36
現代数学解説
文献あり

D加群超入門

7864
0
$$\newcommand{bbC}[0]{\mathbb C} \newcommand{bbN}[0]{\mathbb N} \newcommand{bbR}[0]{\mathbb R} \newcommand{bbZ}[0]{\mathbb Z} \newcommand{cO}[0]{\mathcal O} \newcommand{Coker}[0]{\operatorname{Coker}} \newcommand{End}[0]{\operatorname{End}} \newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{Image}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{lto}[0]{\longrightarrow} \newcommand{RHom}[0]{\operatorname{RHom}} \newcommand{tl}[0]{\widetilde} $$

はじめに

こんにちは!今回は$D$加群について簡単に説明したいと思います.$D$加群は佐藤幹夫によって提唱されて柏原正樹により理論が構築されたもので,現在では様々な分野に顔を出すようになっています.以下では多項式係数の線形微分方程式の話からどのように$D$加群につながっていくか解説していきます.

今回は微分方程式は全て線形なものを考えるので,以下では単に微分方程式と書きます.また,話を簡単にするために多項式係数の微分方程式だけ考えることにします.正則函数係数でも考えられますが,話はずっと難しくなります.

今回の予備知識

環と加群

環と加群の簡単な知識を仮定します.同形は$\simeq$であらわします.環$R$に対して$R$-加群の間の準同形$R$-加群の射とも呼び,二つの左$R$-加群$M,N$に対して,それらの間の射全体のなす集合を$\Hom_R(M,N)$と書きます.

ホモロジー代数

$R$上の加群の射の列$A \xrightarrow{f} B \xrightarrow{g} C$完全であるとは,$\Ker g=\Image f$となることをいいます.長い射の列についても全ての連続する二つの射について完全であるとき完全であるといいます.列$0 \to A \to B \xrightarrow{g} C$が完全であることと$A \simeq \Ker g$であることは同値です.$\Coker$についても同様です.

圏論についてはほとんど使いませんが函手という言葉だけ使います(函手の定義はここでは述べません).環$R$上の左加群$X$に対して,$\Hom_R(-,X)$は函手になります.つまり$(-)$の部分に左$R$-加群を入れると加群が出て,射を入れると加群間の射が出てきて,それらが両立条件を満たします.実はこの$\Hom$函手は次のように左完全函手になります.

$\Hom$函手の左完全性

$R$上の左加群$X$と完全列$A \to B \to C \to 0$に対して,列
$$ 0 \to \Hom_R(C,X) \to \Hom_R(B,X) \to \Hom_R(A,X) $$
は完全である.

微分作用素がなす非可換環

$\bbC$上の$1$変数の微分方程式$\displaystyle \sum_{i=0}^{N} p_i(z) \frac{d^i}{dz^i} u=0$を考えてみましょう.ここで$p_i(z) \ (i=0,\dots, N)$$\bbC$係数の$z$の多項式です.一回の微分作用素$d/dz$を単に$\partial$と書いてしまいます.そうすると方程式は$\sum_{i=0}^{N} p_i(z) \partial^i u=0$と書けます.さらに$P(z,\partial)=\sum_{i=0}^{N} p_i(z) \partial^i$としてしまって,これが函数$u$に作用していると思うと方程式は$P(z,\partial)u=0$と簡単に書けます.

さて,ここで導入した$P(z,\partial)$はどこの元だと思えばよいでしょうか?いろいろな考え方があると思いますが,$D$加群の理論では$P(z,\partial)$微分作用素のなす非可換環$D$に属していると考えます.

微分作用素環$D$

二つの元$z,\partial$から生成される$\bbC$代数で関係式$[\partial,z]:=\partial z -z \partial=1$を満たすものを$D_1$と書く.もっと一般に$z_i, \partial_i \ (i=1,\dots,d)$から生成される$\bbC$代数で関係式$[\partial_i,z_i]=1, [\partial_i,z_j]=0 \ (i \neq j)$を満たすものを$D_d$と書き,$d$変数のワイル代数と呼ぶ.

以下,記号を簡単にするために次元が明らかな場合は$D_d$を単に$D$と書きます.さて,定義の関係式は何でしょうか?これは積の微分法則,つまりライプニッツ則に対応します.実際,函数$u$$\partial z$を作用させることを考えると
$$ (\partial z)u=\partial (zu) = u+z\partial u=(1+z\partial)u $$
となるので,作用素としては$\partial z - z\partial =1$を満たさなければなりません!これで$P(z,\partial)$が住んでいる場である非可換環$D$ができました.

微分方程式の解空間を代数的に考える

話を戻して微分方程式$P(z,\partial)u=0$を考えてみましょう.この解空間は代数的にはどのように考えられるでしょうか?それにはまず解をどの範囲で求めるかを考えないといけません.ここではとりあえず解を$\bbC$上の正則函数$\cO=\cO(\bbC)$の範囲で求めることにしましょう.

ここで天下り的に$P$を右からかける写像$\cdot P \colon D \to D$を考えてみましょう(理由は下で分かります).そして,この写像の余核を$M:=\Coker(\cdot P)=D/D \cdot P$とします.すると,次の左$D$加群としての完全列が存在します:$D \xrightarrow{\cdot P} D \to M \to 0$.この完全列に左完全函手$\Hom_{D}(-,\cO)$を施すと完全列
$$ 0 \lto \Hom_{D}(M,\cO) \lto \Hom_{D}(D,\cO) \xrightarrow{{}^t(\cdot P)} \Hom_{D}(D,\cO)$$ が得られます.ここで${}^t(-)$は転置写像をあらわします.同形$\Hom_{D}(D,\cO) \simeq \cO$を通して${}^t(\cdot P)$を見てみると$P$を左からかけることに対応します.これを用いて完全列を書き直してみると
$$ 0 \to \Hom_{D}(M,\cO) \to \cO \xrightarrow{P \cdot} \cO$$
となります.しかし,これをよく見てみると
$$ \Hom_{D}(M,\cO) \simeq \Ker(P \cdot \colon \cO \lto \cO ) = \{u \in \cO \mid P u=0\} $$
となっています.すなわち$\Hom_{D}(M,\cO)$は微分方程式$Pu=0$の解空間となっています!

上で見たことをまとめると微分方程式が与えられたときに対応する完全列の余核で左$D$加群$M$を定めて,そこに$\Hom_{D}(-,\cO)$を施すことで解空間が得られたわけです.

これって何がうれしいんですか?

上で説明した考え方は微分方程式を単に代数の言葉で書いただけなのでしょうか?実はそうではなくうれしいことがいくつもあります.

微分方程式と解を探す空間を分離できている(微分方程式を函手的に扱える)

うれしいことの一つ目は方程式と解を見つけたい空間を分離できているところです.実際,微分方程式$P(z,\partial)u=0$$\cO$における解の空間は$\Hom_D(M,\cO)$となっており,$\Hom$の左側に$D$加群$M$が右側に解を探したい空間$\cO$が入っています.上で行った議論を見直してみると解を探す空間$\cO$$C^\infty$級函数の空間$C^\infty$や佐藤超函数の空間$\mathcal B$に取り替えても問題ないことが分かります.つまり,$\Hom_D(M,-)$という函手を考えたい函数空間に作用させることで微分方程式を顕現させることができるのです!函数の情報を含まない方程式の純粋な情報が$M$に乗っていると思えるわけです.微分方程式ではなくて$M$が本質的に思えそうな理由は下で別の角度からも説明します.

連立の方程式(線形方程式系)も同様に扱える

さきほどは$1$変数の一つの微分方程式$P(z,\partial)=0$$D$加群を用いて考えましたが,実は$D$加群を用いて$d$変数の連立微分方程式(微分方程式系)も全く同じように扱うことができるのです.実際,微分方程式系
$$ \begin{cases} P_{11}(z,\partial)u_1+\dots+P_{1n}(z,\partial)u_n=0 \\ \hspace{70pt} \vdots \\ P_{m1}(z,\partial)u_1+\dots+P_{mn}(z,\partial)u_n=0 \end{cases} \quad P_{ij}(z,\partial) \in D \ (i=1,\dots,m, j=1,\dots,n) $$
についても,成分が$D$である$m \times n$行列$P=(P_{ij}(z,\partial))_{i, j}$を考えて,$M:=\Coker(\cdot P \colon D^{\oplus m} \to D^{\oplus n})$とすることで同じ議論ができます.考えてみてください!(実はおまけのところで少し解説します.)

微分方程式の本質的なところだけを抽出できる

他にうれしいことは,見かけは違うが本質的に同じ微分方程式を$D$加群としては同じだと思って扱えるというものがあります.例を使って説明しましょう.

$\lambda \in \bbC \setminus \{-1\}$として微分方程式
$$ \tag{1} \left(x\partial-\lambda \right)u=0 $$
を考えます.この微分方程式と本質的に同じ見た目は違う微分方程式を次のように作れます.$v(x)=x \cdot u(x)$とおくと,方程式$(1)$
$$ \tag{2} \left(x\partial-\lambda-1 \right)v=0 $$
になります.逆に$\displaystyle u(x)=\frac{1}{\lambda+1}\partial v(x)$とおけば$u$は方程式$(1)$を満たすことが分かります.つまり,$\displaystyle v=x \cdot u,u=\frac{1}{\lambda+1}\partial v$の変換によって方程式$(1)$$(2)$は同値になるのです.別の言い方をすると,未知函数として$u$をとるか$v$をとるかは人為的で微分方程式の本質ではないのですね.この話は$D$加群の言葉を用いて次のように考えることができます.微分方程式$(1)$に対応する$D$加群は
$$ M_u :=\Coker(D \xrightarrow{x\partial-\lambda} D) =D\bigg/D \left(x\partial-\lambda \right) $$
で,$(2)$に対応する$D$加群は
$$ M_v :=\Coker(D \xrightarrow{x\partial-\lambda-1} D) =D\bigg/D \left(x\partial-\lambda-1 \right) $$
なのでした.これらの$D$加群は変換$\displaystyle v=x \cdot u,u=\frac{1}{\lambda+1}\partial v$に対応する写像で同形になるのです.

上では$\bbC$全体で正則な函数を解空間として議論ましたが,方程式$(1),(2)$の解は$0$で正則とは限らないので,解を考えるには$\cO$を用いると少しおかしな点があります.しかし,方程式に対応する$D$加群を考えることはできるので細かい点には突っ込みません.

一般に,与えられた左$D$加群に対して
$$\tag{3} M \simeq \Coker(D^{\oplus m} \xrightarrow{\cdot P} D^{\oplus n}) $$
となる同形を選ぶと,$D^{\oplus n}$の標準的な生成元を使って微分方程式が得られます.このように考えれば実は微分方程式は$D$加群の一つの表現をとったときの具体的な表示だとみなすことができるのです.表現のとりかたは無限にあって,それに応じて対応する具体的表示が変わります.その一例が上で見た微分方程式$(1)$$(2)$だったわけです.この話は線形写像と行列表示の関係に似ています.線形代数では行列表示は基底を取ったときの線形写像の一つの表示だと思うことができたのでした.そこでは線形写像が本質的で行列表示の仕方は無限にありました.このように考えて微分方程式という具体的な表示ではなくもっと本質的な$D$加群を調べようというのが$D$加群の基本的な考え方なのです!

もう少し詳しく言うと,$D$加群理論では$(3)$の表示を持つ,つまり完全列
$$ D^{\oplus m} \xrightarrow{\cdot P} D^{\oplus n} \lto M \lto 0 $$
が存在する$M$から出発して議論を展開します.このような完全列が存在するとき$M$有限表示であるといいます.$D$加群の理論は有限表示な$D$加群を対象としているわけです.

ここまでのまとめ

これで$D$加群の基本的な考え方を説明しました.微分方程式があれば$D$加群$M$を対応させることができて$M$から$\cO$への射全体$\Hom_D(M,\cO)$を考えることで解空間を与えることができることを見ました.また$D$加群を考えることで次のうれしさがあることも見ました:

  1. 方程式そのものと解空間を分けて考えることができる(微分方程式を函手だと思える),
  2. 偏微分方程式系も全く同じアプローチで扱える,
  3. 微分方程式という表示から開放されて本質的な部分を調べることができる.

さて,上では斉次方程式$Pu=0$だけを考えましたが,$D$加群では非斉次なものは扱えないのでしょうか?実はできるのですが,そこでは$\Ext$函手と呼ばれる導来函手が自然にあらわれます.ちょっと進んだ話なので次の節でおまけとして説明してみたいと思います.

おまけ:非斉次線形微分方程式は扱えるの?(少し進んだ話)

ここでは非斉次微分方程式を$D$加群でどう扱うかを説明します.まず注意しないといけないことは,非斉次な場合は微分方程式系が解を持つための必要条件があるということです.簡単な例から考えてみましょう.$u, v_1, v_2 \in \cO_{\bbC^2}(\bbC^2)$として$\bbC^2$上で微分方程式系
$$ \begin{cases} \partial_1u=v_1 \\ \partial_2u=v_2 \end{cases}$$
を考えてみます.このとき,方程式系が解$u$を持つための必要条件は
$$ \partial_2v_1=\partial_1\partial_2 u=\partial_1v_2 $$
です.したがって,上の非斉次微分方程式系を考えるときには,$v_1,v_2$が解を持つための必要条件を満たすときに解$u$が存在するかを問うことが適切です.

この考え方を$D$加群を用いて定式化してみます.$P_{ij}(z,\partial) \ (i=1,\dots,m, j=1,\dots,n)$$d$変数の多項式係数微分作用素,$v_1,\dots,v_m \in \cO=\cO_{\bbC^d}(\bbC^d)$として,$\bbC^N$上の微分方程式系
$$ \begin{cases} P_{11}(z,\partial)u_1+\dots+P_{1n}(z,\partial)u_n=v_1 \\ \hspace{70pt} \vdots \\ P_{m1}(z,\partial)u_1+\dots+P_{mn}(z,\partial)u_n=v_m \end{cases} $$
を考えます.ここでも解は$\cO$の範囲で求めることにします.まず,この方程式系を行列を使って書き直してみます.$D=D_d$$d$変数の微分作用素環として,$m \times n$行列$P=(P_{ij}(z,\partial))_{i,j} \in M(m,n;D)$を考えます.$u={}^t(u_1,\dots,u_n) \in \cO^{\oplus n}, v={}^t(v_1,\dots,v_m) \in \cO^{\oplus m}$を縦ベクトルとみなせば微分方程式系は$Pu=v$と簡単に書けます.この方程式系が解を持つための必要条件は
$$ Q \in D^{\oplus m}, QP=0 \Longrightarrow Qv=0 $$
です.ここで$D^{\oplus m}$の元は横ベクトルとみなしました.例えば上で見た例では
$$ P = \begin{bmatrix} \partial_1 \\ \partial_2 \end{bmatrix},\quad Q = \begin{bmatrix} \partial_2 & -\partial_1 \end{bmatrix} $$
を考えています.したがって,適切な問いは次のようになるはずです:$Q \in D^{\oplus m}, QP=0 \Rightarrow Qv=0$を満たす$v \in \cO^{\oplus m}$に対して$Pu=v$が解を持つかどうかを代数の言葉で表現できるか?

先に種明かしをしてしまうと,次の商空間
$$ \{ v \in \cO^{\oplus m} \mid \text{$QP=0$を満たす$Q \in D^{\oplus m}$に対して$Qv=0$} \} \big/ \{Pu \mid u \in \cO^{\oplus n}\}$$$P$に対応する$D$加群$M:=\Coker(D^{\oplus m} \xrightarrow{\cdot P} D^{\oplus n})$をとって$\Ext_D^1(M,\cO)$となります.つまり必要条件を満たす$v$からなる$\cO^{\oplus m}$の部分空間と$Pu$の形であらわされる$\cO^{\oplus m}$の部分空間のずれを代数的に表示できるのです!以下はこれについて説明しましょう.まず$P$に付随した完全列
$$ D^{\oplus m} \xrightarrow{\cdot P} D^{\oplus n} \lto M \lto 0 $$
を考えます.そこで$K := \Ker(\cdot P) = \{ Q \in D^{\oplus n} \mid QP=0\}$とおくと,$K$は解を持つための必要条件に出てくる$Q$をすべて集めたものになっています.さらに$I:=\Image(\cdot P)$とおくと次の二つの短完全列が得られます:
$$ \begin{align} & 0 \lto K \lto D^{\oplus m} \lto I \lto 0, \label{eq:apex1} \tag{4} \\ & 0 \lto I \lto D^{\oplus n} \lto M \lto 0. \label{eq:apex2} \tag{5} \end{align} $$
さて,完全列$(4)$に左完全函手$\Hom_D(-,\cO)$を施すと完全列
$$ 0 \lto \Hom_D(I,\cO) \lto \Hom_D(D^{\oplus m},\cO) \lto \Hom_D(K,\cO) $$
が得られます.同形$\Hom_D(D^{\oplus m},\cO) \simeq \cO^{\oplus m}$を通して,この完全列から
$$ \tag{6} \Hom_D(I,\cO) \simeq \{ v \in \cO^{\oplus m} \mid Qv=0 \ (\forall Q \in K) \}$$
となることが分かります.この同形は$\Hom_D(I,\cO)$が解を持つための必要条件を満たす$v \in \cO^{\oplus m}$全体のなす空間であることを意味しています.一方で完全列$(5)$に左完全函手$\Hom_D(-,\cO)$を施すと,完全列
$$ \tag{7} 0 \lto \Hom_D(M,\cO) \lto \Hom_D(D^{\oplus n},\cO) \lto \Hom_D(I,\cO) $$
が得られます.同形$\Hom_D(D^{\oplus n},\cO) \simeq \cO^{\oplus n}$および$(6)$を使うと,完全列$(7)$における最後の射は
$$ \cO^{\oplus n} \xrightarrow{P \cdot} \{ v \in \cO^{\oplus m} \mid Qv=0 \ (\forall Q \in K) \}$$
と同一視されます.したがって,$v$が必要条件を満たすときに常に$Pu=v$が解を持つことは完全列$(7)$の最後の射が全射であることと同値であることが分かります.しかし,函手$\Hom_D(-,\cO)$は左完全であって最後の射は全射になるとは限りません.この射がどれくらい全射ではないかを測るものが$\Ext$函手と呼ばれるものなのです.つまり,完全列をさらに右に引き伸ばして,完全列
$$ 0 \to \Hom_D(M,\cO) \to \Hom_D(D^{\oplus n},\cO) \to \Hom_D(I,\cO) \to \Ext^1_D(M,\cO) \to \Ext^1_D(D^{\oplus n},\cO) \to \cdots $$
が得られるように$\Ext^1_D(-,\cO)$を定義することができます.また,この完全列をさらに右に伸ばしていけるように$\Ext^2,\Ext^3,\dots$も定義することもできます.

上で出てきた函手の列$\{\Ext^k\}_k$$\Hom$函手の右導来函手 (right derived functor) と呼ばれるものです.導来函手はホモロジー代数で重要な役割を果たす対象です.構成や性質について詳しくはホモロジー代数の教科書を見てください.

ここでは$\Ext^k$の詳細については説明しませんが,$\Ext^k_D(D^{\oplus l},\cO)=0 \ (k, l \in \bbZ_{>0})$が成立します.よって,完全列
$$ 0 \lto \Hom_D(M,\cO) \lto \Hom_D(D^{\oplus n},\cO) \lto \Hom_D(I,\cO) \lto \Ext^1_D(M,\cO) \lto 0$$ が得られます.この完全列と上で見た同一視により,
$$ \Ext^1_D(M,\cO) \simeq \{ v \in \cO^{\oplus m} \mid Qv=0 \ (\forall Q \in K) \} \big/ \Image(P \cdot \colon \cO^{\oplus n} \to \cO^{\oplus m})$$
が分かりました.このように$\Ext^1_D(M,\cO)$は微分作用素$P$に付随した非斉次方程式を考える際に重要な意味を持っていて,より高次の$\Ext^k_D(M,\cO)$たちも$P$に関する意味のある情報を含んでいるのです.

さいごに

今回は$D$加群の考え方について説明しました.$D$加群のテキストにはお気持ちがあまり書かれていないことが多いので詳細を犠牲にして大雑把な説明をしてみました.内容は[柏原正樹:代数解析概論]の序論・[J-P. Schneiders: An introduction to D-modules]のイントロ・[堀田良之:加群十話]の第9話を参考にしました.

実は$D$加群は一般の複素多様体や代数多様体上でも考えることができます.また微分方程式を考える際には,まず局所的に解があるかを考えてそれを広げるということも考えると思いますが,これはという道具を使うことによって代数的に扱うことができます.このあたりのことについてはまたの機会に説明したいと思います.ありがとうございました!

参考文献

[1]
堀田良之, 加群十話―代数学入門, すうがくぶっくす, 朝倉書店, 1988
[2]
堀田良之, 代数入門:群と加群, 数学シリーズ, 裳華房, 1987
[3]
柏原正樹, 代数解析概論, 岩波書店, 2008
[4]
J.-P. Schneiders, An introduction to D-modules, Bull. Soc. Royale Sci. Liège, 1995, pp. 223–295
[5]
Ryoshi Hotta, Kiyoshi Takeuchi, and Toshiyuki Tanisaki, D-Modules, Perverse Sheaves, and Representation Theory, Progress in Mathematics, Birkhäuser, 2007
投稿日:20201114

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

microsupport
microsupport
155
40288
層理論が好きです.広い意味での代数解析についての記事を書いています.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中