この記事ではギャンブルの攻略法の一つであるマーチンゲール法の期待値について考察していきます。
マーチンゲール法とは以下のような賭け方のことを言います。
初めのゲームでは$1$枚のチップを賭ける。それ以降のゲームでは前回の勝敗に応じて次のようにチップを賭けていく。
・前回のゲームで負けたとき、今回のゲームでは前回の$2$倍のチップを賭ける。
・前回のゲームで勝ったとき、今回のゲームでは(前回のベット枚数にかかわらず)$1$枚だけ賭ける。
マーチンゲール法では$n-1$回連続で負け続け、$n$回目に$2^{n-1}$枚賭けた時点で
$$\sum^n_{k=1}2^{k-1}=2^n-1$$
枚のチップを失ったことになりますが、今回のゲームで勝てば$2^n$枚のチップが戻って来るので結果的にチップ$1$枚分の儲けが出ることになります。
このように「勝つまで続ければ儲けが出る」というのがマーチンゲール法の戦略なわけですが、現実的にはゲームのルールや手持ち枚数の関係で一度に賭けれるチップには上限があるので、負けが続くとこの戦略が破綻してしまいそう上手くはいかないようです。
それはそうとして際限なくチップを賭けれるとすれば数学的にはどの程度の儲けが期待されるのでしょうか。
もっとも有名な議論としては一回勝つか$n$回連続で負けたらゲームを降りることにした場合の話があります。この場合一回のゲームにつき負ける確率が$q$であったとすると$k$回目に勝って終わる確率は$q^{k-1}(1-q)$でそのときの儲けは$1$枚、$n$回連続で負ける確率は$q^n$でそのときの儲けは$-(2^n-1)$枚なので期待される儲けは
$$E=\sum^n_{k=1}q^{k-1}(1-q)-(2^n-1)q^n=(1-q^n)-(2^n-1)q^n=1-(2q)^n$$
となります。
例えばコイントスのような勝敗が完全に$1/2$で決まるゲームなら期待値は$0$ですし、アメリカンルーレット($q=20/38$)のように負ける確率が$1/2$より大きい場合は$E<0$となります。そう上手くはいきませんね。
ただ個人的に何回勝っても何回負け続けてても丁度$n$回だけゲームをやったときはどのくらいの儲けが期待されるのか気になったので、このときはどうなるか実際に計算してみました。
負ける確率が$q$のゲームを丁度$n$回行ったとき、マーチンゲール法による儲けの期待値は
$$E=(1-q)n-q\farc{1-(2q)^n}{1-2q}$$
となる。
最終的に合計$k+1$回勝ち、最後の勝ちから$l$回連続で負けていたときの儲けは$(k+1)-(2^l-1)=k+2-2^l$枚であり、$n-l$回目のゲームでは勝ちを収めていることに注意するとその確率は
$${}_{n-l-1}C_k(1-q)^{k+1}q^{n-k-1}$$
となる。また一回も勝てなかったときの儲けは$-(2^n-1)$枚であり、その確率は$q^n$なので求める期待値は
$$E=-q^n(2^n-1)+\sum^{n-1}_{l=0}\sum^{n-l-1}_{k=0}{}_{n-l-1}C_k(1-q)^{k+1}q^{n-k-1}(k+2-2^l)$$
と表せる。また
$$\sum^m_{k=0}{}_mC_kx^ky^{m-k}=(x+y)^m,\quad
\sum^{n-1}_{l=0}x^ly^{n-l-1}=\frac{x^n-y^n}{x-y}$$
を$x$について微分することで
$$\sum^m_{k=0}{}_mC_k\cdot kx^{k-1}y^{m-k}=m(x+y)^{m-1},\quad
\sum^{n-1}_{l=0}lx^{l-1}y^{n-l-1}=\frac{(n-1)x^n-nx^{n-1}y+y^n}{(x-y)^2}$$
が成り立つことに注意するとこれは
\begin{align*}
E&=-q^n(2^n-1)+\sum^{n-1}_{l=0}((n-l-1)(1-q)^2q^l+(1-q)q^l(2-2^l))\\
&=-q^n(2^n-1)+((n-1)-nq+q^n)+2(1-q^n)-(1-q)\frac{1-(2q)^n}{1-2q}\\
&=(1-q)n+(1-(2q)^n)-(1-q)\frac{1-(2q)^n}{1-2q}\\
&=(1-q)n-q\frac{1-(2q)^n}{1-2q}
\end{align*}
と計算できる。
ちなみに$q\geq1/2$のときは
$$E=(1-q)n-q\sum^{n-1}_{k=0}(2q)^k\leq qn-q\sum^{n-1}_{k=0}1=0$$
となるのでやはりそう上手くはいかないみたいですね。ついでに言うと
$$E-(1-(2q)^n)=(1-q)(n-\frac{1-(2q)^n}{1-2q})\leq0$$
となるので引き際は見極めた方がよさそうですね。
しかし期待値の計算に試行錯誤しているときにモンテカルロ法、つまり実際のシミュレーションによって期待値($q=1/2$)を推定してみるとその値はどうやら$n/2$程度になるように見えました。これは上の結果$E=0$に反する現象ですが、おそらく実際の確率としては$q$が$1/2$より若干前後する影響で
$$\frac{1-(2q)^n}{1-q}\fallingdotseq0$$
と近似され、残る$(1-q)n=n/2$が実測値として現れたのだと思います。
つまり実際には勝率$1/2$のギャンブルならほぼ確実に儲けられる、ってコト!?皆様も賭け事($q=1/2$)をするときはマーチンゲール法を試してみてはいかがでしょうか。負けたときの責任は取りかねますが。