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Pororocca Integration Bee ⅡBの解説

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$$\newcommand{floor}[1]{\lfloor{#1}\rfloor} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{lsint}[0]{\cancel{^{}}\llap{\int}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{sint}[0]{\:\cancel{^{}}\,\llap{\int}} $$

はじめに

2024/12/25~2025/1/25の1か月間かけて、Pororocca Integration Bee ⅡBという積分コンテストを行いました。
公開された解説には、解答しか載せていなかったと思うので、こちらで少し解き方の解説をしたいと思います。

Qualifier

1

$$\int dx$$

いきなりこれが出てきたら面食らうだろうな、ということでこの問題をはじめに持ってきました。解説は不要かと思います。

解答:$x+C$

2

$$\int^{\frac32}_{-\frac53}(6x^2+x-15)dx$$

かの有名な1/6公式です。中の2次式は、$(2x-3)(3x+5)$と因数分解できるので、あとは公式を適用するだけです。

解答:$-\frac{6859}{216}$

3

$$\int\frac{x^4+4}{x^2+2x+2}dx$$

$x^4+4=(x^2+2x+2)(x^2-2x+2)$と因数分解できるので、
求める積分は$$\int(x^2-2x+2)dx$$
となります。またどんな実数$x$に対しても$x^2+2x+2>0$となるので、0割りの心配もありません。

解答:$\frac13x^3-x^2+2x+C$

4

$$\int^3_{-1}\{(x+3)-|2x|\}dx$$

この問題は、普通に場合分けをして積分をしてもいいのですが、グラフを描くとより求めやすくなります。

あとは、二つのグラフによってできた三角形の面積を求めるだけです。

解答:$6$

5

$$\int^{10}_0[x]dx$$
(ただし$[]$はガウス記号)

この問題もグラフを描くとわかりやすくなるでしょう。

この図を見てわかる通り、この問題は$0$から$9$までの整数の和に帰結されます。
ということで解答は以下です。

解答:$45$
(解答が$55$となっていたため、訂正をいたしました。)

6

$$\int^\pi_{-\pi}\sin xdx$$

$\sin x$の積分は、数ⅡB範囲ではありませんが、奇関数であるという性質を使うと、この積分は求めることができます。

解答:$0$

7

$$\int^7_5\frac{\log_2x}{\log_4x}dx$$

対数の分数ということで、少し戸惑うかな、という意図で入れた問題です。$\log_2x=\frac1{\log_x2},\log_4x=\frac1{\log_x4}=\frac1{2\log_2x}$なので、約分をして求める積分は$\int^7_52dx$となります。

解答:$4$

8

$$\int^1_0\sqrt{1-x^2}dx$$

このような形の積分も、普通は数ⅡB範囲では解けません。しかし、$y=\sqrt{1-x^2}$$x$軸が囲う$0$から$1$の範囲の面積を求めると考えると、$y=\sqrt{1-x^2}$$x^2+y^2=1$$y\geqq0$の部分であるので、単位円の面積の$\frac14$であるとわかります。

解答:$\frac\pi4$

9

$$\int\sqrt xdx$$

まず、$y=\sqrt x$のグラフを見てみましょう。

今回求める積分はこのグラフと$x$軸の囲う面積に等しいのですが、次のようにも考えられます。

$$(上の図の緑と青の領域全体の面積)-(緑の領域の面積)$$
緑と青の領域全体は長方形になるので、面積は求められますし、緑の領域の面積は、グラフが$x=y^2$$x\geqq0$の部分であることを考えると、$\int y^2dy$で求められるので、青の領域の面積も求められます。

解答:$\frac23x\sqrt x+C$

10

$$\lim_{h\to0}\frac1h\int\{f(x+h)-f(x)\}dx$$
※ただし$f(x)$は多項式

$f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0$とします。
この時、内側の積分は
$$a_n\sum_{k=0}^{n-1}\frac1{k+1}{}_nC_kx^{k+1}h^{n-k}+a_{n-1}\sum_{k=0}^{n-2}\frac1{k+1}{}_nC_kx^{k+1}h^{n-k}+\cdots+a_1xh$$
となります。
これを$h$で割って$h\to0$の極限をとると次のようになります。
$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x$
よって解答は以下の通りです。

解答:$f(x)+C$

Semi Final

1

&&&exc
$$\int-\frac1{x^2}dx$$

べき乗の微分の公式を思い出してみると、$(x^n)'=nx^{n-1}$となります。そのため、$x^{-1}=-x^{-2}$となることが予想できます。
実際、微分の定義に従って計算すると、その通りになるので、微分積分学の基本定理が成り立ち、積分値を求めることができます。

解答:$\frac1x+C$

2

$$\int^\sqrt2_{-\sqrt2}(5^x-5^{-x})dx$$

$f(x)=5^x-5^{-x}$とおきます。この時、$f(-x)=-f(x)$となり、$f(x)$は奇関数であることが分かります。よって奇関数の性質により積分値が求まります。

解答:$0$

3

$$\int^2_0[2^x]dx$$
ただし$[]$はガウス記号

$y=[2^x]$のグラフは以下のようになります。

このグラフを見てわかる通り、$y=1,y=2,y=3$となるような$x$の範囲はそれぞれ$[0,1),[1,\log_23),[\log_23,2)$となります。よってそれぞれの場合での囲われた長方形の面積を求めて和を出すと解答が得られます。

解答:$5-\log_23$

4

$$\int^\sqrt2_{-\sqrt2}\sin x\cos x\{\tan x+\tan(\frac\pi2-x)\}dx$$

内側の関数を展開して計算すると、
$\sin x\cos x\tan x=\sin^2 x,$
$\sin x\cos x\tan(\frac\pi2-x)=\sin x\cos x\frac1{\tan x} = \cos^2 x$
となるので、その和は$1$となります。よって解答は以下の通りです。

解答:$2\sqrt2$

5

$f(x)$$x$の小数部分とする。以下の値を求めよ。
$$\int^{25}_0f(\sqrt x)dx$$

$f(\sqrt x)$をガウス記号を用いて表すと、$\sqrt x-[\sqrt x]$となります。$\sqrt x$の積分はQualifire 9で求めた通りです。$[\sqrt x]$の積分はSemi Final 3で求めたような場合分けをして計算すると求められます。

解答:$\frac{40}3$

Final

1

$$\int^1_0\int^{\sqrt{1-z^2}}_0\sqrt{1-z^2-y^2}dydz$$

Qualifire 8と同様に、内側の積分は半径が$\sqrt{1-z^2}$の円の$\frac14$の面積を求めています。そのため、次の等式が成り立ちます。
$$\int_0^{\sqrt{1-z^2}}\sqrt{1-z^2-y^2}dy=\frac{\pi(1-z^2)}{4}$$
あとは外側の積分を計算すると、解答が求まります。

解答:$\frac\pi6$

2

数列$a_n$を以下のように定義する。
$$a_1=\int^1_0dx$$
$$a_{n+1}=\int^{a_n+1}_0x^{a_n}dx$$
この時、$\log_{10}a_5$の値を求めよ。

$a_1$から$a_4$の値は以下の通りです。
\begin{align} a_1&=1\\ a_2&=2\\ a_3&=9\\ a_4&=10^9 \end{align}
以上より$a_5$は次の積分で求められ、解答は次のようになります。
$$a_5=\int_0^{10^9+1}x^{10^9}dx$$

解答:$10^9\log_{10}(10^9+1)$

3

次の値を小数第2位まで答えよ。
$$\int^1_0\frac1{2\pi}e^{-\frac{x^2}{2}}dx$$
ただし必要ならば以下のリンクを使ってもよい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/正規分布#正規分布表

この問題は不備のため、参加者の皆さんを正答としました。正しい問題はこちらです。

次の値を小数第2位まで答えよ。
$$\int^1_0\frac1{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{x^2}{2}}dx$$
ただし必要ならば以下のリンクを使ってもよい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/正規分布#正規分布表

リンク先の正規分布表を調べると解答が分かります。

解答:$0.34$

4

$(x,y)$$x^2+y^2=1,x\geqq0,y\geqq0$を満たすようにとる。
$z=(x,y)\cdot(\frac1{\sqrt2},\frac1{\sqrt2})$としたとき以下の値を求めよ。
$$\int^1_0zdx$$

まず、$z$$x$で表すと、
\begin{align} z&=\frac1{\sqrt2}(x+y)\\ &=\frac1{\sqrt2}(x+\sqrt{1-x^2}) \end{align}
となります。この積分を和で分けると、前者は$\int xdx=\frac12x^2$、後者はQualifire 8で求めたように計算ができます。よって解答は次のようになります。

解答:$\frac{\pi+2}{4\sqrt2}$

5

$a$$x$は独立であるとする。
$x$の方程式
$$(\cos^4x)^{\log_2(a\sin x)+1}=(a\sin 2x)^{\log_2(a\sin 2x)}$$
$0\leqq x\leqq\frac\pi2$における解を$y$とする。
この時、以下の値を求めよ。
$$\int^1_0\frac1{\sin^2y}da$$

まず両辺底を$2$とする対数をとり、式変形をすると、次のようになります。
\begin{align} &(\cos^4x)^{\log_2(a\sin x)+1}=(a\sin 2x)^{\log_2(a\sin 2x)}\\ \Leftrightarrow&\log_2(\cos^4x)\{\log_2(a\sin x)+1\}=\{\log_2(a\sin2x)\}^2\\ \Leftrightarrow&4\log_2(\cos x)\log_2(2a\sin x)=\{\log_2(2a\sin x\cos x)\}^2\\ \Leftrightarrow&\log_2(\cos x)\log_2(2a\sin x)=\l\{\frac{\log_2(2a\sin x)+\log_2(\cos x)}{2}\r\}^2 \end{align}
ここで相加相乗平均の関係を考えると、
$$\sqrt{\log_2(\cos x)\log_2(2a\sin x)}\leqq\frac{\log_2(2a\sin x)+\log_2(\cos x)}{2}$$
が常に成り立ち、等号が成立するのは$\log_2(\cos x)=\log_2(2a\sin x)$の時です。
この時、$\cos y=2a\sin y$が成り立ち、三角関数の合成を用いて尾の方程式を解くと、$\sin y=\frac1{\sqrt{1+4a^2}}$となります。
よって求める積分は、
$$\int_0^1\frac1{\sin^2y}da=\int_0^1(1+4a^2)da$$
と表され、次のように値が求まります。

解答:$\frac74$

おわりに

このコンテストは、旧数学ⅡB範囲の知識で解ける積分コンテストってどのような感じになるのだろう、という思い付きから生まれました。やはりその制約は大きく、思うように作問ができないこともありましたが、何とか実施までこぎつけることができました。
時間計測がうまくできない、問題に不備がある等様々なミスなど至らぬところもありましたが楽しんでいただけたのなら主催者としてとても嬉しいです。
このコンテストは様々な方に支えていただきました。作問の際に知識を貸してくれたI君とN君、またテストプレイをしてくれたA君には感謝してもしきれません。ありがとう。
そして何よりご参加くださった皆さん、本当にありがとうございました。

今度は第1回Pororocca Intagration Beeでお会いしましょう。

投稿日:218
更新日:219
OptHub AI Competition

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数学全般、というより巨大数の世界に主に生息しています。 どこかのサンタさん。

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