$$\newcommand{AA}[0]{\mathcal{A}}
\newcommand{CC}[0]{\mathcal{C}}
\newcommand{DD}[0]{\mathcal{D}}
\newcommand{equiv}[0]{\Leftrightarrow}
\newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}}
\newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}}
\newcommand{imp}[0]{\Rightarrow}
\newcommand{implies}[0]{\Rightarrow}
\newcommand{inj}[0]{\hookrightarrow}
\newcommand{mod}[0]{\operatorname{\mathsf{mod}}}
\newcommand{Mod}[0]{\operatorname{\mathsf{Mod}}}
\newcommand{proj}[0]{\operatorname{\mathsf{proj}}}
\newcommand{surj}[0]{\twoheadrightarrow}
$$
多元環の表現論界隈では、よく体$k$上の線形圏でHom-finiteなKrull-Schmidt圏ものを考えますが、よく知られている通り、次が成り立ちます。
$\CC$を体$k$上の線形圏とする。もし$\CC$がHom-finiteで冪等完備ならばKrull-Schmidt圏である。
たまに上の命題の逆は成り立つのか、つまりHom-finiteでないKS圏があるのか何となくぼんやり疑問に思っていました。が普通にあったのでここにメモすることにします。
Krull-Schmidtな線形圏でHom-finiteでない例
- $\Lambda$を局所$k$代数でベクトル空間として無限次元なものとします(非可換でも可換でもよい)(たとえば$k$上の形式的べき級数環)。すると有限生成射影加群のなす圏$\proj \Lambda$は線形圏です。がいま$\Lambda$は局所環なのでsemiperfectであり、よって$\proj \Lambda$はKrull-Schmidtです(もしくは有限生成射影加群が自由なことからKSの定義がすぐ満たされる)。しかし$\Hom_\Lambda(\Lambda,\Lambda) = \Lambda$は無限次元ベクトル空間なので、この圏はHom-finiteではありません。
- 上の議論のように、より一般に「ベクトル空間として無限次元であるsemiperfect $k$代数$\Lambda$」を取れば$\proj \Lambda$はKSだがHom-finiteではないです。
- また$\mod\Lambda$についても同じく、$R$を可換完備ネーター(半)局所$k$代数でベクトル空間として無限次元なもの(例えばべき級数環)、$\Lambda$を$R$加群として有限生成な$R$代数とすれば、$\mod\Lambda$はKSな線形圏ですが、上と同じ理由から全然Hom-finiteじゃないです。
Krull次元$1$以上の可換環の表現論でめっちゃよく出てくる例ですね。いつも有限次元多元環の世界に住んでいるので感覚が麻痺していましたが、このようにいくらでもあります。
風のうわさで、とある本で線形圏について「Hom-finiteで冪等完備なこと」をKrull-Schmidtの定義として採用しているものがあると聞いたのですが、この例のようによく出てくる圏で反例が普通にあるという話でした。