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高校数学議論
文献あり

ある加群上の分解とそのwell-defined

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こんにちは。Mark6という者です。
この記事の主題は、ある写像のwell-defined性を、あの整数論の大定理を援用して示すことです。

どうやら子葉さんの記事を読む限り、超幾何数列の話に関係がありそうなんですが、怖すぎて先行研究を調べないまま公開します。ごめんなさい。

経緯とモチベ

最近下のような式を大量にいじくり回す機会がありました。

恒等式

整数n2について下の式が成り立つ。
k=1n(1)k(3k2)(2k2)!(2n+k3)!k!(k1)!(n+2k2)!(nk)!=0

証明は読者に任せます(言ってみたかった)。
この記事では別のことについて書きたいと思います。

上の式のシグマの中の式から(1)kを取り払い、(3k2)(3k2)!/(3k3)!と書き直すと
(3k2)!(2k2)!(2n+k3)!k!(k1)!(3k3)!(n+2k2)!(nk)!
となります。分母分子が複数の(an+bk+c)!の積で書けました。

上のような式の簡略化として、下の式について考えてみます。

6(n+1)(2n+1)!(3n+2)!

この式の表示には、ある種の冗長性があります。

6(n+1)(2n+1)!(3n+2)!=3(2n+2)!(3n+2)!=2(2n+1)!(3n+3)!

表示方法が複数あること自体は受け入れるとしても、その構造についてもう少し理解したくなりました。
この記事ではこの問いを、環上の加群のあたりの言葉を使って定式化したのち、うまい写像を構成してこの「表示揺れ」のひとつの支点の姿を明らかにします。

予防線

最低限数学的な間違いは無いよう気をつけていますが、この記事の内容は、独りよがりなモチベから始まり、ただ楽しい方向に進んだだけの、数学という学問からすればおそらく邪道も甚だしいであろう議論です。
あとこの記事は、環上の加群についてpdf1枚とWikipediaしか調べていないという、基礎カスの記事です。

定式化の概観

① まず考える対象とする式、つまり
f(n,k)=i=1N[(ain+bik+ci)!]±ei
のように書けるf(n,k)のことを「ユニット」と呼ぶことにします。
このユニットは、通常の意味での積を演算として、群を成します。

② 「ユニットの表示方法」を考える上でユニットそのものを使うことはできません。例えば
(2n)!k!(2n1)!(k1)!=n!(2k)!(n1)!(2k1)!
は、n,kの関数としては全く同じなので、ユニットとして扱っている限りは区別することができません。

ユニットの表示方法を考える上では、これらを区別し、それぞれの表示を構成する(2n)!などを分離して扱うことができるような枠組みが必要です。

③ この記事ではその枠組みとして「骨格」と呼ぶ対象を導入します。
ユニット
i=1N[(ain+bik+ci)!]ei
に対応して
i=1Nei(ai,bi,ci)
という形式和のことを骨格と呼びます。骨格には自由加群としての構造が入り、これはある準同型写像を通してユニットの積と対応します。

④ ユニットや骨格に同値関係「合同」を導入します。この同値類が直感的な「表記揺れ」の範囲になっています。
そして「同値類それぞれに代表元を定めたい」として問いを定式化します。
つまり、「ユニットf,gが合同ならΦ(f)=Φ(g)」となるような写像Φを探します。
表記揺れ全体をひとつの元にまで潰し込むこの写像Φが、この記事の目標です。

問いの定式化

初心者なので下の定義は非常に読みにくいです。許してください。良い書き方を教えてください。

良い組

下の2条件を満たす整数3つの順序組(a,b,c)を「良い組」と呼ぶ。

  • a0またはb0
  • nk1を満たす任意の整数n,kに対してan+bk+c0

良い組の集合をYとする。

YoikumiなのでYです(カス)。

良い組

(1,2,3)(2,0,1)は良い組です。
(3,2,2)は、3n2k2(n,k)=(1,1)を代入すると値が1になることから2つ目の条件を満たさないため、良い組ではありません。

骨格

Yを基底とする自由Z加群をKとし、Kの元を骨格と呼ぶ。

つまり、非ゼロ整数の有限列{ei}i=1Nと良い組の有限列{(ai,bi,ci)}i=1Nを用いた
i=1Nei(ai,bi,ci)
という形式和全体と単位元0を合わせ、この集合に加法で群としての構造を入れ、これをKと呼ぶ。

KokkakuなのでKです(カス)。
F=i=1Nei(ai,bi,ci)という書き方をする場合、暗黙にei0が満たされているものとします。

骨格

F=2(1,2,3)1(2,0,1)
は骨格です。これに骨格
G=3(1,2,3)+2(0,1,0)
を足す演算をすると骨格F+G=5(1,2,3)1(2,0,1)+2(0,1,0)
が得られます。
±1()±()と略記するかもしれません。

ユニット、セル

Kを定義域とする写像Ω
Ω(0)=1
Ω:i=1Nei(ai,bi,ci)i=1N[(ain+bik+ci)!]ei
で定める。
KΩによる像をUと書き、Uの元を「ユニット」と呼ぶ。
特に[(an+bk+c)!]eと表されうるユニットを「セル」と呼ぶ。

UnitなのでUです。


つまり…?

f=i=1N[(ain+bik+ci)!]eiと表されうる、n,k(定義域はnk1)の2変数関数fを「ユニット」と呼びます。
特にN=1で書ける場合をセルと呼びます。


良い組をギリシャ小文字α,βなど、骨格を英大文字F,Gなど、ユニットを英小文字f,gなどで表します。また、ユニットのn,kに対する代入操作を考える場合はf(n,k)などと明示的に書きます。

ユニットと骨格の合同

ユニットfgが下の条件を満たすとき、fgは合同であるといい、fgと書く。

  • ある正整数m,nが存在して、mf=ng

骨格FGが下の条件を満たすとき、FGは合同であるといい、FGと書く。

  • Ω(F)Ω(G)

要するに定数倍を無視するという話です。


例えば、先に示したように
3(2n+2)!(3n+2)!=2(2n+1)!(3n+3)!
であることから、ユニットとしては
(2n+2)!(3n+2)!(2n+1)!(3n+3)!
であり、骨格としては
(2,0,2)+(3,0,2)(2,0,1)+(3,0,3)
です。


この意味でのは反射律、対称律、推移律を満たすことが簡単に分かります。つまり同値関係です。

問いを立てます。

ユニットの分解

写像Φ:UKであって、任意のユニットf,gに対して

  1. fΩ(Φ(f)),gΩ(Φ(g))
  2. fgΦ(f)=Φ(g)

を満たすものを探そう。

上の要請を満たす写像Φを「分解写像」と呼ぶことにしましょう。

要するに、「Kを””で割った同値類の代表元を定める」ことであり、「合同なユニットを判定する方法を見つける」ことです。

ユニットの骨格とユニットを厳しく区別する必要があったために、定義が複雑になってしまいました。

基本的な性質の整理

Φの構成を与える前にできる議論は一通り終わらせてしまいます。

(1)Yの整理

下の同値性が成り立ちます。

良い組の条件

(a,b,c)が良い組であることは、下の4条件と同値である。

  1. a0 またはb0
  2. a0
  3. a+b0
  4. a+b+c0
良い組の条件

良い組ならば、Nを十分に大きな整数として、
2. (N,1)
3. (N,N)
4. (1,1)
(n,k)に代入しながらan+bk+c0となる条件を見ることで、2,3,4それぞれの条件の必要性が分かります。
また
an+bk+c=a(nk)+(a+b)(k1)+(a+b+c)
と書けば十分性も分かります。

(2)Uの整理

ユニットの集合Uは、通常の意味での積を演算として可換群を成します。
ユニット同士の積は記号を省略してfgなどと書きます。

(3)Ωの整理

ユニットの定義の式
f=i=1N[(ain+bik+ci)!]ei
は正の有理数r1の素因数分解
r=i=1Npiei
と形が同じです。
しかし、有理数の素因数分解は一意なのに対して、ユニットをセルの積に分解する方法は一般には一意ではないという相違点があります。


2nk=(2n)k=[(2n)!]1[(2n1)!]1[k!]1[(k1)!]1=n(2k)=[n!]1[(n1)!]1[(2k)!]1[(2k1)!]1
(つまり頭の2をnkのどちらに分配するのかによって変わってしまう)などが例となります。


つまり、Ωは単射ではありません。複数の骨格が同一のユニットに対応する可能性があります。

Ωについて重要なのは、これが骨格からユニットへの全射な準同型であるという点です。

準同型写像Ω

任意の骨格F,Gについて
Ω(F+G)=Ω(F)Ω(G)

(4)合同の整理

ユニットの合同に関して下の性質が成り立ちます。の定義と上の定理より自明です。

の扱い
  • ユニットf,gfgを満たすとき、任意のユニットhに対して
    fhgh
    が成立する。
  • 骨格F,GFGを満たすとき、任意の骨格Hに対して
    F+HG+H
    が成立する。

(5)Φの整理

分解写像Φの要請を再掲します。

分解写像の要請

写像Φ:UKであって、任意のユニットf,gに対して

  1. fΩ(Φ(f)),gΩ(Φ(g))
  2. fgΦ(f)=Φ(g)

を満たすものを分解写像と呼ぶ。

分解写像の判定法

分解写像の要請1を満たす写像P:UKについて、下の2命題は同値である。

  1. Pは分解写像の要請2を満たす
  2. 任意の骨格F,GIm Pに対して、FGならばF=G
分解写像の判定法
長いので畳む

((1)→(2))まずPが分解写像の要請1,2を満たすとする。
FGを満たす任意の骨格F,GIm Pに対し、Imの定義より
P(f)=F,P(g)=G
を満たすユニットf,gが存在する。
分解写像の要請の1つめより
fΩ(F)
gΩ(G)
だが、FGであったことを思い出し、さらに骨格の合同の定義は
Ω(F)Ω(G)
であったことを思い出せば、アイウと合同の推移律よりfgである。
分解写像の2つ目の要請よりP(f)=P(g)つまりF=Gである。

((2)→(1))次に、任意の骨格F,GIm Pに対して、「FGならばF=G」が成立しているとする。
I. fgP(f)=P(g)を示す。
fgとする。Pは分解写像の要請1を満たすから
fΩ(P(f))
gΩ(P(g))
である。推移律よりΩ(P(f))Ω(P(g))であり、これは骨格の合同の定義よりP(f)P(g)を意味する。仮定よりP(f)=P(g)となる。
II. P(f)=P(g)fgを示す。
P(f)=P(g)とする。両辺にΩを作用させΩ(P(f))=Ω(P(g))である。Pは分解写像の要請1を満たすから再び
fΩ(P(f))
gΩ(P(g))
であり、推移律よりfgが言えた。

よってPが分解写像の要請2を満たすことが確認できた。

この「分解写像の判定法」が今回のメインウェポンです。

Φの準備

非ゼロ基底

骨格F0
F=i=1Nei(ai,bi,ci)
と書かれるとする。

「良い組(a,b,c)Fの非ゼロ基底である」とは、(a,b,c)=(ai,bi,ci)となるiが存在することを言う。骨格0には非ゼロ基底は存在しないとする。
Fの非ゼロ基底の集合をY(F)と書く。Y(F)は有限集合であり、Y(F)Yである。

成分

骨格F0
F=i=1Nei(ai,bi,ci)
と書かれるとする。

良い組(a,b,c)に対して「F(a,b,c)成分」とは、

  • (a,b,c)=(ai,bi,ci)となるiが存在すればei
  • そうでなければ0

を指す。

良い組の既約

良い組(a,b,c)が以下の条件を満たすとき、(a,b,c)は既約であるという。

  • a+b+c=0またはgcd(a,b,c)=1

ただしgcd(a,b,c)a,b,cの最大公約数です。

詳しくΦの構成を述べる前に、次の章で構成するΦがどのように働くかを見てみましょう。ユニット(6n+3)!の分解は以下のように進みます。

(6n+3)!=(6n+3)(6n+2)!=3(2n+1)(6n+2)!(2n+1)(6n+2)!=(2n+1)!(2n)!(6n+2)!=12n(2n+1)!(2n1)!(6n+2)!1n(2n+1)!(2n1)!(6n+2)!=(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!(6n+2)!=(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!(6n+2)(6n+1)!=(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!2(3n+1)(6n+1)!(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!(3n+1)(6n+1)!=(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!(3n+1)!(3n)!(6n+1)!=(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!13n(3n+1)!(3n1)!(6n+1)!(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!1n(3n+1)!(3n1)!(6n+1)!=(n1)!n!(2n+1)!(2n1)!(n1)!n!(3n+1)!(3n1)!(6n+1)!=(6n+1)!(3n+1)!(2n+1)![(n1)!]2(3n1)!(2n1)![n!]2

最終的に全てのセルの骨格が既約になるように、
(gan+gbk+gc)!(an+bk+c)!(an+bk+c1)!(gan+gbk+gc1)!
を根拠とした変形を繰り返して手続きが進んでいきます。

Φの構成

分解手続きΦ

ユニットfに対して、骨格Φ(f)を下の手続きを実行した出力として定義する。
(説明が分かりにくい場合、 こちら(wandbox) をご参照ください。処理2以降と大体同じことをC++で実行するプログラムです。)

  1. Ω(F)=fを満たす骨格Fをひとつ取る。

  2. F=0の場合は0を出力して終了する。
    Fの非ゼロ基底が全て既約ならばFを出力して終了する。

  3. Fの非ゼロ基底のうち既約でないものをひとつ選びα=(ga,gb,gc)とする(g2,gcd(a,b,c)=1)。Fα成分をeとする。

  4. 上のα=(ga,gb,gc)を用いて
    α1:=(ga,gb,gc1)
    α2:=(a,b,c)
    α3:=(a,b,c1)
    と定める。F
    FFeα+eα1+eα2eα3
    と更新する。

  5. 2へ戻る。

諸々の正当性の確認をしましょう。

  1. 処理4のα1,α2,α3が良い組である保証
  2. 手続きの停止性の保証
  3. 出力の一意性の保証

1.の証明は容易なので省略します。
2.を示す必要があるのは明らかでしょう。処理2~5のループを抜けられる保証が必要です。
3.については、手続き内に「骨格をひとつ取る」「非ゼロ基底のうち既約でないものをひとつ取る」という自由度が存在することによります。選び方によらず出力がひとつに定まることを言わなければなりません。その一意性を示すのがこの記事の主題です。

手続きΦの停止性

良い組β=(a,b,c)に対して
sum(β)=a+b+c
としてsumを定義する。
少し計算すれば、処理4のα,α1,α2,α3について
sum(α)1sum(α1),sum(α2),sum(α3)0
となっていることが分かる。Fの更新後にFα成分が0になること、sumに下限0が存在することを踏まえると、操作は有限回で停止する。

とりあえず、Φにユニットを突っ込むと、(途中の選び方によって違う結果になるかもしれないとはいえ)なんらかの骨格が出力されるということは、最低限保証できました。

下は割と重要な主張です。

出力の性質

ユニットfΦに通した出力として骨格Fが得られたとする。この時Ω(F)f

出力の性質

処理4において、
Ω(Feα+eα1+eα2eα3)=Ω(F)Ω(eα1)Ω(eα2)Ω(eα)Ω(eα3)=Ω(F)[(gan+gbk+gc1)!]e[(an+bk+c)!]e[(gan+gbk+gc)!]e[(an+bk+c1)!]e=Ω(F)1geΩ(F)
より、各更新ごとに更新前の骨格と更新後の骨格は合同であり、はじめΩ(F)=fだったことと合わせれば分かる。

Φの出力の一意性保証

(1)KPFについて

定義

集合KPF

集合KPFKを下のように定義する。ただし0KPFであるとする。
KPF={i=1Nei(ai,bi,ci)K|(ai,bi,ci)は全て既約}
KPFの元を既約骨格と呼ぶ。

つまり「非ゼロ基底が全て既約な骨格」を既約骨格と呼びます。

KPFPFPrime Factorizationです。
既約な良い組と素数には類似性があり、KPFの元(既約骨格)はある意味で素因数分解されたような形になっています。

KPFの対外的な立ち位置

実は「Φからの出力としてありうる骨格全ての集合」はKPFと等しいことが言えます。


演習:なぜ?

出力としてありうる骨格全ての集合をAとおく。まずΦの出力として得られる骨格に属する良い組は必ず既約になっているからAKPFが成立する。
次にKPFに属する骨格Fを取ってくる。Ω(F)Φに突っ込み、処理1で骨格としてFを選べば、処理2ですぐにFそのものが出力される。つまりAKPFも成立し、結局A=KPFである。


KPF自体の構造

KPFKの部分加群になります。確認は容易です。

(2)問題の整理

メインウェポン「分解写像の判定法」について、「考えている手続きがそもそも写像と言えるかどうかすら分からない」という現状に合わせて議論しなおします。

結局の問題

任意のF,GKPFに対し、FGF=G

命題7の重要性

命題7が成立するならば、Φは分解写像である。

命題7の重要性

ユニットfΦに通した結果、手続き途中の選び方を変えたことで異なるF,Gの2種類の骨格が出力されたとする。出力の性質よりfΩ(F)Ω(G)であり、これは定義通りFGを意味する。命題7の仮定よりF=Gとなる。

出力の一意性が保証されたのでΦ(f)という書き方ができる。これを使って出力の性質を書き直すとfΩ(Φ(f))であり、これは分解写像の要請1そのものである。
以上と「分解写像の判定法」よりΦは分解写像となる。

以上より、既約骨格KPFに関する命題である命題7さえ証明できれば良いことが分かります。問題を手続きΦから分離できました。

(3)議論する対象の拡張

さて、命題7の証明は、Φによる分解よりもう一度「深い」分解Φを考えることで行います。Φによる分解を整数の素因数分解に例えるなら、Φによる分解はガウス整数環での素因数分解に例えられます。

この分解はユニットを関数として見た時のn,kの定義域を犠牲にします。この辺りは厳密に述べようとするとほとんど繰り返しになってしまうので概略のみ示します。これは論文ではないので…

悪くない組

下の4条件を満たす整数3つの順序組(a,b,c)を「悪くない組」と呼ぶ。

  • a0またはb0
  • a0
  • a+b0
  • a+b+c1

悪くない組の集合をYとする。

「良い組」の条件を緩めたものになっており、YYが成立します。

悪くない組の性質

(a,b,c)が悪くない組であるとき、下の性質が成り立つ。

  • n1k2ならばan+bk+c0

a=0のとき、b1,b+c1なので、
an+bk+c=b(k2)+b+(b+c)
と書けば分かる。
a1のとき、
an+bk+c=a(n1k)+(a+b)(k1)+a+(a+b+c)
と書けば分かる。

これに伴い、悪くない組を組み込んだ骨格を定義します。

擬骨格、擬ユニット、擬セル

Yを基底とする自由Z加群をKと書き、Kの元を擬骨格と呼ぶ。

Ωの定義域を擬骨格まで自然に広げ、KΩによる像をUと書き、Uの元を擬ユニットと呼ぶ。

悪くない組(a,b,c)と整数e0により
α=[(an+bk+c)!]e
と表されうる擬ユニットαを特に擬セルと呼ぶ。

(2n+3k1)!はセルですが、擬セルでもあります。(2n+3k6)!はセルではありませんが、擬セルです(2+3+(6)=1だから)。
一般に
(概念)擬(概念)
(集合)(集合)’
となっています。
これに伴い、骨格の合同の定義を擬骨格・擬ユニットまで自然に広げておきます。

悪くない組の完全既約

悪くない組α=(a,b,c)が以下の条件を満たすとき、αは完全既約であるという。

  • gcd(a,b,c)=1

特に、a+b+c=1のとき必ずgcd(a,b,c)=1となるため、「よい組でない悪くない組」は必ず完全既約です。

集合KPF

集合KPFKを下のように定義する。ただし0KPFであるとする。
KPF={i=1Nei(ai,bi,ci)K|(ai,bi,ci)は全て完全既約}
KPFの元を完全既約擬骨格と呼ぶ。

下のような包含関係が成り立ちます。

包含関係 包含関係

整数としては素数だがより大きなガウス整数のなかでは素数として振る舞わないものがあること、及び通常の意味での素数ではないがガウス素数であるものが存在すること、によく似ています。

記号は適当に察して 記号は適当に察して

考える対象をユニットから擬ユニットにまで広げ、それに伴い既約と呼ぶ条件を厳しくして(a+b+c=0を削除して)います。

(4)KPF,KPFの構造

KPFKPFから生成される加群をKPFKPFと書くことにします。
これは以下のように4つの部分加群の直和に分解することができます。

KPFKPFの直和分解

KPFKPF=K1K2K3K4
ただし
K1:={FKPF  |  (a,b,c)Y(F):gcd(a,b,c)2a+b+c=0}{0}
K2:={FKPF  |  (a,b,c)Y(F):gcd(a,b,c)=1a+b+c0}{0}
K3:={FKPF  |  (a,b,c)Y(F):gcd(a,b)2a+b+c=1}{0}
K4:={FKPF  |  (a,b,c)Y(F):gcd(a,b)=1a+b+c=1}{0}

既約な良い組がK1,K2の、完全既約な悪くない組がK3,K4の2行目の条件のうちいずれか1つのみを満たすことから明らかだと思います。

(5)Φの構成

Φの定義域はKPFです。Φがユニットから既約骨格への写像だったのに対し、Φは既約骨格から完全既約擬骨格への写像です。

完全分解手続きΦ

既約骨格FKPFに対して、Φ(F)を下の手続きを実行した出力として定義する。

  1. F=F1+F2+F3+F4と分割する。ただし前の章の直和分解を用いてFiKiとなるように取る。よってはじめF3=F4=0である。
  2. F1=0ならばF2+F3+F4を出力して終了する。
  3. F1の非ゼロ基底をひとつ選び、(ga,gb,gagb)とする(g2,gcd(a,b)=1)。F1(ga,gb,gagb)成分をeとする。
  4. 上の(ga,gb,gagb)を用いて
    F1F1e(ga,gb,gagb)
    F2F2+e(a,b,ab)
    F3F3+e(ga,gb,gagb1)
    F4F4e(a,b,ab1)
    と更新する。この更新前後でFiKiという性質は保たれる。
  5. 処理2に戻る。

停止保証はいいでしょう(ループごとにF1の非ゼロ基底がひとつずつ減る)。
出力の一意性については、Φと異なりΦは引数として明示的に骨格を取る点、F1に新たな非ゼロ基底が生まれることがない点、加法に結合法則が成り立つ点より、「F1の非ゼロ基底全てに対して一気に一度だけ操作を行う」としても良いので大丈夫でしょう。

Φには下の重要な性質があります。

Φの性質1

FKPFについて、F0ならばΦ(F)0
(ほぼ同じことだが)Ker Φ={0}

これの証明のため補題を1つ用意します。

F3を用意した意味

処理4の更新により、F3の非ゼロ基底数は必ず1増える。

F3を用意した意味
長いので畳む

あるループにおいて、処理3でF1の非ゼロ基底として(ga,gb,gagb)が選ばれ、処理4で
F3F3+e(ga,gb,gagb1)
という更新が行われたとする。この更新前のF3(ga,gb,gagb1)成分が0であることを示せば良い。
更新前のF3(ga,gb,gagb1)成分が0でなかったと仮定する。手続きΦ開始時にはF3=0であったから、どこかのループの処理3でF1からF1の非ゼロ基底として(ga,gb,gagb)が選ばれたことになるが、そのループの処理4での更新後にF1(ga,gb,gagb)成分は0になったはずであり、今回(ga,gb,gagb)F1の非ゼロ基底として選ばれたことと矛盾する。

補題を用いて証明します。

Ker Φ={0}

Φ(0)=0はよい。
骨格F0Φを適用する。処理1の終了時点でF1F2のいずれかは0でない。
F10である場合、処理2で即座にF2が出力され、このときF20でないままなので良い。
F10でない場合は処理4が少なくとも1回行われ、上の補題より出力時のF3の非ゼロ基底数は1以上である。
よってどちらの場合でもF1+F2+F30ではない。

標語的には、「Φによって0まで潰れないなら、Φによっても0まで潰れない」と言えるでしょう。

また下も成立します。証明はΦの時と全く同様なので省略します。

Φの性質2

FKPFに対して、FΦ(F)

(2n2)!(既約なセル)を、完全既約な擬セルの積に分解してみます。Φではこれ以上分解されませんが、Φはさらに分解します。

(2n2)!=(2n2)(2n3)!=2(n1)(2n3)!(n1)(2n3)!=(n1)!(n2)!(2n3)!=(2n3)!(n1)!(n2)!

Φによる分解により、n=1を代入できなくなっています。これが「ユニットの定義域を犠牲にする」の意味です。

実はΦは単射な準同型であり、KPFIm Φが成立するのですが、この事実は使わないので詳しくは述べません。

(6)命題7の証明

ディリクレの算術級数定理

互いに素な正整数の組a,bに対し、an+b(nは正整数)の形で書ける素数は無限に存在する。

ここから牛刀の極みディリクレの算術級数定理をやりすぎなほど用いて、命題7割いて証明していきます。

まず補題を示します。

本質部分

N2とする。完全既約擬骨格F
F=i=1Nei(ai,bi,ci)
と書かれているとする。ただし、非ゼロ基底を並び替えることで、任意の2iNに対して

  • a1>ai
  • a1=aiかつb1>bi
  • a1=aiかつb1=biかつc1>ci

のいずれかが成立するようにしておく。
この時、以下の条件を満たす素数pは無限に存在する。

  • ある整数n,kが存在し、下の2条件を満たす。
    1. 任意の2iNに対しa1n+b1k+c1>ain+bik+ci0
    2. p=a1n+b1k+c1

割と本質情報を沢山使うのでここが証明の本体です。

補題17

まずiごとに(a1ai)n+(b1bi)k+(c1ci)>0が成立するn,kの集合がどのようであるかを示し、それらの共通部分を取る。
a1=aiかつb1=biのとき
c1>ciが成立する。よって任意のn,kで成立する。
a1=aiかつb1>biのとき
k>c1cib1biで成立する。nは任意。
a1>aiのとき
任意のkに対し、n>(b1bi)k+(c1ci)a1aiで成立する。

②のパターンのi全てにわたってkの下限値c1cib1biを計算し、これの最大値と1のうち大きい方に1を足したものをkminとする。ただし②のパターンのiが存在しない場合、kmin=2とする。
さらに、kを決めた上で③のパターンのi全てにわたってnの下限値(b1bi)k+(c1ci)a1aiを計算し、これの最大値とkのうち大きい方に1を足したものをnmin(k)とする。ただし③のパターンのiが存在しない場合、nmin(k)=k+1とする。
kkminを満たす任意のkに対して、nnmin(k)を満たすnで(1)の条件が満たされることがわかった。
この範囲のn,kによってa1n+b1k+c1と書ける素数が無限にあることを示せば良い。

a1=0の場合、b11であり、かつFが完全既約擬骨格であることよりgcd(b1,c1)=1である。ここでインドラの矢ディリクレの算術級数定理を用いると、b1k+c1の形で書ける素数は無限に存在することがわかり、有限個を除いたkkminの範囲にも素数が無限に存在する。

a11の場合、gcd(a1,b1,c1)=1より、gcd(a1,b1k+c1)=1となるkkkminの範囲に存在する。


簡単な証明法があったら教えてください

b1=0の場合、gcd(a1,c1)=1より任意のkが条件を満たす。
b10の場合、g:=gcd(b1,c1)と置きb1=gb,c1=gcとする。ここでニワトコの杖ディリクレの算術級数定理を使えば、|bk+c|は無限に多くの、特にa1より大きな素数の値を取り得る。このときa1b1k+c1=g(bk+c)は互いに素である。


このkで固定して、nを動かす形でもはや冒涜ディリクレの算術級数定理を用いればa1n+b1k+c1の形で書ける素数は無限に存在し、有限個を除いたnnmin(k)の範囲にも素数が無限に存在する。

本筋に入ります。

命題7の証明

F,GKPFが、FGかつFGを満たしているとする。
FGより
FGGG=0
である。KPFは加群なのでFGKPFである。よってΦ(FG)が定義され、Φの性質2から
Φ(FG)FG0
合同の定義よりΩ(Φ(FG))Ω(0)=1である。
FGよりFG0であり、Φの性質1よりΦ(FG)0であるから
H:=Φ(FG)=i=1Nei(ai,bi,ci)とおけ、さらにf(n,k):=Ω(H)=i=1N[(ain+bik+ci)!]eiとおける。
f=Ω(H)=Ω(Φ(FG))1
であり、ユニットの合同の定義から、ある整数s,tが存在して
f(n,k)=st
が成立している。
N=1のとき、f(n,k)=[(ain+bik+ci)!]ei(a,b,c)が悪くない組であることを使えば明らかに定数にならない。
N2とする。
f(n,k)=[(a1n+b1k+c1)!]e1i=2N[(ain+bik+ci)!]ei=st
補題17より、f(n,k)の定義域内において、i=2N[(ain+bik+ci)!]eiの部分が(a1n+b1k+c1)より小さな整数の積になるようにした上で、(a1n+b1k+c1)が無限に多くの素数pの値を取ることができる。
これはe1>0ならばse1<0ならばtを割り切る素数が無限に存在することを意味し、矛盾である。

以上で命題7が示され、Φを写像と呼べること、さらに分解写像の要請を満たすことが分かりました。

多分もっとこうなんか身の丈にあった証明とかもあるんだとは思いますが、最初にゲイ・ボルグディリクレの算術級数定理を使うことを思いついてから他がどうでも良くなってしまったので考えていません。悪しからず。

結論

  • 骨格の合同性を有限回の操作で判定できるような手続きを得ました。
  • 骨格を合同性で割って生まれる同値類それぞれの代表元を定める手続きを得ました。

あとがき

ここまでどうでもいい「~が分かりました」「〜を得ました」もそうそうないでしょう。改めてクソ記事ですね。

ここまで読んでいる人はさすがに誰もいないでしょうから秘密の事実を書いておくと、この記事に書いた内容の半分くらいは、大学受験期の勉強の休憩時間に息抜きとして考えていたものです。

受験という他者との比較を強制されるイベントの中で、「自分しか得をしない、ゆえに自分しか考えない」問題を持って考えるのはいい気分転換になりました。アパートのベランダでひとり家庭菜園を愛でているような気分になれます。

休憩を必要とせず四六時中勉強をできる人類(どちらかと言えば人外)以外には、この休憩方法を控えめに提案しておきます。

参考文献

投稿日:2024316
OptHub AI Competition

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Mark_six
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数学だけして生きていたいですよね。 わたしはそうです。 あなたはどうですか?

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  1. 経緯とモチベ
  2. 定式化の概観
  3. 問いの定式化
  4. 基本的な性質の整理
  5. (1)Yの整理
  6. (2)Uの整理
  7. (3)Ωの整理
  8. (4)合同の整理
  9. (5)Φの整理
  10. Φの準備
  11. Φの構成
  12. Φの出力の一意性保証
  13. (1)KPFについて
  14. (2)問題の整理
  15. (3)議論する対象の拡張
  16. (4)KPF,KPFの構造
  17. (5)Φの構成
  18. (6)命題7の証明
  19. 結論
  20. あとがき
  21. 参考文献