4

Integral-almost-quasi-semi-pre-アーベル圏

178
0
$$\newcommand{AA}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{CC}[0]{\mathcal{C}} \newcommand{DD}[0]{\mathcal{D}} \newcommand{equiv}[0]{\Leftrightarrow} \newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{imp}[0]{\Rightarrow} \newcommand{implies}[0]{\Rightarrow} \newcommand{inj}[0]{\hookrightarrow} \newcommand{mod}[0]{\operatorname{\mathsf{mod}}} \newcommand{Mod}[0]{\operatorname{\mathsf{Mod}}} \newcommand{proj}[0]{\operatorname{\mathsf{proj}}} \newcommand{surj}[0]{\twoheadrightarrow} \newcommand{Tor}[0]{\operatorname{Tor}} $$

アーベル圏の亜種コレクション

Preアーベル圏とアーベル圏の間の中間にある加法圏のクラスを集めました。この節の最後に関係が述べられています。

Pre-abelian

加法圏$\CC$pre-abelianであるとは、任意の射が核と余核を持つときいう。

Semi-abelian

Preアーベル圏$\CC$semi-abelianであるとは、次の2つを満たすときをいう。

  • 任意の射$f$$f = i_1 p_1$$p_1$がエピ射、$i_1$が核射となるよう分解できる。
  • 任意の射$f$$f = i_2 p_2$$p_1$が余核射、$i_1$がモノ射となるよう分解できる。
Quasi-abelian、almost-abelian

Preアーベル圏$\CC$quasi-abelian(またはalmost abelian)であるとは、次の2つを満たすときをいう。

  • 核射のpushoutは核射となる。
  • 余核射のpullbackは余核射となる。
Integral

Preアーベル圏$\CC$integralであるとは、次の2つを満たすときをいう。

  • モノ射のpushoutはモノ射となる。
  • エピ射のpullbackはエピ射となる。
アーベル圏

Preアーベル圏$\CC$アーベル圏であるとは、次を満たすときをいう。

  • 任意の射$f$$f = i p$$p$が余核射、$i$が核射となるよう分解できる。

アーベル圏(含めて他のものも)にはいくつかの同値な定義が考えられ、本記事ではその一つの代表的な定義を採用しています。

以上のクラスの関係は下の通りです。

Preアーベル圏$\CC$について次が成り立つ。

  1. $\CC$がアーベル圏ならば$\CC$はintegralである。
  2. $\CC$がアーベル圏ならば$\CC$はquasi-abelianである。
  3. $\CC$がquasi-abelianならば$\CC$はsemi-abelianである。
  4. $\CC$がintegralならば$\CC$はsemi-abelianである。
  5. 上すべては逆は成り立たない、すなわちそれぞれに反例がある。

気持ちがあまり分かんないですよね。自分もそうです。
こういうのは自分で研究で使ったり勉強していじらないと分かった気にならないです。多元環の表現論をやっていると自然とquasi-abelianが出てきます(理由は多分完全圏や1次元以下の表現論と相性がいいので)。
自分はquasi-abelianとintegral quasi-abelianは使ったことがありますが、semi-abelianと、quasi-abelianでないintegral pre-abelianは使ったことがありません。

典型例

まだ貧弱なので気が向いたら加筆します。

多元環の表現論にある程度慣れていることを仮定します。

  • 両側ネーター環$\Lambda$に対して、有限生成射影的右$\Lambda$加群のなす圏$\proj \Lambda$がpreアーベル圏なことと、$\Lambda$の大域次元が$2$以下なことは同値。これを用いて、「preアーベル圏は大域次元$2$以下な環だけたくさんある」と言えます。
  • アーベル圏$\AA$のtorsion class $\mathcal{T}$やtorsion-free class $\mathcal{F}$はquasi-abelianです。実は全てのquasi-abelianはこうして出てくることが知られています(参考文献参照)。
  • アーベル圏$\AA$のtorsion pair $(\mathcal{T},\mathcal{F})$がhereditaryなとき、つまり$\mathcal{T}$がSerre部分圏になっているとき、もう片側$\mathcal{F}$はintegral quasi-abelianです(参考文献参照)。
  • Cohen-Macaulay局所環上の(非可換)整環$\Lambda$について、Cohen-Macalay加群のなす圏が考えられますが、これは基礎環のKrull次元が$2$以下なときpre-abelian、さらに$1$以下なときintegral quasi-abelianです(これは上のtorsion pairの特別な例です)。
  • アーベル圏はアーベル圏です。

Quasi-abelian圏と完全圏との絡み

Quasi-abelianは完全圏を考える上で重要でよく出てきます。次が重要です。

完全圏$\CC$について次は同値である。

  1. $\CC$はquasi-abelianであり、最大の完全圏構造が入っている。
  2. 任意の$\CC$の射$f$に対して、次の二つの分解がとれる:
    • $f = i_1 p_1$で、$p_1$がエピ射、$i_1$がインフレーション。
    • $f = i_2 p_2$で、$p_2$がデフレーションで、$i_1$がモノ射。
  3. $\CC$はpre-abelianであり、任意の核・余核対がconflationとなる。

上の射の分解はたまに便利で使えます。

また、quasi-abelianがあると、部分対象について良いことが成り立ちます。完全圏についての部分対象とはinflationの同値類であり、自然にposetになりますが、束になるとは限りません。アーベル圏の場合に大事な性質は「部分対象全体がモジュラー束になる」ことです(ここからJordan-Hölderが従う)が、例えばquasi-abelianやintegralを課すと次が成り立ちます。

完全圏$\CC$について、次が成り立つ、ただし完全圏構造は最大のものを考える。

  • $\CC$がquasi-abelianならば、部分対象のなすposetは束になる。
  • $\CC$がintegral quasi-abelianならば、部分対象のなす束はモジュラー束になる。

とくに$\CC$がintegral quasi-abelianならば、任意の対象に対してその組成列の長さは存在すれば一意的である。

これについては最後の参考文献を参照。

参考文献

近年の次のプレプリントが今回定義した圏の間の関係や例についてまとまっています。

  • S. Hassoun, A. Shah, S-A. Wegner, Examples and non-examples of integral categories and the admissible intersection property, arXiv:2005.11309.

またquasi-abelian(=almost abelian)についてはRumpさんが様々な仕事をしています。いくつか代表的なものを上げておきます。

  • W. Rump, Almost abelian categories, Cahiers Topologie Geom. Differentielle Categ. 42 (2001), no. 3, 163–225.
    この論文は「全てのtorsion classやtorsion-free classはquasi-abelianであり(これは容易に証明できます)、また逆に任意のquasi-abelianはあるアーベル圏のtorsion classやtorsion-free classとして実現される」という実現定理を示していて、理論上大事です。

  • W. Rump, A counterexample to Raikov’s conjecture, Bull. Lond. Math. Soc. 40 (2008), no. 6, 985–994.
    この論文は、予想「semi-abelianならばquasi-abelianか?」の反例を最初に作ったものです。

  • W. Rump, ∗-modules, tilting, and almost abelian categories, Comm. Algebra 29 (2001), no. 8, 3293–3325.
    この論文には先程の「hereditary torsion pairのtorsion-free側はintegral quasi-abelian」が証明されています。

多元環の表現論や三角圏の研究でquasi-abelianやsemi-abelianが出てくる現象がよくあり、いくつか文献をあげます。

  • T. Bridgeland, Stability conditions on triangulated categories, Annals of Mathematics, pages 317–345, 2007.
    言うまでもなく有名なBridgelendのstabilityの論文です。三角圏のstability conditionがあると、長さ1未満の区間で三角圏をスライスするとquasi-abelianになるらしいです。

  • Y. Liu, H. Nakaoka, Hearts of twin cotorsion pairs on extriangulated categories, J. Algebra, 528:96–149, 2019.
    完全圏と三角圏の共通一般化であるextriangulated圏に対して、cotorsion pairの組からheartと呼ばれる部分圏が定まりますが、それがsemi-abelianなことを示した論文です。

  • A. Tattar, Torsion pairs and quasi-abelian categories, arXiv:1907.10025.
    アーベル圏のtorsion pairの組からheartと呼ばれる部分圏が定まりますが、それがquasi-abelianであり、またtorsion pairの組のinterval latticeと、そのheartであるquasi-abelian categoryのtorsion pairのlatticeが同型であることを示しています。

  • H. Enomoto, The Jordan-Hölder property and Grothendieck monoids of exact categories, arXiv:1908.05446.
    完全圏でJordan-Hölderの類似や成立条件を考え、特に上の例で述べた「quasi-abelianなら部分対象のなすposetは束」「integral quasi-abelianならばさらにモジュラー束で、長さの一意性が成り立つ(弱いJH性)」ことが示されています。

投稿日:20201118
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

H.E.
H.E.
123
14160
某大ポスドク、詳しくはtwitterまで。自分の分野(環の表現論)でよく使われるfolkloreの解説記事を主に書いています。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中