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現代数学解説
文献あり

ヘンゼルの補題の複数の形とそれらの関係

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導入

p進数はmodpが考えられるのでp進での結果からmodpの結果を得ることができるのは自明である.ヘンゼルの補題とはその逆,即ちmodpでの結果をp進におけるそれへと持ち上げる「リフト」の存在を言うp進数の理論において基本的かつとても重要な補題である.ただ「ヘンゼルの補題」と呼ばれるものには複数の形がある.ここではそれらの違いや関係について調べたい.

ヘンゼルの補題たちの主張と適用例

以下fZp[x]とする.

文献を色々と見るとヘンゼルの補題というとまず次の形が基本のようである:

ヘンゼルの補題

f(a0)0(modp), f(a0)0(modp)
を満たすようなa0Zpがあるとき,あるaZpがあって
aa0(modp),f(a)=0.

つまりmodpにおける単純根があればp進整数解へとリフトできるというのである.

pを奇素数とする.a0ZpZmodpで平方剰余ならf(x)=x2a0にヘンゼルの補題を適用することによりa0Zpであることがわかる(逆にa0Zpなら(a0)2=a0の両辺をmodpすることでa0modpで平方剰余であることがわかる.).

これは実際には次のように仮定を弱められる:

強いヘンゼルの補題

あるa0Zpがあってδ1:=ordpf(a0),δ2:=ordpf(a0)2δ2<δ1
の関係にあるとき,あるaZpがあって
aa0(modpδ1δ2),f(a)=0.

雪江整数1[1]にヘンゼルの補題として載っているのはこの形である.

f(x)=x310についてa0=4と選んだとき,ord3(f(a0))=3, ord3(f(a0))=1よりヘンゼルの補題は適用できないが強いヘンゼルの補題は適用できる.

さて多項式に関するヘンゼルの補題を述べたい.

以下FQp:=Zp/pZpfZp[x]の係数をmodp還元した多項式をfFQp[x]と書くことにする.

多項式のヘンゼルの補題

互いに素(従って共に0でない)な多項式g0,h0FQp[x]が存在して

f=g0h0

となるとする.

(このときfZp[x]は原始的多項式でなければならない.これはf(x)=anxn++a0Zp[x]に対して|f|:=max{|a0|p,,|an|p}と定めたとき|f|=1となることと同値である.つまり簡単に言えばpで割れない係数があるということにほかならない.)

このときある多項式g,hZp[x]が存在して次を満たす.
f=gh,degg=degg0,g=g0,h=h0.

これはQpのみならず一般の完備離散付値体において成り立つ.

(ここでfmodpで次数が落ちない,即ち先頭項がpの倍数でさえなければdegh=degh0であることがわかる.)

既約分解x32(x+2)(x2+3x+4)(mod5)があるのでx32Z5[x]においてg(x)x+2(mod5), h(x)x2+3x+4(mod5)なる1,2次の多項式g,hを用いてx32=g(x)h(x)と既約分解できる.

Q5において23という表記を何も断りがなく使うのはまずい.それは上の例においてg,hどちらの根を意味するかによって,例えば,23Q5であったり23Q5であったりするからである.

ヘンゼルの補題たちの関係

本稿の主題が次である:

多項式のヘンゼルの補題ヘンゼルの補題.

ヘンゼルの補題の仮定の状況を考える.今FQp[x]においてf(x)=(xa0)g0(x)と分解出来る.ただしa0modpの単純根であるからg0(x)xa0は互いに素でなければならない.
ここで多項式のヘンゼルの補題が使えて,あるxa, gZp[x]によって上の分解をリフト出来る.このときaa0(modp)だからヘンゼルの補題が従った.

ここで上の証明と同様にして強いヘンゼルの補題を導くことは出来ない.それは強いヘンゼルの補題の仮定の状況ではg0(a0)0の可能性が許容されているからである.このときg0(x)xa0は互いに素とは言えないので多項式のヘンゼルの補題の仮定を満たさない.

参考文献

投稿日:2024215
更新日:2024216
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