この記事では正三角形であって、すべての頂点が格子点上にあるものは存在しないことを示し、その派生としてすべての頂点が有理点上にあるものは正方形のみであることを示す。
正三角形であって、すべての頂点が格子点上にあるものは存在しない。
正三角形$OPQ$のすべての頂点が格子点上にあると仮定し、$O$を原点とした座標平面を考える。
$P=(a,b)\in\mathbb{Z}^2,Q=(\alpha,\beta)\in\mathbb{Z}^2$とおくと$Q$は$P$を反時計回りに$\frac{\pi}{3}$だけ回転させた点であるから$Q=(\frac{1}{2}(a - \sqrt{3}b),\frac{1}{2}(\sqrt{3}a + b))$
より
$\alpha = \frac{1}{2}(a-\sqrt{3}b)$
となり
$\frac{a-2\alpha}{b}=\sqrt{3}$
しかし左辺は有理数で右辺は無理数より矛盾。よって題意が従う。$\Box$
今回は正三角形の場合を示したが、一般に正多角形についても同様のことがピックの定理からわかる。( ピックの定理-wikipedia を参照)また、上の証明は格子点上という条件を有理点に変えても同様なことが成り立つことが容易にわかる。
すべての頂点が有理点上にある正三角形は存在しない。
次の命題はどうだろうか。
すべての頂点が有理点上にある正多角形は正方形のみである。
命題1と同様な手順で考察してみる。
まず、複素平面上にて、原点$(z_{0})$と点$(1,0)(=z_{1})$を結ぶ辺を一辺に持ち、上半面に存在する正$n$角形を考え各頂点を反時計回りに$z_{0},z_{1},...,z_{n-1}$とし、これらを計算してみる。
ベクトルの考え方より
$z_{k}=z_1+(z_2-z_1)+(z_3-z_2)+...+(z_k-z_{k-1})$
$\hspace{1pt} =\sum_{l=0}^{k-1}\cos \frac{2k\pi}{n} \ + \ i\sum_{l=0}^{k-1}\sin \frac{2k\pi}{n}$
$ \hspace{1pt}=\frac{\sin \frac{k\pi}{n}}{\sin\frac{\pi}{n}}\lbrace \cos \frac{(k-1)\pi}{n}+i\sin\frac{(k-1)\pi}{n} \rbrace$
となる。ただし、途中で以下の命題を用いた。
$\frac{\theta}{2\pi} \notin \mathbb{Z}$のとき次が成り立つ。
$\sum_{k=1}^{n}\cos k\theta= \frac{\cos\frac{(n+1)\theta}{2}\sin\frac{n\theta}{2}}{\sin\frac{\theta}{2}} \ , \ \sum_{k=1}^{n}\sin k\theta= \frac{\sin\frac{(n+1)\theta}{2}\sin\frac{n\theta}{2}}{\sin\frac{\theta}{2}}$
$\sum_{k=0}^{n}\cos k\theta= \frac{\sin\frac{(n+1)\theta}{2}\cos\frac{n\theta}{2}}{\sin\frac{\theta}{2}} \ , \ \sum_{k=0}^{n}\sin k\theta= \frac{\sin\frac{(n+1)\theta}{2}\sin\frac{n\theta}{2}}{\sin\frac{\theta}{2}}$
次の等式
$\cos\frac{(2k+1)\theta}{2}-\cos\frac{(2k-1)\theta}{2}=-2\sin k\theta \sin\frac{\theta}{2},\sin\frac{(2k+1)\theta}{2}-\sin\frac{(2k-1)\theta}{2}=2\cos k\theta \sin\frac{\theta}{2}$
のそれぞれ両辺$k=1$または$k=0$から$n$まで足し合わせて得る。$\Box$
命題3を示すには一つの点が原点にあるものについて示せば十分である。よって一つを原点におき$z_0'$とし、反時計回りに$z_1',...,z_{n-1}'$とする。そして$z_1'=a+bi \ (a,b\in\mathbb{Q})$とすれば$z_k'$は先の議論における$z_k$の原点からの距離を$\sqrt{a^2+b^2}$倍し、反時計回りに$\arg{z_1'}$だけ回転すれば得られるので
$z_k'=z_k(a+bi)=U_{k-1}(\cos\frac{\pi}{n})\lbrace (a\cos\frac{(k-1)\pi}{n}-b\sin\frac{(k-1)\pi}{n})+i(a\sin\frac{(k-1)\pi}{n}+b\cos\frac{(k-1)\pi}{n})$
となる。ただし$U_n(x)$は$n$次の第二種チェビシェフ多項式。また$z_k'=\alpha_k+\beta_k i \ (\alpha_k,\beta_k \in\mathbb{Q})$とおくと
$\frac{\alpha_k^2+\beta_k^2}{a^2+b^2}=4U_{k-1}^2(\cos\frac{\pi}{n}) $
より
$∀k,U_{k-1}^2(\cos\frac{\pi}{n})\in\mathbb{Q}$
が分かる。
例えば$k=2$とすると$U_2(x)=2x$より
$\cos^2 \frac{\pi}{n}\in\mathbb{Q}$
となる。また$\cos^2 \frac{\pi}{n}=\frac{1+\cos\frac{2\pi}{n}}{2} $よりこれは$\cos\frac{2\pi}{n}\in\mathbb{Q}$とも同値である。
もし仮にこれが$5$以上の$n$について成り立たなければこれは矛盾であり、$n=3$についてはもう示してあるので題意が示されたことになる。しかし$p$を有理数としたとき、$\cos p\pi$が有理数となる条件はすでに知られている。
$p$を有理数とする。
$\cos p\pi$が有理数⇔$p$を既約分数で表した時の分母が$1,2,3$
$\sin p\pi$が有理数⇔$p$を既約分数で表した時の分母が$1,2,6$
$\tan p\pi$が有理数⇔$p$を既約分数で表した時の分母が$1,4$
証明は、例えば
有理数となる三角関数の値 - くらげnote
が分かりやすい。
これより、$n=1,2,3,4,6$のときは矛盾しないがそれ以外では矛盾する。
ゆえに、残すところは$n=6$の場合のみとなった。これを示そう。
先の議論で、$n=6$とすれば
$\alpha_2=\frac{\sin\frac{\pi}{3}}{\sin\frac{\pi}{6}} \lbrace a\cos\frac{\pi}{6}-b\sin\frac{\pi }{6}\rbrace=\frac{3}{2}a-\frac{\sqrt{3}}{2}b$
より
$\frac{3a-2\alpha}{b}=\sqrt{3}$
となり矛盾する。ゆえに示された。
追記:よく考えたら有理点の場合も格子点の場合とまったく同様にピックの定理から従うことに気づいた。一辺$a$ですべての頂点が有理点上にある正$n$角形について、面積を$S$とすると$S=\frac{na^2}{4\tan \frac{\pi}{n}}$が簡単な考察よりわかり、$n\geq5$のときは命題$5$とピックの定理より$S$は有理数かつ無理数となり矛盾する。よって従う。
以上の議論から命題3:すべての頂点が有理点上にある正多角形は正方形のみであることが分かったわけだが、自分がこの問題を考えたきっかけは、高校数学の正四面体に関する問題を解く際に展開図を描いたことである。このとき正三角形の頂点がすべて格子点上にあったら描くの楽だな、と考えていった結果今回の記事のような内容に行き当たった。
また、ピックの定理を使わない別証明を与えられたのは嬉しいが、途中のチェビシェフ多項式の値が計算できるような気がしなくもなくてもやもやしている。そのあたりも今後調べたい。間違いなどあったらご指摘いただけると嬉しい。