勉強ノートみたいな感じです.
位相空間 $X$ の特異ホモロジーを構成するときに定義した特異チェイン複体 $\{C_\ast(X),\partial\}$ と $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ のテンソル積を考えて得られる複体 $\{C_n(X)\otimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z},\partial\otimes\mathrm{id}_{\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}}\}$ から得られるものが $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数のホモロジー群 $H_\ast(X;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$ です. 整係数ホモロジー群を知っていれば, 次の普遍係数定理から $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数のホモロジー群を計算することができます.
位相空間対 $X$ に対し, 同型 $H_n(X;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong (H_n(X)\otimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\oplus \mathrm{Tor}\;(H_{n-1}(X),\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$ が成り立つ. ただし, $H_{-1}(X)=0$ とする.
ここに $\mathrm{Tor}$ という記号が出てきました. これは Abel 群の torsion (ねじれ) 積と呼ばれるもので, 定義は省略しますが次のことが成り立ちます.
ところで, 有限生成 Able 群は $\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ のいくつかの直和にかけることが知られています. (有限生成 Abel 群の基本定理などの名前で有名です.) つまり, 命題 2 は有限生成アーベル群に対する torsion 積の結果を完全に与えているのです.
さらに, 有名な図形のホモロジー群は大体が有限生成アーベル群になるので, 普遍係数定理の $\mathrm{Tor}$ 部分に怯える必要は全くないわけです.
テンソル積についてもは次が成り立ちます.
これで普遍係数定理の $\otimes$ 部分に怯えることもありません.
それでは, 色々な空間の整係数ホモロジー群を既知として, その $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数ホモロジー群を求めてみましょう.
整係数ホモロジー群は $H_k(S^n)\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}, & k=0,n \\
0, & k\neq 0,n
\end{cases}$ です. これより, $k=0,n$ に対して
$H_k(S^n;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong (\mathbb{Z}\otimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\oplus\mathrm{Tor}\;(0,\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$
が得られます. ここで, $0=\mathbb{Z}/1\mathbb{Z}$ に注意しましょう. $k=1,n+1$ では,
$H_k(S^n;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong(0\otimes \mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\otimes\mathrm{Tor}\;(\mathbb{Z},\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong 0$
となります. これ以外の $k$ で $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数ホモロジーが $0$ になることは明らかでしょう.
まとめると, $H_k(S^n;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=0,n \\
0, & k\neq 0,n
\end{cases}$ です.
整係数ホモロジー群は $H_k(\mathbb{R}P^2)\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}, & k=0 \\
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=1\\
0, & k\geqq 2
\end{cases}$ です. これより, $k=0$ に対しては例 1 と同様に $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ となり, $k=1$ に対しては
$H_1(\mathbb{R}P^2;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\otimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\oplus \mathrm{Tor}\;(\mathbb{Z},\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が得られます. $k=2$ に対しては
$H_2(\mathbb{R}P^2;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong(0\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\oplus\mathrm{Tor}\;(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z},\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が得られます. このように, 係数変換によって高次のホモロジーが得られる場合があります.
まとめると, $H_k(\mathbb{R}P^2;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=0,1,2 \\
0, & k\geqq 3
\end{cases}$ です.
整係数ホモロジー群は $H_k(K)\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}, & k=0 \\
\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=1\\
0, & k\geqq 2
\end{cases}$ です. $k=0$ に対しては $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ です. $k=1$ に対してはこれまでの例から $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が得られます. また, $k=2$ では $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が現れます.
まとめると, $H_k(K;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=0,2 \\
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=1 \\
0, & k\geqq 3
\end{cases}$ です.
整係数ホモロジー群は $H_k(T^2)\cong \begin{cases}
\mathbb{Z}, & k=0,2 \\
\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}, & k=1 \\
0, & k\geqq 3
\end{cases}$ です. $k=0,2$ に対しては $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ となり, $k=1$ に対しては torsion 積が消えて, $H_1(\mathbb{R}P^2;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が得られます.
まとめると, $H_k(T^2;\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong\begin{cases}
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=0,2 \\
\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, & k=1 \\
0, & k\geqq 3
\end{cases}$ です.
例3,4 から, やはり $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数でも「ホモロジー群は同じだがホモトピー同値でない」空間の存在がわかります. また, $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数で同じホモロジー群を持つからといって $\mathbb{Z}$ 係数でも同じとは限らないことがわかります.
最後にオイラー標数との関係も見てみましょう. $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数のホモロジー群を考えたとき, その階数 ($\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は体なので次元というべきかもしれませんが) とは, 直和に現れる $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の個数です. $\mathbb{Z}$ 係数では, 直和に現れる $\mathbb{Z}$ の個数でした.
整係数での階数の交代和 | $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$係数での階数の交代和 | |
---|---|---|
$n$ 次元球面 | $1+(-1)^{n}$ | $1+(-1)^n$ |
射影平面 | $1$ | $1$ |
クラインの壺 | $0$ | $0$ |
2次元トーラス | $0$ | $0$ |
このように, $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数で考えても同じオイラー標数が得られそうです. (実際正しいです. 証明はこちら (Math stackchange) )
また, $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 係数では向き付けの仮定なしに Poincaré の双対定理が成り立つので, 上のことを認めれば「コンパクト連結奇数次元位相多様体 $M$ のオイラー標数は $0$」が得られることもわかります.