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現代数学解説
文献あり

ノート:共形場理論

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疋田CFTの勉強のノートです.もともとpdfで書いてたんで式番号とか消えてますが,気が向いたら直します.

Conformal Field Theoryとは共形変換によって不変な系についての一般論である.

世界には無数の対称性(並進,回転,ローレンツ変換に対する対称性など)がある.共形変換とは空間上の任意の2曲線の交わる角度を保つ変換をいう.並進,回転,スケール変換はその例である.非自明なことは,さらに特殊共形変換とよばれる共形変換があること,そして2次元においては任意の解析的関数が共形変換を生成することである.

目次

  • 座標変換について
  • 共形変換とは
  • EMTと共形変換
  • 共形不変性とスケール不変性の関係
  • 準プライマリ場
  • 2D-CFT
  • 相関関数
  • 共形Ward高橋恒等式
  • 動径量子化
  • virasoro代数
  • Vertex operator algebra
  • 参考文献

座標変換と変換

座標変換(passive transformation)

まず,数学の多様体論における座標変換について解説する.

座標変換(passive transformation)

局所座標系 {U,(x1,xn),ψ}{V,(y1,yn),ϕ}が交わりをもつとき,対応する座標ベクトルの間には以下の変換が成り立つ:
ψϕ1:ϕ(UV)ψ(UV)
これが座標変換である.

gを計量の符号が(p,q)(ただし+p個,q個)
ηij={δij(i=1,,p)δij(i=p+1,,q)}
とする.
局所座標系{U,(x1,xn),ψ}であって,
g=gij(x)dxidxj=ηijdxidxj
と表示できるようなものをローレンツ座標系という.
異なるローレンツ座標系{U,(x1,xn),ψ}{V,(y1,yn),ϕ} が交わりをもつとき,その間の座標変換をローレンツ座標変換という.

ローレンツ座標変換では,多様体上の点は動かさず,あくまで座標を変えている.相対論の文脈では,計量は常にローレンツ座標系のもとで表示されている.

T(r,s)型テンソル場とする.
T=Tj1,,jsi1,,irxi1xirdxj1dxjs=Tj1,,jsi1,,iryi1yirdxj1dyjs
と表示するとき,
「テンソル場の変換則」と知られている以下の公式:
Tj1,,jsi1,,ir=yi1xi1yirxirxj1yj1xjsyjsTj1,,jsi1,,ir
が成立するが,座標変換の観点からは,この公式は単に同じテンソル場を複数の方法で表示した際,その表示の関係を述べていると解釈される.

変換(active transformation)

変換(active transformation)

(M,gM),(M,gM)を計量の符号が(p,q)であるような一般Riemann多様体とする.
Mの局所座標系 {U,(x1,xn),ψ}Mの局所座標系{V,(y1,yn),ϕ}があり,微分同相写像F:UV
yi=Fi(x)

満たすとき,Fを変換という.さらにF
FgM|V=gM|U
を満たすとき(FgM|Vは計量のpullback),ローレンツ変換という.

gM|U,gM|Vを単にgM,gMと書くことにする.また,多様体論の慣例通り,写像yi(x):=Fi(x)を定義し,局所座標yと変換の写像Fを同じ記号で書くことにする.

V上でのgMの局所表示:
gM=gMijdyidyj
を用いて,
FgM(x)=gMij(F(x))yixayjxbdxadxb
とかける.

テンソル場の変換

TU上の(r,s)型テンソル場とする.
pU,θ1,,θrX(U),u1,,usX(U)

(X(U)U上の(1,0)型テンソル場の集合,X(U)U上の(0,1)型テンソル場の集合)
TF(θ1,θr,u1,us)(F(p))=T(F(θ1)F(p),,(Fθr)F(p),((F1))(u1)F(p)),,((F1))(us)F(p)))
によって,V上の(r,s)型テンソル場TFを定める.これを(r,s)型テンソル場の誘導という.

(1,0),(0,1)型テンソル場について,変換によって誘導されたテンソル場を局所座標表示すると,
FXi(x)xi=Xi(F1(y))yixiyi
(F1)Xj(x)dxj=Xj(F1(y))xjyjdyj
となることに注意すると,
T=Tj1,,jsi1,,irxi1xirdxj1dxjs
と局所表示すると,TFの局所座標表示は
TF=Tj1jsi1ir(F1(y))yi1xi1yirxirxj1yj1xjsyjsyi1yirdyj1dyjs
したがって,TFVでの局所座標表示:
TF=Tj1,,jsi1,,iryi1yirdyj1dyjs
と見比べて,
Tj1,,jsi1,,ir=yi1xi1yirxirxj1yj1xjsyjsTj1,,jsi1,,ir
これは座標変換における「テンソル場の変換則」と同じ形である.

共形変換とは

共形変換の定義

統計力学においては,スケール不変性をもつ系が登場する.スケール変換を一般の時空に定式化したい.そこで,共形変換を以下のように導入しよう.

共形変換

(M,gM),(M,gM)を計量の符号が(p,q)であるような一般Riemann多様体とする.
Mの開集合UMの開集合Vに対し,F:UVを微分同相写像として,あるΛ(x)C(U)が存在して
FgM|V=Λ(x)gM|U
を満たすとき,Fを共形変換,Λ(x)をスケール因子という.

局所座標:
g=gμν(x)dxμdxν
を選び,そのpullbackを
Fg=g(x)dxμdxν=xαxμxβxνgαβ(x)dxμdxν
と局所座標表示することができる.g(x)が上の表示で定義されていることに注意.これを物理では
gμν(x)gμν(x)=xαxμxβxνgαβ(x)
と書く.
したがって,局所的には共形変換の条件は
gμν(x)=xαxμxβxνgαβ(x)=Λ(x)gμν(x)
が成立する.特に,xμ=λxμ(スケール変換)
のときは
Λ(x)=λ2
であることが分かる.

e,eを接ベクトルとすると,
gM(e,e)gM(e,e)gM(e,e)=Λ(x)gM(e,e)Λ(x)gM(e,e)Λ(x)gM(e,e)=gM(Fe,Fe)gM(Fe,Fe)gM(Fe,Fe)
より,共形変換は角度を保つ変換であることが分かる.

Λ(x)=1ならローレンツ変換に一致する.つまり共形変換のなす群はポアンカレ群を含んでいる.一般には,点が異なればスケール因子も変化してよい.これは,例えばある場所では拡大し,別の場所では縮小してもよい,ということである.これは時空上ではスケール変換を行うための「原点」に当たるものを定められないことによる.しかしこれではかなり「自由な」変換になってしまわないだろうか?つまり,「共形変換」として上のように定式化したもの中には,予期せず入ってしまった,おかしな変換もまぎれているかもしれない.
そこで,共形変換の無限小変換を調べてみよう.以下,計量の符号は(p,q)=(d,0),すなわちd次元ユークリッド空間であるとする.

無限小共形変換

適切に座標変換を行うことで,局所座標表示のもとでの計量テンソル場の成分gij,gijδijに等しくできる.
無限小共形変換をxμxμ=xμδx=xμϵμ(x)とすると,条件より
gij(x)xixμxjxνdxμdxν=Λ(x)gμνdxμdxν
ϵμxνϵμxνという近似の下,
(LHS)gij(δμiδνjδμiνϵj(x)δνjμϵi(x))dxμdxν=(δabνϵμ(x)μϵν(x))dxμdxν
なので,
μϵν(x)+νϵμ(x)=(1Λ(x))δμν=:f(x)δμν
δμνで添字をつぶすと,
f(x)=2dμϵμ
を得る.(δabδab=dに注意.)
式(1)の両辺にρを作用して
ρμϵν(x)+ρνϵμ(x)=ρf(x)δμν
(1)よりρϵν(x)=f(x)δρννϵρ(x),ρϵμ(x)=f(x)δρμμϵρ(x)を式(3)の左辺に代入して
μ(f(x)δρννϵρ(x))+ν(f(x)δρμμϵρ(x))=ρf(x)δμν
変形して,
2μνϵρ=ρf(x)δμνμf(x)δρννf(x)δρμ
δνμで添字をつぶして
2μμϵρ=(d2)ρf(x)
を得る.
ところで式(1)にρρを作用させて,
μρρϵν(x)+νρρϵμ(x)=ρρf(x)δμν
式(5)よりρρϵν=2d2νf(x),ρρϵμ=2d2μf(x)
を式(6)左辺に用いて
μ((2d)/2)νf(x)+ν((2d)/2)μf(x)=ρρf(x)δμν
よって
(2d)μνf(x))=ρρf(x)δμν
ここでδμνで添字をつぶして
(d1)μμf(x)=0
を得る.
式(8)(9)を観察する.まず,d=1のときは条件が出てこない.d=2では式(8)の左辺が消えて条件が弱くなる.つまり,d=2d>2は本質的に異なる条件が与えられる.
d>2の場合には式(8)(9)により,
μνf(x)=0
を得る.したがって,

d=2の場合は
(1)(2)により,
μϵν+νϵμ=ρϵρδμν
d>2の場合には
μνf(x)=0

共形変換の生成子(d>2)

d>2の場合,式(11)よりf(x)=α+βμxμの形となり,これを式(4)に代入して,μνϵρ=const.を得る.よって,
ϵμ=aμ+bμνxν+cμνρxνxρ
を得る.各項の意味を追っていく.

aμについて

aμは並進に対応することは明らか.

bμνについて

式(1)(2)により,νϵμ=bμν+2cμνρに注意して
μϵν+νϵμ=2dμϵμδμν
であるが,この式の定数項を比較して
bμν+bνμ=2dbρρδμν
ここで行列AA+At=(対角行列)を満たすとき,A=(反対称行列)+(対角行列)とかけることから
bμν=bμνA+bμνD
bμνA,bμνDはそれぞれ反対称,対角行列.
ここで,反対称部分は回転に対応する.
xμxμ=xμbμνAxν
(SO(n,C)のLie代数の自然表現は,反対称Hermite行列であることからわかる.)
対角部分bμνD,bρρ=bρDρはスケール変換:
xμxμ=xμbρρxν
に対応する.

cμνρについて

μνϵρ=2cρνμと式(2)(4)を用いると,
cμνρ=Bμδνρ+Bνδμρ+Bρδμν
ただしBμ:=1dcσμσ
この項による無限小変換は
xμxμ=xμcμνρxνxρ=xμ(Bμδνρ+Bνδμρ+Bρδμν)xνxρ=xμ2(Bνxν)+Bμ|x|2
これは...何だろう?よく分からない変換が出てきてしまった.この変換を特殊共形変換(special conformal transformation)という. この変換については後に解説する.
以上で無限小共形変換(d>2)を導出できた.

共形代数

共形変換のLie代数を構成しよう.スカラー場ϕに変換xμxμ=xμϵμを適用し,新たな場ϕ
ϕ(x)=ϕ(x)
で定義する.このとき,同じ位置での変化量は
δϕ(x)=ϕ(x)ϕ(x)=ϕ(x+ϵ)ϕ(x)=ϕ(x+ϵ)ϕ(x)=ϵμμϕ(x)
である.そこで,並進,回転変換,スケール変換,特殊共形変換の生成子をそれぞれ
Pμ=iμLμν=i(xμνxνμ)D=ixμμKμ=i(2xμxνν|x|2μ)
と定義しよう.この定義は慣例的なもので,Lie代数の基底としては別のものをとることができる.交換関係は,
[Lμν,Lρσ]=i(δνρLμσδμρLνσ+δμσLνρδνσLμρ)[Lμν,Pρ]=i(δνρPμδμρPν)[Lμν,Kρ]=i(δνρKμδμρKν)[D,Pμ]=iPμ[D,Kμ]=iKμ[Kμ,Pν]=2i(δμνDLμν)
となる.

一般次元の(大域的)共形代数

上の交換関係を持つLie代数を一般次元の(大域的)共形代数という.

上の共形代数はユークリッド空間の場合である.ミンコフスキー空間の場合でも,ほとんど同様の交換関係をもつ共形代数を定義できる.また,上のLie代数自体はd=2でも意味をもつことに注意.

(ユークリッド空間の)共形代数はso(1,d+1) と同型になる.
このことは,共形変換は Rd を球面 Sd にコンパクト化したときの等角変換群(共形変換群)が SO(1,d+1)になる,という事実に対応する.
なお,ミンコフスキー空間R1,d1なら共形変換群はSO(2,d),共形代数はso(2,d),
ユークリッド空間Rdなら共形変換群はSO(1,d+1)共形代数はso(1,d+1)に同型になる.

有限共形変換は以下の通り:
xμ=xμaμxμ=Λνμxμxμ=λxμxμ=xμ+Bμ|x|21+2Bνxν+|B|2|x|2
最後のSCTだけがゴツイ形をしているが,「反転変換」
xμxμ=xμ|x|2
を導入すると
xμxμ|x|2xμ|x|2+Bμxμ|x|2+Bμ(xν|x|2+Bν)(xν|x|2+Bν)=xμ+Bμ|x|21+2Bνxν+|B|2|x|2
という反転と並進を組み合わせた変換として理解できる.なお,Bμの一次近似がSCTの無限小変換に一致する.最初から反転を導入しないのは,反転変換は原点の行先が飛んでしまうためである.

EMTと共形変換

EMTは理論を特徴づける重要な場である.理論のもつ共形不変性の条件をEMTに対する条件に書き換えることができる.なお,このsectionの議論はd=2でも有効である.
理論の作用が
S=ddxL(ϕ(x),μ(x))で与えられたとき無限小変換xμxμ=xμϵμ(x)について,Noetherの定理より,並進対称性に対するNoetherカレントとしてEMTを
Tμν=L(μϕ)νϕδμνL
と定義すると,
δS=ddxTμνμϵν
とかける.
さて,一般に,Noetherカレントには全微分だけの不定性があるのだった.その不定性を利用して,EMTをimproveし,対称テンソル場にすることができる.EMTを添字について対称とすると,
δS=12ddxTμν(μϵν+νϵμ)
と書ける.ϵ(x)が無限小の場合を考えよう.理論が共形対称性があるとき,上式右辺は消える.式(1)(2)より,
μϵν+νϵμ=2dσϵσδμν
であったから,
δS=1dddxTμμνϵν
つまり
Tμμ=0
EMTのトレースが消えることがわかる.これは理論が共形不変性をもつための必要条件である.
ϵ(x)が回転変換のとき,対応するNoetherカレントは
jνρμ=TνμxρTρμxν
上式から理論が回転対称性をもつなら,EMTは対称であることがわかる.
ϵ(x)がスケール変換のとき,対応するNoetherカレント
jμ=Tνμxν
とかける.(ただし,EMTをさらにimproveする必要がある.)
上式から理論がスケール対称性をもつなら,EMTはトレースレスであることがわかる.
理論が一般の共形不変性をもつEMTはトレースレス
理論がトレース不変性をもつEMTはトレースレス
が言えた.このことから,物理の気持ちとして

共形不変性≒トレース不変性

と考えられる.

ϵ(x)がSCTのときもNoetherカレントを考えることができるが,複雑なので扱わない.

一般に,スケール不変性をもつ理論は共形不変性をもつと考えられている.共形不変性とスケール不変性の関係について,次sectionでより詳しく述べる.

共形不変性とスケール不変性の関係

前sectionで見たように,一般にはスケール不変性と共形不変性は異なる.しかし,以下のことが知られている.

Zamolodchikov, Polchinski

局所性,ユニタリ性,Poincaré不変性をもつ2次元の理論がスケール不変性をもつとき,理論は共形不変性をもつ.

(参照:J. Polchinski, "Scale and Conformal Invariance in Quantum Field Theory"Nucl. Phys. B303 (1988) 226)
上の定理の証明のスケッチを述べる.スケール不変な理論では,トレースが
Tμμ=μJμ
と全微分で書かれる.EMTのもつ自由度利用して,適切にimproveすることでトレースレスな形にできる.したがって,理論は共形不変性をもつ.

一般の次元d>2では,上の定理は成立しない.実際,d=4ではスケール不変だが共形不変ではないような系の例がある.(参照:Jean-François Fortin, Benjamín Grinstein, Andreas Stergiou, Scale without Conformal Invariance: An Example)しかし,局所性,ユニタリ性,Poincaré不変性をもつ(物理的意味のある)系においては,スケール不変性をもつが共形不変性をもたないような例は知られていない.
(参照:Yu Nakayama, Scale invariance vs conformal invariance)
現在の所,物理学者の認識としては,物理的に意味のある系においては,スケール不変性は共形不変性に持ち上がると考えられている.

では,SCTの意味は一体何だろう?先に述べたように,SCTは反転という意味をもつ.ところで,複素平面において,絶対値を時間を位置に対応させ,原点が無限の過去,無限遠点が無限の未来という座標を考え,量子化を行うことがある.これを動径量子化という.動径量子化の文脈では,SCTは原点と無限遠点を入れ替える,つまり時間を反転させるという解釈ができる.

準プライマリ場

共形不変性をもつ系において,「最も自然な」変換性を示す場が準プライマリ場である.ここで強く強調しておきたいのは,

場を特徴づけるのは変換則

だということである.
(スピン0の)準プライマリ場を定義する.

(スピン0の)準プライマリ場

任意の共形変換F(Fg=Λ(x)g)に対して,
O(x)O(x)=Λ(x)Δ/2O(x)
を満たす場Oを共形次元Δをもつ(スピン0の)準プライマリ場という.Δは実数の定数である.

準プライマリ場はスカラー場やテンソル場とは異なる概念であることに注意.スカラー場は共形次元1の準プライマリ場であるが,逆は成立しない.スカラー場やテンソル場の集合と準プライマリ場の集合は共通部分があるが,包含関係はない.ここで,スカラー場f(x)とは空間の各点に対してスカラー値を対応する場であって,任意の微分同相変換xxによって,
f(x)=f(x)
という変換を受ける場である.

共形次元

O(x)について,スケール変換xμ=λxμのもとで
O(x)O(x)=λΔO(x)と変換するとき,場Oの共形次元はΔであるという.ここで,準プライマリ場でない場に対しても共形次元が定義されることに注意.

※ ここで「一般の場」とは何であるかははっきりしないが,後にもう少しマシな説明をする.

共形次元Δをもつ(スピンlの)準プライマリ場

任意の共形変換F(Fg=Λ(x)g)に対して,
Oμ1μl(x)Oμ1μl(x)=Λ(x)(Δl)/2xν1xμ1xνlxμlO(x)
を満たす場Oを共形次元Δをもつ(スピンlの)準プライマリ場という.Δは実数の定数である.

準プライマリ場の無限小変換

無限小共形変換xμxμ=xμϵμ(x)のもとでスピン0の準プライマリ場がどのように変換するか調べる.
O(x)O(x)=O(x+ϵ)=Λ(x+ϵ)Δ/2O(x+ϵ)=O(x)+[ϵμμ+δd(μϵμ)]O(x)
最後の等式で式(1)を用いた.
よって,
δO(x)=[ϵσσ+Δd(σϵσ)]O(x)
が分かる.上式に
ϵσ(x)=iδμσ(並進),ixσ(スケール変換),i(δσμδτνδσνδτμ)xτ(回転),2BαxαxσBσ|x|2(SCT)
を代入して,各生成子Aの作用AO(x)=δO(x)として,
PμO(x)=iμO(x)DμO(x)=i(xμμ+Δ)O(x)LμνO(x)=i(xμνxνμ)O(x)KμO(x)=i(2xμxνν|x|2μ+2Δxμ)O(x)
以上で場への生成子の作用が理解できた.

2D-CFT

2次元の共形場理論について解説する.式(10)により,d=2における無限小共形変換の条件は
μϵν+νϵμ=ρϵρδμν
で与えられたのだった.書き直すと,
ϵ1(x1,x2)x1=ϵ2(x1,x2)x2ϵ1(x1,x2)x2=ϵ2(x1,x2)x1
これはCauchy-Riemann方程式になっている.つまり,2D-CFTにおいて,任意の正則関数は無限小共形変換の生成子になれる.

w(z)を正則関数とすると,Cauchy-Riemann方程式はdwdz¯=dw¯dz=0
に同値であることに注意.

複素関数論において,正則関数は等角写像であるという事実を思い出してほしい.

したがって,2D-CFTには複素関数論の美しい結果が応用できる.複素座標を
z=x1+ix2,z¯=z1ix2
と組む.微分演算子は
:=z=12(x1ix2),¯:=z¯=12(x1+ix2)
dz=zx1dx1+zx2dx2=dx1+idx2dz¯=z¯x1dx1+z¯x2dx2=dx1idx2
により,
ds2=dx1dx1+dx2dx2=dzdz¯
となる.
ds2=gzzdzdz+gzz¯dzdz¯+gz¯zdz¯dz+gz¯z¯dz¯dz¯
となるためには
gzz=0,gzz¯=gz¯z=12,gz¯z¯=0
gzzなどはこの逆行列として定義する.
ここで,
ϵ(z)=nZϵnzn+1,ϵ¯(z¯)=nZϵ¯nz¯n+1
とローラン展開しよう.
2次元共形代数の生成子として
ln=zn+1,l¯n=zn+1
と定義する.交換関係は
[lm,ln]=(mn)lm+n,[l¯m,l¯n]=(mn)l¯m+n[lm,l¯n]=0
である.

2次元共形代数

上の交換関係によって定義されるLie代数を2次元共形代数という.

d>2の場合と違って,生成子が無限個あることが2次元の特徴である.また,正則変数z,反正則変数z¯は完全に独立していることに注意.よって,以下正則変数のみ注目する場合がある.

lnたちは以下の意味で「局所的」「大域的」な変換に分かれる.n<1の場合,z0の極限で発散してしまう.また,Riemann球面上でz=1/wの座標変換の下では,
ln=(1/w)n+1(dwdz)=(1/w)n1w
この表式はn>1のとき,w0の極限で発散する.したがって,
n=1,0,1
のとき,lnはRiemann球面上で定義される.この意味で大域的な変換となっている.

2次元大域的共形代数

l1,l0,l1,barl1,l¯0,l¯1によって生成されるLie代数を2次元大域的共形代数という.

2次元大域的共形代数は一般次元の大域的共形代数と整合することを確かめる.
実際,
P1=i1=i(l1+l¯1)P2=i1=i(l1l¯1)L21=i(x21x12)=i(l0l¯0)D=i(x11+x22)=i(l0+l¯0)K1=i(2x1(x11+x22)|x|21)=i(l1+l¯1)
などが成立する.

2次元大域的共形代数はよく知られてSL(2,C)/Z2の上半平面への作用:
zaz+bcz+d
(abcd)SL(2,C)/Z2
とみなすこともできる.

準プライマリ場の変換則も書き換えよう.
共形次元Δ,スピン0の準プライマリ場の変換則を導出する.

2D-CFTにおける準プライマリ場の変換則の導出1

任意の共形変換F(Fg=Λ(x)g)に対して,
Oμ1μl(x)Oμ1μl(x)=Λ(x)(Δl)/2xν1xμ1xνlxμlO(x)
を満たす場Oを共形次元Δをもつ(スピンlの)準プライマリ場という.Δは実数の定数である.

2D-CFTにおける準プライマリ場の変換則は以下のように定義される.

zw(z)を大域的共形変換:
zw(z)=az+bcz+d(abcd)SL(2,C)
とする.
O(w,w¯)=(dzdw)h(dz¯dw¯)h¯O(z,z¯)
という変換則をもつ場を共形ウェイト(h,h¯)のプライマリ場という.

上の定義から下の定義を導出できることを見る.
局所座標x,xおよび複素座標z,w
A:=[1i1i]
A[dx1dx2]=[dzdz¯]A[dx1dx2]=[dwdw¯]
の関係で結ばれている.
J,Kをヤコビ行列:
J[dx1dx2]=[dx1dx2]
K[dzdz¯]=[dwdw¯]
とすると,
J1=AK1A1=12[dzdw+dz¯dw¯idzdwidz¯dw¯idzdw+dz¯dw¯dzdw+dz¯dw¯]
である.
よって
[x1x1x1x2x2x1x2x2]=12[dzdw+dz¯dw¯idzdwidz¯dw¯idzdw+dz¯dw¯dzdw+dz¯dw¯]
今,x,xで表示された共形次元Δ,スピン1の準プライマリ場O1,O2があり,
Oμ(x)=Λ(x)(Δ1)/2xνxμO(x)
を満たしている.
複素座標におけるOz,Oz¯,Ow,Ow¯
Oμdxμ=Ozdz+Oz¯dz¯
Oμdxμ=Owdw+Ow¯dw¯
と定義すると,
Oz=O1iO2,Oz¯=O1+iO2Ow=O1iO2,Ow¯=O1+iO2
となる.
Λ(z,z¯)=dzdwdz¯dw¯より,
Ow=O1iO2=Λ(x)(Δ1)/2(xμx1Oμixμx2Oμ)=Λ(x)(Δ1)/2[(x1x1ix1x2)O1+(x2x1ix2x2)O2]=Λ(x)(Δ1)/2[(dzdw)O1i(dzdw)O2]=(dzdw)(Δ+1)/2(dz¯dw¯)(Δ1)/2Oz
スピンが一般の値でも同様.

2D-CFTにおける準プライマリ場の変換則の導出2

無限小共形変換をzz=zϵ(z),z¯z¯=z¯ϵ¯(z¯)とする.
式(16)により,
δO=ϵ11+ϵ22+Δ2(1ϵ1+2ϵ2)
ここで
1=1=+¯2=2=i(¯)ϵ1=ϵ1=12(ϵ+ϵ¯)ϵ1=ϵ1=12i(ϵϵ¯)
これらを代入すると,
δO=[12(ϵ+ϵ¯)(+¯)+12i(ϵϵ¯)i(¯)+Δ2((+¯)12(ϵ+ϵ¯)+i(¯)12i(ϵϵ¯))]O=(ϵ+ϵ¯¯+Δ2(ϵ+¯ϵ¯))O
ここで
Δ=h+h¯,l=hh¯
と定義する.
この(h,h¯)を共形ウェイトという.
いまはl=0なのでh=h¯である.
よって,
δO=(ϵ+ϵ¯¯+h(ϵ+¯ϵ¯))O=(ϵ+hϵ+ϵ¯¯+h¯¯ϵ¯)O
今はスピン0の場合を議論したが,一般にも成立する.
ここで,やや天下りだが,以下のように定義しよう.

zw(z)を任意の正則関数とする.
O(w,w¯)=(dzdw)h(dz¯dw¯)h¯O(z,z¯)
という変換則をもつ場を共形ウェイト(h,h¯)のプライマリ場という.

zw(z)を式(18)のような大域的共形変換とする.
O(w,w¯)=(dzdw)h(dz¯dw¯)h¯O(z,z¯)
という変換則をもつ場を共形ウェイト(h,h¯)のプライマリ場という.

無限小変換w=zϵ(z)の場合,上のような変換則を満たす場の微小変換が
δO=(ϵ+ϵ¯¯+h(ϵ+¯ϵ¯))O=(ϵ+hϵ+ϵ¯¯+h¯¯ϵ¯)O
となることはすぐに確かめられる.

相関関数

CFTにおける著しい性質として,場がもつ共形変換に対する変換則のために,相関関数の形が強く制限されることが挙げられる.
2点関数:
G(z1,z¯1;z2,z¯2)=O1(z1,z¯1)O2(z2,z¯2)
に共形変換を作用させると,
G(z1,z¯1;z2,z¯2)(dwdz1)h1(dw¯dz¯1)h¯1(dwdz2)h2(dw¯dz¯2)h¯2G(w1,w¯1;w2,w¯2)
この変換の形が再現されるような関数しか許されない.
並進・回転対称性より,Gz1z2, z¯1z¯2 のみの関数だと分かる.
G(z1,z¯1;z2,z¯2)=f(z1z2,z¯1z¯2)
スケール変換zλz に対しては
O1(λz1,λz¯1)O2(λz2,λz¯2)λ(h1+h2)λ¯(h¯1+h¯2)G(z1,z2)
よって,
G(z1,z2)1(z1z2)h1+h2(z¯1z¯2)h¯1+h¯2
特殊共形変換に対しては
zw=zcz+1,z¯w¯=z¯cz¯+1
dzdw|z=zj=γj2,w1w2=z1z2γ1γ2,γj=czj+1
となるので,
1(z1z2)h1+h2(z¯1z¯2)h¯1+h¯2=1(z1z2)h1+h2(z¯1z¯2)h¯1+h¯2(γ1γ2)h1+h2(γ¯1γ¯2)h¯1+h¯2γ12h1γ22h2γ¯12h¯1γ¯22h¯2
これが成立するためにはh1=h2,h¯1=h¯2が必要.したがって,2点相関関数は
O(z1,z¯1)O(z2,z¯2)=C(z1z2)2h(z¯1z¯2)2h¯
の形に制限される.

同様にして3点関数もその形が強く制限される.n>3点関数については完全には形が決まらない.

共形Ward高橋恒等式

以下の関係式を共形Ward高橋恒等式という.
T(z)O1On=j=1n(1zzjzj+hj(zzj)2)O1On
ここでT(z)はEMT,は真空期待値である.
共形Ward高橋恒等式より,演算子積展開(Operator Product Expansion)が導かれる.
T(z)O(z)hO(w)(zw)2+wO(w)zw
上の式の気持ちを説明しよう.真空期待値O1ON
は(N点)相関関数とよばれ,場たちの相互作用を表している.我々が興味をもつのは,特に二つの場O1(z),O2(w)が挿入されている点が非常に近くなったとき,つまり,物理的描像としては二つの粒子が近づきzw,強く相互作用するときである.このとき,zwの正則な項は無視でき,特異な項の寄与だけが気になる.それを表示するのがOPEである.一般に,

O1(z),O2(w)について,

O1(z)O2(w)pC12p(z,w)Op(w)
という展開をOPEという.

(は正則な項を無視する同値関係と思ってよい.)
T(z)どうしのOPEは次のようになる.
T(z)T(w)c/2(zw)4+2T(w)(zw)2+wT(w)zw
ここでcは中心電荷という.

動径量子化

二次元平面を
z=exp(τ+iσ),z¯=exp(τiσ)
と座標変換をした上で,τを時間だと思って量子化する方法を動径量子化という.
ここで時間順序積は動径順序
R[A(z)B(w)]={A(z)B(w)|z|>|w|B(w)A(z)|w|>|z|
を与える.

ここで場を演算子におきかえたことに注意.場を演算子となったため,場どうしの積は非可換となっている.なお,演算子の積分は定義されていないが,後にフォローする.

我々の目的はOPEを調べることである.
wまわりの微小な円上の周回積分:
wdzA(z)B(w)
によって,OPE:
A(z)B(w)an(w)(zw)n++a1(w)zw
(zw)1の係数を求めることができる.
ところで,C1,C2を原点中心の半径|w|+δ,|w|δの円(δは十分小さい正の実数)とすると,動径順序の定義から
wdzA(z)B(w)=C1A(z)B(w)C2B(w)A(z)
が成立する.これを形式的に
wdzA(z)B(w)=[0dzA(z),B(w)]
と書くことにする.
ただし0は原点まわりの周回積分を意味する.C1,C2の半径の違いを無視してよいのか問題だが,これは積分の中身の演算子をzについて展開し,z1の係数を取り出すという形式的操作だと思ってほしい.(我々は複素積分を厳密にやりたい訳ではない.)
これは周回積分によってOPEを調べることと演算子の交換関係を調べることが等価であることを表している.

Virasoro代数

Noetherの定理の逆により,不変量があれば,それに対応する無限小変換の生成子がある.
CFTにおいては,EMTが共形不変性の情報をすべて持っているので,EMTに対応する無限小変換の生成子たちの代数を調べることは重要である.
Qϵ=12πi0dzϵ(z)T(z)
と定義すると,
δϵO(z,z¯)=[Qϵ,O(z,z¯)]
という関係がある.
Qϵ=nZϵnLn,ϵ(z)=nZ(ϵnzn+1)
と展開する.ここで
Ln=12πi0dzzn+1T(z),T(z)=nZLnzn+2
である.(z¯についても同様.)
Lnたちは共形変換の生成子の完全な族である.Lnたちのなす代数を調べよう.
[Ln,T(z)]=[12πi0dzzn+1T(z),T(w)]=12πiwdzzn+1T(z)T(w)=12πiwdzzn+1[c/2(zw)4+2T(w)(zw)2+T(w)zw]
ここで公式:
12πiwdzf(z)(zw)n+1=1n!wnf(w)
を適用し,
[Ln,T(z)]=c12(n+1)n(n1)wn2+2(n+1)wnT(w)+wn+1wT(w)
両辺wn+1かけて0周りで周回積分すると
[Ln,Lm]=(nm)Ln+m+c12n(n21)δn+m,0
を得る.ここで部分積分
12πi0dwwn+m+2T(w)=12πi0dw(n+m+2)wn+m+1T(w)
を用いた.

上の交換関係をもつLie代数をVirasoro代数という.

vertex operator algebra

以下のデータ(V,|0,T,Y)であって,一連の公理を満たすものを頂点作用素代数(vertex operator algebra, VOA)という.

  • ベクトル空間 V=nZVn(次数付きベクトル空間)\

  • 真空ベクトル |0V0

  • T:VV

  • 頂点作用素写像(Vertex Operator Map)
    Y(,z):V(End(V))[[z,z1]],aY(a,z)=nZanzn1

  • vacuum axiom:
    Y(|0,z)=idV,
    Y(a,z)|0a+zV[[z]]

  • translation axiom:
    [T,Y(a,z)]=zY(a,z)
    T|0=0

  • locality:
    2つの場 Y(a,z)Y(b,w) が局所的(locality):
    ある整数 N>0 が存在して
    (zw)N[Y(a,z),Y(b,w)]=0
    が成立.

上の公理を満たすものを頂点作用素代数という.さらに以下の公理も満たすものをconformal VOAという.

  • grading:
    Virasoro元ωV2
    Y(ω,z)=nZLnzn2
    が存在し,Ln がVirasoro代数を生成する.
    [Lm,Ln]=(mn)Lm+n+c12(m3m)δm+n,0

参考文献

[1][2][3][4]はCFTの入門書.[1]は物理学徒向け,[3]は数学徒向け,[2]はその中間.[1]か[2]を読んで物理の気持ちを理解して,数学的な内容を[3]で補足するのが良い.[4]は900pくらいある(ただし統計力学,QFTの復習から入っている).辞書のようにして使うのが良い.[5][6]はVOAの教科書.

参考文献

[1]
疋田泰章, 共形場理論入門 基礎からホログラフィへの道, 講談社, 2020
[2]
山田 泰彦, 共形場理論入門 (数理物理シリーズ 1), 培風館, 2006
[3]
江口 徹,菅原 祐二, 共形場理論, 岩波書店, 2015
[4]
Philippe Francesco, Pierre Mathieu, David Senechal, Conformal Field Theory (Graduate Texts in Contemporary Physics), Springer, 1996
[5]
Victor G. Kac, Vertex Algebras for Beginners, Amer Mathematical Society, 1997
[6]
Chongying Dong , James Lepowsky, Generalized Vertex Algebras and Relative Vertex Operators, 1993 , Springer, 1993
投稿日:328
更新日:328
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itou
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  1. Conformal Field Theoryとは共形変換によって不変な系についての一般論である.
  2. 目次
  3. 座標変換と変換
  4. 共形変換とは
  5. 共形代数
  6. EMTと共形変換
  7. 共形不変性とスケール不変性の関係
  8. 準プライマリ場
  9. 場を特徴づけるのは変換則
  10. 2D-CFT
  11. 相関関数
  12. 共形Ward高橋恒等式
  13. 動径量子化
  14. Virasoro代数
  15. vertex operator algebra
  16. 参考文献
  17. 参考文献