どうも,敗血症から脳梗塞でリハビリ入院中のえだまめです.至らぬところがあったらごめんね,全部脳梗塞のせい(カス
今日は留数定理に複素関数論の面白いところが全部持ってかれてると感じたんで,せめて数学科の人はリーマン面のことを知っててほしいなと思い綴っていきます.
まずは分枝の説明から.
対数関数
複素数が定義域にある$\log$は値が無限個ある.なぜかというと,$z=re^{i\theta}$とおいたとき対数関数は$e^w=z$の解で定義されるが,$e^{i\pi}=-1$より$e^{2i\pi}$を何回かけても値は変わらないので,対数関数はその分を考慮しないといけない.つまり$n \in \mathbb{Z}$をとって
$$\begin{array}{rcl}
e^w = re^{i\theta}\times e^{2i\pi n} & \Leftrightarrow & \log z = w = \log r + i\theta + 2\pi i \times n
\end{array}$$
となる.複素数に定義される$\log$はこのように多価になってしまうため基準となる値を決めることがある.これが主値だ.今回は
$$\Log z = \log r + i\theta\ \ \ \ \ \ (-\pi<\theta <\pi)$$
を主値として進めていきたいと思う.本来は$\mathbb{C}$のシートに切り込みを入れ厳密に定義域を決めないといけないがそういうのは教科書に任せよう.こんな記事に厳密性は不要なのだ(面倒くさいだけ).
また連続関数$f(x)$が$e^{f(x)}=e^{\Log z}$を満たしているときに$\log z$の分枝(ぶんし)という.要は他の周期たちだ(他にもいるんだろうか?).
不思議な$2\pi$の周期があると伏線を張ってこの節を閉じよう.
累乗関数
一般の複素数$\alpha$の累乗関数は定義が面倒くさい.ただ何乗して終わりとはいけないのだ.我々が複素数で定義される関数で使えるのは指数関数と対数関数だけだ(対数関数は指数関数の逆関数で定義されてるので実質指数関数だけ.指数関数はオイラーの公式と指数法則に支持されている.).新しい規則はいたずらに導入しない方が綺麗だ.よってこのように累乗関数は定義される.
$$z^{\alpha} = e^{\alpha \log z} = e^{\alpha(\log r + i\theta)+2\pi i \alpha n}$$
しかしこう定義すると多価性が問題に上がってしまう.
例えば簡単に思える$\sqrt{z}=z^{\frac{1}{2}}$もこの定義によると
$$\sqrt{z} = e^{\frac{1}{2}(\log r +i\theta) + \pi in}=\sqrt{r}e^{\frac{i\theta}{2}}\times e^{i\pi n} = \pm\sqrt{r}e^{\frac{i\theta}{2}}$$
という風に$\pm$で多価になってしまう.
$\alpha$が有理数,無理数でそれぞれ何価の関数になるか?また整数ならどうか?
$i^i$の取りうる値をすべて挙げよ.
次に簡単な積分から
$$\int _{re^{i \theta}} z^a dz=\begin{cases} 2i\pi \ \ \ \ (a=-1)\\0 \ \ \ \ \ \ \ \ (a \not = -1)\end{cases}$$
$a\not=-1$のとき
$$\int_{re^{i\theta}} z^a dz= \int_0^{2\pi}(re^{i\theta})^a \cdot ire^{i\theta} d\theta = \left[ \frac{1}{a+1}r^{a+1}e^{i\theta(a+1)} \right]_0^{2\pi}=0
$$
$a=-1$のとき
$$\int_{re^{i\theta}} z^{-1}dz = \int_0^{2\pi}(re^{i\theta})^{-1} \cdot ire^{i\theta} d\theta = [i\theta]_0^{2\pi}=2i\pi$$
原点の周りを一周する形で単項式$z^a$を積分しました.コーシーの積分定理と合わせて留数定理のっ前座に出てくるやつですが,これだけでも面白みがあって示唆に富んでいます.が,少しわかりにくいのでもう少し例題を見てみましょう.
$\sqrt{z}$を複素平面上,原点中心の円上で一周積分したものは0にならない.また二周積分したものは0になる.
$n$は任意の整数とする.一周は以下.
$$\begin{array}{rcl}
\int_{re^{i\theta}} \sqrt{z} dz &= & \int_0^{2\pi} e^{\frac{1}{2}(\log r +i\theta) + 2i\pi n\frac{1}{2}} \cdot ire^{i\theta} d\theta\\
&= & ir\sqrt{r}e^{in\pi} \left[\frac{3}{2i}e^{i\frac{3}{2}\theta}\right]_0^{2\pi}\\
&= & \frac{2}{3}r^{\frac{3}{2}}(-1)^{n+1}\\
\end{array}$$
二周目は前の結果を使って以下になる.
$$\begin{array}{rcl}
\int_{re^\theta} \sqrt{z}dz &= &ir\sqrt{r}e^{in\pi}\left[ \frac{3}{2i}e^{i\frac{3}{2}\theta} \right]_0^{4\pi}\\
&= &0
\end{array}$$
$\sqrt{z}$は$z=0$で正則でないから一周だと経路に依存してしまう.また分枝の偶奇性にも依存していることがわかる.
加えて偶数周なら0になることも簡単にわかる.はい今$\mathbb{Z}_2$を思い浮かべた人はこんな記事を読んでないで自分で教科書をよみなさい.関係たぶん無いんだけどね~
でも偶数周だけ0に戻るのは何か正則性の示唆を感じないですか?
$n$を自然数,$C_n$を複素数平面上,原点回り半径rの円上を$n$周した経路とする.
$\int_{C_n}\log z \ dz = 2\pi in r$
$k$を任意の整数とする.
$$\begin{array}{rcl}
\int_{C_n} \log z \ dz & = &\int_0^{2\pi n} \log (re^{i\theta +2\pi ik}) \cdot ire^{i\theta} d\theta\\
&= &ir\int_0^{2\pi n}e^{i\theta}(\log r + 2\pi ik + i\theta) d\theta \\
&= &ir(\log r \ + 2\pi ik)[-ie^{i\theta}]_0^{2\pi n} + ir\int_0^{2\pi n}i\theta e^{i\theta} d\theta\\
&= & ir \left( \left[ \theta e^{i\theta} \right]_0^{2\pi n}-\int_0^{2\pi n} e^{i\theta} d\theta \right) \\
&= & 2\pi in r
\end{array}$$
こいつは周回すればするほど増えていきますね.しかも分枝に依らない.
値が周期的に0になったり無限に嵩んで言ったり,何が起こってるのでしょうか?
ではそれを見るために次は積分から少し離れて複素平面状の経路にどんな風に関数が依存しているか見てみましょう.
$\varphi_{1\pm}=\sqrt{z}=\pm e^{\frac{1}{2}\log z}$,$\varphi_{2,n}=\log z=\Log z + 2\pi ni$と置く.$x<0$とする.
(1) $\lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \varphi_{1\pm}(x+i\varepsilon) = \lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \varphi_{1\mp}(x-i\varepsilon)$
(2) $\lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \varphi_{2,n}(x+i\varepsilon) = \lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \varphi_{2,n+1}(x-i\varepsilon)$
$x-i\varepsilon = re^{i\tilde{\theta}}$とおく.$\varepsilon\rightarrow0$とすると,偏角は$-\pi$になる.
$$\begin{array}{rcl}
\lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \varphi_{1-}(x-i\varepsilon) &=& -e^{\frac{1}{2}\log (x-i\varepsilon)}\\
&=& \lim_{\varepsilon \rightarrow +0} -\sqrt{r}(\cos \frac{\theta}{2} + i\sin \frac{\theta}{2})\\
&=& i\sqrt{|x|}
\end{array}$$
符号が逆のときも同様.
$x-i\varepsilon = re^{i\tilde{\theta}}$とおく.$\varepsilon\rightarrow0$とすると,偏角は$-\pi$になる.
$$\begin{array}{rcl}
\lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \varphi_{2,n+1}(x-i\varepsilon) &=& \lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \Log re^{i\tilde{\theta}} + 2\pi (n+1)i\\
&=& \lim_{\varepsilon \rightarrow +0} \log r + i\tilde{\theta} + 2\pi (n+1)i\\
&=& \log |x| + (2n+1)\pi i
\end{array}$$
このように$(-\infty ,0]$の境目で分枝の符号が変わっていることが分かる.現代の数学ではこの現象をシートが切り替わると表現している.これがリーマン面だ.
$\sqrt{z}$のリーマン面
実軸の負側で張り合わされている.原点中心の円を二周すると元のシートにもどってくる.これを立体的に表現すると以下の図である.
立体的な$\sqrt{z}$のリーマン面
また$\log z$のリーマン面は永遠にシートが続くので次のようになる.
立体的な$\log z$のリーマン面
そうすと積分値が周期的に0になったり,周回数に応じて値が増えていくのも納得がいくだろう.
$p,q$を互いに素な自然数とする.$z^\frac{p}{q}$のリーマン面を描け.
参考
・神保道夫,”複素関数入門”