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現代数学解説
文献あり

Z/2Z係数のホモロジー

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勉強ノートみたいな感じです.

定義と定理

位相空間 X の特異ホモロジーを構成するときに定義した特異チェイン複体 {C(X),}Z/2Z のテンソル積を考えて得られる複体 {Cn(X)Z/2Z,idZ/2Z} から得られるものが Z/2Z 係数のホモロジー群 H(X;Z/2Z) です. 整係数ホモロジー群を知っていれば, 次の普遍係数定理から Z/2Z 係数のホモロジー群を計算することができます.

(普遍係数定理)

位相空間対 X に対し, 同型 Hn(X;Z/2Z)(Hn(X)Z/2Z)Tor(Hn1(X),Z/2Z) が成り立つ. ただし, H1(X)=0 とする.

ここに Tor という記号が出てきました. これは Abel 群の torsion (ねじれ) 積と呼ばれるもので, 定義は省略しますが次のことが成り立ちます.

  • G=iGi, H=jHj のとき Tor(G,H)i,jTor(Gi,Hj).
  • Tor(G1,G2)Tor(G2,G1).
  • Tor(Z,G)=0.
  • Tor(Z/mZ,Z/nZ)Z/(gcd(m,n))Z.

ところで, 有限生成 Able 群は ZZ/pZ のいくつかの直和にかけることが知られています. (有限生成 Abel 群の基本定理などの名前で有名です.) つまり, 命題 2 は有限生成アーベル群に対する torsion 積の結果を完全に与えているのです.
さらに, 有名な図形のホモロジー群は大体が有限生成アーベル群になるので, 普遍係数定理の Tor 部分に怯える必要は全くないわけです.

テンソル積についてもは次が成り立ちます.

  • G=iGi, H=jHj のとき GHi,jGiHj.
  • G1G2G2G1.
  • ZG=G.
  • Z/mZZ/nZZ/(gcd(m,n))Z.

これで普遍係数定理の 部分に怯えることもありません.

それでは, 色々な空間の整係数ホモロジー群を既知として, その Z/2Z 係数ホモロジー群を求めてみましょう.

n 次元球面

整係数ホモロジー群は Hk(Sn){Z,k=0,n0,k0,n です. これより, k=0,n に対して
Hk(Sn;Z/2Z)(ZZ/2Z)Tor(0,Z/2Z)Z/2Z
が得られます. ここで, 0=Z/1Z に注意しましょう. k=1,n+1 では,
Hk(Sn;Z/2Z)(0Z/2Z)Tor(Z,Z/2Z)0
となります. これ以外の kZ/2Z 係数ホモロジーが 0 になることは明らかでしょう.
まとめると, Hk(Sn;Z/2Z){Z/2Z,k=0,n0,k0,n です.

射影平面

整係数ホモロジー群は Hk(RP2){Z,k=0Z/2Z,k=10,k2 です. これより, k=0 に対しては例 1 と同様に Z/2Z となり, k=1 に対しては
H1(RP2;Z/2Z)(Z/2ZZ/2Z)Tor(Z,Z/2Z)Z/2Z が得られます. k=2 に対しては
H2(RP2;Z/2Z)(0×Z/2Z)Tor(Z/2Z,Z/2Z)=Z/2Z が得られます. このように, 係数変換によって高次のホモロジーが得られる場合があります.
まとめると, Hk(RP2;Z/2Z){Z/2Z,k=0,1,20,k3 です.

Klein (クライン) の壺

整係数ホモロジー群は Hk(K){Z,k=0ZZ/2Z,k=10,k2 です. k=0 に対しては Z/2Z です. k=1 に対してはこれまでの例から Z/2ZZ/2Z が得られます. また, k=2 では Z/2Z が現れます.
まとめると, Hk(K;Z/2Z){Z/2Z,k=0,2Z/2ZZ/2Z,k=10,k3 です.

2次元トーラス

整係数ホモロジー群は Hk(T2){Z,k=0,2ZZ,k=10,k3 です. k=0,2 に対しては Z/2Z となり, k=1 に対しては torsion 積が消えて, H1(RP2;Z/2Z)Z/2ZZ/2Z が得られます.
まとめると, Hk(T2;Z/2Z){Z/2Z,k=0,2Z/2ZZ/2Z,k=10,k3 です.

例3,4 から, やはり Z/2Z 係数でも「ホモロジー群は同じだがホモトピー同値でない」空間の存在がわかります. また, Z/2Z 係数で同じホモロジー群を持つからといって Z 係数でも同じとは限らないことがわかります.

オイラー標数

最後にオイラー標数との関係も見てみましょう. Z/2Z 係数のホモロジー群を考えたとき, その階数 (Z/2Z は体なので次元というべきかもしれませんが) とは, 直和に現れる Z/2Z の個数です. Z 係数では, 直和に現れる Z の個数でした.

整係数での階数の交代和Z/2Z係数での階数の交代和
n 次元球面1+(1)n1+(1)n
射影平面11
クラインの壺00
2次元トーラス00

このように, Z/2Z 係数で考えても同じオイラー標数が得られそうです. (実際正しいです. 証明はこちら (Math stackchange) )

また, Z/2Z 係数では向き付けの仮定なしに Poincaré の双対定理が成り立つので, 上のことを認めれば「コンパクト連結奇数次元位相多様体 M のオイラー標数は 0」が得られることもわかります.

参考文献

[1]
小松 醇郎, 中岡 稔, 菅原 正博, 位相幾何学 I, 現代数学, 岩波書店, 1963, 732
投稿日:2023116
更新日:2023116
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とと
とと
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2402
Mathlogを始めてみました。ところでMathlogってどんな対数なんですか?

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