線形代数で学ぶように、ベクトル空間の次元は一意的に定まります。一般に、可換環も同じ事実が成り立ちます。本記事は、ある程度のクラスの環(特に全ての可換環)で類似が成り立つこと、また成り立たない反例が簡単に構成することを目的としています。
(非可換)環上の加群・自由加群・加群の直和を知っている人です(Hom関手も知っていることが望ましい)
反例の構成の関係上、また宗教上の理由で、加群は右加群とします。またゼロ環を全て除いています。
このため、次元の概念を(非可換)環に拡張しましょう。しかし次元というとKrull次元とぶつかるので、ランク(rank)と普通は呼ばれます。
このとき
が成り立つときをいう。
線形代数的な言い方をすると、この定義はまさに
体でない環では、有限生成加群でも自由加群と限らないので基底を持たない場合があります(反例は各自考えられたし)。
さて、ランクの一意性が成り立つ環には名前がついています。
環
冒頭で宣言したとおり、全ての可換環はIBNを満たします。
証明は、
非可換環についても、可換環の場合から直ちに次の命題が成り立ちます。
代数学で出てくる多くの環はこれを満たすと思われるので安心できます(たぶん解析で出てくる環はIBNが成り立たない環が多くあると思いますが詳しくは知らない)
環
このとき次はよく知られています。
環
が得られる。
さて、反例を構成する準備ができました。簡単に作れます
このとき、
明らかに
で飛ばせば、右
このように一瞬で構成できました(別に
代数学で出てくるたいていの環はIBNを満たすのでIBNは余り気にしなくていいですが、こうやって簡単に反例が作れることを知っておくと知り合いにひけらかす小ネタになるでしょう。