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現代数学解説
文献あり

複素共役は"自然"なのか

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はじめに

 先日、「複素共役は自然な感じがしない」という主旨のツイートを見ました。

どうにかして複素共役を自然と感じることができないでしょうか。

自然...自然... 自然変換だ!

よって、今回の目標は複素共役を圏論における自然変換と捉えることです!


皆さんは高校数学で、共役な複素数を

複素数$z=a+bi$($a,b$は実数) に対して$\overline{z}=a-bi$共役な複素数という。

と習ったと思います。

では、大学数学では共役はどう定義されているのでしょうか。
体論にその言葉が出てきます。

共役

$L/K$:体の拡大, $\sigma$:$L$$\rightarrow$$L$$L$$K$上の自己同型写像
このとき、$α$$\in$$L$$\sigma(\alpha)$$K$共役(conjugate)であるという。

複素共役

体の拡大$\mathbb{C/R}$ において、複素共役$\sigma:\mathbb{C}\rightarrow \mathbb{C}$;$a+bi\mapsto a-bi$$\mathbb{C}$$\mathbb{R}$上の自己同型写像になる。

$L$$K$上の自己同型写像は複素共役の一般化であるといえますね!

本題に移ります。

まず、圏$\mathrm{Field}$(対象が体、射が体準同型の圏)から$\mathrm{Field}$の関手の間の自然変換を複素共役にできると考えるかもしれませんが、実際上手くいきません。

ここでGalois圏の登場です!

有限集合のなす圏を$\mathrm{FSet}$$K$上の有限次$\acute{e}tale$代数の圏を$\mathrm{F\acute{E}t_K}$とする。
いま、関手$F_{\overline{K}}$

$$F_{\overline{K}}:\mathrm{F\acute{E}t_K^{op}}\longrightarrow\mathrm{FSet}$$
$$A\longmapsto\mathrm{Hom}_{K-\mathrm{alg}}(A,\overline{K}) $$

と定める。
ここで$\overline{K}$$K$の代数閉包、
$\mathrm{Hom}_{K-\mathrm{alg}}(A,\overline{K})$$A$から$\overline{K}$
への$K$代数準同型全体の有限集合である。

$K$上の$\acute{e}tale$代数とは$K$係数多項式の根で生成される代数だと思ってもらって大丈夫です。
例: $A=K[x]/(x^2+1), B=K[y](y^4+1)$

このとき次が成り立ちます。

$\mathrm{F\acute{E}t_K^{op}}$はfiber関手$F_{\overline{K}}$をもつGalois圏となる。

1の定理5.1.19の証明を見よ。


複素共役の自然性

いよいよ複素共役が自然変換であることを調べてます。
$K$=$\mathbb{R}$のときを考えます。
$\overline{K}$=$\overline{\mathbb{R}}$=$\mathbb{C}$なので、以降

関手$F_\mathbb{C}:\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}^{op}}\rightarrow$$\mathrm{FSet}$; $F_\mathbb{C}(A)=\mathrm{Hom}_\mathbb{R}(A,\mathbb{C})$

に限定して考えていきましょう!

複素数体$\mathbb{C}$の複素共役(自己準同型写像)を$\sigma:\mathbb{C}\rightarrow\mathbb{C}$とおきます。
このとき次の命題が成り立ちます。

$\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}}$の各対象$A \in \mathrm{Ob}(\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}})$に対して$\mathrm{FSet}$の射を対応させる族

$$\alpha= \lbrace{\alpha_A:F_\mathbb{C}\rightarrow F_\mathbb{C}}\rbrace_{A \in \mathrm{Ob}(\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R})}}$$

を、任意の$A \in \mathrm{Ob}(\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}})$に対して

$$\alpha_A:F_\mathbb{C}(A)\longrightarrow F_\mathbb{C}(A)$$
$$    p\longmapsto\sigma \circ p$$  

と定めると、$\alpha$$F_\mathbb{C}$から$F_\mathbb{C}$への自然変換になる。

この$\alpha_A$が自然変換の性質を満たすことを調べていきましょう。

いま、任意の$\mathbb{R}$代数の射$f\in \mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}}(A,B)$に対して、
$$F_\mathbb{C}(f^{op}):F_\mathbb{C}(B)\longrightarrow F_\mathbb{C}(A)$$
$$q\longmapsto q\circ f$$
であることに注意する。
上の図式が可換になる、すなわち $\alpha_A\circ F_\mathbb{C}(f^{op})=F_\mathbb{C}(f^{op})\circ \alpha_B$が成り立つことを示せばよい。
任意の$q\in F_\mathbb{C}(B)$に対して、
$\alpha_A(F_\mathbb{C}(f^{op})(q))=\alpha_A(q\circ f)=\sigma \circ (q\circ f)$
$F_\mathbb{C}(f^{op})(\alpha_B(q))=F_\mathbb{C}(f^{op})(\sigma\circ q)=(\sigma \circ q)\circ f$
となり、射について結合法則が成り立つので等式が成り立つ。 $\blacksquare$

以上より、複素共役はGalois圏$\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}^{op}}$から$\mathrm{FSet}$への関手$F_\mathbb{C}$$F_\mathbb{C}$の間の自然変換であるということが分かりました!!

終わりです!


余談~更に複素共役を自然に感じよう~

ここからは余談です。
まだ複素共役が自然であると感じれない人は読んでみてください。

いま、以下の疑問があります。

上で得られた自然変換$\alpha:F_\mathbb{C}\Rightarrow F_\mathbb{C}$と恒等自然変換$id$以外に自然変換$\beta:F_\mathbb{C}\Rightarrow F_\mathbb{C}$は存在するか?

もしそのような自然変換$\beta$が存在すれば、複素共役を意味する自然変換$\alpha$の特別感が低くなってしまいます。

考察

まず、$\mathbb{R}$上の有限次$\acute{e}tale$代数$A$に対して、

 $F_\mathbb{C}(A)=\mathrm{Hom}_{\mathbb{R}-\mathrm{alg}}(A,\mathbb{C})$です。

また、これは射$A\rightarrow \mathbb{C}$は圏$\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}^{op}}$における射$\mathbb{C} \rightarrow A$と同じものなので

 $F_\mathbb{C}(A)=\mathrm{Hom}_{\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}^{op}}}(\mathbb{C},A)$とも書けます。

次に、$h^\mathbb{C}:\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}}\rightarrow \mathrm{FSet}$$\mathbb{C}$表現する関手とします。
つまり、任意の$A\in \mathrm{Ob}(\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}})$に対して、$h^\mathbb{C}(A)=\mathrm{Hom}_{\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}^{op}}}(\mathbb{C},A)(=F_\mathbb{C}(A))$ が成り立つものです。

よって、$h^\mathbb{C}\cong F_\mathbb{C}$なので$F_\mathbb{C}$表現可能であることが分かります。

次に以下の補題について考えていきましょう。

米田の補題(Yoneda Lemma)

$X \in \mathrm{Ob}( \mathcal{C} )$と関手$G:\mathcal{C}^{op}\rightarrow \mathrm{Set}$に対して、写像
$$\mathrm{Nat}(h^X,G)\stackrel{\sim}{\longrightarrow}G(X)$$

は全単射である。

$X=\mathbb{C}$$\mathcal{C}=\mathrm{F\acute{E}t_\mathbb{R}^{op}}、G=F_\mathbb{C}$を当てはめると、
 $\mathrm{Nat}(h^\mathbb{C},F_\mathbb{C})\cong F_\mathbb{C}(\mathbb{C})$$ \cdots$ ($\ast$)
を得ます。

いま、$h^\mathbb{C}\cong F_\mathbb{C}$だから$\mathrm{Nat}(h^\mathbb{C},F_\mathbb{C})\cong \mathrm{Nat}(F_\mathbb{C},F_\mathbb{C})$です。

そして、関手$F_\mathbb{C}$の定義と体論の基礎知識より
 $F_\mathbb{C}(\mathbb{C})=\mathrm{Hom}_{\mathbb{R}-\mathrm{alg}}(\mathbb{C},\mathbb{C})=\mathrm{Aut}_{\mathbb{R}-\mathrm{alg}}(\mathbb{C})=\mathrm{Gal}(\mathbb{C}/\mathbb{R})\cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$
です。

従って、もう一度 ($\ast$) に戻って

 $\mathrm{Nat}(F_\mathbb{C},F_\mathbb{C})\cong \mathrm{Aut}_{\mathbb{R}-\mathrm{alg}}(\mathbb{C})\cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$

ということが言えます。

左辺は$F_\mathbb{C}$から$F_\mathbb{C}$への無限個あるかもしれないの射の集まりを、右辺は要素の個数が2個の有限集合を表しています。

要するに、「自然変換$F_\mathbb{C}\Rightarrow F_\mathbb{C}$の数は2個のみである」ということを主張しています!

以上より、自然変換$\alpha:F_\mathbb{C}\Rightarrow F_\mathbb{C}$$id$以外の自然変換$\beta$は存在しないことが分かりました!

任意の$\mathbb{R}$上の$\acute{e}tale$代数に対して、$\mathbb{C}$における根のの入れ替えを意味する複素共役(自然変換$\alpha$)は極めて自然なものなのですね。


いかがだったでしょうか?
今回、少しでも複素共役を"自然"に感じてもらえたら幸いです^^
最後まで読んでいただきありがとうございます。

参考文献

[1]
森下昌紀, ガロア圏と基本群
[2]
桂 利行, 代数学Ⅲ 体とガロア理論
投稿日:15日前
更新日:9日前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

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投稿者

代数学が好き

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