確率変数を「微分する」って、どないするん?
Malliavin微分をひとことで言うたら、
ブラウン運動を生み出しとるノイズをちょびっと変えたときに、確率変数がどない変わるかを測る微分
っちゅうもんや。
せやけど、これは時間に関する微分やないで。ブラウン運動の標本経路を、時間で微分しとるわけでもない。
ブラウン運動の標本経路は、ほとんど確実に至る所で微分でけへん。せやのにMalliavin微分がちゃんと定義できるんは、時間方向に経路を微分しとるんやのうて、ブラウン運動の経路全体を入力とする汎関数を、特別な方向へ動かして微分しとるからや。
ここが最初の大事なポイントやで。
「ブラウン運動で偏微分する」は、そのまま受け取ったら間違いやで
巷ではよう、
Malliavin微分とは、確率変数をブラウン運動で偏微分したもんや
$$
D_tF=\frac{\partial F}{\partial B_t}
$$
みたいに説明されることがある。
直感を伝えるための大ざっぱな言い方としては、気持ちは分かるんや。せやけど、これを通常の偏微分の意味で受け取ったら、厳密には間違いやで。
$D_tF$は、ほかの時刻の値を全部固定して、$B_t$だけを動かす偏微分やない。
さらに、$D_tF$は時間微分でもない。
添字の$t$は「どの時刻のノイズを動かすんか」を表しとるんや。
反例を見たら一発で分かるで。
$$
F=B_T,\qquad 0< t< T
$$
としよか。
もし$B_t$と$B_T$を別々の座標やと思うて、
$$
F=f(B_t,B_T),\qquad f(x,y)=y
$$
と書いたら、通常の偏微分では、
$$
\frac{\partial f}{\partial x}(x,y)=0
$$
や。
つまり、「$B_t$で偏微分する」と考えたら、
$$
\frac{\partial B_T}{\partial B_t}=0
$$
になってまう。
ところが、ほんまのMalliavin微分は、
$$
\boxed{
D_tB_T=1,\qquad 0\leq t\leq T
}
$$
やねん。(定義は後で紹介)
ゼロやのうて、1や。
真正面から食い違っとるやろ。
もう一個、決定的な問題がある。
ブラウン運動の標本経路$\omega\in C_0([0,T])$について、$\omega(t)$だけを$\varepsilon$増やして、ほかの時刻を全部固定したとするやろ。
すると、
$$
\omega^\varepsilon(s)
=
\begin{cases}
\omega(s), & s\neq t,\\
\omega(t)+\varepsilon, & s=t
\end{cases}
$$
となる。
ところが、$\varepsilon\neq0$やったら、この経路は$t$で不連続になってまう。
つまり、
$$
\omega^\varepsilon\notin C_0([0,T])
$$
や。
ブラウン運動の標本空間から外へ飛び出してもうてるんやから、こんな変化を使うて経路空間上の微分を定義するわけにはいかへん。
$$
\boxed{
\text{入力の変化量}
\times
\text{方向ごとの感応度}
=
\text{出力の一次変化}
}
$$
Malliavin微分でも、基本的な考え方はこれと一緒や。
ただし、入力が有限個の実数やのうて、ブラウン運動の経路全体になるんやで。
ブラウン運動の経路全体を入力やと思うねん
時刻区間を$[0,T]$として、ブラウン運動を、
$$
B=(B_t)_{0\leq t\leq T}
$$
とするで。
たとえば、
$$
F=B_T^2,\qquad
F=e^{B_T},\qquad
F=\int_0^T B_s\,ds
$$
なんかは、全部ブラウン運動の経路から決まる確率変数や。
せやから形式的には、
$$
F=F(B)
$$
という、経路空間上の関数やと思える。
有限次元の関数には勾配$\nabla f$があるやろ。
Malliavin微分$DF$は、その勾配をウィーナー空間という無限次元空間へ持っていったもんやと思うたらええ。
有限次元
ウィーナー空間
入力$x\in\mathbb R^n$
ブラウン運動の経路$B$
摂動方向$v\in\mathbb R^n$
ノイズの摂動方向$h\in L^2([0,T])$
勾配$\nabla f(x)$
Malliavin微分$DF$
方向微分$\langle\nabla f(x),v\rangle$
方向微分$\langle DF,h\rangle_{L^2}$
ブラウン経路を、どない動かすん?
さっき説明したとおり、$B_t$という一点だけを持ち上げたら、経路が不連続になってまう。
そこで、
$$
H=L^2([0,T])
$$
と置いて、$h\in H$に対して、
$$
\widetilde h(s)
=
\int_0^s h(r)\,dr
$$
という経路を作るんや。
ほんで、ブラウン経路を、
$$
\begin{aligned}
B_s^\varepsilon
&=
B_s+\varepsilon\widetilde h(s)\\
&=
B_s+\varepsilon\int_0^s h(r)\,dr
\end{aligned}
$$
と動かす。
$$
\mathcal H
=
\left\{
\widetilde h:[0,T]\to\mathbb R
\ \middle|\
\widetilde h(t)=\int_0^t h(s)\,ds,\;
h\in L^2([0,T])
\right\}
$$
をCameron–Martin空間という。
その内積は、
$$
\langle\widetilde h,\widetilde k\rangle_{\mathcal H}
=
\int_0^T h(t)k(t)\,dt
$$
で定めるんや。
$\widetilde h$は絶対連続で、その導関数$h$が$L^2([0,T])$に入っとる。
この$\widetilde h$が、Cameron–Martin空間の元や。
ここでは、
$h\in H=L^2([0,T])$はノイズを変える速さ
$\widetilde h\in\mathcal H$は実際にブラウン経路へ加えるCameron–Martin経路
という役割分担になっとる。
Cameron–Martinの定理によると、この方向にブラウン経路を平行移動しても、Wiener測度と平行移動後の測度は同値になる。
確率変数は、ほとんど確実に等しいものを同一視した同値類として扱われるから、確率0の集合が保存されるんはめっちゃ大事や。
これが壊れたら、
$$
F(B+\varepsilon\widetilde h)
$$
が$F$の代表元の選び方によって変わってまうからな。
つまりCameron–Martin方向は、確率的な世界をぶっ壊さんとブラウン経路を動かせる方向やねん。
いよいよMalliavin微分を定義するで
決定論的な関数$g\in H$に対して、
$$
W(g)
=
\int_0^T g(t)\,dB_t
$$
と定義する。
有限個の$g_1,\ldots,g_n\in H$と、滑らかな関数$f:\mathbb R^n\to\mathbb R$を使うて、
$$
F
=
f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)
$$
と表される確率変数を、滑らかな円筒汎関数というんや。
名前はごついけど、要するに「ブラウン経路の情報を、有限個のGaussian座標を通して見とる確率変数」やと思えばええ。
ここからがMalliavin微分の定義の核心や。
ブラウン経路をCameron–Martin方向$\widetilde h$へ、
$$
B^\varepsilon
=
B+\varepsilon\widetilde h
$$
と動かしてみる。
このとき、
$$
\widetilde h(s)
=
\int_0^s h(r)\,dr
$$
やから、形式的には、
$$
dB_s^\varepsilon
=
dB_s+\varepsilon h(s)\,ds
$$
と考えられる。
したがって、それぞれのGaussian座標$W(g_i)$は、
$$
\begin{aligned}
W(g_i)(B^\varepsilon)
&=
W(g_i)(B+\varepsilon\widetilde h)\\
&=
\int_0^T g_i(s)\,dB_s^\varepsilon\\
&=
\int_0^T g_i(s)\bigl(dB_s+\varepsilon h(s)\,ds\bigr)\\
&=
\int_0^T g_i(s)\,dB_s
+
\varepsilon\int_0^T g_i(s)h(s)\,ds\\
&=
W(g_i)(B)
+
\varepsilon\langle g_i,h\rangle_H.
\end{aligned}
$$
つまり、ブラウン経路全体を$\widetilde h$方向へ動かすと、$i$番目のGaussian座標は、
$$
W(g_i)
\longmapsto
W(g_i)+\varepsilon\langle g_i,h\rangle_H
$$
と動くわけや。
ここが大事やで。
もとの確率変数は、
$$
F(B)
=
f\bigl(W(g_1)(B),\ldots,W(g_n)(B)\bigr)
$$
やった。
したがって、摂動後には、
$$
\begin{aligned}
F(B+\varepsilon\widetilde h)
=
f\Bigl(
&W(g_1)(B)+\varepsilon\langle g_1,h\rangle_H,\\
&\ldots,\\
&W(g_n)(B)+\varepsilon\langle g_n,h\rangle_H
\Bigr).
\end{aligned}
$$
ここまで来たら、もう普通の多変数関数の方向微分と同じや。
見やすくするために、
$$
X_i=W(g_i)(B),
\qquad
a_i=\langle g_i,h\rangle_H
$$
と置くと、
$$
F(B+\varepsilon\widetilde h)
=
f(X_1+\varepsilon a_1,\ldots,X_n+\varepsilon a_n)
$$
や。
そこで、$F$の$\widetilde h$方向への方向微分を、
$$
\partial_hF
:=
\left.
\frac{d}{d\varepsilon}
F(B+\varepsilon\widetilde h)
\right|_{\varepsilon=0}
$$
と定める。
通常の多変数の連鎖律から、
$$
\begin{aligned}
\partial_hF
&=
\left.
\frac{d}{d\varepsilon}
f(X_1+\varepsilon a_1,\ldots,X_n+\varepsilon a_n)
\right|_{\varepsilon=0}\\
&=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f(X_1,\ldots,X_n)a_i\\
&=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)
\langle g_i,h\rangle_H.
\end{aligned}
$$
つまり、
$$
\boxed{
\partial_hF
=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)
\langle g_i,h\rangle_H
}
$$
や。
この式の意味は、有限次元の連鎖律そのものや。
$i$番目のGaussian座標$W(g_i)$が、
$$
\varepsilon\langle g_i,h\rangle_H
$$
だけ動いて、それに対する$f$の感応度が、
$$
\partial_i f
$$
やから、
$$
\partial_i f
\times
\langle g_i,h\rangle_H
$$
が$i$番目の座標から来る一次の寄与になる。
それを$i=1,\ldots,n$について全部足しているわけやな。
さらに、内積の線形性を使うと、
$$
\begin{aligned}
\partial_hF
&=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)
\langle g_i,h\rangle_H\\
&=
\left\langle
\sum_{i=1}^n
\partial_i f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)g_i,
h
\right\rangle_H.
\end{aligned}
$$
ここで、$h$に依存している部分は最後の内積だけや。
せやから、有限次元で方向微分、
$$
\langle\nabla f,v\rangle
$$
を生み出すベクトル$\nabla f$を「勾配」と呼んだのと同じように、この方向微分を生み出す$H$の元をMalliavin微分として定義するんや。
滑らかな円筒汎関数、
$$
F
=
f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)
$$
に対して、
$$
\boxed{
DF
=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)g_i
}
$$
と定める。
この$H$値確率変数$DF$を、$F$のMalliavin微分というんや。
定義から、どんな$h\in H$に対しても、
$$
\boxed{
\partial_hF
=
\langle DF,h\rangle_H
}
$$
が成り立つ。
標本$\omega$を固定すると、
$$
h
\longmapsto
\partial_hF(\omega)
$$
は、$H$上の連続線形汎関数になっとる。
Rieszの表現定理を使うと、この「方向$h$を入力したら方向微分を返す仕組み」を、一個のベクトル$DF(\omega)\in H$として表せるんや。
つまり、
$$
h
\longmapsto
\partial_hF
$$
という無数の方向微分を、一個のMalliavin微分$DF$へまとめたわけやな。
有限次元でいう勾配そのものや。
$D_tF$って、結局なんやねん?
$DF$は$H=L^2([0,T])$の元やから、時間の関数として、
$$
DF=(D_tF)_{0\leq t\leq T}
$$
と書ける。
具体的には、
$$
\boxed{
D_tF
=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f\bigl(W(g_1),\ldots,W(g_n)\bigr)g_i(t)
}
$$
や。
ブラウン経路を、
$$
B_s^\varepsilon
=
B_s+\varepsilon\int_0^s h(r)\,dr
$$
と動かしたら、
$$
F(B^\varepsilon)
=
F(B)
+
\varepsilon\langle DF,h\rangle_H
+
o(\varepsilon)
$$
となる。
$H=L^2([0,T])$やから、
$$
\boxed{
F(B^\varepsilon)
=
F(B)
+
\varepsilon\int_0^T D_tF\,h(t)\,dt
+
o(\varepsilon)
}
$$
や。
$$
\boxed{
F(B+\varepsilon\widetilde h)-F(B)
=
\varepsilon\int_0^T D_tF\,h(t)\,dt
+
o(\varepsilon)
}
$$
この式が、Malliavin微分の意味をほとんど全部しゃべってくれとる。
この式を一個ずつ読んだら、こうなるで。
$h(t)$は、時刻$t$付近のブラウン増分をどれだけ変えるか
$D_tF$は、その時刻のノイズに対する感応度
$D_tFh(t)$は、時刻$t$付近から生じる一次変化の密度
$\int_0^T D_tFh(t)\,dt$は、全時刻から生じる寄与の合計
$\varepsilon\int_0^T D_tFh(t)\,dt$が、実際の一次変化
っちゅうことや。
せやから、$D_tF$単独が変化量そのものやないで。
$D_tF$を理解するときは、$B_t$という一点だけを動かすんやない。
時刻$t$付近の小区間にあるブラウン増分を変えて、その影響を小区間の長さで割るんや。
これが、通常の偏微分との決定的な違いやで。
基本的な計算例、いってみよか
終端値
$$
F=B_T
$$
なら、
$$
\boxed{
D_tB_T=\mathbf{1}_{[0,T]}(t)
}
$$
や。
特に$0\leq t\leq T$では、
$$
D_tB_T=1
$$
となる。
時刻$t$で入れたノイズは、終端時刻$T$までちゃんと届くからや。
これが、
$$
D_tB_T\neq\frac{\partial B_T}{\partial B_t}
$$
という反例の中身やで。
途中時刻の値
$$
F=B_s
$$
なら、
$$
\boxed{
D_tB_s=\mathbf{1}_{[0,s]}(t)
}
$$
や。
$t\leq s$で入れたノイズは$B_s$まで届くけど、$t>s$で入れたノイズは過去の値$B_s$には届かへん。
未来から過去へ影響は戻らへんわけやな。
終端値の関数
$$
F=\varphi(B_T)
$$
なら、連鎖律を使うて、
$$
\boxed{
D_tF
=
\varphi'(B_T)\mathbf{1}_{[0,T]}(t)
}
$$
や。
たとえば、
$$
D_t(B_T^2)
=
2B_T\mathbf{1}_{[0,T]}(t)
$$
で、
$$
D_t(e^{B_T})
=
e^{B_T}\mathbf{1}_{[0,T]}(t)
$$
や。
決定論的な被積分関数を持つItô積分
$$
F
=
\int_0^T g(s)\,dB_s
=
W(g)
$$
なら、
$$
\boxed{
D_tF=g(t)
}
$$
となる。
Itô積分の被積分関数$g(t)$そのものが、各時刻のノイズへの感応度になっとるんや。
これは、めっちゃ分かりやすい例やな。
ブラウン経路の時間積分
$$
F=\int_0^T B_s\,ds
$$
とするで。
摂動後の経路は、
$$
B_s^\varepsilon
=
B_s+\varepsilon\int_0^s h(r)\,dr
$$
やから、
$$
\begin{aligned}
F(B^\varepsilon)-F(B)
&=
\varepsilon
\int_0^T
\int_0^s h(r)\,dr\,ds\\
&=
\varepsilon
\int_0^T
(T-r)h(r)\,dr
\end{aligned}
$$
となる。
したがって、
$$
\boxed{
D_tF=T-t
}
$$
や。
早い時刻$t$のノイズを変えたら、その影響は長い時間にわたって、
$$
\int_0^T B_s\,ds
$$
へ入り続ける。
影響が残る時間の長さが$T-t$やから、感応度も$T-t$になるんや。
えらいきれいな話やろ。
複数時刻に依存する場合
$$
F=f(B_{t_1},\ldots,B_{t_n})
$$
なら、
$$
\boxed{
D_rF
=
\sum_{i=1}^n
\partial_i f(B_{t_1},\ldots,B_{t_n})
\mathbf{1}_{[0,t_i]}(r)
}
$$
や。
時刻$r$に入れたノイズは、$r\leq t_i$のときだけ$B_{t_i}$まで届く。
せやから指示関数が出てくるんやな。
計算法則は、普通の微分とよう似とるで
Malliavin微分は、滑らかな円筒汎関数に対して、通常の微分と同じ積の微分則と連鎖律を満たす。
$$ D(FG)=F\,DG+G\,DF $$
また、$\varphi:\mathbb R^m\to\mathbb R$が滑らかやったら、
$$ D\varphi(F_1,\ldots,F_m) = \sum_{i=1}^m \partial_i\varphi(F_1,\ldots,F_m)\,DF_i $$
せやから、基本的なMalliavin微分さえ分かったら、複雑な汎関数でも通常の微分と似た感覚で計算できるんや。
一般の確率変数へ広げるで
ここまでの定義は、滑らかな円筒汎関数に対して行うた。
せやけど、実際のMalliavin解析では、微分作用素$D$を極限によって、もっと広い確率変数へ拡張するんや。
たとえば$p\geq1$に対して、
$$
\|F\|_{1,p}
=
\left(
E[|F|^p]
+
E[\|DF\|_H^p]
\right)^{1/p}
$$
というノルムを考える。
ほんで、滑らかな円筒汎関数をこのノルムについて完備化した空間を、
$$
\mathbb D^{1,p}
$$
と書くんや。
こんな拡張がちゃんとできるんは、Malliavin微分$D$が可閉作用素やからや。
直感的には、
$$
F_n\longrightarrow0,
\qquad
DF_n\longrightarrow U
$$
となったときに、勝手に$U\neq0$が出てきて、微分の値が近似列の選び方次第で変わってまう、みたいな無茶苦茶が起こらへんようになっとるんや。
より正確には、$D$の可閉性とは、
$$
F_n\longrightarrow0,
\qquad
DF_n\longrightarrow U
$$
ならば、
$$
U=0
$$
となることや。
これで、有限個のGaussian座標だけに依存する単純な汎関数やのうて、極限として得られる幅広い確率変数についても$DF$を定義できるようになる。
ほんで、Malliavin微分は何の役に立つん?
Malliavin微分は、ただブラウン汎関数を微分して遊ぶための道具やないで。
特に大事なんが、Gaussianの部分積分公式をウィーナー空間上へ持っていけることや。
微分を試験関数から別の確率的な重みへ移すことで、確率変数の密度が存在するか、どれぐらい滑らかか、いうことを調べられる。
実数値確率変数$F$に対する、
$$
\|DF\|_H^2
=
\int_0^T |D_tF|^2\,dt
$$
は、ノイズの摂動によって$F$をどれぐらい動かせるかを表しとる。
これが0やったら、どのCameron–Martin方向へ動かしても、$F$は一次の範囲では反応せえへん。
反対に、これが正やったら、ノイズの変化を$F$がちゃんと拾うとるわけや。
さらに、適切な$F$に対してはClark–Oconeの公式、
$$
F
=
E[F]
+
\int_0^T
E[D_tF\mid\mathcal F_t]\,dB_t
$$
が成り立つ。
つまり、Malliavin微分を条件付き期待値でならしたもんが、マルチンゲール表現の被積分過程として出てくるんや。
金融の言葉でいうたら、リスクやペイオフが各時刻のノイズからどない影響を受けとるかを分解して、ヘッジ戦略につなげられるっちゅうわけやな。
まとめ――Malliavin微分の正体はこれや
Malliavin微分を、
$$
D_tF=\frac{\partial F}{\partial B_t}
$$
という通常の偏微分やと思うたらあかん。
実際、
$$
F=B_T,\qquad t< T
$$
では、通常の偏微分の発想やと0になってまうのに、ほんまのMalliavin微分は、
$$
D_tB_T=1
$$
や。
Malliavin微分が測っとるんは、$B_t$という一点の値への感応度やない。
$$
dB_t
\longmapsto
dB_t+\varepsilon h(t)\,dt
$$
という形で、時刻$t$付近のブラウン増分を変えたとき、その影響がブラウン経路を通じて確率変数$F$へどない伝わるかを測っとるんや。