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【自作問題紹介】f(sinΘ) ≦ f(cos2Θ) を満たす連続関数は定数関数である。

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今回掲載された問題

大学への数学 2025-1月号 今月の宿題(自作問題)

1x1上の連続関数 f(x) がすべての実数θに対して f(sinθ)f(cos2θ) を満たすならば定数関数であることを証明せよ。

今回で宿題への掲載は8回目になります。ありがたいことです。

(宣伝) 過去に掲載された問題

 自認では整数が得意なんですが、実は2番目くらいに作るのが多いのが極限(あるいは極限操作で倒せる問題)だったりします。解答に入る前にいろいろ紹介しておきます。もしよかったら考えてみてください。

大学への数学 2019-6月号 学コン5番 (自作問題, 誘導抜き)

次を示せ。
limncos2πen!3=12

大学への数学 2024-6月号 今月の宿題(自作問題)

φ=1+52 とする。以下の極限が収束するような有理数 r をすべて求めよ。
limnsin(2πrφn)

大学への数学 2024-10月号 今月の宿題(自作問題, 誘導抜き)

limn(1n1sinπ2θndθ)n を求めよ。

定数で下から抑える

それでは解説していきます。

今回の問題も、連続性という部分から極限操作を巧みに用いて問題を解決します。

sinθ=cos(π2θ)に注意します。すると,関数 g(x):=f(cosx) に関して
g(π2θ)g(2θ)
が成り立つことになります。関数が連続ですから、この不等式を無限個繋げたら何か言えそうですね。
 そこで、まず次を満たす数列 {θn}n0 を考えます。
θn+1=π2θn2(n=0,1,)
(ここであえて初項 θ0 は特定の値に決めないでおきます)
このときθ=θn2とすれば g(θn+1)g(θn) となりますね。

 ところで、θnに関する漸化式は普通に解くことができて、

θN=π3+(12)N(θ0π3)
となります。とくに N とすれば θNπ3 ですから、g(θN)g(θ0)g の連続性より g(π3)g(θ1) が(任意の実数θ0で)従います。

これでg(x)定数関数で下から抑えることができましたね。実際にg(π3)という関数の値で抑えているのですから、結論的には g(θ0)g(π3)も成り立つのでしょう(で常に一定であることを意味します)。

では、上から抑えることはどうやったらできるのでしょうか?

実験1 - 漸化式を逆に辿ってみる -

先で見た方法では、θnという数列から g(θn+1)g(θn) という不等式を立てて降下させていき、定数によって下から評価することに成功しました。では逆に、上昇させてみたらどうなるのでしょう?
 つまり、θn+1=π2θn2 という漸化式をθnについて解いた
θn=π2θn+1
によって漸化式を逆転させ、今度は
ϕn+1=π2ϕn
という数列 ϕ1,ϕ2,...を考えてみましょう。すると g(ϕn)g(ϕn+1) が成り立ちますね。

ところが、ϕnの漸化式を解くと
ϕn=π3+(2)n(ϕ0π3)
となり、θn とは違ってlimnϕn は定まりません。 これでは limng(ϕn) も論じられないので、「g(ϕn)g(ϕn+1)の形の不等式を無限個繋げれば...」といった同様の方法では倒せないことがわかります。

実験2 -上手く初項を設定する-

 g(θn)g(θ0) から「定数で上から抑える」を作りだすことを考えます。

 今知りたいことは、全てのxg(x)g(π3) となることですので、g(θ0) には何とかしてg(π3) (もしくはg(53π)) となってもらわなくてはなりません。 どうするとよいのでしょう。

 見やすさのために xk=θkπ3とおきます。xn=(12)nx0 ですね。θ0の要請から, x0=kn3π のように表せるものを考えてみたくなります(knnに依存する整数で, kn0,4(mod6)だとなおよい). このときg(θn)g(θ0)から
g(θn)=g(π3+x0(2)n)g(kn+13π)=g(θ0)
となります。この式は任意のnx0で成り立ちます。

ここで「連続性」をなんとか使うような状況に持っていきたいとすると、まずα=limnx0(2)n が収束するようなknを考えたくなりますね。もし収束し、kn0,4(mod6)となるなら、連続性から
g(π3+α)g(kn+13π)=g(π3)
ですので、下からの評価と合わせることで g(π3+α)=g(π3) が確定したことになります! たとえば x0=(2)nπ なら k=3(2)n0(mod6)なので、 α=πよりg(43π)=g(π3)が従います。

αの値次第では「ある程度の範囲では定数関数」であることは言えそうです。

実験3 -実験2のブラッシュアップ-

実験2だけではまだ問題が解決していません。以下の点が気になります。

どんな実数αに対しても、整数列 kn であって、 limnknπ3(2)nαに収束するでかつ kn0,4(mod6) であるようなものが取れるのか?

これが言えたら g(π3+α)=g(π3) が言えて証明完了です. ただ、連続性があるので、実は次を示すだけでもよくなります。

十分多くの実数αに対して, 整数列knであって、limnknπ3(2)nαに収束するでかつ、kn無限部分列 kv(1),kv(2)),であって、任意の自然数mkv(m)0,4(mod6) であるようなものが取れるのか?

実際、部分列を取るだけでも、n=v(m) の形に限定して m とすれば g(π3+α)=g(π3) が言えます。
 「十分多く」という言葉は厳密にいうと「R上稠密に存在する」という意味で、より正確には、そのようなαの集合をAとしたとき、どんな実数βAの列α1,α2,で近似できる(αmβ)ことを意味します。実際このとき、αmAに対しては g(π3+αm)=g(π3)が分かっていますから、mとしてg(π3+β)=g(π3)も言えるのです。関数方程式の問題において連続性は比較的「堅い」条件であり、このように稠密性を利用して関数を決定するというのはよくある典型手法です。

 ということで残された課題は「十分多くなのかどうか(Aは稠密なのか)」と「整数knの構成」です。

k_nの構成

 非常に安直に考えるとkn=3(2)nαπ みたいな形だと言えそうですが、そもそもknは整数であってほしいのでこれはNGです。そこで、ガウス記号を取って kn=[3(2)nαπ] と取ってみましょう。このとき、|kn3(2)nαπ|1ですから、knπ3(2)nαは満たされますね。

(追記:結局この後見るようにαは特殊な有理数×πに限定して考えるので、ガウス記号なくてもよかったです)

 次に気にするべきは「k1,k2,...の中に6で割って0,4余るものは無数に存在するか?」という問題です。多くの場合はそうなりそうな気もしますが、α=2などだと調べるのが難しそうです。しかし、αとして全実数を見る必要はなかったので、αを限定的(かつ稠密性が保証されやすそう)な形にして調べやすくしましょう。

 様々な構成があると思いますが、例えば以下のようにできます。

調べやすいαの構成

正の整数 a と整数 b に対して αa,b=b(2)aπ とおくと、任意の α=αa,b に対して、naより大きいときは kn0(mod6)となる。とくに、g(π3+αa,b)=g(π3)である。

kn=[3(2)nπαa,b]=[3b(2)na]で, ガウス記号の中身が6の倍数だからよい。後半の主張は前でも説明したが、g(θn)g(θ0) から θ0=kn+13πと置いて導かれる等式
g(π3+knπ3(2)n)g(kn+13π)=g(π3)
n として得られる
g(π3+αa,b)g(π3)
と下からの評価を合わせることで得られる。

そして、最後になりますが、以下を示せば証明が完了します。

稠密性

集合 A
A={b(2)aπ|aN,bZ}
と定めるとき、AR上稠密である。とくに、すべての実数βに対してg(π3+β)=g(π3)が成立する。

任意の実数βを取る。Aの点列α1,α2,であって、|αnβ|0 であるものを構成すればよい。
 ここで、任意の自然数nに対して、b(2)2nπβ<b+1(2)2nπ であるような整数bをただ一つ取ることができるので、そのbbnとおく。このときαn=α2n,bn=bnπ(2)2nとすれば、|βαn|π(2)2n0 (n) である。よってAは稠密である。
 後半の主張は, βに対して上記のようなαnを構成した上で、補題1より得られる g(π3+αn)=g(π3) においてnとすればよい。

 これで g(x)=f(cosx)が常に一定であることが分かり、1x1上の定数関数となることが証明できました。」

解法のまとめ

 長い説明になりましたが、まとめると以下のような解法の流れになっています。

  • θ0任意定数に固定した上でf(cosθn) に関する漸化不等式を導き、その極限を取ることでf(x)が定数g(π3)で下から抑えられる。
  • θ0nに依存させて上手く設定しておき、g(θn)g(θ0) から極限を取ることで、良いαに対してはg(π3+α)g(π3) (したがって等号も成立)となることを導く。
  • その良いα十分多く構成できることを示す(補題1, 補題2)。
  • 十分多いという性質を用いてgを連続拡張する。つまり、良いαの集合に属すとは限らないその他の実数βに対してもg(π3+β)=g(π3)を極限操作から導く。

最後に

 極限って慣れてないと変な直観に惑わされて謎議論をしやすいです。高校数学にしては論理的な部分で詰めるのが難しい問題だと思うので、今回の問題で何か得るものがあればいいですね(結構ポストの反応がよくて良かった)。
 もしよければその他の掲載問題にも挑戦してみてください( 掲載問題まとめ )。

投稿日:112
更新日:113
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投稿者

京大作問サークル

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  1. 今回掲載された問題
  2. (宣伝) 過去に掲載された問題
  3. 定数で下から抑える
  4. 実験1 - 漸化式を逆に辿ってみる -
  5. 実験2 -上手く初項を設定する-
  6. 実験3 -実験2のブラッシュアップ-
  7. k_nの構成
  8. 解法のまとめ
  9. 最後に