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現代数学解説
文献あり

Borel-Cantelliの補題とその証明

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本稿では,確率論におけるBorel-Cantelliの補題の証明を与える.ただし,証明の一部は演習問題になっているため,初学者は実際に手を動かしてみるのが良いだろう.

以下,(Ω,F,P)を確率空間とする.また,事象Aといった場合はAFであると約束する.

補題の証明

Borel-Cantelliの補題には,事象の独立性を要するものとそうでないものがある.初めに独立性が不要なものから証明しよう.

事象の列の上極限

事象の列{An}n=1に対して,
lim supnAn=k=1n=kAn
{An}n=1上極限という.

事象の列{An}n=1の上極限lim supnAnも事象であることを確かめよ.

Borel-Cantelliの補題(1)

事象の列{An}n=1に対して,
n=1P(An)<P(lim supnAn)=0
が成り立つ.

Ek=n=kAnとおくと,任意のk=1,2,に対してlim supnAnEkが成り立つ.従って,
(BC1-1)P(lim supnAn)P(Ek)n=kP(An)k0
となり,結論を得る.

事象の列の下極限

事象の列{An}n=1に対して,
lim infnAn=k=1n=kAn
{An}n=1下極限という.

Borel-Cantelliの補題(1)から得られる系

事象の列{An}n=1に対して,
n=1P(An)<P(lim infnAnc)=1
が成り立つことを示せ.

独立性が必要な補題を証明するにあたり,事象の列に対する独立性の定義を確認しておこう.

事象の列の独立性

事象の列{An}n=1独立であるとは,任意の正の整数lおよび任意のl個の正の整数k1<k2<<klに対して
P(i=1lAki)=i=1lP(Aki)
が成り立つことを言う.

Borel-Cantelliの補題(2)

事象の列{An}n=1が独立であるとき,
n=1P(An)=P(lim supnAn)=1
が成り立つ.

任意のk=1,2,に対してP(n=kAn)=1であることを示せばよい.
任意のN=1,2,に対して
1P(n=kAn)1P(n=kNAn)=P((n=kNAn)c)=P(n=kNAnc)(BC2-1)=n=kNP(Anc)=n=kN{1P(An)}(BC2-2)n=kNexp{P(An)}=exp{n=kNP(An)}
である.よって,n=1P(An)=であることに注意すると,
(BC2-3)1P(n=kAn)exp{n=kNP(An)}N0
となり,P(n=kAn)=1を得る.

演習問題

Pの劣加法性

事象の列{An}n=1に対してP(n=1An)n=1P(An)が成り立つことを示せ.

Borel-Cantelliの補題(1) の証明中のBC1-1について,以下の問いに答えよ.
(1) P(Ek)n=kP(An)が成り立つことを示せ.
(2) n=kP(An)k0が成り立つことを示せ.

Borel-Cantelliの補題(2) の証明について,以下の問いに答えよ.
(1) 任意のk=1,2,に対してP(n=kAn)=1であるとき,P(lim supnAn)=1となることを示せ.
(2) 事象A,Bが独立ならばAc,Bcも独立であることを示せ(BC2-1の根拠).ここで,事象A,Bが独立であるとはP(AB)=P(A)P(B)が成り立つことを言う.
(3) x0に対して1xexp(x)が成り立つことを示せ(BC2-2の根拠).
(4) n=kP(An)=であることを示せ(BC2-3の根拠).

問題の解答

問題1

Fσ-加法族であるから,特に次を満たす.
[1] AFならばAc=ΩAF
[2] A1,A2,Fならばn=1AnF
[2]より,任意のk=1,2,に対してn=kAnFである.よって,lim supnAnFを確かめるには次を示せればよい.
[2'] B1,B2,Fならばn=1BnF
B1,B2,Fのとき,[1],[2]より
(n=1Bn)c=n=1BncF
である.よって,再び[1]からn=1BnFとなり,[2']を得る.

問題2

(lim supnAn)c=(k=1n=kAn)c=k=1n=kAnc=lim infnAncであることに注意すると,Borel-Cantelliの補題(1)よりP(lim infnAnc)=1P(lim supnAn)=1となる.

問題3

B1=A1,Bn=Ank=1n1Akn=2,3,)とおくと,{Bn}n=1は次を満たす.

  • BiBj=ij
  • BnAnn=1,2,
  • n=1Bn=n=1An

よって,Pσ-加法性と単調性に注意すると,
P(n=1An)=P(n=1Bn)=n=1P(Bn)n=1P(An)
となり,結論を得る.

問題4

(1)

Pの劣加法性よりP(Ek)=P(n=kAn)n=kP(An)となる.

(2)

任意のk=1,2,に対して,
n=kP(An)=limNn=kNP(An)=limN(n=1NP(An)n=1k1P(An))=limNn=1NP(An)n=1k1P(An)=n=1P(An)n=1k1P(An)
である.よって,仮定よりn=1P(An)<であることに注意すると,
limkn=kP(An)=limk(n=1P(An)n=1k1P(An))=n=1P(An)limkn=1k1P(An)=n=1P(An)n=1P(An)=0
となる.

問題5

(1)

Pの劣加法性に注意すると,
P((lim supnAn)c)=P(k=1(n=kAn)c)k=1P((n=kAn)c)=k=1(1P(n=kAn))=k=10=0
となる.従ってP(lim supnAn)=1P((lim supnAn)c)=1である.

(2)

A,Bの独立性より,
P(ABc)=P(A(AB))=P(A)P(AB)=P(A)P(A)P(B)=P(A)(1P(B))=P(A)P(Bc)
である.さらに,これを用いると
P(AcBc)=P(Bc(ABc))=P(Bc)P(ABc)=P(Bc)P(A)P(Bc)=P(Bc)(1P(A))=P(Ac)P(Bc)
となる.従って,Ac,Bcは独立である.

(3)

f(x)=exp(x)+x1とするとf(x)=exp(x)+1であり,x0において常にf(x)0が成り立つ.よって,f(x)x0において単調増加であり,かつf(0)=0であるから,x0において常にf(x)0となる.すなわち,x0に対して1xexp(x)が成り立つ.

(4)

仮定よりn=1P(An)=であるから,
n=kP(An)=limNn=kNP(An)=limN(n=1NP(An)n=1k1P(An))=limNn=1NP(An)n=1k1P(An)=n=1P(An)n=1k1P(An)=
となる.

参考文献

[1]
舟木 直久, 確率論, 講座〈数学の考え方〉20, 朝倉書店, 2004
[2]
David Williams, Probability with Martingales, Cambridge Mathematical Textbooks, Cambridge University Press, 1991
投稿日:2023126
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  2. 演習問題
  3. 問題の解答
  4. 問題1
  5. 問題2
  6. 問題3
  7. 問題4
  8. 問題5
  9. 参考文献