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2026年 東京大学 理系数学 第5問

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2026年 東京大学 理系 第5問

複素数平面上の原点を中心とする半径 $1$ の円を $C$ とする。複素数 $\alpha$ と $C$ 上の点 $\mathrm{P}(z)$ に対し,$w=(z-\alpha)^3$ とおく。$\mathrm{P}$ が $C$ 上を動くときの点 $\mathrm{Q}(w)$ の軌跡を $D$ とする。
(1) $\alpha=-3$ とし,$w$ の偏角を $\theta$ とおく。$\mathrm{P}$ が $C$ 上を動くとき,$\sin\theta$ がとりうる値の範囲を求めよ。
(2) $\alpha$ が次の条件を満たすように動く。

条件: $D$ は実軸の正の部分および負の部分の両方と共有点を持つ。

複素数平面上の点 $\mathrm{R}(\alpha)$ が動きうる範囲の面積を求めよ。


1. 問題の構造

1.1 見る方向と二つの座標

$(z-\alpha)^3$ を展開する代わりに,$z-\alpha$ を幾何的に読む。点 $\mathrm{R}(\alpha)$ をとると $z-\alpha$ はベクトル $\overrightarrow{\mathrm{RP}}$ を表し,$\mathrm{P}\neq\mathrm{R}$ のとき $\arg w\equiv3\arg(z-\alpha)\pmod{2\pi}$ である。したがって本問の条件は,点 $\mathrm{R}$ から円 $C$ 上の点を見る方向だけで決まる。(1) は視点を $\mathrm{A}(-3)$ に固定した場合である。この状況は次の二通りに表せる。

  • 原座標:$C$ を固定し,視点 $\mathrm{R}(\alpha)$ を動かす。条件はベクトル $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角で書ける(本解)。
  • 相対座標:$u=z-\alpha$,$c=-\alpha$ とおいて $\mathrm{R}$ を原点に移すと,$|z|=1$ は $|u-c|=1$ となり $w=u^3$ である。固定された写像 $u\mapsto u^3$ のもとで,半径 $1$ の円の中心 $c$ を動かす問題になる(別解1以下)。
    両者は平行移動で移り合い,相対座標で原点から出る半直線は,原座標で $\mathrm{R}$ から出る半直線にあたる。全編を通じて次の記号を用いる。
  • $\Gamma_c=\lbrace u\in\mathbb{C}\mid |u-c|=1\rbrace$,$K_c=\lbrace u\in\mathbb{C}\mid |u-c|\leqq1\rbrace$,$D_c=\lbrace u^3\mid u\in\Gamma_c\rbrace$。問題の $D$ は $D_{-\alpha}$ である。
  • $x,y,\rho,\psi$ は,本解では $\alpha=x+iy=\rho e^{i\psi}$,相対座標の解法では $c=x+iy=\rho e^{i\psi}$ を表す($x,y\in\mathbb{R}$,$\rho=|\alpha|=|c|\geqq0$)。偏角 $\psi$ は $0$ でない点についてのみ用いる。
  • $\zeta=e^{i\pi/3}$,$\omega=\zeta^2=e^{2\pi i/3}$。$\zeta^3=-1$,$1+\omega+\omega^2=0$ である。
  • $\Phi_1=\lbrace0,\frac{2\pi}{3},\frac{4\pi}{3}\rbrace$,$\Phi_2=\lbrace\frac{\pi}{3},\pi,\frac{5\pi}{3}\rbrace$($2\pi$ を法とする向きの集合)。
  • $L_k=\lbrace t\zeta^k\mid t > 0\rbrace$(添字 $k$ は $6$ を法として扱う)。原点を含まない半直線である。
  • $\ell_j=\lbrace t\zeta^j\mid t\in\mathbb{R}\rbrace$($j=0,1,2$)。原点を通る直線であり,$\ell_j=L_j\cup L_{j+3}\cup\lbrace 0\rbrace$ である。
  • $s_j=\operatorname{Im}(\omega^jc)$($j=0,1,2$)。
  • $\Omega_\varphi=\lbrace z+te^{i\varphi}\mid z\in C,\ t > 0\rbrace$:円 $C$ を向き $\varphi$ に平行移動して掃いた領域。
  • $D_c$ が実軸の正の部分と負の部分の両方と共有点をもつような $c$ 全体の集合を $E$,点 $\mathrm{R}(\alpha)$ の動く範囲を $\mathcal{E}$ とする。$\mathcal{E}=-E=\lbrace -c\mid c\in E\rbrace$ である。
  • 実数 $\vartheta,\psi$ の円周上の角距離を $\delta(\vartheta,\psi)=\min_{m\in\mathbb{Z}}|\vartheta-\psi-2m\pi|\in[0,\pi]$ と書く。
  • 平面図形 $F$ の面積を $[F]$ と書く。図形の頂点などの点は立体で表し,$\mathrm{O}$ は原点とする。

1.2 3乗写像と実軸の逆像

$u\neq0$ を $u=re^{i\varphi}$($r > 0$)と書けば $u^3=r^3e^{3i\varphi}$ であり,3乗写像は絶対値を3乗し偏角を3倍する。したがって
$$ \begin{aligned} u^3\in\mathbb{R}_{> 0}&\iff3\varphi\equiv0\pmod{2\pi}\iff u\in L_0\cup L_2\cup L_4,\\ u^3\in\mathbb{R}_{< 0}&\iff3\varphi\equiv\pi\pmod{2\pi}\iff u\in L_1\cup L_3\cup L_5 \end{aligned} $$
であり,$u=0$ は $w=0$ に対応して正負いずれの部分にも属さない。以下,$L_0,L_2,L_4$ を正の半直線,$L_1,L_3,L_5$ を負の半直線とよぶ。

$k$$0$$1$$2$$3$$4$$5$
$L_k$ の方向$0$$\frac{\pi}{3}$$\frac{2\pi}{3}$$\pi$$\frac{4\pi}{3}$$\frac{5\pi}{3}$
$u^3$ の符号正負正負正負
$L_k$ を含む直線$\ell_0$$\ell_1$$\ell_2$$\ell_0$$\ell_1$$\ell_2$

ゆえに
$$ c\in E\iff\Gamma_c\ \text{が正の半直線と負の半直線の両方と交わる}. \tag{1.1} $$
6本の半直線は角 $\frac{\pi}{3}$ ごとに正負交互に並ぶ。
原座標では,$\mathrm{P}\neq\mathrm{R}$ のときベクトル $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ は $\alpha-z=-u$ で表され,$(\alpha-z)^3=-w$ であるから
$$ w < 0\iff\arg(\alpha-z)\in\Phi_1,\qquad w > 0\iff\arg(\alpha-z)\in\Phi_2 $$
となる($w=0$ は $\mathrm{P}=\mathrm{R}$ のときに限る)。$\Phi_1,\Phi_2$ も角 $\frac{\pi}{3}$ ごとに交互に並ぶ6つの向きであり,条件は「$\mathrm{P}$ が $C$ 上を動くとき,$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角が $\Phi_1$ の値と $\Phi_2$ の値をともにとる」と表される。
一方,$u=X+iY$($X,Y\in\mathbb{R}$)とおくと $\operatorname{Im}(\omega u)=\frac{\sqrt3X-Y}{2}$,$\operatorname{Im}(\omega^2u)=-\frac{\sqrt3X+Y}{2}$ であるから
$$ \operatorname{Im}(u^3)=3X^2Y-Y^3=Y(3X^2-Y^2)=-4\prod_{j=0}^{2}\operatorname{Im}(\omega^ju) $$
が成り立ち,実軸全体の逆像は3直線 $\ell_0\cup\ell_1\cup\ell_2$ である($\ell_j=\lbrace u\mid\operatorname{Im}(\omega^ju)=0\rbrace$)。$j$ と $j+3$ は偶奇が異なるから,各直線 $\ell_j$ は正の半直線と負の半直線を1本ずつ含む。この性質が 3.4 節 の凸性の議論の核心である。また $\omega^j$ 倍は $\ell_j$ を実軸へ移す回転であるから
$$ \operatorname{dist}(c,\ell_j)=|s_j|,\qquad s_0=y,\quad s_1=\frac{\sqrt3x-y}{2},\quad s_2=-\frac{\sqrt3x+y}{2},\qquad s_0+s_1+s_2=0. \tag{1.2} $$
零和関係 $s_0+s_1+s_2=0$ は $1+\omega+\omega^2=0$ の帰結であり, 3.5 節 , 3.6 節 の基礎となる。

1.3 円と半直線の交差

(1)(2) はいずれも「視点から出る半直線が円と交わるか」の判定に帰着する。視点を原点とする相対座標で,これを一つの補題にまとめる。

円と半直線の交差

$|e|=1$ とし,$L=\lbrace te\mid t > 0\rbrace$,$p=\operatorname{Re}(c\bar e)$,$q=\operatorname{Im}(c\bar e)$ とおく。
(i) $\Gamma_c\cap L\neq\varnothing\iff$「$|c| < 1$」または「$p > 0$ かつ $|q|\leqq1$」。
(ii) $|c| > 1$ とし,$c=\rho e^{i\psi}$,$e=e^{i\vartheta}$,$\beta=\arcsin(1/\rho)\in(0,\frac{\pi}{2})$ とおく。このとき $\Gamma_c\cap L\neq\varnothing\iff\delta(\vartheta,\psi)\leqq\beta$。
(iii) $|c| > 1$ ならば $\Gamma_c\cap L\neq\varnothing\iff K_c\cap L\neq\varnothing$。

$|te-c|^2=t^2-2t\operatorname{Re}(c\bar e)+|c|^2$,$|c|^2=p^2+q^2$ より,$te\in\Gamma_c$ は
$$ t^2-2pt+(p^2+q^2-1)=0 \tag{1.3} $$
と同値である。(1.3) の判別式の $\frac14$ は $1-q^2$ であり,実数解は $t=p\pm\sqrt{1-q^2}$ である。
(i) $|c| < 1$ なら (1.3) の定数項(2解の積)$|c|^2-1$ は負であり,(1.3) は正の解をもつ。$|c|\geqq1$ とする。$p > 0$ かつ $|q|\leqq1$ なら $t=p+\sqrt{1-q^2} > 0$ が解である。逆に正の解があれば実数解をもつから $|q|\leqq1$ である。さらに $p\leqq0$ とすると,2解の和 $2p\leqq0$,積 $|c|^2-1\geqq0$ より2解はともに $0$ 以下となり矛盾する。よって $p > 0$ である。
(ii) $c\bar e=\rho e^{i(\psi-\vartheta)}$ であるから,$\delta=\delta(\vartheta,\psi)$ とおくと $p=\rho\cos\delta$,$|q|=\rho\sin\delta$ である。(i) より条件は「$\cos\delta > 0$ かつ $\sin\delta\leqq1/\rho=\sin\beta$」となる。$\sin$ は $[0,\frac{\pi}{2})$ で増加し $\beta < \frac{\pi}{2}$ であるから,これは $\delta\leqq\beta$ と同値である。
(iii) $\Gamma_c\subset K_c$ より $\Rightarrow$ が成り立つ。逆に $|t_1e-c|\leqq1$($t_1 > 0$)とする。$f(t)=|te-c|$ は連続で $f(0)=|c| > 1\geqq f(t_1)$ であるから,中間値の定理より $f(t_0)=1$ を満たす $t_0\in(0,t_1]$ が存在する。

$|q|$ は $c$ と直線 $\mathbb{R}e$ の距離,$pe$ は $c$ から直線 $\mathbb{R}e$ に下ろした垂線の足である。(i) は「距離が $1$ 以下で,かつ垂線の足が半直線の側にある」ことを述べており,直線との交差と半直線との交差の差は条件 $p > 0$ が担う。(ii) は,$|c| > 1$ のとき $\Gamma_c$ 上の点の偏角全体が,原点から引いた2接線にはさまれた閉区間 $[\psi-\beta,\psi+\beta]$($2\pi$ を法として)に一致することを意味する。$\sin\beta=1/\rho$ は原点・中心・接点がなす直角三角形から読める。
補題1 は $c$ を任意の複素数として述べている。原座標では次のように読める。(i) で $c$ を $\alpha$ とすると,$|\alpha-te^{i\varphi}|=1$ を満たす $t > 0$ の存在は $\alpha\in \Omega_\varphi$ と同値であるから
$$ \Omega_\varphi=\lbrace\alpha\mid |\alpha| < 1\rbrace\cup S_\varphi,\qquad S_\varphi=\lbrace\alpha\mid\operatorname{Re}(\alpha e^{-i\varphi}) > 0,\ |\operatorname{Im}(\alpha e^{-i\varphi})|\leqq1\rbrace \tag{1.4} $$
である。すなわち掃過領域 $\Omega_\varphi$ は,$C$ の内部と,$C$ の前方へ向き $\varphi$ に伸びる幅 $2$ の半帯 $S_\varphi$ との和集合である。(ii) で $c$ を $-\alpha$ とすると($\Gamma_{-\alpha}$ の点は $\overrightarrow{\mathrm{RP}}$ を表す),$|\alpha| > 1$ のとき $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角全体は閉区間 $[\arg\alpha-\beta,\ \arg\alpha+\beta]$($\sin\beta=1/|\alpha|$)に一致する。両端は $\mathrm{R}$ から $C$ に引いた2接線の方向であり,(1) で $\mathrm{A}(-3)$ から $C$ を見る配置と同じである。

1.4 対称性

存在領域の対称性

$E$ は回転 $c\mapsto\zeta c$ および鏡映 $c\mapsto\bar c$ で不変である。したがって $E$ は位数 $12$ の二面体群(正六角形の合同変換群)の作用で不変であり,特に $-E=E$ である。

$\Gamma_{\zeta c}=\zeta\Gamma_c$ と $(\zeta u)^3=-u^3$ より $D_{\zeta c}=-D_c$ である。また $\Gamma_{\bar c}=\overline{\Gamma_c}$ より $D_{\bar c}=\overline{D_c}$ である。$\mathbb{R}_{> 0}$ と $\mathbb{R}_{< 0}$ は $w\mapsto-w$ で入れ替わり,$w\mapsto\bar w$ でそれぞれ保たれるから,「正の部分と負の部分の両方と共有点をもつ」という条件はどちらの変換でも保たれる。$-c=\zeta^3c$ である。

回転 $c\mapsto\zeta c$ は個々の半直線の正負を入れ替えるが,条件が正負の連言であるため全体としては不変になる。原座標でも同じことが直接分かる。原点のまわりの $\frac{\pi}{3}$ 回転は $C$ を保って $\Phi_1$ と $\Phi_2$ を入れ替え,実軸に関する鏡映は $C$ を保って $\Phi_1,\Phi_2$ をそれぞれ保つ($\varphi\mapsto-\varphi$)。この補題から次が従う。

  • $\mathcal{E}=-E=E$ である。$\mathcal{E}$ と $E$ は同じ図形であり,以下では状況に応じて一方を求めればよい。
  • $60^\circ$ の扇形 $\Sigma=\lbrace c\mid 0\leqq y\leqq\sqrt3x\rbrace$(原点と $0\leqq\psi\leqq\frac{\pi}{3}$ の点からなる)を基本領域として $E=\bigcup_{j=0}^{5}\zeta^j(E\cap\Sigma)$ が成り立つ。直線 $\arg c=\frac{\pi}{6}$ に関する鏡映 $c\mapsto\zeta\bar c$ も用いれば $30^\circ$ の扇形が基本領域となり,12倍すればよい。

1.5 三層構造と臨界半径

三層構造

(i) $|c|\leqq\dfrac{2}{\sqrt3}$ ならば $c\in E$ である。
(ii) $|c| > 2$ ならば $c\notin E$ である。
(iii) $\dfrac{2}{\sqrt3} < |c|\leqq2$ のとき,$c\in E$ か否かは $\psi$ による。$\psi=\dfrac{\pi}{6}$ ならば $c\in E$,$\psi=0$ ならば $c\notin E$ である。

$c=0$ なら $\Gamma_0$ は6本すべてと交わる。$c\neq0$ とし,$\frac{k\pi}{3}\leqq\psi < \frac{(k+1)\pi}{3}$ を満たす整数 $k$ をとる。$\psi$ をはさむ2方向 $\frac{k\pi}{3}$,$\frac{(k+1)\pi}{3}$ は偶奇が異なり,いずれも $\psi$ との角距離は $\frac{\pi}{3}$ 以下である。
$\rho < 1$ なら, 補題1 (i) より $\Gamma_c$ は6本すべてと交わる。$\rho=1$ なら $|q|\leqq\rho=1$ が常に成り立つから $\Gamma_c\cap L_m\neq\varnothing\iff\delta(\frac{m\pi}{3},\psi) < \frac{\pi}{2}$ であり,$\psi$ をはさむ2方向はこれを満たす。いずれの場合も $c\in E$ である。
$\rho > 1$ とし $\beta=\arcsin(1/\rho)$ とおく。 補題1 (ii) より,$\Gamma_c$ が交わるのは方向が $\psi$ から角距離 $\beta$ 以内の半直線に限る。
(i) $1 < \rho\leqq\frac{2}{\sqrt3}$ なら $\beta\geqq\frac{\pi}{3}$ であり,$\psi$ をはさむ2方向に届くから $c\in E$ である。
(ii) $\rho > 2$ なら $\beta < \frac{\pi}{6}$ である。$\psi$ から角距離 $\beta$ 以内にある2方向どうしの角距離は,三角不等式より $2\beta < \frac{\pi}{3}$ 以下である。相異なる2方向の角距離は $\frac{\pi}{3}$ 以上であるから,$\Gamma_c$ が交わる半直線は高々1本であり,$c\notin E$ である。
(iii) $\psi=\frac{\pi}{6}$ なら方向 $0,\frac{\pi}{3}$ の角距離はともに $\frac{\pi}{6}$ であり,$\beta\geqq\frac{\pi}{6}\iff\rho\leqq2$ より $c\in E$ である。$\psi=0$ なら負の方向のうち最も近いものは $\pm\frac{\pi}{3}$(角距離 $\frac{\pi}{3}$)であり,$\rho > \frac{2}{\sqrt3}$ より $\beta < \frac{\pi}{3}$ だから届かない。よって $c\notin E$ である。

したがって
$$ \Bigl\lbrace c\ \Big|\ |c|\leqq\frac{2}{\sqrt3}\Bigr\rbrace\subset E\subset\bigl\lbrace c\ \big|\ |c|\leqq2\bigr\rbrace $$
であり,(iii) により両側の半径はいずれも改善できない。$|\alpha|=|c|$ であるから,同じ三層構造は $\mathcal{E}$ についても成り立つ。原座標でいえば $2\beta$ は $\mathrm{R}$ から $C$ を見込む角であり,(i) は視野 $2\beta$ が $\frac{2\pi}{3}$ 以上,(ii) は $\frac{\pi}{3}$ 未満の場合にあたる。

$\rho=\lvert c\rvert=\lvert\alpha\rvert$ の範囲$c\in E$ の成否見込み角 $\beta=\arcsin(1/\rho)$
$0\leqq\rho\leqq\frac{2}{\sqrt3}$向きによらず成立$\beta\geqq\frac{\pi}{3}$($\rho > 1$ のとき)
$\frac{2}{\sqrt3} < \rho\leqq2$向き $\psi$ による$\frac{\pi}{6}\leqq\beta < \frac{\pi}{3}$
$\rho > 2$向きによらず不成立$\beta < \frac{\pi}{6}$

$|c|\leqq2$ は必要条件にすぎない。例えば $c=\frac32$ は $\psi=0$,$\frac{2}{\sqrt3} < \frac32 < 2$ であり,(iii) より $c\notin E$ である。半径 $2$ の円板の面積 $4\pi$ を答とするのは誤りである。
(1) は視点 $\mathrm{A}(-3)$,すなわち $c=3$ の場合であり, 補題3 (ii) の層にある。$\beta=\arcsin\frac13 < \frac{\pi}{6}$ により $D$ の偏角は長さ $6\beta < \pi$ の区間に収まり,$D$ は右半平面 $\operatorname{Re}w > 0$ に含まれる。(1) の解答で確かめる不等式 $3\beta < \frac{\pi}{2}$ は,$\sin\beta=1/\rho$ のもとで (2) の外側の臨界条件 $\rho > 2$ と同値である。

1.6 境界の型

$|c| > 1$ の範囲では, 補題1 (i) の条件は「$p > 0$ かつ $|q|\leqq1$」である。$|q|\leqq1 < |c|$ のとき $p^2=|c|^2-q^2 > 0$ であるから,$|c| > 1$ の範囲で $\Gamma_c\cap L_k\neq\varnothing$ の真偽が切り替わるのは $|q|=1$,すなわち $c$ が $L_k$ を含む直線から距離 $1$ の平行線を横切るときに限る。一方,$|c|\leqq1$ の点はすべて 補題3 (i) により $E$ の内部にある($1 < \frac{2}{\sqrt3}$)。ゆえに $E$ の境界は,3直線 $\ell_j$ に平行で原点から距離 $1$ の6直線 $|s_j|=1$ の上にあり,$E$ は多角形であると予想できる。原座標でいえば,境界は「$\mathrm{R}$ から見た $C$ の視野の端が $\Phi_1$ または $\Phi_2$ の向きに一致する」点,すなわち $\mathrm{R}$ を通りその向きをもつ直線が $C$ に接する点の集まりであり,6直線は向き $\frac{k\pi}{3}$ をもつ $C$ の接線である。実際 $E$ は

  • 外側の6頂点 $2e^{i(\pi/6+k\pi/3)}$,
  • 内側の6頂点 $\frac{2}{\sqrt3}e^{ik\pi/3}$($k=0,1,\dots,5$)
    を交互に結ぶ正六芒星(二つの合同な正三角形の和集合)である( 2.2 節 , 3.5 節 )。
    これに対し,単独の掃過領域 $\Omega_\varphi$(相対座標では1本の半直線 $L_k$ に届く中心の集合)は,(1.4) のとおり開円板と半帯 $S_\varphi$ の和集合であり,その境界は半円弧を含む。半円弧は単位円上にあって $E$ の内部に吸収されるため,正負両方への到達を課した $E$ の境界には残らない。

1.7 作問の設計と解法の導出

以上の構造から,作問の設計は次のように読める(数値設定と問題文からの分析であり,出題意図についての推定を含む)。

  • 主題は「点から円を見る方向」:$z-\alpha$ をベクトル $\overrightarrow{\mathrm{RP}}$ と読めば $w$ の偏角はその3倍であり,(1)(2) はともに「点から $C$ を見る方向」の問題になる。(1) は視点 $\mathrm{A}(-3)$ から見た方向の範囲を,(2) は視点 $\mathrm{R}$ から見た方向が交互の6方向の両種に届く条件を問う。問題文が $C$ を固定して $\alpha$ を動かす形であることは,この読み方(原座標)に最も素直に対応する。相対座標に移ると $\alpha$ に符号 $-$ が付くが, 補題2 により $\mathcal{E}=-E=E$ であるから答に影響しない。
  • (1) は (2) の部品の予行:(1) で用いる「視点からの2接線による偏角の範囲」と「偏角の3倍」は,(2) で視点 $\mathrm{R}$ の視野を判定する道具そのものである。$\alpha=-3$ は $\sin\beta=\frac13 < \frac12$ を与えて $3\beta < \frac{\pi}{2}$ を保証し,答が端点の値 $\pm\sin3\beta$ で決まる。$\alpha$ を $-2\leqq\alpha < 0$ の実数に変えると,$3\varphi$ の動く範囲は $\pm\frac{\pi}{2}$ を含み($-1\leqq\alpha < 0$ では視点が $C$ の内部または周上にある),$\sin\theta$ の範囲は $[-1,1]$ となって3倍角の公式を用いる余地がなくなる。境目 $|\alpha|=2$ が (2) の外側の臨界半径に一致することは 1.5 節 で述べた。
  • $\sin\theta$ を問う理由:$\theta$ は $2\pi$ の整数倍の不定性をもつが $\sin\theta$ は一意に定まる。また $\sin\beta=\frac13$ が有理数であるため $\sin3\beta=3\sin\beta-4\sin^3\beta=\frac{23}{27}$ も有理数となる。$\cos\theta$ を問えば値域は $\bigl[\frac{10\sqrt2}{27},1\bigr]$ となり,最大値は端点ではなく $\theta=0$ で生じる別種の問題になる。
  • 正負の連言が有界性を生む:条件を「$D$ が実軸と共有点をもつ」に弱めると,中心の集合は3本の帯 $|s_j|\leqq1$ の和集合となり,「正の部分と共有点をもつ」だけなら 1.6 節 の円板と半帯3本の和集合となる。いずれも非有界である。正と負の両方を要求して初めて $E\subset\lbrace |c|\leqq2\rbrace$ となり,面積を問うことができる。
  • 指数 $3$ と六芒星:指数 $n$ では正負の方向が角 $\frac{\pi}{n}$ ごとに交互に並び,領域は $2n$ 個の菱形からなる( 定理6 )。$n=3$ では $1+\omega+\omega^2=0$ により3本の符号付き距離が零和となり,領域は二つの正三角形の和集合という特に整った形をとる。答 $4\sqrt3=\frac{6}{\sin(\pi/3)}$ はこの構造を反映している。
  • 半径 $1$ と距離 $1$:境界の6直線はすべて原点から距離 $1$ にあり,菱形の高さも $1$ である。このため面積は長方形 $2\times2\sqrt3$ への等積変形(本解),「底辺 $\times1$」や「周長の半分」( 3.2 節 )で求まり,試験場で完答できる計算量に収まる。
    各構造がどの解法を導くかを整理する。
    着目する構造数学的翻訳対応する解法
    $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角と3倍視点 $\mathrm{R}$ から $C$ を見る方向(2接線,視野)本解
    $C$ の平行移動による掃過Minkowski 和 $\Omega_\varphi=C+L_\varphi$本解(領域の把握), 5.6 節
    円上の点の座標の二次関係$\lvert z+3\rvert^2-9(\operatorname{Im}z)^2=(3\operatorname{Re}z+1)^2$($\lvert z\rvert=1$) 3.1 節
    境界の直線が原点から距離 $1$三角形・菱形分割,極座標積分,周長公式 3.2 節
    交互の6半直線と対称性(相対座標)$60^\circ$ 扇形内の2直線への距離条件別解1
    3本の零点直線と円板の凸性帯の2重以上の被覆別解2
    $1+\omega+\omega^2=0$零和補題参考解1
    零和3数の基本対称式三次不等式参考解2

2. 本解:視点 R から円 C を見る(角度のみによる処理)

2.1 方針

$z-\alpha$ をベクトル $\overrightarrow{\mathrm{RP}}$ と読み,原座標のまま「点から円 $C$ を見る方向」だけで処理する( 1.1 節 )。
(1) では視点 $\mathrm{A}(-3)$ から $C$ に引いた2接線で $\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ の偏角の範囲を定め,偏角を3倍して正弦の単調性を用いる。
(2) では条件を「$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角が $\Phi_1$ の値と $\Phi_2$ の値をともにとる」と言い換え,$\mathrm{R}$ の動く範囲を $C$ の二つの掃過領域の共通部分として捉える。その形は,対称性で絞った角領域において,$\mathrm{R}$ から $C$ を見る視野の端が $C$ の接線になることから確定する。面積は長方形への等積変形で求める。

2.2 解答

(1)

点 $\mathrm{A}(-3)$ をとると,ベクトル $\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ は $z+3$ で表され,$\operatorname{Re}(z+3)\geqq2$ より $z+3\neq0$ である。$\varphi=\arg(z+3)$ を $-\frac{\pi}{2} < \varphi < \frac{\pi}{2}$ の範囲にとると,$w=(z+3)^3$ より $\theta\equiv3\varphi\pmod{2\pi}$,すなわち $\theta$ は $\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ の偏角の3倍であり
$$ \sin\theta=\sin3\varphi. $$
$\mathrm{A}$ から $C$ に2本の接線を引く。$\mathrm{OA}=3$,半径は $1$ であり,接点において半径と接線は直交するから,各接線と直線 $\mathrm{AO}$ のなす角 $\beta$ は $\sin\beta=\frac13$,$0 < \beta < \frac{\pi}{2}$ を満たし,$\varphi$ のとりうる値の範囲はちょうど $-\beta\leqq\varphi\leqq\beta$ である( 補題1 (ii))。$\sin\beta=\frac13 < \frac12=\sin\frac{\pi}{6}$ より $0 < \beta < \frac{\pi}{6}$ であるから
$$ -\frac{\pi}{2} < -3\beta\leqq3\varphi\leqq3\beta < \frac{\pi}{2}. $$
$\sin$ はこの区間で増加し,$3\varphi$ は区間 $[-3\beta,3\beta]$ 全体を動くから,$\sin\theta$ のとりうる値の範囲は $[-\sin3\beta,\ \sin3\beta]$ である。3倍角の公式より
$$ \sin3\beta=3\sin\beta-4\sin^3\beta=1-\frac{4}{27}=\frac{23}{27}. $$
よって
$$ \boxed{-\frac{23}{27}\leqq\sin\theta\leqq\frac{23}{27}} $$
である。両端は2接点 $z=-\frac13\pm\frac{2\sqrt2}{3}i$ でとられる。

(2)

偏角による言い換え

 $\mathrm{P}\neq\mathrm{R}$ のとき,ベクトル $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ は $\alpha-z$ で表され,$(\alpha-z)^3=-w$ である。よって($2\pi$ を法として)
$$ w < 0\iff\arg(\alpha-z)\in\Phi_1=\Bigl\lbrace0,\ \frac{2\pi}{3},\ \frac{4\pi}{3}\Bigr\rbrace,\qquad w > 0\iff\arg(\alpha-z)\in\Phi_2=\Bigl\lbrace\frac{\pi}{3},\ \pi,\ \frac{5\pi}{3}\Bigr\rbrace. \tag{2.1} $$
$\mathrm{P}=\mathrm{R}$ のときは $w=0$ であり,正負いずれの部分にも属さない。ゆえに条件は,$\mathrm{P}$ が $C$ 上を動くとき,$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角が $\Phi_1$ の値と $\Phi_2$ の値をともにとることである。
掃過領域 $\arg(\alpha-z)=\varphi$ となる $\mathrm{P}(z)\in C$ が存在することは,$\alpha=z+te^{i\varphi}$($z\in C$,$t > 0$)と書けること,すなわち $\alpha\in \Omega_\varphi$ と同値である。したがって $\mathrm{R}$ の動く範囲は
$$ \mathcal{E}=\Bigl(\bigcup_{\varphi\in\Phi_1}\Omega_\varphi\Bigr)\cap\Bigl(\bigcup_{\varphi\in\Phi_2}\Omega_\varphi\Bigr) \tag{2.2} $$
である。すなわち $\mathrm{R}$ は,「$C$ 上の各点から $\Phi_1$ の方向に伸ばした半直線が描く領域」と「$\Phi_2$ の方向に伸ばした半直線が描く領域」の共通部分全体を動く。各 $\Omega_\varphi$ は $C$ の内部と幅 $2$ の半帯との和集合であり((1.4)),図示すると共通部分は正六芒星になる。以下,その形を角度だけで確定する。
対称性 原点のまわりの $\frac{\pi}{3}$ 回転は $C$ を保ち,すべての向きを $\frac{\pi}{3}$ ずらすから $\Phi_1$ と $\Phi_2$ を入れ替える。実軸に関する鏡映は $C$ を保ち,向き $\varphi$ を $-\varphi$ に移すから $\Phi_1,\Phi_2$ をそれぞれ保つ。条件は $\Phi_1$ と $\Phi_2$ について対称であるから,$\mathcal{E}$ はこれらの変換で不変である。よって $\alpha=0$ または $0\leqq\arg\alpha\leqq\frac{\pi}{6}$ の範囲を調べれば,直線 $\arg\alpha=\frac{\pi}{6}$ に関する鏡映と $\frac{\pi}{3}$ 回転によって全体が得られる。
R から見た C $\alpha=x+iy=\rho e^{i\psi}$($\alpha=0$ または $0\leqq\psi\leqq\frac{\pi}{6}$)とし,$\mathrm{P}\neq\mathrm{R}$ にわたる $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角全体を $V$ とする。 補題1 を $\mathrm{R}$ を原点とする座標で用いると( 1.3 節 ),次が成り立つ。

  • $\rho < 1$ のとき $V$ はすべての方向からなる。$\rho=1$ のとき $V$ は開区間 $(\psi-\frac{\pi}{2},\psi+\frac{\pi}{2})$ である( 補題1 (i) の条件 $p > 0$ が $\cos(\varphi-\psi) > 0$ となる)。
  • $\rho > 1$ のとき $V$ は閉区間 $[\psi-\beta,\psi+\beta]$($\sin\beta=\frac1\rho$,$0 < \beta < \frac{\pi}{2}$)であり,両端は $\mathrm{R}$ から $C$ に引いた2接線の方向である。
    $\rho\leqq1$ のとき,$V$ は $0\in\Phi_1$ と $\frac{\pi}{3}\in\Phi_2$ を含むから $\alpha\in\mathcal{E}$ である。$\rho > 1$ のとき,$\Phi_1$ のうち $\psi$ に最も近い向きは $0$(角距離 $\psi$),$\Phi_2$ のうち最も近い向きは $\frac{\pi}{3}$(角距離 $\frac{\pi}{3}-\psi$)であり,他の向きはそれぞれ角距離 $\frac{2\pi}{3}-\psi$ 以上,$\frac{\pi}{3}+\psi$ 以上離れている。$\psi\leqq\frac{\pi}{3}-\psi$ であるから,遠い方の向き $\frac{\pi}{3}$ が視野 $V$ に入ればよく,
    $$ \alpha\in\mathcal{E}\iff\beta\geqq\frac{\pi}{3}-\psi\iff\rho\sin\Bigl(\frac{\pi}{3}-\psi\Bigr)\leqq1\iff\sqrt3x-y\leqq2. \tag{2.3} $$
    2番目の同値は,$\beta$ と $\frac{\pi}{3}-\psi$ がともに $\sin$ の増加区間 $[0,\frac{\pi}{2})$ にあることによる。$\rho\leqq1$ の点も $\sqrt3x-y=2\rho\sin(\frac{\pi}{3}-\psi)\leqq2$ を満たすから,(2.3) の最左辺と最右辺の同値は $\rho$ によらず成り立つ。直線 $\sqrt3x-y=2$ は向き $\frac{\pi}{3}$ をもつ $C$ の接線(接点 $e^{-i\pi/6}$)であり,その上の点 $\mathrm{R}$ からは,向き $\frac{\pi}{3}$ がちょうど視野の端に見える。正六芒星 (2.3) より,$\mathcal{E}$ のうち $0\leqq\arg\alpha\leqq\frac{\pi}{6}$ の部分(と原点)は,直線 $y=0$,$y=\frac{x}{\sqrt3}$,$\sqrt3x-y=2$ で囲まれる三角形 $\mathrm{OAB}$ である。ただし
    $$ \mathrm{A}\Bigl(\frac{2}{\sqrt3},0\Bigr),\qquad\mathrm{B}(\sqrt3,1). $$
    直線 $\arg\alpha=\frac{\pi}{6}$ に関する鏡映で $\mathrm{A}$ は $\mathrm{F}\bigl(\frac{1}{\sqrt3},1\bigr)$ に移り,三角形 $\mathrm{OAB}$ と $\mathrm{OBF}$ は菱形 $\mathrm{OABF}$ をなす。これを $\frac{\pi}{3}$ ずつ回転した6個の菱形の和集合が $\mathcal{E}$ であり,$\mathcal{E}$ は外側の頂点 $2e^{i(\pi/6+k\pi/3)}$ と内側の頂点 $\frac{2}{\sqrt3}e^{ik\pi/3}$($k=0,1,\dots,5$)を交互に結ぶ正六芒星である。面積 長方形 $Q=\lbrace\alpha\mid |x|\leqq\sqrt3,\ |y|\leqq1\rbrace$(横 $2\sqrt3$,縦 $2$)を考える。頂点の配置より,$\mathcal{E}$ のうち帯 $|y|\leqq1$ に含まれる部分は,$Q$ から左右の切欠き(3点 $(\sqrt3,1)$,$(\frac{2}{\sqrt3},0)$,$(\sqrt3,-1)$ を頂点とする三角形とその鏡像)を除いたものであり,帯の外の部分は上下の先端(3点 $(-\frac{1}{\sqrt3},1)$,$(\frac{1}{\sqrt3},1)$,$(0,2)$ を頂点とする正三角形とその鏡像)である。先端を対称軸で二等分した4つの直角三角形と,切欠きを実軸で二等分した4つの直角三角形は,いずれも直角をはさむ2辺が $1$ と $\frac{1}{\sqrt3}$ であり合同である。よって先端を切り取って切欠きを埋めれば $\mathcal{E}$ は $Q$ に等積変形され,
    $$ [\mathcal{E}]=[Q]=2\cdot2\sqrt3=4\sqrt3. $$
    求める面積は
    $$ \boxed{4\sqrt3} $$
    である。相対座標での範囲 $E$ とは $\mathcal{E}=-E=E$ の関係にある( 補題2 )。

解答のまとめ

設問答
(1)$-\dfrac{23}{27}\leqq\sin\theta\leqq\dfrac{23}{27}$
(2)$4\sqrt3$

2.3 検証・検算

  • (1) の端点の直接計算:$z=-\frac13+\frac{2\sqrt2}{3}i$ は $|z|^2=\frac19+\frac89=1$ を満たす。$z+3=\frac{8+2\sqrt2\,i}{3}$ であり,$(8+2\sqrt2\,i)^3=320+368\sqrt2\,i$,$|8+2\sqrt2\,i|^3=(\sqrt{72})^3=432\sqrt2$ より $\sin\theta=\frac{368\sqrt2}{432\sqrt2}=\frac{23}{27}$。
  • (1) の内部の値:$z=-1$ で $w=8$,$\sin\theta=0$。$z=i$ で $z+3=3+i$,$\sin\varphi=\frac{1}{\sqrt{10}} < \frac13$ であり,範囲の内部にある。
  • (1) と (2) の整合:$\alpha=-3$ を (2) の言葉で見ると,$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角の範囲は $\pi$ を中心とする長さ $2\beta < \frac{\pi}{3}$ の区間であり,$\pi\in\Phi_2$ は含むが $\Phi_1$ の値は含まない。$D$ は正の実軸にしか届かず,$|\alpha|=3 > 2$ に対する 補題3 (ii) と整合する。
  • 頂点と臨界半径:$\mathrm{OA}=\frac{2}{\sqrt3}$ は $\psi=0$ 方向の最大半径(視野が $\frac{\pi}{3}$ に届く限界 $\beta=\frac{\pi}{3}$),$\mathrm{OB}=2$ は $\psi=\frac{\pi}{6}$ 方向の最大半径($\beta=\frac{\pi}{6}$)であり, 補題3 の二つの臨界半径に一致する。
  • 境界上の点:$\alpha=\sqrt3+i$(頂点 $\mathrm{B}$)では $V=[0,\frac{\pi}{3}]$ である。$\mathrm{P}=i$ で $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角は $0\in\Phi_1$,$w=(-\sqrt3)^3 < 0$。$\mathrm{P}=e^{-i\pi/6}$ で偏角は $\frac{\pi}{3}\in\Phi_2$,$z-\alpha=\sqrt3\,e^{4\pi i/3}$ より $w=3\sqrt3 > 0$。2点はいずれも $\mathrm{B}$ から引いた接線の接点である。
  • 反例点:$\alpha=\frac32$ は $|\alpha| < 2$ であるが,$\sqrt3\cdot\frac32=\frac{3\sqrt3}{2} > 2$ より (2.3) を満たさない。実際 $\beta=\arcsin\frac23 < \frac{\pi}{3}$ で,視野は $0\in\Phi_1$ を含むが $\pm\frac{\pi}{3}$ に届かない。
  • 等積変形の数値:先端1つの面積は $\frac12\cdot\frac{2}{\sqrt3}\cdot1=\frac{1}{\sqrt3}$,切欠き1つの面積は $\frac12\cdot2\cdot\bigl(\sqrt3-\frac{2}{\sqrt3}\bigr)=\frac{1}{\sqrt3}$ で一致する。
  • 包含関係:$\frac{4\pi}{3}\approx4.19 < 4\sqrt3\approx6.93 < 4\pi\approx12.57$ であり,半径 $\frac{2}{\sqrt3}$ と半径 $2$ の円板の面積にはさまれる( 補題3 )。
  • 面積の再計算:三角形 $\mathrm{OAB}$ の12倍,菱形の6倍,極座標積分,周長の半分( 3.2 節 ),別解1・別解2・参考解1・参考解2のいずれも $4\sqrt3$ を与える。また,細かい格子上で (2.2) の掃過領域の共通部分を数値的に求めた面積も,離散化誤差の範囲で $4\sqrt3\approx6.928$ に一致する。

3. 別解と参考解

3.1 (1) の別証:平方完成と3倍角の多項式

着想・方針

本解の「接線で偏角の最大値を決める」操作を,等号条件つきの代数的不等式に置き換える。$s=\sin\varphi$ の範囲を直接評価し,3倍角を多項式 $f(s)=3s-4s^3$ として扱えば,区間 $3\varphi\in(-\frac{\pi}{2},\frac{\pi}{2})$ の確認は $f$ の単調性に吸収される。

解答

$z=x+iy$($x^2+y^2=1$),$u=z+3$ とし,本解と同様に $\varphi=\arg u\in(-\frac{\pi}{2},\frac{\pi}{2})$,$s=\sin\varphi=\frac{y}{|u|}$ とおく。$|u|^2=(x+3)^2+y^2=6x+10$ より
$$ \lvert u\rvert^2-9y^2=6x+10-9(1-x^2)=(3x+1)^2\geqq0. $$
よって $|s|\leqq\frac13$ であり,等号は $x=-\frac13$,$y=\pm\frac{2\sqrt2}{3}$ のときに限り,そのとき $s=\pm\frac13$ である。$z=e^{it}$ とすれば $s$ は $t$ の連続関数であるから,中間値の定理により $s$ は $[-\frac13,\frac13]$ のすべての値をとる。
$\sin\theta=\sin3\varphi=3s-4s^3=f(s)$ であり,$|s|\leqq\frac13$ において
$$ f'(s)=3-12s^2\geqq3-\frac{12}{9}=\frac53 > 0 $$
であるから $f$ は増加する。ゆえに $\sin\theta$ の範囲は
$$ \Bigl[f\Bigl(-\frac13\Bigr),\ f\Bigl(\frac13\Bigr)\Bigr]=\Bigl[-\frac{23}{27},\ \frac{23}{27}\Bigr]. $$

検証・検算

  • 等号条件 $x=-\frac13$ は本解の接点の実部に一致する。$(3x+1)^2$ は接点からのずれを測る量である。
  • $f'(s)=0\iff s=\pm\frac12\iff\varphi=\pm\frac{\pi}{6}$ である。$|s|\leqq\frac13 < \frac12$ が単調性を保証し,これは本解の条件 $\beta < \frac{\pi}{6}$ と同一である。
  • $z=\pm1$ では $s=0$,$f=0$ であり,$w=u^3 > 0$ と整合する。

3.2 正六芒星の面積の他の導出

着想・方針

本解では領域を確定したのち,長方形 $2\times2\sqrt3$ への等積変形で面積を得た。同じ領域の面積は,12個の三角形,6個の菱形,極座標の積分,周長のいずれからも求まる。いずれも,境界のすべての辺が原点から距離 $1$ の直線($C$ の接線)上にあることを反映している。

解答

12個の三角形

三角形 $\mathrm{OAB}$ は底辺 $\mathrm{OA}=\frac{2}{\sqrt3}$,高さ $1$($\mathrm{B}$ の $y$ 座標)であるから
$$ [\mathrm{OAB}]=\frac12\cdot\frac{2}{\sqrt3}\cdot1=\frac{1}{\sqrt3},\qquad[\mathcal{E}]=12\cdot\frac{1}{\sqrt3}=4\sqrt3. $$

6個の菱形と斜交座標

菱形 $\mathrm{OABF}$ は2本の帯 $0\leqq y\leqq1$,$0\leqq\sqrt3x-y\leqq2$ の共通部分である。$\sigma=y$,$\tau=\frac{\sqrt3x-y}{2}$ とおくと菱形は $(\sigma,\tau)\in[0,1]^2$ と同値であり,
$$ \left|\frac{\partial(\sigma,\tau)}{\partial(x,y)}\right|=\left|\det\begin{pmatrix}0&1\\ \frac{\sqrt3}{2}&-\frac12\end{pmatrix}\right|=\frac{\sqrt3}{2} $$
より $[\mathrm{OABF}]=\frac{2}{\sqrt3}$,$[\mathcal{E}]=6\cdot\frac{2}{\sqrt3}=4\sqrt3$ である。$\sigma,\tau$ は直線 $\ell_0,\ell_1$ までの距離であり,菱形の高さ $1$ は距離の上限 $1$ そのものである。同じことを $\alpha=\lambda+\mu\zeta$($\lambda,\mu\geqq0$)と書いて述べれば,$\operatorname{dist}(\alpha,\ell_0)=\mu\sin\frac{\pi}{3}$,$\operatorname{dist}(\alpha,\ell_1)=\lambda\sin\frac{\pi}{3}$ であり,菱形は正方形 $[0,\frac{2}{\sqrt3}]^2$ の $(\lambda,\mu)\mapsto\lambda+\mu\zeta$ による像である。

極座標積分

(2.3) より,$0\leqq\psi\leqq\frac{\pi}{6}$ において
$$ \alpha\in\mathcal{E}\iff0\leqq\rho\leqq\rho_{\max}(\psi):=\frac{1}{\sin(\frac{\pi}{3}-\psi)} $$
である。よって
$$ \begin{aligned} [\mathcal{E}]&=12\int_0^{\pi/6}\frac12\rho_{\max}(\psi)^2\,d\psi=6\int_0^{\pi/6}\frac{d\psi}{\sin^2(\frac{\pi}{3}-\psi)}\\ &=6\Bigl[\cot\Bigl(\frac{\pi}{3}-\psi\Bigr)\Bigr]_0^{\pi/6}=6\Bigl(\sqrt3-\frac{1}{\sqrt3}\Bigr)=4\sqrt3. \end{aligned} $$

周長

$\mathcal{E}$ は12個の三角形 $\zeta^j\mathrm{OAB}$,$\zeta^j\mathrm{OBF}$($j=0,1,\dots,5$)に分割される。各三角形の底辺は $\mathcal{E}$ の境界をなす長さ $\frac{2}{\sqrt3}$ の線分であり,頂点 $\mathrm{O}$ から底辺を含む直線($\sqrt3x-y=2$,$y=1$ およびその回転像)までの距離は $1$ である。よって
$$ [\mathcal{E}]=\frac12\times(\text{周長})\times1=\frac12\cdot12\cdot\frac{2}{\sqrt3}=4\sqrt3. $$

検証・検算

  • 4通りの計算はいずれも $4\sqrt3$ を与え,本解の等積変形とも一致する。
  • $\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(\frac{1}{\sqrt3},1)$ より $\mathrm{AB}=\frac{2}{\sqrt3}$,原点から直線 $\sqrt3x-y=2$ までの距離は $\frac{2}{2}=1$ であり,$\frac12\cdot\mathrm{AB}\cdot1=\frac{1}{\sqrt3}=[\mathrm{OAB}]$ と一致する。
  • $\rho_{\max}(0)=\frac{2}{\sqrt3}$,$\rho_{\max}(\frac{\pi}{6})=2$ は 補題3 の臨界半径に一致する。$\rho=\rho_{\max}(\psi)$ は直線 $\sqrt3x-y=2$ の極方程式である。
  • $\frac{d}{d\psi}\cot(\frac{\pi}{3}-\psi)=\frac{1}{\sin^2(\frac{\pi}{3}-\psi)}$ である。係数 $12$ は $30^\circ$ 扇形の個数,$\frac12$ は面積要素 $\rho\,d\rho\,d\psi$ の $\rho$ についての積分に由来する。
  • 視野の長さ $2\beta$ だけでは判定できない。$2\beta\geqq\frac{\pi}{3}$($\rho\leqq2$)は必要条件にすぎず,視野の位置 $\psi$ が不可欠である。
  • 「面積 $=\frac12\times$ 周長」は,境界のすべての辺を含む直線が原点から距離 $1$ にある星形領域に特有の関係であり,一般の累乗でも成り立つ( 5.2 節 )。

3.3 別解1:相対座標と6個の菱形

着想・方針

本解は原座標で視点 $\mathrm{R}$ の視野(偏角の区間)を求めた。ここでは平行移動 $u=z-\alpha$ によって $\mathrm{R}$ を原点に移し,固定された6本の半直線 $L_k$ と動く円 $\Gamma_c$($c=-\alpha$)の交差を, 補題1 (i) の距離と垂線の足で判定する。視野の区間を求める代わりに到達先の半直線を先に固定し,$60^\circ$ の扇形で2本の距離条件を立てる。

解答

$u=z-\alpha$,$c=-\alpha$ とおくと,$u$ は $\Gamma_c$ 上を動き $w=u^3$ である。(1.1) より条件は $c\in E$ と同値である。 補題2 より $E$ は回転 $c\mapsto\zeta c$ で不変である。
扇形への限定 $\Sigma=\lbrace c\mid 0\leqq y\leqq\sqrt3x\rbrace$ とおく。$\zeta^j\Sigma$($j=0,1,\dots,5$)は平面を覆い,互いに境界の半直線上でのみ重なる。$E\cap\zeta^j\Sigma=\zeta^j(E\cap\Sigma)$ であるから,$E\cap\Sigma$ を決定すればよい。
扇形内の判定 $c=\rho e^{i\psi}\in\Sigma$($0\leqq\psi\leqq\frac{\pi}{3}$)とし,$e=\zeta^k$ に対する 補題1 の $p,q$ を $p_k,q_k$ と書く:
$$ p_k=\rho\cos\Bigl(\psi-\frac{k\pi}{3}\Bigr),\qquad q_k=\rho\sin\Bigl(\psi-\frac{k\pi}{3}\Bigr). $$
$\rho < 1$ のとき($c=0$ を含む), 補題1 (i) より $\Gamma_c$ は6本すべてと交わるから $c\in E$ である。$\rho\geqq1$ のとき,次が成り立つ。

  • $\psi,\ \frac{\pi}{3}-\psi\in[0,\frac{\pi}{3}]$ より $p_0\geqq\frac{\rho}{2} > 0$,$p_1\geqq\frac{\rho}{2} > 0$。
  • $\cos(\psi-\pi)=-\cos\psi < 0$,$\cos(\psi-\frac{4\pi}{3})=\cos(\frac{4\pi}{3}-\psi)\leqq-\frac12$ より $p_3 < 0$,$p_4 < 0$。よって $\Gamma_c$ は $L_3,L_4$ と交わらない。
  • $|q_2|-|q_0|=\rho\bigl(\sin(\frac{2\pi}{3}-\psi)-\sin\psi\bigr)=\rho\sin(\frac{\pi}{3}-\psi)\geqq0$,$|q_5|-|q_1|=\rho\bigl(\sin(\psi+\frac{\pi}{3})-\sin(\frac{\pi}{3}-\psi)\bigr)=\rho\sin\psi\geqq0$。
    補題1 (i) より,$\Gamma_c$ が $L_2$ と交われば $|q_0|\leqq|q_2|\leqq1$ かつ $p_0 > 0$ となって $L_0$ とも交わり,$L_5$ と交われば同様に $L_1$ とも交わる。したがって,正の半直線のいずれかと交わることは $L_0$ と交わることと,負の半直線のいずれかと交わることは $L_1$ と交わることと同値であり,
    $$ c\in E\iff|q_0|\leqq1\ \text{かつ}\ |q_1|\leqq1\iff\rho\sin\psi\leqq1\ \text{かつ}\ \rho\sin\Bigl(\frac{\pi}{3}-\psi\Bigr)\leqq1. $$
    $\rho < 1$ のときは右端の2不等式も成り立つ(左辺はいずれも $\rho$ 以下)から,この同値は $\Sigma$ 全体で成り立つ。$\rho\sin\psi=y$,$\rho\sin(\frac{\pi}{3}-\psi)=\frac{\sqrt3x-y}{2}$ であるから
    $$ E\cap\Sigma=\lbrace c\mid 0\leqq y\leqq1,\ 0\leqq\sqrt3x-y\leqq2\rbrace. \tag{3.1} $$菱形と面積 (3.1) は2本の帯の共通部分であり,本解と同じ4頂点 $\mathrm{O},\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{F}$ をもつ菱形である。$\mathrm{OA}=\mathrm{OF}=\frac{2}{\sqrt3}$,$\angle\mathrm{AOF}=\frac{\pi}{3}$ であり,辺 $\mathrm{OA}$,$\mathrm{FB}$ はそれぞれ直線 $y=0$,$y=1$ 上にあるから $[\mathrm{OABF}]=\mathrm{OA}\times1=\frac{2}{\sqrt3}$。$E$ はこれを原点のまわりに $\frac{\pi}{3}$ ずつ回転した6個の菱形の和集合で,それらは辺上でのみ重なるから
    $$ [E]=6\cdot\frac{2}{\sqrt3}=4\sqrt3. $$
    $\mathrm{R}(\alpha)$ の動く範囲は $\mathcal{E}=-E=E$ であるから,求める面積は $4\sqrt3$ である。

検証・検算

  • (3.1) は本解の $\mathcal{E}$ のうち $0\leqq\arg\alpha\leqq\frac{\pi}{3}$ の部分(三角形 $\mathrm{OAB}$ と $\mathrm{OBF}$ の和)に一致し,$\mathcal{E}=E$ と整合する。
  • 境界上の点:$c=\sqrt3+i$(頂点 $\mathrm{B}$)では,$\Gamma_c$ は $L_0$ に点 $\sqrt3$ で接し($u^3=3\sqrt3 > 0$),$L_1$ に点 $\sqrt3\,\zeta$ で接する($u^3=3\sqrt3\,\zeta^3=-3\sqrt3 < 0$)。
  • 反例点:$c=\frac32$ は $|c| < 2$ であるが,$\frac{3\sqrt3}{2} > 2$ より (3.1) を満たさない。
  • 条件 $p > 0$ の役割:$c=-\frac32$ は直線 $\ell_0$ からの距離が $0$ であるが,$p_0=-\frac32 < 0$ であり,$\Gamma_c$ は $L_0$ と交わらない。距離だけで判定すると,このような点を誤って数える。

3.4 別解2:3本の零点直線と帯領域の包除

着想・方針

正負の符号を追跡せず,円板 $K_c$ が3本の零点直線 $\ell_0,\ell_1,\ell_2$ のうち何本と交わるかだけを数える。各直線が正負の半直線を1本ずつ含むこと( 1.2 節 )と円板の凸性により,「正負両方に到達する」は「2本以上と交わる」と同値になる。円板と直線の交差は中心の帯状領域で表されるから,面積は帯の重なりの包除で求まる。

解答

交差本数への帰着

$c\in E\iff K_c$ が $\ell_0,\ell_1,\ell_2$ のうち少なくとも2本と交わる $\iff|s_0|,|s_1|,|s_2|$ のうち少なくとも2つが $1$ 以下である。

後半の同値は,円板 $K_c$ が直線 $\ell_j$ と交わることが $\operatorname{dist}(c,\ell_j)=|s_j|\leqq1$ と同値であること((1.2))による。前半を示す。
$|c|\leqq1$ のとき,$0\in K_c$ より $K_c$ は3直線すべてと交わり, 補題3 より $c\in E$ である。以下 $|c| > 1$ とする。このとき $0\notin K_c$ である。
($\Rightarrow$) $\Gamma_c$ 上に,正の半直線上の点 $u_+$ と負の半直線上の点 $u_-$ をとる。両者が同じ直線 $\ell_j$ 上にあれば,$\ell_j$ に含まれる正負の半直線は $L_j,L_{j+3}$ で互いに逆向きであるから,線分 $u_+u_-$ は原点を通る。$K_c$ は凸であるから $0\in K_c$ となり矛盾する。よって $u_+,u_-$ は異なる直線上にあり,$K_c$ は2本以上と交わる。
($\Leftarrow$) $K_c$ が $\ell_j,\ell_k$($j\neq k$)とそれぞれ点 $a,b$ で交わるとする。$0\notin K_c$ より $a\in L_m$,$b\in L_n$ と書け,$m\not\equiv n\pmod 3$ である。$m,n$ の偶奇が異なれば,$K_c$ は正負両方の半直線と交わる。偶奇が等しいとき,2方向 $\frac{m\pi}{3},\frac{n\pi}{3}$ の角距離は $\frac{2\pi}{3}$ であり,その二等分方向 $\vartheta_0$ は両者から $\frac{\pi}{3}$ 離れた偶奇の異なる方向である。必要なら $a,b$ を入れ替えて $a=|a|e^{i(\vartheta_0-\pi/3)}$,$b=|b|e^{i(\vartheta_0+\pi/3)}$ とし,
$$ g(t)=\operatorname{Im}\bigl(((1-t)a+tb)e^{-i\vartheta_0}\bigr)=\frac{\sqrt3}{2}\bigl(t|b|-(1-t)|a|\bigr) $$
を考える。$g(0) < 0 < g(1)$ より $g(t_0)=0$ となる $t_0\in(0,1)$ が存在し,$v=(1-t_0)a+t_0b$ は $\operatorname{Re}(ve^{-i\vartheta_0})=\frac12\bigl((1-t_0)|a|+t_0|b|\bigr) > 0$ を満たすから,方向 $\vartheta_0$ の半直線上にある。凸性より $v\in K_c$ である。いずれの場合も $K_c$ は正負両方の半直線と交わり, 補題1 (iii) より $\Gamma_c$ も交わる。よって $c\in E$ である。

帯 $B_j=\lbrace c\mid |s_j|\leqq1\rbrace$($j=0,1,2$,幅 $2$)とおくと, 補題4 より
$$ E=(B_0\cap B_1)\cup(B_1\cap B_2)\cup(B_2\cap B_0). \tag{3.2} $$
3直線は互いに $\frac{\pi}{3}$ の角をなすから,$B_j\cap B_k$($j\neq k$)は高さ $2$,一辺 $\frac{2}{\sin(\pi/3)}=\frac{4}{\sqrt3}$ の菱形であり,面積は $\frac{4}{\sqrt3}\cdot2=\frac{8}{\sqrt3}$ である。$H=B_0\cap B_1\cap B_2$ は,外向き単位法線が $\frac{\pi}{3}$ ずつ回転した6直線 $s_j=\pm1$(いずれも原点から距離 $1$)で囲まれる正六角形であり,一辺 $\frac{2}{\sqrt3}$,面積 $\frac12\cdot\bigl(6\cdot\frac{2}{\sqrt3}\bigr)\cdot1=2\sqrt3$ である。(3.2) の3つの菱形のどの2つの共通部分も,3つ全部の共通部分も $H$ に等しいから,包除原理より
$$ [E]=3\cdot\frac{8}{\sqrt3}-3\cdot2\sqrt3+2\sqrt3=8\sqrt3-4\sqrt3=4\sqrt3. $$

検証・検算

  • 菱形 $B_0\cap B_1$ は,正六角形 $H$ と,六芒星の向かい合う2つの先端(一辺 $\frac{2}{\sqrt3}$ の正三角形,面積 $\frac{\sqrt3}{3}$)からなる。$2\sqrt3+2\cdot\frac{\sqrt3}{3}=\frac{8}{\sqrt3}$ と一致する。
  • $E$ は $H$ と6つの先端の和集合であり,$[E]=2\sqrt3+6\cdot\frac{\sqrt3}{3}=4\sqrt3$ である。先端の1つは三角形 $\mathrm{ABF}$ である。
  • $H$ は $E$ の中心部分であって $E$ そのものではない。$H$ の6頂点 $\frac{2}{\sqrt3}e^{ik\pi/3}$ は六芒星の内側の頂点に一致する。
  • 円板が直線1本と交わるだけでは,その直線の正負の半直線の一方にしか届かない場合や,$|c|=1$ で原点 $u=0$ しか共有しない場合を排除できない。「2本以上」という条件の必要十分性は,凸性によって初めて保証される。

3.5 参考解1:零和恒等式と二つの正三角形

着想・方針

(1.2) の零和関係 $s_0+s_1+s_2=0$ を用いると,「3つの両側不等式 $|s_j|\leqq1$ のうち2つ以上」という条件を,「3つの上側不等式すべて」または「3つの下側不等式すべて」という二者択一に変換できる。各選択肢は3つの半平面の共通部分,すなわち正三角形であり,六芒星が二つの正三角形の和集合として直接得られる。

解答

零和補題

実数 $a,b,d$ が $a+b+d=0$ を満たすとき,
$$ \lvert a\rvert,\lvert b\rvert,\lvert d\rvert\ \text{のうち少なくとも2つが}\ 1\ \text{以下}\iff\max\lbrace a,b,d\rbrace\leqq1\ \text{または}\ \min\lbrace a,b,d\rbrace\geqq-1. $$

($\Rightarrow$) $\max\lbrace a,b,d\rbrace > 1$ かつ $\min\lbrace a,b,d\rbrace < -1$ とすると,最大の数と最小の数は相異なり,ともに絶対値が $1$ を超えるから,絶対値が $1$ 以下の数は高々1つとなって矛盾する。
($\Leftarrow$) $\max\lbrace a,b,d\rbrace\leqq1$ とする。2数が $-1$ 未満なら,零和条件より残る1数は $2$ を超え,仮定に反する。よって $-1$ 未満の数は高々1つであり,残る2数以上が $[-1,1]$ に属する。$\min\lbrace a,b,d\rbrace\geqq-1$ の場合も同様である。

補題4 と 補題5 より
$$ E=T_+\cup T_-,\qquad T_+=\lbrace c\mid s_0,s_1,s_2\leqq1\rbrace,\quad T_-=\lbrace c\mid s_0,s_1,s_2\geqq-1\rbrace. $$
(1.2) より $T_+$ は3不等式 $y\leqq1$,$\sqrt3x-y\leqq2$,$-\sqrt3x-y\leqq2$ で定まり,頂点 $(\sqrt3,1)$,$(-\sqrt3,1)$,$(0,-2)$ をもつ正三角形(一辺 $2\sqrt3$,内接円半径 $1$,外接円半径 $2$)である。$T_-=-T_+$ であり,$T_+\cap T_-=\lbrace c\mid |s_j|\leqq1\ (j=0,1,2)\rbrace=H$ は 3.4 節 の正六角形である。よって
$$ [E]=[T_+]+[T_-]-[H]=2\cdot\frac{\sqrt3}{4}(2\sqrt3)^2-2\sqrt3=6\sqrt3-2\sqrt3=4\sqrt3. $$

検証・検算

  • 零和条件は不可欠である。例えば $(a,b,d)=(\frac12,-2,-2)$ は $\max\leqq1$ を満たすが,絶対値が $1$ 以下の数は1つしかない。
  • $T_+$ の底辺は直線 $y=1$ 上で長さ $2\sqrt3$,高さは $3$ であり,$[T_+]=3\sqrt3$ である。
  • $T_+$ の頂点は $2e^{i(\pi/6+2k\pi/3)}$,$T_-$ の頂点はその $-1$ 倍であり,合わせて六芒星の外側の6頂点となる。内側の頂点は $s_j=1$ と $s_k=-1$ の交点として現れる(例:$\mathrm{A}$ で $(s_0,s_1,s_2)=(0,1,-1)$)。
  • 共通部分 $H$ は1回だけ差し引く。

3.6 参考解2:三次不等式による代数的記述

着想・方針

零和3数 $s_0,s_1,s_2$ の基本対称式は
$$ e_1=s_0+s_1+s_2=0,\qquad e_2=\sum_{j < k}s_js_k=-\frac12\sum_{j}s_j^2,\qquad e_3=s_0s_1s_2=-\frac14\operatorname{Im}(c^3) $$
と $c$ の多項式で書ける($e_3$ は 1.2 節 の積公式による)。$T_\pm$ への所属を $\prod_j(1\mp s_j)$ の符号で判定すれば,$E$ を $c$ の三次式で記述できる。

解答

(1.2) より $\sum_js_j^2=y^2+\frac{(\sqrt3x-y)^2+(\sqrt3x+y)^2}{4}=\frac32(x^2+y^2)$ であるから $e_2=-\frac34|c|^2$ となり,
$$ \begin{aligned} 4\prod_{j=0}^{2}(1-s_j)&=4(1-e_1+e_2-e_3)=4-3|c|^2+\operatorname{Im}(c^3),\\ 4\prod_{j=0}^{2}(1+s_j)&=4(1+e_1+e_2+e_3)=4-3|c|^2-\operatorname{Im}(c^3). \end{aligned} $$
$|c|\leqq2$ とする。2つの $s_j$ が同時に $1$ を超えると,残る1つは $-2$ 未満となって $\sum_js_j^2 > 6$,すなわち $|c| > 2$ となり矛盾する。同様に,2つが同時に $-1$ 未満になることもない。このとき $c\in T_+\iff\prod_j(1-s_j)\geqq0$ が成り立つ。実際,$\Rightarrow$ は各因数が非負であることから従う。逆に積が非負で $s_j > 1$ となる $j$ があれば,それは唯一であり,他の2因数は非負であるから積は $0$ となり,$s_k=1$ となる $k\neq j$ が存在する。すると残る1つは $-(s_j+1) < -2$ となり,$\sum_js_j^2 > 6$ に反する。$T_-$ についても同様である。 補題3 より $E\subset\lbrace |c|\leqq2\rbrace$ であるから, 3.5 節 と合わせて
$$ \boxed{E=\bigl\lbrace c\ \big|\ |c|\leqq2,\ |\operatorname{Im}(c^3)|\geqq3|c|^2-4\bigr\rbrace}. $$
$|\alpha|=|c|$,$|\operatorname{Im}(\alpha^3)|=|\operatorname{Im}(c^3)|$ であるから,$\mathrm{R}(\alpha)$ の範囲は「$|\alpha|\leqq2$ かつ $|\operatorname{Im}(\alpha^3)|\geqq3|\alpha|^2-4$」と表される。
面積は,因数分解
$$ \begin{aligned} 4-3(x^2+y^2)+\operatorname{Im}(c^3)&=(1-y)(2+y-\sqrt3x)(2+y+\sqrt3x),\\ 4-3(x^2+y^2)-\operatorname{Im}(c^3)&=(1+y)(2-y-\sqrt3x)(2-y+\sqrt3x) \end{aligned} $$
により各条件が正三角形 $T_\pm$ を表すことから, 3.5 節 と同様に $[E]=4\sqrt3$ を得る。

検証・検算

  • $|c|\leqq\frac{2}{\sqrt3}$ なら右辺 $3|c|^2-4\leqq0$ であり,不等式は自動的に成り立つ。内側の臨界半径( 補題3 (i))がそのまま現れる。
  • $|c|=2$ では $|\operatorname{Im}(c^3)|\leqq|c|^3=8=3|c|^2-4$ であり,等号は $c^3\in i\mathbb{R}$,すなわち $\psi\equiv\frac{\pi}{6}\pmod{\frac{\pi}{3}}$ のときに限る。これは外側の6頂点である。さらに $\rho^3-(3\rho^2-4)=(\rho-2)^2(\rho+1)$ より,外側の臨界半径 $2$ は重根として現れる。
  • 条件 $|c|\leqq2$ は省けない。$c=3i$ は $|\operatorname{Im}(c^3)|=27\geqq3\cdot9-4=23$ を満たすが,$|c|=3 > 2$ であり $c\notin E$ である。$\rho > 2$ では $\frac{3\rho^2-4}{\rho^3} < 1$ であるから,$|\sin3\psi|$ が $1$ に近い方向で三次不等式が成り立ってしまう。
  • $c=\frac32$ では $\operatorname{Im}(c^3)=0 < 3\cdot\frac94-4=\frac{11}{4}$ であり $c\notin E$。本解の反例点と一致する。

3.7 同じ系列に属する変形

以下は上記いずれかの解法と核心を共有するか,単独では完結しないため,独立の解法として扱わない。

(1) の系列

  • 正弦定理:中心を $\mathrm{O}$,$C$ 上の点を $\mathrm{P}(z)$($z\neq\pm1$)とすると,三角形 $\mathrm{AOP}$ の正弦定理より $\sin|\varphi|=\frac{\mathrm{OP}}{\mathrm{AO}}\sin\angle\mathrm{APO}=\frac13\sin\angle\mathrm{APO}\leqq\frac13$ であり,等号は $\angle\mathrm{APO}=\frac{\pi}{2}$(接線)のときに限る。本解の接線の議論を一行にしたものである。
  • 接線と平方完成: 3.1 節 の $(3x+1)^2\geqq0$ は偏角の最大値 $\beta$ の代数的証明であり,極値の構造は本解と同一である。

本解の系列(原座標・視野)

  • 掃過領域の直接計算:(1.4) を (2.2) に代入すると,$\mathcal{E}$ は開円板と,隣り合う向きの半帯の共通部分6つ(凧形)との和集合になる( 5.6 節 )。図2的な把握をそのまま式で確かめる方法であるが,境界の確定には結局 (2.3) と同じ接線の条件を用いる。
  • 半径先行の積分:半径 $\rho$ を固定し,許される $\psi$ の測度 $M(\rho)$ を求める。$\frac{2}{\sqrt3} < \rho < 2$ では,(2.3) より $0\leqq\psi\leqq\frac{\pi}{6}$ のうち $\psi\geqq\frac{\pi}{3}-\beta$ の部分が許され,その長さは $\beta-\frac{\pi}{6}$ である。12倍して
    $$ M(\rho)=\begin{cases}2\pi&(0\leqq\rho\leqq\frac{2}{\sqrt3}),\\ 12\arcsin\frac1\rho-2\pi&(\frac{2}{\sqrt3} < \rho < 2),\\ 0&(\rho\geqq2).\end{cases} $$
    $\rho=2$ では許される方向が6つあるが,その測度は $0$ である。$F(\rho)=12\arcsin\frac1\rho-2\pi$ とおくと $F'(\rho)=-\frac{12}{\rho\sqrt{\rho^2-1}}$,$F(\frac{2}{\sqrt3})=2\pi$,$F(2)=0$ であり,部分積分により
    $$ [\mathcal{E}]=\int_0^\infty\rho M(\rho)\,d\rho=\frac{4\pi}{3}+\Bigl[\frac{\rho^2}{2}F(\rho)\Bigr]_{2/\sqrt3}^{2}+6\int_{2/\sqrt3}^{2}\frac{\rho\,d\rho}{\sqrt{\rho^2-1}}=6\Bigl(\sqrt3-\frac{1}{\sqrt3}\Bigr)=4\sqrt3. $$
  • 回転共変性:$c=\rho e^{i\psi}$ に対し $u=\rho e^{i\psi}+e^{it}=e^{i\psi}\bigl(\rho+e^{i(t-\psi)}\bigr)$ より $D_{\rho e^{i\psi}}=e^{3i\psi}D_\rho$ である。軌跡の形は $\rho$ だけで決まり,向き $\psi$ は軌跡を $3\psi$ だけ回転させる。$M(\rho)$ はこの回転の許容量であり,判定の核心は本解と同じ視野の区間である。

別解1 の系列(相対座標・距離)

  • 判別式:$u=t\zeta$($t > 0$)を $|u-c|^2=1$ に代入すると $t^2-(x+\sqrt3y)t+x^2+y^2-1=0$ となり,判別式は $4-(\sqrt3x-y)^2$ である。$\Sigma$ 内で $|c|\geqq1$ のとき2解の和 $x+\sqrt3y$ は正であるから,正の解の存在条件は $\sqrt3x-y\leqq2$ に一致する。 補題1 の証明を座標で書いたものである。
  • 外積表示:$\operatorname{dist}(c,\mathbb{R}e)=|\operatorname{Im}(c\bar e)|=|\det(c,e)|$($c,e$ を平面ベクトルとみる)。記法の違いにすぎない。
  • 基本領域の取り方:$60^\circ$ の菱形の6倍,$30^\circ$ の三角形の12倍,周長の半分( 3.2 節 )は,同じ領域の分割の違いである。

別解2 の系列(交差本数)

  • $(\sigma,\tau)$ 平面での包除:$\sigma=s_0$,$\tau=s_1$ とおくと $s_2=-(\sigma+\tau)$ であり,条件は「$|\sigma|,|\tau|,|\sigma+\tau|\leqq1$ のうち2つ以上」となる。2条件の組が定める領域はいずれも面積 $4$ の平行四辺形,3条件の領域は正方形 $[-1,1]^2$ から面積 $\frac12$ の直角三角形2つを除いた六角形(面積 $3$)である。$(\sigma,\tau)$ 平面での面積は $3\cdot4-2\cdot3=6$ であり,ヤコビアン $\frac{\sqrt3}{2}$ で割って $[E]=4\sqrt3$ を得る。
  • 指示関数の恒等式:交差本数 $N(c)=\#\lbrace j\mid |s_j|\leqq1\rbrace\in\lbrace0,1,2,3\rbrace$ について $\mathbf{1}_{\lbrace N\geqq2\rbrace}=\binom N2-2\binom N3$ が成り立つ。これを積分すれば $[E]=\sum_{j < k}[B_j\cap B_k]-2[H]$ となり,包除の係数が一挙に得られる。
  • 零和平面の切断:$c\mapsto(s_0,s_1,s_2)$ により,$E$ を立方体 $[-1,1]^3$ に関連する立体の平面切断とみなせる( 5.4 節 )。
  • 直線配置のセル分割:6直線 $s_j=\pm1$ が平面を分ける各セルで $N(c)$ は一定であり,$E$ は $N\geqq2$ のセル(正六角形1つと先端の正三角形6つ)の和集合である( 5.7 節 )。

参考解1 の系列(零和)

  • 中央値による一条件:$d_j=|s_j|$ を小さい順に $d_{\min}\leqq d_{\mathrm{mid}}\leqq d_{\max}$ と並べる。零和の3数では絶対値最大のものが他の2つの絶対値の和に等しいから $d_{\max}=d_{\mathrm{mid}}+d_{\min}$ であり,$c\in E\iff d_{\mathrm{mid}}\leqq1\iff d_{\max}-d_{\min}\leqq1$ となる。また $d_{\mathrm{mid}}=\min\lbrace\max_js_j,\ -\min_js_j\rbrace$ である。
  • 不成立の証明書: 補題5 の否定から,$c\notin E\iff\max_js_j > 1$ かつ $\min_js_j < -1$ である。条件の不成立は2つの一次不等式の破れで確認でき,六芒星のくぼみは $s_j=1$ と $s_k=-1$ の交点として生じる。

発見法(証明ではない)

  • 等号条件からの頂点予想:隣接する正負2方向がともに視野のちょうど端に見える点は二等分線上にあり,$\rho\sin\frac{\pi}{6}=1$ より $\rho=2$(外側の頂点)。一方の方向の真上にある点から,隣の異種の方向が視野の端に見える条件は $\rho\sin\frac{\pi}{3}=1$ より $\rho=\frac{2}{\sqrt3}$(内側の頂点)。頂点を交互に結べば六芒星が予想できるが,内部全体が条件を満たすことの証明には (2.3) などが必要である。
  • 回転した円の衝突:二つの臨界半径は,$\Gamma_c$ とその回転像の交差からも得られる( 5.5 節 )。
  • 巻き数:$|c| < 1$ のとき $D_c$ が原点のまわりを3周することから内側の円板が条件を満たすことは分かるが,$|c| > 1$ の判定はできない( 5.5 節 )。

誤りやすい推論

  • 視野の長さの条件 $2\beta\geqq\frac{\pi}{3}$ から $|\alpha|\leqq2$ を得て,面積を $4\pi$ とする。必要条件にすぎない(反例 $\alpha=\frac32$)。
  • 掃過領域の共通部分を図から読むだけで終える。図は正しい形を示すが,境界が直線分のみからなること(視野の端が接線になること)と,内部全体が条件を満たすことは (2.3) で確かめる必要がある。
  • 掃過領域 $\Omega_\varphi$ の境界にある半円弧が,$\mathcal{E}$ の境界にも残ると考える。半円弧は単位円上にあり,$\mathcal{E}$ の内部に吸収される。
  • $\operatorname{Im}(w)=0$ だけを見て,正負の区別を落とす。$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角が $\frac{\pi}{3}$ の倍数であることは $w$ が $0$ でない実数であることと同値であり,正負は $\Phi_1,\Phi_2$ のどちらに属するかで決まる。
  • 相対座標で直線への距離 $\leqq1$ をそのまま半直線との交差条件とする。垂線の足の位置( 補題1 の $p > 0$)の確認が必要である。
  • 3本の帯の共通部分(正六角形 $H$,面積 $2\sqrt3$)を答の領域とする,あるいは $H$ から一部を削って求めようとする。正六芒星は $H$ を含み,$H$ に6つの先端を加えたものである。
  • $30^\circ$ の基本領域で係数 $6$ と $12$ を取り違える。

3.8 解法の比較

解法固定するもの判定に用いる量面積の求め方論証上の要点
本解 (1)視点 $\mathrm{A}(-3)$見込み角 $\beta$―$3\beta < \frac{\pi}{2}$ の確認
3.1 節円上の点の座標$s=\sin\varphi$―$(3x+1)^2\geqq0$,$f$ の単調性
本解 (2)円 $C$(原座標)$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角(視野)長方形への等積変形遠い方の向き,視野の端=接線
3.2 節本解の領域―三角形・菱形・積分・周長境界の直線の距離 $1$
別解1到達先の2半直線(相対座標)2直線への距離菱形 $\times6$扇形内で近い2本に帰着,$p > 0$
別解23本の零点直線交差本数帯の包除凸性による同値性
参考解1符号付き距離零和補題正三角形2つ $-$ 正六角形補題の両方向
参考解2基本対称式三次式の符号因数分解$\lvert c\rvert\leqq2$ の併記
  1. の解法は二つの系統に分かれる。方向到達型(本解・別解1)は $w$ の符号を偏角の離散条件として保持する。本解は原座標のまま視点 $\mathrm{R}$ の視野(偏角の区間)を求め,別解1は視点を原点に移して到達先の半直線を先に固定し,距離で判定する。直線交差本数型(別解2・参考解1・参考解2)は符号をいったん捨てて3本の零点直線への交差本数に置き換え,その後の処理が集合の包除(別解2),零和による論理変形(参考解1),基本対称式による代数的判定(参考解2)に分かれる。
    本解を採用する理由は次のとおりである。第一に,条件の言い換えが偏角だけで完結する。$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角が $\Phi_1,\Phi_2$ に属することは $w$ の負・正と同値であり,$w=0$ の除外は $\mathrm{P}\neq\mathrm{R}$ として自動的に処理される。相対座標で必要になる「原点 $u=0$ は正負いずれでもない」「垂線の足が半直線の側にある($p > 0$)」といった付帯条件は,視野という一つの区間に吸収される。第二に,(1) と (2) が「点から $C$ を見る方向」という同じ主題で統一され,(1) の2接線の図がそのまま (2) の判定に使われる。第三に,境界が「視野の端=接線」として直線になることが計算なしに分かり,面積は長方形 $2\times2\sqrt3$ への等積変形で求まる。掃過領域の図示だけでも領域の形は見えるが,答案としては基本角領域での接線条件 (2.3) によって境界と内部を確定させておく必要がある。
    別解1は同じ判定を距離の一次不等式として書き,領域を高さ $1$ の菱形として直接得る。別解2と参考解1は,正六芒星が「3本の帯の2重被覆」および「二つの正三角形の和集合」として生じる理由を示す。

4. 汎用的な探索手順

本問から抽出される手順を,累乗写像・曲線と半直線の交差・パラメータの存在領域を扱う問題一般に適用できる形で述べる。

4.1 意思決定の流れ

  1. 出力側の条件を分類する:値域・偏角・符号・実数性・交点の存在のいずれを問うかを決める。本問 (2) は「正にも負にも届く」という存在条件の連言であり,像 $D$ の方程式は不要である。
  2. 条件を写像の前へ引き戻す:$w=u^n$ ならば偏角の条件は $u$ の偏角の離散条件になる。像の形を求めるより,条件の逆像(半直線・直線)の単純さを優先する。
  3. 視点を選ぶ:$z-\alpha$ をベクトル $\overrightarrow{\mathrm{RP}}$ と読めば,原座標のまま「視点から円を見る方向」で条件を書ける(角度で判定)。平行移動 $u=z-\alpha$ で視点を原点に移せば「固定写像と動く円」になる(距離で判定)。どちらでもパラメータは視点(円の中心)の位置だけである。
  4. 対称性は条件全体について確かめる:個々の対象(半直線の正負)が入れ替わっても,連言・選言として条件が保たれれば対称性として使える。基本領域を最小化する。
  5. 存在条件を必要十分な不等式にする:角度区間(見込み角),距離と垂線の足,交差本数,零和による論理変形のいずれかを選ぶ。端点($u=0$)・向き($p > 0$)・境界値($\rho=1$)の例外を明示し,必要条件($\rho\leqq2$)で止めない。
  6. 境界の型を見てから面積に入る:接触条件が一次ならば領域は多角形であり,分割(菱形・三角形)や包除を優先する。極方程式が自然なら積分を選ぶ。
  7. 臨界値と面積を別表現で検算する:特殊方向の最大半径,全方向で成立する半径,周長と面積の関係,他系統の結果を照合する。

4.2 症状と有効な表現

症状有効な表現本問での実現
累乗の実数性・符号偏角の離散条件,逆像の半直線交互の6半直線 $L_k$
点から円を見る方向の範囲2接線(見込み角)$\mathrm{A}$,$\mathrm{R}$ から $C$ への接線,$\sin\beta=1/\rho$
定点から定方向に進んで到達できる点の範囲掃過領域(Minkowski 和)$\Omega_\varphi=C+L_\varphi$
動く円と固定された半直線中心の距離と垂線の足$\lvert q\rvert\leqq1$ かつ $p > 0$(別解1)
二種類の到達の連言最も近い異種2方向への帰着基本角領域で最も近い向き $0,\frac{\pi}{3}$
$m$ 個の条件のうち $k$ 個以上包除,指示関数,零和による論理変形別解2,参考解1
一次不等式で囲まれた領域斜交座標,多角形分割高さ $1$ の菱形
原点から等距離の直線で囲まれた星形領域等積変形,面積 $=\frac12\times$ 周長 $\times$ 距離長方形 $2\times2\sqrt3$,$\frac12\cdot8\sqrt3$

4.3 類題設計への応用

  • 条件を $\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角で読む本解の方法は,視点が定円を見る向きを問う問題(定円上の点と動点を結ぶ線分の向き,動点からの視角など)に広く使える。
  • 指数を $n$ に変えると $[E_n]=\frac{2n}{\sin(\pi/n)}$( 定理6 ),円の半径を $r$ にすると面積は $r^2$ 倍になる。
  • 条件を「虚軸の正の部分と負の部分」に変えると,$u^3\in i\mathbb{R}_{> 0}\iff\arg u\equiv\frac{\pi}{6}\pmod{\frac{2\pi}{3}}$ より逆像の半直線が $\frac{\pi}{6}$ 回転するだけであり,領域は $E$ を $\frac{\pi}{6}$ 回転したもの,面積は不変である。
  • 条件を「正の部分と共有点をもつ」だけにすると領域は非有界になる。異なる種類の到達を連言で課して有界性を作る設計は,存在領域の面積を問う問題に共通する。

5. 発展事項

各節で,高校数学の範囲で完結する内容と,それを超える一般論とを区別して記す。

5.1 高校数学と一般理論の境界

本問で使う事実高校数学での扱い背後の一般理論
偏角の3倍,実軸の逆像極形式・ド・モアブルの定理被覆写像 $u\mapsto u^n$
見込み角接線と直角三角形錐・支持関数
対称性による縮約回転・鏡映の確認二面体群の作用と基本領域
帯の重なり面積の足し引き包除原理・指示関数の代数
零和関係$1+\omega+\omega^2=0$$A_2$ 型ルート系・零和平面
菱形の面積底辺 $\times$ 高さ一次変換の行列式
内側の円板円が原点を囲む観察巻き数・偏角の原理
掃過領域の共通部分平行移動の図示Minkowski 和と集合演算の境界

5.2 一般の累乗写像

高校数学の範囲

 $n=3$ の菱形を図形的に求めれば十分である。
発展 本解(視野)と別解1(距離)の議論は,指数 $n$ にそのまま拡張できる。

一般の累乗写像

$n\geqq3$ とし,円 $\Gamma_c$ の $u\mapsto u^n$ による像が実軸の正の部分と負の部分の両方と共有点をもつような $c$ 全体を $E_n$ とする。$E_n$ は,一辺 $\dfrac{1}{\sin(\pi/n)}$,内角 $\dfrac{\pi}{n}$,高さ $1$ の合同な菱形 $2n$ 個の和集合であり,
$$ [E_n]=\frac{2n}{\sin(\pi/n)}=2n\Bigl(\cot\frac{\pi}{2n}-\cot\frac{\pi}{n}\Bigr) $$
である。円の半径を $r$ に置き換えた集合の面積は $\dfrac{2nr^2}{\sin(\pi/n)}$ である。

$\gamma=\frac{\pi}{n}$ とおく。$u^n > 0\iff\arg u\equiv2k\gamma$,$u^n < 0\iff\arg u\equiv(2k+1)\gamma\pmod{2\pi}$ であり,正負の方向は角 $\gamma$ ごとに交互に並ぶ。$(e^{i\gamma}u)^n=-u^n$ より, 補題2 と同様に $E_n$ は $c\mapsto e^{i\gamma}c$ で不変である。よって $c=\rho e^{i\psi}$,$0\leqq\psi\leqq\gamma$ の扇形で考えればよい。
$\rho < 1$ ならば $\Gamma_c$ はすべての半直線と交わる。$\rho\geqq1$ ならば, 補題1 (i) より方向 $\vartheta$ の半直線と交わる条件は「$\delta(\vartheta,\psi) < \frac{\pi}{2}$ かつ $\rho\sin\delta(\vartheta,\psi)\leqq1$」であり,$\delta(\vartheta,\psi)$ が小さいほど成り立ちやすい。正の方向のうち $\psi$ に最も近いのは $0$(角距離 $\psi$),負の方向のうち最も近いのは $\gamma$(角距離 $\gamma-\psi$)である。実際,他の正の方向は $2\gamma-\psi\geqq\psi$ 以上,他の負の方向は $\gamma+\psi\geqq\gamma-\psi$ 以上離れている。$\psi,\gamma-\psi\in[0,\gamma]$,$\gamma\leqq\frac{\pi}{3} < \frac{\pi}{2}$ であるから,扇形全体($\rho < 1$ を含む)で
$$ c\in E_n\iff\rho\sin\psi\leqq1\ \text{かつ}\ \rho\sin(\gamma-\psi)\leqq1 $$
が成り立つ。$c=\lambda+\mu e^{i\gamma}$($\lambda,\mu\geqq0$)と書けば $\rho\sin\psi=\operatorname{Im}c=\mu\sin\gamma$,$\rho\sin(\gamma-\psi)=-\operatorname{Im}(ce^{-i\gamma})=\lambda\sin\gamma$ であるから,扇形内の部分は $0\leqq\lambda,\mu\leqq\frac{1}{\sin\gamma}$ で表される一辺 $\frac{1}{\sin\gamma}$,内角 $\gamma$ の菱形であり,高さは $1$,面積は $\frac{1}{\sin\gamma}$ である。扇形は $2n$ 個あるから $[E_n]=\frac{2n}{\sin\gamma}$ である。$\cot\frac{\gamma}{2}-\cot\gamma=\frac{\sin(\gamma-\gamma/2)}{\sin(\gamma/2)\sin\gamma}=\frac{1}{\sin\gamma}$ より第2の表示を得る。半径 $r$ の場合は,相似変換 $u\mapsto ru$ が各半直線を保つから集合が $r$ 倍になり,面積は $r^2$ 倍となる。

  • $n=3$ で $[E_3]=\frac{6}{\sin(\pi/3)}=4\sqrt3$ となり本問に戻る。第2の表示は 3.2 節 の極座標積分 $2n\bigl[\cot(\gamma-\psi)\bigr]_0^{\gamma/2}$ と一致する。
  • 外側・内側の頂点の半径はそれぞれ $\frac{1}{\sin(\pi/(2n))}$,$\frac{1}{\sin(\pi/n)}$ であり,境界はすべて原点から距離 $1$ の直線上にあるから,周長を $\Lambda_n=\frac{4n}{\sin(\pi/n)}$ として $[E_n]=\frac12\Lambda_n$ が成り立つ。
  • $n=2$ では正負の方向が直交し,$E_2$ は正方形 $[-1,1]^2$ から4点 $\pm1,\pm i$ を除いたものになる(これらの点では $\Gamma_c$ が一方の軸と原点 $u=0$ でしか交わらない)。面積は公式どおり $4$ である。
  • $n\to\infty$ では $[E_n]\sim\frac{2n^2}{\pi}$ であり,内側・外側の頂点の半径 $\sim\frac{n}{\pi}$,$\sim\frac{2n}{\pi}$ の円板の面積 $\frac{n^2}{\pi}$,$\frac{4n^2}{\pi}$ の間にある。

5.3 二面体群と基本領域

高校数学の範囲

 $60^\circ$ 回転と鏡映で条件が保たれることを確認すれば十分である。
発展 $E$ は位数12の二面体群(正六角形の合同変換群)の作用で不変であり,$30^\circ$ の扇形はその基本領域である。注目すべきは,正の半直線の集合 $L_0\cup L_2\cup L_4$ を保つ変換は位数6の部分群(正三角形の合同変換群)にすぎないのに,$E$ はそれより大きい位数12の群で不変になる点である。正負を入れ替える変換 $c\mapsto\zeta c$ が条件を保つのは,条件が正負について対称な連言だからである。対称性を「図形」ではなく「条件」について調べることで,基本領域は半分になる。

5.4 零和座標と $A_2$ 構造

高校数学の範囲

 3直線への距離 $|s_j|$ を (1.2) で計算すれば十分である。
発展 写像 $c\mapsto(s_0,s_1,s_2)$ は $\sum_js_j=0$,$\sum_js_j^2=\frac32|c|^2$ を満たす線形写像であり,複素数平面を平面 $\mathcal{H}=\lbrace(a,b,d)\in\mathbb{R}^3\mid a+b+d=0\rbrace$ へ相似比 $\sqrt{3/2}$(面積比 $\frac32$)で写す。$\mathcal{H}$ と立方体 $[-1,1]^3$ の共通部分が正六角形 $H$ の像,$\mathcal{H}\cap\lbrace a,b,d\leqq1\rbrace$ が正三角形 $T_+$ の像であり,$E$ の像は「3座標のうち2つ以上が $[-1,1]$ に属する」点の集合である。$\mathcal{H}$ を $(a,b)\mapsto(a,b,-a-b)$ で径数表示すると面積要素は $\sqrt3\,da\,db$ であり,像の面積は $\sqrt3\,(3\cdot4-2\cdot3)=6\sqrt3$,元の平面では $\frac23\cdot6\sqrt3=4\sqrt3$ となる。
$\mathcal{H}$ 内の6ベクトル $\pm(\boldsymbol{e}_i-\boldsymbol{e}_j)$ は $A_2$ 型ルート系をなし,その自己同型群(Weyl 群 $S_3$ と $-1$ が生成する位数12の群)が 5.3 節 の二面体群に対応する。$s_j$ は $c$ の互いに $120^\circ$ をなす3方向への射影であり,座標の和が $0$ となる三つ組で六角格子を表す「三軸座標」と同じ構造をもつ。零和補題( 補題5 )は,この平面上で「3座標のうち2つ以上が区間 $[-1,1]$ に入る」集合が,二つの三角形(2次元単体)$\mathcal{H}\cap\lbrace a,b,d\leqq1\rbrace$,$\mathcal{H}\cap\lbrace a,b,d\geqq-1\rbrace$ の和集合になることを述べている。

5.5 臨界半径の四つの解釈

高校数学の範囲

 見込み角による 補題3 で十分である。
発展 二つの臨界半径 $\frac{2}{\sqrt3}$,$2$ は,異なる対象から同じ値として現れる。
(a) 零和と二乗和:$c\in E$ ならば,絶対値が $1$ 以下の2数 $a,b$ をとって $\frac32\rho^2=a^2+b^2+(a+b)^2\leqq6$,よって $\rho\leqq2$ である。等号は $(s_0,s_1,s_2)$ が $(1,1,-2)$ の符号反転・置換のとき(外側の頂点,例えば $\mathrm{B}$)に限る。$c\notin E$ ならば, 補題5 の否定より $a > 1$,$b < -1$ となる2数があり,$\frac32\rho^2 > 2$,すなわち $\rho > \frac{2}{\sqrt3}$ である。接線も偏角も用いない導出である。
(b) 回転した円の交差:$\Gamma_{\omega c}=\omega\Gamma_c$ と $\Gamma_c$ の中心間距離は $|c-\omega c|=\sqrt3\rho$ であり,両円が交わる条件は $\rho\leqq\frac{2}{\sqrt3}$ である。交点 $v=\omega u$($u,v\in\Gamma_c$)が $0$ でなければ $u\neq v$,$u^3=v^3$ であり,3乗写像が $\Gamma_c$ 上で単射でなくなる。同様に $|c-\zeta c|=\rho$ より $\Gamma_{\zeta c}\cap\Gamma_c\neq\varnothing\iff\rho\leqq2$ であり,交点 $v=\zeta u\neq0$ では $v^3=-u^3$,すなわち $D_c$ が原点対称な2点を含む。ただし $D_c\cap(-D_c)\neq\varnothing$ は $c\in E$ を意味しない($c=\frac32$)。この解釈は臨界半径を説明するが,中間の層での可否は決めない。一般の $n$ では同じ議論で $\frac{1}{\sin(\pi/n)}$,$\frac{1}{\sin(\pi/(2n))}$ が得られ, 定理6 の内側・外側の頂点の半径に一致する。
(c) 三次式: 3.6 節 の記述では,$3|c|^2-4$ の符号変化が内側の半径を,$\rho^3-3\rho^2+4=(\rho-2)^2(\rho+1)$ の重根が外側の半径を与える。
(d) 巻き数と偏角区間:$|c| < 1$ のとき $\Gamma_c$ は原点を1周し,$D_c$ は原点のまわりを3周する(偏角の連続的な変化量は $6\pi$ であり,無限に回るという意味ではない)。よって $D_c$ は原点から出るすべての半直線と交わる。$1 < |c|\leqq\frac{2}{\sqrt3}$ では巻き数は $0$ であるが,$D_c$ の偏角が動く区間の長さ $6\beta$ が $2\pi$ 以上となるため,やはりすべての方向に届く。$|c| > 1$ の判定は,巻き数ではなく偏角区間の長さと位置によって行われる。

5.6 Minkowski 和と掃過領域

高校数学の範囲

 本解のとおり,「$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角が $\varphi$」を「$\mathrm{R}$ は $\mathrm{P}$ から向き $\varphi$ に伸ばした半直線上にある」と読み,円 $C$ を平行移動して掃いた図を描けば十分である。
発展 $\Omega_\varphi=C+L_\varphi$ は円 $C$ と半直線 $L_\varphi=\lbrace te^{i\varphi}\mid t > 0\rbrace$ の Minkowski 和であり,本解の (2.2) は
$$ \mathcal{E}=\Bigl(\bigcup_{\varphi\in\Phi_1}(C+L_\varphi)\Bigr)\cap\Bigl(\bigcup_{\varphi\in\Phi_2}(C+L_\varphi)\Bigr) $$
である。(1.4) より $\Omega_\varphi=D^\circ\cup S_\varphi$($D^\circ$ は開単位円板,$S_\varphi$ は半帯)であるから,
$$ \mathcal{E}=D^\circ\cup\bigcup_{\varphi\in\Phi_1,\ \varphi'\in\Phi_2}(S_\varphi\cap S_{\varphi'}). $$
$\varphi'=\varphi+\pi$ の組では $\operatorname{Re}(\alpha e^{-i\varphi})$ の符号の条件が逆になり $S_\varphi\cap S_{\varphi'}=\varnothing$ である。残るのは隣り合う向きの6組で,$W_k=S_{k\pi/3}\cap S_{(k+1)\pi/3}$ とおく。例えば
$$ W_0=\lbrace x > 0,\ x+\sqrt3y > 0,\ |y|\leqq1,\ |\sqrt3x-y|\leqq2\rbrace $$
の閉包は4頂点 $0,\ i,\ 2e^{i\pi/6},\ e^{-i\pi/6}$ の凧形である。これは外側の頂点 $\mathrm{B}=2e^{i\pi/6}$ から $C$ に引いた2接線と,接点 $i$,$e^{-i\pi/6}$ への半径とで囲まれ,頂角 $\frac{\pi}{3}$ は $\mathrm{B}$ から $C$ を見込む角である。各 $W_k$ は正三角形 $T_+$ または $T_-$( 3.5 節 )に含まれ,その閉包は正六角形 $H$ の $\frac16$ と先端の正三角形1つを含むから,$\mathcal{E}$ が正六芒星であることがここからも確かめられる(境界上の点の帰属は (2.3) で確定する)。
単独の $\Omega_\varphi$ の境界は2本の半直線と1つの半円弧からなる。集合の和・共通部分の境界はもとの集合の境界の和集合に含まれるから,$\mathcal{E}$ の境界の候補は「12本の半直線と6つの半円弧」に限られる。半円弧はすべて単位円上,すなわち $\mathcal{E}$ の内部にあるため,実際の境界には現れない。探索の段階で現れる「単位円を半直線方向に平行移動する掃過」は,この記述にあたる。

5.7 直線配置と「少なくとも $k$ 個」の条件

高校数学の範囲

 帯の重なりを図示し,面積を足し引きすれば十分である。
発展 6直線 $s_j=\pm1$ は平面を有界な凸セルと非有界なセルに分け,各セル内で交差本数 $N(c)$ は一定である。$N=3$ のセルは正六角形 $H$,$N=2$ の有界なセルは六芒星の先端の正三角形6つであり,$E=\lbrace N\geqq2\rbrace$ はこれらの和集合である。一般に「$m$ 個の条件のうち $k$ 個以上」を満たす集合は直線配置のセルの和集合として表され,セルごとの被覆数の計算と指示関数の恒等式( 3.7 節 )が基本的な道具となる。本問では零和関係により,この集合が凸集合2つの和集合 $T_+\cup T_-$ にまで単純化される。
なお,正六角形 $H$ の各辺を延長して得られる図形が正六芒星(Schläfli 記号 $\lbrace 6/2\rbrace$,二つの正三角形の複合)であることはよく知られている。$E$ の境界の直線は $H$ の辺を含む直線と同じであり,$E$ は $H$ の星形化にほかならない。


6. 最終整理

6.1 構造マップ

$$ \begin{array}{c} w=(z-\alpha)^3,\quad |z|=1\\ \Downarrow\quad z-\alpha=\overrightarrow{\mathrm{RP}}\ \text{と読む}\\ \arg w=3\arg\overrightarrow{\mathrm{RP}}\qquad(\text{主題:点から}\ C\ \text{を見る方向})\\ \Downarrow\\ \begin{array}{c|c} \text{(1)}\ \text{視点}\ \mathrm{A}(-3) & \text{(2)}\ \text{視点}\ \mathrm{R}(\alpha)\ \text{が動く}\\ \hline \text{2接線:}\lvert\arg\overrightarrow{\mathrm{AP}}\rvert\leqq\beta,\ \sin\beta=\frac13 & \arg\overrightarrow{\mathrm{PR}}\ \text{が}\ \Phi_1,\Phi_2\ \text{の値をともにとる}\\ 3\beta < \frac{\pi}{2}\ \text{で単調} & \text{掃過領域の共通部分,視野の端}=\text{接線}\\ \sin\theta\in\bigl[-\frac{23}{27},\frac{23}{27}\bigr] & \text{三層構造:}\ \frac{2}{\sqrt3}\ \text{と}\ 2 \end{array}\\ \Downarrow\\ \begin{array}{c|c|c|c} \text{原座標で視野を判定} & \text{相対座標で到達先を固定} & \text{符号を捨てて3直線} & \text{符号付き距離の零和}\\ \hline \text{接線}\ \sqrt3x-y=2\ \text{と等積変形} & \text{2直線への距離と菱形} & \text{凸性と帯の包除} & T_+\cup T_-\ \text{と三次不等式}\\ \text{本解} & \text{別解1} & \text{別解2} & \text{参考解1・2} \end{array}\\ \Downarrow\\ \mathcal{E}=\text{正六芒星}\ \bigl(\text{外側頂点の半径}\ 2,\ \text{内側頂点の半径}\ \tfrac{2}{\sqrt3}\bigr),\qquad [\mathcal{E}]=2\cdot2\sqrt3=4\sqrt3 \end{array} $$

6.2 解答一覧

設問答根拠
(1)$-\dfrac{23}{27}\leqq\sin\theta\leqq\dfrac{23}{27}$視点 $\mathrm{A}$ からの2接線,$\sin\beta=\frac13$,$3\beta < \frac{\pi}{2}$,3倍角の公式
(2)$4\sqrt3$$\overrightarrow{\mathrm{PR}}$ の偏角による正六芒星の決定,長方形 $2\times2\sqrt3$ への等積変形

6.3 数学的教訓

  • $z-\alpha$ をベクトル $\overrightarrow{\mathrm{RP}}$ と読めば,累乗の偏角は「視点から円を見る方向」の倍数になり,条件は角度だけで書ける。$w=0$ の除外は $\mathrm{P}\neq\mathrm{R}$ として自動的に処理される。
  • 累乗写像の実数性・符号は,展開する前に偏角の離散条件へ引き戻す。指数 $n$ のとき,正負の実数に対応する方向は交互に並ぶ $2n$ 方向である。
  • 点から円を見る方向の範囲は2接線で決まる。(1) の視点 $\mathrm{A}$ と (2) の視点 $\mathrm{R}$ は同じ図で処理でき,視野の端が接線であることから,存在範囲の境界は直線になる。
  • 視点を固定した原座標(角度で判定)と,視点を原点に移した相対座標(距離で判定)は,同じ状況の二つの表現である。相対座標では「距離が $1$ 以下」と「垂線の足が半直線の側」の2条件が必要になる。
  • 対称性は条件全体について確かめる。正負を入れ替える回転でも,正負について対称な連言は不変である。
  • 必要条件($\rho\leqq2$)で止めず,向きによる可否まで決める。三層構造 $\frac{2}{\sqrt3}$,$2$ が領域の骨格である。
  • 同じ正六芒星が,視野・半直線への距離・交差本数・零和という異なる構造から得られる。解法の違いは「何を先に固定するか」の違いである。
  • 境界の直線がすべて原点から距離 $1$ にある星形領域では,面積は等積変形(長方形 $2\times2\sqrt3$)や周長の半分で求まる。
    1. の単調性の確認 $3\beta < \frac{\pi}{2}$ は,$\sin\beta=1/\rho$ のもとで (2) の外側の臨界条件 $\rho > 2$ と同値であり,小問の誘導は本問の構造の一部を切り出している。
投稿日:10日前
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医学部・難関大受験生の指導を行っています。

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