これは統治行為論アドベントカレンダー2025の記事です。
距離空間$(X,d)$のコンパクト部分集合$A_1, A_2$について、次で定まる量を$A_1$と$A_2$のハウスドルフ距離と呼びます。
$$
\mathrm{d}_H (A_1, A_2) = \inf \{\varepsilon \mid \mathrm{B}(A_1; \varepsilon) \supset A_2, \mathrm{B}(A_2; \varepsilon) \supset A_1 \}.
$$
また、二つのコンパクト距離空間$(X_1,d_1)$と$(X_2,d_2)$の間のグロモフハウスドルフ距離を次で定義します。
$$
\mathrm{d}_{GH} (X_1, X_2) = \inf \{\mathrm{d}_H(\iota_1(X_1), \iota_2 (X_2)) \mid \iota_j : X_j \hookrightarrow Z,\ \iota_j \text{ are embeddings} \}.
$$
コンパクト距離空間からなる点列$\{(X_j,d_j)\}$がコンパクト距離空間$(X_\infty,d_\infty )$にグロモフハウスドルフ収束することを、
$$
\mathrm{d}_{GH}(X_j, X_\infty) \to 0 \text{ as } j \to \infty
$$
で定義します。
この記事のゴールは、筆者が(グロモフハウスドルフ収束で科研費を貰っているにもかかわらず情けないことに)なんも見ずにいけるやろと思って途中までしか示せなかった次の基本的な定理を証明することとしようと思います。
コンパクト距離空間からなる点列$\{(X_j,d_j)\}$は、一様有界かつ一様全有界であるとき、またそのときに限り任意の部分列が収束部分列を含む。
証明に入る前に主張の中に出てきた「一様有界」かつ「一様全有界」の説明をします。
コンパクト距離空間の列$\{(X_j,d_j)\}$が一様有界であるとは、ある定数$D>0$が存在して、
$$
\mathrm{diam}(X_j) < D
$$
がすべての$j$に対して成り立つこととする。
コンパクト距離空間の列$\{(X_j,d_j)\}$が一様全有界であるとは、任意の正数$\varepsilon>0$に対して次を満たす$N$が取れることとする:
任意の$j$に対して$\{x_k\}_{k=1}^N \subset X_j$が存在して、$
X_j = \bigcup_k \mathrm{B}(x_k;\varepsilon).
$
一様有界性の定義に出てくる $\{x_k\}$のことを以降では$X_j$の$\varepsilon-$ネットと呼ぶことにします。
さて、ここで一つ注意ですが、単品の距離空間を考えるときには「全有界ならば有界」が成り立ちましたが、一様が付く場合にはどちらももう一方を導くことはできません。
$X_j$を$j$次元ユークリッド空間の単位球とすると、これはすべて直径$1$なので一様有界であるが、一様全有界ではない。
まぁ、無限次元ヒルベルト空間の単位球が全有界でない有界閉集合の例を与えていることを思い出すとさもありなんといった感じですね。
$X_j$を$\{0, j\} \subset\mathbb{R}$として、距離は$\mathbb{R}$から誘導される距離とする。このとき、$X_j$は直径が$j$なので一様有界ではないが、任意の$\varepsilon$に対して$\varepsilon-$ネットが$\{0,j\}$でとれるので一様全有界である。
さて、一様有界、一様全有界の感じも何となくつかめてきたと思うので定理の証明に入ろうと思います。
まず、$\{(X_j,d_j)\}$の任意の部分列が収束部分列を含むのであれば一様有界かつ一様全有界であることを示します。背理法で示します。まずは、$\{(X_j,d_j)\}$が一様有界でなかったと仮定しましょう。このとき、半径が発散するような部分列が$\{(X_j,d_j)\}$の中から取れます。仮定からこの列は収束部分列を持ちます。ここで、この収束部分列も半径が発散することの注意すると、矛盾が得られます。というのも、あるコンパクト距離空間$(X_\infty,d_\infty)$に収束する点列は、十分先で$\mathrm{diam}(X_\infty) \pm \varepsilon$くらいの直径になるので、これは直径が発散する部分列をとってきたことに反するからです。
同様に、一様全有界でないと仮定すると、ある$\varepsilon$に対して$\varepsilon-$ネットの数が発散していく部分列が取れますが、コンパクト距離空間$(X_\infty,d_\infty)$に収束する列は、十分先で$(X_\infty,d_\infty)$の$\varepsilon/2$-ネットと同じくらいの数の$\varepsilon$-ネットが取れるので、やはり矛盾です。
めでたく、「収束部分列が取れるならば一様有界かつ一様全有界」が示せたので、逆を示します。逆を示すために、一様有界かつ一様全有界な点列$\{(X_j,d_j)\}$に対して、収束先を作ってしまいます。お手本となる議論として、距離空間のコーシー完備化を念頭に置くとわかりやすいです。
まず、次の補題を示します。
$\{(X_j,d_j)\}$はグロモフハウスドルフ距離に関して全有界である。
まずは$\varepsilon$を何かとってきます。このとき、一様全有界性から同じ有限濃度の$\varepsilon$-ネットを一斉に取れます。これらを$\{x^{(j)}_{\alpha}\}_{\alpha=1}^N \subset X_j$と置いておきましょう。このとき$\{(X_j,d_j)\}$からあるユークリッド空間への写像$\Phi$を次で定義します。
$$
\Phi(X_j) = (d_j(x^{(j)}_\alpha,x^{(j)}_\beta))_{1\leq \alpha < \beta \leq N}
$$
このとき、一様有界性から、$\Phi$の像は原点中心のある球の中に含まれています。したがって特に$\{j\}$の中から有限個を選んできて各$\Phi(X_j)$を中心とする半径$\varepsilon$の球で$\Phi$の像を覆うことができます。ここで$|\Phi(X_j) - \Phi(X_k)| < \varepsilon$であれば$d_{GH}(X_j, X_k) < 3\varepsilon$がわかるので、ここから$\{(X_j)\}$の全有界性がわかります。
全有界であることがわかったのであとは$\{(X_j,d_j)\}$の部分列からコーシー列が与えられたとき、それがあるコンパクト距離空間に収束することを示せればOKです。
記号の経済のために最初から$\{(X_j,d_j)\}$がコーシー列であるとしてしまいます。$\widetilde{X}_\infty$を$\Pi_{j} X_j$の部分集合であって次の条件を満たすものとします。
まず、$\{(X_j,d_j)\}$がコーシー列であるので$\varepsilon$に対して十分大きい$N$をとれば$j,k >N$に対して$d_{GH}(X_j,X_k) < \varepsilon$とできます。特に$X_j \sqcup X_k$の上の距離$d_{jk}$であって$d_{jk}(X_j, X_k) <2\varepsilon$となるものが取れます。このような$d_{jk}$を固定したときに、(必要であればさらに十分$N$を大きく取り直して)$j,k >N$のときに$d_{jk}(x_j,x_k) < 2\varepsilon$が成り立つような点列$(x_j) \in \Pi X_j$からなる部分集合を$\widetilde{X}_\infty$とする。
この$\widetilde{X}_\infty$に対して同地関係$\sim$を次で定義します:
$$
(x_j) \sim (y_j) :\Leftrightarrow \limsup d_j(x_j, y_j) =0.
$$
集合としては$X_\infty$を$\widetilde{X}_\infty / \sim$で定義して、距離$d_\infty$を次で定義します:
$$d_\infty([x_j], [y_j]) = \limsup d_j(x_j, y_j).$$
まず、上の定義がwell-defined であることを確認します。$(x_j) \sim (x'_j), (y_j) \sim (y'_j)$であるときに三角不等式から
$$
d_j(x_j,y_j) \leq d_j(x_j, x'_j) + d_j(x'_j, y'_j) + d_j(y'_j,y_j)
$$
がわかります。特に両辺で上極限をとれば
$$
\limsup d_j(x_j, y_j) \leq \limsup d_j(x'_j, y'_j)
$$
がわかります。まったく同様にして逆向きも示せるので代表元の取り方によらずに$d_\infty$が定まっていることがわかります。$d_\infty$が距離であることは手の運動なので省略します。
後は「$(X_\infty, d_\infty)$がコンパクト距離空間である」ことと「$(X_j,d_j)$が$(X_\infty, d_\infty)$にグロモフハウスドルフ収束する」ことを示せばOKです。
まずは$(X_\infty, d_\infty)$がコンパクト距離空間であることを示します。距離空間なので点列コンパクトであることを示せば十分です。$X_\infty$の点列$\{[x_j^\alpha]\}_{\alpha}$を取ります。各$\{x^\alpha_j\} \subset X_j$から収束部分列を取ってこれるので、対角線論法を使って$\{x^\alpha_j\} \subset X_j$たちが一斉に収束列になるような部分列が取れます。さらに対角線論法でもって再び部分列を取って$j$について一様に収束するようにしておきます。記号の経済のために部分列を取った後も引き続き$\{x_j^\alpha\}$で書きます。このとき$[x^\infty_j]$を$x_j^\infty = \lim_\alpha x^\alpha_j$ で定義します。このとき、
$$
d_{jk}(x^\infty_j, x^\infty_k) \leq d(x_j^\infty, x_j^\alpha) + d(x_j^\alpha,x_k^\alpha) + d(x_k^\alpha, x_k^\infty) <6 \varepsilon
$$
とできるので、$(x^\infty_j)$はコーシー列となっているので$X_\infty$の元を定めます。また、
$$
d_\infty ([x_j^\alpha], [x_j^\infty]) = \limsup d_j(x_j^\alpha, x_j^\infty) \to 0 \text{ as } \alpha \to \infty
$$
となり、$[x_j^\infty]$が収束先になっているとわかります。以上で$(X_\infty, d_\infty)$のコンパクト性がわかりました。
次にグロモフハウスドルフ収束を確かめます。$X_j \sqcup X_\infty$上の距離$D_j$を
$$
D_j(x, [x_k]) = \limsup_k d(x, x_k)
$$
で定めれば、$D_j(X_j, X_\infty) < 2\varepsilon$であることが$\{(X_j, d_j)\}$がコーシー列であることから従います。したがって$(X_j,d_j)$は$(X_\infty,d_\infty)$にグロモフハウスドルフ収束していることがわかります。