3

【自作問題紹介】f(sinΘ) ≦ f(cos2Θ) を満たす連続関数は定数関数である。

302
0
$$$$

今回掲載された問題

大学への数学 2025-1月号 今月の宿題(自作問題)

$-1\leq x\leq 1$上の連続関数 $f(x)$ がすべての実数$\theta$に対して $f(\sin{\theta}) \leq f(\cos{2\theta})$ を満たすならば定数関数であることを証明せよ。

今回で宿題への掲載は8回目になります。ありがたいことです。

(宣伝) 過去に掲載された問題

 自認では整数が得意なんですが、実は2番目くらいに作るのが多いのが極限(あるいは極限操作で倒せる問題)だったりします。解答に入る前にいろいろ紹介しておきます。もしよかったら考えてみてください。

大学への数学 2019-6月号 学コン5番 (自作問題, 誘導抜き)

次を示せ。
$$\lim_{n\to \infty} \cos{\dfrac{2\pi e n!}{3}} = -\frac{1}{2}$$

大学への数学 2024-6月号 今月の宿題(自作問題)

$\varphi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2}$ とする。以下の極限が収束するような有理数 $r$ をすべて求めよ。
$$\lim_{n\to \infty} \sin{(2\pi r \varphi^n)} $$

大学への数学 2024-10月号 今月の宿題(自作問題, 誘導抜き)

$$\lim_{n\to \infty} \left( \displaystyle\int_{\frac{1}{n}}^{1} \sqrt[n]{\sin{\dfrac{\pi}{2}\theta}} d\theta \right)^n$$ を求めよ。

定数で下から抑える

それでは解説していきます。

今回の問題も、連続性という部分から極限操作を巧みに用いて問題を解決します。

$\sin{\theta} = \cos{(\frac{\pi}{2} - \theta)}$に注意します。すると,関数 $g(x) := f(\cos{x})$ に関して
$$g(\frac{\pi}{2} - \theta) \leq g(2\theta)$$
が成り立つことになります。関数が連続ですから、この不等式を無限個繋げたら何か言えそうですね。
 そこで、まず次を満たす数列 $\set{\theta_n}_{n\geq 0}$ を考えます。
$$ \theta_{n+1}=\frac{\pi}{2} - \frac{\theta_{n}}{2}\qquad (n=0,1,\dots) $$
(ここであえて初項 $\theta_0$ は特定の値に決めないでおきます)
このとき$\theta = \frac{\theta_n}{2}$とすれば $g(\theta_{n+1})\leq g(\theta_n)$ となりますね。

 ところで、$\theta_n$に関する漸化式は普通に解くことができて、

$$\theta_{N} = \frac{\pi}{3} + \left(-\frac{1}{2}\right)^{N}\left(\theta_0 - \frac{\pi}{3}\right)$$
となります。とくに $N\to \infty$ とすれば $\theta_N \to \frac{\pi}{3}$ ですから、$g(\theta_N) \leq g(\theta_0)$$g$ の連続性より $g(\frac{\pi}{3})\leq g(\theta_1)$ が(任意の実数$\theta_0$で)従います。

これで$g(x)$定数関数で下から抑えることができましたね。実際に$g(\frac{\pi}{3})$という関数の値で抑えているのですから、結論的には $g(\theta_0) \equiv g(\frac{\pi}{3})$も成り立つのでしょう($\equiv$で常に一定であることを意味します)。

では、上から抑えることはどうやったらできるのでしょうか?

実験1 - 漸化式を逆に辿ってみる -

先で見た方法では、$\theta_n$という数列から $g(\theta_{n+1}) \leq g(\theta_n)$ という不等式を立てて降下させていき、定数によって下から評価することに成功しました。では逆に、上昇させてみたらどうなるのでしょう?
 つまり、$\theta_{n+1} = \frac{\pi}{2} - \frac{\theta_n}{2}$ という漸化式を$\theta_n$について解いた
$$ \theta_n = \pi - 2\theta_{n+1} $$
によって漸化式を逆転させ、今度は
$$ \phi_{n+1} = \pi - 2\phi_n$$
という数列 $\phi_1,\phi_2,...$を考えてみましょう。すると $g(\phi_n) \leq g(\phi_{n+1})$ が成り立ちますね。

ところが、$\phi_n$の漸化式を解くと
$$ \phi_n = \frac{\pi}{3} + (-2)^{n}\left( \phi_0 - \frac{\pi}{3} \right) $$
となり、$\theta_n$ とは違って$\lim_{n\to \infty} \phi_n$ は定まりません。 これでは $\displaystyle\lim_{n\to \infty} g(\phi_n)$ も論じられないので、「$g(\phi_n) \leq g(\phi_{n+1})$の形の不等式を無限個繋げれば...」といった同様の方法では倒せないことがわかります。

実験2 -上手く初項を設定する-

 $g(\theta_n) \leq g(\theta_0)$ から「定数で上から抑える」を作りだすことを考えます。

 今知りたいことは、全ての$x$$g(x) \leq g(\frac{\pi}{3})$ となることですので、$g(\theta_0)$ には何とかして$g(\frac{\pi}{3})$ (もしくは$g(\frac{5}{3}\pi)$) となってもらわなくてはなりません。 どうするとよいのでしょう。

 見やすさのために $x_k = \theta_k - \frac{\pi}{3}$とおきます。$x_n = (-\frac{1}{2})^{n} x_0$ ですね。$\theta_0$の要請から, $x_0 = \dfrac{k_n}{3}\pi$ のように表せるものを考えてみたくなります($k_n$$n$に依存する整数で, $k_n\equiv 0,4 \pmod{6}$だとなおよい). このとき$g(\theta_n) \leq g(\theta_0)$から
$$ g(\theta_n) = g\left(\frac{\pi}{3} + \dfrac{x_0}{(-2)^{n}} \right) \leq g\left( \frac{k_n + 1}{3} \pi \right) = g(\theta_0) $$
となります。この式は任意の$n$$x_0$で成り立ちます。

ここで「連続性」をなんとか使うような状況に持っていきたいとすると、まず$$\alpha = \lim_{n\to \infty} \dfrac{x_0}{(-2)^n}$$ が収束するような$k_n$を考えたくなりますね。もし収束し、$k_n\equiv 0,4 \pmod{6}$となるなら、連続性から
$$ g(\frac{\pi}{3} + \alpha) \leq g\left(\frac{k_n+1}{3}\pi\right) = g(\frac{\pi}{3}) $$
ですので、下からの評価と合わせることで $g(\frac{\pi}{3} + \alpha) = g(\frac{\pi}{3})$ が確定したことになります! たとえば $x_0 = (-2)^n \pi$ なら $k = 3\cdot (-2)^n \equiv 0\pmod{6}$なので、 $\alpha = \pi$より$g(\frac{4}{3}\pi) = g(\frac{\pi}{3})$が従います。

$\alpha$の値次第では「ある程度の範囲では定数関数」であることは言えそうです。

実験3 -実験2のブラッシュアップ-

実験2だけではまだ問題が解決していません。以下の点が気になります。

どんな実数$\alpha$に対しても、整数列 $k_n$ であって、 $\displaystyle\lim_{n\to \infty} \dfrac{k_n \pi}{3(-2)^n}$$\alpha$に収束するでかつ $k_n \equiv 0,4\pmod{6}$ であるようなものが取れるのか?

これが言えたら $g(\frac{\pi}{3} + \alpha) = g(\frac{\pi}{3})$ が言えて証明完了です. ただ、連続性があるので、実は次を示すだけでもよくなります。

十分多くの実数$\alpha$に対して, 整数列$k_n$であって、$\displaystyle\lim_{n\to \infty} \dfrac{k_n \pi}{3(-2)^n}$$\alpha$に収束するでかつ、$k_n$無限部分列 $k_{v(1)}, k_{v(2))}, \dots$であって、任意の自然数$m$$k_{v(m)} \equiv 0,4\pmod{6}$ であるようなものが取れるのか?

実際、部分列を取るだけでも、$n = v(m)$ の形に限定して $m\to \infty$ とすれば $g(\frac{\pi}{3} + \alpha) = g(\frac{\pi}{3})$ が言えます。
 「十分多く」という言葉は厳密にいうと「$\mathbb{R}$上稠密に存在する」という意味で、より正確には、そのような$\alpha$の集合を$A$としたとき、どんな実数$\beta$$A$の列$\alpha_1,\alpha_2, \dots$で近似できる($\alpha_m \to \beta$)ことを意味します。実際このとき、$\alpha_m \in A$に対しては $g(\frac{\pi}{3} + \alpha_m) = g(\frac{\pi}{3})$が分かっていますから、$m\to \infty$として$g(\frac{\pi}{3} + \beta) = g(\frac{\pi}{3})$も言えるのです。関数方程式の問題において連続性は比較的「堅い」条件であり、このように稠密性を利用して関数を決定するというのはよくある典型手法です。

 ということで残された課題は「十分多くなのかどうか($A$は稠密なのか)」と「整数$k_n$の構成」です。

k_nの構成

 非常に安直に考えると$k_n = \dfrac{3\cdot (-2)^n \alpha}{\pi}$ みたいな形だと言えそうですが、そもそも$k_n$は整数であってほしいのでこれはNGです。そこで、ガウス記号を取って $k_n = [\frac{3\cdot (-2)^n \alpha}{\pi}]$ と取ってみましょう。このとき、$|k_n - \frac{3\cdot (-2)^n \alpha}{\pi}| \leq 1$ですから、$\frac{k_n \pi}{3\cdot (-2)^n} \to \alpha$は満たされますね。

(追記:結局この後見るように$\alpha$は特殊な有理数$\times \pi$に限定して考えるので、ガウス記号なくてもよかったです)

 次に気にするべきは「$k_1, k_2, ...$の中に$6$で割って$0,4$余るものは無数に存在するか?」という問題です。多くの場合はそうなりそうな気もしますが、$\alpha = \sqrt{2}$などだと調べるのが難しそうです。しかし、$\alpha$として全実数を見る必要はなかったので、$\alpha$を限定的(かつ稠密性が保証されやすそう)な形にして調べやすくしましょう。

 様々な構成があると思いますが、例えば以下のようにできます。

調べやすい$\alpha$の構成

正の整数 $a$ と整数 $b$ に対して $\alpha_{a,b} = \frac{b}{(-2)^a}\pi$ とおくと、任意の $\alpha = \alpha_{a,b}$ に対して、$n$$a$より大きいときは $k_n \equiv 0\pmod{6}$となる。とくに、$g(\frac{\pi}{3} + \alpha_{a,b}) = g(\frac{\pi}{3})$である。

$k_n = [\frac{3(-2)^n}{\pi}\alpha_{a,b}] = [3b\cdot (-2)^{n-a}]$で, ガウス記号の中身が$6$の倍数だからよい。後半の主張は前でも説明したが、$g(\theta_n) \leq g(\theta_0)$ から $\theta_0 = \dfrac{k_n + 1}{3}\pi$と置いて導かれる等式
$$ g\left(\frac{\pi}{3} + \dfrac{k_n \pi}{3\cdot (-2)^n}\right) \leq g\left(\frac{k_n+1}{3}\pi\right) = g\left(\frac{\pi}{3}\right) $$
$n\to \infty$ として得られる
$$ g\left( \frac{\pi}{3} + \alpha_{a,b}\right) \leq g\left(\frac{\pi}{3}\right) $$
と下からの評価を合わせることで得られる。

そして、最後になりますが、以下を示せば証明が完了します。

稠密性

集合 $A$
$$ A = \left\{\dfrac{b}{(-2)^a}\pi \middle| \quad a\in \mathbb{N}, \quad b\in \mathbb{Z}\quad \right\} $$
と定めるとき、$A$$\mathbb{R}$上稠密である。とくに、すべての実数$\beta$に対して$g(\frac{\pi}{3} + \beta) = g(\frac{\pi}{3})$が成立する。

任意の実数$\beta$を取る。$A$の点列$\alpha_1, \alpha_2, \dots$であって、$|\alpha_n - \beta| \to 0$ であるものを構成すればよい。
 ここで、任意の自然数$n$に対して、$\frac{b}{(-2)^{2n}}\pi \leq \beta < \frac{b+1}{(-2)^{2n}}\pi$ であるような整数$b$をただ一つ取ることができるので、その$b$$b_n$とおく。このとき$\alpha_n = \alpha_{2n, b_n} = \frac{b_n \pi}{(-2)^{2n}}$とすれば、$|\beta - \alpha_n| \leq \frac{\pi}{(-2)^{2n}} \to 0$ ($n\to \infty$) である。よって$A$は稠密である。
 後半の主張は, $\beta$に対して上記のような$\alpha_n$を構成した上で、補題1より得られる $g(\frac{\pi}{3} + \alpha_n) = g(\frac{\pi}{3})$ において$n\to \infty$とすればよい。

 これで $g(x) = f(\cos{x})$が常に一定であることが分かり、$-1\leq x\leq 1$上の定数関数となることが証明できました。」

解法のまとめ

 長い説明になりましたが、まとめると以下のような解法の流れになっています。

  • $\theta_0$任意定数に固定した上で$f(\cos{\theta_n})$ に関する漸化不等式を導き、その極限を取ることで$f(x)$が定数$g(\frac{\pi}{3})$で下から抑えられる。
  • $\theta_0$$n$に依存させて上手く設定しておき、$g(\theta_n) \leq g(\theta_0)$ から極限を取ることで、良い$\alpha$に対しては$g(\frac{\pi}{3} + \alpha) \leq g(\frac{\pi}{3})$ (したがって等号も成立)となることを導く。
  • その良い$\alpha$十分多く構成できることを示す(補題1, 補題2)。
  • 十分多いという性質を用いて$g$を連続拡張する。つまり、良い$\alpha$の集合に属すとは限らないその他の実数$\beta$に対しても$g(\frac{\pi}{3} + \beta) = g(\frac{\pi}{3})$を極限操作から導く。

最後に

 極限って慣れてないと変な直観に惑わされて謎議論をしやすいです。高校数学にしては論理的な部分で詰めるのが難しい問題だと思うので、今回の問題で何か得るものがあればいいですね(結構ポストの反応がよくて良かった)。
 もしよければその他の掲載問題にも挑戦してみてください( 掲載問題まとめ )。

投稿日:2日前
更新日:2日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

京大作問サークル

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中