はじめに
『奇数同士の婚約数が存在するか』『 以外の奇数の倍積完全数が存在するか』という問いはどちらも整数論における未解決問題のひとつとなっています。
この記事では、奇数同士の婚約数が存在すると仮定した際に考えられる特殊な組と、奇数の倍積完全数との関係について考察します。
定義
まず婚約数の定義について述べておきます。
婚約数(Betrothed Numbers)
異なる 2 つの正の整数の組で、1 と自分自身を除いた正の約数の総和が互いに他方と等しくなるような数を 婚約数 という。
異なる 2 つの正の整数 の組が婚約数であることは、次が成り立つことと同値である。
「婚約数」は他に「準友愛数(Quasi-Amicable Numbers)」や「準親和数」ともよばれています。
たとえば、2024 と 2295 は次の例 1 を満たすため、婚約数のペアの 1 つとなります。
2025年現在知られている婚約数は、このようにすべて偶数と奇数のペアのみとなっています。
この記事では、奇数同士の婚約数の組 が存在すると仮定して議論を進めます。
次に、倍積完全数の定義についても述べておきます。
倍積完全数(multiply perfect number)
正の約数の総和が元の数の整数倍になるような正の整数を 倍積完全数 という。
正の整数 が倍積完全数であることは、次を満たす正の整数 が存在することと同値であり、これを 倍完全数 ともいう。
たとえば、120 は次の例 2 を満たすため、倍積完全数(特に 3 倍完全数)の1 つとなります。
2025年現在知られている倍積完全数は、このように を除いてすべて偶数のみとなっています。
命題・補題
定理を示すための命題・補題をまず示します。
は明らかに婚約数ではないため、 はどちらも素因数をもつ。
について、ある相違なる 個の素数 () と、ある 個の正の整数 を用いて、次のように一意に素因数分解できる。(素因数分解の一意性)
このとき、 の値は次のように表せる。
以下の任意の正の整数 に対して は奇数であるため、 が奇数であるとき は偶数であり、 が偶数であるとき は奇数である。
より は奇数であるため、任意の正の整数 に対して は偶数である。すなわち、 は平方数である。
についても同様にして平方数であることが示される。
特殊な性質
が で割り切れるとき、 と は互いに素である。
また、 のすべての素因数は 4 で割って 1 余る素数である。
命題 1 より は平方数であるため、 は正の整数である。
の任意の素因数、すなわち の任意の素因数 に対して、婚約数の定義より次の式が成り立つ。
と は互いに素であるため、 の任意性より と も互いに素である。
また、命題 1 より は平方数であるため、平方余剰の第一補充法則より である。すなわち、 のすべての素因数は 4 で割って 1 余る素数である。
特殊な一般ペル方程式
を平方数でない正の整数とし、 を満たすとする。また、 を方程式 の正整数解のうち が最小であるものとする。
このとき、次の一般項で定まる () が方程式 のすべての正整数解を表す。
Constant descent Vieta jumping
を正の整数とする。
が を割り切るとき、その商は である。
マルコフのディオファントス方程式
次の方程式はマルコフのディオファントス方程式とよばれてる。
のとき、この方程式の非自明なすべての正整数解 () は、任意の正の整数 を用いて次のように表される。
ただし、 は 番目のフィボナッチ数を表す。
与えられたマルコフのディオファントス方程式は次のように表せる。
ここで とおくと は正の整数であり、次の についての二次方程式は異なる 2 つの整数 を解としてもつ。
この二次方程式の判別式 が でない平方数であることは、この二次方程式が 2 つの異なる整数解 をもつための必要条件である。したがって、次を満たす正の整数 が存在する。
このとき の偶奇は等しいことがわかる。また、解の公式より は次のように表せる。
の偶奇は等しいため、この二次方程式の判別式 が 0 でない平方数であることは、この二次方程式が 2 つの異なる整数解 をもつための必要十分条件である。
したがって補題 3 より、次の一般項で定まる () () がすべての正整数解 () を表す。
また、ビネの公式よりフィボナッチ数列の 番目の数は次のように表せる。
以上より、与えられたマルコフのディオファントス方程式の非自明なすべての正整数解 () は、任意の正の整数 を用いて次のように表される。
完全数とメルセンヌ素数
偶数の完全数 は、あるメルセンヌ素数 を用いて と表せる。
定理
さて、いよいよ得られた定理を紹介します。
特殊な奇数の婚約数
が と のどちらでも割り切れるとき、 と は互いに素であり次が成り立つ。
またこのような が存在するとき、ある正の整数 を用いて () は次のように表せる。
命題 1 より、 は正の整数 () である。
また補題 2 より、 が と のどちらでも割り切れるとき、 と は互いに素であるため、 は で割り切れる。
したがって補題 4 より、その商は 3 であり次が成り立つ。
また補題 5 より、 はある正の整数 を用いて次のように表せる。
は奇数であるため、ここで がどちらも奇数となるような の値について考える。
フィボナッチ数列 はその隣接三項間漸化式から、 が偶数となるのは のときのみであることがわかる。したがって、ある正の整数 を用いて と表せる。すなわち、 はある正の整数 を用いて次のように表せる。
よって、ある正の整数 を用いて () は次のように表せる。
奇数の倍積完全数
定理 7 を満たす奇数の婚約数 について、
次が成り立つため は奇数の 9 倍完全数である。
以外の奇数の倍積完全数が存在するかは未解決問題であるため、次の命題の関係が成り立つ。
定理 7 を満たす奇数の婚約数 が存在する
以外の奇数の倍積完全数 が存在する
また、 は次のように表せる。
したがって、もし奇数の 9 倍完全数 が見つかった場合、次の 2 数 () は奇数の婚約数の組である可能性がある。
定理 7 において、約数関数の乗法性より次が成り立つ。
したがって は 9 倍完全数である。また、カッシーニ・シムソンの定理より次が成り立つ。
よって、 と表せるとき次が成り立つ。
この 2 式より、 は次のように表せる。
素因数・指数に関する性質
定理 7 を満たす奇数の婚約数 について、
を次のように表せる が存在する。
ただし、 はそれぞれ 12 で割って 1 余る素数、 はそれぞれ 12 で割って 2 余る正の整数、 はそれぞれ 4 で割って 1 余る素数のみを素因数としてもつ正の奇数であり、 はどの 2 数も互いに素である。
定理 7 より、 と表せる。また補題 2 より、 のすべての素因数は 4 で割って 1 余る素数である。
したがって の素因数は、 を除いてすべて 4 で割って 1 余る素数である。
まず について考える。 が命題 1 での証明のように素因数分解されるとき、 以下の任意の正の整数 に対して を満たすため次が成り立つ。
の素因数は を除いてすべて 4 で割って 1 余る素数であり、 が で割り切れる回数は 1 回のみであるため、次を満たす正の整数 がひとつ存在する。
したがって、 のとき は 4 の倍数であるため、 を次のように定義することができ、 は正の整数である。
また、この に対して を満たす必要がある。ここで、 以下の任意の正の整数 に対して次が成り立つ。
したがって、 を満たすためには かつ である必要がある。3 と 4 は互いに素であるため、 かつ を満たす。
よって、 とおくと次のように表せる。
についても同様にして表せる。
また、定理 7 より と は互いに素であり、 の定義より と 、 と はそれぞれ互いに素であるため、 はどの 2 数も互いに素である。
定理 9 と後の定理 10 の結果から、弱い評価を行うことにより、 と はどちらも より大きい数であることを確認しています。(評価がかなり弱いため、実際に存在する場合もっと大きい数になると推測されます…。)
2 数の評価
定理 7 を満たす奇数の婚約数 について、次の不等式が成り立つ。
また、次が成り立つ。
まず、 を示す。 であるため、定理 7 とビネの公式より次が成り立つ。
より、次が成り立つ。
よって次が成り立つ。
また、 はともに巨大数であるため、上記の式において は十分に大きい。よって次が成り立つ。
12 倍以上の倍積完全数
定理 7 を満たす奇数の婚約数 について、
は奇数の 12 倍完全数であり、 は奇数の 13 倍完全数である。また次が成り立つ。
また、任意の偶数の完全数 との積 は 18 倍完全数である。
特に であれば は 24 倍完全数であり、 は 26 倍完全数である。
同様にして、 と互いに素な 倍完全数をかけ合わせることで 倍完全数を生成できる。
12 倍以上の倍積完全数は2025年現在未発見とされているため、次の命題の関係が成り立つ。
定理 7 を満たす奇数の婚約数 が存在する
12 倍以上の倍積完全数が存在する
は 4 で割って 1 余る素数でないため、定理 9 より と 3 は互いに素である。したがって約数関数の乗法性よりそれぞれ次が成り立つ。
よって は奇数の 12 倍完全数であり、 は奇数の 13 倍完全数である。また、次が成り立つ。
次に任意の偶数の完全数 に対して、補題 6 より はあるメルセンヌ素数 を用いて、 と表せる。このとき、 とメルセンヌ素数 はどちらも 4 で割って 1 余る素数でないため、定理 9 より と は互いに素である。
また、 は完全数であるため である。したがって約数関数の乗法性より次が成り立つ。
よって は 18 倍完全数である。また のとき と 3 は互いに素であるため、約数関数の乗法性よりそれぞれ次が成り立つ。
よって は 24 倍完全数であり、 は 26 倍完全数である。
同様にして、 と互いに素な 倍完全数 に対して、 が成り立つため、約数関数の乗法性より次が成り立つ。
よって は 倍完全数である。
さいごに
これらの結果が直接何かの研究に役立つかはわかりませんが、特殊な例を考えることにより 2 つの未解決問題の間につながりが見られたことは大変興味深いと思います。
もし、この特殊な奇数同士の婚約数と奇数の倍積完全数について進展がありましたら、ご一報いただけますと幸いです。