疋田CFTの勉強のノートです.もともとpdfで書いてたんで式番号とか消えてますが,気が向いたら直します.
世界には無数の対称性(並進,回転,ローレンツ変換に対する対称性など)がある.共形変換とは空間上の任意の2曲線の交わる角度を保つ変換をいう.並進,回転,スケール変換はその例である.非自明なことは,さらに特殊共形変換とよばれる共形変換があること,そして2次元においては任意の解析的関数が共形変換を生成することである.
まず,数学の多様体論における座標変換について解説する.
局所座標系
これが座標変換である.
とする.
局所座標系
と表示できるようなものをローレンツ座標系という.
異なるローレンツ座標系
ローレンツ座標変換では,多様体上の点は動かさず,あくまで座標を変えている.相対論の文脈では,計量は常にローレンツ座標系のもとで表示されている.
と表示するとき,
「テンソル場の変換則」と知られている以下の公式:
が成立するが,座標変換の観点からは,この公式は単に同じテンソル場を複数の方法で表示した際,その表示の関係を述べていると解釈される.
を
満たすとき,
を満たすとき(
を用いて,
とかける.
(
によって,
(1,0),(0,1)型テンソル場について,変換によって誘導されたテンソル場を局所座標表示すると,
となることに注意すると,
と局所表示すると,
したがって,
と見比べて,
これは座標変換における「テンソル場の変換則」と同じ形である.
統計力学においては,スケール不変性をもつ系が登場する.スケール変換を一般の時空に定式化したい.そこで,共形変換を以下のように導入しよう.
を満たすとき,
局所座標:
を選び,そのpullbackを
と局所座標表示することができる.
と書く.
したがって,局所的には共形変換の条件は
が成立する.特に,
のときは
であることが分かる.
より,共形変換は角度を保つ変換であることが分かる.
そこで,共形変換の無限小変換を調べてみよう.以下,計量の符号は
適切に座標変換を行うことで,局所座標表示のもとでの計量テンソル場の成分
無限小共形変換を
なので,
を得る.(
式(1)の両辺に
(1)より
変形して,
を得る.
ところで式(1)に
式(5)より
を式(6)左辺に用いて
よって
ここで
を得る.
式(8)(9)を観察する.まず,
を得る.したがって,
・
(1)(2)により,
・
を得る.各項の意味を追っていく.
式(1)(2)により,
であるが,この式の定数項を比較して
ここで行列
ここで,反対称部分は回転に対応する.
(
対角部分
に対応する.
ただし
この項による無限小変換は
これは...何だろう?よく分からない変換が出てきてしまった.この変換を特殊共形変換(special conformal transformation)という. この変換については後に解説する.
以上で無限小共形変換(
共形変換のLie代数を構成しよう.スカラー場
で定義する.このとき,同じ位置での変化量は
である.そこで,並進,回転変換,スケール変換,特殊共形変換の生成子をそれぞれ
と定義しよう.この定義は慣例的なもので,Lie代数の基底としては別のものをとることができる.交換関係は,
となる.
上の交換関係を持つLie代数を一般次元の(大域的)共形代数という.
上の共形代数はユークリッド空間の場合である.ミンコフスキー空間の場合でも,ほとんど同様の交換関係をもつ共形代数を定義できる.また,上のLie代数自体は
(ユークリッド空間の)共形代数は
このことは,共形変換は
なお,ミンコフスキー空間
ユークリッド空間
有限共形変換は以下の通り:
最後のSCTだけがゴツイ形をしているが,「反転変換」
を導入すると
という反転と並進を組み合わせた変換として理解できる.なお,
EMTは理論を特徴づける重要な場である.理論のもつ共形不変性の条件をEMTに対する条件に書き換えることができる.なお,このsectionの議論は
理論の作用が
と定義すると,
とかける.
さて,一般に,Noetherカレントには全微分だけの不定性があるのだった.その不定性を利用して,EMTをimproveし,対称テンソル場にすることができる.EMTを添字について対称とすると,
と書ける.
であったから,
つまり
EMTのトレースが消えることがわかる.これは理論が共形不変性をもつための必要条件である.
上式から理論が回転対称性をもつなら,EMTは対称であることがわかる.
とかける.(ただし,EMTをさらにimproveする必要がある.)
上式から理論がスケール対称性をもつなら,EMTはトレースレスであることがわかる.
理論が一般の共形不変性をもつ
理論がトレース不変性をもつ
が言えた.このことから,物理の気持ちとして
共形不変性≒トレース不変性
と考えられる.
一般に,スケール不変性をもつ理論は共形不変性をもつと考えられている.共形不変性とスケール不変性の関係について,次sectionでより詳しく述べる.
前sectionで見たように,一般にはスケール不変性と共形不変性は異なる.しかし,以下のことが知られている.
局所性,ユニタリ性,Poincaré不変性をもつ2次元の理論がスケール不変性をもつとき,理論は共形不変性をもつ.
(参照:J. Polchinski, "Scale and Conformal Invariance in Quantum Field Theory"Nucl. Phys. B303 (1988) 226)
上の定理の証明のスケッチを述べる.スケール不変な理論では,トレースが
と全微分で書かれる.EMTのもつ自由度利用して,適切にimproveすることでトレースレスな形にできる.したがって,理論は共形不変性をもつ.
一般の次元
(参照:Yu Nakayama, Scale invariance vs conformal invariance)
現在の所,物理学者の認識としては,物理的に意味のある系においては,スケール不変性は共形不変性に持ち上がると考えられている.
では,SCTの意味は一体何だろう?先に述べたように,SCTは反転という意味をもつ.ところで,複素平面において,絶対値を時間を位置に対応させ,原点が無限の過去,無限遠点が無限の未来という座標を考え,量子化を行うことがある.これを動径量子化という.動径量子化の文脈では,SCTは原点と無限遠点を入れ替える,つまり時間を反転させるという解釈ができる.
共形不変性をもつ系において,「最も自然な」変換性を示す場が準プライマリ場である.ここで強く強調しておきたいのは,
だということである.
(スピン0の)準プライマリ場を定義する.
任意の共形変換
を満たす場
準プライマリ場はスカラー場やテンソル場とは異なる概念であることに注意.スカラー場は共形次元1の準プライマリ場であるが,逆は成立しない.スカラー場やテンソル場の集合と準プライマリ場の集合は共通部分があるが,包含関係はない.ここで,スカラー場
という変換を受ける場である.
場
※ ここで「一般の場」とは何であるかははっきりしないが,後にもう少しマシな説明をする.
任意の共形変換
を満たす場
無限小共形変換
最後の等式で式(1)を用いた.
よって,
が分かる.上式に
を代入して,各生成子
以上で場への生成子の作用が理解できた.
2次元の共形場理論について解説する.式(10)により,
で与えられたのだった.書き直すと,
これはCauchy-Riemann方程式になっている.つまり,2D-CFTにおいて,任意の正則関数は無限小共形変換の生成子になれる.
に同値であることに注意.
複素関数論において,正則関数は等角写像であるという事実を思い出してほしい.
したがって,2D-CFTには複素関数論の美しい結果が応用できる.複素座標を
と組む.微分演算子は
により,
となる.
となるためには
ここで,
とローラン展開しよう.
2次元共形代数の生成子として
と定義する.交換関係は
である.
上の交換関係によって定義されるLie代数を2次元共形代数という.
この表式は
のとき,
2次元大域的共形代数は一般次元の大域的共形代数と整合することを確かめる.
実際,
などが成立する.
2次元大域的共形代数はよく知られて
とみなすこともできる.
準プライマリ場の変換則も書き換えよう.
共形次元
任意の共形変換
を満たす場
2D-CFTにおける準プライマリ場の変換則は以下のように定義される.
とする.
という変換則をもつ場を共形ウェイト
上の定義から下の定義を導出できることを見る.
局所座標
の関係で結ばれている.
とすると,
である.
よって
今,
を満たしている.
複素座標における
と定義すると,
となる.
スピンが一般の値でも同様.
無限小共形変換を
式(16)により,
ここで
これらを代入すると,
ここで
と定義する.
この
いまは
よって,
今はスピン0の場合を議論したが,一般にも成立する.
ここで,やや天下りだが,以下のように定義しよう.
という変換則をもつ場を共形ウェイト
という変換則をもつ場を共形ウェイト
無限小変換
となることはすぐに確かめられる.
CFTにおける著しい性質として,場がもつ共形変換に対する変換則のために,相関関数の形が強く制限されることが挙げられる.
2点関数:
に共形変換を作用させると,
この変換の形が再現されるような関数しか許されない.
並進・回転対称性より,
スケール変換
よって,
特殊共形変換に対しては
となるので,
これが成立するためには
の形に制限される.
同様にして3点関数もその形が強く制限される.
以下の関係式を共形Ward高橋恒等式という.
ここで
共形Ward高橋恒等式より,演算子積展開(Operator Product Expansion)が導かれる.
上の式の気持ちを説明しよう.真空期待値
は(
という展開をOPEという.
(
ここで
二次元平面を
と座標変換をした上で,
ここで時間順序積は動径順序
を与える.
ここで場を演算子におきかえたことに注意.場を演算子となったため,場どうしの積は非可換となっている.なお,演算子の積分は定義されていないが,後にフォローする.
我々の目的はOPEを調べることである.
によって,OPE:
の
ところで,
が成立する.これを形式的に
と書くことにする.
ただし
これは周回積分によってOPEを調べることと演算子の交換関係を調べることが等価であることを表している.
Noetherの定理の逆により,不変量があれば,それに対応する無限小変換の生成子がある.
CFTにおいては,EMTが共形不変性の情報をすべて持っているので,EMTに対応する無限小変換の生成子たちの代数を調べることは重要である.
と定義すると,
という関係がある.
と展開する.ここで
である.(
ここで公式:
を適用し,
両辺
を得る.ここで部分積分
を用いた.
上の交換関係をもつLie代数をVirasoro代数という.
以下のデータ
ベクトル空間
真空ベクトル
頂点作用素写像(Vertex Operator Map)
vacuum axiom:
translation axiom:
locality:
2つの場
ある整数
が成立.
上の公理を満たすものを頂点作用素代数という.さらに以下の公理も満たすものをconformal VOAという.
[1][2][3][4]はCFTの入門書.[1]は物理学徒向け,[3]は数学徒向け,[2]はその中間.[1]か[2]を読んで物理の気持ちを理解して,数学的な内容を[3]で補足するのが良い.[4]は900pくらいある(ただし統計力学,QFTの復習から入っている).辞書のようにして使うのが良い.[5][6]はVOAの教科書.