ある日の夕方。
下校途中だろう,高校生の男女が歩きながら何か話し込んでいる。
きむち:「ねえ,1日ってどうして24時間しかないのかな」
らっきょ:「はぁ?」
きむち:「いやいや,どう考えても短すぎるでしょ! どうせなら100時間ぐらい欲しくない?」
らっきょ:「嫌だよ,ぶっ倒れちまうよ」
ゆう:「あ,もしかして『単位』の話してる?」
きむち:「してません」
らっきょ:「お帰りください」
ゆう:「酷っ!」
らっきょ:「ゆう先生,仕事は見つかったの?」
ゆう:「プライベートの話はやめて!?」
きむち:「今日は何しに来たの?」
ゆう:「『単位』が分からなくて困っている君たちを助けるためさ☆」
きむち:「だっる…」
らっきょ:「まあまあ,ゆう先生も寂しいんだよ。少しぐらい付き合ってあげようよ」
ここで少し登場人物の紹介をしておこう。
ここに出てきた「小松崎きむち」と「一津川らっきょ」はそれぞれ,高校2年生の女の子と男の子である。
また「ゆう」はこの記事の著者であり,彼らの「先生」でもある。
ゆう:「君たち,いま1日は24時間だって話をしていたね」
らっきょ:「俺はしてないです。きむちが勝手に文句言ってただけです」
きむち:「いやマジで24時間ってあり得なくない!? 遊ぶ時間無いじゃん!」
ゆう:「じゃあここで,『1日は24時間』を式に起こしてみよう」
らっきょ:「何故…」
$$ 1\mathrm{日} = 24\mathrm{時間} $$
ゆう:「これを見て,何か気付くことは?」
きむち:「お腹空いた…」
ゆう:「そうだね,数式にあからさまに『単位』が含まれている事だね!」
らっきょ:「そんなの当たり前じゃ…」
ゆう:「そうかな? 小学校の算数のテストを思い出してごらん。答案の『計算式』を書く欄には,基本的に数字と,"$+$"や"$\times$"といった演算記号しか書かなかったよね?」
らっきょ:「そういや,高校になって急に理科でしれっと,$v = 2\mathrm{m/s}$みたいな式が出始めた気が…」
ゆう:「うんうん。それじゃあ『単位とは何か』探究する旅に,出発だ!」
きむち:「終わった…」
らっきょ:「24時間で足りるかな…」
ゆう:「さあ,温かいコーヒーが入ったよ」
きむち:「やったぁカン◯リーマ◯ム!」
らっきょ:「まあ正直これがなきゃ来ないよな」
二人の高校生は,ゆうの「研究室」(と称している自室)にいた。
壁には黒板があり,本棚にはたくさんの本が並んでいる。
ゆう:「あ,一人2個ずつね。おっと,いま僕が言った,『人』や『個』も単位と言えば単位だね(※厳密には違うけど)」
らっきょ:「俺たち,別に単位のことで悩んでないですよ。小学校のときから使ってるわけだし」
ゆう:「そうかな? 複合的な単位というものがあるだろう」
らっきょ:「複合的…?」
きむち:「わかった! $\mathrm{km/h}$とか,$\mathrm{m^2}$みたいなやつでしょ」
ゆう:「その通り! ご褒美にカ◯ト◯ーマ◯ムもう一個あげよう」
きむち:「やったぁ!」
らっきょ:「確かに,あれはちょっと意味わからなかったかも…。なんか割り算したり,二乗したり…まるで数みたいに,計算ができるものみたいだ。それに,
$$
(\mathrm{速さ}) = (\mathrm{距離})/(\mathrm{時間})
$$
$$
(\mathrm{面積}) = (\mathrm{高さ}) \times (\mathrm{幅})
$$
みたいな公式と,都合よく整合しているように見える」
ゆう:「鋭いねらっきょ君!」
らっきょ:「お菓子もらってくよ」
ゆう:「セルフで取らないで? そう,単位は決して,『なんか数の後ろにくっついてるよくわからん奴』じゃない。数と同じように,計算ができるものなんだ!」
ゆう:「単位について理解するためには,まず『量』の概念を把握する必要がある」
きむち:「量?」
ゆう:「例えば,君たちの目の前にあるコーヒー。それぞれのカップには,大体200ccぐらい入る」
きむち:「うん」
ゆう:「そのお菓子は大体,一個で10gだ」
らっきょ:「それが…?」
ゆう:「僕たちが日常で扱う数値には,ほとんど単位がくっついてる。その『(数値)+(単位)』で表されるものを『量』って呼ぶよ」
きむち:「つまり,『200cc』とか『10g』とかが量ってことね」
ゆう:「そういうこと!」
らっきょ:「でも,今は単位のことを考えてるんでしょ? その単位を使って表される『量』まで出てきたら,余計話がややこしくなるだけじゃないか」
ゆう:「それが逆なんだな。実は,順番的には『量』が先に来るべきなんだ」
らっきょ:「どういうこと…?」
ゆう:「これは,量の『測り方』を考えてみるとわかりやすいよ。扱いやすい例として,『長さ』を考えよう。例えば,このチョークの長さを測ろうとしたら,君たちはどうする?」
きむち:「ものさしを当てる!」
ゆう:「そうだね。そしてその目盛りを読む。でも,実際これは『何をしている』んだろう?」
らっきょ:「何をしているって,言ったままじゃ…」
きむち:「『目盛りいくつ分』かを数えてる?」
ゆう:「素晴らしい!」
きむち:「やった!」
らっきょ:「そうか…! ものさしの目盛りは読みやすくできてるけど,基本に返ればそうだよね。俺たちがチョークの長さを54mmだってわかるのは,『1mm』の目盛り54個分って数えてるからなんだ」
ゆう:「そう。チョークの長さを『54mm』というのは,『"1mm"の54個分』ってこと」
らっきょ:「ちょっと待って…? それってつまり,
$$ 54\mathrm{mm} = 54 \times 1\mathrm{mm} $$
ってこと!?」
ゆう:「その通り! ここで再び,『単位を含んだ式』が出てきたね」
きむち:「量が『(数値)+(単位)』で表されるから,量の計算をするときはいつでも『単位を含んだ式』になるのね」
ゆう:「そういうこと。ここまで来たら,単位を理解するために量が必要な理由がわかるんじゃないかな?」
らっきょ:「単位も量の一種だから…?」
ゆう:「そう! 『mm』っていう単位も,結局はただ『1mm』っていう長さを表しているに過ぎない。ただ僕たちがものの長さを,その『1mm』を基準にして測り,また表そうとするとき,それを『単位』と呼んで頭の"1"を省略するんだね」
きむち:「単位は,『基準となる量』なんだ…」
ゆう:「さっき,単位は数と同じように,計算ができるものだと言ったね。でも,これは単位に限った話じゃなくて,そもそもの量の性質なんだ」
らっきょ:「そういや量の足し算や掛け算は,小学校の頃からやってるもんな…」
ゆう:「そうでしょ? 単位について掛け算や割り算ができるっていう性質は,単に量の性質がそのまま引き継がれただけ。単位は量だってことを理解したら,当たり前のことだったんだね」
らっきょ:「ちょっと待って! 前,物理の先生が『長さと時間は足し算できない』みたいなこと言ってた。それはどうなの?」
ゆう:「いい指摘だね。量が数と違うところは,足し算と引き算はいつでもできるとは限らないって事だ。例えば,
$$ 4\mathrm{mm} + 5\mathrm{秒} $$
みたいな式は物理的に意味を持たない。でも,
$$ 4\mathrm{mm} + 6\mathrm{mm} = 10\mathrm{mm} $$
みたいな式はちゃんと意味を持つ」
きむち:「掛け算と割り算は?」
ゆう:「お,いい質問だね。足し算と違って,掛け算はいつでもできる。例えば,
$$ 2\mathrm{mm} \times 5\mathrm{秒} = 10\mathrm{mm\cdot 秒} $$
みたいな計算も可能だ。割り算に関しては($0$割りの問題があるから)ちょっとややこしいが,これも基本的にはできる。まとめると,以下のようになるよ」
ゆう:「ただ,1は実を言うとちょっとだけ違う。正確にはこうだ」
きむち:「種類?」
ゆう:「うん。まず,『同じ単位の量』って言い方だとまずい理由から話そう。例えば,次の式は意味を持つ」
$$ 1\mathrm{時間} + 30\mathrm{分} $$
きむち:「そうだね」
ゆう:「計算結果は色んな書き方ができる。例えば,
$$ 1\mathrm{時間} + 30\mathrm{分} = 1.5\mathrm{時間} = 90\mathrm{分} $$
とかだ」
らっきょ:「そりゃ,$1\mathrm{時間} = 60\mathrm{分}$とか,$30\mathrm{分} = 0.5\mathrm{時間}$みたいな単位変換が可能だからでしょ」
ゆう:「そう。そこで,今みたいな変換で単位を揃えることができる量同士,例えば『1$\mathrm{時間}$』と『$30\mathrm{分}$』は同じ『種類』の量と言えるよね」
きむち:「どっちも『時間』っていう種類の量だね!」
ゆう:「その通り。$[\mathrm{時間}]$という種類,$\mathrm{[長さ]}$という種類…。こういう『量の種類』のことを,物理学では次元と呼ぶんだ」
らっきょ:「次元? あの,『2次元平面』とかの『次元』ですか?」
ゆう:「その『次元』(いわゆる空間次元)とは別物と思ったほうがいいな。空間次元の方は自然数で表されるが,量の次元は数じゃない。まあ,その話は別の機会にすることにして,そろそろ今回のまとめに入ろう」
[量について]
量には次元と四則演算($+,-,\times,/$)がある。
ただし,足し算($+$)と引き算($-$)は同じ次元の量同士でのみ定義される。
[単位について]
単位は量の一種に過ぎない。
我々が,当の量を基準として同じ次元のあらゆる量を表そうとするとき,その量を「単位」と呼ぶのだ。
きむち:「なんか難しい〜」
ゆう:「たとえば,『先生』っていう人間がいるわけじゃないよね。人が教壇に立ったときに,『先生』と呼ばれるだけ。つまり,『先生』っていうのは『役割』の名前なんだね。今の話も同じで,単位とは他の量を測る『基準』という役割の名前なのさ」
らっきょ:「なるほど…」
今回は,数学にあまり馴染みがない人向けに「単位」の話を書いてみました。
語り残したことは多いです。ぱっと思いつくところで言えば,
などです。
あと,代数的な定式化(量の代数)については別の記事で書く予定です。
何かご指摘や質問等ありましたら,じゃんじゃんコメントに書いてくださると助かります。
それでは!