高等教科平面三角法/藤野了祐 著/ 冨山房 発行/
大正2年に書かれた当時の高等学校・専門学校の学生向けの三角関数についての教科書について。何か惹かれたことをメモする感じです。安かった+なんか話のネタになりそうだったため購入。
大正2年と書かれていますが関東大震災で原著が喪失したため昭和6年に書き直されたらしい。
私は明倫館でワゴン漁ってるときにたまたま書籍を見つけましたが国立国会図書館でスキャンされて誰でも見ることができるようです。
https://lab.ndl.go.jp/dl/book/1129720
ただし旧仮名遣いの旧字体な点注意です。この記事で引用するときは現代的な言葉に直しています。
以下、興味を持った部分について。読書メモみたいなものです
まず章立て見てみましょう。
現代の高校数学には出てこなさそうな章があります。「第五章 三角関数の表に関する理論」と「第八章 測量上の応用」の2つ。第五章は三角関数の数表を作る方法について述べています。sin1度を数値計算する方法が書かれています。P70ページあたりから始まります。第七章は、数学的には三角関数を初めて学ぶとき文章題として出てくる内容ですが、「71. 実際上の注意」という節には「現実は誤差が含まれるからよく注意しなさい」という旨の記載があります。
また本の前書き(緒言)の中で以下のような文章がありました。
なるべく簡単に、しかも理論応用を通じて重要なる事項は最も確実に理解させるように努めたつもりであります。
専門学校向けでもあるあたり応用が意識されているのかなと思います。そのあたりの意識が出たのが上記の二つの章なのかな。
何故数表を?という思った方向けに自分なりの解釈です。この本は昭和6年に書かれています。電子計算機なんて影も形もありません。しかし、一方で測量をしたり、大砲の弾道を知りたかったりと言った需要もあったことが推測されます。その場で計算するほど時間はないのであらかじめ近似値出して数字として持っておかないとこれらの計算の需要に答えられなかったのではないでしょうか。
引用です。カタカナをひらがなに、漢字を今風に直しただけです
任意の角の三角関数は0°から90°までの同名の三角関数で表すことができるから(第19節)結局この間の三角関数表を作りさえすればいい。
ここでは例として1'おきの表の作り方を述べる。他の場合も同様である。
先ず1'の弧度を$\theta$とすれば
\begin{eqnarray} \theta = \frac{\pi}{180 \times 60} &=& \frac{3.141 592 653 589 79…}{10800} \\ &=& 0.000 200 888 208 665……\\ \frac{\theta ^3}{4} < \frac{1}{4} &\times& 0.003^3 < 0.000 000 000 007 \end{eqnarray}
※1'は1°の1/60で「分」と書くようです。
さて、$\sin{1'}$は$\theta$と$\theta - \frac{\theta^3}{4}$との間に挟まれる数であって、$\theta$と$\theta - \frac{\theta^3}{4}$は小数第十一位まで全く一致するから、$\sin{1'}$の小数第十一位まで正しい数は
$\sin{1'}$ = 0.000 290 888 20
又 $1 - \frac{\theta^3}{2} = 0.999 999 957 692 025 029$……
$\frac{\theta ^4}{16} < \frac {1}{16} \times 0.0003^4 < 0.000 000 000 000 000 6$
さて $\cos{1'}$ は…
以下省略します。ちなみにこの後は
と実に計算を省略する方法を述べています。
いくつか面白いことがあります。
これがこの本独自なのか、当時の高校教科書の標準なのかはわかりません。ただ、今に通じる部分・今ではなくなった部分が見て取れるのは面白いです。想像すると楽しいです。
文章は本当に大きな差はないです。「文字」は大きく変化していますが……。これは分野が限られているからなのでしょうか。不思議です。