導入
進数はが考えられるので進での結果からの結果を得ることができるのは自明である.ヘンゼルの補題とはその逆,即ちでの結果を進におけるそれへと持ち上げる「リフト」の存在を言う進数の理論において基本的かつとても重要な補題である.ただ「ヘンゼルの補題」と呼ばれるものには複数の形がある.ここではそれらの違いや関係について調べたい.
ヘンゼルの補題たちの主張と適用例
以下とする.
文献を色々と見るとヘンゼルの補題というとまず次の形が基本のようである:
つまりにおける単純根があれば進整数解へとリフトできるというのである.
を奇素数とする.がで平方剰余ならにヘンゼルの補題を適用することによりであることがわかる(逆にならの両辺をすることでがで平方剰余であることがわかる.).
これは実際には次のように仮定を弱められる:
雪江整数1[1]にヘンゼルの補題として載っているのはこの形である.
についてと選んだとき,よりヘンゼルの補題は適用できないが強いヘンゼルの補題は適用できる.
さて多項式に関するヘンゼルの補題を述べたい.
以下,の係数を還元した多項式をと書くことにする.
多項式のヘンゼルの補題
互いに素(従って共にでない)な多項式が存在して
となるとする.
(このときは原始的多項式でなければならない.これはに対してと定めたときとなることと同値である.つまり簡単に言えばで割れない係数があるということにほかならない.)
このときある多項式が存在して次を満たす.
これはのみならず一般の完備離散付値体において成り立つ.
(ここでがで次数が落ちない,即ち先頭項がの倍数でさえなければであることがわかる.)
既約分解があるのではにおいて, なる1,2次の多項式を用いてと既約分解できる.
においてという表記を何も断りがなく使うのはまずい.それは上の例においてどちらの根を意味するかによって,例えば,であったりであったりするからである.
ヘンゼルの補題たちの関係
本稿の主題が次である:
ヘンゼルの補題の仮定の状況を考える.今においてと分解出来る.ただしはの単純根であるからとは互いに素でなければならない.
ここで多項式のヘンゼルの補題が使えて,あるによって上の分解をリフト出来る.このときだからヘンゼルの補題が従った.
ここで上の証明と同様にして強いヘンゼルの補題を導くことは出来ない.それは強いヘンゼルの補題の仮定の状況ではの可能性が許容されているからである.このときとは互いに素とは言えないので多項式のヘンゼルの補題の仮定を満たさない.