列の定義が破れるので、その初期値や添字を除きます。
全項が定義できる場合、$|\lambda|<1$なら$q$の定数列を除いて$z_n\to p$。$|\lambda|>1$なら$p$の定数列を除いて$z_n\to q$です。$|\lambda|=1$では角や周期を調べます。不動点でない列は有限の極限を持ちません。実際、$|u_n|$が正の一定値で、$\lambda\ne1$なら$|u_{n+1}-u_n|$も正の一定値なので、有限の$z$への収束と両立しません。$q$への収束も$|u_n|$一定と両立しません。
重なった不動点$p$
重なった根の条件から$a-d=2cp$なので、$cz+d=c(z-p)+(a-cp)$と書けます。これを$f(z)-p$の式へ入れ、今度は$(z-p)$の逆数を使うと
$$\frac1{f(z)-p}=\frac1{z-p}+\frac c{a-cp}.$$
したがって$z_1=p$は定数列として分け、それ以外では
$$v_n=\frac1{z_n-p}
=\frac1{z_1-p}+(n-1)\frac c{a-cp}$$
という等差数列です。$v_n=0$となる添字では有限の$z_n$へ戻れません。全項が定義できれば、差$c/(a-cp)$は非零なので$|v_n|\to\infty$、従って$z_n\to p$です。
例えば$z_{n+1}=z_n/(z_n+1),\ z_1=1$なら$p=0$で、
$$\frac1{z_{n+1}}=\frac1{z_n}+1$$
から$z_n=1/n$。逆に初期値$z_1=-1/2$なら$z_2=-1$の次で分母が零になり、全項を定義できません。一般項の形が得られても、元の式の定義域を最後まで確認します。
円上性だけなら
11.1
の保存式、一般項・極限ならこの不動点の変換、という要求による選択です。
手順|C47 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 一次分数漸化式の一般項・極限を問われる。
何を得るか 不動点を変換の基準にして、等比または等差へ変える。
操作と分岐 定数・一次への退化を分け、不動点の二次方程式を解く。異なる二点なら差の比、重なる一点なら差の逆数を使う。初期値が不動点の場合を別にする。
止まったとき・終了時 逆式の分母と元の極に到達する添字を確認する。全項が定義できる範囲で極限を調べる。円上性だけなら保存式の方が短い。
用語|集合が演算について閉じる
集合の要素どうしにある演算を行った結果が、必ずまたその集合に入るとき、その集合はその演算について閉じているといいます。これが閉性です。「積で閉じる」は任意の二要素の積が集合に戻るという意味で、領域が境界を含むという「閉」とは別です。
性質と導出
正整数$n$に対し、集合$M$が相異なる$n$個の非零複素数からなり、任意の二元の積を再び含むとします。$z\in M$を固定すると、$u\mapsto zu$は$M$への写像で、$zu=zv$なら$u=v$なので単射です。有限個の$n$点を重複なく$n$点へ送るため、像は$M$全体です。
全要素の積$P\ne0$を比べると
$$P=\prod_{u\in M}(zu)=z^nP$$
なので$z^n=1$。$M$は$n$個の1の$n$乗根を全て含み、それ以外を含まない集合になります。群論の定理は必要ありません。
手順|C39 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 有限個の非零複素数の集合が積で閉じる。
何を得るか 各元を掛ける操作が集合全体の並べ替えになることを使う。
操作と分岐 固定した非零元による乗算は単射。有限集合なので全点を一巡する。全要素の非零の積を比較して$z^n=1$を得る。
止まったとき・終了時 要素数$n$は正、各元は非零と確認する。候補が1の$n$乗根全体になったら、負や逆数など追加の閉性も逆に確かめる。
問題|例題24
$M$がこの条件に加え、各元$z$と共に$-z$も含むとする。$n$の偶奇と、$n=4$の場合の$M$を求めよ。
上の議論から$M$は1の$n$乗根全体で、$1\in M$。負について閉じるので$-1\in M$、したがって$(-1)^n=1$より$n$は偶数。$n=4$なら$M=\{1,i,-1,-i\}$で、実際に積と負について閉じる。
「有限個」と「非零」と「積で閉じる」が、全要素の積の比較の入口です。逆数について閉じることが追加されても、この結論は変わりません。必要性から候補集合を得た後、元の全ての閉性を逆に確認して終了します。
性質と導出
「全ての$f(z)=0$の解について$f(wz)=0$」なら、根集合全体を$w$倍して保つ条件です。非零の有限根集合で$w\ne0$なら、
11.3
と同じく乗算は根集合の並べ替えになります。$w=0$が可能かは$f(0)$で先に確認します。
根を全部具体計算しなくても、二つの多項式の差で次数を下げられる場合があります。
手順|C40 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 全ての$f(z)=0$の根について$f(wz)=0$を要求される。
何を得るか 一つの根への条件を、根集合全体の条件へ強める。
操作と分岐 まず$w=0$を調べる。非零なら集合の並べ替えを考えるか、$f(wz)-w^df(z)$で最高次項を消す。相異なる根数が残った次数を超えれば恒等零になる。
止まったとき・終了時 重複度を根の相異数に数えない。得た$w$が一つの根だけでなく、全根を保つことを元式で確認する。
問題|例題25
$f(z)=z^6+z^4+z^2+1$とする。全ての$f(z)=0$の解に対し$f(wz)=0$となる$w$を求めよ。
$$
\begin{gathered}
(z^2-1)f(z)=z^8-1,\\[3pt]
f(1)=f(-1)=4
\end{gathered}
$$
より、$f$の根は1の8乗根から$\pm1$を除いた相異なる6個。
$g(z)=f(wz)-w^6f(z)$と置くと
$$
\begin{aligned}
g(z)&=(w^4-w^6)z^4\\
&\quad +(w^2-w^6)z^2+1-w^6.
\end{aligned}
$$
これは4次以下であり、その6個の根を持つから恒等的に零。定数項と$z^2$の係数から$w^6=1,\ w^2=1$、よって$w=\pm1$。逆に$f$は偶関数なので両方とも条件を満たす。
入口は「全ての根」です。$f(wz)-w^6f(z)$は最高次項を消すために選びました。得られた式の次数上限より、相異なる根の数が多ければ恒等的に零です。これは因数定理を繰り返せば導け、一般の根の存在定理を用いていません。
一つの根を別の根へ送れる$w$を見つけても、それだけでは全根を保つことにはなりません。最後の十分性も全根について確認します。
判断|この章を終えるとき
全項・全要素という条件を、有限個の試算で置き換えない。帰納法または集合全体の比較まで示す。
基礎|この章の役割
前提 第3章の半角・ド・モアブル、第4章の根と係数。最後の節では数学IIIの実数の極限
習得目標 三角和は複素等比和、三角積は乗根の積、多倍角の値の和積は多項式の根として処理する
性質と導出
毎回、進む方向を$\theta$回転し、距離を$r$倍するなら、一回の変位が前回の
$$q=r(\cos\theta+i\sin\theta)$$
倍です。出発点を原点とし、最初の変位を$v$とすると、$N$回後の位置は
$$
\begin{gathered}
z_N=v(1+q+\cdots+q^{N-1})\\[3pt]
=\begin{cases}v(1-q^N)/(1-q)&q\ne1,\\Nv&q=1.\end{cases}
\end{gathered}
$$
出発点が$z_0$なら右辺へ$z_0$を加えます。位置そのものを$q$倍する漸化式と取り違えないでください。各項が「変位」だから和を取ります。
$|q|<1$なら$|q^N|=|q|^N\to0$なので、$z_N\to v/(1-q)$です。これは極限値との差の絶対値が$|v||q|^N/|1-q|$であり、実部・虚部それぞれの誤差もこの値以下になることから、高校の実数の極限で説明できます。
手順|C12 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 方向を一定角ずつ変える歩行、$\sum r^k\cos k\theta$や正弦和が現れる。
何を得るか 回転と倍率を一つの公比へまとめる。
操作と分岐 一回の変位を決めて複素等比和を作り、最後に実部・虚部を取る。$q=1$を分ける。無限和は有限和を作ってから$|q|<1$で余項を消す。
止まったとき・終了時 位置と変位、開始位置、初項と添字を点検する。公比の絶対値が1以上なら同じ無限和公式で結論しない。
問題|例題26
$$\sum_{k=0}^{\infty}\left(\frac12\right)^k\cos\frac{k\pi}{3}$$
を求めよ。
$q=(1+i\sqrt3)/4$と置くと$|q|=1/2$なので、求める和は
$$\operatorname{Re}\frac1{1-q}
=\operatorname{Re}\frac4{3-i\sqrt3}=1.$$
同じ角の正弦を虚部に補うと複素等比和になります。無限和の公式を使う前に$|q|<1$を確認し、有限和から余項を消しました。$|q|\geq1$へ同じ無限和を流用しません。初項が$k=1$なら、ここから最初の$1$を引く必要があります。
性質と導出
正整数$n$、$N=2n+1$に対して
$$
\begin{aligned}
\prod_{k=1}^{n}\sin\frac{k\pi}{N}&=\frac{\sqrt N}{2^n},\\
\prod_{k=1}^{n}\cos\frac{k\pi}{N}&=\frac1{2^n},\\
\prod_{k=1}^{n}\tan\frac{k\pi}{N}&=\sqrt N.
\end{aligned}
$$
覚えるだけでなく、入口を「等間隔の角の積」として、
4.3
の根の積へ戻せるようにします。
導出
$\zeta_k=\cos(2k\pi/N)+i\sin(2k\pi/N)$とすると、
$$N=\prod_{k=1}^{2n}|1-\zeta_k|
=\left(2^n\prod_{k=1}^{n}\sin\frac{k\pi}{N}\right)^2.$$
前半・後半の弦長が対になり、前半の正弦は全て正です。これで正弦積が得られます。
また、$k=1,\ldots,n$で$\sin(2k\pi/N)$を角$\pi-\theta$の正弦と同一視すると、$\sin(k\pi/N)$の$n$項を並べ替えたものになります。実際、整数$2k$と$N-2k$の小さい方は$1,\ldots,n$を重複なく動きます。小さい方が$2k$なら偶数、$N-2k$なら奇数です。同じ側では異なる$k$から同じ値は出ず、左右でも偶奇が異なるため重なりません。しかも各値は$1$以上$n$以下なので、ちょうど全ての整数を一巡します。したがって
$$
\begin{gathered}
\prod_{k=1}^{n}\sin\frac{k\pi}{N}=\prod_{k=1}^{n}\sin\frac{2k\pi}{N}\\[3pt]
=2^n\left(\prod_{k=1}^{n}\sin\frac{k\pi}{N}\right)\left(\prod_{k=1}^{n}\cos\frac{k\pi}{N}\right).
\end{gathered}
$$
正弦積は非零なので割れ、余弦積が得られます。正接積は両者の比です。
積から平方根を取るときの符号は、角が$(0,\pi/2)$にあることが決めています。角をずらした一般の積は
12.4
で扱います。
性質と導出
ここでは$\cot\theta=\cos\theta/\sin\theta\ (\sin\theta\ne0)$という略記を使います。
ド・モアブルの定理を二項展開し、実部・虚部を取ると
$$
\cos n\theta=
\sum_{j=0}^{[n/2]}(-1)^j{}_{n}C_{2j}
\cos^{n-2j}\theta\sin^{2j}\theta
$$
および、$n\geq1$で
$$
\begin{gathered}
\sin n\theta\\[3pt]
=\sum_{j=0}^{[(n-1)/2]}(-1)^j{}_{n}C_{2j+1}\cos^{n-2j-1}\theta\sin^{2j+1}\theta
\end{gathered}
$$
を得ます。$[x]$は$x$以下の最大の整数です。正弦側の上限を$[n/2]$にしてしまうと、偶数$n$で不要な負の指数が現れます。
例えば$n=3$から$\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$、$\sin3\theta=3\sin\theta-4\sin^3\theta$が得られます。
別の作り方として、
$$
\begin{gathered}
T_0(X)=1,\quad T_1(X)=X,\\[3pt]
T_{n+2}(X)=2XT_{n+1}(X)-T_n(X)
\end{gathered}
$$
と定めると、加法定理から$\cos n\theta=T_n(\cos\theta)$です。同じ漸化式で$U_0(X)=1,\ U_1(X)=2X$とすると
$$\sin((n+1)\theta)=U_n(\cos\theta)\sin\theta.$$
この書き方は、毎回二項展開する代わりに低い次数から多項式を作る方法です。$U_n$はこの節だけの多項式の記号であり、極形式の略号ではありません。
手順|C13 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 多倍角、等間隔の$\tan$・$\cot$の値の和積を問われる。
何を得るか 求める値を、有限次数の多項式の根にする。
操作と分岐 ド・モアブルを二項展開し、実部または虚部を使う。零にならない三角関数で割り、目的の値を変数にする。次数分の異なる根を確認して根と係数へ進む。
止まったとき・終了時 分母と角の区間、同じ値の重複、最高次係数を確認する。積だけなら乗根の積の方が短くないか比較する。
問題|例題27 等間隔の$\cot^2$の和と積
正整数$n$について、
$$\sum_{k=1}^n\cot^2\frac{k\pi}{2n+1},\qquad
\prod_{k=1}^n\cot^2\frac{k\pi}{2n+1}$$
を求めよ。
$\sin\theta\ne0$のもとで、多倍角公式を割って
$$
\begin{gathered}
\frac{\sin((2n+1)\theta)}{\sin^{2n+1}\theta}\\[3pt]
=\sum_{j=0}^n(-1)^j{}_{2n+1}C_{2j+1}(\cot^2\theta)^{n-j}
\end{gathered}
$$
を得る。右辺を$P_n(X)$とする。$\theta=k\pi/(2n+1),\ k=1,\ldots,n$では左辺が零で、角が$(0,\pi/2)$内を増えると$\cot^2\theta$は厳密に減る。よってこれらは$P_n$の相異なる$n$根。
最高次係数は$2n+1$、次の係数は$-{}_{2n+1}C_3$、定数項は$(-1)^n$なので、
$$
\begin{gathered}
\boxed{\sum_{k=1}^n\cot^2\frac{k\pi}{2n+1}=\frac{n(2n-1)}3},\\[3pt]
\boxed{\prod_{k=1}^n\cot^2\frac{k\pi}{2n+1}=\frac1{2n+1}}.
\end{gathered}
$$
入口は、等間隔の角が$\sin((2n+1)\theta)=0$を満たすことです。求める値を多項式の根として列挙し、次数分の相異なる根がそろったところで根と係数へ進みました。個々の$\cot$の値を求める必要はありません。
直接の加法定理や12.2の根の積が短い場合もあります。和が必要か積が必要か、どちらなら低次の多項式や等比式が作れるかで選びます。一次結合$a\sin\theta+b\cos\theta$を一つの三角関数へまとめる操作は「三角関数の合成」であり、加法定理そのものとは呼び分けます。
性質と導出
正整数$N$と実数$\theta$について、
$$\boxed{\prod_{k=0}^{N-1}\sin\left(\theta+\frac{k\pi}{N}\right)
=2^{1-N}\sin N\theta}.$$
全実数$\theta$で成立し、途中で正弦を分母にしていません。
導くには$q=\cos2\theta+i\sin2\theta$、$\zeta=\cos(2\pi/N)+i\sin(2\pi/N)$と置き、既知の全根の因数分解から
$$\prod_{k=0}^{N-1}(1-q\zeta^k)=1-q^N$$
を使います。各因子は
$$
\begin{gathered}
1-\cos2\alpha-i\sin2\alpha
\\[3pt]
=-2i\sin\alpha(\cos\alpha+i\sin\alpha)
\end{gathered}
$$
です。$\alpha=\theta+k\pi/N$について掛けると、角の和は$N\theta+(N-1)\pi/2$となります。
$$\begin{gathered}\prod_{k=0}^{N-1}(\cos\alpha+i\sin\alpha)\\[3pt]=i^{N-1}(\cos N\theta+i\sin N\theta).\end{gathered}$$
また$(-2i)^Ni^{N-1}=-2^Ni$なので、両辺の非零の共通因子を除けば上の正弦積を得ます。この導出には複素指数関数を使っていません。
$\theta$を$\theta+\pi/2$に変えれば余弦積です。特に$N=2n+1$なら、
$$
\begin{gathered}
\prod_{k=0}^{2n}\cos\left(\theta+\frac{k\pi}{2n+1}\right)\\[3pt]
=(-1)^n2^{-2n}\cos((2n+1)\theta),\\[3pt]
\prod_{k=0}^{2n}\tan\left(\theta+\frac{k\pi}{2n+1}\right)\\[3pt]
=(-1)^n\tan((2n+1)\theta).
\end{gathered}
$$
正接の式は、左辺の全ての余弦と右辺の余弦が非零の範囲で使います。
例えば$N=3,\ \theta=\pi/18$を代入すると
$$
\begin{gathered}
\tan\frac\pi{18}\tan\frac{7\pi}{18}\tan\frac{13\pi}{18}\\[3pt]
=-\tan\frac\pi6=-\frac1{\sqrt3}.
\end{gathered}
$$
角の一つが$(\pi/2,\pi)$にあることによる負号と、三倍角の値を別々に確認できます。
性質と導出
例題27の和$S_n=n(2n-1)/3$を使うと
$$\sum_{k=1}^{\infty}\frac1{k^2}=\frac{\pi^2}{6}$$
も高校の不等式と極限で導けます。これは通常の複素数問題の第一手ではありませんが、得た多項式の和の情報を別の問題へ使う例として収録します。
弧度法で$0<\theta<\pi/2$なら$\sin\theta\leq\theta\leq\tan\theta$です。例えば$\theta-\sin\theta$と$\tan\theta-\theta$の導関数が非負で、零から増えることによって示せます。したがって
$$\cot^2\theta\leq\frac1{\theta^2}\leq1+\cot^2\theta.$$
$\theta=k\pi/(2n+1)$として和を取ると
$$
\frac{\pi^2S_n}{(2n+1)^2}
\leq\sum_{k=1}^n\frac1{k^2}
\leq\frac{\pi^2(S_n+n)}{(2n+1)^2}.
$$
両端は$\pi^2/6$へ収束するので、部分和も同じ値へ収束します。無限和の値を前提にして$\cot$の式を導く循環はありません。
判断|この章を終えるとき
角の範囲・分母・積の符号を確定する。後半の極限は、本体の公式を使った発展例として読む。
基礎|この章の役割
前提 第5章の符号付き面積・回転、第4章の根の逆数和
習得目標 点の内部・外部や根の位置を、正の重み・共役積・角の和へ帰着する
性質と導出
非共線な三点$a,b,c$に対して
$$p=\frac{sa+tb+uc}{s+t+u},\qquad s,t,u>0$$
なら、$p$は三角形の内部です。$(tb+uc)/(t+u)$が辺$BC$の内部にあり、$p$はその点と$a$を結ぶ線分の内部にあるからです。逆に内部の点も、このような正の重みで表せます。非負の重みで和を正とすれば、辺や頂点を含む三角形全体になります。
負の重みを含む表示では、内部と決められません。係数の和を$1$に正規化した表示は非共線な三点について一意なので、例えば$p=a+b-c$は内部には入りません。
外部まで同じ式で扱うには、
5.4
の符号付き面積を用います。
$$
\begin{gathered}
[PBC]+[PCA]+[PAB]=[ABC],\\[3pt]
\boxed{p=\frac{[PBC]a+[PCA]b+[PAB]c}{[ABC]}}.
\end{gathered}
$$
いずれも各面積の虚部表示を展開して確認できます。分母は非零です。$P$が内部なら三つの面積は$[ABC]$と同符号、辺・頂点上なら一つ以上が零で、残りは同符号、外部なら逆符号のものが現れます。通常の非負の面積だけでは、外部についてこの重み公式をそのまま使えません。
手順|C42 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 点の内部・外部、実数の重み、辺の外側に作る図形が現れる。
何を得るか 位置を重みの符号、または符号付き面積として読む。
操作と分岐 重みの和を1にそろえ、全て正なら内部、非負なら境界込み。負が現れるときは三つの符号付き面積を基準三角形の符号と比較する。外側の回転は辺の左右から符号を選ぶ。
止まったとき・終了時 非共線が前提。辺上は一つ以上の重みが零、頂点では二つが零となる。非負の面積だけを外部の重み公式に代入しない。
問題|例題28 外側の正三角形で回転の符号を決める
非退化な三角形$ABC$の辺$AB,AC$の外側に正三角形$ABD,ACE$を作る。$M$を$DE$の中点、$N$を$A$と$BC$の中点の中点とする。$MN\perp BC$を示せ。
$A$を原点とし、必要なら図を反射して$\operatorname{Im}(\overline b c)>0$とする。外側指定から
$$
\begin{gathered}
d=\left(\frac12-\frac{\sqrt3}{2}i\right)b,\\[3pt]
e=\left(\frac12+\frac{\sqrt3}{2}i\right)c.
\end{gathered}
$$
したがって
$$
m-n=\frac{d+e}{2}-\frac{b+c}{4}
=\frac{\sqrt3i}{4}(c-b).
$$
$c-b\ne0$なので$(m-n)/(c-b)$は非零の純虚数。よって$MN\perp BC$。
$C$は有向辺$AB$の左側にあるので$D$は右側、$B$は有向辺$AC$の右側にあるので$E$は左側です。これが二つの回転の符号を決めています。その後は中点の平均、最後に垂直の商へ進みました。外側という図形条件も、最初に符号付き面積で読み取れる条件です。
性質と導出
$p(z)=(z-a)(z-b)(z-c)$とし、三根は相異なり非共線とします。$p'$は
4.4
で定めた二次多項式です。$p'(z)=0$を満たす$z$は、$a,b,c$の三角形の内部にあります。
まず$p'(a)=(a-b)(a-c)\ne0$で、他の根も同様なので、ここで$p(z)\ne0$です。
4.4
の式から
$$\frac1{z-a}+\frac1{z-b}+\frac1{z-c}=0.$$
逆数を共役で表して式の共役を取ると、
$$
\frac{z-a}{|z-a|^2}+\frac{z-b}{|z-b|^2}
+\frac{z-c}{|z-c|^2}=0.
$$
従って
$$
z=
\frac{a/|z-a|^2+b/|z-b|^2+c/|z-c|^2}
{1/|z-a|^2+1/|z-b|^2+1/|z-c|^2}.
$$
三つの重みが有限で正なので、
13.1
の内部判定で終了します。
例えば$p(z)=z^3-1$なら$p'(z)=3z^2$の根は零で、1の3乗根の正三角形の内部にあります。重根や共線の三根では上の前提が変わるため、「三角形内部」という結論をそのまま使いません。
入口は$p'$の根の位置という要求、最初の操作は積から逆数和を作ることです。実部・虚部で二次方程式を全部解くより、位置の情報だけを短く取り出せます。
手順|C43 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 三つの非共線な根と、三次多項式の導関数の根の位置を問われる。
何を得るか 根を全部解かず、位置を正の重みの平均として表す。
操作と分岐 単純根なので$p'(z)=0$の点では$p(z)\ne0$と示す。$p'/p$の逆数和を使い、共役を取って$1/|z-a|^2$などを重みにする。
止まったとき・終了時 重みが正で有限なことを確認し、内部判定を適用する。重根・共線を含む設定へ内部という結論をそのまま拡張しない。
性質と導出
三角形の内接円半径を$r>0$、三頂点から接点までの接線長を$x,y,z>0$とします。各頂点の半角を$A/2,B/2,C/2$とすると、内心・接点・頂点の直角三角形から
$$
\begin{gathered}
\arg(x+ri)=A/2,\quad\arg(y+ri)=B/2,\\[3pt]
\arg(z+ri)=C/2.
\end{gathered}
$$
三つの角の和が$\pi/2$なので、積$(x+ri)(y+ri)(z+ri)$の実部は零です。
$$
\begin{gathered}
xyz-r^2(x+y+z)=0,\\[3pt]
r^2=\frac{xyz}{x+y+z}.
\end{gathered}
$$
半周長$s=x+y+z$、面積$S=rs$より、
$$
\begin{gathered}
S=\sqrt{xyz(x+y+z)}\\[3pt]
=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}.
\end{gathered}
$$
ここで辺長は$a=y+z,\ b=z+x,\ c=x+y$です。全て正なので、平方根の符号まで確定します。ヘロンの公式を得ました。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (0,0)*{\bullet}="A",(4,0)*{\bullet}="T",(4,2)*{\bullet}="J", "A";"T" **\dir{-},"T";"J" **\dir{-},"J";"A" **\dir{-}, (3.7,0);(3.7,0.3) **\dir{-}, (3.7,0.3);(4,0.3) **\dir{-}, (-0.4,-0.35)*{A},(4.35,-0.35)*{T},(4.4,2.4)*{J}, (2,-0.45)*{\color{#1d4ed8}x},(4.45,1)*{\color{#7e22ce}r},(2,0.45)*{A/2} \end{xy}}$
図6 頂点・接点・内心の直角三角形で、半角は複素数x+riの偏角になります
手順|C45 適用条件と実行の要点
どの条件で使うか 内接円、接点までの長さ、三角形の半角の和が現れる。
何を得るか 正の長さから偏角を確定し、角の和を積の実部・虚部へ移す。
操作と分岐 接線長$x$と半径$r$で$x+ri$を作り、偏角を半角にする。三因子の角の和が$\pi/2$なら実部零、$\pi$なら虚部零を使って展開する。
止まったとき・終了時 象限と長さの正値、割る正弦・余弦の非零を確かめる。逆に実部・虚部零だけから角の和を一意に決めない。
高校数学からの導出
四点$A,B,C,D$の距離の積が三通り現れるときは、二つの差の積へ戻します。対応する複素数を$a,b,c,d$とすると、展開により
$$
\begin{aligned}
(a-c)(b-d)&=(a-b)(c-d)\\
&\quad +(a-d)(b-c)
\end{aligned}
$$
です。三角不等式を使えば、任意の四点について
$$AC\cdot BD\leq AB\cdot CD+AD\cdot BC$$
が得られます。
公式|円周上の順序が指定されたときの等号
相異なる四点$A,B,C,D$がこの順で同一円周上にあるとき、
$$AC\cdot BD=AB\cdot CD+AD\cdot BC$$
が成立する。これはトレミーの定理である。順序を変えると、どの二距離が対角線となるかも変わる。
解法の選択理由
判断|この章を終えるとき
高度な結論にも、前提の相異性・非共線・長さの正値と高校範囲の導出を付ける。
基礎|この章の役割
前提 第1〜11章。角の三倍角・三角和積は第12章
習得目標 必要な情報を取り出し、結果を実数条件・図形・存在条件として読み直す。新しい操作が本文に準備されているかを確かめる
問題
$z\ne0$について、$z+4/z$が実数で
$$2\leq z+\frac4z\leq5$$
となる点$z$の全体を求めよ。
$z=x+iy,\ r^2=x^2+y^2>0$とすると
$$z+\frac4z=x\left(1+\frac4{r^2}\right)
+iy\left(1-\frac4{r^2}\right).$$
実数である条件は$y=0$または$r=2$である。
$y=0$では$x\ne0$で、$x<0$なら$x+4/x<0$となり不適。$x>0$なら$x+4/x\geq4$なので、残る条件は
$$
\begin{aligned}
x+\frac4x\leq5&\iff x^2-5x+4\leq0\\
&\iff1\leq x\leq4.
\end{aligned}
$$
$r=2$では$4/z=\overline z$より式の値は$2x$である。従って$1\leq x\leq5/2$だが、円上で$x\leq2$なので条件は$x\geq1$となる。
逆に、以上の線分・円弧上の点はいずれも元の二つの不等式を満たす。求める集合は
$$
\begin{gathered}
\{x\in\mathbb R:1\leq x\leq4\}\\[3pt]
\cup\ \{z:|z|=2,\ \operatorname{Re}z\geq1\}.
\end{gathered}
$$
不等式を見て、まず比較される式が実数であることを処理します。虚部を零にした結果が積になったので、二つの枝を同じ重さで残します。
実軸側では分母$x$の符号、円側では$\overline z=4/z$が新しい入口です。円弧を得たところで線分を捨てたり、実数側で初めから$x>0$と置いたりしないことが再現性を支えます。
判断|途中結果を読む練習|実数性と大小を分ける
虚部零から二枝を得る → 各枝で実数の不等式 → 端点を含むか元式で確認する。
復習する節:2.1 実数性・純虚数性と、大小条件の前処理、3.5 相反方程式と、実数性だけを求める場合
問題
整数$n\geq2$に対し
$$z^n=(z-i)^n$$
を考える。解が表す点はどの直線上にあるか。また、単位円上の解を持つ$n$を全て求め、その解を示せ。
出典:旭川医科大学
$z=0,i$はいずれも解でない。絶対値を取ると$|z|=|z-i|$なので、全ての解は
$$\operatorname{Im}z=\frac12$$
上にある。単位円との交点は
$$z_+=\frac{\sqrt3}{2}+\frac i2,\qquad
z_-=-\frac{\sqrt3}{2}+\frac i2.$$
これらについて
$$
\begin{gathered}
\frac{z_+}{z_+-i}=\cos\frac\pi3+i\sin\frac\pi3,\\[3pt]
\frac{z_-}{z_--i}=\cos\frac\pi3-i\sin\frac\pi3.
\end{gathered}
$$
従って各点が元の式を満たすことと、$n\pi/3$が$2\pi$の整数倍であることは同値。求める$n$は
$$\boxed{n=6m\quad(m=1,2,\ldots)}$$
であり、この場合の単位円上の解は$z_+,z_-$の両方である。
両辺が同じ次数の累乗なので、絶対値から位置を、商から角を取り出します。単位円条件が加わった時点で、先に直線との交点を二点に絞ると計算が短くなります。
全解まで要求されたなら$q=z/(z-i)$と置き、$q^n=1,\ q\ne1$から
$$
\begin{gathered}
q=\cos\frac{2k\pi}n+i\sin\frac{2k\pi}n,\\[3pt]
z=\frac{iq}{q-1}\quad(k=1,\ldots,n-1)
\end{gathered}
$$
とします。$q=1$は元像を持たず、他の$n-1$点は全て元の式を満たします。要求に応じて、候補を絞る方法と全根を作る方法を選べます。
判断|途中結果を読む練習|等しい累乗が距離と角を同時に含む
絶対値で等距離 → 原式の商で乗根 → 単位円との共通点 → 整数指数。
復習する節:3.3 全ての乗根と、指定半直線の逆像、7.1 等距離・距離比の境界を作る
問題
次の二問を解け。
(1)$x^4-2x^3+3x^2-2x+1=0$を複素数の範囲で解け
(2)非退化な三角形$ABC$の頂点を$a,b,c$とする
$$(a-b)^4+(b-c)^4+(c-a)^4=0$$
ならば、この三角形の形を決定せよ
出典:九州大学
(1)$x=0$は解でないので$x^2$で割り、$t=x+1/x$と置くと
$$
\begin{gathered}
x^2+\frac1{x^2}-2\left(x+\frac1x\right)+3\\[3pt]
=t^2-2t+1=0.
\end{gathered}
$$
従って$t=1$であり、
$$\boxed{x=\frac{1+i\sqrt3}{2},\ \frac{1-i\sqrt3}{2}}.$$
元の多項式は$(x^2-x+1)^2$なので、どちらも二重根である。
(2)$u=b-a\ne0,\ t=(c-a)/(b-a)$とすると、条件は
$$1+(1-t)^4+t^4
=2(t^2-t+1)^2=0.$$
従って$t=(1\pm i\sqrt3)/2$で、$|t|=|t-1|=1$。よって
$$|c-a|=|b-a|=|c-b|$$
となり、三角形は正三角形である。逆に正三角形なら$t$は上のいずれかで、元の条件も成立する。
(1)の入口は係数の左右対称です。(2)の入口は頂点そのものではなく「差」だけで書かれた同次数の式です。
差を一辺で割れば、平行移動・回転・拡大縮小に依存しない式になります。得られた式を展開すると(1)と同じ相反式が現れますが、その対応を事前に暗記する必要はありません。四次式の係数を読めば、3.5の入口に再び入れます。
判断|途中結果を読む練習|逆数対と同次式を低次化する
相反四次を一変数へ → 三点の差の比を作る → 非共線と回転角から形状。
復習する節:3.5 相反方程式と、実数性だけを求める場合、5.6 同次な形状条件を、辺比の方程式へ直す
問題
実数でない複素数$\alpha$と、$1,-1$を通る円を$C$とする。$-1/\overline\alpha$も$C$上にあることを示せ。
出典:京都大学
$1,-1$の垂直二等分線は虚軸なので、円の中心を$it\ (t\in\mathbb R)$と書ける。半径の二乗は$1+t^2$であり、円の方程式は
$$|z|^2-2t\operatorname{Im}z-1=0.$$
$r^2=|\alpha|^2>0,\ y=\operatorname{Im}\alpha\ne0$とすると、$\alpha$が円上にあることから
$$r^2-2ty-1=0.$$
$\beta=-1/\overline\alpha=-\alpha/r^2$について
$$|\beta|^2-2t\operatorname{Im}\beta-1
=\frac{1+2ty-r^2}{r^2}=0.$$
従って$\beta$も$C$上にある。
三点が与えられ、未知の点の円上性を示す問題です。円周角の商を作る方法もありますが、既知の二点$1,-1$から中心が直ちに虚軸に制限されるので、一般式が短くなります。
$-1/\overline\alpha$を見たら、絶対値と虚部がそれぞれ$1/r$と$-y/r^2$になることを使います。円の式へ代入すると、既知の$\alpha$の式がそのまま残ります。
問題
$1,z,z^2$が非退化な鋭角三角形の頂点となる$z$の範囲を求めよ。
出典:東京大学
$z=x+iy,\ u=z-1$とする。頂点$1,z,z^2$における二辺の内積は、それぞれ
$$
\begin{aligned}
\operatorname{Re}\{\overline u(z^2-1)\}
&=|u|^2(x+1),\\
\operatorname{Re}\{\overline{(1-z)}(z^2-z)\}
&=-|u|^2x,\\
\operatorname{Re}\{\overline{(1-z^2)}(z-z^2)\}
&=|u|^2(|z|^2+x).
\end{aligned}
$$
非退化な鋭角三角形なら三つが正なので、
$$-1< x<0,\qquad x^2+y^2+x>0$$
が必要である。
逆にこの二条件を満たすとき、$y=0$なら$x^2+x<0$となり矛盾するので$y\ne0$。また
$$\operatorname{Im}\{\overline{(z-1)}(z^2-1)\}
=|z-1|^2y\ne0$$
より三点は非共線である。上の三つの内積は全て正となるので十分でもある。求める範囲は
$$\boxed{-1<\operatorname{Re}z<0,\qquad |z+1/2|>1/2}.$$
全ての境界は含まない。
「鋭角三角形」は三つの角の条件です。一つの角が鋭角であることだけから結論しません。各頂点から出る二辺を作り、5.4の実部による判定を三回使います。
不等式を得た後は、円の外側と帯の共通部分として読みます。さらに逆方向で三角形が退化しないことを確認しました。この確認があるため、実部の不等式だけで図形の前提を置き忘れずに済みます。
判断|途中結果を読む練習|鋭角は各頂点の実部が正という条件
共線を先に除外 → 三つの共役積 → 実部を因数分解して領域の共通部分。
復習する節:5.4 共線・垂直・面積を共役積で一緒に読む、7.2 絶対値不等式の側と境界を決める
問題
(1)$|\alpha|=1,\ |\alpha+\overline\alpha|=|\alpha-\overline\alpha|$で、$\alpha$の偏角が$\pi/2$より大きく$\pi$より小さいとき、$\alpha$を求めよ
(2)$\beta^3=1,\ \operatorname{Im}\beta>0$とする。$z$が$|z|=1,\ z\ne\beta$を動き、
$$w(z-\beta)=1$$
を満たす$w$の軌跡を求めよ
出典:北海道大学
(1)$\alpha=x+iy$とすると$x^2+y^2=1,\ |x|=|y|$。指定された偏角から$x<0,\ y>0$なので、
$$\boxed{\alpha=\frac{-1+i}{\sqrt2}}.$$
(2)$\beta=(-1+i\sqrt3)/2$。$w\ne0$で、$z=\beta+1/w$なので、$|z|=1$は
$$|\beta w+1|^2=|w|^2
\iff2\operatorname{Re}(\beta w)+1=0.$$
$w=x+iy$とすると、求める候補は$x+\sqrt3y=1$。
逆にこの直線上の$w$は零でなく、$z=\beta+1/w$を定めれば$|z|=1$かつ$z\ne\beta$である。従って軌跡は
$$\boxed{x+\sqrt3y=1\quad(x,y\in\mathbb R)}$$
全体である。
(1)は実部・虚部と角の象限、(2)は1の3乗根と逆変換です。元の除外点$\beta$は写像の極なので、有限の像に穴を作る点ではありません。
穴の有無は、元の図形の欠けた点の数から決めず、候補の各点に元像があるかで決めます。直線全体について逆変換が定義できることが結論を支えています。
判断|途中結果を読む練習|単位円条件から逆式の直線条件を出す
共役と絶対値で数を確定 → 逆式を単位円へ → 任意の直線上の点から元像を作る。
復習する節:2.1 実数性・純虚数性と、大小条件の前処理、8.3 一次分数変換の退化・極・逆式
問題
$\alpha$は$1-i$と$1+i$を結ぶ線分を、$\beta$は単位円を独立に動く。
(1)$\alpha+\beta$の存在範囲とその面積
(2)$\alpha\beta$の存在範囲とその面積
(3)$\alpha^2$の軌跡、およびこの軌跡と虚軸が囲む部分の面積
を求めよ。
出典:東京大学
$\alpha=1+it,\ -1\leq t\leq1$と書く。
(1)$\alpha+\beta=x+iy$とすると、$x=1+\operatorname{Re}\beta$より$0\leq x\leq2$。$s=\sqrt{1-(x-1)^2}$と置くと$\operatorname{Im}\beta=\pm s$なので、
$$y\in[-1-s,1-s]\ \cup\ [-1+s,1+s].$$
$0\leq s\leq1$より二つの区間は重なるか接し、その和集合は$[-1-s,1+s]$である。逆にこの区間内の$y$は上のどちらかに属するため、対応する$t,\beta$が存在する。
従って範囲は
$$\boxed{0\leq x\leq2,\qquad |y|\leq1+\sqrt{1-(x-1)^2}}.$$
これは幅$2$、高さ$2$の長方形の上下に半径$1$の半円を付けた形で、面積は
$$\boxed{4+\pi}.$$
(2)$|\alpha|=\sqrt{1+t^2}$は$[1,\sqrt2]$を全て動く。各$t$について$\beta$が単位円全体を動くので、積は全ての方向を取る。よって範囲は
$$\boxed{1\leq|w|\leq\sqrt2},\qquad \text{面積は }\boxed{\pi}.$$
逆に任意のこの範囲の$w$に対し、$\sqrt{1+t^2}=|w|$となる$t\in[-1,1]$を選び、$\beta=w/(1+it)$とすれば元の条件を満たす。
(3)$\alpha^2=1-t^2+2it=x+iy$より
$$\boxed{x=1-\frac{y^2}{4},\qquad -2\leq y\leq2}.$$
逆に$y$がこの区間内なら$t=y/2$で実現する。囲む面積は
$$\int_{-2}^2\left(1-\frac{y^2}{4}\right)\,dy
=\boxed{\frac83}.$$
和では一方を固定して平行移動し、実部を固定して縦の区間を埋めました。積では絶対値と偏角へ、平方では実部・虚部の媒介表示へ進みます。
(1)で外周だけを描いて内部も全て取れると決めることはできません。二つの縦区間が重なることが、内部に穴がない証明です。(2)でも絶対値の範囲だけでなく「その絶対値で全方向を取れる」ことを別に使っています。
判断|途中結果を読む練習|独立な二点から、設問ごとに必要な情報を変える
和は平行移動した円周の和集合、積は半径、二乗は元の実パラメータ → それぞれ全候補を実現する。
復習する節:10.1 二動点の和・積と、相異性の保持、8.5 二乗写像では、始域の実パラメータを残す
問題
$f(z)=z^2+\alpha z+\beta$で、
$$|f(1)-3|\leq1,\qquad |f(i)-1|\leq3$$
とする。
(1)$f(1+i)$の存在範囲を求めよ
(2)$f(1+i)=0$のときの$\alpha,\beta$の値を求めよ
出典:大阪大学
(1)$u=f(1)-3,\ v=f(i)-1$と置くと
$$u=-2+\alpha+\beta,\qquad v=-2+i\alpha+\beta.$$
この一次連立方程式は任意の$u,v$について一意に解け、
$$\alpha=\frac{v-u}{i-1},\qquad \beta=u+2-\alpha.$$
従って$u,v$はそれぞれ$|u|\leq1,\ |v|\leq3$を独立に動く。また代入整理により
$$f(1+i)=2+2i+\frac{1+i}{2}u+\frac{1-i}{2}v.$$
後ろの二項は、中心$0$、半径$1/\sqrt2$と$3/\sqrt2$の閉円板を独立に動く。その和は半径$2\sqrt2$の閉円板全体である。
実際、$|\eta|\leq2\sqrt2$に対し
$$\frac{1+i}{2}u=\frac{\eta}{4},\qquad
\frac{1-i}{2}v=\frac{3\eta}{4}$$
と選べば各制約を満たし、和が$\eta$となる。よって
$$\boxed{|f(1+i)-(2+2i)|\leq2\sqrt2}.$$
(2)$f(1+i)=0$なら
$$\frac{1+i}{2}u+\frac{1-i}{2}v=-2-2i.$$
左辺の絶対値は
$$
\left|\frac{1+i}{2}u+\frac{1-i}{2}v\right|
\leq\frac{|u|+|v|}{\sqrt2}
\leq2\sqrt2
$$
で、右辺の絶対値が$2\sqrt2$なので、二つの不等式で等号が必要である。
従って$|u|=1,\ |v|=3$で、左辺の二項はともに$-2-2i$と同方向。各項の長さから
$$
\begin{gathered}
\frac{1+i}{2}u=-\frac{1+i}{2},\\[3pt]
\frac{1-i}{2}v=-\frac{3(1+i)}2
\end{gathered}
$$
となり、$u=-1,\ v=-3i$。よって
$$\boxed{\alpha=-2+i,\qquad\beta=3-i}.$$
この組では$f(1)=2,\ f(i)=1-3i,\ f(1+i)=0$となり、元の全条件を満たす。
制約に$f(1),f(i)$が現れたので、その値を新しい変数にします。ただし、二つの値を「自由に動く」と言う前に、係数へ戻す連立方程式が常に解けることを確認します。
(1)で得た一次結合は円板の和の入口です。(2)では零がその円板の境界点なので、三角不等式の全ての等号が必要になります。一般の内部点なら、同じように各項の長さを最大にしてよいわけではありません。目標点が境界か内部かを、中心からの距離で先に判断します。
判断|途中結果を読む練習|制約されている関数値そのものを変数にする
二つの値を置く → 逆連立で独立性 → 円板和 → 境界の等号条件で元係数を復元。
復習する節:10.2 制約式を変数に置き、逆連立で独立性を示す
$f(1+i)=0$から$\beta=-2i-(1+i)\alpha$を得て代入すると、制約は
$$|\alpha+2-2i|\leq1,\qquad|\alpha+2+2i|\leq3.$$
二中心の距離は$4$で半径の和に等しく、二円板の共通部分は外接点一つである。半径$1$の中心$-2+2i$から他方へ距離$1$進んだ点は$\alpha=-2+i$で、$\beta=3-i$を得る。
こちらは、零条件を代入した後に距離比・円板の位置関係を読む解法です。どちらも、目標条件から得た二円板の境界の情報を使っています。
問題
$a,b$が実数で$|a|\leq1,\ |b|\leq1$を満たすとき、
$$z^2+az+b=0$$
の解$z$の存在範囲を求めよ。
出典:東京工業大学
$z=x+iy$とする。$y\ne0$では虚部から$a=-2x$、実部から$b=x^2+y^2$。従って必要十分条件は
$$|x|\leq\frac12,\qquad x^2+y^2\leq1,\qquad y\ne0.$$
実際、この範囲の$z$なら$a=-2x,\ b=|z|^2$が元の係数条件を満たす。
$y=0$では$x^2+ax+b=0$。$ax+b$の範囲は閉区間$[-|x|-1,|x|+1]$なので、
$$x^2\leq|x|+1
\iff |x|\leq\frac{1+\sqrt5}{2}$$
が必要十分である。
具体的には$|x|\leq1$なら$a=-x,\ b=0$、$1<|x|\leq(1+\sqrt5)/2$なら
$$a=\begin{cases}-1&(x>0),\\1&(x<0),\end{cases}
\qquad b=-x^2+|x|$$
と選べば、係数条件と方程式が成立する。
従って求める範囲は
$$
\begin{gathered}
\left\{x\in\mathbb R:|x|\leq\frac{1+\sqrt5}{2}\right\}\\[3pt]
\cup\ \{z:|z|\leq1,\ |\operatorname{Re}z|\leq1/2\}.
\end{gathered}
$$
表示した境界は全て含む。
実係数の方程式では非実根の共役も根になります。そのため非実根側では$a=-(z+\overline z),\ b=z\overline z$と一意に決まります。
実根では共役を使っても同じ根を繰り返すだけで、係数は一意に決まりません。そこで実数区間の存在問題に分けます。虚部の式$y(2x+a)=0$を見て$2x+a=0$だけを残すと、実軸上の長い線分が失われます。
判断|途中結果を読む練習|根を先に固定して、許される係数を調べる
実根・非実根へ → 共役根または実一次式 → 係数の区間条件 → 実現する係数を構成。
復習する節:10.4 根を固定して、許される係数を逆算する
問題
相異なる非零の複素数$\alpha,\beta$が表す点を$P,Q$とし、原点から直線$PQ$に下ろした垂線の足を$W$、その複素数を$w$とする。
$$w=\alpha\beta$$
であるための必要十分条件は、$\alpha,\beta$がともに中心$1/2$、半径$1/2$の円周上にあることであると示せ。
出典:東京大学
まず$w=\alpha\beta$なら$w\ne0$。$W=P$または$W=Q$の場合も含め、垂直条件から
$$\operatorname{Re}\frac{\alpha-w}{w}
=\operatorname{Re}\frac{\beta-w}{w}=0.$$
ここへ$w=\alpha\beta$を入れると
$$\operatorname{Re}\frac1\alpha
=\operatorname{Re}\frac1\beta=1.$$
非零の$z$について、この条件は$|z-1/2|=1/2$と同値なので必要性が示された。
逆に$\alpha,\beta$がこの円周上にあるとする。$v=\alpha\beta\ne0$と置けば
$$
\begin{gathered}
\operatorname{Re}\frac{\alpha-v}{v}
=\operatorname{Re}\frac1\beta-1=0,\\[3pt]
\operatorname{Re}\frac{\beta-v}{v}
=\operatorname{Re}\frac1\alpha-1=0.
\end{gathered}
$$
従って$\alpha,\beta$はともに直線
$$\{v+itv:t\in\mathbb R\}$$
上にある。二点は相異なるのでこれが直線$PQ$であり、$v$を通り$Ov$に垂直な直線である。よって原点からの垂線の足は$v$で、$w=\alpha\beta$。
足という条件から「足から二点への方向は、原点から足への方向と垂直」を式にします。ここでは足と端点が一致する場合もあるため、商が零でもよい実部零の式を使いました。「非零の純虚数」と指定すると正しい場合を捨ててしまいます。
積$w=\alpha\beta$を代入した結果が逆数の実部$1$となり、総合問題13の入口と同じになります。二つの問題の接続を暗記するのでなく、得られた式$\operatorname{Re}(1/z)=1$を読めば円へ戻れます。
判断|途中結果を読む練習|垂線の足の条件は、零を許す実部零
垂直を商にする → 実部条件を円へ → 候補から元の直線を構成。
復習する節:6.2 反射・垂線の足・点と直線の距離、6.1 直線の二つの表示と、円の一般式
問題
$a_1=1,\ a_2=i,\ a_{n+2}=a_{n+1}+a_n$とする。全ての$a_n$が非零であり、
$$b_n=\frac{a_{n+1}}{a_n}$$
がある一つの円周上にあることを示して、その円を求めよ。
出典:東京大学
円$C$を
$$|z|^2-\operatorname{Re}z-1=0
\iff\left|z-\frac12\right|=\frac{\sqrt5}{2}$$
とする。$0$は$C$上にない。
$G(z)=|z|^2-\operatorname{Re}z-1$と置くと、$z\ne0$で
$$G\left(1+\frac1z\right)=-\frac{G(z)}{|z|^2}.$$
従って$z\in C$なら$1+1/z$も$C$上にあり、非零である。
$a_1,a_2$は非零で$b_1=i\in C$。$a_n,a_{n+1}\ne0,\ b_n\in C$と仮定すると、
$$
\begin{gathered}
a_{n+2}=a_{n+1}\left(1+\frac1{b_n}\right)\ne0,\\[3pt]
b_{n+1}=1+\frac1{b_n}\in C.
\end{gathered}
$$
よって帰納法で全ての$a_n$は非零、全ての$b_n$は$C$上にある。
比を取ると一次分数漸化式になることが最初の入口です。次に円をどのように見つけるかは11.1の二通りがあります。
まず$b_1=i,\ b_2=1-i,\ b_3=(3+i)/2$を計算して三点を通る円を求める方法があります。より式から探すなら
$$
\begin{gathered}
H(z)=A|z|^2+B\operatorname{Re}z+C\\[3pt]
(A,B,C\in\mathbb R)
\end{gathered}
$$
を候補とし、$H(1+1/z)|z|^2$の三係数を$H(z)$と比較します。
$$
\begin{aligned}
H\left(1+\frac1z\right)|z|^2\\
&=(A+B+C)|z|^2\\
&\quad+(2A+B)\operatorname{Re}z+A.
\end{aligned}
$$
$A=1,\ B=C=-1$なら右辺が$-H(z)$となります。初期値もこの円上なので採用できます。
一般項は要求されていません。円の保存式が得られた時点で、一般項を求める処理へ進む必要はありません。ただし、比を定義するための非零性は同じ帰納法の中に含めます。
問題
$z+\overline z=0$、$-1\leq a\leq1,\ a\in\mathbb R$のとき、
$$w=a\frac{-\sqrt2\,iz+1+i}{\sqrt2\,z-1-i}$$
の存在範囲を求めよ。
$z=it/\sqrt2\ (t\in\mathbb R)$と置き、分数部分を$q$とする。分母は零にならず、
$$q=\frac{-2-it^2}{t^2-2t+2}.$$
整理すると$|q+1+i|=1$で、$q\ne-i$である。逆にこの円上の$q\ne-i$に対し
$$z=\frac{(1+i)(q+1)}{\sqrt2(q+i)}$$
と置けば$z+\overline z=0$を満たすので、$q$の範囲は円$|q+1+i|=1$から$-i$を除いたもの全体である。
$a=0$なら$w=0$。$a\ne0$なら$w=u+iv$が取り得るための条件は
$$|w+a(1+i)|=|a|,\qquad w\ne-ai.$$
前者を$a$の二次方程式にすると
$$a^2+2(u+v)a+u^2+v^2=0.$$
実数解を持つことと$uv\geq0$は同値であり、根は
$$a=-(u+v)\pm\sqrt{2uv}.$$
$w\ne0$で$uv\geq0$なら、$|u+v|\geq\sqrt{2uv}$で、二根の絶対値の小さい方は
$$|u+v|-\sqrt{2uv}.$$
従って$[-1,1]$内に根を持つ条件は、この値が$1$以下であること。
ただし$u=0,\ v\ne0$では二次式が$(a+v)^2=0$となり、唯一の根$a=-v$に対して$w=-ai$となるため、元像を持たない。
逆に$u\ne0,\ uv\geq0,\ |u+v|-\sqrt{2uv}\leq1$なら、小さい絶対値の根$a$は非零で$[-1,1]$内にあり、$w\ne-ai$でもある。$q=w/a$と上の逆変換から元像が得られる。
よって求める範囲は
$$
\begin{gathered}
\{0\}\ \cup\\[3pt]
\left\{u+iv:\begin{array}{l}u\ne0,\ uv\geq0,\\|u+v|-\sqrt{2uv}\leq1\end{array}\right\}.
\end{gathered}
$$
最初の条件は実部が零なので実数一文字へ、一次分数式は逆変換へ、実数パラメータの範囲は区間内の二次方程式へ進みます。
判別式$8uv\geq0$は実数根の存在しか保証せず、$[-1,1]$内にあるかは別問題です。さらに各円の除外点$-ai$を忘れると、虚軸の余分な点を全て含めてしまいます。
除外点がある像を動かすときも、新しく得た元像の条件を読めば同じ10.3の手順を使えます。
判断|途中結果を読む練習|除外点がある像を、さらに実数倍する
実部零を一変数化 → 分数の逆像 → パラメータ区間内の根 → 除外点の元像を点検。
復習する節:8.3 一次分数変換の退化・極・逆式、10.3 動く図形族を、区間内パラメータの存在へ
用語|補集合
ある全体集合の中で、集合に属さない要素をすべて集めた集合を、その集合の補集合と呼びます。この問題では複素数平面全体を基準に、求めた存在範囲に入らない点を考えます。境界をどちらに含めるかも元の不等号で決まります。
問題
$D$を、中心$1/2$、半径$1/2$の円周から原点を除いた集合とする。
(1)$z\in D$なら$\operatorname{Re}(1/z)=1$であることを示せ
(2)相異なる$\alpha,\beta\in D$について、$1/\alpha^2+1/\beta^2$の存在範囲$E$を求めよ
(3)$\gamma\notin E$のとき、$\operatorname{Re}(1/\gamma)$の最大値・最小値を求めよ
出典:東京大学
(1)$|z-1/2|^2=1/4$は$|z|^2=\operatorname{Re}z$と同値なので、
$$\operatorname{Re}\frac1z
=\frac{\operatorname{Re}z}{|z|^2}=1.$$
逆に任意の$s\in\mathbb R$について$z=1/(1+is)$は$D$に属する。
(2)従って
$$
\begin{gathered}
\frac1\alpha=1+is,\qquad\frac1\beta=1+it\\[3pt]
(s,t\in\mathbb R,\ s\ne t)
\end{gathered}
$$
と書ける。$w=x+iy=1/\alpha^2+1/\beta^2$とし、$u=s+t,\ v=s-t\ne0$と置くと
$$w=2-\frac{u^2+v^2}{2}+2iu.$$
従って$y=2u$、$v^2>0$から
$$x<2-\frac{y^2}{8}.$$
逆にこの不等式を満たす$x,y$に対し
$$
\begin{gathered}
u=\frac y2,\quad v=\sqrt{4-2x-\frac{y^2}{4}}>0,\\[3pt]
s=\frac{u+v}{2},\quad t=\frac{u-v}{2}
\end{gathered}
$$
と置けば、上の$\alpha,\beta$が条件を満たして$w=x+iy$を実現する。よって
$$\boxed{E=\{x+iy:x<2-y^2/8\}}.$$
(3)$\gamma=x+iy\notin E$である条件は
$$y^2+8x-16\geq0.$$
この範囲に原点は含まれない。$R=x^2+y^2>0$と置くと
$$R+16x=(x+4)^2+(y^2+8x-16)\geq0$$
なので$x/R\geq-1/16$。等号は$x=-4,\ y=\pm4\sqrt3$で成立する。
上限について、$x\leq2$なら
$$
\begin{aligned}
R-2x&=(x-2)(x-8)\\
&\quad+(y^2+8x-16)\geq0.
\end{aligned}
$$
$x\geq2$でも$R-2x=x(x-2)+y^2\geq0$である。従って$x/R\leq1/2$で、等号は$x=2,\ y=0$で成立する。
求める値と達成点は
$$
\begin{gathered}
\boxed{\text{最大値}=\frac12
\quad(\gamma=2)},\\[3pt]
\boxed{\text{最小値}=-\frac1{16}
\quad(\gamma=-4\pm4\sqrt3\,i)}.
\end{gathered}
$$
(1)は原点を通る円の逆数像が直線になる典型です。(2)ではその直線を実数パラメータで表し、二乗の和を計算しました。和$s+t$と差$s-t$を使うのは、実部に$s^2+t^2$、虚部に$s+t$が現れ、異なる条件が$s-t\ne0$だからです。最後の厳密不等号は、この相異条件から生まれています。
(3)の平方完成は、候補値まで突然思いつく必要はありません。$x$を固定すると、可能な$y^2$は
$$\begin{cases}y^2\geq16-8x&x\leq2,\\y^2\geq0&x\geq2.\end{cases}$$
$x<0$で負の値を最小にするには分母を小さくし、$y^2=16-8x$とします。このとき$x/(x^2+y^2)=x/(x-4)^2$で、その導関数は$-(x+4)/(x-4)^3$。負の範囲では$x=-4$が最小候補になります。
$0\leq x\leq2$で最大にする場合も最小の分母を取り、同じ関数が増加して$x=2$で$1/2$です。$x\geq2$なら$x/(x^2+y^2)\leq1/x\leq1/2$です。
この探索で得た候補を、模範解答では条件式を含む平方完成で簡潔に証明しました。「候補の探し方」と「答案での最短の証明」は区別できます。
判断|途中結果を読む練習|逆数の実部が一定なら、虚部だけが自由
一変数表示を二つ作る → 和差で相異性を保持 → 放物線の開いた側 → 固定成分の単調性と達成点。
復習する節:10.1 二動点の和・積と、相異性の保持、9.5 分数の実部は、固定した成分と残る自由度で調べる
問題
$|z|=1$を動く$z$に対し、$w=(z-\alpha)^3$の描く図形を$D_\alpha$とする。
(1)$\alpha=-3$のとき、$w=r(\cos\theta+i\sin\theta)$における$\sin\theta$の取り得る値の範囲を求めよ
(2)$D_\alpha$が正の実軸・負の実軸のそれぞれと共有点を持つ$\alpha$の範囲を図示し、その面積を求めよ
ただし正負の実軸に原点は含めない
出典:東京大学
(1)$u=z+3$は中心$3$、半径$1$の円周を動く。原点からの二接線と正の実軸のなす角を$a$とすると
$$0< a<\frac\pi6,\qquad \sin a=\frac13.$$
$u$の偏角$\varphi$は$[-a,a]$全体を取り、$w=u^3$の偏角は$[-3a,3a]$に取れる。この区間は$(-\pi/2,\pi/2)$内なので、
$$
\begin{aligned}
\text{最大値}&=\sin3a\\
&=3\cdot\frac13-4\left(\frac13\right)^3\\
&=\boxed{\frac{23}{27}},
\end{aligned}
$$
$$\text{最小値}=\boxed{-\frac{23}{27}}.$$
両端は接点、すなわち$z=-1/3\pm(2\sqrt2/3)i$で実現する。
偏角は区間全体を取り、その上で正弦は連続で単調増加だから、全中間値も実現する。従って範囲は
$$\boxed{-\frac{23}{27}\leq\sin\theta\leq\frac{23}{27}}.$$
(2)$u=z-\alpha$は中心$c=-\alpha$、半径$1$の円周を動く。$u^3$が正の実数となるための$u$は、角$0,2\pi/3,4\pi/3$の三本の開半直線上にある。負の実数となるための$u$は、角$\pi/3,\pi,5\pi/3$の三本の開半直線上にある。
従って、求める条件は、この円周が前者のいずれかと後者のいずれかにそれぞれ交わることである。
$c$の範囲は$\pi/3$の回転と実軸対称で不変なので、
$$
\begin{gathered}
c=\rho(\cos\psi+i\sin\psi),\\[3pt]
\rho\geq0,\quad0\leq\psi\leq\frac\pi3
\end{gathered}
$$
で調べればよい。
$\rho<1$なら原点が円の内部なので、全ての方向の開半直線と交わる。$\rho=1$でも、各三方向のうち中心の方向との差が$\pi/3$以下のものを取れば、原点以外で交わる。
$\rho>1$なら、原点から円周が見える方向の範囲は$\psi-\delta$から$\psi+\delta$で、
$$0<\delta<\frac\pi2,\qquad\sin\delta=\frac1\rho.$$
$0\leq\psi\leq\pi/3$において、正の組の最も近い方向は$0$、負の組では$\pi/3$なので、条件は
$$\delta\geq\psi,\qquad\delta\geq\frac\pi3-\psi.$$
従って、$\rho\leq1$の場合も合わせて、求める条件は
$$\begin{cases}0\leq\rho\leq\dfrac1{\sin(\pi/3-\psi)}&0\leq\psi\leq\pi/6,\\[6pt]0\leq\rho\leq\dfrac1{\sin\psi}&\pi/6\leq\psi\leq\pi/3.\end{cases}$$
右辺は常に$1$より大きい。これを$x=\operatorname{Re}c,\ y=\operatorname{Im}c$へ戻すと、境界は
$$
\begin{cases}
\sqrt3x-y=2&0\leq\psi\leq\pi/6,\\
y=1&\pi/6\leq\psi\leq\pi/3.
\end{cases}
$$
同じ操作を六つの扇形へ施す。範囲は、頂点
$$(0,2),\quad(\sqrt3,-1),\quad(-\sqrt3,-1)$$
の正三角形と、頂点
$$(0,-2),\quad(\sqrt3,1),\quad(-\sqrt3,1)$$
の正三角形の、内部と境界の和集合となる。$\alpha=-c$についても同じ集合である。
各三角形の面積は$3\sqrt3$、共通部分は辺長$2/\sqrt3$の正六角形で面積$2\sqrt3$。従って求める面積は
$$\boxed{3\sqrt3+3\sqrt3-2\sqrt3=4\sqrt3}.$$
境界の接線方向でも共有点は原点ではないので、境界を含む。
$\displaystyle {\color{#0f766e}\begin{xy} 0;<1.4em,0em>: (0,4);(1.1547,2) **\dir{-}, (1.1547,2);(3.464,2) **\dir{-}, (3.464,2);(2.3094,0) **\dir{-}, (2.3094,0);(3.464,-2) **\dir{-}, (3.464,-2);(1.1547,-2) **\dir{-}, (1.1547,-2);(0,-4) **\dir{-}, (0,-4);(-1.1547,-2) **\dir{-}, (-1.1547,-2);(-3.464,-2) **\dir{-}, (-3.464,-2);(-2.3094,0) **\dir{-}, (-2.3094,0);(-3.464,2) **\dir{-}, (-3.464,2);(-1.1547,2) **\dir{-}, (-1.1547,2);(0,4) **\dir{-}, (1.1547,2);(-1.1547,2) **\dir{--}, (-1.1547,2);(-2.3094,0) **\dir{--}, (-2.3094,0);(-1.1547,-2) **\dir{--}, (-1.1547,-2);(1.1547,-2) **\dir{--}, (1.1547,-2);(2.3094,0) **\dir{--}, (2.3094,0);(1.1547,2) **\dir{--}, (-4.5,0);(4.5,0) **\dir{-}, (0,-4.6);(0,4.6) **\dir{-}, (0.8,4.6)*{\color{#1d4ed8}2i},(0.8,-4.6)*{\color{#7e22ce}-2i}, (4.4,2.5)*{\color{#1d4ed8}\sqrt3+i},(-4.4,2.5)*{\color{#7e22ce}-\sqrt3+i}, (-0.4,-0.4)*{O} \end{xy}}$
図7 総合問題14の範囲。実線の星形の内部と境界を全て含み、破線の正六角形が二つの正三角形の共通部分です
立方写像の曲線を直接描く必要はありません。「像が正・負の実数」という条件を、元の円周と開半直線の交点条件に戻しました。これは3.3の累乗の逆像と7.4の円・半直線の存在判定です。
正の実軸と負の実軸へ届く点$z$は同じである必要はありません。二組の方向へそれぞれ届けば十分です。
原点が円の内部・円周上・外部の三場合で、見える角の条件が変わります。外部だけを接線の角で処理し、その条件を座標の直線へ戻すことで、高校数学の図形面積で完結しました。極座標の面積積分は用いていません。
角の区間が$\pi/2$をまたがないこと、接線が開半直線の原点以外で接することまで確認するので、(1)の端点・(2)の境界も確定します。
判断|途中結果を読む練習|像全体を描かず、指定方向の逆像を使う
円から見える角 → 立方で角を三倍 → 正負の実軸の逆像六半直線 → 円との共有点条件と面積。
復習する節:3.3 全ての乗根と、指定半直線の逆像、7.4 円と開半直線の共有点を正の根で判定する、9.2 偏角の端を接線で求め、累乗後の増減を調べる
判断|この章を終えるとき
解答を閉じ、最初の表示・各変形の目的・逆確認を自分で再現する。
基礎|この章の役割
前提 本文の学習後
習得目標 式の形と操作の理由を自分で結び付け、本体の解法と高校範囲外の参考知識を区別する
範囲外の参考
複素指数関数・複素対数・双曲線関数は、ここでは本体から区別します。本稿の解法では、積の極形式を常に$\cos\theta+i\sin\theta$で表し、複素対数の微分を使いませんでした。
実変数$x$についての
$$
\begin{gathered}
\cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}2,\\[3pt]
\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}2
\end{gathered}
$$
という定義自体は実指数関数から理解できますが、複素数への拡張や複素対数の枝の理論は、本稿の通常解法の前提に含めません。
また、一般の$n$次複素多項式が重複度込みで$n$個の根を持つという代数学の基本定理の一般的な証明も、本稿では扱いません。ここで必要な因数分解は、具体的に列挙した根、条件で与えられた根、二次方程式の根に因数定理を適用して作っています。
高度な内容を避けるための区別ではありません。どの証明に何が必要かを明示し、高校数学だけで実行できる部分を確実に切り分けるためです。
学習の確認
復習では、公式の形を言えることと、使う理由を言えることを別に確かめます。次の問いには、長い計算をせずに答えてください。
答えの要点は順に、共役を逆数へ、共通の交差項だけを確定、商の偏角、元像と除外点の確認、区間内の根の追加確認、元の全条件を満たす達成点、保存される円の式と分母の非零の同時帰納です。
迷った問いに対応する節へ戻り、例題を解答なしで一度書き直します。
注意|答案を閉じる前の確認
割った式の零/実数係数など公式の仮定/実数・純虚数・零の区別/角の代表値と向き/退化と点の相異性/元像とパラメータの範囲/境界と除外点/最大・最小の達成を確認する。
判断|この章を終えるとき
解けなかった箇所は、公式・入口・分岐・逆確認のどこで止まったかを記録して復習する。